仮面ライダーデュオル   作:マフ30

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皆様、いつもお世話になっております。
最新話更新しました。ちょっとサブタイトルが妙なことになっていますが作者は元気ですww(サブタイ考えるのって難しいですね)

今回はタグに学園って付けときながら全く舞台となっていなかった学校パートでございます。


第5話 JKぬらぬらクライシス(前編)

 四月上旬。

 桜の花が咲き誇る、新たな始まりの季節。

 広大な敷地内に小中高と大学部が密集している城南学園も新学期に入りそれぞれの区画で新入生を迎えて、学生たちは思い思いに青い春を謳歌していた。

 ムゲンたちが通う高等部でも新しいクラス編成が昇降口に貼り出されて大勢の生徒たちで大変な盛り上がりを見せている。

 

「無事に今年も三人一緒のクラスだね」

「これで一安心だな」

「全くだ。忙しい一年になりそうだしな」

 

 2-Aのクラス名簿に自分たち三人の名前があるのを確認したカナタとハルカはホッと胸を撫で下ろした。過去に大人たちの無慈悲な策略(本人たちはそう思っている)で離ればなれにされた苦い経験があるだけに、ムゲンを含めた三人でまた一年間を過ごせる喜びは余人が考える以上に大きな物だった。

 

 

「あ、あの……双連寺くん」

「ん? おー、図書委員の。えっと、宮前さんでよかったっけ?」

「はい。いつもご利用ありがとうございます」

 

 ふと、三人の背後からムゲンの名を呼ぶ、少し上擦った声が聞こえた。振り返るとそこには藍色のきめ細やかな髪が鮮やかな、小動物系の女子生徒が立っていた。

 彼女の名前は宮前ナギコ。三人と同じく高等部二年生であり、本好きが興じて城南学園の総合図書委員に所属している、生粋の文学少女だ。

 

「えっとですね、双連寺さんがリクエストしていた本が入荷されたのでお知らせしようと」

「ありがとう。わざわざ報せてくれなくても良かったのに」

「その、わたしも皆さんと今日から同じクラスでしたので、そのご挨拶も一緒にしたかったから。改めまして、一年よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくな」

「はい。でも、前みたいに本棚の位置をずらしたりするのはダメですからね」

「うぐっ……その節は本当にすみませんでした」

「ムゲンさんはそれを除けばとても良い利用者さんですので、またのお越しをいつでもお待ちしています」

 

 ナギコはまるで著名な図書館勤めのベテラン司書のようにしゃんと背筋を伸ばして深く一礼して、挨拶をすると友人を待たせているからと一足先に校舎内へと向かって行った。

 すると彼女の姿が見えなくなるのを見計らって、カナタとハルカは興味津々にムゲンへと詰め寄り始めた。

 

「珍しい、私たち以外でムゲンに話しかける子なんて初めて見たよ」

「しかもあんな小柄でゆるふわな感じの、まるで住む世界が違う子なのに。ムゲン……なにか弱みとか握ってないよね?」

「お前らじゃあるまいし、俺はそんな悪辣な頭脳は持ってない」

 

 まるで悪魔の触角と尻尾でも生やしそうなニヤツいた笑顔で言う二人にムゲンはやれやれと一息つくと彼女との接点を話し始めた。

 

「昼飯以外は休み時間も俺は二人と大体別行動してるだろ?」

「オレたちを独占すると周りからの風当たりがキツいって理由でね。オレたちは全然気にしてないのに」

「俺は余計なトラブルはゴメンなんだよ。で、校舎の図書室や一棟建ての学園図書館にも寄るんだけど、宮前はそこらでよく受け付けやってるから、自然と顔馴染みになったのさ。彼女、本が関わると人が変わったみたいに肝が据わる感じみたいでね」

「あと、本棚ずらしたってどういうこと?」

「別に大したことじゃ……図書館の本棚と本棚の間隔が狭かったから。余裕あるほうの棚をこう、数センチ押してたらうっかり見つかってなあ」

「蛮族。脳筋。ゴリライズ。狼か野犬はまだいいけど、ゴリラ化は不味いって」

「俺は正真正銘のホモ・サピエンスだよ」 

 

 そんな会話をしながら昇降口の混雑が空いてくるのを待っていると今度はまるで熊のような大柄の男子生徒が底抜けに明るそうな調子でムゲンに目掛けてやってきた。

 

「よお、ムゲーン! 喜べ、俺たち同じクラスだぜ! 楽しくやろうぜ、マイフレンド!」

「お前も一緒かぁ、ガクト。俺は、そんな呼び方されるほど、お前と親密になった覚えはない」

 

 軽いノリで親しげにバシバシと背中を叩く男子生徒にムゲンは呆れながらも満更ではない顔で答える。

 一方で普段はその見た目と昨年のスポーツテストで明らかになった怪力振りから大半の生徒には避けられているムゲンを相手に馴れ馴れしいくら近い距離感で接しているガクトと呼ばれた生徒の態度にカナタたちは面食らっていた。

 

「細っけえこと気にすんなって! 同じクラスなら今年の体育祭は俺たち伝説作れるぜ! お、天風のツインズもいるじゃんか、あっはは! 巽ガクトってんだ、むさ苦しいかもしれねえがよろしく頼むわ!」

「あ、あぁ……」

「どもども」

「そんじゃま、俺ぁ他のツレのとこにも顔出してくるからまた教室でなあ!」

「おう、またな」

 

 まるで冬眠前の熊に出くわした心地で呆気に取られた様子のカナタがムゲンに話を振った。人付き合いはそつなくこなすが、基本的に殆どの個人というものを気に掛けない天風姉弟にとって、巽ガクトのキャラの濃さと体格に負けない押しの強さは予想外に驚きの対象だった。

 

「ムゲン……今度のあの面積広めの彼はなにかな?」

「あれもまあ、偶然知り合った顔馴染みの知り合いの一人だな。ちょっとノリが軽いし、大雑把なとこあるけど、悪い奴じゃないよ。少なくともカナタたちが毛嫌いするタイプじゃないのは俺が保証する」

