「すまん斎藤遅れた」
「時間ギリギリだ。まあいい行くぞ」
一夜明け、羅刹に関する情報収集にあたる二人。
(しかし、困った…羅刹に関する資料は政府が既に全て廃棄したはず。どうやって手掛かりを掴むか)
「あれ、もしかして剣心」
屋根から身軽に女が降りて来た。
「操か、久しぶりじゃの」
「どうかしたの、…もしかして薫さんと喧嘩」
「そんなんじゃござらんよ」
「ふ~ん。なにか探してるの」
「いや、まあー探していると言えば探しておるが」
「なによ、なよなよしちゃって教えなさいよ」
「いや、お主の力を借りる訳には」
「抜刀斎。手掛かりは掴めたか…貴様は確か御庭番衆の娘」
「あー、斎藤一。なんで剣心と一緒に」
「おい娘。羅刹を知ってるか」
「斎藤それは…」
「羅刹…どっかで聞いたなそんな言葉」
「知らんか。まあいい、行くぞ抜刀斎」
「あっあぁ…」
「おい娘。今のことは忘れろ、決して調べようなど馬鹿なことはするなよ」
「なによ、御庭番衆の名にかけて絶対に突き止めてやるんだから」
「おい操、斎藤なぜだ」
「御庭番衆なら手掛かりを掴めると思ったが、俺が浅はかだった。聞く相手を間違えた、抜刀斎。御庭番衆の根城を教えろ」
「なにをするつもりだ」
「娘は知らなくても、棟梁は知っていよう。あの娘にお灸を末がてら聞き出す」
「…そして俺を訪ねた訳か」
二人は御庭番衆の根城で四乃森蒼紫と面会した。
「すまぬ蒼紫」
「いや、操が余計なことに巻き込まれるのは俺達としても御免だ。操にはきつく言っておこう」
「貴様はどの程度知っている。四乃森蒼紫」
「まずは変若水についてだが、南蛮から渡来した薬で、中国では仙丹と呼ばれているらしい。日本に伝わったのは豊臣秀吉による朝鮮出兵の際。雪村綱道が幕府の密命を受け、改良を進めていた。服用すれば、すぐさま羅刹へと変貌してしまう。その際に羅刹となった鬼や人間を修羅と呼ぶ。ちなみにこの修羅達は綱道が目指していたものであると思われ、吸血衝動や日光に弱くなく一人の鬼頭と同等の力を手にすることができるようになる。西洋の鬼の血を薄めたものが変若水となるようだ。」
「鬼だと…」
「次に羅刹については、変若水を飲んだ者たち。紅い瞳と白い髪が特徴。日光に弱く時折吸血衝動に苛まれるが、雪村綱道は日光に強い羅刹を作り出すことに成功している。
超人的な身体能力と治癒能力を持つが、実際には数十年間に少しずつ消費していく常人の一生分の生命力や治癒能力を一気に消費しているに過ぎないため、それが尽きれば身体は灰と化して死亡する。寿命以外では、心臓を貫かれたり、首を切り落とされないと死ねない。
綱道いわく、【我等の故郷の村の水を服用すれば羅刹としての症状が薄くなっていく】とのことだが、実際の真意は定かになってない」
「流石、御庭番衆。よく調べている」
「ちょっと待て、羅刹になった者は夜しか行動出来ないのではないのか」
「改良が進み戊辰戦争終盤には、昼間に活動出来る羅刹が戦場に居たことを確認している」
「そんな…早く対策を練らねばならんな」
「斎藤一。1つ聞きたい」
「なんだ」
「羅刹隊は存在したのか」
「羅刹隊…」
「羅刹隊。山南敬助に指揮される羅刹たちが集う隊。その存在は伏せられており、所属者は表向きには死んだことになっているが、新選組の幹部は存在を黙認していたとされている」
「…」
「どうなんだ。斎藤」
「…まあいい、そういえば綱道の娘と名乗る女が会いに来たことがあったな」
「なんだと」
斎藤の表情が珍しくこわばんだ。
「それはいつだ」
「丁度一月くらい前か、『新撰組』の生き残りを知らないかとな。綱道の娘とはいえ、どこで御庭番衆の存在を嗅ぎ付けたか気にはなったがな」
「そしてアイツは俺の前に姿を見せたか」
(アイツ…)
「今更だが、くだらね質問をしてもよいか」
「なんだ。抜刀斎」
「『鬼』は存在するのか」
「それは俺達御庭番衆でもわからない。むしろ新撰組の方が知ってそうだがな」
「…」
「貴様が羅刹と対峙して何を思うかだ。鬼と思えば鬼は存在するし、薬を使った憐れな人間の末路と思えばそれまで」
「つまり己の感じるままか」
「そう言うことだ」
「その娘も言ってたが、羅刹はまだいるのか」
「それは間違いない。拙者らは昨夜。羅刹と遭遇した」
「そうか…御庭番衆としても、ようやく落ち着いた京をまた血みどろの町にしてもらっては困るからな。何かあれば協力しよう」
「かたじけない」
「四乃森蒼紫。2つ聞きたい、1つは黒幕について何かしらないか」
「すまんが、今はまだ見当すらつかん」
「そうか…。もう1つだが…」
四乃森蒼紫と面会を終わり。宿舎に戻った剣心
「お帰りなさいませ。緋村さん」
「千鶴殿。ただいまでござる」
「お風呂湧いてますがいかがされますか」
「かたじけない。いただくとしよう」
(五右衛門風呂か。珍しいの)
「湯加減はいかがですか。緋村さん」
「千鶴殿。下の名で呼んでくれて構わんでござるよ」
「えっ、でも…」
「少し呼びにくそうに聞こえるのでな」
「そうですか…。ではいかがですか剣心さん」
「いい湯加減でござるよ」
「それは良かったです。あの…1つお尋ねしても」
「構わんでござるよ」
「あのお巡りさんとはどういった関係なのですか、職業柄で見るとお二人が揃い歩くのはなんだか不思議に思いまして」
「うむ…。彼とは古くからの付き合いでな、手助けをしておるのじゃ」
「そうなんですね。明日もどこかへ御出掛けですか」
「うむ。彼の古い友人に会いに行くことになっておる」
「それは誰ですか」
千鶴の張りつめた声に思わず剣心も驚く。
「千鶴殿…どうしたのでござるか」
「いえ、私も人を探しておりまして」
「そうでござったか。確か…」
翌日。四乃森蒼紫の手引きで斎藤の旧友に会いにとある団子屋へ向かった。
「斎藤…拙者がついてきて大丈夫でござろうか」
「…どのみち一緒に行動することになる以上この問題は遅かれ早かれ向き合わねばならん。着いたぞ」
「いらっしゃい。お二人かい」
「永倉と名乗る男がこの団子屋にいると聞いてな」
「斎藤さん。こっちだこっち」
陽気な男が奥の襖から顔を覗かせる。
「久しいな。永倉」
「斎藤さん。元気そうじゃないか。そちらの連れは…頬に十字傷って…てめーまさか『人斬り抜刀斎』」
「新撰組2番隊組長永倉新八…」
団子屋に不穏な雰囲気がとどよい始めた。