インフィニット・ストラトス:先駆者の目覚め 作:有機ELディスプレイ
量子空間を駆ける。正確には質量も距離も時間も何もないから『駆ける』という表現はあまりにも合わないのだが…兎も角『彼』─嘗て
(さっきの『脳量子波』…なかなか見つからないな…というかあの感じ…まるでテレポート先から…これはまさか…『同じ空間じゃない』、のか…?)
有り得ない話ではない。そもそもダブルオークアンタが先程成層圏への移動に使用し、その先祖にあたる『ダブルオーガンダム』が発現した『量子テレポート』現象も原理的には『実体を超光速で移動可能な量子空間に潜航させて動かす』方法を採っていたことが後年明らかになった。この事から、ここでは無い何処か、即ち『別世界』ないしは『平行世界』の存在は理論上確認されていた。
(あの呼びかけ…感じからして…何かの拍子に放出されたものが紛れ込んだか…)
となると面倒だ。何しろ前例がない。空間を飛び越えるならともかく、時空間どころか世界も跳び越えようなど、世界で誰もやったことが無いのだ。
(…まあ、関係ないか)
前例がないミッションを初見でこなせ、などもはや今更である。まして人命がかかっているならなおの事だ。なら、もう腹をくくるしかない。
(…やるぞ。ダブルオークアンタ…未来を切り拓く…!)
機体が赤く燃える。否、紅く輝く。その輝きは光を増し、機体色は紅からさらに緑がかかった虹色に変化した。
「…
(…うまく、いったか…)
場所は地上から1000キロ地点。目の前には広大な青い星、地球が広がっていた。
(消えかかった脳量子波のか細い残滓から辿ってきたから、まず間違いなく、ここにいる…が、しかし…)
そこまで考え後ろを見やると、そこにはただ広大な宇宙空間が広がるのみ。そこには、月とほぼ同じ大きさの花のような形をした
(本当に、違う宇宙に来たのだな…)
改めて地球へと視線を戻す。そこには彼のよく知る、それでいてよく知らない星が広がっていた。
(さて…どこにいるのか…)
地球中に探知を広げる。すると…
(さっきとは違う…が、かなり強い脳量子波の反応…?)
場所は…自分のデータの中では「経済特区・日本」と呼ばれていた地域の一角だった。
(何か手掛かりになるかも…行ってみるか)
「う~…ん。こんな感じ、だろうか…?」
ガンダム、大地に立つ。ただし、その姿は随分小さくて、そもそも人間の姿かたちを取っていた。
「一応、刹那の遺伝子を元にしてみたけど…」
見る者が見れば、その姿はきっと驚かれていただろう。何しろ今のクアンタはかつてのパイロットである『刹那・F・セイエイ』の姿を、ELSの特性の一つである『擬態』でもって遺伝子レベルで模倣していたのだから。
「…刹那って、こんな顔してたっけ?」
とはいえ、遺伝子レベルで擬態したとしても当人の人生経験までは真似できない。要するに何が言いたいのかと言うと、今の彼は記憶の中の刹那よりも遥かに穏やかな顔つきをしていたのだった。
「それになぁ…」
困惑した表情で頭に触れる。公園の池に映るその髪はいつも適当な長さでさっくりまとめられていた癖っ毛ではなく、背中の半ばまであろうかと言うサラッサラの『緑と蒼のグラデーションカラーの髪』に変化していた。
狙ってやった訳では無い。恐らく今のダブルオークアンタ…文献によっては『ELSクアンタ』と呼称されるモビルスーツの背部に寄生した、ELSとはまた違った宇宙生命体の影響だろう。実際よく見ると触れてもいないのになびくように動いてるし。
(考えてもしょうがない、か)
幸い(?)、この世界で『も』ビビッドなカラーの髪色というのも珍しくないようで、ついさっき通り過ぎた親子連れも男性とその娘と思しき少女は毛先まで緑色の髪をしていた。この分なら紛れ込むのも容易だろう、きっと。
「さてさて、件の脳量子波の発生源は…ん?」
…振り返ってみれば、ここが分岐点だったのだろう。
なんの気無しに背後を振り返る。視線の先のベンチには、やや縦長の布包みを抱えた少女が座っていた…