「体育祭で伝説作るって言ってたけど、あからさまにパワータイプでしょ彼?」

「言っとくけど、あの図体で去年のスポーツテスト総合二位だぞ、あいつ」

「嘘ッ……オレ、負けてる!?」

「本人は動けるデブとしてカロリーの暗黒面に囚われた奴らの希望の星になるとか変なこと言ってたけど、脂肪のしの字もない筋肉だるまだぜ?」

 

 愕然としているハルカに更なる追い打ちを掛けるように面白そうにつけたすムゲン。人は見かけに寄らないをダイレクトに体験したような二人はいつもの自由気ままな風のような不思議な佇まいを大きく崩して驚くばかりだ。

 

「それにしても、ガクトねえ」

「ガクトかぁ」

 

 なにより彼の名前に、芸能界で一際存在感を示す同名の人物のことを思い出して二人はしみじみと世界はまだまだ広いなと学んだようだった。

 

「なんて言うか、パワフルな男子だったね」

「うん。ムゲンが狼なら、あっちは羆な感じだった」

「どっちにも失礼だとは思わないのかねえ、お前さんたちは?」

「いやー私たち無個性で人畜無害な一般生徒の羨望の眼差しだと思ってほしいかな」

「ハハッ! どの口が言うんだよ、二人揃ってカルピスの原液にエナジードリンク混ぜたようなキャラしてるくせに」

「失敬な。キリマンジャロの天然水で淹れたダージリンくらいの清らかさは持ってるよ」

 

 ヘビー級のカルチャーショックからやっと立ち直って教室へ向かい始めたムゲン達。多少収まったとは言え、下駄箱付近でもまだ多くの生徒たちがごった返す雑音の中で奇妙な会話が自然と三人の耳に入ってきた。

 

「ねえ、聞いた? また大学部で出たんだって例やつ」

「うそでしょ、この学園ヘンタイばっかじゃん、ウケるー」

「変態? なんのこっちゃ?」

「大学で何かあったのかな」

 

 スマホで何かの動画を見ながら大はしゃぎする女子生徒たちを不思議がっていると、堅そうな雰囲気の男子生徒が三人を気にかけたのか近頃、城南学園全体で話題になっている騒ぎを教えてくれた。

 

「君たち知らないのかい? 最近、学園全体でちょっと騒ぎになってるだよ。なんでも大学の講堂で学生が何人も下着一枚で寝落ちしているのが見つかったとか、不謹慎な話だよ」

「え、それって女性もだったり?」

「……男子学生に比べれば節度はあったそうだけど、動画も出回って一時期は大変だったらしい。火消しが迅速だったのが不幸中の幸いだったって、教えてくれた友人は言ってたけど」

「へー……春先で浮かれてんのかねぇ」

 

 大学部とはまるで接点も無かったムゲンは殆ど他人事のように聞き流して、カナタたちと教室へと向かった。

 

「おう! 来たなムゲーン! やったな席前後ろだぞ、運が良いぜ。俺がいる限りは居眠りなんてさせねえぜ? あー……俺が寝ちまったときは壁になってくれな? だっはは!」

 

ムゲンたちが教室に入るとすでに殆どの生徒たちは揃っており、特にガクトの周りには彼を慕う男子生徒たちが集まって雑多な会話で盛り上がっていた。

 

「ちょっ……ガクトくん、双連寺にそんなこと言ったらヤバいって」

「狩られるぞッ」

 

 けれど、ムゲンの姿を見た瞬間に大半の生徒が血相を変えて自分の席へと戻っていく。ムゲンが何かをしたと言う訳ではないがやはり大抵の生徒がその腹をすかせた狼染みたオーラに物怖じしてしまっていた。

 

「なんだぁ? お前らビビりすぎだろ、ちょっと顔がヒットマンみてえで、トランプの束を素手で千切る程度のバカ力なだけじゃねえか、なあムゲン」

「大きなお世話だよ。あとソウレンジとタツミなんだから運もクソもなく前後続くだろ。 寝るのは勝手だけど、言っとくがお前の図体じゃ俺なんて案山子だぞ?」

「それもそうかぁ! んじゃあ、寝てたらモーニングコールしてくれ。俺もしてやっから、闘魂注入で」

「真面目に授業受けるって選択肢はねえのかよ。あと、そのモーニングコールは却下だ。路上プロレスが始まったと勘違いされる。一応言っとくがもし決行したら、俺はグーで返すからな」

 

 そんな中でガクトは他のクラスの男子の中では唯一、ムゲンのことを恐れる様子もなく能天気で楽天家を地で行くような構えでじゃれついてくる。ムゲンの方も彼の人となりを知っているからか、大雑把な明るさには敵わないと悟っているからか、邪険な物言いこそしているが自然体な笑顔を見せて、楽しそうに相手をしていた。

 

「ふーん」

「へー」

 

 そんなムゲンの姿を自分たちは自分たちで男女問わず自然に出来上がった取り巻きたちの応対をしながら、自分たち意外の誰かと仲良くしているムゲンにカナタとハルカはなんとも複雑そうな顔をしていた。

 その日は何も起きることもなく、新たな出会いにそれぞれで親睦を深めながらムゲンたちは無事に高校二年生最初の一日を終えることなった。

 この時はまだ学園内で一人ほくそ笑む者の存在に誰も気付いてはいなかった。

 

 

 

 三日後、朝から城南学園高等部は大騒ぎになっていた。

 なんと、ある三年生の女子生徒が校舎内でどういうわけか全身をローションのようなぬるぬるの液体に塗れたまま、気絶した状態で発見されたのだ。

 

 不謹慎ながら、可愛さも美しさも絶頂期なリアルJKが顔から足のつま先まで全身が透明な謎のぬらぬら塗れで服に至ってはぐっしょりだ。透けているところは思いっきり透けて見えてしまうその状態。発見した場所に居合わせた女子は騒然とし、男子は興奮のあまり歓声に沸いたのも事実だ。良心は抹殺されて煩悩のままに画像、動画撮影した者も一人二人ではない。

