機動戦士ガンダムーBullet in the desertー   作:五河陽太

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逃亡(1)

 後部座席にいたミツハが可愛らしい悲鳴をあげた。

 

「もっと、丁寧に操縦をして下さいまし! この荒い操縦だとあなたの技量もしれていますわ!」

 

「無茶を言うな! こんな突貫工事中の機体を動かせって奴が馬鹿なんだよ!」

 

「馬鹿とはなんですか! わたくしほどの才色兼備な女はフタバお姉様以外にいませんわ!」

 

「じゃあ、そのフタバの場所を教えろ! こんな馬鹿げた操縦を早く終わらせて解放してくれ!」

 

「……、まぁ、良いでしょう。まずはポイント三、オマーンの北西にあるオアシスに向かって下さいな」

 

「了解した。だが、連邦軍が簡単にジオン軍を放置すると考えるなよ」

 

「あなた、何かしましたか!」

 

「いや、お前が乗り込んだ機体が最高にサバイバルな機体だった。それだけだ」

 

 アキハが皮肉を語った瞬間、駆けるガンダムのコックピットが激しく振動した。

 

「何事ですの!」

 

「オマーンキャンプ場からの連邦軍追撃部隊だ! 隊長とコフィンさんも出てくるのは当たり前だ! お前がこのガンダムで逃げようと考えたから連邦軍は俺たちを殺してでも、機密保持を優先させてきたんだ!」

 

 ロック・オンのアラートがコックピット内に響く。

 

 トリアーエズ部隊がアキハ機に対してミサイル射撃を行った。

 

 アキハ機に対してIRH式のミサイルが降り注ぐ。

 アキハは舌打ちをすると同時に陸戦型ガンダムの頭部を180度回転させて、右手グリップのトリガーを押し込んだ。

 

 コックピット内のモニターまで残光が見える。頭部標準装備のバルカン砲がIRH式ミサイルを次々と着弾する前に撃破していく。

 

 防音式のコックピット内でも振動は伝わる。

 

 アキハは二度目の戦場で自身が味方に命を狙われる身になるとは考えもしなかった。

 

 だが、「陥った人生に嘆いてはいられない!」と強く前向きな心を持っていた。

 

 その理由の一つに「もう一度フタバに会いたい」と心の底で願っていた。

 

「そのためなら、俺はこの逃走を神が仕組んだ試練だと思って乗り越えてみせる!」

 

 アキハはコックピット内で叫んだ。

 

 激しいバルカン砲の掃射を終えて、アキハ機はユラユラとおぼつかない足取りで北西を目指して駆けていた。

 

 後部座席から偉そうに指示していたミツハが、不思議そうにアキハに問うた。

 

「あなた、お姉様とどんな関係なのですか? どうせ、見た目に惑わされた猿と同じ癖に――。そんなにお姉様を想う理由を教えて下さいまし」

 

「解らない!」

 

「何ですって! あなた、理由も解らずにお姉様に会いたい一心なのですか!」

 

「そうだ、何が悪い! ここまで来たら自身の心に素直でいたいと思う俺のどこが悪い! お前だってそうだろう! こんな鉄の棺桶の中で死にたくないだろう! だから、俺が何とかしてやる! 必ずフタバに会わせてやるからな!」

 

 我武者羅に機体を調整しながら操作をするアキハの必死な表情を視て、ミツハは自然と喉に当てていたサバイバルナイフを退けた。

 

ミツハには伝わっていた。アキハの放つ「信頼できる男」の雰囲気に心を許し始めていた。

 

ミツハはアキハが必死になる理由が知りたかった。

 

「解らない!」

 

 アキハはそう叫んでいたが、本当は答えが出ている。

 

 ミツハはそう気付いていた。

 

 だから、心にあったフタバへの絶対的な信頼感と同時に黒い感情が生まれていたのに気付いた。

 

 自分が「お姉様」と慕うフタバに、こんな男性が惹かれていると思うだけで、闇は深く心を浸食した。

 

 ミツハは後部座席に身を委ねると深い濡羽色の髪を弄っては、戦場で戦う男の背中を見ては呟いた。

 

「こんなにも逞しいものなのですね――」

 

 自分の感情とフタバへの想い。

 

 両方とも大切な想い。

 

 でも、ミツハの立場からしたら、フタバを最優先にすべき立ち位置だった。

 

 

 叶わぬ初恋。 

 だけど、叶えたい――。

 

 矛盾する想いが一瞬にして兵士を女へと変貌させた。

 

 そんな苦しみを後ろでミツハが味わっているとも知らずに、アキハは必死に操縦桿とペダルを調整しながら北西に進む。

 

