マギアレコード外伝 魔法少女綾野梨花 (作成途中) 作:rika_a8no
インスピレーション&やる気&時間が沢山の時に頑張ります
細かい肉付けはまだまだこれからなので生暖かい目で見てくださーい
「…あー…何か気分乗らない…」
帰り道の路地、誰も居ないのを良い事に盛大な溜息を一つ
両手で持つ通学カバンごと肩を落とし、揺れる制服姿
「やっぱりれんちゃん誘って遊びに行けば良かったなーっ…」
いつもの友達の名前を口にし、空を見上げる
柔らかい風が髪を撫で、緩やかな午後の日差しが暖かく少女を包む
風で流れた前髪を、首を横に振って直してから大きく伸びをして気分を整える
しかしそれくらいでは、悩みに悩んで鬱屈した心は晴れるものではなかった
再び肩を落としてゆっくりとぼとぼと歩き出す
事あるごとに繰り返し思い出す出来事
マギウスの翼との決戦前に聞かされた自分達[マホウショウジョ]の真実
それは舞台装置の魔女を退け平穏を取り戻した今も深く、心を乱すモノで
一人で居る時には時間が空けばそればかり考えてしまう
「これから本当に…どうしたら良いんだろう…」
ぽつりと漏らした一言は、心の闇を吐き出すかのように暗く低く
普段明るい少女には似つかわしくないモノだった
思い出すのは、いつもあの場面
聞かされた事実がどうしようもないくらい残酷で
絶望という黒い感情に支配されたあの時
魔法少女になる事で払う代償、そして自身の願いの顛末…
漸く自分の中で[別れた恋人]への想いに一区切りが付きかけたその矢先の、衝撃の事実
───魔女はマホウショウジョの成れの果てである───
………その後は話された内容を殆ど覚えていない
「僕と契約して魔法少女になって欲しい」
「君の願いごとをなんでもひとつ叶えてあげる」
白い生物より持ち掛けられた「交渉」
事前に友人より魔法少女の存在を聞かされていた自分にとって、謎の生物や魔法少女よりも
必ず叶うという願いの方に気を取られた
少女は、女の子に恋をしていた
ずっと悩んでいた
幼馴染の女の子に彼氏が出来た事
大の友達としては一緒に喜んであげるのが普通なのだろうが、少女は違った
その事を考える度、心がズキズキ痛む
彼氏の事を嬉しそうに話す幼馴染の笑顔を見て、敗北感に似た感情が心を締め付ける
自分ではそんな嬉しそうな顔にさせてあげることはできない
少女の恋心は、表舞台へ上がる事は無く
誰にも話せずに、隠し通すしかなかった
女同士での恋愛なんて 普通はありえないから
そんな時に、ソレは現れた
どんな願いでも一つだけ叶えてくれる
それは、悩み苦しんでいた少女へはとても甘く響く言葉で
少女は奇跡を願った
世界が違って見えた
おはよう、と声を掛けてくるその人の表情は
特別な人にだけ向けてくれる笑顔で
普段と同じ、変わらない通学路
見慣れた筈の景色も、今は光り輝いて見える
いつもの様に繋ぐ手も、指を絡めて恋人繋ぎをすれば
それが当たり前かの様に握り返し、微笑んでくれる
「大好きだよっ、梨花ちゃんっ」
幼馴染の声が、笑顔が、少女の脳を麻痺させ、心を暖かくさせる
頭のどこかでは分かっている
これは願いを叶えた結果で、あの白い生物の力によるものだ
自分勝手な願いで幼馴染の心を歪めた結果なんだと
でも、頭の中で繰り返し響くあの子の声が、向けてくれる特別な笑顔が、自分の心を幸せで満たしていく
やっと手に入った暖かい気持ちが嬉しくて、手放したく無くて───
「あっ」
「んっ?どうしたの梨花ちゃんっ?」
「……ううん、何でもないよっ」
すれ違ったのは、幼馴染の彼氏であった人
少女はその姿を見て思わず声を上げた
つられて幼馴染も通り過ぎる相手を見るも、彼女は何事も無かったかの様に視線を少女に向けた
不思議そうに見つめる幼馴染へ、微笑を返しはぐらかす
しかし心の底には居心地の悪さが残っていた
「あれっ…えっ、やばっ、定期無いっ!」
彼女と別れた後、駅の改札前で事件は起きた
制服のポッケ、バッグの中と、次々思い当たる場所を探すも肝心の定期は見付からずにいる
何処かで落としたのだろうか、少女は探す手を止めずに記憶を辿るも、思い当たる節は無く…
戸惑いと焦りでパニックになりかけた少女へ、声が掛けられた
「あっ!あのっ!落としましたかっ?」
ピクリ、探す手を止めてそちらを振り向けば其処には彼…幼馴染の彼氏だった人が、肩で息をしながら、ピンク色の定期ケースを差し出して立っていた