 天国と地獄が一緒に押し寄せたようなそのセクシーでコープスな事件は一瞬で学園全体の大ニュースとなった。

 

「なんかすごいことが起きちまったな」

「うーん……明らかに不可解だけど、これメタローの仕業かな?」

 

 緊急の全校集会。

 とはいえ、件のぬらぬらJK本人も何が起きたのか覚えていない。どうして学校の校舎内にいるのかも分からないの一点張りでパニックになっているそうで、学園側からは学生らしく節度と常識のある行動を心掛けるようにと注意を促すような話が伝えられただけだった。

 

 食堂棟の片隅で昼食の合間に話し合うムゲンたちはメタローに関連した事件とも考えたが余りにも毛色が違う今回のケースに困惑するばかりだった。

 

「ハルくんのことには何か情報来てないの?」

「いまのところはまだ何も。噂のぬるぬるの先輩がパニックになってる動画が流れてくるだけ」

「男子はさー自分がパンツ一丁のぬるぬるで放置されたらって考えたことあるのかな、全くもう」

 

 恐らく、その場にいた殆どの脳細胞が一時的に下半身にお引っ越ししていた男子生徒たちにカナタは鼻息荒く憤慨した。

 

「まあ、エロの爆発力が人類の発展を支えたのも事実だから、大目に見てやってよ。それに動画を見る限り、女子も動画撮ってる生徒はチラホラいるね」

「はあ? 野郎が実用のために撮るのは分かるけど、なんで女子までそんなことするんだよ?」

「ちょっと待ってな……SNSも同時進行でチェックしてるんだから。ああ、なるほど」

 

 場所が場所故に無音かつ他人から横見されないように視線を高速移動させて流れ込んでくる掻きこみをチェックして、ハルカはこれまたしょうもなさそうに溜息をついた。

 

「この先輩、見た目が良いから結構遊びや交友関係も派手だったみたい。頭の悪い表現するなら陽キャのパリピ勢って感じ?」

「カースト上位のリア充をそうじゃない女子たちが嫉妬や株下げるために動画拡散ってわけか? 浅ましいやら、怨讐深いのやら」

「ホント、くだらない。そんなことするなら自分を磨く方法の一つも考えればいいのに」

 

 実際、自分が思う最高の自分を作り上げるために毎朝一杯の黒酢や筋トレなど日々是精進なストイックな生活を送っているカナタは心の底から軽蔑しているような声で呟いた。

 

「新学期早々に穏やかじゃないけど、オレたち絡みの事件性は……」

「ん? ハルカ、どうした」

 

 リピート再生される動画を閉じようとしていたハルカだが、ふと気になる物を見つけて、無言になって液晶画面を凝視し出した。

 

「いや……変なカードみたいなものがぬるぬる先輩のそばに見えたから、メモリアかと思ったんだけど、どうも違うな。なんかの店のカードかな?」

「そうじゃないの? 仮にもホストクラブや夜のお店の名刺だったら、もう大問題になってるでしょ?」

「だな。まあ、早いとこ騒ぎが収まってくれるのを願おうぜ」

 

 この時のムゲンのささやかな願いとは裏腹に、あろうことか城南学園高等部では一週間のうちに同じような事件が立て続けに三件も起きてしまった。

 事件の当事者となった女子生徒はいずれも見た目が良く、周囲からの人気も高い所謂上位カーストというカテゴリーに入るような、順風満帆に学校生活を送っている生徒ばかりだった。

 

 普段の素行は生徒によってまばらではあるが、過去に目立った問題を起こす程の経歴の者はおらず、最初の女子生徒と同じように何がどうなっているのか本人も分からないと言うばかり。

事件を調査している教員たちも完全に手詰まりとなり、世間体を気にすることも限界が近く警察に本格的な調査を依頼するという噂が生徒たちの間でもまことしやかに囁かれつつあるそんなある朝のことだった。

第五の事件は最悪の形で発生してしまった。

 

 

「嘘だろ……こんなのありかよ」

 

 救急車の赤いランプの光が一定間隔で視界を遮り、壊れたラジオのように男女の区別なく様々な声と言葉が絶えず耳に流れ込んでくる喧騒の中でムゲンは図書室がある校舎のすぐ隣に建てられた特別棟裏の軒下に割れたガラス片を被って倒れている宮前ナギコと巽ガクトの姿を愕然とした様子で見つめていた。

 

 それは朝のHRが始まろうとしているのにまだ登校してきた気配のない二人のことをクラスメートたちが噂している時だった。突然、他のクラスの生徒が2-Aに駆け込んできて『ガクトとナギコが揃って特別棟の裏で倒れている。図書室前の廊下の窓が大きく割れていたから、そこから落ちたのかもしれない』と衝撃的な一報を持ちこんだのだ。

 

 教室内はまるで火薬が一斉に爆ぜたような驚きと恐怖の騒音に包まれた。そのパニックの中でムゲンはカナタとハルカと一緒になって大急ぎで事件発見現場へと向かい、嘘のような本当の光景を目の当たりにしてしまった。

 

 特別棟の裏手には連絡を受けて駆けつけた救急隊員や警察の他に既に多くの生徒による人だかりが出来ていた。けれど、血相を変えて走ってきたムゲンの剣幕に驚いて自然と道が開けたおかげで、三人はムゲンを先頭にまるで海を割ったモーセのように事件現場を最前列で見ることが出来た。

 

 意識の無い二人はムゲンたちが特別棟裏に到着してすぐに救急車に乗せられて搬送されていった。幸いなことにガクトがナギコを庇うように強く抱きしめたような体勢で落下して、ガクトが咄嗟に受け身を取ったことで微かな裂傷こそあれど血塗れの惨たらしい状態ではなかったようだ。けれど、二人が落下したと思われる場所にはハルカが先日動画内で見つけた不思議な魔法陣のような物が描かれたカードと同じ物が落ちていたのを三人は見逃さなかった。

