機動戦士ガンダムーBullet in the desertー 作:五河陽太
『本日の最高気温は40度。雨は降りません。時折発生する砂嵐にご注意下さい。乾燥した一日になりますので火の取り扱いにはじゅうぶんお気を付け下さい。さて、気象予報の次は――』
アキハはそこでテレビを切った。
アキハは今、北米から移動して中東の最前線にいた。
あの夢にまで見た地球に降りてから2週間が経過していた。
曜日はカレンダーで確認すると0079年8月15日――。
アキハは現実を知って落胆していた。
北米、ジャブローで亡命の話をしたら研究をしながら平穏に過ごせると確信していた。
だが、現実は世知辛い。
暴力の嵐である尋問で、家系について、ジオン公国内、つまりサイド3の情勢について洗い晒しに吐かされた。その後、手土産のAIを取り上げられ、そのまま独房に放り込まれた。
質素な生活を数日間強要された後、解放されたと思ったら、「技術士官としての地位を与える」と突然、連邦軍のお偉いさんに命令され、中東支部に転勤となった。
中東支部といえば現在、オデッサにジオン公国の重要拠点があり、連邦軍が奪還しようと画策している最前線だ。
激しく危険な砂の大地に飛ばされたと考えるとアキハの気分は落ち込んだ。
テツハと約束したアンドー家の安泰はもう無さそうだとアキハは毎朝、ニュースを観る度に考えた。
連邦軍の軍服に袖を通して、4人部屋から外に出る。
太陽は朝一番から燦々ときつく大地を照らしていた。
連邦軍はオデッサ奪還用にオマーンを拠点に第32技術試験隊を配備していた。
この部隊は通称「天国に最も近い部隊」と仲間内で語られており、戦死者の数が圧倒的に多い。
特に技術士官の戦死者が多く、補充員が間に合わないほどだ。
そこへ回された意味を考える度にアキハの気持ちは落ち込んだ。
朝食は午前7時に配給制。
アキハはテントで調理師たちが作ってくれる不味い飯をもらいに、列に並ぶ。
順番が回って来てアキハの番になった。
今日の朝食は朝からパンにハンバーグ、コーンスープと胃がもたれそうな献立だった。
アキハは「食べられないよりはマシ」と考え、調理師から食事の乗ったトレーを受け取る。
そのままテント内に設置してあった席に移動して朝食を食べようとした。
そこへ仲間がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてはわざとらしく体当たりをして来た。
当然、体当たりをされた、アキハはこけてトレーを砂の大地に零してしまう。
アキハの朝食は食べられない姿に変わってしまった。
「何をする! 俺がお前に何かしたか!」
体当たりをした連邦軍兵はまだ、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべては話を返した。
「おっと、済まないね。昨日晩から酒を飲んでいて二日酔いなんだ。気分が悪くてつい足がテメェにぶつかってしまったぜ。朝食は諦めるんだな」
「お前の朝食を出せ! 俺は被害者なんだ!」
「俺はもう朝飯を食っちまってな。この部隊では1人1回しか飯はもらえない規則だ。技術士官殿はネジでも噛んで空腹を紛らわすんだな」
これには普段は穏やかなアキハも腹を立てた。
唯でさえ、不当な扱いを受けて意気消沈していたのに、追い打ちをかけてきたこの兵士だけは許せないと頭に血が昇った。
拳を固めて、喧嘩もした経験もないアキハが初めて兵士に掴みかかった。
朝食の現場は一気にゴタゴタした喧嘩場に姿を変えた。
アキハだけではない。
他の部隊員も刺激が強過ぎて、平穏がない、この砂の大地で娯楽を求める傾向にあった。
1人、どちらが勝つか賭けを始めたら、芋づる式に乗る奴が増える。
はやし立てる奴がいれば、喧嘩が起きた内容を知らせにいく奴もいる。
気付けば朝食のテント内は拳闘場の雰囲気だった。
アキハは兵士の顔面に頭突きを叩きこむ。
兵士は鼻血を流すが、ニヤリッと最高の笑顔を見せて、右掌底をアキハに叩きこむ。
兵士が格闘戦においてはアキハより何倍も上手だった。
アキハが1発殴る間に、3発兵士は的確にアキハの急所に拳を叩きこむ。
若さではアキハのほうが若く、スタミナはあった。
だが、格闘術を知らない点でアキハが圧倒的に不利だった。