相手が相手で少し戸惑うものの、差し出されたモノは間違いなく自分の定期であり、丁寧にお礼を伝えそれを受け取る
「届けられて良かった!それじゃ、お気をつけて!」
清々しい笑顔を浮かべ、爽やかに去っていく後ろ姿を見送りつつ、少女は暫くの間考えていた
あんなに息を切らせて、持ち主に会えるかも分からないのに駅まで定期を届けに来たその人の事を
「好青年すぎでしょ…勝てるわけないじゃん…」
ぽつりと漏らす言葉…自分にない物を持つ彼を見て、罪悪感に苛まれて俯く
自分の心の中で、居心地の悪さは強くなる一方だった
そして、少女は行動に出た
こんなのは本当じゃない、自分勝手な願いによって作り出された世界、だから元の流れに戻そうと…
少女は幼馴染の彼女へ別れを告げた
更に、幼馴染と好青年の彼を引き合わせる切っ掛けを作り、彼女達が上手く行くようにと陰で動いて
自分が居なければ付き合ってた筈だった二人だから、切っ掛けさえあればきっと上手く行く…そう確信していたから──
やがて、時代は正しい流れへと戻っていった
───魔女はマホウショウジョの成れの果てである───
沢山の魔法少女が集い、これから立ち向かう事になる敵の事を聞かされる中で明らかになった、予想もしていなかった真実
今まで自分がした事を悔い、新たな生活へ踏み出そうと周囲の仲間達と共に歩み乗り越えてきた少女
その心を打ち砕くには十分すぎる事柄で
ひた隠しにしてきた自分の想い
通じ合って心がときめいた高揚感
笑顔を見て心が痛み、苦慮の末決断した別れ…
[別れた恋人]との思い出が全て、痛みに変わる───
「ほんと、チョーウケる…自分で願って…恋人になって…自分から別れておいて…その結果、魔女だもん…」
鋭利な刃物と化した思い出は、少女の心を傷付け、引き裂いていく
胸が重く、呼吸すらも絶え絶えになる程に、黒いモヤが広がる
「ホンット、バチがあたっちゃったのかな アハハッ……はっ…うっ…ふうぅぅ…」
馬鹿らしくて笑えてくる…空白感と苦しさに涙が溢れ止められない
感情が絶望に飲み込まれ、心が凍り付く様に感じる
こんな所は見られたくない筈なのに、身体が思う様に動かない
何もかもがもう 終わりだ そんな気持ちに感情が支配された
「梨花ちゃん………」
心が闇に飲まれそうな感覚、それを止めたのは[一番の友達]だった
話を聞き終えた魔法少女の内、既に受け入れている者や事実に耐えられた者、動ける者から順に決戦へ向け部屋を後にする
しかし[一番の友達]は少女の近くにいて、離れずにじっと、少女を見つめていた
「私…梨花ちゃんに会えただけで…魔法少女になって良かったって…そう…思うよ…」
その声で、闇にのまれかけていた少女の心は少しずつ晴れていった
その一言でどれだけ救われたか
それを全力で信じられる程に、彼女との思い出は強いモノだったから…
「ねーねーれんちゃんっ、放課後遊びに行こっ?クレープ食べてゲーセンとかカラオケとかっ!」
「れんちゃんってほんと優しいよねっ、誰に対しても優しくできるのって尊敬するっ」
「今日も魔女狩り頑張ろっ、攻撃受ける前にあたし全部倒しちゃうからっ!なーんてっ」
思い起こせば本当に、ずっと傍に居てくれた様な感覚があった
大人しい子だからか、話し掛けるのは少女からの方が圧倒的に多いのだが、<一番の友達>と言う事もあるのだろう、別の学校に通っているのに、放課後校門で少女を待っていたりもする
魔女と戦う時もそう、少女が傷を負いそうになると彼女は身を挺して庇う
少女からしてみれば、目の前で彼女が傷を負うのは良い気分ではない、しかもそれが自分のせいなら猶更だ
いつか自分の代わりに大怪我をしてしまうのではないか…そう思って
庇わなくて良いと伝えても笑顔のまま傍に居てくれる彼女を見て、少女は行動を改めた
攻撃や魔力を重視的に鍛え、魔女や使い魔から被害を受ける前に先手を打って倒してしまう様に
いざという時は自分が彼女を庇う心つもりで──
<一番の友達>の存在は、少女の心の中でもかなりの割合を占めており
一緒に帰らない日があればそれだけでも、寂しさと軽い不安感に胸がチクチクしたものだ
一種の依存性恋愛に近い形なのだろうが、少女はそれに気付かないフリをする
「あたしとれんちゃんはそんなんじゃない…一番の友達なんだって…」
