フェジテ、セリカの屋敷、その玄関。
薄桃の少女と金髪の女が向かい合っている。
「よう、お久ぁ。元気かいな、セリカ」
「おう、久しぶりだな。元気だったぞ。お前も元気そうだな、リサ」
数ヶ月ぶりにあった2人は、心が通じあった親友の様。
「既に色々聞いてるぞ。大変だったな」
「そりゃあ、あったりめーだぜ。昔わざと悪徳貴族の屋敷に売られて悪人を鏖にするなんて事はやったが、今回みてーなこった初めてよ」
「そうか。まあ、上がれ」
「おう、あんがと」
屋敷の奥に入っていくセリカ=アルフォネアに続くリサ=カミハ。両者、初めから笑顔で、仲がいいことが伺える。
居間に案内されたリサは遠慮なく椅子に腰掛ける。
「ほら、紅茶だぞ。感謝して飲めよ」
「ん、せんきゅー」
机に二人分の紅茶を置いたセリカはリサと向かいの席に着く。
「お前と会うのは、ほんと久しぶりだな。……半年ぶりくらいか?」
「そんくらいじゃないかい? それにしてもまさかグレンが魔術講師やってるなんて驚いたぜぃ? 人は変わるもんなんだなぁって」
「ははは、そうだな……」
久しぶりに出会った友人が元気そうだと安心したリサは、グレンについての話を始める。
半年前、あの頃グレンはまだ魔術に失望していた。
どう声をかければいいか、少し迷ったのが懐かしいと笑う。
暫しの沈黙が流れ、セリカが口を開いた。
「お前は……『正義の魔法使い』に憧れていた子供の頃も、私が辛い思いをさせてしまった頃も、それからも。3つ全部知っているんだもんな……そうだよな。の癖してお前グレンより年下だし」
「グレンがあの学院に入ってから、とある用事でフェジテの外に出ていたセリカが、自殺に失敗した私を見つけたんだっけか。あんときゃ助かったぜ。そっからグレンと知り合ったんだよな……懐かしいな」
「あの時から、お前は、いやお前も、変わらないな」
「あー、うん、そか。原因は違えど、私も
「ああ、そうだな」
魔術師の悲願の一つを生まれつき、叶えている2人は乾いた笑みしか浮かばない。永劫の時を生きる苦しみは既にセリカが経験しているからだ。
そう、リサも永遠者な可能性があるのだ。
親を亡くすほんの少し前から姿形が変わらない。
9年前、親を無くし、一人大陸を彷徨ったリサはその間、魔獣に襲われ、だがそれでも死ねない。獣に食われだがそれでも死ねない。空腹、餓死……できない。焼死……焼切る前に再生する。
明らかに再生の力を超えた不死にも近い力で、楽にもなれず、苦しんでいた。
その生の中で、先祖代々の魔導書を片手に、魔術には自分を殺す術があると信じた。
なら、肉体の滅びが無いのなら、魂を滅ぼせばいいと、白魔【サクリファイス】──
しかし、爆発はしたにはした。しかも、想定以上の大爆発が発生した。だが、その爆心地で、一糸まとわぬ姿で目を覚ますこととなった。霊魂への損害は零。流石に魔力は食われまくりマナ欠乏症とはなっていたが、そんなことはどうでも良かった。なぜ失敗したのか、混乱に陥った思考を冷静にさせるため、自分の親指を食いちぎった。それが久しぶりの食事となった。
すぐさまもう一回、魔術方陣を組んで、また、大爆発を起こした。次に目覚めた時は夜の帳がリサの身体を包んでいた。またもや、想定以上の大爆発が起きたと見られる巨人の足跡の様な爪痕に……無傷。肉体の損傷は無論。霊魂の一欠片も減っていない。
何故、何故と悩み魔術方陣が間違っていないか、布ひとつ纏わない体を冷やす夜の冷気などものともせず、そんな事を調べ尽くし、しかしどこも間違っておらず。出た結論は本当に『偶然』。それ以外言いようのない結果に、自棄を起こし、もう一回、魔術を儀式を行おうというところで、大爆発の音を聞き駆けつけたセリカに
セリカは新しく見つかった遺跡からの帰り道だったという。
その時のリサはリサ自身気付かなかったが大粒の涙を流し、その頃知り合ってもなかった赤の他人のセリカに抱きついた。苦悩を吐いた。
それからは、近くの街でセリカが買ってきた衣服を身に纏い、セリカの屋敷に一ヶ月世話になり、また旅に出たのだが。
「……グレンはあと一日くらいで帰ってくるよ」
「そうか」
「私は少しここに世話になっていいかい? 銀行に質素な一軒家買っても余った金で一生暮らせる位は預けてあるが……流石に今すぐ出ていく気にはなれんくて」
「いいぞ? というかいい加減定住しろよ。お前に会いたくてもどこにいるか分からないと本当に不便なんだぞ?」
「そいつはごめんなぁ。そういう性分なんだぜ。生まれつき」
「一軒家くらい買ってやるし、なんならここにずっと住んでてもいいんだぞ? どうだ? グレンと私とお前で住まないか?」
「うんにゃ、御遠慮しとくぜ。仲睦まじい親子の間に入るのはちょっとなぁ。家も自分で買うさね。だがまあ、フェジテに住むのもいいかもしれんか」
「おお! お前も遂に引っ越すのか!」
「引っ越すってなんだそいつぁ。あれかい? 今までは、旅に住んでたってか?」
「正解だ。……よいしょっと……善は急げ、だ。こんな物件はどうだ?」
「おま、早いな。この展開予測してたんか!?」
そう、今まで何処に隠していたのか、不動産のビラを取り出すセリカに驚く。
そして、ビラを覗き込んだリサがさらに驚く。
「高すぎんだろが、馬鹿かい! 私の貯蓄ぶっ飛ぶわ! 何サラッと貴族屋敷選んじゃってるんだぜ!? 金銭感覚どうなってんだい!?」
チラシのセリカが指さす先にあったその物件は、射影機で移された、それひとつ見るだけで高額と分かる程の豪華で豪奢な屋敷。街にあるような二階建ての一軒家の平均価格から桁が3個ほど違う。何言ってんだこいつはと頭を抱えるリサにセリカは悪戯が成功した子供の様な顔を浮かべて。
「はははっ、冗談だよ。私が勧めたいのはこっちだ」
「セリカがやると冗談に聞こえないということを学ぶべきだと思うぜ?」
再度、指を指した先を警戒しつつも見ると今度こそはまともな物件。
地上二階、地下一階。魔術師としては研究用の地下が欲しかったリサには願ってもない家だ
価格も良心的。中古というのは気にならない。ただ1つ異彩を放つ文字が書かれていた。
事故物件。
前の家主が正体不明の変死を遂げたらしい。
「こりゃーあれだ」
「おう、あれだ。楽しんでこい」
「いやー、あんがと。呪いで死んだ地縛霊なんてそうそう調達できねっから」
そんな無責任なセリカの言葉に喜ぶリサ。別に虐められて嬉しい趣味がある訳ではなく、彼女の家の
「喜んでくれて何よりだ。明後日くらいに不動産行くか?」
「おう! 今から楽しみだぜぃ!」
酒でも呑み始めたのか、声が騒がしくなる。
勿論、方や金髪に
鮮やかな四色を揺らして、からから、ころころ、夜の帷が降りてからも、日が変わってからもセリカ邸には笑い声が響いた。内に秘める、暗い感情は、酒に酔わせて眠らせて……。
翌朝、2人が二日酔いに苦しんだのは語るまでもないだろう。
セリカの口調むずかしい。