仮面ライダーデュオル   作:マフ30

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皆様、いつもお世話になっております
今週も無事に最新話更新となりました

ようやく、ずっと引っ張ってきた観察者ニューの正体解禁でございます


第8話 原典から来た異端者/ボクの名は

 魔人教団の本拠地では殺伐とした空気が張り詰めていた。

 無機質な大広間には膨大な数のメタローが浮遊して、その中央で悠々と構えるニューを取り囲んでいる。

 

『呼び出された理由は承知しているな観察者』

 

 統括長が口火を切った。

 多くのメタローが集うこの場において、唯一の人型を持つ統べし者である、彼。

 玉座に座したる、焔獄の魔人を思わせる威容と無双の力を持つ、彼。

 

「一応はね。けれど、間違った答えを述べて恥をかきたくないないから、何がキミたちの逆鱗に触れたのか改めて教えて欲しいね」

『何故、メモリアなる力をむざむざ敵に渡すような真似をした?』

「おや? 無駄に同胞を消費したことは罪に問わないのかい? てっきり、ボクはそちらをネタに糾弾されるものと思っていたよ」

『残念なことだが、我々の世界の総ての生命が等しくメタローへと昇華して幾星霜。肉の器に縛られた頃の生命の名残を捨てきれずに足並みを揃えられなかった者たちがいたのは事実だ。貴殿はそれらに一時、一瞬とはいえ存在意義と教団に属するだけの価値を与えた。それについてはむしろ、労うべきだろう』

 

 とぼけたように作り物の笑顔を貼り付けて、何食わぬ顔のニューに統括長は絶対零度の刃物のような冷酷な言葉を敗れ去った同胞たちへ手向けた。

 一つの世界の全ての生命を殆ど独断で全く新しい在り方の新種の生命へと変貌させた男の精神は常人のそれを遥かに逸脱していた。

 

『だが、しかしだ。無数の平行世界に存在して未だ抵抗を続ける仮面ライダーたち。その力を宿し、デュオルと言う新たな敵対者に力を与える道具の存在、貴殿はその件について報告はおろか独自にそれらを手に入れ、戯れのように浪費した。我々が納得する正当な理由がないのならば、ペナルティを科さざるを得ないな』

「いいとも。ペナルティの方を受けよう。そうだねえ、デュオルの首でも持ち帰ってくればいいのかな?」

『……正気か?』

 

 イエローカード相当の警告。

 いかに客員に等しい立場にあっても、見過ごせない数々の不可解な行動を罪科のように突きつけられた静かなる威嚇。それに対して、ニューはあまりにもあっさりとデュオルとの戦闘行為と言うリスクが高い選択肢を選んだ。まるで子供が一人でお使いに行くかのような気軽さのニューに統括官は疑惑の視線を向ける。

 

「まあ、そっちの方が簡単そうだからね。何より、メモリアについての独断専行は完全にボクの主義主張と趣味によるものだ。述べたところでキミたちに理解を得られるような合理的なものではないからね」

『フフッ……大きく出たな。それ程の自信があるのなら、自由にやりたまえ。だが、今回は詭計詭弁を弄して、我らが同胞を巻き込むことは許さぬぞ?』

「言われずとも、今回は全てをボク自身で執り成すさ。そろそろ、彼とじっくり遊んでみたいとも思っていたからね。あの世界に生まれた仮面ライダー、その実力を見せてもらうとするよ」

 

 体の芯から滲み出る禍々しい闘争心を抑えようともせずに、ニューは軽やかな歩調で踵を返した。

 

「では、また。吉報を待っているといいよ、ネメシス」

『――お手並み拝見といこう、■■■■■』

 

 久しく呼ばれていなかった彼自身に本来あった名前を呼ばれて、統括長はほんの僅かに押し黙った。けれど、刹那の動揺を悟られることなく皮肉交じりのお返しにニューの本来の名前を呼ぶ。

 ニューは統括長の言葉に振り返りもせずに我が道を往くようなふてぶてしさで手を振るとその場から立ち去っていった。

 

(傲慢なものだ。創造主さえも吸収したことで自らこそがオリジナルさえも超越したとでも思っているのか?)

