激しい剣撃の音が辺り一帯を包み込む。女には最早二人の動きを目では追えていなかった。
「流石は抜刀斎。良かったよ、あの頃の威圧感を全く感じなかったから相手になるか心配だったけど技は錆び付いてなさそうだから思う存分やれそうだ」
「沖田殿こそ流石でござるな、拙者の技を全てかわし絶妙なタイミングで一太刀を放ってくる。気を抜けば一気にペースを持っていかれ、殺られそうだ」
「あの頃は何度か刃を交えたけど結局邪魔が入ったりして決着つかなかったからね。ここらでつけようよ抜刀斎」
「臨むところ」
さらに素早くなる二人の動き、彼女はただ二人の無事を祈ることしか出来なかった。
(僕は羅刹の力も相まってなのに、君はまだその先がありそうだね抜刀斎)
距離をとる剣心。
「どうしたの抜刀斎。急に距離なんてとって」
深呼吸する剣心。
(なにか来る…)
「でやぁーーーーー」
一気に間合いを詰める剣心
「飛天御剣流・九頭龍閃」
(この技は…マズイ)
「初見で九頭龍閃を全て凌ぐか…流石は元新撰組一番組組長沖田総司」
「なかなかえげつない技持ってるね抜刀斎。流石に僕も肝を冷やしたよ」
(流石に沖田総司を相手に二度目は通じないよな…どうするあの技を使うか)
「さぁあまり受け身でもつまらないしそろそろ僕の天然理心流を御披露目…」
突然、咳込む総司。
(沖田さん。まさか…)
「沖田殿。…大丈夫で御座るか」
「抜刀斎。殺し合いの最中に相手に情けをかけるとは、随分舐めた態度をとるじゃないか」
「しかし沖田殿、尋常じゃ御座らんぞ症状が。吐血しておるではないか」
「これは、僕の問題だ君が気にやむことではない。さぁこい抜刀斎」
起き上がり刀を握る総司。しかし剣心の方が折れてしまう。
「ダメだ。そんな状態のそなたを拙者は、斬れない」
「敵に情けをかけるなど、どこまで僕を馬鹿にするんだい抜刀斎。さあ刀を構えろ」
「拙者には無理じゃ」
「見損なったよ、抜刀斎。じゃあ君が死ぬといい」
「ダメです。沖田さん」
千鶴が二人の間に割って入る。
「千鶴ちゃん。退いてくれないか、ようやく抜刀斎との戦いに決着がつくんだ…望んだ形ではないけどね」
「剣心さん、ありがとうございます。沖田さんに情けをかけてくださって」
「千鶴殿」
「沖田さん。新撰組が京都で活躍していた頃から結核を患っているんです」
「なんと」
「余計なことは言わないでくれ。千鶴ちゃん」
「噂を聞く割りにあまり遭遇することが無いと思っていたが、だからあの頃沖田殿に会う機会があまりなかったのか」
「千鶴ちゃん。いくら君でもあまりおいたが過ぎると。殺すよ」
「沖田殿」
「あの時、私が見た貴方なら容赦なく斬ってたんでしょうけど、『人斬り抜刀斎』は本当に過去の伝説になったんですね。私…決めました」
「千鶴殿。何を」
千鶴は持っていた小太刀を出し、自分の人指し指を軽く斬った。
「千鶴殿」
「大丈夫です、剣心さん。傷口は直ぐに塞がります」
「千鶴ちゃん…」
「沖田さん。今から垂らす血を呑んでください」
動揺する二人。
「羅刹は血を呑むことで回復します。そして私の血には『純血の鬼の血』が流れています。恐らくその効果は人の血よりも何十倍もあるでしょう、そうすれば沖田さんも一時的とはいえ先程のように戦えるはずです。そして決着をつけて下さい。お二人の戦いに」
「ありがとう…千鶴ちゃん」
指から落ちた千鶴の血が総司の舌に触れる。
(凄いみるみるうちに沖田殿の生気が戻って…なんという威圧感。先程よりも更に強くなっている。なにより目が金色に輝きまるで境地に入ったような落ち着きよう…これは…一撃で決める)
「剣心さん。沖田さんの願いを叶えて挙げてください。その『殺さずの刀』で」
「…お二人の想いしかと受け取った」
「…どうだい抜刀斎。殺る気は出てきたかい」
「あぁ…、だが長期戦となると拙者の身が持たないのでな、この一撃でケリをつけさせてもらう」
「さぁ、来い抜刀斎」
「飛天御剣流・奥義」
(これまでの技から飛天御剣流は抜刀術を主体とした神速剣術ということはわかった、どうくる…正面突破。ここまではどこにでもある抜刀術か…通常右利きの場合、右足を前にして抜刀するという抜刀術の常識を覆して、その手の振りや腰の捻りの勢いを一切殺さないように抜刀の後に、左足を踏み出し、その踏み込みによって生まれる加速と加重が斬撃をさらに加速させ、神速の抜刀術を「超神速」の域の一撃に昇華する技。初撃なんとかかわせたが当たらなかった場合、斬撃が空を切ることで発生する突風が敵の行動を阻害し、その初撃で斬撃が通過した部分の空気が弾かれたことで真空の空間が生まれ、その空間の空気が元に戻ろうとする作用で相手を巻き込むように引き寄せる。その自由を奪われた相手を、二回転目の遠心力と更なる一歩の踏み込みを加え、より威力を増した二撃目で追撃する。これは、技の理屈こそ簡単だけど、生死をわける極限状態で抜刀する瞬間に、その勢いを一切殺すことなく左足を踏み込むには、迷いなく踏み込める確固たる信念が必要不可欠であり、「捨て身」「死中に活を見出す」などの後ろ向きな気持ちを一片でも含んでいては、左足に引っかかるか、それを恐れて意識しすぎると、勢いを殺して単に左足を前に出しただけの超神速には程遠い抜刀術となってしまうため、確固たる信念がなければ絶対に成功しない技だ。
また、心に一辺の迷いでもあればその分威力は減衰され、巻き込む真空も十分な威力を発揮せず、威力の足り得ない技となってしまう。凄いね抜刀斎。これが君の全てか…こんな素晴らしい奥義に敗れるなら、悪くないかな…)
「天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)」
決まる奥義。崩れゆく総司の身体を千鶴は受け止めた。
「あれ…千鶴ちゃん。なんで泣いてるの」
「…泣いてますか。私」
「今にも溢れ落ちそうだ」
「どうでしたか」
「やっと。強者と本気の戦いが出来て僕は満足だよ」
「それは良かったです」
「ありがとう。二人とも」
総司の身体から黄金色の焔が出火し始める。
「近藤さんや土方さんと一緒の所に逝けるかな」
「きっと沖田さんを待ってますよ」
「可愛い顔が台無しだよ。千鶴ちゃん」
「前は、間に合わなかったけど、今回は間に合いました」
「…なにが」
「お見送りです」
「…こんないい子を遺して云っちゃう土方さんに逢ったら、僕が説教しておくよ」
「お願いしますね。沖田さん」
「千鶴ちゃん伝えておかなきゃならないことがあったんだ。耳かして」
「なんですか」
そっと顔を近付ける千鶴。
「~~~…」
総司は千鶴の頬に口づけし、笑顔で焔となって偉大な2人のあとを追った。
「…千鶴殿」
「大丈夫です。こうなることは、わかっていましたから。行きましょう剣心さん」
剣心は総司の居た所に彼の持っていた刀を突き立て、千鶴と共に親玉の待つ奥へ進んだ。