別世界の異邦者 作:みども
雪凪高校は進学校でかなりレベルも高い。
中学生の頃はクラスの中でも上位3分の1に入るくらいに成績の優秀な私が、1年間ヴァンガードを封印して勉強を頑張ったからようやく受かったレベルだ。
だから、バカが通えるような学校じゃ無いはず。
「なんでお前がいるんだよ!?」
「もちろん、在校生だからだぜ!」
「嘘だ! バカ宮が雪凪生のわけないだろ!」
「お前、俺のことバカにしすぎだろ! さすがに怒るぞ!」
「うるさいバカ!」
「……人様の迷惑だからいったんふたりとも落ち着いて」
この時、一帯は無事合格して喜ぶ同年の人たちや在校生たちが集まっている場所である。
確かに色々あって騒々しいけど、それでもその往来の真ん中でこんな低レベルな言い合いをしていれば目立つわけで。
無意識にヒートアップしている私たちに周囲の注目が集まっていたことにさえ、小宮山の仲間らしき隣に突っ立っていた長身の雪凪の生徒に注意されるまで気づかなかった。
「口を挟むなエイト!」
「いや、挟ませてもらうよ。新入生にドン引きされてるから」
「むしろクソガキアツくなってるぜ!」
「そうは見えない……」
「…………」
第三者に指摘され、ようやく自分がめちゃくちゃ悪目立ちしていたことに気づく。
遠巻きにひそひそ話されている。多分、変なやつ認定されている。
……これはまずい。こういう時はとりあえず、このバカ引きずって逃げる。
そう判断した私は、長身の男に噛み付いている小宮山の腕をとって走り出した。
「こっち来いバカ!」
「……うお!? いきなりなんだ!」
「いいからさっさと来い!」
「やれやれ……」
もう手遅れかもしれないけど、とりあえず逃げる。
人波をかき分けて脱出した私は、小宮山の手を引きながら人気のない校舎裏の方へと向かった。
小宮山の後ろからは、長身の男が付いてきている。
そしてひとまず校舎の裏手に逃げたところで、一旦足を止めた。
……引っ張られただけの小宮山がへばっていた。
「ゼェ……ゼェ……は、速すぎ……!」
「……へばるの早」
ちょっと走っただけなんだけど。
後ろの長身の男……確かバカが『エイト』って呼んでいた人は息切れ1つ起こしていないのに。
バカはバカでもこのバカは体力の無いバカだということが判明した。
……だから何?
とりあえず人のいないところに退避したわけだけど、変なやつ認定は取り消せ無さそう。幸い、バカは『クソガキ』呼ばわりだけで名前とかは口走っていなかったから、こいつらとの接触を避けて気づかれないように目立たず過ごしていればバレる可能性は低い、と思う。
……バレないと思いたい。
しかし、このバカ私の厄病神なんじゃないだろうか?
こいつと出会うとロクなことにならない。せっかく合格した記念日だっていうのに、小宮山のせいで厄日になった。
「この厄病神め……!」
「相変わらず口が悪いな、おい」
「黙れバカ宮、お前のせいで入学式も迎えていない高校生活に暗雲が差し込み始めた」
「だからせめて山までつけろっての! 雪凪に入るなら俺一応先輩だぜ!?」
「そもそもお前が雪凪生なのが衝撃なんだけど」
「お前の中で俺ってどんだけバカ扱いされてんだよ!」
「ファイトの表情全く隠せないカス宮」
「あだ名つけるのはいいけど、山までつけろ!」
「あだ名つけるのはいいんだ……」
私たちの言い争いという名の三文芝居をしばらく静観していたエイトとかいう人が、ここにきて口を開いた。
言い争いに夢中になっていた私はその存在を忘れていたこともあり、一瞬驚く。
でも口を止めただけで表情には出さない。目の前のバカとは違うから。
……なんでこのバカ意識してんの? 自分でも不可解だ。
そんな私の一人問答など知る由もなく、エイトとかいう雪凪生がバカ宮の後頭部を軽く叩いて注意を向けさせた。