 

 ニューの存在が教団本拠地から完全に消えてから、統括長――ネメシスは全てのメタローとの精神同期を隔絶して独りで黙々と魔人教団、ひいては高次元生命体メタローにとって最善手となる行動と選択を考え始める。

 自分たちメタローと並び立てるだけの素養を持つ完成度の生物だと判断した故に観察者という肩書を与え、同盟相手としてニューに自由な行動を許していた。

 けれど、ただ一人。オンリーワンであるが故の予測不能な彼の行動が教団にとっての獅子身中の虫になり得るとネメシスの双眸には映っていたのだ。

 

(こちらも、抑止力を示すべきか)

 

 様々な事象を考量しながらネメシスは魔人教団が誇る最大戦力である自身にとっても特別な朋友たちを招集する意思を固めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 行楽で全国が賑わう、毎年恒例のGWも今年は残すところ本日を合わせてあと二日となった今日この頃。この日はカフェ・メリッサのメンバーで近場に遊びに予定になっており、カナタとハルカの二人も店へと続く人気の少ない路上を歩いていた。

 

「GWといっても、殆どバイト三昧で終わったね。まさか、唯一の遠出になりそうなのもいつもの面々になるとは」

「その方がオレたちにとっては気楽じゃん。奇跡的にあそこにいる人たちはみんなオレたちを特別だなんて微塵も思わず接してくれる」

「そうだね。昔の二人ぼっちだった頃がちょっと懐かしく思えるくらいかな」

「いまはいまで色々と大変なこともあるけど、毎日が飽きないって、なんかいいよ」

「ハルくんに同じく」

 

 まだムゲンやシスターたちと出会う前の頃を懐かしがって照れ笑いを浮かべるカナタたち。目が回りそうな忙しさもありつつも、充実した高校生活を送れているのだと二人が噛み締めるように実感していた時だった。

 

「やあ、こんにちは」

 

 二人の往く手を塞ぐように細い路地のど真ん中に、思わず見惚れてしまうような美貌の中性的な青年が不意に現れた。

 

「は? あの……?」

「どちらの方が効率的か迷っていたけれど……よぉし、決めたぞ。キミは伝言板だ」

「ガ――!?」

 

 まるで小学生がするような無邪気で爛漫な突然の挨拶に二人が困惑するのもつかの間、中性的な青年――観察者ニューはその笑顔のままハルカの鳩尾を思い切り殴りつけた。

 短く爆ぜるような苦悶の息を吐き出して、ハルカの身体は数メートルは吹き飛ぶと背中から電柱に激突した。

 

「ハルくん!? あんた、なにして――グッ、ァ!?」

「うん。やっぱり、誘い出す餌なら囚われのお姫様でなくちゃねえ」

 

 微量の血を吐き出して、糸が切れたマリオネットのようにぐったりと崩れ落ちたハルカの姿にカナタの額にぶわっと冷や汗が浮かんだ。だが、怒りで我を忘れて思わずハルカを襲った相手に口撃することに意識が向いていたカナタもまた、加減して腹部に叩きこまれたニューの拳の前に成す術もなく昏倒してしまった。

 

 他愛ないとニューは絵画になりそうな微笑を零して、カナタを抱き上げる。

 通り魔的な電光石火の暴力にいまのカナタの脳裏は怒り一色に染め上げられて、目の前の危険に対して逃げると言う発想が出なかった。出ないようにニューに誘導されたといった方が正しいだろう。

 唐突な挨拶による天風姉弟の虚を突くことに始まり、全てはニューのプランニング通りの展開だ。強いて心配があるとしたら、先に殴ったハルカのことだ。力加減を誤ってうっかり殺してしまっていないかを確かめようとしたところ、背後で大きな物音がしてニューは足を止めた。

 

「あ、あんた! 一体何やってるんだ! 警察呼ぶぞ!」

 

 ニューが振り返った先には偶然にも通りかかったサラリーマン風の男が誘拐現場を目の当たりにしてスマートフォンを片手に自分を威嚇する健気な姿だった。

 