 

 さらに過去の四件とは違い。今回は事件の真相究明に繋がる、幾つかの手がかりが残されていた。まず第一に何故か鍵が開いていた図書室からは大容量のローションが置かれっぱなしになっていたと言う。そして、学校側から連絡を受けたガクトの家族に寄ると昨夜ガクトは家には一度も帰宅しておらず、さらにバイトも急用が出来たからと急な断りを入れて休んでいたのだと言う。

 

 これらの事実から、誰もが巽ガクトが一連の事件の犯人だったのではと言う疑念を持って当然の状況が完成してしまっていた。

 恐らく、ナギコを夜の図書室に誘い出して乱暴しようとしたところで誤って二人とも二階から落下してしまったのではないだろうか、という憶測が誰にでも組み立てられてしまう。

 新学期早々に起きた衝撃的事件と思わぬ人物が容疑者として浮上したことによって、2-Aはおろか高等部全体を例えようのない不安で震撼させた。

 

 

 

 

 

 

 第五の事件の発生と、思いもしなかった容疑者が同校の男子生徒という、始まって以来の事態に城南学園高等部は教職員達の緊急会議のために全クラスで午前中までの自習となった。

 事が事だけに軽はずみに騒げずにほぼ全ての学年とクラスが異様なほどの静けさに包まれている中で2-Aの教室だけは張り詰めた緊張感が漂っていた。

 

「どう考えても、あの巽が犯人でしょ! 先輩たちも全部あいつの仕業だったんだよ! 最低、マジで変態のクソ野郎じゃん!」

 

 一人の派手な見た目の女子生徒、沼倉がガクトを犯人と決めつけて、クラス委員長の制止も効かずに怒鳴り散らしていた。どうやら、最初の被害者の上級生とは仲の良かった間柄のようでそれだけに犯人には強い怒りを抱いていたようではあったが、まだ警察の調査や重要参考人の域でしかないガクトへの言葉としては些か言葉の過激さの度が過ぎていた。

 

「よく知らんけど、あいつ一年の頃から女子にモテたいとかずっと言ってたんでしょ! どう考えてもそれ犯人で決まりみたいなもんじゃん! 性欲おばけかよ、レイプ魔じゃん! そうだよね、ちがう?」

 

「た、たしかに巽くんってちょっとデリカシーないとこあったよね、ね?」

「二月のバレンタインの日も義理でいいからチョコくれとか騒いでたんじゃなかったけ? わたしクラス違ったからよく知らないけど?」

 

 八つ当たりがしたいのか、それとも同調圧力でも掛けて自分の考えた結論の支持を求めたいのか、そんな風に威圧的で独善的な言葉の数々をぶちまける沼倉。そんな彼女の言葉に感化されるように、クラスの女子たちはひそひそと普段は気にも留めないような冷静に考えれば犯行動機にもならないことを言い出し始めた。

 それでいて、誰もが矢面には立ちたくないのであくまで匿名希望という都合のいい言葉の盾に隠れて安全圏からの誹謗中傷は見苦しささえも感じられる。

 男子生徒たちはそんな一部の女子生徒たちの姿に憤慨して、険しい表情を浮かべるものの、状況と言う真実がある手前、誰も強く反論できないでいた。

 

「ねえ! ケーサツになんか聞かれたらみんなしてガクトは怪しかったって言おうよ! じゃなきゃ、先輩やみやなんだっけ……あいつも可哀そうじゃん! そうでしょ!」

 

 沼倉はまるで自分が教室の女王か真実の番人気取りな様子で我が物顔での振舞いを省みないばかりか更にエスカレート。後先のことなど知ったことかとばかりにそんな強要染みたことまでクラスメートたちに提案し始める始末だ。

 

「ガクトじゃない。あいつはそんな姑息な策なんて思いつけない」

「仮にそうだとしても、状況証拠が揃いすぎてるだろ? 下手に庇ったら、マジでムゲンの居場所まで無くなるぞ」

 

 沼倉の演説めいた根拠のない誹謗中傷を続ける傍らでムゲンとハルカは小さな声でやり取りを交わす。

 

「ハルカ、頼む。ちょっとだけでもいいから、あのバカ女黙らせて、ガクトが犯人みたいな流れを抑えてくれないか?」

「無茶振りにも程がある……それに言いたきゃ自分で言えばいいじゃんか」

「俺が言っても焼け石に水だ。むしろ、余計に状況が悪くなるって忠告してくれたのはハルカの方だろ?」

「……どういう風の吹きまわしなのか、洗いざらい後で教えてくれよな」

「もちろんだ。――ごめん。ありがと、ハルカ」

 

 滅多に見ないどこか他人行儀で殊勝なムゲンの態度に只事ではないこと、自分は詳しく知らないが巽ガクトは犯人ではないという十分過ぎる確証を感じたハルカは誠実さを溢れさせたような声を教室中に行き渡らせながら、凛々しい面持ちで立ち上がった。

 

「ちょっとみんな落ち着こう。警察だってまだ巽君や宮前さんとも話してない状況で下手に素人のオレたちが探偵の真似事をしても迷惑になるだけだと思うんだ。それよりもまずは二人の無事を祈る方が先じゃないかな?」

 

 そう言って、切り出したハルカは悪目立ちしている沼倉が反論する余地を与えずに矢継ぎ早に、仮に巽ガクトが犯人だったとして先んじて大学部で起きていた似たような事件との関係性の不可解や、いままでは人通りのある目立つ場所で発見されていた状況と今回の発見現場との違いなど落ち着いて考えればすぐに見つけられる差異などを分かりやすく真摯な口調で説明した。

 

「そういえばそうだよな! いままでは昇降口とか登校や朝練で絶対に通る場所だったのが今回は天風くんが言ったみたいになんか変だよ!」

「こんなこといったら失礼だけど、ナギコさんってこれまで事件に遭った娘みたく派手でもないし、真面目で大人しい子だよね」

「うん。好みの女の子狙ってたのならジャンル違いでおかしいよね」

 