心に<一番の友達>というフィルタを掛ける事で、自分の気持ちがソレに辿り着かない様、誤魔化して過ごしてきた
元カノの時と同じ様な状況にはしたくない、それは普通じゃない関係だから
「違うんだって…これはあたし、恋人と別れて寂しい気持ちがれんちゃんに向いちゃってるだけなんだよ…恋愛なんかじゃないんだって…」
自分に言い聞かせる様に呟く
これからもずっと、<一番の友達>でいられるように
「りかっぺってさー、れんぱすと付き合ってんの?あーし全然しらなかったわー」
「ぶ、何言ってんの…ちーがうって、あたしとれんちゃんはそんなんじゃなくて、一番の友達なのっ」
いつだったか、ギャル仲間でもある魔法少女に問われた事があった
元々変な所で鋭い子だったが、まさかそんな風に見られていたとは微塵も思わず驚いてしまう
「んー…そーなの?だってチョー仲良しじゃんっ?最近りかっぺが素っ気無くてあーし妬いちゃう」
「ちょ、んなこと無いでしょ?こーやって今も一緒に居るのにえみりんってば…ほら、クレープひとくちっ」
何故か見透かされている様な感覚を受け、誤魔化す様に食べかけのクレープを相手の口元へ押し付ける
小悪魔系魔法少女の不貞腐れた表情はそれにより満面の笑みへ代わり、上に乗っている小さなチーズケーキが丸ごと消えた
満足そうにしてやったり顔で咀嚼する様子に、いつもの冗談だろう、多分そうだ…そう思い込む
どこまで気づいているのか問いたい気持ちは、仕返しにと齧り付いた相手のクレープのアイスと一緒に飲み込んだ
「~という事になる、そしてクリスティーナ女王は男性との結婚を放棄しただけではなく~」
「「りかっぺってさー、れんぱすと付き合ってんの?」」
教室内の教師の声よりも強く、悪気の無い声色で響くソレは頭の中で何度となく繰り返される
嫌な気分では無いのだが、少女の気持ちは落ち着かない
教室の奥、自分の席で鉛筆を指に挟んでくるくる回しながら、授業そっちのけで考える
自分にとって<一番の友達>はどんな存在なのか
(や、大事な友達だしっ、別に変な意味なんて)
無い、とは出てこない
誤魔化す時には言葉にできるのに、頭の中ではそれが出来ない
(違うって、あたしはあの子が好きなんだよ、れんちゃんへの気持ちは違う、ただ寂しいだけ)
(仮にれんちゃんへの気持ちが本物だったとして、また繰り返す訳?普通じゃなくない?)
思い出される[別れた彼女]との記憶に胸が痛み、顔を僅かに顰め、「普通」と呼ばれる状況を冷静に考え直す
一般的な女の子は、普通は男の子を好きになって付き合って、結婚して子供に恵まれる
それは生物学的にも当たり前であり、誰に聞いても肯定する「普通」の内容だ
(…あたしは普通じゃない状況を作っちゃった…からなぁ)
魔法少女になる事と引き換えに願った「叶わない恋の成就」
身勝手に叶えたその内容は、[別れた彼女]の日常を大きく変え
本来あの子が付き合う筈だった彼氏との関係性も無かった事になった
(どーしてあんな事しちゃったかなー…あーあ…)
後悔しかない
あの子の彼氏が、自分よりも他者を優先して助ける様な良い人だったという事もあるが
それよりもあの子の気持ちを捻じ曲げて「普通」ではない形に変えてしまった事、それが苦しかった
何度も思い出す、あの子から自分にだけ向けられる特別な笑顔が
別れた今でも胸を締め付ける
(あたしは、あの子が心から笑顔で居てくれるならそれで良い、最初からそれで良かったんだよ)
やはり「普通」であることが当然なのだ、心の中で復唱し自分に言い聞かせる
だが、自分の中にあるあの子への気持ちは
そして…気づかないフリをしている一番の友達への気持ちは
この感情は何なのか
繰り返し悩み続け疲弊する脳に、軽いめまいを覚え一度考えを放棄する
頭の熱気を逃がしながら、気を抜いた瞳で何気なく教室内の男子を順繰りに見つめた
(あー…彼は確か隣のクラスの子と付き合ってるんだっけ)
(あの人は今は別れてフリーとか聞いた気がする)
校内では大体、噂としてこんな話が回ってくる
年頃の学生の中では良くある事で、意識していなくても聞こえてくるものだ
あまり気にしてはいないが、少女自身も噂の的に上がる事がある
〇組の男子が少女を見てるとか、可愛いと言われているとか
周りを見渡しながら自分に対する噂を思い出す
(多分、それなりにモテてるって事で良いんだよね?)
