最初のOLがチートだったら   作:Friday

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 今回、原作キャラがキャラ崩壊します。どうかご了承ください。


私の良き飲み友

 バスでやらかした入学式の日から数日が過ぎた。

 あれからは本当に何もなく、日々を過ごしている。仕事もそこまで忙しくはなってなく、()との遭遇もあの日のコンビニ以来起きていない。

 

 そんな本日は4月の半ば、時間帯的には仕事終わり。今日はこの後に友人と食事の予定だ。この仕事に就いたころにできた友人で、歳も近く仲良くさせてもらってる。性格の捻くれ具合がとても面白い良き友人である。

 待ち合わせは学校前のバス停だ。そう、何を隠そう今日夕食をご一緒する友人はこの学校に勤めている教師なのである。

 

 私の仕事は今日も特に忙しくなく、すぐに終わってしまい定時帰宅。一方の彼女はおそらく残業中だろう。教師はブラックとはよく聞く話だが、彼女は幸運なことになのか根回しでもしたのか部活動の顧問にも抜擢されず、生徒指導などの役割もないとのこと。お陰で負担は少ないらしい。

 そんなわけだからそう遅くならないと思うけど、バス停でずっと待たされるのは嫌なのでメッセージを送っておくことにする。

 

『仕事終わったよ〜、佐枝ちゃんは何時くらいになりそう??』

 

 返信はわりと直ぐに来た。ツンデレ気質のくせに、何事も返事はかなり早い方なのである。

 

『もうすぐ終わる、18時にはバス停に着けそうだ』

 

『了解^_^』

 

 18時か、それならもう向かってしまって良さそう。ショッピングモールを少しぶらついて行けば丁度いい感じの時間になる。まあ、例の如く私は何も買えないのだけど。

 私は戸締りをもう一度確認して、最後に電気を消して職場を出た。ちなみに私の唯一の同僚は既に帰宅済みだ。

 

 ショッピングモールは今日も学生で賑わっている。いつ見てもこのキラキラ感には羨望が絶えない。あぁ、私も学校通いたいなぁ……なんて社会人の大半が思う願望(私調べ)を頭の中で垂れ流して歩いた。

 その罰が当たったのか、ボーッと歩いていると、曲がり角を曲がったときにドンッと身体に衝撃が。

 

「ふぐっ」

 

 何か急に呼吸を止められたような音だ。

 

「ん?」

 

 視線を下げてみれば、私の胸に誰かの頭が埋まっている。私の身長が170cmちょっとだから、多分この頭は150cmくらい、おそらく女子だな。

 じーっと見ていると、その頭もこちらを見た。可愛い女の子だ。……んん、どこかで見た覚えが、あるような、ないような。

 しばらく見つめ合った私達だったが、私が声を発する前に俊敏な動きで女の子の方が飛び退いてしまった。そして慌てたように謝罪の言葉が発される。

 

「あのっ、すいません! 不注意でした!」

 

 見たところ制服姿だし学生、そして予想通りに女の子だ。

 そう言って頭を下げる彼女を見て、今月頭の通勤バスでの出来事が頭を過る。

 ああ、あの時の勇気ある制服少女か。

 

「いえいえ、気にしないで。私こそボーッとしてたから、ぶつかっちゃってごめんなさいね。怪我はない?」

 

「あ、はい! 大丈夫です」

 

「そう。なら良かったよわ」

 

 相変わらず元気な娘だ、目がキラキラしてる。先日ゴミ拾いをしていた懐かしの()や私、今日これから会う彼女とは大違い。こんな娘ばかりなら社会もう少し明るくなりそうだな。実に眩しい。

 私など浄化されてしまいそうだけど……ま、これも何かの縁かねぇ。

 

「ところで勇気ある制服少女ちゃん、久しぶりだね。私のこと覚えてる?」

 

 これで覚えられてなかったらとんだ赤っ恥である。かなり悲しい事態に陥ると予測が付くので、どうか覚えてて下さい。

 