 オアシスといえば、前回、フタバと出会った戦いの際、帰りに休憩で寄った記憶がアキハにはあった。

 

「あの場所にフタバがいる!」と考えると気持ちが逸(はや)る。

 

 だが、連邦軍は完全にアキハとミツハを敵として見ていた。

 

 トリアーエズ部隊から逃げたと思うと、次は砲撃がアキハ機の前を塞いだ。

 

 砂の大地で連邦軍が攻勢に出る準備を進められているのはMSの開発があったからとは違う。

 

 六一式戦車の数が揃っていたのが大きい。

 

 その砲撃は強力で、後方から受ければ、いかに陸戦型ガンダムでも無傷とはいかない。

 

 その六一式戦車部隊と、先行量産型陸戦型ジムが東側から迫っていた。

 

「何でこの距離で気付かなかった!」

 

 アキハが絶叫した。

 

 ミツハが冷静な声で説明した。

 

「地の利を活かした戦術ですわ。この大地は昔、雨も降った豊沃な地でもあったのです。でも、環境が変わってしまい、人間が汚した果てに河は干上がって跡しか残っていませんわ。その跡を辿れば、北西するわたくしたちに最短で迫れた……、という原理ですわ」

 

 アキハは自身の地の利の無さに震えた。

 

 同時に、違和感を覚えた。

 

 マリア機がいない。

 

 

 こんな重要な時に、隊長を温存させるフォックスだとはアキハは考えなかった。

 

 最大限に活かしてくる。

 

 アキハは考えて必死に逃げていた。

 

 だが、姿を見せたのはコフィンの先行量産陸戦型ジムだった。

 

 どこにいる?

 

 アキハはハルに命令してガンダムの索敵機能を使えるだけ使った。

 

 だが、こんな時にもエラー表示が出る。

 

 この機体は動くのが精いっぱいの状態だった。

 

 アキハはガンダムの望遠カメラを最大限に利用して周囲を確認した。

 

 その時、4倍ズームさせた崖の上に陸戦型ガンダムが180ミリキャノンを構える姿を確認した。

 

 アキハは確信した。

 

 あれこそマリアの操縦する残った一機の陸戦型ガンダムだと――。

 

 ロック・オンアラートがコックピット内に響く。

 

「ロック・オンされましたわ! お姉様に会う前にこんな場所で殺されるのは御免です! なんとかなさい!」

 

「言われなくても何とかするさ!」

 

 アキハは機体を勘でしゃがませた。

 

 アキハの勘は的中した。

 

 丁度、しゃがんだ瞬間に砲撃の嵐がアキハ機に降り注いだ。

 

 同時にマリア機からの180ミリキャノンの精密射撃が行われた。

 

 間一髪のところ直撃せずに済んだ。

 

 アキハは荒い呼吸を整えるとミツハに提案した。

 

「ミツハ、お前だってフタバに会いたいよな? ここは休戦しないか? コフィンさんから光信号で降伏宣言が送られている。乗るならお前は連邦軍の捕虜だ。だが、俺の経験上、捕虜はお勧めできない。お前のためを思って提案する。この場を二人で乗り切ろう」

 

「悪くない提案ですわね。わたくしも同じ内容をあなたに伝えようと考えていましたわ。わたくしの足手まといにならないようにしっかり操縦なさいな」

 

 後部座席のミツハが座り直す。手慣れた手つきで肘置きの位置にあったテンキーを操作して補助作業を開始した。

 

 陸戦型ガンダムの身体中に点滅していたエラー表示がドンドン消えてノーマルの文字に替わって行く。

 

 収音機の破損だけは直らないみたいだった。

 

 外で爆発する砲撃の音はコックピットの中まで届かなかった。

 

 だが、収音機以外の項目はほとんどノーマル表示に切り替わっていた。

 

 砲撃が幾つも炸裂する中、アキハは叫んだ。

 

「全員退け! 無駄な争いをする意味はない!」

 

 アキハは攻撃する術があると示すために、ガンダムの脹脛からビームサーベルを抜き放った。

 

 アキハ機の姿を見た六一式戦車部隊の砲撃が止んだ。

 

 同時に光信号でコフィン機が点滅で意志を伝えてきた。

 

 どうやらコフィンはアキハ機の通信機器が死んでいるのに気付いていた。

 

(続)

「機動戦士ガンダム」の二次作品として時代考察、話の内容は成り立っていますか?

  • 大丈夫!心配するな!
  • もっと、勉強しなさい!
  • 実は、良く解りません!
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