「また、例の殺しか」
「はい。最近の死体気味悪いですよ、ズタズタに斬られてるし、首もとなんて食いちぎられた跡なんかあるし」
「…容疑者の目的が掴めん。貴様らも用心しろよ」
「はっ」
(まさかな…)
幾多の激戦と試練ともいえる数々の困難な出来事を乗り越え、神谷薫や明神弥彦、相楽左之助らとともに『神谷道場』で和な日々を過ごすかつて『人斬り抜刀斎』と畏れられた男『緋村剣心』。
ある男が訪ねてきたことで不穏な空気が流れ始めた。
それは年が明け雪積もる睦月のある日
「外がやかましいでござるな、薫殿」
「本当ね…あの声は左之助かしら、ちょっと見てくる」
席を外し、様子を見に行った薫、だがだんだん薫の声しか聞こえなくなる。
(薫殿までどうしたのでござろうか…)
「ちょっと待ちなさい。まだ話してる途中でしょ」
「久しいな抜刀斎」
目の前にはあの男が立っていた。
「斎藤…一」
斎藤一。元・新選組三番隊組長
新撰組でも屈指の剣腕の持ち主で、幕末時代からの剣心の宿敵。世を蝕む悪を即座に絶つ「悪・即・斬(あく・そく・ざん)」の正義を自身の信念とする。幕末の動乱・戊辰戦争・西南戦争を戦い抜き、明治時代における新撰組の数少ない生き残りとなる。維新後は「藤田五郎」と名を改め、明治に生きる新撰組として「悪・即・斬」を貫くために警視庁に奉職。警官として勤務する裏で、政府の密偵として暗躍する。
「珍しいでござるな、そなたから此方に顔を見せるとは。今日はどちらの者として来たのでござるか『藤田』かそれとも…」
「貴様の言葉遊びに付き合う道理はない。抜刀斎これを覚えているか」
斎藤は小さな小瓶を剣心に投げる。
「…これはまさか」
「なんだ。この赤い液体、旨いのか剣心」
「触るな弥彦」
剣心の剣幕に思わず三人は静まり返る。
「どっどうしたの剣心」
「斎藤。これは変若水(おちみず)だな」
「変若水…」
「かつて新撰組が極秘で研究していたとされる秘薬。超人的な身体能力と治癒能力を得て心臓を貫かれたり、首を切り落とされないと死ねない怪物へと変貌させる薬だ」
「うぇ~おっかねー」
「新撰組は変若水を全て処分したのでは無かったのか」
「新撰組で管理していたモノはな。だが市場に出回ったモノまで俺達は見切れない」
「随分身勝手なんじゃないか、かつて京都を守護してた新撰組とあろう方々が」
「貴様は支払った金がどこへ行ったか追えるのか」
「いや…それは」
「ふん。阿呆が」
「それがどうかしたんですか」
「最近起きている連続殺人を知ってるな」
「確か…死体にもの凄く何回も斬った痕が残ってて首が噛みきられた痕がどの死体にもあるんだったよな」
「左様…。俺も実際にその死体を見たが、その特徴として間違いなく『羅刹』の仕業だ」
「『羅刹』ってなんだ」
「変若水を飲んで変貌した人間だ。そいつらは自分達の空腹を人間の血で満たそうとするからな吸血衝動がある」
「マジかよ…」
「それで、なんで剣心を訪ねてきたんですか」
話しの内容から斎藤の思惑を察した薫は眉をひそめた。
「貴様の力を借りたい。抜刀斎」
「駄目です。絶対行かせません、剣心はもう十分戦いました。折角手にした日々を壊さないでください」
「薫殿…」
「正直。俺も『羅刹』と確信したのは依頼人が訪ねてきたからなんだ」
「依頼人…」
「それまでは俺も、その薬はこの世から消し去ったと思っていたからな。だがあの娘が依頼人として訪ねてきた時、俺のそれは確信に変わった」
(娘…)
すると斎藤は膝を突いた。
「今の明治の役人では何百人かかろうが無駄死にになるだけだ。頼む『羅刹』に対抗出来るのは俺とお前だけなんだ」
(斎藤…主はそこまで)
「わかった。行こう斎藤」
「剣心」
「すまぬ薫殿。拙者を心配してくれてありがとう。だが放っておけばいつか薫殿や皆にも危害を加えるかも知れん、そんなのは拙者は嫌じゃ」
「剣心…」
「必ず戻る。薫殿のもとへ」
「わかった。気をつけてね剣心」
「ありがとう薫殿。行ってまいる。弥彦、左之助。薫殿を頼んだぞ」
「俺も行きてーところだが話しを聞いてると確かに今回のは足を引っ張りそうな案件だな
「…」
「任せとけ剣心。ここは俺と弥彦で必ず守ってみせる」
「頼んだでござる」
こうして剣心は再び刀を手にしたのであった。