最初のOLがチートだったら   作:Friday

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短めです


私の良きJKな知人

 

 

 

  記者会見の舞台、場所はとある企業のオフィス。

 大勢の記者の前に1人の男が立った。これから、先日の事件についてのコメントが始まるのだ。

 皆の視線が集まる中、壇上の男はカンペと思われる紙を前に掲げた。

 

『えー、会見は久々で、今日は原稿に頼ることにする』

 

 カンペの言い訳として場の笑いをとって、紙を読み始めた。

 

『昨夜の出来事に私が関与したという、噂が一部であるようだが……』

 

 そのタイミングで、1人の女性記者が挙手をした。

 

『失礼ですが、あんなスーツを着たボディガードが都合よく現れたーなんて話、信じられると思いますか?』

 

 彼女の言葉尻に被せるように、壇上の男は言葉を返した。

 

『信じ難いのはわかる。しかし憶測でモノを言うのはどうかと思うぞ? あたかも私がスーパーヒーローであるかのように──』

 

『ああいえ、スーパーヒーローとは言ってません』

 

『そ、そうか、ならいい。とにかく、あまりにも荒唐無稽で……かっこ良すぎる』

 

 記者が首を傾げ出した。とりあえずこの男が何やら自分でボロを出しているらしいことはわかる。あともはやカンペは読んでいない。

 もう一言二言、暴走をしたところで隣にいた大男から注意が入り、ようやくカンペ通りに話し出した。

 

『真実は…………』

 

 そこで言葉を切った。周りを見渡し、カンペの紙が徐々に下がっていく。皆が固唾をのんで見守る中。彼は、こう言った。

 

『私が、アイ○ンマンだ』

 

 〜エンドロール〜

 

「くうぅーー!! やっぱカッコいいっすね! アイ○ンマン!」

 

「ええ、本当ね。あまりアメコミ映画は見ないけど、こればかりは私もハマったものよ」

 

 さて、私達が今何をしているかと言うと、先日職場に持ち込んだプロジェクター、スクリーン、スピーカーを使って映画鑑賞をしていた。

 今日の仕事はあらかた終わり、残るは定時までここにいて依頼を待つことのみ。暇なこの時間はあれ以来、映画鑑賞の時間となっている。

 

 更井(さらい)が映画のストリーミングサービスに加入していたお陰で、備品のPCで毎日無料の映画鑑賞会が実施できているのだ。最初はヘッドホンじゃダメなのか、と思っていたものだが確かにこれはいい。してやられた気分である。

 

(れい)さんはどんな映画が好きなんすか? 何かリクエストがあれば明日とかはそっちにしますけど」

 

「うーん、好きな映画か……。特に「コレだ!」といったものはないけど、強いて言うならミステリーとかサスペンス? とかかしらね」

 

「へぇ、ラブコメ系じゃないんすね」

 

「うーん、ラブコメ系も別に嫌いではないわ。ただ、それだけだと少し退屈ね。できれば他の要素も入っていて欲しいかも」

 

 少女漫画が原作のものなどは特にそうだ。ああいう恋愛を全面に押し出したタイプの映画はどうにも入り込めない。漫画で読む分には楽しめるのだが、なんでか映画はなぁ……。

 

「じゃあ、次回は何か探しときます」

 

「そう、ありがとう。楽しみにしてるわ」

 

 時計を見上げれば、すでに時間は定時を過ぎている。短針が5、長身が3の辺りを示していた。

 

「では、今日はこの辺りで解散にしましょうか」

 

「そうっすね、お疲れ様っす」

 

 私達は大した量もない荷物を纏め、部屋を出た。

 外はすでに夕陽が差していて、学生達がショッピングモール内に溢れていた。

 もう5月も半ば、日中の気温は段々と上がってきている。それでも日が落ちてくればまだ肌寒く、衣替えには少し早いだろう。

 私は室内で脱いだまま持ってきたジャケットを羽織り、ボタンを下まで留めた。

 

「あ、令さんっていつも校門前のバス通勤っすよね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「じゃあ今日はそこまでご一緒します。ちょっとこの後に用事があって」

 

 仕事の後に用事を入れるとは珍しい。いつも家にどれだけ早く帰れるかのチャレンジをしているレベルでお家大好きな男だった筈だが。

 

「珍しいわね、彼女でもできた?」

 

「そうだったらいいんですけどね……。止むに止まれぬと言いますか」

 

 何やら本当に嫌そうである。何があるのか知らないが、追求するのはやめておいてやろう。

 

