最初のOLがチートだったら   作:Friday

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 原作が全然関係ない話です、登場する原作キャラいません


私の良きポンコツ同僚

 

 

 

 佐枝ちゃんと飲み明かした週末を超え、今日は月曜日。結局土日の休日は2日酔いならぬ3日酔いにやられて家から出れなかった。

 あまり休みを挟んだ気がしないままに休日が明けてしまったが、どれだけ嘆いても月曜日はやってくる。きっと今頃佐枝ちゃんも気張って朝の準備をしていることだろう。私も頑張らねば……。

 

 どうにかこうにか家を抜け出し、バスに乗って学校に到着した。

 時間は既に始業ギリギリ。私の職場は始業時間が形骸化してはいるのだけど、それは叱る人間がいないというだけ。もし何か依頼が学校側や外部(稀にあるらしい)から来ていた場合、遅れて行って地獄を見るのは自分なのだ。

 しかも今日は4月の後半に入っていて、佐枝ちゃん情報によると近々小テストがあるらしい。テスト、と名の付く行事は何であれ私達の部署にダメージが来る傾向にあり、油断禁物だ。

 以上のことから導き出される結論、急ぐべし。

 

 パンプスでダッシュという世のOLがなぜかみんな身に付けている難易度星4つくらいの奥義を発動。どうにかこうにか滑り込みセーフで間に合った。

 勢い良く職場の扉を開けば、中は真っ暗。未だに同僚は来てないらしい。

 

「あの野郎、許すまじ……!」

 

 この怒りは奴のデスクチェアの高さを最低の位置まで下げることで晴らすこととしよう。

 ……よし、完璧だ。

 自分の仕事に満足した私はPCを起動し、何か依頼が来てないかチェック。結果、今のところは特に何もないことが分かった。

 

「ふぅ〜、良かった」

 

 いやはや安心だ。

 そういえば佐枝ちゃんは無事に出勤できただろうか、今更だが一応メッセージを送っておこう。

 

『おはよう、今職場に到着いたしました!』

 

『佐枝ちゃんはどう?無事に出勤できた?』

 

 だがしかし、直ぐに返信が返ってくることはなかった。もう授業が始まってるのかもしれない。

 私も仕事に励むとしますかね。

 同僚は未だ来ていないが、先に始めてしまうことにする。いくら依頼が来なければ暇だとはいっても、日常的にしなくてはならないものも少しはあるのだ。

 もしもの事態に備えて、そちらを先に終わらせておくのがこの職場で生き残る秘訣。まあ、まだ修羅場に突入したことはないので全部聞いた話だが……。

 

 PCを叩き始めて30分程経った頃、職場の扉が開いた。ようやく遅刻魔の同僚がやってきたらしい。

 

「うーっす、おはよっす」

 

「おはよう」

 

 そう言って入ってきたのはスーツ姿の男性……っておい。

 

「ちょい待った、何その服装?」

 

「……やっぱ不味いっすか?」

 

 そう言ってにへらっと笑みを浮かべた男は、パーカーにジーンズ、申し訳程度の革靴というおよそ社会を舐めてる服装で登場した。もちろんこの職場は服装自由ではない。

 学内の職場だから、学生へのアピールとして服装は結構厳しいのだ。もしこのタイミングで他の大人が入ってきたら、普通に減俸ものである。許してくれるのは佐枝ちゃんくらいだろう。

 

「はぁ……で、何があったの? 一応言い訳は聞いてあげる」

 

「あー、それはですね。道中困ってるおばあちゃんを見つけてその手助けを……」

 

「違う。私が聞いてるのは何でそんな服で来たのかということよ」

 

 タダのポーズだが、とりあえず睨みつけておく。ちょっとやそっとなら構わないが、あまり度を越すようならそれ相応の措置を取らなければならない。

 

「……その、スーツをクリーニングに出しちゃってですね。昨日引き取るのを忘れてたといいますか……」

 

「全部一緒に出したの?」

 

「はい……」

 

 うん、馬鹿だこいつ。しょんぼりしているところ悪いが、何のために2着以上スーツを持ってるのだろう。グレーとネイビーで1つずつ持ってた筈だ。これでは何の意味もない。

 とは言っても、実際今どうすることもできない。この服で来てしまった以上、今日はこのまま過ごすしかないのだ。

 

