語彙力過不足。
文法はぶっ飛びました。
石造りの壁に床、何処か古城を思わせる風景に、リサは絵画の中から出てこれたのかと思いかけたが、眼前に伸びる通路にまだここは絵画の中かと悟る。
通路の先にある両開きの扉からこちらの足元に向けて一筋の炎を想起させる赤い絨毯が敷かれている。
壁には一定間隔で銀の燭台が掛けられ、蝋燭がほんのり通路を照らす。
「はぁ……向こうさんは、誘ってきてんかい?」
血塗れた足の跡もほんのり濡れているようにしか見えない。
温めるように優しく包むように絨毯が冷えた素足に触れる。
「妙に高待遇じゃなあ? なして、んなんなんかい……なぁ、黒幕さんよ」
ガチャリ、捻って開けられた戸の先に立つ男は小豆の色をしていた。
痩躯な髪も瞳も服も、爪にまで小豆色のネイルアートが施されている。
にっこり微笑む優男は編み込まれたマフラーを纏っていて、やはりこれも小豆色。
廊下と同じく石と燭台で照らされた空間になんとも違和感が溢れる人物だ。
「こんにちは……可愛らしい訪問者さん」
「ふむ、可愛いとはようわかってるなぁ。で、なんでかい? と聞いとんだけども」
「そんなに、焦らないでくれたまえよ。まずは楽しい会話をしないかい?」
くかかっと軽快笑ったリサは。
「断るぜぃ」
言葉尻にハートマークが着く様な音程で、めいっぱい笑顔を作って断った。
しかし、とても態とらしい笑みの中には少なからず憎悪の念が混じった声色でもある。
「おお、こわいこわい。あれだけしか無かった情報で……ボクが一体全体、何をやったかまで暴いてしまったのかな? 全く、頭がいいのか勘が鋭いのか……」
「御託はいいからよぅ……とっとと話さんと堪忍袋の緒がプッチンしちまうぜ?」
「そうだね……こんなに可愛らしいお嬢さんを待たせてしまうとは大人失格だ。なんで高待遇だったか、だけでいいのかな? お嬢さん?」
「だーかーらー、とっとと話せい!」
なんとも不思議な問答に、リサは怒るように、優男は満足するように答え合う。いや、両者一方的に話す。言葉のキャッチボールは殆ど成り立っていないと言ってもいいだろう
だが、もう満たされたとばかりにやっと優男の口が開かれる。
「それはね、そんな不思議なお嬢さんに……ボクが恋したからさ……」
「……はぁ?」
きらりと星が瞬く幻覚が、男の片方だけぱちりと閉じられた瞳から落ちる。
リサは訳の分からぬ事を言われてポカンと呆れ顔しか出来ない。
そんなリサを見た優男は故にね……と続ける。
「君を、犯したい泣かせたい壊したい行為の果てには殺したい! ……それを考えるだけでゾクゾクする! 君の霊はどれほどボクを憎んで死ぬのかなぁ? ボクを憎む力はどれほどボクに力を与えるのかなぁ! ははっあはははっははは!!」
「……っ」
突如狂ったかのように欲望をさらけ出した男に流石のリサも一歩引く。
これだ、これがこいつの、このおかしな屋敷の正体だと考えながら、先手必勝とばかりにリサは紙を飛ばした。
「ふふっ、あはははははははは……ッ!! それは、東方の式神かい? ふふふっくくくっ!!」
殺到する紙吹雪に優男は軽い障壁を張って対抗する。
「ああああっはははははは……っ!! うれしい、嬉しいよ!! 《君はボクと・同じようなことが・得意なんだね》……!!」
嬉しそうに、即興改変の詠唱を唱えると、リサの身体に異変が起きた。
左腕が捻じ曲がったのだ。
ありえない方向に、肩の付け根から爪の先まで、ばきばきに関節は逆へ、皮膚は絞った雑巾のように捻れ、爪は二又三又へ割れる。
「……ぐぁっ! つぅってぇぇえよ!! ……こいつは恨みか、怨念か!! ……お前、もしかして!!」
普段より霊を司るリサは己の身に起こった事態を瞬時に把握した。
そして、男の正体も。
「はははっ、ご名答!! ボクの
うわぁと若干顔色を悪くして、もう話すのも面倒だとばかりに何かを合図する様に指を鳴らす。
パチンッと弾ける音と共に男の視界に大量の光の筋が映った。
蜘蛛の巣が三次元的に張り巡らされたかのようにいつの間にか無数の糸が張られている。
「なっ……」
「死んどけ」
捻じ曲がった腕を再生させつつ、無慈悲に、鋼線に驚き意識を持っていかれた男に告げる。
するとなんの脈絡もなく、男の両腕が焼き切れた。
呆気なく空を舞って、蜘蛛の罠に掛かった虫のように絡まる。
「えっ? うっぐ、ぎゃぁぁああああ!」
恐る恐る断面を覗いた男は垂れ滴る己が血液を見て、思い出したかのように痛みに喘ぐ。
「……くはっ……なんだ? 君も恨みを扱う固有魔術を扱うのかい? はははっ何処までもおそろい……ッ!」
ひとしきり苦しんで、必死の思いで魔術で傷を塞いだ男は、何故かそれまでピクリとも動かたかったリサを見て……言葉が途絶えた。
単純にリサが割り込んできただけのだが。
「馬鹿かてめぇはよ……ああ、いや、すまぬ、馬鹿だったなぁ。ただ鋼線で切られただけなんつー阿呆みたいな事にさえ気付かないったー笑える」
「はぁ……? わいやー? どういう……」
「まあ無理もないかい? それだけ私の術に完璧にハマってたっちゅーこったな。
で、お前さんは一体何処の外道魔術師じゃ?