(あれか、やっぱり男子と付き合えば普通になるのかな?)
若干熱の冷めた頭でぼんやり考える
女の子はどうあるべきなのか、どうあれば「普通」になるのか
「それは今で言う普通ではない状況だ」
脳内のフレーズと同じ言葉を発した教師の声で現実に引き戻される
瞬間、顔を上げて授業を聞いている風に取り繕う
「それまでの常識では、女性が男の様に振舞う事などありえなかった」
「しかし女王は周囲の視線など気にもせず、男装で乗馬を繰り広げていたと言う」
「常識とされていた考え方を根底から覆す事態、それが一般的に受け入れられるかは~」
教師の口から紡がれる言葉は少女を大きく揺さぶり、胸の奥にもどかしい感情を沸き上がらせる
同時に、放棄していた問題へそれが流れ込む様に感じた
しかし解決に至る程のはっきりとしたモノが浮かぶようなことは無く
気持ちはそのままに、時間だけが過ぎていった
「ねー、センパイっ、普通ってなんだろね?」
「はァ?お前はまた唐突に何を。」
少女は、化学室で薬品と睨めっこをする動く白衣…もとい、頼れるセンパイへ質問をぶつけていた
他校に人を訪ねて入り込む等、今まではあまりなかったのだが、ここ最近では日常茶飯事となった
きっかけは人懐っこい小悪魔の様な魔法少女が原因だが…今や此処は少女達にとって安心できる場所の一つである
「突然来たから何かあったとは思っていたが…悩みか?」
そうは言っても然程驚いてもおらず、コルク栓の付いた薬品入り試験管を並び替えながら声が返ってくる
「んやー……何が何だか分かんなくなってさーっ、普通って何なんだろうなーって」
返答に気が入らず少女の声の調子が変わる
その声を聞けば、動作をピタリと止め暫く考えた後、試験管を入れ物へ戻し、センパイは白衣を揺らして振り向く
その表情は意外そうで…
「…それについてはアタシよりお前の方が分かっていると思っていたんだがなァ。」
「…へ?」
想像して居なかった返答に、全く分からないという顔を向ける
少女の様子を見て、白衣姿は軽くため息をついた
「まァ良い、それで?何があったんだ?」
「うーん…」
直ぐに言葉が出てこない
元々愚痴みたいな物で、聞きたい事が纏まっていた訳では無かった
少女は向けられる視線に目を合わせられず俯いた
聞こえるのは時を刻む時計の秒針が動く音のみ
静かな空間にそれは強く響いた
沈黙を破ったのは白衣姿で
「………付き合ってた人の事…か?」
掛けられた言葉に、少女は驚いた様に顔を向ける
瞳に映るのは心配そうに見つめる、頼りになるセンパイで…
「…鋭いなーセンパイはさっ…」
近い部分まで見透かされ、心の重荷が軽くなった様に感じた
センパイはその言葉を聞き、表情を柔らかく崩す
少女からの言葉を急かさず、微笑し見つめ待ってくれる白衣姿
安心感が強まり、胸につかえていた言葉が吐き出される
「未練があるって訳じゃない、と思ってたんだけどさ、ちょっと心が痛くて」
「今日さ、授業でさ、何が普通かって考えさせられたんだ」
今、気持ちの奥底にある<一番の友達>への感情は見せない様に、言葉を選びながら悩んでいた部分を吐き出す
少女自身の恋愛事情が普通とは違う、周りから見れば普通ではない
でも好きだった気持ちは本当で、それには嘘はつけない…
身の置き場が無い様に感じた事を、自分なりの言葉で伝えた
白衣を揺らしながら、紡がれる言葉に頷き、親身に聞いてくれるセンパイには感謝しかない
「…なるほどなァ…。」
全てを聞き終えてからゆっくり呟きつつ、何処からか水筒とマグカップを2つ取り出し、水筒の中身をカップへ注ぐ
「難しい問題だよ、実際な。」
振り返り、少女へマグカップが一つ差し出される
両手でソレを受け取り、ゆらり揺れる液体をじっと見つめた
コーヒーの香りと手から感じる温かさに、心が少しずつ落ち着いていく…
少女が軽く一息付くのを見てから、白衣姿は言葉を紡ぐ
「普通じゃないと、おかしいのか?」
「えっ?」
「ずいぶん前にな、お前が言った言葉だよ。」
