別世界の異邦者 作:みども
変態は追い出した。
すると入れ替わるように兄貴がやってきた。
「相変わらず気に入られてるな」
「ふざけんな!」
鳥肌たったわ!
いや、事実なのはわかっているけどさ。でも実の兄にまであの変態に好かれているという事実を告げられると、鳥肌が立つ。
口では全力で否定したが、残念ながら私があの変態に好かれているという事実は変わらない。
もちろん一方通行であり、私の方は一切興味ない。向ける感情に好意など微塵もなく、全部嫌悪だ。
まあ、いいや。もう変態は忘れる。
変態が乱入してきたのでファイトすることになったけど、本来は兄貴と対戦したかったのだ。
というわけで、デッキを突きつけて勝負を申し込む。
「兄貴、私とファイトしろ!」
「いいぜ、軽く揉んでやる!」
私以上にヴァンガードが好きな兄貴は当然のように乗ってきた。
受験勉強のために約1年間ヴァンガードから離れていた私ほどではないけど、兄貴も私が相手をできなかったおかげでファイトをする機会がかなり少なくなっていた。
こっちと同じく溜まっていたのだろう。
もちろん私の方も1年も我慢させられていたので、変態とやったくらいでは全然満足できていない。
お互いプレイマットにFVを伏せて、デッキを置く。
以前は毎日のように兄貴とはファイトをしていたから、なんだか久しぶりな気分だ。
「久しぶりだよな、お前とやるのは」
私が思ったことと全く同じことを感じたらしい兄貴が手札を引き直しながら呟く。
感慨深いみたいな雰囲気出しているけど、兄貴にそんないい雰囲気を出すような資格はない。このクソ兄貴、受験生の妹を平気でファイトに誘っていた。
店長やバカ宮には情報流すし、変態は家に上げるし、妹1人の家にあのバカ行かせるし、自分こそが元凶の癖にクソガキとか呼ぶし、などなど……こっちはファイトの欲求以上にいろいろ不満がたまっている。
「叩き潰してやるから覚悟しろ……!」
「できるものならやってみろよ、クソガキちゃん」
「ああやってやるよ、クソ兄貴」
「こいつ……! 口の悪さは誰に似たんだか」
「お前だクソ兄貴」
「いや店長だろ」
「いいや、お前だクソ兄貴!」
「このクソガキ、兄貴を1度ならず2度までもクソ呼ばわりするとは……!」
さっきまで感慨深い雰囲気出していたが、挑発に乗ってきた兄貴のこめかみに青筋が浮かんできた。
短気なやつ。私ならこのくらいの煽りは流せるっての。
すると何かを思いついたらしい兄貴が、こんな提案をしてきた。
「では、1つ賭けだ。俺が勝ったら文化祭の時のメイドコスして『お兄様♡』と呼んでもらおう」
「……は?」
思わず耳を疑った。
……いや、別に賭け(※大抵くだらない内容です※)をすること自体は、兄貴との間ではよくあることだから反論はない。
けど、その内容に思わず耳を疑った。
このクソ兄貴、高校時代の文化祭で女装に使用していたが記念にとってあるメイドコスを妹に着せようとしている。
さすがに私でも引くぞ、それは……。
「ん? 勝てばいいんだぞ? それとも負けたときの言い訳か?」
変態がしてきそうな提案にドン引きしている私をクソ兄貴は挑発してきた。
それがなんか、カチンときた。
……誰が負けたときの言い訳だぁ? なら相応のものをかけてもらうぞ。
煽り耐性何処行った? などという無粋なツッコミするやつは後で殴る。
「……面白い。なら、私が勝ったらブースターパックおごれ、3箱」
「3つだな、いいぜ」
「いいや3箱だ。48パック」
「……や、やってやるぜ」
掛けは成立した。
若干クソ兄貴の声が震えているけど、私の方も負けてしまったら立ち直れなくなる大きなトラウマ背負いかねないものだから。
こうして、負けられない兄妹対決が勃発した。
「「スタンドアップ、ヴァンガード!」」
「『プライモディアル・ドラコキッド』!」
「『
兄貴はドラゴンエンパイアの隣国、謎と魔法の国ダークゾーンにある遺跡を拠点とし時空を超越して世界を行き交う時の旅人たち『ギアクロニクル』。時間を超越する時の旅人らしく、グレード4へのスペリオルライドを駆使し、自身のカードをバインドしそのグレードの総数によりグレード4のスキルを発動させたり、相手のカードを出る前の時間に戻すように山札に戻して戦力を削るなどといった戦い方を得意とするクランである。
私は同じくダークゾーンに所属するクレイをまたにかけて活躍するサーカス団『ペイルムーン』。ソウルの中身のカードを駆使するクランであり、こちらはさながらサーカスのステージで繰り広げられる演目のように、ソウルからのスペリオルコールによる連続攻撃やパワーアップを得意とするクランだ。
相性の面においてはフォースのイマジナリーギフトのアイコンを持つギアクロニクルの方が有利だけど、だからと言ってファイトの勝敗はそれだけで決まるわけではない。
パワーが低い、コストの管理が難しいなど使いにくい要素もあるけど、ペイルムーンの連撃はフォースのユニットだろうが容易く止められるほど簡単なものではない。
何より何が起こるかわからないのがヴァンガードの楽しみの1つでもある。
……絶対に負けられない(※とても下らない※)兄妹対決だ。必ず勝つ!
