別世界の異邦者 作:みども
初見のクランと出会い、小宮山という馬鹿と出会い、受験生としてヴァンガードと距離をおくはずがファイトをすることになった不思議な出会いのあった日。
私の中では厄日と言える1日だったあの日から約1週間が過ぎていた。
……その間、私は1時間に1回のペースで『ヴァンガードをやりたい』という強烈な衝動がこみ上げてくる日が続いていた。
寝ている時でも降ってくる衝動なので、このところ寝不足だ。
だからやりたくなかったのに……!
しかしそれでも受験に集中し終わったら散々やるんだと己に言い聞かせながら我慢を続けたおかげで、徐々に症状は落ち着いてきた。
大好きなものってこうして距離を置いて初めてどれだけ好きかを実感するものなんだなという、なんか知りたくもなかったことを知れた機会となった。
中3ということもあり、周囲も勉強に集中させてくれる雰囲気がある。
兄貴はともかく、両親は心を鬼にし(嬉々として)私から強制的にヴァンガードを取り上げてくれているから、勉強に集中できた。おかげでこの禁断症状も乗り越えられた。
睡眠不足も改善して、勉強をしっかりとこなせるようになってきている。
……寝不足だとイライラするし頭働かないしで、ろくに勉強できている実感を得られないからな。元に戻すだけで1週間もかかるくらいなら、1年我慢して終わってから散々楽しんだほうがいい。目の前にぶら下げられる欲望に負けずに我慢する方が、一旦屈して取り返すよりもずっと楽だということを知った。
このことを知った私は、もう今年は2度とショップに行くものかと決めた。
しかし、あのシーストライカーのデッキを持ってきたのは一体誰だったのだろうか?
差出人不明のままよそに預けちゃったけど、私宛に来たものだし、預かってくれとか後で受け取りに来るとかなんで書いてなかったし、こういう扱いしても別にいいでしょ。
今日は日曜日。
学校も休みだし、1人で部屋に引きこもり朝から勉強をしている。
兄貴は年上だけど馬鹿だし教師代わりとしては頼りにならない。なので1人で頑張っている。
……しばらくペンを走らせたまにノートをめくる音だけが聞こえる時間を過ごしていた時。
唐突にインターホンない客を知らせる音を家の中に流した。
……集中がぷっつりと切れた。
誰かは知らないけど、空気読めよ(八つ当たり)!
両親は買い物に出ているし、兄貴は帰ってきていない。
つまりこの家には今私1人だ。
……面倒だし、留守を装うかな?
そんな考えが一瞬浮かび、やっぱり出たほうがいいかなと改めようとした時、家の中に声が聞こえてきた。
「クソガキ姫! 俺と再戦するのだ!」
「…………」
来客は、いつぞやの馬鹿だった。
つか、なんで私の家知っているんだよ!?
……店長がバラした可能性が高いな。あの893フェイスめ!
そして人の家に入って開口一番クソガキ姫とかふざけんじゃねえよ。ぶん殴るぞ、バカ宮!
「お前以外が留守なのは、お前の兄君と店長からすでに聞いている! ふはははは! 観念しろ!」
「あのクソ兄貴!」
まさかの兄貴もグルだったとは。
しかも情報漏らしているし。
……妹1人しかいない家に男差し向けるとか、どういう思考回路してんだよあいつは!
居留守にしようとしたところだが、クソ兄貴と店長と馬鹿にそれぞれ1発文句叩きつけなきゃ気が済まなくなった。
ぶん殴って追い返すために部屋を出て玄関に降りる。
「ふはははは! きたなクソガ––––がぁ!?」
「出て行け、この馬鹿!」
助走をつけて馬鹿の腹を蹴りつけて叩き出した。
扉は閉鎖。2度と来るな、馬鹿!
そしてスマホを取り出す。
かける先はもちろんクソ兄貴である。
「……出ねえし! クソ兄貴が、帰ってきたらタダじゃおかねえ!」
ムカつく!
……というか、バカ宮の野郎『クソガキ』って言ってたよな!
許さん、殴る!
玄関を開くと、腹を抱えて悶絶するバカがいた。
「お、お前な……リアルファイターじゃねえんだから……」
「クソガキって言うな、バカ宮の分際で!」
「せめて山までつけて––––ごえっ!?」
「うるせえ、宮つけてるだけでもありがたく思えバカ! 2度と来るなバカ! 蹴られたくなかったら2度と来るなバカ! というか、乙女1人しか居ない時に家に来るなバカ!」
「いう前から蹴ってるし! 痛い痛い痛い! わかった分かりましたから! 蹴らないで! 痛いって! こんな暴力女のどこか乙女––––ごえ!? 痛いっす、ごめんなさい!」
「出て行け! 失せろ! 2度と来るな! でもその前にもう1発殴らせろ!」
「それはおかしい! ぎゃふん!?」
……小宮山を追い返すことに成功した。というより、ボコる途中で逃げて行きやがった。
こっちはまだ殴り足りないけど。
……全然スッキリしねえ。一方的に知られているのはムカつくし、あとで小宮山の家を突き止めて今度はこっちから乗り込んでやる。そしてまた殴る。
けどその前にまずはあの兄貴だ。許さん。
「……でもその前に勉強しないと」
集中が途切れたけど、そんなの言い訳にしかならないし。
そういえば、小宮山って高校生みたいだけどどこの高校に通っているのだろうか?
バカだし、私の志望校である雪凪高校は絶対にないとは思うからあまり気にする必要はないと思うけど。
兄貴の知り合いみたいだし、蓮泉学園の後輩かな? 距離はあるけど晴見高校の可能性も……無いな、あいつバカだし。やっぱり蓮泉学園でしょ。
私の中では、小宮山は完全にバカ扱いとなっている。
でも、言動だけでそういう判断をするべきでは無いということを、私は後に思い知る羽目になった。
……時は流れ、3月。
努力が実を結び、私は志望校であった雪凪高校に無事合格した。
入学手続きを済ませたら帰って、まずはクラウンに行って……いやいやいや! 強面店主の前に兄貴とファイトをするのが先!
よし、帰ったら思う存分ヴァンガードをやろう。
そう決意して振り向いた時、部活勧誘を合格発表の日から早速始めている雪凪の上級生たちの中に見知った顔があった。
そして、そいつと目が合ってしまった。
「あ! クソガキちゃんじゃねえか! 俺だよ、オレオレ!」
「……!?」
思わず絶句する。
何故なら、そこには雪凪高校の制服を着崩しているいつぞやのバカ、ここには絶対いないだろうと思っていたいつぞやのバカ、受験生だった私を苦しめる1週間を作ったきっかけの厄日を呼び寄せてきたいつぞやのバカ、小宮山 カツヤが立っていた。