 クラスの中心人物ではないが、一年生の頃から注目されて男女問わずに人気が高いハルカの落ちついて考えようという鶴の一声は見事に作用した。多くの生徒たちが過去四件と今回の事件の内容を比較して、ちょっと落ち着いて考えれば簡単に解けてしまう間違い探しのような明確な違いに気付いて口々にガクトの犯人説に疑問を呈し出した。

 

「い、いや……でも、実際に巽のやつがあの子と一緒に倒れてたのはハルカくんも見たんでしょ!? じゃあ、やっぱり一番怪しいのは巽じゃん」

 

 一方の沼倉は自分の天下だった教室の流れが一変したことと、内心悪くないかもと異性として狙っていたハルカがまさか自分の主張に異を唱えるとは思っておらずに明らかに動揺していた。だが、往生際悪くまだ自分の怒りと屈折した正義感の正当性を主張しようとしていた。

 

「え……うそ! なにこれ、やだっ!」

 

 そんな時、突然一人の女子生徒が場の空気を破るように大きな悲鳴を上げて席から飛び上がった。

 

「天風さん、どうしたの!?」

「みんな、ちょっとこれ見てよ! ほら、これ!」

 

 悲鳴の主はまさかのカナタだった。

 これにはハルカの大立ち回りに内心ガッツポーズをしていたムゲンも息を呑んだ。

 何故なら、彼女がクラスメートにこれ見よがしに手にしていた物は既にSNSや生徒間の噂話などから情報が出回り、過去四件の現場と今回の事件現場に落ちていたことが公になっているあの魔法陣が描かれたカードと同じものだった。

 

「机の中に入ってたんだけど、こんなの私が朝教室に入った時は入ってなかったよ! ねえ、誰か何か知ってる人いないかな?」

 

 手を微かに震わせて、怯えた顔で教室にいる者たちに悲痛な顔で尋ねるカナタに答える者は誰もいない。あちこちで、青ざめた顔をして生徒が何人か首を横に振って知らないと伝えているので精一杯だ。

 

「ねえ! お願い、誰か私の机の近くで変なことしていた人見かけてない? 今日は結構早くから学校にきてたんだけど、お手洗いに行ってた間とか何か見かけていた人いない? 誰もいないの!?」

 

 いつもの快活さも、晴れた空のような笑顔も曇らせて、次の標的はお前だと宣告するような不気味なカードを机の中に仕込まれて怯えるカナタの姿に男子はおろか女子たちも胸を痛めた。

 趣味の悪い悪戯なら度が過ぎているし、もしも本物――すなわち犯人がこれまでの現場に残したカードと同じ物だと言うのなら、ガクトは冤罪。濡れ衣を着せられているということを暗に示している。

 

「本当にいないんだね、そっか……うん。私はみんなを信じるよ、急に騒いでごめんね」

 

 そう、少し涙声になりながらみんなに謝るカナタの姿にクラスメートの殆どが胸をしめつけられる思いだった。沼倉とその一派なのか最後までガクトに疑いの眼差しと侮蔑を向けていた少数の生徒たちも気の毒そうな顔を浮かべている。

 カナタはそれを瞬時に一瞥して、変わった反応をする生徒が教室の中にはいないことを確認すると不安から弟であるハルカの傍に身を寄せるように思わせて、おもむろにすっかり支持率が暴落した沼倉の近くまで歩いた。

 

「でも、それならこのカードはみんなと一緒に外に出た間に誰かが私の机に入れたってことだよね?」

 

 その声色、鋼の剃刀のように重く鋭い調子となって。

 その双眸、弾丸を装填した銃口のように仄暗く、冷たくなって。

 

「なら、これを仕込んだ真犯人は少なくとも巽君じゃないのは決まりだよね? 違うかな」

「あ、あぁ……そう、じゃないっ?」

 

 道化のように口元だけをにこやかに緩めて、有無を言わさぬ静の威圧を纏った笑顔で自分を見上げてくるカナタの凄みに気圧された沼倉は完全に先程までの気勢を削り取られて、引きつった声で同意した。

 カナタはそんな彼女の焦りに満ちた目から決して視線を逸らすことなく、笑顔のまま睨みつけながら、先程からずっと喧しい雑音を垂れ流し続けていた口に封をするように人差し指を当てた。

 

「あと、もう一つ……そろそろ、黙りなよ」

「ひ……! ぁっ……はい」

 

 語気は柔らかで、声質は心地良い。けれど耳元でぞわりと反響する明確な怒りの籠ったカナタの囁きに、沼倉はトドメを刺されたかのように言葉にならない悲鳴を漏らして大人しく椅子に座るとその後は一言も口を開かなかった。

 

 完全に流れを変えた天風姉弟の声掛けにより、2-Aでは余計なことはせずに事態を警察などプロの専門組織に委ねて、意識不明のまま搬送されたナギコとガクトの無事を祈ろうという結論で纏まった。

 

 そんなことをしているうちに担任教師が会議から戻り、生徒たちは午前で下校と言うくだりとなった。帰り際にカナタはそれとなくカードについての報告をすると更なる予想外の事態に頭を抱える担任に対して、教職員達の負担を痛いほど理解している模範生徒の顔で悪戯の可能性もあるので親類の警察関係者に個人的に相談してみるので学校側には伏せておいて欲しいとさり気なく頼み込んで余計な介入を防ぐとハルカ、ムゲンと連れ立って早々に下校した。

 

 

 

カフェ・メリッサにて――

 

「そんな感じで大変でしたよ。まあ、こっちもあの騒々しい人に一発かましてあげたのでそこはすっきりしたけどね」

「災難でしたね、お三方。でも、その事件ますます気になりますね」

 

 午前の営業時間が過ぎて、準備中のメリッサの店内でカナタはクラシカルなメイド服姿のクーに学校で起きた事件の詳細を語り終えたところだった。

 