「先攻頂くぞ、ドロー。『ウェッジムーヴ・ドラゴン』にライド! 『プライモディアル・ドラコキッド』のスキル、1枚ドロー。ターンエンドだ」
ギアクロニクルは歯車や蒸気機関をモチーフとした機械的なユニットたちが多い。
リンクジョーカーに見られるような無機質な生命体というデザインではないけど。ギアクロニクルのユニットたちを見るたびに思うのだけど、ダークゾーンよりもスターゲートに属している方が似合う。
「ドロー。『ミッドナイト・バニー』にライド。『
ペイルムーンのユニットは、派手な衣装で着飾った演者たちと彼らの駆使するサーカス団の保有する獣たちが多い。戦うよりも魅せることを重視している。
ただし、この闇のサーカス団はドラゴンエンパイアの隠密部隊も遅れをとる凄腕の暗殺者たちという裏の顔を持つ。たかがサーカスと舐めてかかると痛い目を見ること間違えなし、痛い目で済めばいいけど。
悪役色が強いダークゾーンのクランらしいけど、賑やかなこのサーカス団はその派手なデザインが人気でもある。
サーカス団の駆使するのはソウル。
ソウルを介したスペリオルコールを得意とするクランで、次々にユニットが入れ替わり繰り広げられる連鎖攻撃の数々は扱いこそ簡単ではないが、いざ成功すればとても派手だ。
「『スターティング・プレゼンター』をコール」
グランブルーはスキルやシールドを使用すればたまるドロップゾーンから、シーストライカーはもともともプールが広い山札からスペリオルコールをすることを得意とするので面倒な下準備は必要ないけど、ペイルムーンはそうはいかない。
ソウルを駆使するという性質上、ソウルに強いカードを仕込む必要がある。
「『スターティング・プレゼンター』のスキルを発動。手札から登場した時、1枚をソウルチャージ」
なのでこの手のアクションを行うスキルを持つユニットが多い。
手札から登場した時、ペイルムーンのグレード1『スターティング・プレゼンター』は山札の1番上のカード1枚をソウルに送るソウルチャージができる。
ソウルを増やすソウルチャージ。ペイルムーンはスペリオルコールを駆使するので、ジェネシスのように単に枚数を貯めていけばいいわけではない。だから扱いが難しいと言われるけど、私はこのクランが性にあっていたらしく割と簡単に使いこなせるようになった。
「アタックフェイズ、『ミッドナイト・バニー』で『ウェッジムーヴ・ドラゴン』をアタック!」
どうでもいいことだけど、ペイルムーンのユニットには結構派手な衣装のユニットもいるため、変態とのファイトには使わないことにしている。何回かあったけど、あの時はもう鳥肌が止まらなかった。日に日に高くなる変態の変態度合いを考えると、もう絶対にやりたくない。
「ノーガード」
「ドライブチェック……『ダンシング・ナイフダンサー』、ノートリガー」
ペイルムーンの舞台にある長大なブランコ。そこから飛び降りたピンク色の衣装で着飾っているウサギの演者がその手の衣装に隠し持っていた爪ですれ違いざまに切りつける。
バニーの見せる空中演技に思わず魅入っていたウェッジムーヴ・ドラゴンはその手に持つ剣を振り回すこともなく正面から受けてしまった。
「ダメージチェック……『スチームスカラー カライン』、ノートリガー」
まずはお互いノートリガー。
スターティング・プレゼンターはパワー8000。兄貴はダメージトリガーが出ていないため、ウェッジムーヴ・ドラゴンに攻撃を通せる。
プレゼンターの方もレストする。
「『スターティング・プレゼンター』で『ウェッジムーヴ・ドラゴン』にアタック!」
「ノーガード」
自分が誰に攻撃されたのかも理解できていないウェッジムーヴ・ドラゴンが立ち上がったところに、スターティング・プレゼンターが杖の先を向ける。
そこから放たれた閃光が、立ち上がったばかりの無防備なウェッジムーヴ・ドラゴンに直撃した。
「ダメージトリガーチェック……『コロコロ・ワーカー』、ドロートリガーだ。ウェッジムーヴにパワー+10000し1枚ドロー」
気づかれぬままに2ダメージ、というところだったがウェッジムーヴ・ドラゴンもさすがにここまでやられたら誰が敵であるかということくらいは気づく。
発動したドロートリガーにより、ギアクロニクルの新たな仲間が駆けつけた。
こちらはもうアタックできるユニットはいない。
エンドフェイズに移行する。
「ターンエンド」
ただ、ここから警戒する必要がある。
