宙が少女か、少女が宙か   作:銀ちゃんというもの

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エペしたり、エペしたり、色々読んだりとしていました。いや、比率が逆ですね読書>エペでしたわ。
何はともあれ更新くそ遅くなったマジ申し訳。


24.桃色

舞踏社交界の準備に大忙しの学院を歩いていると、なにか、どうも噂がでまわっているらしく、自分の耳に届かないことから「私ん事じゃなけりゃいんだけどなぁ」と不安げに、しかしそこまで気にすることなくリサは廊下を進む。

 

どうも視線が複数刺さっている割には、周囲を見回しても姿が見当たらないところを見るに、自分の噂という可能性も高そうだと考えてしまう。

自分の立場を転入後、自己紹介の際、社交界の相手は誰がいいかという問に対して、変態紳士(モテない奴)を指さしたことから、噂の歪曲で自分達にも可能性があるのではと思う生徒もいるのではないかという可能性も、『ペアの居ない転入直後の美幼女』という客観的事実を考慮すると有り得てしまうのが面倒くさいところである。

 

リサ(美少女好き)ルーゼル(変態紳士)という同士と同盟を結ぼうとしたというものが事実であれ、どういう話も歪曲するものだ。

 

ならば今でまわっている噂の正体も歪曲されて伝わっているのなら、元にたどり着くのがなかなかに大変だと思ったリサは。

 

「……あぁ……なるほろ。ほんとに主人公気質やんな……」

 

ふと中庭を覗いて噂の正体に辿り着いたのだと直感的に察した。

同時に自分へ向いた噂ではなかったと安堵もした。

 

蓄音機から流れる『交響曲シルフィード第一番』と、それに合わせて踊る男女。

その二人の踊り、『シルフ・ワルツ』に懐かしいなと、ふと、今は亡きグレンの元同僚の少女を思い浮かべた。神聖という境界で区切ってしまったかのような、見惚れる世界を作り出す可憐で情熱的な踊りを踊る二人はもちろんリサの知る人物。ルミアとグレンである。

 

王宮仕込みかと思われるルミアの気品溢れる足運び、そしてどこか型破りな踊りを踊るグレン。

型破りなのも当たり前な話しで、グレンが過去に習ったのは『シルフ・ワルツ』ではなくその原典『大いなる風霊の舞(バイレ・デル・ヴィエント)』という南原の遊牧民の精霊舞踏である。正式に踊れば第一演奏(エル・プリマル)から第七演奏(エル・せプティーモ)まででしたら躊躇いや痛覚などをなくし、戦への喜びや勇気を与える踊り、それを最後に第八演奏(エル・オクターヴァ)で効能を鎮める。そんな魔的な舞踏であるのだ。

 

そんな無粋なことは抜きにして、この場面を楽しもうかと、じーっと踊りを眺めるリサの姿に、踊ってみたいのか憧れているのかと勘違いした男子生徒が突撃して見事大破、撃沈した光景は、踊りに見惚れる中庭の人間には知る由もない出来事である。

 

 

 

さて、そんなリサがあのペアが出来上がった原因を知ったのは今回の任務を聞いてからであった。

 

倉庫外の木造倉庫にグレンと共に足を運び、魔術的に閉ざされた戸を、グレンが鍵のルーンで解錠、僅かに空いた扉の隙間から倉庫内へ入る。

ナンバーは与えられていないとはいえ、任務に駆り出されることになったリサはグレンの元同僚達とその室長に会うついで……というよりこちらの方が本題なのだが、任務の作戦会議をしに来たというわけである。

 

組織の長以外とは知り合いというなんともこれでいいのだろうかという状態にはあったが、忙しく顔合わせの暇がなかったらしく、それも仕方ないかとそれぞれに一癖も二癖もあり、扱いずらそうな特務分室のメンバーをまとめる若い燃えるような赤が印象的な女の人を見た。

 

それはもうじとーっと、「なによ」とでも言い返してきそうな瞳を見て……内心、その冷徹で他人を嘲笑するような顔を破顔させて赤面させたらさぞかし可愛いだろうなとそう妄想したところで、誤魔化しの効かないだらけた笑みを浮かべそうになったリサは、すぐさまリィエルへ抱きつき頬擦りをすることで誤魔化した。

なお、向けられたジト目は無視することとする。

 

「あっ……忘れてたぜぃ」

 

そう言いながら今度はキリッとした態度でリィエルから離れて特務分室室長の前へ着くそして。

 

「遅ればせながら、はじめまして……帝国宮廷魔導師団特務分室所属、見習い?仮入室?のリサ=カミハ、ただ今参上仕りました。イヴ=イグナイト室長、どうぞお見知り置きを……」

 

と、普段からはとても想像もつかない丁寧語でやっと叶った室長とのご挨拶をしているが、まさにぴしゃっとしていますという顔をしておきながら、リサ(こいつ)は十数秒前まで同僚で同性の少女に頬擦りしていた変質者である。

だが伊達に変人揃いの特務分室の長を務めちゃいない、イヴも少し呆れながらも表情には出さず冷ややかな鉄仮面を崩さない。慣れているかのように流し、まだ口を開こうとしていたリサの言葉を待った。

 

「と、言っても。互いに結構前から名前も立場も認識しあってっから……今更感あんよね……あーなんてよびゃいいん?イヴちゃん?室長サマ?それとも名前と苗字の最初の発音がイだからいーちゃんとか?」

「……はぁ」

 

グレンとは違い特務分室で、良い意味でも悪い意味でも曲がらず生きていけそうな、そして即戦力となる少女になんとも言えない溜息を着く。

冒頭からこれを見せられちゃ、上司ということを主張するのも面倒になってくるというものだ。

 