白衣姿はコーヒーを一口啜ってから、ゆっくりと言葉を続ける
「あれは確か、初めて会った時だったか?衣美里のやつと、一緒に合コンに行ったよな、懐かしい。」
「──あ」
センパイの言葉に記憶を揺り動かされる
(そうだ、男の子達から言われた言葉に少しモヤっときて、そんな言い方無いだろって思って…)
はっきりものを言うタイプの少女は、合コンという場でもその調子が変わることは無く
後程深く知り合う事になる、目の前にいるセンパイが男子に言われた「普通じゃない」という言葉に、場を乱すことなく意見を伝え、納得させ謝らせた
その時に言った言葉は、確かに、センパイから先程言われた内容だった
「お前あの時はっきり言ったもんなァ…確かにアタシの喋り方は緊張で可笑しくなってたんだが。」
「んなこと関係なくないっ?センパイはセンパイなんだしっ、言葉くらいどーってことないじゃん」
自虐モードに入ろうと演技する白衣を、演技だとは思わず勢い良く制し言葉を返す
その様子をみれば白衣姿は軽く笑って答えた
「…それくらいで良いと思うぞ? 普通なんてものは夫々で定義が違うからな、お前やアタシが思う普通と、他の誰かが思う普通は全く違う物だ。」
頼れるセンパイからの言葉は、自分が今苦しんでいた部分を少しずつ解いてゆく
しかし一番問題としている部分は無くならない
「でもさ、他の人の普通と違ったら、その…あんま良い顔されないじゃん?」
「うむ、それが難しい所なわけだ 一般的に見て他の者と違う存在は、皆怖いんだ、だから指摘して非難して正そうとしたり弾いたりする。」
前に進みかけていた少女の心は止まる
これでは全く変わらない…少女は表情を暗くし俯いた
「だがな?他の連中と無理に合わせる必要は無い。」
聞こえる言葉に再び顔を上げる
視線の先には、先の見えない話をしたとは思えないくらいの、相変わらず笑顔のままのセンパイが映った
「広い世界だ、お前やアタシと同じ考えを持つ者はきっといるさ 分かってくれる相手に話すだけでも良いんじゃないか?他の者にそういった自分を必ずしも見せる必要は無いだろう?」
胸に抱えていたモノが消えていくのを感じながら、センパイへの尊敬の念が更に強くなる
(ちっちゃいのにやっぱりセンパイだなーっ…)
自分なりの感謝の気持ちを心に浮かべながら、少女も笑顔でそうだね、と答えた
周りから向けられる視線は決して良いモノではない
でもそれは人夫々で考え方が違う、それなら分かってくれる人にだけ見せれば良い
センパイは答えてから自分のカップに2杯目のコーヒーを注ぐ
それを一口飲み、息を吐いてから言葉を紡いだ
「それで、だ。お前は…その、よりを戻すとか…。」
「っ?違っ、それは無いよ。あの子の彼氏には勝てないのは解ったからさ」
言われる言葉には即否定を返した、それは嘘偽りない本心だから
「あの二人はもうこれ以上壊しちゃいけないって、そう思うから」
言いながらも、胸が焼き付く様な感覚に思わず手で心臓を押さえる
出来るだけ気付かれない様に振舞い、微笑を向けた
紅の少女の表情に、痛みを受けた様に瞳を細める白衣姿
「でもお前は…」
「センパイ、言わないで」
言葉を続けようとした白衣姿を、微笑のまま、首を振って遮る少女
「良いんだ、これで…」
少女の瞳に決意を感じ取り、それ以上は言わず白衣もまた、頷いた
大好きな気持ちも、あの二人が上手く行って欲しい気持ちも、どちらも本物だから
そう心で呟き、少女は気持ちを洗い流す様に程よく冷めたコーヒーを飲み干した
センパイとの話の後から、人への接し方を少し変えた
いつも校門で待っている子と何をしているのか等を問われれば
「いえーい、あたしのカノジョ可愛いっしょ?今日はこれからデートでスイーツ食べ行くっ」
と返答を返す
変に意識せず自然に過ごす事、それが少女のとった方法だった
そんなやり取りを見て、カノジョと呼ばれた本人は顔を赤くし戸惑った様な表情をしつつ、口元を両手で隠す
勿論少女は彼女へのケアも忘れない