「クーさんもやっぱり、そう思います? で、そろそろ話してもいいんじゃないの、ムゲン?」

「ああ、クーさんもいた方が良いと思ったから帰りの道中も何も聞かなかったんだぞ」

 

 僅かに不服そうに眉間にしわを寄せてカナタとハルカはずっとスマホを弄って何かの調べものをしていたムゲンに詳しい事情を話すように催促した。

 

「教室でハルカに言ったみたいにガクトの人柄考えて、ありえない――だけじゃ二人も納得しないだろうから、ちょっと付け足すが一応他言無用にしといてくれるか」

 

 ムゲンはそう断りを入れてから話し始めた。

 

「あいつの家、親父さんが病弱らしくてな。早いところ一人前に家庭を持って安心させてやりたいし、実家も支えてやりたいって話してたんだよ。そんなやつがあんな短慮なことはしないだろ」

「ふーむ、筋は通るよムゲン。でも、あの後ちょっと小耳にはさんだけど、巽君が結構女好きというか軟派な感じでよく女子に声をかけてたのは本当のことみたいだし、それだけで鵜呑みには私は出来ないかな」

「だと、思う。俺もあいつの家の事情はガクトが勝手にベラベラ話してきたことだから、それだけならあそこまで頑なにはならなかったよ」

「というと、まだ何かあるんだな?」

 

 クーがサービスで淹れてくれた出涸らしの紅茶を飲みながらムゲンは昨年出くわしたある出来事を話し始めた。

 

「たまたまガクトと一緒になった昼休みに、チャラい大学生たちに絡まれてる女子を見かけたことがあってな。俺の目から見ても超可愛い女子だった記憶がある。でだ……俺がどうしよかって思ってたら、ガクトが一目散に駆け出して、腹ぁ空かした熊みたいな迫力で大学生共を追い払ったことがあった。そしたら、助けられた女子はよ、顔真っ赤に蕩けさせて如何にもいまので惚れちゃいましたな感じだよ」

「実は内緒で付き合っている彼女がもういたから、白だと?」

「いいや、ガクトはその女子の身を案じて、心配したり慰める言葉ばっかりかけて人通りの多い場所まで送ってそれっきりだった。彼女になってくれどころか、変な男に捕まらないでイケてる彼氏見つけろよ。だなんて一言余計なことまで去り際に大声で言ってたよ」

 

 お人好しと言うべきか、人が良いガクトの姿を思い出して、ムゲンは小さく肩を竦めた。だがすぐにムゲンが話すガクトについての証言に矛盾を感じたカナタたちは揃って首を傾げて、口を挟んだ。

 

「ちょっと待って、ムゲン。早く結婚したい巽がムゲンにも分かるくらい好意を向けてくれている女子に、しかも見た目も可愛いそんな子に口説き文句言わないなんて変だろ?」

「おう。だから俺も言ったよ……あの子逃がしたら、お前一生独身かもよって」

「オレだったら、ムゲンに言われたくないって即反論するだろうな」

「ほっとけ。したらよ、ガクトの奴なんて言ったと思う?」

 

 どこか敵わないなと羨望の眼差しを向ける様な口調でムゲンは続きの言葉を紡ぎ出した。

 

「あの子はその場の空気に酔ってまともに自分を見てれてない。そんな時に恩着せがましく彼氏面するのはダサいことだ。もしも、あの子に惚れて彼女になって欲しいなら正々堂々とぶち当ってハートを掴んでこそイケてる男だろ……だってさ」

 

 あんまりにも真っ直ぐで自信に満ち堂々とした立ち振舞いだったガクトの様子を思い返してムゲンは思わず小さく吹きだしていた。

 

「もう分かったと思うけど、ガクトって男は行動の基準をイケてるか、ダサいか決めてる節がある。そして、そのイケてるとダサいの判別は限りなく真っ当で善良なものだと思うよ。だから、あいつはやってないって俺は思ったんだ」

 

 言い終えてからしばらくするとムゲンは更に若干気まずそうな顔で続けた。

 

「まあ、あれだ……結局のところ、理論的な証拠なんて一つもない、俺の主観での判断だ。ただ、それでも敢えて言わせてくれ。俺はゲス野郎をぶちのめす力はあるけど、そいつを表舞台に引きずり降ろす知恵はお粗末なもんだ。だから、二人にとっては他人のあいつのためなのは承知で俺に力を貸してくれ」

「何を急に改まって言うかと思えば、ムゲンこそ春の陽気で本当に頭がクラムチャウダーにでもなったのかな?」

「巽のことはよく知らないけど、ムゲンの頼み事をオレたちが断る理由があると思ってるのか?」

「ありがとな二人とも。急がないと、いくら男子達には慕われていても人の悪評はあっという間に広まって収拾付かなくなる」

 

 カナタとハルカにとって、友人と知り合いの境界線の分厚さを理解しているからこそ、どこかで躊躇いがあったムゲンの不安を杞憂にするように二人はシンクロした動きでグッと親指を立てる仕草を決めると大船に乗ったつもりでいろと強気な笑みを見せつけた。

 

「それに私のとこにもカードがあるんだから、もう他人事じゃないからね」

「あれには本気でビビったぞ。でも、カナタが偶然あの場で机の中にカードがあるって気付いてくれたお陰で教室の流れも変えられたからな。不幸中の幸いだよ」

 

 教室内で起きてしまった第六の犯行予告と考えていい、不気味なカードの出現。

 カナタの身を案じれば危惧すべきものだが、先の状況では一発逆転の武器になったことも事実なのでムゲンは複雑な顔を浮かべた。

 しかし、一番不安な心境のはずのカナタは何故か急に目を泳がせて、困ったような苦笑いをしはじめた。

 

「たはは。実はあれさ……狙ってたんだよね」

「どういうこと?」

「いやーこの変なカードなんだけど、実は最初のJKぬらぬら事件が起きる二日前から私のところにあったんだよね」

「はあああああああああああ!?」

 