また一つ増えた特務分室メンバー(頭痛の種)に、なんとも言えない気持ちになっていた。

 

 

 

「イヴちゃんじゃぁのー」

 

なんでも件の社交舞踏会開催中に世間的には病死したことになっているエルミアナ(王女)……ルミアの暗殺を天の智恵研究会が企んでいるためそれを餌に組織の第二団(アデプタス)地位(オーダー)》の《魔の右手》ザイードを捕らえようという室長の作戦を聞いて、グレンが学院に情報を流し社交舞踏会の中止することを提言したりと色々ある間に眠気が頂点を迎え、会議が終わる頃には眠り出してしまったリィエルを背負って帰っていくリサをイヴは眺めていた。

 

ちなみにリサは進言こそしなかったがグレンの案が最適であると思っている。というより、室長以外は皆どこかでそう思っているだろう。手柄をとることを目的としている室長がああなってしまった理由も実はリサは把握していた。それも、グレンの元同僚の少女、セラ=シルヴァースが亡くなるあのジャティス(正義野郎)の起こした事件、あの時に何があったのだろうと軽く軍を洗ったからである。結果イグナイトの黒さに可哀想は可愛いとは迂闊に言えねぇなとなったようだ。

 

さて、リサを眺めていたイヴだが、その内では既に、軍の上層部に現在仮入室状態のリサを推薦する過程を思い浮かべていた。

性格も、アレだが、悪魔や元正義のようなやからでもなく。

技量も、魔力容量(キャパシティ)魔力濃度(デンシティ)に見合わない代物を持っているし、なりより特殊な眷属秘呪(シークレット)も持っている。

サバイバル性も、もとより一人旅をしていたことから十分であるし、何より異能のお陰でそうそう死ぬことは無い……というよりも異能が死なせてくれない。

さらに、相当な裏事情を把握してるため物分りもいいだろう。

 

万年人手不足の特務分室が、こんな優良物件を欲しがらない筈もなく、もとよりリサにこの仕事へ誘う前からある程度現場で動きを見て、ナンバーを与える気であった。

 

では何が問題なのか、それは簡単である。推薦を終えて、リサが無事ナンバーを拝借することにはなるだろう……しかし、上層部連中は彼女の特務分室に入室する絶対条件、「イヴ=イグナイトが上司ではなくなったら辞める」を通してくれるだろうかという事だ。何事も万が一がある。何よりあの父親がそんな条件を通してくれる気がしない……という今後を思っての憂鬱である。

 

リサが何故そのような条件を提示したのかは彼女と比較的仲がいいグレンすらわかっていない様だった。

 

また思考の読みにくい部下を抱えることになるのかと、溜息を着いたイヴはその場を去っていった。

 

 

 

一方その頃リサはすやすやと健やかな寝顔を湛えるリィエルを背負ってフィーベル亭へ向かっていた。

 

途中お持ち帰りしてしまおうかという欲望に揺られたがさすがのリサも良心と、このまま送り届けねば明日の朝システィーナとルミアが心配してしまうと真っ直ぐ歩いていた。

 

「ほわぁ、あっと!!」

 

随分と長い悲鳴をあげながら走っていた少女が転んだ。よく見ると暗闇で見えにくいが小石が転がっていたようだ。リサによく似た薄い桃色の髪を乱れさせ、顔面から地面へダイナミックダイブしている。どうやらファーストキスを地面に取られたようである。いや、この少女のファーストキスはもう昔のことかもしれないが、そんなことはリサの気にすることではない。

 

転んだ拍子に落としたらしい財布を、リィエルを落とさぬように広い、少女へと近付く。

随分と幼い身体である。無論リサよりは大きいが、それでも年齢はまだ下の子だろうと推測する。

 

「いたた……」

「だいじょぶかいな?ほれ、財布。夜も遅いんから、走ったら怪我すんぞ……?つーか時間的に言うと外に出てる時点でおかしいがね」

「ありがとうございま……す?」

 

立ち上がり、ようやく見えた少女の面は童顔である。可愛らしく好みの顔をしている。

もう夜も夜、日を跨ぐか跨がないかの瀬戸際だ。そんな時間に走っていた少女は自覚していたからか、だからこそ自分より幼げな少女が爆睡したそれより少し年上に見える少女を背負い、道を歩いている異常事態だというのに、リサからなんの違和感も浮かばない、その事実に気付き驚愕を浮かべたのだ。

何故このような異質な存在が、会話するまでなんの違和感も、いや、ちょうど己が転ぶ原因となったであろうすぐにそこの道端に落ちている小石のように当たり前かのように捉えていたのかと。

 

「ああ……さすがに会話をしたんら術も効き目が薄いかねぇ。まあいいか……」

 

パチンと指を弾いたリサは、固有魔術(オリジナル)で自分の存在感を更に薄くして違和感を誤魔化して続ける。

 

「はよ帰んなあね、親御さんが心配してるよ」

「あ、あぁそうでした……修道院の皆が心配してるだろうし怒られちゃいますね。ありがとうございました……えーっと……マリア=ルーテルです。また会えたらお礼をさせてください……!それでは……」

 

すっかり術中にハマった少女……マリアは違和感を忘れて夜の闇の向こうへと消えていった。

 

「ルーテル……?ルーテル、ねぇ……なんだったか、どっかを……何かを探した時に聞いたような……まぁ、後ででいいか……」

 

今はまず、と今度はリィエルごと、その場から認識を薄めて……薄めて……消えたようにいなくなった。

 

「とっととリィエルちゃんを届けねば……」




本当に……話の内容が行き当たりばったりすぎる……プロット用意してるのに何故……???

マリアに会わせようとして強引感のあるこのタイミングだぞ……もっといい場所はなかったのかと聞かれても他に用意したらこの話の必要性が消失してしまいかねないのである……。

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