「えーっと…………あ! この前のバスのお姉さんですか?」

 

 流石に即座には思い当たらなかったのか考え込んでいた様子だが、わりと直ぐに思い出してくれた。良かった……。

 

「うん正解! 覚えててくれて良かったよ」

 

「いえ、お姉さんの方こそ私のこと覚えててくれてありがとうございます! お久しぶりです。飴、ありがとうございます、美味しかったです!」

 

 輝かしい笑顔だ。これは一体どこから出てくるのだろう、元気と一緒に私にも少し分けて欲しい。

 

「ふふっ、そう? それならあげた甲斐があったね」

 

「ご馳走様でした! ……ところで、今ここにいるってことはお姉さんってもしかして学校の職員さんなんですか?」

 

 あれ、そう言えば言ってなかったっけ。

 

「うん、そうだよ。今は仕事が終わって帰るところ」

 

「そうなんですね。じゃあいつもありがとうございます! お陰で楽しく学校生活を送れてます」

 

「あはは、これはどうも。学校のため、とまで考えたことはなかったけど、一応受け取っておくね」

 

 うん、やっぱりいい子だぁ。こんなに素直にお礼を言えるなんて、そうそう無いよ。少なくとも私には無理。

 

「君は学校帰り?」

 

「はい! 友達とこの後ショッピングモールのカフェに行こうって言ってて、その途中です」

 

 彼女の言うカフェ、というのはスターバッ○スコーヒーのことだろう。学校近くにあれば女子高生は間違いなく行くであろうオシャレな喫茶店だ。

 これから向かうのが居酒屋の私とは雲泥の差である……。佐枝ちゃん、あんた凄いよ。こんな娘たちに囲まれてよく正気を保ってられるね。

 

「そっか、じゃあ時間取らせてごめんね。私は退散するよ」

 

「あ、私こそごめんなさい。またどこかで会えたらよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくね」

 

 私は手を振って、彼女と別れた。なんか若さを分けてもらった気分である、とてもほんわかします。

 

 なんてホクホクしながらバス停へと向かった。彼女と話したお陰でちょうどいい感じに時間が潰れ、バス停に到着したのは18時ちょい前。

 辺りには誰もいない。佐枝ちゃんはまだ来てないようだ。スマホにもメッセージは特に届いていないし、もう少し待ってればじきに来るだろう。遅刻の連絡は忘れない人だから。

 

 SNSで知人の投稿を見たり、それにコメントを付けたりしている内に18時になった。

 校門の方を見てみると、スーツ姿の女性がこちらに歩いてきている。時間通り、私の友人が到着したようだ。

 

「すまない、待たせたな」

 

「ううん、時間ぴったりだよ」

 

 私の友人、名前を茶柱(ちゃばしら)佐枝(さえ)という。この東京都高度育成高等学校の教師でここのOG。3年前に私が新人研修の一環でこの学校を訪れたときに仲良くなった。公の場ではかなり真面目で厳しい人なのだが、プライベートでは結構可愛い。まあ、その彼女と仲良くなった場所は居酒屋というのが、なんとも言えない話なのだけど……。

 とにかく、彼女は大事な飲み友なのだ。この学校勤務は立地的、環境的には気が乗らないものだけど、佐枝ちゃんと職場が近くなったことだけはラッキーである。

 居酒屋に行くため(学内には当然ながら無い)、私たちはバスに乗り込んで学校を後にした。

 

 

 

 

 

 

 バスに揺られること数十分、さらにそこから電車に乗りかえて数分程。ようやく着いた新宿駅で私たちはお店に入った。別にここまで来なくても居酒屋はあるのだけど、時間を気にせず飲める場所となると新宿が手っ取り早い。

 おしぼりとお冷を置きに来た店員に、とりあえず生2つに灰皿1つと伝えてからフードのメニューを眺めた。この店はただの居酒屋というよりお好み焼き屋の性質が強い。テーブルに鉄板も備え付けられている。

 

「佐枝ちゃん、どれにするか決まった?」

 