「仕方ないか……。分かった、それなら今日はその格好で構わないわ。誰も来ないことを祈りましょう」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「ただ、これに懲りて反省はしなさい。次は容赦なく報告するから」

 

「り、了解です!」

 

 ビシッ、と微妙に形が崩れた敬礼を見せてくれた。その姿は情けないのに、なんだか少し様になっていて、どこか憎めない。

 きっと謝り慣れてるだけなんだろうが、こういうところがあるから、このダメな同僚を切れないでいるのだろう。

 彼は敬礼から直ると、そそくさと自分の席に座った。

 

「え? うわっ!」

 

 ドスンッと些か大きな音と間抜けな声を出して。

 

「ぶふっ」

 

 思わず吹き出してしまった。

 

「い、いったい何が!? ……ってこれ椅子が低い」

 

「遅刻の罰です、速やかに仕事を始めなさい」

 

「はい……」

 

 今更ながらこれ、パワハラに入るのだろうか。……恒常的にやってたらなりそうだな、気をつけよ。

 

 さてこの同僚の男だが、同僚とは言っても歳は2つ下で後輩でもある。名前は更井(さらい)里緒(りお)。この職場に回されるとき、上司から私が部署の責任者として指示を受けたこともあって、こいつは同僚兼、後輩兼、部下という属性過多な関係となっている。さらに更井(さらい)が一応の礼儀として適当な敬語を使っているため、今の微妙な上下関係に落ち着いた。

 責任者など面倒でしかないが、もしこいつが上だった日にはどうなっていたことか。私にその役割を押し付けたことを許してはいないが、その一点に関してのみ、上司の慧眼を褒め称えるべきだろう。

 

 この阿呆も流石に反省したのか、落ち込みながらも真面目に仕事に取り組んでいるようだ。ああ、なんだかんだ最後は真剣になるところも、こいつがこの職場にしがみ付けている理由の1つだな。

 その姿を見て満足したら、私も自分の業務に戻った。

 

 

 

 

 

 

 お昼頃、私の仕事がとりあえずの終わりを見せた。更井(さらい)の方はまだ終わってないようだが、一足先にお昼をいただくとしよう。

 学内では基本的に食べ物を買うことができない。しかし何事にも例外はあるもので、平日の10時頃から14時くらいまでのお昼時のみ、ショッピングモールの一部のお店が現金決済可能になるのだ。

 それなりの数の従業員が勤めているこの学校では、飲食店などはすぐに混み合って入れなくなってしまう。もう12時を回ってしまっている今の時間ではそうとう並ばされるだろう。

 なわけで、今日の私はコンビニ弁当だ。一応、更井(さらい)に一言告げておこう。

 

更井(さらい)、私は昼食を買ってくる。何か欲しいものはある? 希望があれば買ってくるけれど」

 

 パーカー姿の不良サラリーマン、更井は顔を上げると即答で答えを返してきた。

 

「じゃあ、カッ◯ヌードルのシーフードで!」

 

「……あなた、そればかりね。いつもカップ麺じゃメタボるわよ?」

 

「うぐっ……で、でもですね。朝食は抜いてるし、夕食は野菜食べてるんで1日単位で見ればイーブン……」

 

「にはならないと思う」

 

「そ、そーっすか……」

 

「はぁ、まあいいわ。わかった、シーフードね?」

 

「あ、はい! お願いします!」

 

 こいつの偏食ぶりは半月しか経っていなくても分かるくらいには異常だ。最初の頃こそサラダを一緒に食べていたものの、数日後にはカップ麺のみになった。

 仕事終わりに食事に行ったことも何度かあるが、何処にいっても高カロリーかつ不健康なメニューを進んで選ぶ。何が彼をそこまで駆り立てるのかは分からないが、もはや一種の意地なのではないだろうか。

 

 なんて益体のないことを考えながらコンビニに向かう。目当てのお弁当(私も正直昼食に関しては人のことが言えない)と更井用のカップ麺を手に取ってレジに並んだ。

 もちろんコンビニも昼時は施設の従業員で溢れかえっており、レジで会計を済ませるまではそこそこの時間が掛かる。時間潰しにスマホを確認すると、佐枝ちゃんから返信が来ていた。

 

『おはよう』

 

『なんとか間に合ったが、正直まだ頭が重い』

 