「いけないなぁ。ボクはこれでも気を遣って騒がしくならないように頃合いを見計らっていてあげたのに」

「う、動くな! 私はこれでも空手二段の有段しゃ……あは?」

 

 得体の知れない凄みを放つニューに尻込みしながらも男性はぎこちなく空手の型を構えて見せた。けれど、間髪入れずに下腹部から聞こえてきた肉を潰す生々しい音に愕然とする。

 

「キミを殺すことなんて、路傍の雑草を踏むのと同じくらい容易いんだ。でもね、ボクはそんな死体だなんて無駄な物を残すようなことはしたくないんだ」

「嘘だろ……あんたの手、俺の腹の中に入ってッ! そんな、冗談だよな……なあ」

「おじさん、キミの身体をもらうよ」

 

 男性の腹部の皮膚を、肉を、わざと力任せに突き破り片手を体内に突っ込ませたニューは天使のような笑顔を浮かべて、自らの能力を発動した。

 瞬間、サラリーマン風の男性は光の粒子のように分解されるとその毛髪の一本、爪の一欠片に至るまで生命全てをニューに吸収されてしまった。

 

「凡庸な情報量と能力だな。別に欲しくもなかったけれど、ボクの一部になったことを名誉に思うといいよ」

 

 何もなくなった空間にニューはつまらなそうに言う。

 最早、この世界には彼の遺体すらも痕跡として残らない。

 

「さて、とびきりの招待状を用意しなくちゃね。仮面ライダーくん」

 

 気を失ったカナタを抱え直したニューは遊園地にはしゃぐ子供のような無邪気な笑顔を浮かべて、奪い取った彼女のスマートフォンを弄り始めた。

 

 いま悪魔の饗宴が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「やっはー! シスターさんも太っ腹ですね、育ち盛りの若者たち四人も連れて美味しいお料理食べ放題に連れて行ってくれるなんてー」

「ビュッフェって言いなさいな。大体、クーちゃんアンタそんなご立派なものぶら下げてまだ育つ気でいるわけ?」

「それはそれ! これはこれですよー! 食べられる時に食べる! これ、旅暮らしの鉄則ですので! いやぁ、一族のみんなで流離っていた清貧時代が夢のようです」

「まさに花より団子ね。いいわ、食べれるもんならこのアタシが肝を冷やすぐらいの食べっぷりを見せて御覧なさい」

 

 その頃、カフェ・メリッサではシスターとクーが三人の到着を待ちながら談笑していた。ふと、クーがギギの民の仲間たちと一緒にいた頃の話を口にしたのでシスターはさりげなくビッグストライダーの話題を振ってみることにした。

 

「ところで、あんたの一族ってあんなバイクまでハンドメイド出来ちゃうの? お金出すからクーちゃんオリジナルで一台作ってもらえないかしら」

「いッ? あはは……あれはですね、友人からの貰いもので別にメイドイン・ギギの民ってわけじゃなく」

「じゃあ、誰から貰ったのよ? アタシ、すっごく気になるんだけど? もしかして、好い人からのプレゼント?」

「ぬーん……なんと言いますかあいつは――」

 

 小細工は無用と一気に踏み込んで質問を畳みかけるシスターの勢いに揺らいでクーが分かり易いぐらい動揺して、何かを言いかけた時だった。

 

「良かった! 二人とも無事だな!」

「ムゲンさーん!? ちょっと、ハルカさんどうなさったんですか!?」

「……何が起きたの、ムゲンちゃん? それにカナタちゃんはどこに?」

「一大事だ。シスター、クーさん……カナタが攫われた」

 

 気を失ったハルカを背負って、店の扉を蹴破るような勢いで飛び込んできたムゲンは怒りのあまり額に血管を浮き上がらせながら、殺気立った声で口を開いた。

 

「待ち合わせ場所にも来てない、電話にも出ないもんだから二人の家まで行く道中でハルカがぶっ倒れていて、オマケにコレだよ」

 

 怒りが振り切れると却って物静かになるタイプのムゲンは早口ながら落ち着き冷めた口調で二人の前にカナタのスマートフォンに保存されていた動画を再生させながら見せた。

 

【やあ、これをみているはずの仮面ライダーくん。初めまして、魔人教団の者だよ】

 