 私が声を掛けると、佐枝ちゃんはメニューから顔を上げた。

 

「ああ、決まった。お前は?」

 

「私も大丈夫。じゃあ店員呼んじゃうね」

 

 机に置いてあるファミレス的な呼び出しボタンを押す。

 それほど経たずにやってきた店員に注文を告げた。

 

「豚玉1つと海鮮を1つで。佐枝ちゃんは?」

 

 メニューを渡しながらそう振ると、彼女は微妙に眉をひそめて答えた。

 

「……同じもので」

 

 ……うん、なるほど。

 店員は豚と海鮮2つずつですねー、かしこまりました、と言って去って行った。私はため息をついてから口を開いた。

 

「相変わらず食べ物の趣味嗜好というか選択の基準というか、こういうところは絶対被るね」

 

「全くだ、お好み焼きで同じものを2つずつ頼んでも仕方ないだろうに……」

 

 佐枝ちゃんもため息をついた。

 そう、これが佐枝ちゃんと私の仲良くなった要因の1つである。ちなみに食事に限らずお酒の趣味までダダ被りで、お店選びには困らないものの、常に新鮮味は一切ない。

 

「まあいい、分かっていたことだ。……で、どうだ? 高度育成高等学校の感想は」

 

 今日は私が今の勤務地になって最初の会合なのである。私は暇だったのだが、教師の学期始めは何かと忙しいらしく、なかなか時間がとれずに今日までズレ込んでしまった。

 

「うーん……どうにもこうにもまだ分からないけど、強いて言うなら学生に囲まれるのは辛いかなぁ。高校生は私には眩しすぎるね」

 

 苦笑しながらそうぼやくと、佐枝ちゃんは笑って、いや嗤って答えた。

 

「ははっ、その感想はまさにおばさんだな」

 

「むっ、うるさいなぁ、そういう佐枝ちゃんはどうなのさ。感じたりしないの、歳の差とか」

 

「ふむ……」

 

 彼女は少し悩んでから、こう答えた。

 

「あまり気にしたことは無いが……餓鬼どもを見て、自分もこんな馬鹿だったときがあったなと、そう思うことはある」

 

 そのセリフには大人の余裕のようなものが垣間見えて、なんか負けた気がした。悔しいのでちょっと意地悪してやろうと思う。私は負けず嫌いなのだ。

 

「それだって十分おばさんの感想だよーだ、佐枝ちゃんも人のこと言えないねぇ?」

 

「えっ……! ……そ、そうか。これはおばさんの感想なのか」

 

 してやったり、佐枝ちゃんは落ち込んだようである。

 と、丁度そのときビールと灰皿が運ばれてきた。

 

「まあまあ、お互いおばさんだとわかったところで乾杯といこうよ」

 

「……ああ」

 

 そんなにショックだったの……。明らかに返事がおざなりである。

 

「はい乾杯!」

 

「乾杯……んんっ」

 

 佐枝ちゃんは控えめにジョッキを合わせたかと思えば、すぐに口元に持っていってすごい勢いで飲み始めた。

 

「おおー」

 

 一気に8割位の中身を飲み干すとダンッと机にビールを叩きつける……ことはなくそっと置いた。豪快な飲みっぷりは気持ちがいいが、彼女、実はあまりお酒に強くないのだ。その証拠にすでに顔が赤い。

 一旦落ち着くためか、タバコに火を点けて煙を吐き出した。

 

「ふう、……話は変わるが、まさかビールを美味しいと思う日が来ようとはな。それこそ学生時代は想像もつかなかったよ」

 

 あからさまな話題替え、に見えてその実あまり変えられてない佐枝ちゃんはやっぱり可愛いと思う。あと、ジョッキを静かに置くあたりに教師としての常識が現れている。

 

「あはは、確かにね。私もそうだったなぁ……。なんなら社会人になってもしばらくはそうだったし」

 

「間違いない。大学時代にも飲酒はしたものの、結局ビールを好きになることはなかった」

 