 やはり彼女もお疲れのようである。あれだけ飲めば、身体に残るのも肯けるというものだ。まだまだ若手とは言っても、もう身体は年寄りなのだろう。

 とりあえず、返事だけ返しておいた。

 

『お疲れ様、私もまだちょっと怠い……』

『どうにか今日を乗り切ろうね!』

 

 向こうも昼休みだったのか、すぐに「えいえいおー」的なスタンプで返事が返ってきた。可愛い。

 さて、これでよし。今日もあと半分だ、何も無ければこのまま駄弁って終わるだろうし、それを期待しよう……。

 

 程なく会計を済ませた私は職場に戻った。

 部屋に入ると、意外なことにまだ更井はPCと向き合っていた。こいつ、ポンコツの社会人失格野郎なのは間違いないが、仕事はできる筈である。あれからもう40分は経っている。そろそろ終わっても良さそうなものだが……。

 

「まだ終わらないの? 何かあった?」

 

「ん、あ、(れい)さん。おかえりなさいっす。いやなんか、面倒な依頼が一件来てましてね」

 

 なるほど、やっぱ依頼が来てたか。しかし「面倒な」という枕言葉は何やら不吉だな。

 私も自分のPCで依頼を確認する。

 

「あー、この類のやつか……」

 

「今日、帰れますかね?」

 

 更井がPCの上からこちらに顔を向けてくる。

 

「まあ、終バスには間に合うだろうけど……私達の頑張り次第じゃない?」

 

「やっぱそうっすよね……」

 

 ああ、タダでさえ全快とはいえない体調なのに。なんで今日に限ってこんなのが来るんだ。まあ自業自得だけれども……。

 ……泣き言ばかりも言ってられない。これで給料貰っている以上、その分の仕事はしなくては。

 

「じゃあ、更井はそのままウィルスの除去をお願い。私は元を辿るわ」

 

「了解っす」

 

 依頼というのは、学内ネットワークへのクラッキングへの対処だ。この学校、実は外部流出すると不味い類の情報がわんさかあるのである。そんなわけだからたまにクラッカーに狙われるのだ。

 私と更井の仕事は基本的には学校のシステム点検とソフトウェアの調整、更新。しかし、実はメインの仕事はこっち。クラッキングに対しての対処とその予防である。

 今回やられたのは新型のウィルスの感染。多分、学内の情報をすっぱ抜くためのものだろう。とりあえず、私と更井で手分けしてウイルスの除去をし、情報の保護を図る。それとウィルスセキュリティをこのウィルスに対抗できるようにアップデートすること。そしてあわよくばウィルスの製作者をとっ捕まえること。以上3つが仕事である。

 別に作業自体は苦でないからいい。しかしこういうパターンの場合ソフトウェアのアップデートが中々面倒くさく、色々な申請をしなくてはならないのだ。

 おそらく今日もそこに時間を割かれると思われる。……定時で帰れるといいなぁ。

 ため息を吐きながら、私も作業に取り掛かった。昼飯は抜きだ。

 

 

 

 

 

 

 作業に取り掛かってから5時間程。ちょうど定時になった。

 ウィルスに関してだが、粗方対策が終わり、すでにセキュリティソフトのアップデートも終わろうとしていた。

 あとは更井のPCからデータが学内ネットワークにダウンロードされるのを待つだけである。

 

「っくぁー! 終わりましたね」

 

 伸びとあくびを同時にする、という実に仕事終わりを感じさせる仕草だ。

 一方の私は少し追加作業に追われている。いや、「いた」というのが正しいか。今ちょうど完了した。

 

「ええ、お疲れ様」

 

「お疲れっす。……ところで(れい)さん、最後何やってたんすか?」

 

「ふふ、ちょっとした仕返しをね。細やかなものよ」

 

「あはは……、細やかっすか」

 

「ええ、細やかよ」

 

 更井から引き気味の反応をされた。今更そんなにビビることもないだろうに。それとも未だに昔を引き摺ってるのだろうか。

 

「相手が国家じゃありませんよーに……」

 

「? 今何か言った?」

 

「いえ、なにも!」

 

「そう?」

 

 今、両手を合わせて何かブツブツ言ってたような気がしたが……まあいいか。

 

「あ、それよりも、ソフトウェアのダウンロード終わりましたよ!」

 

「本当!? これで帰れるわね」

 

「はい。ようやく帰宅でき…………お腹空きました」

 