鼻血を流し、口の中を切って血をながしながらも戦うアキハを支える想いは「畜生!」と感じる亡命者への不憫な扱いへの反抗心だった。
「さっさとくたばりやがれ! このジオン崩れが!」
「煩い! お前に俺の何が解る!」
「何を甘い台詞を吐いているんだよ! ジオンが地球にしてきた悪行の数々……。忘れたなんて言わせねぇぞ!」
「俺とジオンは関係ない! 言いがかりだ!」
兵士と組み合っては問答を繰り返す。
兵士は鼻血を少し流した程度の傷だ。
だが、アキハはどう見ても満身創痍の状態だ。
これ以上は危ないと誰もが考えたその時、凛とした声が喧噪を切り裂いた。
「これはなんの騒ぎだい! 朝一番から問題行動を起こしている馬鹿たちがいるのかい!」
威圧感たっぷりの声を聞いて兵士は即座にアキハを掴んでいた手を放して、直立不動の姿勢を採った。
他の兵士たちは蜘蛛の子を散らすように我先にと去って行った。
姿を現したのは黒色タンクトップに迷彩長ズボン姿とラフな格好の美女だった。太陽の陽を受けて煌めく金髪は金色色の稲穂のように見えた。グラマラスな体型は見る者を虜にして放さない魅力があった。だが、女性的な外見とは裏腹に男性的野生感を漂わせていた。
アキハは大地に大の字に寝転がっては声の主を見て気付いた。
自身の上官であり、この試験隊の部隊長でもあるマリア・コーディアルが来てしまった。
最悪の展開だとアキハは感じた。
マリアは20歳と若い年齢だが、持ち前の豪胆さと度量でこのキャンプ地を仕切っている姉御だ。腕っぷしが強く、軍隊格闘術の達人。モビルスーツ(以下MSに統一)操縦も確かで、この「天国に一番近い部隊」で最も長い勤続年数を叩き出していた。
そんなマリアを前にしたら士官たちも脱帽するしかないのが現地の掟だった。
マリアは切り目で荒れ果てた食事場を見て、だいたいの内容を察知した。
目の前で直立不動の姿勢を採っている兵士に対して質問をした。
「貴様、朝一番から新米技術士官と喧嘩をしたな!」
「ノー・マム! レクリエーションであります! 技術士官殿と親睦を深めておりました!」
「では、なぜ貴様と技術士官が血を流している!」
「軽く触れ合ったら勝手に流れました!」
「本当か?」
「イエス・マム!」
「貴様は去って良い! 後はアタシと技術士官で話す!」
マリアが命令を下すと兵士は一目散に現場を後にした。
アキハは何十発も殴られた痕に触れて、自分の弱さを痛感していた。
そこへ、マリアが胡坐を掻いては話しかけてきた。
「亡命者は大人気だね。アタシも赴任して長くオマーンにいるが、アンタみたいな変わり種を受け入れるのは初めてだよ」
「隊長は俺が憎くないのですか?」
「ジオンは憎いさ。でも、アンタはジオンを捨てて連邦軍に亡命してきた。理由はあるだろうが、仲間になったなら詮索はしない。アンタにはアンタの理由があるのだろう?」
「俺の理由……、でありますか?」
マリアは白い歯を見せてニカッと笑った。
「ここの連中はたいがいジオンが憎くて戦っている。アタシも含めてね。だから、ジオン出身のアンタが憎くなるのは当たり前だ。それは覚悟していたんだろう?」
アキハは首を横に振った。
アキハは父親の庇護の下、研究に熱を入れて一八歳まで育った。はっきり言ってお坊ちゃまだ。
だから、ここまで根深く差別が浸透しているなんて考えもしなかった。
「父親の命令を受け、憧れの地球に行けるのが嬉しくて来ました」なんて言えるわけが
ない。
アキハは心中で考えていた。
マリアはポケットからハンカチを取り出してアキハに渡した。
「アンタはアンタだ。これからアンタが戦う理由や譲れない想いが解ってくる。その日まで死ぬのは止めておきな」
そう語るとマリアは立ち上がって、アキハの前から姿を消した。
唯、一人残されたアキハはマリアの言葉の意味を嚙みしめていた。
(続)
「機動戦士ガンダム」の二次作品として時代考察、話の内容は成り立っていますか?
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大丈夫!心配するな!
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もっと、勉強しなさい!
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実は、良く解りません!