吐けい、まさか、天の智慧研究会つー事はないだろうに、何処だい? とっとと情報はきんさい」
「はははっ、君はどこまで知っているんだ? はっ……もしかして! ボクを元々好きで追ってたストーカーか何かかい? 正解だよ。ボクは天の智慧研究会 第一団 《門》の一人、そして君、ボクが劣勢だとどこか勘違いしてないかな? ボクはまだいつだって君に呪詛を掛けられ……ッ!」
再び何かをしようと少し動いた男に無数の傷が刻まれる。
何故切れたのか、男はその理由を知るはずなのだがどうやろうとも思い出すことは叶わない。
まるでその存在にモヤがかかったかのような、その事を思い出そうとしても意識が向かず散開する。
魔術の中には記憶の封印という物もあるがそれとはもっと別物。
「はぁ? お前なんかが、よーく天の智慧研究会に入れたなぁ。……まー、
軽い口調で言ったリサが再び指を弾くと両腕を失った男の四方に札が一枚ずつ浮遊、回転を始める。
更に男の頭上に一つ、人型が出現すると、それに向けて存在が引っ張られるような錯覚に陥る。
「いんや、錯覚じゃなくてじーじーつーだぜぃ」
如何なる方法を持ってして、男の思考を読んだのか、考える暇もなく。
男は、男の魂は、肉体の死という現象と共に人型へ吸い込まれて行った。
男の死亡とともに崩れていくこの世界。
その中、男が吸い込まれた人型を指に挟み、リサは笑ってこう言った。
「そういやー、私の
今回のこの騒動、その概要は何とも単純。
男は自分の固有魔術の強化の為に、まず、空き家だったこの家に適当な、街で捕まえた娘を連れ去り、強姦した。
娘が男を本気で憎しみ、恨んだ所で殺害する事で、怨霊を意図的に作ったのだ。
その後も、家を買って入ってくる新しい家主を男は怨念で狂気に落として殺し、女は辱めて屈辱を味あわせて殺し。
そうやって三十と数年、家を男が作った怨霊と、男が元々連れていた怨霊、悪霊で少しづつ満たしていった。
男の歳は悪霊や怨霊達の呪詛が集まり作られた空間だったため、若々しく見えたというどうでもいい要素もあったのだがそれは置いておこう。
ともあれ面倒くさい一仕事が終わったと、家の玄関より外に抜け出したリサは、久しぶりの本物の空気を目一杯吸って、未だ血で汚れた服に頭を抱える。
その日は、未だ家に住み着いたままの怨霊共はほっておいてセリカ宅でゆっくりしたいと、いつの間にか帳が降りた暗い夜空の元、帰ったのだった。
というわけで作者もなんで始めたか分からない事故物件編は終わりです。
2話目でセリカの指さした不動産屋のチラシにあった事故物件から完全に脳内プロットですら存在しなかったという。
しかも、2話投稿した後に考えてたのは、普通に事故物件にいる幽霊をリサが未だ正体不明の眷属秘呪で捕まえて強制的に従えるだけというだけの展開だったのに、どうしてこう、ホラゲみたいな展開に?しかも伏線も展開も何もかもが適当という助けてくれ。
あとさ……知ってるか? この二次創作、原作の出来事に関わったの全体の約6分の1なんだぜ?