 帰れることを喜んでた更井だったが、昼を抜いていたことを思い出したようである。お腹が音を鳴らして空腹を主張し出した。

 

「……先にご飯食べる?」

 

「そうします……」

 

 私たちは昼間にコンビニで買った各々の食料をお腹に入れた。私も昼は抜いていたし、思い出したように食欲が湧いてきて、久々にただのコンビニ弁当が美味しかった。

 更井に関しては鬼気迫る、といった様子で正直引いた。そういえば朝も抜いてきたとか言ってたな……。

 

「そういえば細やかな仕返しって、今度はどんなの送り込んだんです?」

 

 食後のお茶を飲んでいると、ある程度満足したのか更井が話しかけてきた。怖がってたくせに知りたがりはするんだな。

 

「別に大したものじゃないわ、時間もなかったし。ちょっとサーバー内のファイルが何処ぞの国家機関のアドレス宛に送られるだけ。……まあ、すぐに対処されただろうし、そこまでの被害は出ないでしょう」

 

「そ、そうなんすか……。それはまたエゲつねーのを」

 

 ふう、一休みできた。時間を確認してみればすでに18時を回ってる。今度こそとっとと帰るとしよう。

 

「更井、私はそろそろ帰ろうと思うけど、あなたはどうする?」

 

「あ、じゃあ俺も帰ります」

 

「わかった、なら荷物を纏めて……って特に何もないか」

 

「あはは……」

 

「はぁ……明日はちゃんとスーツ着て来なさいよ? これでも誰か入ってこないか不安だったのだから」

 

「イ、イエス、マム!」

 

 またもやビシッ、と微妙に形の崩れた敬礼が返ってきた。……ま、面白いから良いんだけどね。

 私たちは戸締りと消灯を確認して帰宅した。

 

 結局、更井はその日の仕事終わり、クリーニング店にダッシュで向かってどうにか閉店前に受け取ることができたらしい。翌日はしっかりとスーツを着てきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 この職場に勤め始めて早々、4月にウィルスバスターとして働いたご褒美なのか、4月中には依頼が他に来ることはなかった。まあ細々としたものはあったものの、面倒なものはゼロだ。

 そして、4月を終えてわかったことがある。

 

「ねえ、更井」

 

「はい、なんです?」

 

 今日は4月末日、昼食の時間だ。更井はカップ焼きそばにハマりつつあるらしく、その塩味をすすっていた。

 ちなみに私も今日は更井と同じものを食べている。……たまに食べる分には美味しいということは否定できない、うん。

 

「この前、お前が私服で出勤してきたことがあったわよね」

 

「……あー、ありましたかね」

 

 更井は少し小さくなった。なんだかんだで反省しているらしい。

 

「別に怒ろうって話じゃない。……ただちょっと愚痴というか、ね」

 

「それって説教なんじゃ……」

 

「だから違うの。そうじゃなくて、あの日、誰かここに入ってきたらヤバイって話をしてたじゃない?」

 

「はい、流石に怒られるだけで済むかは微妙だとかなんとか……」

 

「でも、その心配は無用だったかも」

 

「へ? ……なんでです?」

 

「だって、ここに誰か人が入ってきたことってこの1ヶ月で一度も無かったじゃない」

 

 そう、本当に1人も来ていないのだ。しかも尋ねに来るどころか、呼び出しすらない。一応内線電話は置いてあるけど、こちらから使ったことも無ければかかってきたこともない。

 その上、セキュリティやシステム関連の依頼は全てメールで来るから、仕事で顔を合わせることもないのだ。

 これ、なんなら学内の従業員って、セキュリティ担当がここにいること自体知らないんじゃないだろうか。

 

「あ……そういえば」

 

「でしょう? だから変な話、もしかしたらこの部屋でなら何やっても大丈夫なんじゃないかしら」

 

 もしかしたら多少の私物の持ち込み、もとい模様替えは出来るかも。ていうか考えてみれば、客人をもてなす物すらない。

 

「おお、たしかに! じゃあやっちゃいますか!?」

 

「……そうね、ちょっとこの部屋は寂しすぎる気がしてたし」

 

「賛成っす! ……ちなみに私服出勤は」

 

「それはやめときなさい、万が一のときに誤魔化しようが無くなるわ」

 

「……それもそうっすね」

 

 そう。最悪訪問者が来てしまったら、片方が時間稼ぎをしている間にもう片方が隠蔽作業を終える必要がある。

 部屋を改造するにしても即座に隠せる、もしくは誤魔化しが効くというラインは守らなければ。

 しかしそれさえクリアすれば大抵のものはいける。これは楽しみになってきた!