「ふーん、じゃあ大学生のときは何が好きだったの?」

 

「ブラック・ニッカ」

 

「それ飲み会の罰ゲームで飲まされるやつ!」

 

 ちなみにブラック・ニッカとはウィスキーの一種で、アルコール度数は40%ほどのかなり強いお酒である。言った通りに飲み会、サークルのコンパ等(それも頭の悪い部類の)で罰ゲームとして少量を一気飲みさせる際に使われるものだ。

 普通、好きなお酒としてあげる類ではない。むしろ嫌いな人の方が多いのではなかろうか。

 

「はは、冗談だ。……実のところな、あまりこれが好きというのはなかったよ。いつも度数の低いものばかり飲んで場を誤魔化していた節がある」

 

「へぇ、そうなんだ。……星ノ宮先生、だっけ。佐枝ちゃんの同僚の先生」

 

「ん? ああ、そうだが……」

 

「高校からの付き合いなんでしょ? 聞いた限りじゃ、あの人は結構飲む口らしいけど」

 

 と、私が一度だけ会ったことがあるおっぱいモンスター(佐枝ちゃんも負けず劣らず)のゆるふわ美人の話をあげた瞬間、タダでさえ悪い佐枝ちゃんの目付きが悪化した。

 

「あいつの話はするな。酒が不味くなる」

 

「あー、なるほど……。星ノ宮先生に酷い目に合わされた経験アリ、と」

 

「ふんっ」

 

 佐枝ちゃんは私の推測に何も答えず、ビールに口をつけた。そして残りを一気に飲み干し、すぐに店員の呼び出しボタンを押した。やってきた店員に生1つ、と告げて空いたジョッキを下げてもらう。

 まだお好み焼きも来ていないのに2杯目とは、今日はかなりのハイペースだ。

 

「で、そんなお酒が嫌いだったにもかかわらず、煙草もお酒も両方大好きになっちゃった佐枝ちゃんに聞きたいんだけど」

 

「なんだ嫌味か?」

 

「いえいえそんな。……生徒についての質問っていうのは、流石に無理かね?」

 

 私がそう言った瞬間、佐枝ちゃんの目が面白いものを見つけたとばかりに輝いた。……早まったか。

 

「ほう……。なんだ、眩しいとか言っておきながら高校生に手を出すつもりか? 流石に擁護できんぞ」

 

「いやそうじゃなくて、ちょっと知り合いらしき子を見つけてね?」

 

「という手口でナンパすると」

 

「ち、違わい! 本当に知り合いなんだよぉ」

 

 あはは、と笑っている佐枝ちゃんは間違いなくドのつくサディストだ。しかし存外ノリの良い人である、最初に公の場で会ったときは想像もつかなかった。

 その公私でギャップの激しいドS教師は、気持ち身を乗り出して追及の姿勢に入った。

 

「で、どういう事情だ? 理由にもよるが、本当に知り合いならクラスくらいは答えてもいい」

 

「あー、ええっと……。その、できればぼかすことを許して欲しいんだけど、義理の弟、のようなもの、かな」

 

 実際、詳細に話すとして、()をなんて説明すればいいのだろう。本当に微妙なところなのだ。

 

「弟? お前、確か家族は知らないんじゃなかったか?」

 

「うん、そうなんだけど、施設の子に似たような子がいた気がするんだよね。だから名前の確認だけでもお願いできないかな」

 

「……施設、か」

 

 彼女は煙草をふかしながら、視線を天井に飛ばした。もしかしたら私の子供時代に思いを馳せているのかもしれない。詳しく話してはいないが、孤児院のような施設で育ったとだけ伝えてある。

 

「厳しいならその子の情報を羅列するから、それに頷くだけとかでもお願いできないかな?」

 

「……いや、構わん。名前だけ言ってくれれば、多少の公的プロフィールは答えよう」

 

「ん、自分で言っといてなんだけどいいの?」

 

 私の確認に、佐枝ちゃんは苦笑しながら答えた。

 