「ごめんねーっ、れんちゃんってこういうノリあんま好きじゃないよね?れんちゃんが可愛くて自慢したくてさーっ?」
「う、ううん……大丈夫……か、可愛くない…です…はい……」
彼女はさらに顔を赤くして俯くのだった
こうやって過ごしていけば、周囲にも彼女にも誤解される事もなく、「一番の友達」で居られる…もう元カノの時と同じ様になってしまうのは嫌だから…
少女は、この時彼女の瞳の奥に宿る熱に気付かなかった
前を歩く少女を見つめる彼女の表情は…羨望と慕情が入り混じったものである事に
「…危ういな」
「なになにみゃーこパイセンどしたの、パイセンの持ってる本はいつでもチョーヤバヤバっしょ」
「ヤバくないっ!違う!」
小悪魔系魔法少女の軽口にいつも通りの反応を返しつつ、飲み物を一口含む
「えー、じゃー何がヤバい系?パイセンの合法ロリっぽさ?」
「誰が合法ロリだ!」
場所はファミレス、今日は四人でぷち女子会
軽口を続ける小悪魔に文句を返しつつも、視線は横目でドリンクバーを取りに行く二人を追っていた
紅の後をついて行く白の少女…その視線を見て、軽く一息付く
その様子を不思議そうに見つめる小悪魔少女へ、気を回させない様に声をかける
「お前は飲み物を取りに行かないのか?」
「あーしはみゃーこパイセンLOVEだからー☆?」
飲み物をストローで吸いつつ屈託無い笑顔を向ける小悪魔少女
その言葉に、聞くだけ無駄か、と溜息を付きつつも憎めない後輩に微笑を向けた
と、その途端に小悪魔は飲み物を一気に飲み干して勢い良く席を立つ
「飲み物なくなったからあーしも行く!」
「結局行くんじゃないかお前は!」
言うが早いが席を離れ飲み物を選ぶ二人へ向かって行く姿を見て
文句を言い半ば呆れつつも口元を緩ませる
そうした姿を横目に、飲み物を再度一口
喉を潤しつつ、紅の後を控えめに追う白の様子を見つめる
そしてその二人の間へ入り纏めて抱きしめる小悪魔…
紅との距離が近くなり、白の表情が揺れる
他から見れば女子中学生が賑やかにじゃれているだけに映るその光景
(…やはりか。アイツは…)
考えていた事が確信に近付く
だからと言って何かできるわけでもなく、ただ静かに見守るだけで…
白へすり寄り紅との距離を詰めさせサンドイッチ状態にする小悪魔を見て、軽く一息吐いた
(衣美里のヤツは…まァ気付いているんだろうな、恐らくは。だが…まだ梨花は。)
紅の少女へ視線を移し様子を見る
表面上は笑ってじゃれ合う様に見えた…しかし白との距離が近くなれば一瞬戸惑いを帯びた様な瞳をしたのを見逃さない
前々から何となく小悪魔少女が紅と白を一緒に居させる様に仕向ける感覚は感じていた
が、ここ最近は少し過剰だ
(…いや、出来る事はあるか)
思い直した様に薄く頷き、残り少ないカップ内の冷めたコーヒーを一気に飲み干した
「おぉー、チョーヤバいめちゃ雨来そう!」
今にも降り出しそうに、暗い雲に覆われた空
化学室の中から窓越しに外を見つめる小悪魔少女は、子供の様にはしゃぎつつ
それに対して言葉を返す事も無く、ただ黙々と薬品を棚に戻す白衣姿
控え目の照明に照らされる二人はあまりに対照的で…
「衣美里、少し話がある。」
薬品を一通り片付けてから、白衣は小悪魔少女へ向き直ってそう伝える
いつもと違う会話の切り出し方に、小悪魔は首を傾げた
「へ?パイセンどったの?…あっ!何々もしかしてあーしへの愛の告白☆?」
「違う!って何度目だこのやり取り…」
出鼻を挫かれ大きくため息を付いて肩を落とす
真面目な会話等はこの調子でいつもペースを崩されてしまうモノだが
今回は崩されてやれない
尚も軽口を続ける小悪魔へ言葉を制する様に手を振り
軽く咳払いをして、気を取り直した
「お前、割とあの二人と仲が良いだろう?」
当たり障り無い言い方で、それとなく紅と白の事を探ってみる
予想が外れていた場合は厄介な状況になりかねない
問われた事が紅と白の事だと気づけば、小悪魔少女は悪意の無い企み顔をする
「え?何々パイセンもりかっぺとれんぱす気になってんの☆?あの二人上手くいかないかなー☆」