 

「それでは、明日から私達の理想の職場を作りましょう」

 

「おおー!」

 

 この部屋に元々あった設備はデスク2つ、付属のイスが2つ、それにPCとソファーだ。他には一切何もない。ちなみに更井は毎日保温性の水筒に熱湯を入れて持参し、そのお湯を使ってカップ麺を食べていた。また、度々飲んでいたお茶というのは暖かいやつではなく、自販機のお茶である。

 以上のことより、まず電気ケトルは必須だと思う。あとできれば電子レンジも欲しい。コンビニ弁当をここで温められるのはかなりありがたいし。

 

 そして私達は早速翌日より、私物を持ち込み始めた。

 

「で、更井は何持ってきたの?」

 

「ふっふっふ。こいつらっす!」

 

 更井はそう言ってデスクの上に持ってきたものを並べ始めた。

 まず1つめに……なぜこれ?

 

「えーっと、なんでスピーカー?」

 

「大音量で映画を見るためっす!」

 

「いつ?」

 

「昼休み!」

 

 ま、まあいいか。そのためだけにスピーカー持ってくるって馬鹿じゃないのかと思ったけど、映画やドラマ、アニメ等のストリーミングサービスに加入していれば、備品のPCでも映画見れるしね。……ヘッドホンじゃダメなの?

 

「そ、そう。……では続けて」

 

「次に……クッションっす」

 

「へぇ、中々良いチョイスじゃない」

 

 たしかにクッションは欲しいと思っていたところだ。この部屋、ソファーはあるのにクッションはないから少し物足りなかった。ちなみにクッションは私も持ってきたし、1人1つあるなら尚良いだろう。

 

「そして最後に!」

 

「え、スクリーンと……これはもしかしてプロジェクター?」

 

「イエース!」

 

 なに、そこまでして映画を見たいの? 私的にはPCにヘッドホンでいいと思うのだけど……。

 当の阿呆は上機嫌に、そして何故か得意げに説明を始めた。

 

「このプロジェクターとスクリーン、それにスピーカーを使えばいつでも大画面で映画が見れますよ! スピーカーで高音質、大音量を確保したなら、やっぱり大画面の方も抜かりなくいかなくては!」

 

「……そう、なんかもう何でもいいわ」

 

 怒ればいいのか、呆れればいいのか……。まあでも、いつでも映画が見れるっていうのは確かに悪くない。幸か不幸か、この部屋は何もない壁とそれなりの広さがあるから、スクリーンの設置場所にも困らないし。

 

 その後も発表会は続き、模様替えを始めて初日で中々良い感じに物が揃ってきた。

 私が持ってきたものは、電気ケトルとクッションの他に壁掛け時計だ。実はこの部屋、時計が無かったのである。まあ従業員2人しかいないし、ほぼずっとPCを開いてるから時間確認に困ったことはなかったんだけど。

 壁に100円均一で買ってきた貼るタイプのフックを取り付け、そこに時計を掛けた。これでよし。

 

「良い感じに職場っぽくなったんじゃないかしら」

 

「はい、これで映画見放題っす」

 

「ずっとそればかりね。そんなに映画が見たかったの?」

 

「だって暇な時間多いじゃないですか、この仕事。映画でも見れればなぁ、と思ってたんすよ」

 

「まあ、それは確かに否定できないか……」

 

 今回の模様替えによって、この部屋の物の配置は大きく変わった。まず扉から中に入ると、左手すぐ上の天井にプロジェクターが設置されている。そして正面の壁一面にスクリーンがあり、スクリーンと扉側の壁のちょうど真ん中にデスク2つが向き合う形で置いてある。ソファの場所は扉から見て右手の壁沿いだ。そしてそのソファのある壁に壁掛け時計と、コンセントもあるため電気ケトルが床にある。

 まだ少し寂しいものの、悪くないんじゃないだろうか。……あとは電子レンジをどうにかできれば。

 

「さ、模様替えも終わったことだし。仕事を始めましょう」

 

「うっす」

 

 

 




 ※本作品は犯罪行為を助長するものではありません。また、クラッキングに関しては素人知識です
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