BloodBorneの世界観はゴシックとクトゥルフという二つの側面を持つ事が宮崎氏のインタビューでも明言されています。*1。
つまり本編に登場する用語だけでなくクトゥルフ視点でBloodBorneの世界を見ると、本編ではほとんど情報が無かった存在の証拠を見つける事が出来ます。
まず上げられるのが、上位者「姿なきオドン」です。
姿なきオドンは敵エネミーはキャラクターとして登場する事はなく、アイテムの説明欄にしか出てきません。
姿なきオドンとは何者なのか。作中では謎に包まれている存在ですが、クトゥルフ神話と比較するととある神に行き付きます。
その神の名前は、旧神「ノーデンス」。ラブクラフト作品に登場する架空の神であり、外なる神、旧支配者と敵対する旧神である。
ノーデンスは白髪と灰色の髭をもつ老人の姿で現れ、貝殻の形をしたチャリオットを操る、海の神のような性格を持つ神である。深い魔術の知識や威風堂々たる老人の姿からはオーディンを、白銀の義手からはヌァザを、雷を振るうという逸話からはゼウスを思わせる神であり、彼らの伝承を纏めた存在と言えるでしょう。
その証拠に、ヤーナムには彼を思わせる出来事や石像が数多くあります。
ゼウスを象徴するグリフォン、オーディンを象徴する犬の石像がヤーナム各地に建ち並び、「パンの大神」という作品ではノーデンスは普通の人々が気付かないものが見える様になった女性を強姦したことがほのめかされていて、この事が”姿なき”と呼ばれる所以であり娼婦アリアンナとの神秘的な交わりに繋がる訳です。
そして一番の鍵となるのが、ノーデンスの奉仕種族である
この仮定から「姿なきオドン」をノーデンスと仮定すると、ヤーナムとは深い関係にある「トゥメル」についても考察できます。
ノーデンスは眠りの中に居る旧支配者の封印を監視する役目を持っています。そしてこの旧支配者の眠りこそが、骨炭シリーズの説明欄で語られる上位者たちの眠りの事なのではないでしょうか。
つまり、聖杯ダンジョンに出てくる「旧主の番人」の旧主とは、ノーデンス(姿なきオドン)の事を示しているのです。
クトゥルフには神々の血を引く人間が登場するように、トゥメル人もノーデンスから血を貰い神秘を起こしていたのでしょう。
しかし、現代ではトゥメル文明は滅んでいます。旧主と呼ばれているように、トゥメルではノーデンスの次に主となった存在がいました。それは誰なのか。トゥメル遺跡最深部にいる存在、血の女王——「ヤーナムの女王」、彼女こそが現主だったのです。
彼女の正体は何なのか。彼女もまたクトゥルフ神話を調べると興味深い存在に行き付きます。
クトゥルフ神話TRPGで登場する「ニャルラトホテプ」の化身の一つ。当世の権力者に近づいて惑わし道を誤らせ、或いは自ら権力を握って国を破滅に導くとされる人物。
――赤の女王。それが血の女王のモチーフなのではないでしょうか。
血の女王が何故血を啜り、また相手に血を啜らせるのか。上位者の血を体内に含み上位者の赤子を身ごもるためであり、ノーデンスの血をニャルラトホテプの血として相手に飲ませるためだとしたら?