「ああ。ここは学校みたいに監視カメラで24時間監視されているわけでもない。ましてや履歴書程度のプロフィールをお前に隠しても意味がないだろうしな」

 

「あはは……そう?」

 

「律義にも直接聞いてきただけいいさ」

 

「そうかね、飲みの席を利用したことはいいんだ?」

 

「そのくらい大したことではない。最終決定権を私に譲っているだろう。なあ……()()()()()()()()()()()()()()さんよ」

 

 …………。

 

「……()、ね。もうしないよ……今はタダの善良なプログラマーです」

 

「……ああ、その点に関しては疑っていないよ。……で、その弟とやらの名前は?」

 

 この娘は本当に優しい。ちょっと自分の欲望に素直過ぎるきらいがあるものの、基本的にはとてもいい人だ。おっぱい大きいし。

 前世も含めて、ここまで自己中心的かつ優しさ溢れた人なんて見たことがない。まあ、前世に関しては記憶が曖昧だから正確にはわからないけど、感覚的な部分がそう言っている。だから多分そうなんだと思う。

 さて、名前ね。たしか……

 

「えーっと、()()()()()、だったかな」

 

 多分合ってると思うんだけど、あの子の状況を考えると違う名前で学校生活を送っている可能性もある。流石に苗字か名前、どっちかはそのままだと思うんだけど……。

 

「ん、おお、綾小路か。それなら――ちょっと待て」

 

「へ?」

 

 佐枝ちゃんの目が鋭く細まった。

 

「お前、同じ施設と言ったよな」

 

「うん、そうだけど……?」

 

「――!?」

 

 ガタンッと音が鳴った。

 

「佐枝ちゃん?」

 

 ビックリして佐枝ちゃんの様子を見れば、手に持っていたお冷入りのコップを落としたらしかった。机の上に水が広がっている。

 

「もー、なにやってるの?」

 

 そう言っておしぼりで机を拭こうと手を伸ばしたところ、佐枝ちゃんにその腕をつかまれた。何事か、と佐枝ちゃんを見上げれば、明らかに動揺した表情だった。

 

「……どうしたの?」

 

「…………その苗字に間違いはないか?」

 

 私の声には答えず、しばらく固まった後で佐枝ちゃんはそう零した。……こりゃ当たりかね。

 

「うん、間違いないけど。本当にどうしたの? とりあえず落ち着こう?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 しばらく見つめあった私たちにストップを掛けたのは、お好み焼きの具と2杯目のビールを持ってきた店員の声だった。

 

「お待たせしま、し……た?」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 いち早く硬直から回復した私が返事を返すと、店員はいぶかし気ながらも、ものを置いて戻って行った。

 

「……ふぅ、落ち着こうか。どうしたの、佐枝ちゃん」

 

 クールダウンの意味も込めてビールを1口飲んだ。佐枝ちゃんも我に返ったのか、私と同じように今来たビールに口をつけている。

 

「すまんな、想定外の名前が出てきたものでね」

 

「うん、別にいいんだけど……何かあったの?」

 

 佐枝ちゃんは煙草を灰皿に押し付けて火を消し、切り出した。

 

「いや、大したことじゃない、大げさに反応して悪かった。……しかしなるほど、そういうことか」

 

「ええーっと?」

 

「ああ、まああれだ。綾小路なら私が担任に持ってるクラスにいるよ」

 

「え、そうなの?」

 

 おお、知っているようだから期待はしていたけど、まさか担任とは。これはラッキーだな。

 

「そこまで目立つ生徒ではないが、彼にまつわる面白い話は聞いているし目にしている」

 

「面白い話?」

 

「今年の入試テストの全教科全科目で、一律50点を取った生徒が1人いる。もちろん100点満点のテストで、だ」

 

「……へぇ。それはたしかに面白い」

 

 また随分と変なことをしたものだ。あのまま成長すればそりゃあそのくらいはできるようになるだろうけど、実行するとは。ただ、もし仮に。これが目立ちたくないという理由でやったことだとしたら、阿呆と言わざるを得ないな。そんなことやったら全教科100点満点より目立つに決まっている。世間知らずが丸バレだ。