「やっぱりか。」
予想が確信に変わり大きく溜息をつく
その様子に理由が分からず目を丸くする小悪魔少女
純粋に応援したいのだろう、そう言った感覚は伝わるのだが…
「アタシはな、あまり介入するべきじゃないと思っている。ああいうのは当人同士の問題だからな。」
そっとしておけ、そういう思いを込めて言葉を紡ぐ
自身の行いを留められた小悪魔少女は不思議そうな顔をしつつ言葉を返す
「えー?だってれんぱす奥手だしょー?りかっぺもまんざらじゃない感じだしょー?ここはあーしが人肌で温めてって感じ☆」
「それを言うなら一肌脱ぐ、だ。…いや、当人がゆっくり考えていくものだと思うぞ。」
今一度、遠回しに控える様に伝える
紅の少女が戸惑う様に見えたのは、元恋人との傷が癒えていない事の現れだと感じているから
窘められ黙って考える小悪魔へ言葉を添える
「そもそも女同士だろう?あの二人が本当にそうしたいかは分からないんじゃないか?お前の早とちりって可能性もある。」
敢えてそうした言い方でその考えから遠ざかる様に仕向ける
確証が無いならその一言で思い止まるだろう
「えー…そーかー、あーしの勘違いかー…そーかなー…」
小悪魔少女は、一頻り頭を抱える様に悩んでから、晴れた様な顔をして答えた
「りょ☆みゃーこパイセンが言うならそーしとく!」
その様子に、背伸びをして小悪魔少女の頭を軽く撫でてやる
背の高い後輩は軽く屈んで微笑みながらその手の感触を受けた
「…しっかしお前、背が高いな。本当に中一か?」
「あーしってばちょーせーちょーきだから☆パイセンにも来ると良いね☆」
「余計なお世話だ!」
直前まで真剣な会話をしていたとは思えない、いつものやり取り
この日常がいつまでも続けば良い、そう願って───
「うあーヤバヤバ、チョー降ってきたー!」
天気予報では降水確率10%を示していたのにも関わらず、下校時刻に重なるタイミングで神浜市内は一面、雨天となった
下校途中だった二人の女子学生は、手近な雨宿り場所を探して路地を走っていた
「れんちゃん大丈夫ー!?もう少し頑張ってー!」
返事は無い、が足音で付いて来ているのは理解していた
少女は振り返らず、雨宿りできそうな場所を探す
こういう時に限って中々良さそうな場所は見つからないもので
制服の生地の薄い部分が肌に張り付く程に濡れてしまった頃、通りかかった人の気の無い小さな神社で雨避けする事になった
二人は鳥居を潜り、何とか雨を凌げそうな建物の軒先へ入り込む
「だー!急に降り過ぎだってのっ!」
大きなため息と共に吐き出される紅の恨み節
肩で息をする紅に続いて白の少女も紅の隣へ並ぶように軒先へ入る
「……っ……は……」
「…はー…れんちゃん…大丈夫?結構走っちゃった…」
自分の胸に手を置き呼吸を整える白の少女
紅は呼吸を整え、気遣う様に白を見つめて…
未だ呼吸が整わない白の少女
濡れた衣類が張り付く肌は白く艶やかで
普段見えない部分まで透けた制服、
その姿に、僅かな時間目を奪われた
「……っ……?」
呼吸を整えつつも紅の視線に気付き顔を向ける白
目が合えば紅は咄嗟に顔を逸らした
「あ、あーっ、結構濡れちゃったねーっ…//」
背けた顔はほんの少し赤くなっていた
相手は女の子、そして一番の友達だと言うのに
どうしてこうも胸が高鳴るのか
紅は顔を左右に振り、湧き上がった気持ちを掻き消しながら、自らの制服の裾を軽く絞った
指の間から雫が流れ落ちる
雫と共にこの気持ちも流れれば良いのに…そんな事を思いながら
雫を、雨を見つめていた
「あ、あーっ、結構濡れちゃったねーっ…」
視線を向けた先の紅は顔を逸らしてしまった
何か気に障る事をしてしまったのだろうか
自分の先を走る少女は、本来もっと速く走れる筈で…
自分に合わせて走り、余計濡れてしまった事
それで不快にさせてしまったのか
「……………。」
声は掛けられなかった
嫌われてしまうのが怖くて、失いたくなくて
命を、心を救われてからもう、この人しか安心できる存在が無くて