「ふうん、よくわからないけどご愁傷様」

 

「……うす」

 

 こんなおちゃらけた奴ではあるが、私と同じであまり真っ当な育ちをしていない。きっと色々あるのだと思う。

 ショッピングモール内の学生を見ては落胆を深めていってる更井を横目に、私達は校門を目指した。……まあ、学生見て落ち込んでるのは私も同じか。

 

 その帰宅の最中、キラキラした高校生の中でもキラキラが最高潮に高まっている女の子を発見した。というか、向かい側から歩いてきた。

 

「ん、見た顔が前方に」

 

 勇気ある制服少女だ、とりあえず手を振ってみる。

 

「? 令さん、知り合いすか?」

 

「ええ、ちょっと縁があってね。かなり眩しい子だから気をつけた方がいいわよ」

 

「眩しい……?」

 

 向こうも気づいてくれたようで手を振り返してくれた。

 

「お姉さん、お久しぶりです!」

 

「うん、久しぶり! 元気だった?」

 

「うわぁ……」

 

 今私の方を見てから失礼なことを呟いたのは更井である。こいつは後でその愕然とした顔に一発かますとして、この子はやっぱり可愛い。

 

「はい、お姉さんも元気そうですね!」

 

「お陰様でね〜。学校はどう? 楽しんでる?」

 

「この豹変どうにかならないすかね」

 

 また失礼な呟きが聞こえた。どうやら命が惜しくないと見える。

 

「楽しいですよ! 今はテスト前で少し大変ですけど……」

 

 珍しく彼女の顔に影が差した。ふむ、やっぱりこんなとんでもない学校だとテストも厳しくなるのだろう。彼女は数少ない常識人枠なのだから、是非とも頑張ってほしい。

 

「そっかぁ、もう中間テストが始まるもんね……。頑張って! 応援してるよ」

 

「ありがとうございます! ……ところで、そっちのお兄さんはお姉さんの会社の方ですか?」

 

「ん、ああ、そうそう。折角だし紹介するね、覚えなくていいけど」

 

「いやなんで! そこは覚えてあげてって言うところですよ!」

 

 更井からツッコミが飛んできた。いや、お前の名前女子高生に覚えさせてどうこうは流石に不味いよ。

 

「ふふ、お姉さんもお兄さんもとても仲がいいんですね。あ、私、お姉さんの名前も知らないかも」

 

「そういえば自己紹介まだだったね、折角だししようか?」

 

「はい! じゃあ私から。櫛田(くしだ)桔梗(ききょう)っていいます。今1年生なので、これから3年間よろしくお願いします!」

 

 ペコリ、と勇気ある制服少女、もとい櫛田ちゃんは頭を下げた。その姿勢は綺麗なもので、相変わらず本当にできた子である。

 

「私は御布施(おふせ)(れい)。で、こっちのポンコツが更井(さらい)里緒(りお)。こちらこそよろしくね」

 

 こっちも少し頭を下げた。更井に関しては無理矢理頭を手で押し込んだ。

 

「うぐっ。令さんは枕言葉に猫被りってつけた方が……」

 

 ほう、貴様さっきから良い度胸をしてるな。顔を逸らすな、こっちを見ろ。威圧できないだろう?

 

「……なんでもないです。櫛田ちゃん、どうぞよろしく」

 

「? はい、よろしくお願いします?」

 

 頭を下げながらも私が更井を睨み付けていたからか、櫛田ちゃんはハテナマークが頭に浮かんでる。彼女から見れば、何故か更井と私が2人で左を向いてるように見えるだろう。気にしなくていいからねー。

 

「えーっと、私もしかしてお邪魔しちゃいました……?」

 

 おっと不味い、櫛田ちゃんに気を使わせてしまったようである。

 

「ううん、そんなこと無いよ。ごめんね、なんか2人して奇妙な行動を取ってばかりで」

 

「あ、いえいえそんな。ただ、もしかして何かお話ししてるところに入っちゃったのかなぁって思っただけで」

 

 櫛田ちゃんはワタワタと手を胸の前で小さく振ってそう言った。うん、本当ごめんね。

 

「本当に気にしなくていいっすよ、この人が猫被ってるのが……」

 

「へぇ」

 

「令さんと恥ずかしくて顔を合わせられない俺が悪いです!」

 

「そうそう。基本的に、いや全面的に更井(こいつ)が悪いから大丈夫だよ?」

 

「あはは……」

 

 櫛田ちゃん、苦笑いである。

 