 スマートフォンの画面にニューが撮影した自撮り動画が流れ始めた。

 画面の中でのほほんと笑うニューは気を失ったカナタの髪の毛を雑に掴んで腹話術の人形のように傍らに侍らせるという悪趣味な演出を見せつけながら、そう名乗ったのだ。

 

「これは……」

「ウソでしょ……そんなッ!?」

 

【キミとは色々と語らいたいがこの場はスマートにいこう。彼女は預かった。無事に返して欲しかったら、この端末の地図アプリに登録してある廃墟にまでおいでよ。キミと遊びたくてうずうずしているんだ】

 

 大胆かつシンプルな挑戦状。

 これまで何度もメタローとは戦ってきたカフェ・メリッサの一同だったがこんなにも直接的にデュオルを――仮面ライダーに標的を定めた相手は初めてだった。

 何れは訪れる日が来ると覚悟はしていたがそれがあまりにも早かった現実にクーは口元を押さえて声も出せずに動画を凝視していた。

 シスターはニューの顔を一目見るや否や、いつ何時も優麗な表情に明らかに驚愕の色を浮かべて、微かに震えていた。

 

【こっちの弟くんには端末を見つけやすくするための看板になってもらったよ。生きてはいるから安心したまえ。あと、時間指定はしないけど早めに来ることを推奨するよ。退屈しのぎの玩具がちょうど手元にあるからね。それじゃあ、アディオス・アミーゴ】

 

 微笑みや高笑い、幾つもの種類の笑顔だけをまるで仮面でも貼り返るようにコロコロ変えて、挑発と煽りを重ねた末にニューは最後に嘲笑を浮かべながら慣れ慣れしく気を失ったカナタに頬擦りをして動画が停止した。

 

「そういうわけだ。ハルカを看てやってくれ、俺はカナタを連れ戻しに行ってくる」

 

 口元から僅かに血を垂らしてまだ意識を失っているハルカを静かに長椅子に寝かせるとムゲンはカナタのスマートフォンの地図アプリを起動させながら踵を返して出ていこうとする。

 

「気をつけて下さいムゲンさん。こんなことしてくるってことはきっとそれ相応の自信がある実力者だと思います」

「ありがとございますクーさん。キッチリ、五人分の礼をぶちかまして殺りますよ」

「ムゲンちゃん。お願いだから、ビッグストライダーは置いて行って貰えないかしら?」

「なに言い出すんだシスター。時間がないんだってのは知ってるだろ、なのに俺の中古のボロで駄馬みたいな速さで行けってか?」

「デュオルには空を飛べる姿あったでしょ。今回はそれを使ってちょうだい。お願いよ、この通り」

 

 激励を送るクーとは対象的に不可解な要求を言ってきたシスターにムゲンは思わず飢えた獣のような視線で凄んだ。だが、そんなムゲンの尤もな怒りと不服を受け止めてなお、シスターは食い下がった。

 自分の両肩を掴んで頭を下げるシスターに只事ではない何かを感じたムゲンも思わず黙って息を呑んだ。

 

「そうしなきゃいけない理由があるんだなシスター?」

「ええ。きっとそれはこれからに繋がる大事な力になるわ。アタシの今までの人生に懸けて、誓いましょう」

「……分かりました。代わりにこれ片付けたら、遊びに行く埋め合わせに美味いもん沢山ご馳走して下さいよ」

 

 ムゲンにシスターの言葉の真意や理由は分からなかった。

 けれど、その覚悟は偽りがないと直感で判断するとその意を汲んでビッグストライダーが収められているアーティファクトの指輪をカウンターに置いた。そして、デュオルドライバーを装着しながら足早に裏口から出ていった。

 

【スカイ!×ゴースト! ユニゾンアップ!】

 

「変身――!!」

 

【エリアルファンタズマ! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 素早くデュオル・エリアルファンタズマに変身するとムゲンは即セイリングジャンプを発動させて大空へと飛び立った。

 

「あの、シスターさん急にどうしたんですか?」

「クーちゃん……いまは黙って一緒に来なさい。アタシの家に戻るわよ」

 