 ……今、どこかでくしゃみの音が聞こえた気がした。

 

「要するにその阿呆が綾小路くんだと?」

 

「そうだ」

 

 佐枝ちゃんはお好み焼きの具をボールの中でかき混ぜながら頷いた。

 

「なるほどー……。じゃあ、やっぱりあれは綾小路くんで合ってたのか」

 

「どこかで会ったのか?」

 

「うん、入学式の日の朝にバス停で。あと、その日の夕方にコンビニ前で遭遇した。見覚えのある顔だったからもしかしてそうかなぁって」

 

「そうか。……っと」

 

 鉄板にお好み焼きの具が投入される。ジュウジュウと美味しそうな音だ。がぜん食欲が湧いてきた。

 佐枝ちゃんは豚を入れたようなので、私は海鮮から放り込むことにする。

 

「で、(れい)。お前の施設、名前を聞いてもいいか?」

 

「……まあ、そう来るだろうと思ったよ」

 

 きっと触りだけでも聞いたのだろう。しかも自分の友人が同じ場所の出だと知ったら知りたくなるのも無理はないか。今まであまりそこら辺のことは触れてこなかったからなぁ。

 ……そうね、佐枝ちゃんにならいいかな。

 

「うん、悪いけど名前は言えない。でもどんな場所だったのかの概要だけは話すよ」

 

「……それで構わない」

 

 佐枝ちゃんは空気を察してか、姿勢を整えた。鉄板に投下された2人分のお好み焼きが良い匂いを発している。

 

「といっても私は途中で逃げ出しちゃったから、最終的にどうなったかは知らないんだけどね。私が暮らしていた施設の目的は、人工的に天才を作り出すこと。少し毛色は違うけど、私みたいなのを作るための場所だと思っていい。もっとも、私はもやしっ子だからあの施設的には失敗だろうね、反抗もしたし。あそこで作りたい()()はもっと万能の天才。戦えば一騎当千、その頭脳はホワイトハウス相手に完勝して尚余りある、そんなスゲーやつだ」

 

 私はお好み焼きを一部取り皿に移して食べた。うん、美味い。

 

「それは、可能なのか?」

 

「さあね。ただ、あそこの施設の首謀者はやる気だったみたいだよ」

 

「……そうか、わかった。ここでのことは他言しないこととしよう」

 

「うん、それがいい」

 

 佐枝ちゃんも自分のお好み焼きをとって食べ始めた。満足そうである。

 

「しかし(れい)。お前、綾小路に話しかけるときは気をつけろよ、一歩間違えれば通報ものだからな」

 

 実に楽しそうな佐枝ちゃんである。こいつ煽ってやがるな。

 

「むむ、大丈夫だよ。私も節度は持っているつもりだし」

 

「ほう、節度ねぇ。生まれてこのかた男の影も形もない人生を送ってきているくせに、年下とはいえ男相手に上等なコミュニケーションが取れるのか?」

 

「いくらなんでも高校生相手に緊張なんてしないよ!」

 

 社会人の面の皮の厚さを舐めないで欲しい。……ん? それだと、彼とビジネスマンとして話すことになる?

 

「ああそういえばあの猫かぶりモードがあったか。ぱっと見キャリアウーマンの中身残念女の完成だな。さて、そんなやつが頭の切れる綾小路と仲良くなれるのかねぇ」

 

「うぐっ、痛いところを……」

 

 たしかにそれを言われると何も言い返せない。だがしかし、これだけは言わせてもらおう。

 

「そういう佐枝ちゃんだって、最後に男と付き合ったのはいつなんだろうなー」

 

「……戦争をお望みか?」

 

 おっと目が怖い……いやめっちゃ怖いって!