「でも2人ともいいなぁ……。私も就職したら、職場の仲間と令さん達みたいに仲良くなりたいです」

 

「ふふっ、櫛田ちゃんならなれるよ。私達よりよっぽど社交的だもの。……ねえ、更井?」

 

「そっすね。俺と令さんが果たして仲良いかは置いといても、櫛田ちゃんなら余裕だと思います。ちょっと話した俺でもそう思えますもん」

 

「そうですか? えへへー……なんか照れますね」

 

 櫛田ちゃんは意外と褒められ慣れてないのか、顔を赤くした。うん、可愛い。

 

「そういえば、お2人はどんなお仕事をしてるんですか?」

 

 照れ隠しなのか、櫛田ちゃんは話題を変えた。平常に戻ってる風を装ってるが、未だ耳が赤いところに愛嬌を覚える。

 

「ああ、私達の仕事はね、学校のセキュリティとかソフト関連で──」

 

 その後、私達は2、3雑談をしてから、この後勉強会があると言う櫛田ちゃんの希望で別れることとなった。考えてみればテスト前と言っていたから、少し悪いことをしたかもしれない。

 去っていく櫛田ちゃんに手を振って、「さようなら」と「またね」を言って見送りを済ませた。

 なんか青春を少しだけ分けてもらった気分だ……気分だが。

 

「ふんっ!」

 

「ぁいたっ!」

 

 更井が私の蹴った右脚を抱えて跳ねた。弁慶の泣き所は勘弁してやったんだから感謝してほしい。

 

「な、なんですか急に」

 

「私に失礼な態度を取ったからよ」

 

「失礼な態度? そんなもの今日は一度も…………あぁ」

 

「あぁ、じゃない。てっきり覚悟はできてると思ってたわ。というか謝罪もないってどういうこと?」

 

 私が更井に詰め寄ると、彼は身を小さくした。

 

「いや、それはそのぉ……」

 

「私ね、言葉を濁すのって良くないと思うわ。正直が一番だと思うの。ほら、アイア◯マンも正体を自分から喋ったでしょう? どれだけ捻くれててもいいけど、あんな風にフェアであってほしいの」

 

 だから命が惜しくばすぐに謝罪会見を開け、と言外に伝えた。にっこり笑ったはずだったのだけど、上手く笑えてなかったのか更井は小さくなった身体をさらに縮こませている。

 さあ、吐け。

 

「……櫛田ちゃんと話すときの令さんの口調の豹変ぶりを揶揄いました、申し訳ございませんでした」

 

 観念したのか、奴は素直に頭を下げた。最初からそうすればいいものを。

 

「……まあ、いいでしょう」

 

「でも、別にそんな気にしなくていいと思いますけどね。令さん、どっちの口調でも中身は大して変わりませんし」

 

「そう? かなり印象変わると思うけど」

 

 というか、変わってないのなら私がわざわざ口調変えてる意味がないんだが。

 

「まあ、そりゃあ第一印象とかパッと見とかはかなり変わりますけど……正直俺からすれば大差ないです」

 

「……そんなもの?」

 

「はい、たぶん」

 

 ふむ、まあ一考の余地はあるかもしれない。考えてみれば、佐枝(さえ)ちゃんにも似たようなことを言われた気がする。

 昔から、なんでか私は口調を話す人によって大きく変えてしまう。気づいた時にはそんな習性が身に付いていた。人付き合いが得意ではないにもかかわらず、無理矢理誰かとコミュニケーションを取ろうとした弊害なんじゃないかと睨んではいるが、真相はわからない。

 そんなわけだから直そうと思うことはあるのだけど、どうにも踏ん切りがつかないままここまできてしまった。

 

「……考えておくわ」

 

「うす」

 

 そこからは誰と会うこともなく、校門を出てバス停でバスに乗った。私と更井は見事に逆方向だったのが悲しい話だったが……まあ、別に明日も顔を合わせるしなぁ。

 欲を言えば、私が具体的にどこまで人前で変わるのかというのも知りたかった。

 これから櫛田ちゃんと接するとき、とっととこちらの態度を決めないと面倒だし。あと弟相手もどうするか決まってないというのは由々しき事態だ。

 どーしたものか。まあでも、どちらにも早く会いたいものだ。櫛田ちゃんはいい子だし、弟は言わずもがな。できることなら、テスト終わりにでもゆっくり話がしたい。

 

 

 

 

 

 ──そしてその願いは、あっさりと、そして最悪の形で叶った。

 

 

 

 

 

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