「ストップ、
「なんだよエイト? ……なんか今変な呼び方しなかったか?」
「してない」
……私の耳には最初の文字に濁点付けて発音したのがはっきり聞こえたけど。
しかしさすがバカ宮、簡単にごまかされてスルーした。
「そうか。で、何の用だよ?」
「2人で勝手に盛り上がっているけど……知りあい?」
どうやら、私たちの関係、というか私のことを知らないので話についていけてなかったようだ。
……でも、大した関係じゃないし会話の内容もくだらない言い争いだったけど。別に知る必要ないと思うけど。
一方、小宮山は私の方を一瞬見てからそういえばと今更私とエイトとかいう人が初対面で何も知らないことに気づいたらしい。
「そういや言ってなかったな。こいつが前に言っていたクラウンっていうショップでこの俺に黒星をつけたクソガキちゃんだぜ」
「クソガキ言うな」
「……へえ」
そこは普通に名前で紹介しろよと小宮山を睨みつける。
一方、エイトとかいう人は私を見て意味深な視線を向けてきた。
なんだか値踏みされているような不愉快な視線に、小宮山との嬉しくない再会にご機嫌斜めな私は若干エイトとかいう人にもイラっとした。
「……何?」
上級生だろうが知ったことか。むしろバカ宮とつるんでいる時点で、こいつも変なやつだと考えている。
睨み返すと、エイトとかいう人はふっと表情を崩した。
……喧嘩売ってんのかこいつ?
「……ふっ」
「何がおかしいの?」
「いや失礼。カツヤに勝ったファイターというからどんな人なのかと興味があってね」
本当に失礼だな。
最初は背だけ高い影薄いやつだなと思ったけど、今向けられている目線はすごいむかつく。勝手にこっち値踏みするなよ、私は珍獣か何かか?
それに小宮山に勝ったくらい別に珍しくもないと思うけど。バカだし。
というか、その目がムカつく。
ただでさえご機嫌斜めの私は、もう今にも掴みかかりそうな目でエイトとかいうやつを睨み返した。
「興味があるから何?」
するとエイトとかいうやつはさっきまで向けていた値踏みするような目をやめて、貼り付けたような笑顔に変わった。
「申し訳ありません。不快に感じられたのならば、謝罪します」
「…………」
正直、その顔も気にくわないけど。謝罪も丁寧なのになんかとってつけたような表面的なものに聞こえるし。
「待て待て待て! お前ら何でそんな険悪なの? 初対面だろ!?」
今度こそ殴ってやろうかという考えがよぎった時、慌てるように半ば放置されていた小宮山が仲裁に入ってきた。
そこで、そういえば初対面な上にまともな自己紹介もしていなかったことに気づく。
……なら何でこんなにムカついていたんだろう? 多分だけどこのエイトって人、私との相性最悪だ。
エイトという人はどう思っているのかわからないけど、少なくとも私はこの男が苦手だ。
対してエイトの方は特に不快に感じたりしているわけではなかった様子。
「……改めて。僕は
また変なルビふった。
それはともかく、ここで私は初めてエイトの本名を知った。
何となく小宮山の仲間だという雰囲気は感じ取っていたけど、この進学校で小宮山とともにゲーム同好会なるものをしているという。
面白そうだと思ったけど、やっているのがこのバカとムカつく野郎だと考えるとな……。
ムカつくやつだけど、名乗られた以上はこちらも名乗るのが礼儀というもの。
私の方も自己紹介をしようとした。
「……私は––––」
そう、しようとした。
した、じゃない。しようとした、だ。
……つまり邪魔が入った。
「こいつは見ての通りのクソガキだぜ」
「クソガキ言うな!」
「ぐお!?」
小宮山が人のことクソガキとして紹介しやがった。
この陰湿で性根ひん曲がっていそうな嫌な奴(偏見です)に!