 寝耳に水なカナタの告白に今度はムゲンが驚いて飛び上がった。

 ハルカの方はというと、双子の姉のリアクション具合から彼女が何をしてこういう状況になったのかを何となく察して、質問を投げかけた。

 

「カナねえ、念のため詳しい説明を求めようか? いつ、どこで、誰が?」

「誰かは不明。いつかは先に言ったように始業式の二日後に私の下駄箱にね。ただね、私ったら他の女子たちの間で流行ってるメッセージカードかゲームの類かなーって思ってね。興味なかったし、本当に大事な用なら直接声かけてくるでしょって思ってさ、その日の朝のうちに学校の机の奥に突っ込んでそのままだったんだよね」

 

 カナタのイメージとは想像がつかないズボラな対応にムゲンとクーは開いた口が塞がらなかった。当のカナタ本人も自分のあんまりにも興味のないことへの雑な対処に顔を上気させて照れ笑いを浮かべていた。

 

「カナねえって昔から流行りモノとかに弱いというか、本当に無頓着だもんね。我が道を行くを全力で実行しているみたいな」

「なんにしても、あれだ……カナタがハッタリかましてくれたお陰で可能な限り、ガクトの誤解と悪評は抑えられたんだ。これは本当に奇跡に近い」

 

 まさに思わぬ幸運を呼び寄せたカナタの行動と未だ正体不明の魔法陣が描かれたカード。そのカードをまじまじと見つめながら、ずっと三人の話の聞き手になっていたクーが急に口を開いた。

 

「――カナタさん、そのカードちょっと見せてもらっていいですか?」

「え、ええ……どうぞ」

「ほっほーう。今度はムゲンさん、メモリアどれか一枚貸して下さいな」

「分かりました。けど、急にどうしたんですかクーさん」

「魔術師の勘なんですけど、この魔法陣みたいな模様どうにも気になりまして」

 

 カードを手に取り目を凝らして観察し、続いてライダーメモリアと比べたり、二枚を近づけたり離したりとまるで検査実験みたいな動作を繰り返したクーはうんうんと頷くと真面目な表情で三人に告げる。

 

「ビンゴ! 微かですがこのカードにメモリアが共鳴するような反応があります。そして、その際に魔力の気配も起こりがありました」

「ってことはつまり――」

「はい。このカードは別のライダーメモリアを起因とした力を付与された簡易的なアーティファクトモドキのようなものです。この魔法陣の様式からしてそうですね……空間と空間を繋ぐ効果辺りでしょうか、分かり易い言葉で説明するならワープの類です」

 

 普段はおちゃらけていて、浮世離れしているところもあるがアーティファクトのような不思議な道具や装置のことになれば、魔術師の顔をばっちりと見せるクーの観察眼は見事にこの謎めいたカードの正体をほぼ解析してみせた。

 

「でも、メモリアってムゲンというか仮面ライダーじゃなきゃ使えないんじゃ?」

 

 カナタの疑問に先月の戦いを思い出したムゲンとハルカはハッと顔を見合わせた。

 

「いや……例外についこの間、出会ったばっかりだ」

「あの戦車男だな。これでメタローが関わってる可能性も出てきた」

 

 以前戦ったタンクメタロー。あの怪人もどういう経緯か手に入れたライダーメモリアで能力強化をした状態で活動していた。同じことが二度起きたとしても不思議ではない。

 

「なんとなく、事件解決の糸口が見えてきた感じですね。聞いていた限り、先に大学で発生していた事件と、お三方の学校で起きたぬらぬら事件と微妙に違うのが引っ掛かりますけど」

「模倣犯とか色々と考えられるけどまずはオレたちの学校で起きている事件を優先しよう」

「そうだな。ガクトが目を覚まして二、三日もすればすぐに警察の事情聴取が始まる。その前に速攻で犯人とっ捕まえないと元も子もない」

「けど、クーさんのおかげで最初に考えていた方法で何とかなりそうかな?」

 

 一刻の猶予もない緊迫した状況だが、三人の顔はどこか明るかった。

 まるで迷い込んだ迷宮の地図でも見つけたような希望を掴み取った構えである。

 

「はえ? 私何かしました?」

「このカードが何なのか突きとめてくれたじゃないですか? まさに魔術師さんの凄ワザです」

「にひひ、うれしいこと言ってくれるじゃないですかぁ。でも、それと事件解決とどういう繋がりが?」

「元々、事件が学校で起きている以上は犯人も学校に必ず姿を見せるはずだから先手を打ってこちから乗り込む算段だったんですよ。ただ気掛かりだったのがこのカードに予告状以上の意味があったのかってポイントでした」

 

 自分が思わぬ功労を挙げていたことに満面の笑みで舞い上がるクーにハルカが自分たちが練った作戦を説明し始めた。何を隠そう、今回はまだまだ彼女にも協力してもらう必要があったからだ。

 

「その不確定要素を消してくれたのがクーさんのファインプレーです。たぶん、犯人は事前にこのカードが目星を付けた女子生徒の持ち物になるように細工をして、強制的に夜の施錠された学校に転移させたんだと思います」

「カナタは机の奥に入れたまま忘れてたから、何も起きなかったみたいだしな。不思議がって興味本位で手元に置いておかないと意味がないって言うのは随分と博打にみえるが」

「どういう意味があるのかは知らないけど、ぬるぬるにしたい相手は他にもいるからカナねえ一人に拘る必要はなかったと考えるのが妥当だろうね」

「欲張りな奴だな。ところでカナタ、もう一つちょっと頼みがある」

「どうしたの? にしても遅いな。そろそろ準備完了してもいい頃だけど……お、来たね」

 

 ムゲンからの頼み事を聞きながらカナタが腕時計を確認していると裏口から誰かが入って来る物音がして、三人は待っていましたと立ち上がる。

 

「イヤァオ! 待たせたわねぇ、子猫ちゃんども! ド変態異常性癖者に社会のルールを教えてやろうじゃないのよ!

