BloodBorne考察手記   作:宇佐木時麻

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稚拙な考察ですが、内容がまとまって来たので更新していきたいです。


改稿版:第一章:姿なきオドン

 BloodBorneの世界観はゴシックとクトゥルフという二つの側面を持つ事が宮崎氏のインタビューでも明言されています。*1

 つまり本編に登場する用語だけでなくクトゥルフ視点でBloodBorneの世界を見ると、本編ではほとんど情報が無かった存在の証拠を見つける事が出来ます。

 

 まず上げられるのが、上位者「姿なきオドン」です。

 姿なきオドンは敵エネミーはキャラクターとして登場する事はなく、アイテムの説明欄にしか出てきません。

 

 

 

カレル文字「姿なきオドン」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり

その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める

 

人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり

それこそが、姿なき上位者オドンの本質である

故にオドンは、その自覚なき信徒は秘してそれを求めるのだ

 

カレル文字「オドンの蠢き」

人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ

「蠢き」とは、血の温もりに密やかな滲みを見出す様であり

狩人の昏い一面、内蔵攻撃により水銀弾を回復する

 

人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり

それこそが、姿なき上位者オドンの本質である

故にオドンは、その自覚なき信徒は秘してそれを求めるのだ

 

3本目のへその緒

別名「瞳のひも」としても知られる偉大なる遺物

上位者でも、赤子ばかりがこれを持ち

「へその緒」とはそれに由来している

 

すべての上位者は赤子を失い、そして求めている

姿なき上位者オドンもまた、その例外ではなく

穢れた血が、神秘的な交わりをもたらしたのだろう

 

使用により啓蒙を得るが、同時に、内に瞳を得るともいう

だが、実際にそれが何をもたらすものか、皆忘れてしまった

 

 

 

 姿なきオドンとは何者なのか。作中では謎に包まれている存在ですが、クトゥルフ神話と比較するととある神に行き付きます。

 その神の名前は、旧神「ノーデンス」。ラブクラフト作品に登場する架空の神であり、外なる神、旧支配者と敵対する旧神である。

 ノーデンスは白髪と灰色の髭をもつ老人の姿で現れ、貝殻の形をしたチャリオットを操る、海の神のような性格を持つ神である。深い魔術の知識や威風堂々たる老人の姿からはオーディンを、白銀の義手からはヌァザを、雷を振るうという逸話からはゼウスを思わせる神であり、彼らの伝承を纏めた存在と言えるでしょう。

 その証拠に、ヤーナムには彼を思わせる出来事や石像が数多くあります。

 ゼウスを象徴するグリフォン、オーディンを象徴する犬の石像がヤーナム各地に建ち並び、「パンの大神」という作品ではノーデンスは普通の人々が気付かないものが見える様になった女性を強姦したことがほのめかされていて、この事が”姿なき”と呼ばれる所以であり娼婦アリアンナとの神秘的な交わりに繋がる訳です。

 そして一番の鍵となるのが、ノーデンスの奉仕種族である夜鬼(ナイトゴーント)の姿です。夜鬼は解剖学的には人間に似ているが、皮膚はクジラの様であり、顔がある筈の所には何もない。この説明を聞くと、「使者」と非常に似ている部分がある事が分かります。

 

 この仮定から「姿なきオドン」をノーデンスと仮定すると、ヤーナムとは深い関係にある「トゥメル」についても考察できます。

 ノーデンスは眠りの中に居る旧支配者の封印を監視する役目を持っています。そしてこの旧支配者の眠りこそが、骨炭シリーズの説明欄で語られる上位者たちの眠りの事なのではないでしょうか。

 

 

 

 

骨炭シリーズ

最古の番人たちの、骨炭の鎧

上位者たちの眠りを守る番人たちは

その姿と魂を業火に焼かれ、灰として永き生を得たという

 

故にその鎧は、いまや白く筋張った脆い骨炭にすぎないが

それでもなお、我々には理解できぬ遺失技術の神秘を残している

 

鋭く尖った大きな帽子は、古い番人のシンボルであり

彼らがある種の罪人であった証であると考えられている

 

 

 

 つまり、聖杯ダンジョンに出てくる「旧主の番人」の旧主とは、ノーデンス(姿なきオドン)の事を示しているのです。

 クトゥルフには神々の血を引く人間が登場するように、トゥメル人もノーデンスから血を貰い神秘を起こしていたのでしょう。

 しかし、現代ではトゥメル文明は滅んでいます。旧主と呼ばれているように、トゥメルではノーデンスの次に主となった存在がいました。それは誰なのか。トゥメル遺跡最深部にいる存在、血の女王——「ヤーナムの女王」、彼女こそが現主だったのです。

 彼女の正体は何なのか。彼女もまたクトゥルフ神話を調べると興味深い存在に行き付きます。

 クトゥルフ神話TRPGで登場する「ニャルラトホテプ」の化身の一つ。当世の権力者に近づいて惑わし道を誤らせ、或いは自ら権力を握って国を破滅に導くとされる人物。

 

 ――赤の女王。それが血の女王のモチーフなのではないでしょうか。

 

 血の女王が何故血を啜り、また相手に血を啜らせるのか。上位者の血を体内に含み上位者の赤子を身ごもるためであり、ノーデンスの血をニャルラトホテプの血として相手に飲ませるためだとしたら?