時空を超越するギアクロニクルの強さが発揮されてくるから。
「スタンド&ドロー。『スチームハンター リピット』にライド! 『スチームファイター メメンネ』と『スチームファイター アアンネ』をコール!」
グレード2にライドした兄貴は、早速展開してきた。
今さっき左のRにコールされた2体のユニット『スチームファイター アアンネ』と『スチームファイター メメンネ』は、それぞれのスキルを連携させることでグレード3『スチームエキスパート ゼリクス』へのスペリオルライドを可能とする。
ゼリクスがドロップゾーンに置かれていることが条件なのでこのターンで使うことはないと思うけど、最短で3ターン目でツインドライブを持つグレード3にライドすることを可能とする。
また、Vに展開されたユニット『スチームハンター リピット』はフォースのイマジナリーギフトを持つクランであるギアクロニクルらしく、パワー10000を持つグレード2である。アクセルのイマジナリーギフトを持つペイルムーンのグレード2のユニットはほとんどがパワー9000なので、攻撃を通しにくい。
「『ウェッジムーヴ・ドラゴン』をコール」
さらに、もう片方の列にもユニットを展開してきた。
グレード1『ウェッジムーヴ・ドラゴン』。手札から捨てる際グレード3として扱うことができるため、新たなVが登場した際に手札の入れ替えを行い、その際に捨てた手札のグレードが3以上ならパワーを上げる『スチームファイター メメンネ』のスキルに活用できるというスキルを持つ。
パワーは8000なので、『ミッドナイト・バニー』にブーストなしで攻撃を通すことが可能である。
3回の攻撃を仕掛けてダメージを稼ぐつもりのようだ。
「『スチームファイター メメンネ』のブースト、『スチームファイター アアンネ』で『ミッドナイト・バニー』にアタック!」
「ノーガード」
メメンネの支援を受けたアアンネがステージに飛び上がり、さっきはよくも仲間をやってくれたなと蒸気機関を仕込んでいる拳をウサギの演者を装う暗殺者に叩きつけた。
「ダメージトリガーチェック……『ユーモラス・キメラ』、ノートリガー」
1回目のアタックでダメージトリガーを引くことができれば、ギアクロニクルはフロントトリガーが無いのでトリガーを引かれても残るなどの攻撃のうち一度は確実に手札を使わず防げたが、流石にそこまで都合よくは出てこなかった。
……結局トリガーは運だしな。
「『スチームハンター リピット』で『ミッドナイト・バニー』にアタック!」
次はVのアタック。
クリティカルトリガーを引かれる可能性もあるが、ここはノーガードを選択する。
「ノーガード」
「ドライブチェック……『リンリン・ワーカー』」
クリティカルトリガー。
……フラグ立てたつもり無いんだけど。
「トリガー発動! ウェッジムーヴにパワー、リピットにクリティカル!」
リピットの撃った銃弾が、バニーの急所に直撃した。思わず膝をつくバニー。
トリガーの効果で2ダメージを受けることになる。
「ダメージトリガーファーストチェック……『ヴィジブル・ソングスター』、ノートリガー」
1枚目はノーマルカード、トリガーでは無い。
このままだとこのターンだけで一気にダメージが増えてしまう。
「セカンドチェック……『スターティング・プレゼンター』、ノートリガー」
2枚目もノーマルカードだった。
これでダメージ3。対して兄貴の方はまだトリガーのパワーアップを受けたウェッジムーヴ・ドラゴンの攻撃がまだ残っている。
さすがにこれ以上は受けたくない。3ターン目で4ダメージはさすがに後半がキツくなる。
「『ウェッジムーヴ・ドラゴン』で『ミッドナイト・バニー』にアタック!」
「『ポイゾン・ジャグラー』でカード!」
手札よりシールド15000のクリティカルトリガーを出してウェッジムーヴ・ドラゴンのアタックを防ぐ。
毒入り瓶を投げ回すゴブリンに妨害され、ウェッジムーヴ・ドラゴンはバニーに手を出せなかった。
兄貴の方には、もう攻撃できるユニットは残っていない。
「ターンエンドだ」
「私のターン。スタンド&ドロー」
いきなり3ダメージ。
けど、攻撃を優先してユニットを展開させたことで兄貴の手札は少なくなっている。こちらもすでに2ダメージを向こうに与えているし、このターンが攻め時となる。
ペイルムーンはソウルを駆使したアタックを得意とするクランだ。時空を超越する旅人たちでも驚く展開というものを見せてやる。
「『夜空の舞姫』にライド!」