 一刻の猶予もない、そんな緊迫した状況で明らかに不審な行動を取るシスターにクーは物怖じすることなく問い詰めた。

 だが、そんな彼女の言葉を受け流しながらシスターはハルカを抱き上げて大急ぎで自分の愛車の元へと急いだ。

 

「あの動画の男……吐瀉物と糞をゴキブリと一緒に釜で煮込んだような最低の屑をアタシは知っている」

「なんと!? 一体全体どういうことですシスター!」

「……クーちゃん、お互いに手の内は全部明かしましょう。そうしなきゃ、いまのムゲンちゃんじゃあいつに勝てないわ」

 

 クーを乗せ、愛車であるランドクルーザーを発進させたシスターは吹っ切れたような口調で切り出した。

 

「デュオルだけじゃ足りない。もっと戦力をかき集める必要があるわ……その為にもビッグストライダーの秘密を教えなさい」

 

 

 

 

 

 

「さむ……ここ、どこ?」

 

 冷たく乾いた風に当てられて、カナタは意識を取り戻した。

 風だけでなく、周囲の空間も足元も五月の陽気が嘘のようにそこは薄ら寒かった。

 ぼやけた視界で周囲を見渡すと、どうやらいま自分がいるのはコンクリート製の廃墟か何かの中のようだった。酷く汚れて、散らかった資材やダンボールがそれを物語っている。

 

「え……はあっ!?」

 

 割れて、隙間風が入り込む窓ガラスに映る自分の姿にカナタは思わず悲鳴のような大声を上げて、ビクリと身体を跳ねさせた。

 何故ならいまの彼女は衣服を剥ぎ取られ、淡い水色のブラとショーツのみを身に纏ったあられもない姿なのだったからだ。殴られた場所なのだろう、程良く引き締まったカナタの白いお腹の一カ所が痣になっているのが痛々しい。

 その上、いまの彼女は両手首を縄で縛られて、天井の支柱に吊るされている囚われの身だった。

 

「どうなってるのよ……あいつは?」

 

 見知らぬ男に好き勝手に服を脱がされて下着姿にされたことに屈辱と恥ずかしさで顔を紅潮させながら、カナタは深呼吸を繰り返して状況の確認に努めた。

 

「……車の音、全然聞こえない。どこまで山奥に拉致したのかな?」

 

 窓の外から見えるのは一面の山と雑木林。耳を澄ましてみても風に乗って自動車の音や生活音のようなものは何も聞こえてこない。

 そして、自分が監禁されているこの場所はどうやら何かの工場跡のようだ。それも敷地の広さとしてはそれなりに広いようで会議室のようなこの部屋がある建物以外にも生産プラントを含めて、他にも何棟かの建物が確認できた。

 

「くっ、ぅ……ハルくん、大丈夫だよね」

 

 腹部から響く鈍痛に顔を歪めながら、自分よりも酷く襲われた弟のことを心配していると、カナタの前に全ての元凶があの気味の悪いくらいにこやかな笑顔で現れた。

 

「おはよう。少々、モラルの無い歓待ですまないねえ。一応補足しておくと、キミに性的虐待の類はしていないから安心してくれたまえ。興味ないんだ」

「それはどうも。イチイチ説明するのが既に気持ち悪いんですけどね、変態さん」

「嫌われちゃったね。でも、ボクはキミのこと好ましいと感じているんだよ、その度胸も含めてね」

 

 紳士を気取っているのか、カナタの対面に腰を下ろして慇懃な口調でニューはあっけらかんと答えた。しかし、次の瞬間には鬼灯のように真っ赤な眼でカナタを観賞するように見渡して、わざとらしく嗜虐的な口調で投げかける。

 

「キミはご覧の通り、縛られた囚われの身だ。そして、瑞々しく可憐な乙女の身体はその頼りのない僅かな布切れのみが守っている。だのに、そんな口を利いて蹂躙されるとは考えないのかい?」

「ええ、考えていない。私をレイプするつもりなら、別にこんな手の込んだことしなくても手近な場所でいくらでもできるでしょ? そもそも、性行為に興味はないと言ったのはそちらでしょ。私が思うに、貴方は自分の発言を簡単に反故にするような安っぽいことはしないと思うかな」