いつも傍に居て、暖かい気持ちをくれるこの人が何より大事で
そんな風に思える相手だから、臆病になってしまう
自分はこの人を失ったら、どうなってしまうのだろう
考えるだけで涙が溢れそうになる
濡れたままの自分が全く気にならなくなる程に、申し訳なさや不安感が大きくなる
目の前の少女を見ている事が出来なくなり、視線を逸らした
雨は変わらず降り注ぎ、地を流れていく
この雨が、何も言えなくなる弱い気持ちを流してくれたら良いのに
そう願う様に、雨を見つめていた
想像は悪い方へと進んで、白の少女は今にも泣きだしそうな顔になり
涙を堪えつつ、何とか謝罪を述べようと口を開く
震える唇には力が入らず、言葉が紡げない
それでも意を決して、大きく息を吸い込み紅の少女へ顔を向けたその時…
「ごめんねー、こんなに走らせちゃって…あーあ、びしょびしょ…寒いよね?」
先に言葉を紡いだのは、落ち着かない気持ちを整え終えた笑顔の紅
白の少女は自分の気持ちを言い出せず、言葉を飲み込んだ
紅は、極力冷静を保つ様、ゆっくり言葉を紡ぐ
「待ってね、あたしのバッグ防水だから、多分中のタオルとか使える筈…」
紅は荷物の水気を払ってからバッグよりハンドタオルを取り出し、白へ差し出した
差し出されたピンクのタオル…それを見つめる白の肩は震え、堪えていた涙が流れだした
「うぇえ!?れんちゃん!?どしたどした大丈夫!?あたし何かしちゃった!?」
タオルを差し出した相手が泣き出した事で、心臓の高鳴りも失せ取り乱しかけたが、手の内のタオルでそっと白の涙を拭う
何かやってしまったのかと不安になる紅へ、漸く口が開いた
「違…うんです……ぐす……ありがとう……」
伝えたい事も言えない、そんな自分に嫌気がさしていた
自分はもう、嫌われても仕方がない…そんな風に考えていたのに
この人は暖かい感情をくれる
こんな自分を包んでくれる
「ん、大丈夫…?何でも言って?話すだけでも楽になれるかもだからさっ」
心配そうに、しかし笑顔で安心させる様に接してくれる紅
けれど自分は、この人に何もしてあげられない
どうやればこの人に、この気持ちを返せるだろう
「………!」
言葉が出ないけど、気持ちは伝えたい
その思いが強くなりすぎて、涙を優しく拭い取ってくれる紅の手に、自分の手を重ねてしまった
手が重なれば、紅は少し驚いた様な顔をしつつも笑顔を向けた
─今なら言えるかもしれない─
─いつも日記に綴ってきたこの人への想い─
─今目の前にいるこの人が本当に大事で、大好きで─
「…す……」
「カー!カー!カー!」
言葉に出そうとしたその瞬間と同時に、何処かに潜んでいたカラスの群れが騒がしく鳴き飛び去った
それと同時に感じられる魔女の気配、そして広がる結界…
─結局、また言えなかった─
─僕の気持ちは伝えられない─
繰り返せば繰り返すほど、気持ちは強くなっていく
いつものコンビネーションで魔女は難なく撃破したものの
雨は止んでも白の少女の気持ちは募る一方だった
紅と笑顔で別れた後、独り言をぽつりと漏らす
「……すき……」
言葉にする事で、ほんの少し胸の熱が引く感じがした───
顔を見られなかった
あの時彼女が言おうとしていた言葉、それが何か分かってしまったから
その言葉を聞いてしまったら、どうなってしまっていただろう
魔女を倒し終えた二人
白の少女が自分に視線を向けている事が分かっていても
紅の少女は目を合わせて話す事ができなかった
グリーフシードを回収し、手早く半分ずつ浄化に使う
雨も上がり、用事を思い出した体で申し訳なさそうな微笑を作り、さり気なく別れた
このまま傍に居たら、今の関係が壊れてしまう様な不安に襲われて
紅は一人、路地を走った
帰る為ではなく、行き場の無い気持ちを逃がす為に
この感情は理解してはいけない、自覚してはいけない
高鳴る胸の鼓動は呼吸の乱れに合わせて誤魔化す様に
息を切らせ動けなくなる頃には、気持ちが落ち着いていた
これでまた「一番の友達」でいられる
そう思いながら、呼吸を整え大きく息を吐いた───