宙が少女か、少女が宙か   作:銀ちゃんというもの

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ロクアカ最新刊を買ってきて読んだ日はその興奮を胸にぐっすりねまちた。
しゅごかった……。


28.調子に乗ると、結果はすぐに見えてくる。

「で……」

 

 リサが言葉を漏らしたのは、学園の北、迷いの森。

 先程にまでの場面はどうしたのか。

 

 あれは圧倒的強さを見せる場面だろう? 

 

 精神支配が全く効かない? 

 

 相手の最大の切り札を潰した? 

 

 ならば、どうしてこのような場所にいる? 

 

 答えは至極単純。

 

「切り札封じてだからどうしたってぇ話なんよなぁ!!!」

 

 全くもって、そうである。

 

 再生能力による強硬策と、人型(ヒトガタ)を操り大物臭を漂わせてはいるが、その正体は簡単。

 

 魔力容量(キャパシティ)つまりどれほど魔力があるか、魔力濃度(デンシティ)つまり一定の魔力でどれほど火力が出せるか、そのふたつどちらもゴミクソ。

 

 グレンのような魔術特性(パーソナリティ)を持っている訳でもないのに黒魔【ショック・ボルト】の一節詠唱すらできないド三流。

 

 要するに魔術師としての廃残。

 

 人型に刻んだ魔術の起動、それを持って黒幕を倒すか。

 そう思った矢先に湧いて出てくる思考。

 微細な振動で声を読み取れる式神が精神支配を受けて自分の影響下から外れて所有権を握られる可能性があるのだ。

 

 人型どもは魔道具の分類のようだが、実態はリサの魔術触媒()()()()()()

 魔道具には『擬似意識領域(パラ・キャパシティ)』が使われるがこいつらのはモノホンの精神である。

 ついでに霊魂の精神をギタギタのメタメタに絶望させ心を壊した代物である。

 これがどうして他者に指揮権を奪われまいと思うか。

 

 実際、リサの人型に押し込めた霊魂は精神防御皆無である。リサはまだ一度もなかったが、“家の本”には、式神の権を奪い取られたなどと書かれていたりする。

 

 病は気から、というのならば、深層意識の改編を必要にする魔術、更には精神を支配するものを扱うものとあっては心が揺れただけで大ピンチだ。

 嫌な予感がして即、人型を引っ込めたリサはたちまち再生しか取り柄のない今のところ不死の少女それだけだ。

 

 下手に魔術を使えないリサは固有魔術(オリジナル)すら黒幕から意識を外すことにしか使っていない。

 

 なんということでしょうびふぉー(before)あふたー(after)、盛大にドヤ顔かまして実際はほぼ詰みである。

 

 完璧なる馬鹿、盛大なる阿呆。

 道化として崇めても宜しくてよとリサはほろり涙を流す。

 

 嗚呼、天にましますロクでもねぇ神格共よ、てめぇらが昔の戦争で這い出てきた邪神の眷属の主だとか、そういう以前に“家の本”に現代の言葉ででさえたまにロクでもねぇロクでもねぇって書かれてるから少なくともこの星にとっちゃおめぇらが邪悪な神だって知ってんだよ。

 

 知られてるんだから少しは私を助けるという善行を積み上げ給えよ。

 善意を見せろよ! かむ(come)!! 

 

 と、救済願えど邪悪は応えやしない。

 そもそも応えられたらられたで二百年前の戦争の再来である。

 

 けっ、と悪態ついてリサは見たくもない現実を見返した。

 

 

 それは正しく現実とは思いたくない地獄であった。

 灼熱と極寒が両立して筋肉バカと脳筋戦車が拳と刃を切り結ぶ。

 

 魔曲に心を絡め取られて操られるイヴをバーナードとリサが。

 グレイシアという名の天の智慧研究会の氷の魔術師をクリストフが相手をしている。

 

「あぁああぁぁぁ…………っっ!! 再生……やっぱクソだぁねクソ!!」

 