 

 美麗な歩きで姿を現したのは何故か警察官の制服に身を包んでルネサンス彫刻のようなポージングを決めるシスターこと、カフェ・メリッサ店長の有栖川ユキヒラであった。

 

「げえー、シスター! なんですかその格好!? その歳でコスプレはキツイですって!」

「キツかねぇって! そもそもアンタ、あたしの年齢知らないでしょう。それに御覧なさいこの制服の完成度、我ながら会心の出来だわ」

「え……それ、手作りなんですか? ご、ごめんなさい、私ますます寒気が……」

「言ってなさいな、半人前のファニーガール。あたしは物作りにおいてはジャンルを問わない万能の天才なのよ。そうね、現代のアルキメデス、あるいはダ・ヴィンチと呼んでもいいのよ、クーちゃん」

 

 そういって、麗しのポーズを決めるシスターからはダビデ像やミロのヴィーナスに匹敵する神々しいオーラが溢れるようだった。

 

「シスター。無理なお願いを引き受けてくれてありがとうございます。他に頼れる人がいなかったので」

「俺からも、本当にご迷惑おかけしますが力を貸して下さい」

 

 どう見ても三十路後半はいっているだろう、屈強な古代ローマ人ルックな成人男性のコスプレにドン引きしているクーを尻目にカナタやムゲンは今回事情を説明して夜の学校への同行を快諾してくれたシスターに感謝の意を示した。

 

「そうネ。本来なら、あたしは親御さんから大事な子供を預かる保護者代理としてあなた達を諌める義務と責任があるわ。けれど、揺るぎない熱意と信念で走り出したティーンエイジャーの往く手を阻むほど、あたしは無粋じゃないし、出来たオトナでもないだけよ。気にしなさんな」

 

 打ち明かせない秘密と譲れない使命があるとはいえ、今回は無関係な人物に無理難題を押し付けてしまったことに一際罪悪感を覚えている三人。その内情を察してかシスター釘を刺しながらも、その行動力と意思の強さを穏やかに激励した。

 

「そもそも、あたしも十代の頃は色々と暴走したもんよ。それをあんた達の代ではやらせないというのも理屈に合わないでしょ? 任せなさい、あんた達には元FBI捜査官のこのあたしがついているわ!」

「ん? んんん!? FBI!? 捜査官!?」

 

 安心感を覚えること半端ないシスターのグッドスマイルに流されかけた驚異の前歴にクーは珍妙な唸り声を上げてシスターの顔とムゲン達の顔を高速で見返した。

 

「クーさんのリアクションは分かります。正直、オレたちも半信半疑ですけど」

「この人はシスターだ。それだけで奇跡を起こしてくれそうな凄みがあるだろ?」

 

 密かに洗脳でもされてるんじゃないかと思うほど、シスターに絶大な信頼を寄せた顔をしているハルカとムゲンにクーは少し頭を抱えたくなった。そして、カナタが担任を納得させるために言っていた親類の警察関係者という単語にふと嫌な予感がよぎる。

 

「あの、カナタさん? もしかして……」

「はい。警察関係者といっても、日本のとは一言も言っていないので追及されても無問題かな? それにこのカフェ・メリッサのみんなは家族でしょ?」

「短期決戦だあ! ぬらぬらJK大好きド変態を闇の中から引きずり降ろしてやるとするかぁ!」

「おおぅ……NYを思い出して、疼きが止らないわ! あの頃はタキちゃんと組んで凶悪犯相手に随分と暴れたわね。あれ、リュウスケちゃんだったかしら?」

 

 現役時代の凄春を回想して、打ち震えるシスターにやる気満々のムゲン達三人。

 本当にこの面子で大丈夫なのだろうかと、いつもは頼りになるカナタの不敵な笑みが今日ばかりは不安に感じるクーであった。

 

 

 

 

 

 

 灯りの無い暗闇の一室。

 何者かが手にしているスマートフォンの刺激が強い光だけが闇を照らしている。

 液晶画面に表示されたSNSのタブには城南学園高等部で起きた事件に関連した様々なコメントが濁流のように流れ込んできている。

 その中には――

 

【犯人は高等部のTツミGクトww】

【今度は2-Aの天風さんのところに変なカードが送られた】

【実は3年の■■先輩の自作自演?】

【天風さん、ハルカくんや同士を率いて抜き打ちで夜の学園の見回り決行予定?】

【女主人公キタ!】

 

 などなど、ネットの世界では嘘本当が玉石のように無責任に入り混じった膨大な情報が勢いが収まる様子もなく氾濫していた。

 暗闇に息を潜めるその者は特にカナタたちの動きに関連したコメントに注視すると嫌らしく笑って、下品な舌舐めずりをする。

 

「会いにきてくれて嬉しいよ、カナタちゃぁん。盛大にお出迎えしてあげるからね」

 

 真犯人は未だ姿を闇に隠して、カナタを待ち受ける。

 学び舎を恐怖と怪奇がひしめく大迷宮に改造して。

 

 

 

 

 

 

 人気もなく、風が吹く音さえはっきりと聞こえてくるような静寂に包まれた高等部校舎の昇降口にシスターに率いられたカナタたちは無事に到着していた。

 

「へえ、こんなところまで来るのは初めてだけど素敵な学校じゃないの?」

「はい。叶うなら、学校の雰囲気も素敵な物に戻って欲しいものです」

「わざとSNSに流したオレたちが夜の学校を巡視する情報は想定通り、かなりの範囲で拡散されている。上手くエサに引っ掛かってくれているといいけどな」

「まあ、ここまできたら後はもう出たとこ勝負ですとも! 気合入れて参りましょう!」

 

 シスター、カナタ、ハルカ、クーの四人は各々意気込んで慎重に夜の学校へと乗り込んでいく。だが、その場に肝心のムゲンの姿は見当たらなかった。

 

 

 

 

 




最後に言っておく、今回は都合によりライダーも怪人も影も形もなかった。ごめんなさい(汗)

後半戦となる次回はいっぱい出番あると思いますので今後ともどうかよろしくお願いします
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