「喝采だ! キミ、良いよ。すごく、良い。天風カナタだったね? キミという個体の情報はしっかりとボクの記憶に永劫保存しておくよ」

 

 予断を許さない緊迫した状況に身を置きながらも、冷静で理知的な推察を行うカナタの聡明さと勇気ある精神にニューは拍手を送る仕草をして、顔を輝かせた。

 

「……何が目的なの? 貴方、メタロー? それとも魔人教団のボスかなにか?」

「何故そう思うんだい?」

「恥ずかしながらメタローに捕まるのは二度目だけれど、貴方は風格と言うか……佇まいのようなものが余りにも違いすぎる。少なくとも人外なのは確かでしょう? 普通、人間が人間を殴ってもさっきのハルくんみたいに吹っ飛んだりはしない」

「お褒めいただき光栄だねえ。では、改めて――ボクの名はニュー。キミたちが倒すべき敵対者、魔人教団の観察者さ」

 

 じっと、自分を睨んだまま警戒を解かないカナタに向けて、ニューは歌劇の花形のような手振りで高らかに名乗りを上げて見せた。

 初めて接触する、魔人教団の上役と思わしきニューのプレッシャーに柔肌を晒すカナタの肢体からしっとりと冷や汗が流れていた。

 

「観察者?」

「まあ、雇われ支店長のようなものだと考えてくれれば問題ないさ。ボクはメタローじゃあない。彼らに比類する者ではあるけどね。彼ら、自分たちが全ての世界で最も優れた生命体だと思っているから、ボクのような特異事例を見過ごせないらしい。だからこそ、上も下もない同格の存在に否が応でもしておきたいのさ」

 

 とても退屈そうにニューは自分と魔人教団との間柄を簡単にカナタに教えた。複雑な面持ちで次々に与えられる情報を整理している彼女にニューはいやらしくほくそ笑んで発破を掛ける。

 

「そんなことよりも、もっと知りたいことがあるでしょう? ボクが何をしたいのか、だ」

「……ムゲンを、仮面ライダーをおびき寄せるつもりじゃないの?」

「流石になぞなぞにしては簡単すぎたようだね。その通りだよ」

「一応警告するけど、観察者さん……貴方、惨殺されるわよ。本気で怒ったムゲンはブレーキが壊れたブルドーザーだから。貴方がハンバーグの生地みたいになるまで殺し続けても可笑しくないかな?」

「へえ、穏やかじゃないね」

 

 脅しではなく、当然の帰結として語るカナタの言葉にニューは上機嫌になって口笛まで吹いてみせた。

 

「つまり、キミの弟を襲い。キミ自身をこうして拉致して辱しめたボクの行動は効果的かつ最大限に仮面ライダーを怒りで燃え上がらせたと断言していいんだね」

「当然でしょ? どういうつもりか、正直わたしにも分からないけど……ムゲンは何より、誰より、わたしたちみたいな変わり者のために本気で怒ってくれるから」

「やったね! 計画通りだ。いやぁ、実に人間の感情は容易いよ! クッハハハハハ!」

 

 初めてメタローと遭遇した時のことを思い出しながら、荒ぶるムゲンの常人離れした暴れっぷりをニューに話してみせるカナタ。

 だが、ニューはその言葉を聞くと恐れおののくどころか力強くガッツポーズを決めて、その場で小躍りするかの如き勢いで楽しそうに喜び始めた。

 高らかに声を上げて笑うニューの姿は異質を通り越して異常とも映るリアクションだった。カナタの胸中は悪寒のような胸騒ぎがし始めていた。

 

「なにがそんなにおもしろいの?」

「だって! 楽しいじゃないか、ボクのことを憎悪して本気で殺しに来てくれる仮面ライダーを子供が虫を好奇心のままに嬲り殺しにするように痛めつけてあげるんだ! 悔しいだろうな、辛いだろうな、想像しただけで気が狂ってしまいそうだよぉ」

 

 声にこそ、昂りが盛られているが美しい笑い顔はそのままにニューは滔々とささやかな夢を語って聞かせた。

 