即座に肘打ちを腹に叩き込む。
体力のない小宮山は腹筋もないらしく、一撃で膝をついた。
「だから暴力は止めろって……!」
「うるせえカス宮」
「俺としてはその中身のお前が雪凪に合格したのが驚きだぜ……それとな、あの時の負けは運が悪かっただけだ! カス宮山呼ばわりされるいわれは無え!」
「勝ってから言えよそういうのは」
「このクソガキ……!」
初めて触るデッキに負けるお前に反論の余地はない、バカ。
あの時の勝負を運のせいだと主張し……まあ、確かにトリガー無駄落ちしまくるついてなかった一戦だったけど、それでも全部運のせいだとして、己のわかりやすい表情を棚にあげ初めて触ったデッキに敗北したことを実力じゃないと言い張る小宮山。
こういう時は1度ファイトして黙らせるのが手っ取り早くてわかりやすい。
……でも、ここにはファイトするためにきたわけじゃないから何もない。
すると小宮山は、ポケットからヴァンガードのデッキを一式取り出した。
「ならばもう一度だ! 今度こそ俺の本当の実力ってやつを見せつけてやるぜ!」
「……は?」
……いや、何言ってんのこいつ?
そしてデッキいつも持ち歩いているの? バカなの? ……そういえばバカだったわ。
呆れた目を向ける私に、小宮山はさあ! と言わんばかりにデッキを突きつける。
「さあ、お前もおとなしくデッキを出せ! あの見知らぬクランのデッキを!」
「いや、持ってないから」
シーストライカーのデッキはクラウンの店長に預けたままだし、他のデッキも持ってきていない。
帰ったらやりまくろうとは思っているけど、ここには合格発表の確認をするために来たのであってファイトするために来たわけじゃないから。
しかしそんなこと梅雨知らずな小宮山は、愕然とした表情となった。
「持ってないだと!? お前、それでもヴァンガードファイターの端くれか!」
「いくら世界的に普及しているヴァンガードでも、普通はこんな日にまで持ち歩かないから」
エイトにまで諭されている。
やっぱり小宮山はバカだ。
しかし、小宮山は諦めきれないのかこんなことを言ってきた。
「ったく、ならレンタルデッキを」
「いや、やらないから」
何さりげなくレンタルデッキ押し付けてまでファイトさせようとしてんだよ。
速攻で断ると、小宮山はまた愕然とした顔になる。
……お前こそヴァンガードファイターの端くれならポーカーフェイスを少しは磨け。
小宮山はといえば、それでも諦められないのか押してダメなら引いてみろ作戦に変更する。
「はっ! どうせ負けるのが怖いんだろ? だがまあ、この俺に負けるのは恥でも何でも無えからな!」
「安っぽい挑発だね」
「その手に乗るわけないし。それにお前が負けた事実は変わらないし」
「んだとこのクソガキ!」
挑発しておいて自分が相手の挑発に簡単に乗る。
やっぱりこいつバカだ。
エイトも同じことを考えているらしく、小宮山に呆れた目線を向けている。
「挑発しておいて何してるのさ?」
「うるせえエイト! なら、てめえが俺とやるか!?」
……付き合っていられない。
私は結局名乗ってないけど、別にいいでしょ。そもそもこのバカが遮ったんだし。
というわけで、2人を放置してもう私は行くとしよう。
「別にいいけど、あの子はいいの?」
「逃げる気か!」
「OK、受けて立つ。そっちが言い出したことだから」
鷲津 エイト、か。なんか本能的に気にくわないやつだった。
雪凪にヴァンガードもできる同好会があるって話は聞いたことがあるし、そこに行きたいとも思っていたけど、あいつらのいる同好会っていうのが何というか……気分を下げてしまう。
考え直そう。ヴァンガードならクラウンでもできるし。
無事合格できたので、ヴァンガード解禁だ!
よし! 今年こそ、アジアサーキットの優勝を目指す!
というわけで、雪凪に受かったことを知った直後から、すでに私の思考は高校をそっちのけで解禁されたヴァンガードに傾いていた。
……それだけ我慢していたから。
「行くぜ! スタンドアップ、ヴァンガード!」
「スタンドアップ、ヴァンガード」
……それから、バカが雪凪の在校生だったという衝撃の事実を知った日だった。
というかまじでやってるのかよ、あいつら。