 

「う、うん。望むところだよ」

 

「わかった。ならば少し待て」

 

 佐枝ちゃんはそう言って店員の呼び出しボタンを押した。この流れは毎回やっているからこの後の展開は予想可能だ。私はさっとメニューを渡す。

 すぐにやってきた店員さんに、注文をした。

 

「この黒霧島をお願いします。あとコップを2つ」

 

「かしこまりました」

 

 店員はそう言って戻って行った。

 佐枝ちゃんは無言でお好み焼きの残りを平らげると、机の上で両手を組み、その上に顎を乗せた。私も鉄板の上の食べ物を完食。そして同じポーズをとった。(ダブル)ゲン〇ウの誕生である。

 さて、さっき注文した()について説明しよう。

 名称、黒霧島。分類は芋焼酎にあたる。肝心のアルコール度数だが25%となっており、前述したブラックニッカよりはマシなものの、十分人を殺せるお酒と言えよう。

 そしてこれから始まるのは、真の阿呆たる我ら腐れ女2名による不毛な意地の張り合いである。ルールは簡単、交互にその場でできる簡単なゲーム(例えばじゃんけん)を提案し、2人で勝負。負けた方がコップ1杯の酒を一気飲みする。以上である。

 

 それほど待たずに黒霧島がやってきた。コップも小さめのものが2つ置かれる。

 

「で、引き返すなら今の内だが、いいんだな?」

 

 ふん、いまさらそんなセリフにビビる私じゃない!

 

「確認の必要はないね、佐枝ちゃんこそゲ〇袋の貯蔵は十分か!」

 

「いい度胸だ。決死の覚悟を持って付いてこい!」

 

 ここに、決選の火蓋が切られた。

 

「では、今回は私から。最初はじゃんけんで」

 

「ほう、じゃんけんか。運頼みとは弱気なことだ」

 

「佐枝ちゃん、まさか自分のじゃんけんの弱さを忘れたの?」

 

「上等!!」

 

 私たちは互いに拳を構えた。この勝負、いただきである。なにせ私は佐枝ちゃんにじゃんけんで負けたことは無い! いくよっ!

 

「「せーの! 最初はグー! ジャンケンポン!」

 

 結果は私がグー、佐枝ちゃんがチョキだ。

 

「ふふふ、私の勝ちだねぇ」

 

 計算通り。

 

「ぐっ、クソ!」

 

 佐枝ちゃんはコップに入った黒霧島を飲み干す。

 

「ぶはぁ、キッツいな! だが次は私の番だ」

 

「さあ、何にする?」

 

「当然、あっちむいてホイ!」

 

「いいでしょう、いざ勝負」

 

「あっちむいて~……」

 

 佐枝ちゃんが指を私に突き出し、グルグルと回す。そして、掛け声とともに指を右に指した。

 

「ホイっ!」

 

 私も右を向いていた……。

 

「ふん、私の勝ちだな。さぁ飲め!」

 

「ぐっ……」

 

 黒霧島を今度は私が一気に飲み干す。喉が焼け、胃がカァーッと熱くなった。

 

「ぷはぁ、げほっ!」

 

「お、なんだ(れい)、もう限界か? まだ始まったばかりだぞ?」

 

「まだまだぁ! 私はこんなものじゃあ終わらないよぉ! 佐枝ちゃんこそもうキツくなったからそんなこと言ってるんじゃないの!?」

 

「なんだと? そんなわけあるか! 貴様は本当に愚かだなぁ!」

 

 なんか今、シリアスなセリフがとても残念な形で使われた気がする。気のせいかな?

 

 私と佐枝ちゃんはその後も勝負を続けた。このお店を出て2軒目に入ったところまでは覚えているのだが、そこからの記憶がない。

 翌日の昼間、新宿で飲んでいたはずなのに、私たちは何故か池袋のカラオケボックスの一室で目を覚ました。私も佐枝ちゃんも二日酔いで痛む頭を抱え、なんとか帰宅してベッドに倒れ込んだ。ちなみに学校には戻れなかったため、佐枝ちゃんは一時的に私の家に泊って行った。

 

 

 

 




 ※本作品は暴飲暴食を促すものではありません
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