 トゥメル時代末期、破滅の引き金は血の女王が赤子を身ごもった事でした。当時トゥメルに居た神は二柱のみ。即ちメルゴーの親は必然的にニャルラトホテプとノーデンスという事になります。

 ニャルラトホテプの目的は何なのか。ニャルラトホテプはノーデンスと対立しており、ノーデンスの使命は眠りの封印を守ること。ならばニャルラトホテプの目的はその逆。

 

 上位者の赤子の泣き声によって眠り(封印)を解く。それがニャルラトホテプの目的であり、トゥメル文明が滅んだ原因だったのです。

 

 結論から言えば封印を完全に解く事は出来ず、一部の上位者が暴れるだけで終わります。しかし血の女王(ニャルラトホテプ)派とノーデンス派に完全に別れてしまい、当時のヤーナムの女王はトゥメル遺跡最深部に封じられ、ノーデンス派のトゥメル人達が遺跡を守護し、地上へ逃げた平民達は森で暮らすようになり、王族と一部の貴族は少し離れた小島に城を建てて住むようになりました。

 この森が禁断の森であり、逃げ延びた貴族達がカインハ—ストと名乗るようになったのです。

 一度ここでニャルラトホテプとノーデンスの戦争は終わりますが、ここから時代は移り古都ヤーナムを舞台とした代理戦争の幕開けとなるのです。

 

 話が少し血族に逸れましたが、BloodBorneの根底にあるのがこの二柱の戦争だと仮定した場合、主人公の謎に説明ができます。

 主人公は公式ホームページのStoryにて、「数多くの、救われぬ病み人たちが、この怪しげな医療行為を求め、長旅の末ヤーナムを訪れる 主人公もまた、そうした病み人の1人であった……」と説明されている。

 公式が嘘を吐くとも思えず、しかしそれだと何故青ざめた血の事を知っているのか疑問であったが、この二柱が関わっているとすると話は別だ。

 

 主人公はニャルラトホテプの無意識な駒としてヤーナムに導かれ、その後ノーデンスに導かれ彼の駒となり自由意志を取り戻したのだ。

 

 主人公がヤーナムに訪れたのは治療のためであって、狩りを全うするためではない。同じよそ者のギルバートは青ざめた血について知りません。この時点でギルバートが聞いた話と主人公が聞いた話が違う事が伺えます。

 主人公は恐らく、自分の病を治すにはヤーナムの血の医療、特別な血である「青ざめた血」が必要という話を聞いてヤーナムを訪れたのでしょう。血の医療に使われるのはヤーナムに普及している血で、青ざめた血の事ではありません。なら何故主人公が青ざめた血の事を知っていたのか。

 それこそが彼が上位者と繋がりがある証拠であり、ノーデンスが血の医療者として介入した理由です。血の医療者は片目が包帯で覆われて隻眼の老人です。この姿からオーディンを連想しないでしょうか。

 血の医療者もまた青ざめた血の事を知っていますが、上位者について医療教会で知っている人は上層部の者だけでただの血の医療者が偶然知っていたとは考え難いです。

 

 

 

ほう? 「青ざめた血」ねえ?

確かに、君は正しく、そして幸運だ

まさにヤーナムの血の医療、その秘密だけが君を導くだろう

だが、よそ者に語るべき法もない

だから君、まずは我ら、ヤーナムの血を受け入れたまえよ?

さあ、誓約書を?

 

 

 

 青ざめた血には複数意味が存在します。一つ目は悪夢の儀式によって引き起こされた青ざめた血の空。悪夢の儀式とは上位者の赤子の泣き声によって上位者を呼び寄せる事。ここで大切なのはただの上位者でも上位者の赤子でもなく、泣いている上位者の赤子が必要だということだ。

 即ち青ざめた血の空とは、泣いている上位者の赤子が原因で齎されるということ。

 

 二つ目は名前です。教室棟2階のとある部屋にメモが書き残されており、そこにはこう記されています。

 

 

 

ローレンスたちの月の魔物。「青ざめた血」

 

 

 

 ここでローレンスやゲールマンに関わった月の魔物の名前が青ざめた血だという事が分かります。*2

 これをニャルラトホテプの立場とノーデンスの立場から見ると、それぞれ別の意味となるのです。

 ニャルラトホテプは封印を解くために上位者を呼び出す(起こす)泣く上位者の赤子が欲しく、ノーデンスは封印を解こうとするニャルラトホテプの化身の一つである月の魔物を排除したい。

 だからこそ、ノーデンスである血の医療者に出会うまではニャルラトホテプの策略で血の医療のために青ざめた血(上位者の赤子)を求め、出会った後にはノーデンスの指示として、狩りを全うするために青ざめた血(月の魔物)を求めるようになったのだ。

 

 ニャルラトホテプとノーデンスは対立していますが、しかし二柱には似ている部分が数多く存在します。

 「未知なるカダスを夢に求めて」にてノーデンスもニャルラトホテプも共に夢と現実に介入する事ができ、本編でも滲む血がオドンの本質と言われる事から、血族と同じく血を象徴としている事が伺えます。

 更に狩人の夢には使者も月の魔物も現れる事から、狩人の夢という悪夢には二柱の神が関わっていることから、目的が対立しているだけでその本質はほとんど同じなのではないでしょうか。彼らはまさしくコインの表と裏の存在なのです。

 

 以上で、姿なきオドン=ノーデンス説の考察を終わります。

*1
Bloodborneにはゴシックとクトゥルフの両方のホラーの側面があると思いますが、最初から描かれているのは前者であり、ゲームの視覚的な感覚のガイドを提供します。(上記インタビューの翻訳)

*2
このメモだとローレンスたちとは関わりのない別個体の月の魔物がいるように見えます。




次回は「カインハ—スト」にまつわる考察をする予定です。

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