トゥメル時代末期、破滅の引き金は血の女王が赤子を身ごもった事でした。当時トゥメルに居た神は二柱のみ。即ちメルゴーの親は必然的にニャルラトホテプとノーデンスという事になります。
ニャルラトホテプの目的は何なのか。ニャルラトホテプはノーデンスと対立しており、ノーデンスの使命は眠りの封印を守ること。ならばニャルラトホテプの目的はその逆。
上位者の赤子の泣き声によって眠り(封印)を解く。それがニャルラトホテプの目的であり、トゥメル文明が滅んだ原因だったのです。
結論から言えば封印を完全に解く事は出来ず、一部の上位者が暴れるだけで終わります。しかし血の女王(ニャルラトホテプ)派とノーデンス派に完全に別れてしまい、当時のヤーナムの女王はトゥメル遺跡最深部に封じられ、ノーデンス派のトゥメル人達が遺跡を守護し、地上へ逃げた平民達は森で暮らすようになり、王族と一部の貴族は少し離れた小島に城を建てて住むようになりました。
この森が禁断の森であり、逃げ延びた貴族達がカインハ—ストと名乗るようになったのです。
一度ここでニャルラトホテプとノーデンスの戦争は終わりますが、ここから時代は移り古都ヤーナムを舞台とした代理戦争の幕開けとなるのです。
話が少し血族に逸れましたが、BloodBorneの根底にあるのがこの二柱の戦争だと仮定した場合、主人公の謎に説明ができます。
主人公は公式ホームページのStoryにて、「数多くの、救われぬ病み人たちが、この怪しげな医療行為を求め、長旅の末ヤーナムを訪れる 主人公もまた、そうした病み人の1人であった……」と説明されている。
公式が嘘を吐くとも思えず、しかしそれだと何故青ざめた血の事を知っているのか疑問であったが、この二柱が関わっているとすると話は別だ。
主人公はニャルラトホテプの無意識な駒としてヤーナムに導かれ、その後ノーデンスに導かれ彼の駒となり自由意志を取り戻したのだ。
主人公がヤーナムに訪れたのは治療のためであって、狩りを全うするためではない。同じよそ者のギルバートは青ざめた血について知りません。この時点でギルバートが聞いた話と主人公が聞いた話が違う事が伺えます。
主人公は恐らく、自分の病を治すにはヤーナムの血の医療、特別な血である「青ざめた血」が必要という話を聞いてヤーナムを訪れたのでしょう。血の医療に使われるのはヤーナムに普及している血で、青ざめた血の事ではありません。なら何故主人公が青ざめた血の事を知っていたのか。
それこそが彼が上位者と繋がりがある証拠であり、ノーデンスが血の医療者として介入した理由です。血の医療者は片目が包帯で覆われて隻眼の老人です。この姿からオーディンを連想しないでしょうか。
血の医療者もまた青ざめた血の事を知っていますが、上位者について医療教会で知っている人は上層部の者だけでただの血の医療者が偶然知っていたとは考え難いです。
青ざめた血には複数意味が存在します。一つ目は悪夢の儀式によって引き起こされた青ざめた血の空。悪夢の儀式とは上位者の赤子の泣き声によって上位者を呼び寄せる事。ここで大切なのはただの上位者でも上位者の赤子でもなく、泣いている上位者の赤子が必要だということだ。
即ち青ざめた血の空とは、泣いている上位者の赤子が原因で齎されるということ。
二つ目は名前です。教室棟2階のとある部屋にメモが書き残されており、そこにはこう記されています。
ここでローレンスやゲールマンに関わった月の魔物の名前が青ざめた血だという事が分かります。*2
これをニャルラトホテプの立場とノーデンスの立場から見ると、それぞれ別の意味となるのです。
ニャルラトホテプは封印を解くために上位者を
だからこそ、ノーデンスである血の医療者に出会うまではニャルラトホテプの策略で血の医療のために
ニャルラトホテプとノーデンスは対立していますが、しかし二柱には似ている部分が数多く存在します。
「未知なるカダスを夢に求めて」にてノーデンスもニャルラトホテプも共に夢と現実に介入する事ができ、本編でも滲む血がオドンの本質と言われる事から、血族と同じく血を象徴としている事が伺えます。
更に狩人の夢には使者も月の魔物も現れる事から、狩人の夢という悪夢には二柱の神が関わっていることから、目的が対立しているだけでその本質はほとんど同じなのではないでしょうか。彼らはまさしくコインの表と裏の存在なのです。
以上で、姿なきオドン=ノーデンス説の考察を終わります。
次回は「カインハ—スト」にまつわる考察をする予定です。