 グレンとルミアとアルベルトとシスティーナがザイード討伐のために動いているせいで、残りの相手をせねばならないのである。

 

 魔曲のせいで魔術の起動工程の五つのうちの三つ目、識域拡張(インタベーション)が妨害されまともに魔術を扱えないクリストフとバーナードが、代わりに魔道具を消費して対抗する中、魔術が使えるリサは防御を任されるか、否である。

 

 結界の術を継ぐクリストフの家、そちらのがリサのド三流魔術より効果がある。というよりは、リサのド三流魔術ではこの場では何の役にも立たない。

 

 よって、リサは損壊無視で再生に任せてイヴに弱々しい魔術を当てていた。

 

 少し離れたところでゼトという脳筋の敵と少年漫画なバトルを繰り広げるリィエルを見て後で頬擦りすると誓い。

 

 グレイシアという氷の魔術師に惚れられたらしいクリストフが受ける極寒の狂愛に一瞬羨ましいと思った思考を正して眼前を見直す。

 

 嗚呼──今一度、言わせてもらおう。

 

「切り札封じてだからどうしたってぇ話なんよなぁ!!!」

 

 このザマである。

 

 標的の中で最も秀でたものの最高の切り札を封じた? 

 

 だからどうしたというのだ、それ以外で地獄に堕ちていたら、それこそあまりに滑稽だろう。

 

 グレンはどうしてこんな地獄を乗り越えてきたのだろう。

 大切な人を失うまでよく耐えたなあいつ。

 

 今一度、家族のような立場の人間を見直したリサは、涙を堪えて、文字通り脳死(脳を焼かれて)しつつも、この一時を終えた後の時間に希望を抱いて。

 

 苦労の原因を作りやがった室長サマを殴りにかかった。

 

 

 

 そんなこんなで事件は解決、大団円……とは問屋が卸ちゃくれない。

 厄介事という物は、事に遭う人間の事情を考えないからこそ厄介な事なのであり、それはツタのように人生に絡み付き多大な影響を与えることもあるのだ。

 果たして、それが今に始まった事なのだろうか。

 

 それは『社交舞踏会』のその帰り道のことである。

 グレンはリィエルシスティーナルミアの三人娘をリーベル邸まで送り届けに行っているため一人で帰路に着いているのだ。

 件のシャルン何某とかいう天の智慧研究会の外道魔術師殿と戦闘している最中、グレンに接触してきていたという天の智慧研究会のエレノア=シャーレットという魔術師について教わっている情報を整理しながら歩いていた。

 

 ふと、視界がボヤけたリサは横によろめいた。

 

「…………?」

 

 パチクリと目を開け直すとボヤけはまだ確かに存在して全てにモザイクがかかったかのように見えてしまう。

 

「っ……!」

 

 明らかに異常だ。

 全身が吐き気を訴えている。

 見てはならない。

 脳が視神経に叫んでいる。

 

「ぐっ……うぅぅ……っ!」

 

 押し寄せる不快感に頭を抱えて目を瞑って、しゃがみこむ。

 頭を抱えて激しい頭痛に耐えて……耐えて耐えて耐えて。

 

 痛みが有頂天に達した。

 そうリサは何故か確信した。

 気絶するする寸前だ……そんな、瞬間のこと。

 

 一瞬、リサの脳裏に怪物の姿がよぎる。

 それはあまりに気味が悪く、直近で同じように気味の悪い物を見たことがあるような気もする。

 

 あのような代物を。

 一体どこで。

 

 ああ、そうだそれは、()()()…………。

 

 …………。

 

 …………………………。

 

 ………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 いつの間にか、リサを渦巻いた不快感は過ぎ去っていた。

 

 天を仰ぐ。

 

 時刻は先程とそう変わらない。

 

 幻覚だったのか、判断も何もかもがままならないまま、首を傾げたリサは足早に家へ帰って行った。

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