「ボクはね、ハッピーエンドが大好きなんだ。ボクによる、ボクのだけの、ボクのためのハッピーエンドさ!」

 

それはあまりにも醜悪で、あまりにも危険で歪みきったとある一匹の怪物の願いだった。

 

「あと一歩で届くかもしれない。もう少しで勝てるかもしれない。ほんのちょっと我慢すれば救われるかもしれない。そんな絶体絶命の窮地に輝く人間の意思による大きな力……そんな筆舌に尽くし難い奇跡をギリギリで踏み潰して台無しにするあの快感はきっと美女千人を一夜で抱くよりも心地良いものだ。クセになるんだよ」

「……馬鹿げてる」

「そうでもないと思うよ? キミたち人間だって、ギャップ萌えだっけ? 特にキミぐらいの年頃の若い個体たちはそういう様々な事柄や人物の落差ある一面や出来事に無上の喜びを感じるそうじゃないか? ボクの密やかな娯楽である悦楽も似たようなものさ」

「ふざけないで!」

 

 理解不能にして看過不可能な狂気の趣向を曝け出すニューに向かってカナタは思わず声を荒げた。

 

「おやおや、そんな険しい顔をすると勿体ないよ? お世辞ではなく、キミの顔の造形はボクも好ましいと感じる部類だ」

「貴方に、好まれたくないので」

「ふむ。もう少し、キミと会話をしてみたかったのだけれどここまでのようだね。それじゃあ、また」

 

 大きく肩で息をして自分を睨みつけるカナタの形相を残念がりながら、ニューは軽やかに立ち上がる。

 

「大人しくしているのなら、手出しはしないよ。けど、保険は掛けておこう」

 

 そう言ってニューは自分が座っていた今にも朽ちて崩れ落ちそうなガラクタの山に赤と緑の液体が入った二本の試験管を立て掛けた。

 それはかつてモスキートメタローに提供した尖兵デミホッパーを作り出すための薬液だ。

 

「なんのつもりですか?」

「ささやかなキミへのトラップだよ。試験管の中身が混ざり合えば素敵な遊び相手が生まれるから、気を付けることだ。ボクの制御なんて効かないから、デミホッパーはキミを喰い殺すと思うよ?」

 

 不安定な場所に立て掛けた試験官は確かに不意な衝撃や強風で簡単に倒れて割れてしまいそうだった。案に言葉にはしていないが逃げ出そうなんて考えは無駄だと警告しているのだろう。

 

「これ、前にムゲンが言っていたバッタの怪人たちの……貴方はいつから私たちのことを知っていたの?」

「さぁて? 過去に意味はないよ。嘆いても、悔やんでも、恨んでも、過去になってしまえば無意味だ。思い立ったら即実行。ボクはそれで奇跡を達成したのだから」

 

 何でもないような顔でさらりとそんな危険なことを言い放つニューにカナタは無言で青ざめた。笑顔ばかりの表情しか垣間見せないがこの人物がくだらない嘘や冗談を言いふらすタイプではないのはこの間に交わした精神を病んでしまいそうな会話で証明済みだ。

 

「ああ、そうだ。キミの目の前で仮面ライダーを嬲り殺しにするのも愉しそうだ。それとも、四肢を切断した状態でキミの犯すのを見せつけた方が愉快かな? ボク、生殖行為は無用だけれど、必要な部位程度いつでも生成できるんだ」

「その口、ムゲンに縫い合わせてもらえるといいですね」

「フッ……キミが望むなら、規格外のサイズでエクスタシーを体験させてあげてもいいんだよ?」

「奥歯で念入りに噛み潰しながら、食い千切ってあげますよ」

 

 徹底して、人の神経を逆なでするような下品な言葉を選択して吐き並べるニューにカナタは負けじと言い返した。そんな彼女の態度にニューはますます気を良くしたのか鼻歌を歌いながら埃っぽい廃墟の奥へと消えてしまった。

 残されたカナタは自分のみならず、ムゲンまで侮蔑され不快感で胸が込み上げる感覚を嫌と言うほど感じながら、あきらめないことに注力する。

 ニューの気配が消えてから、用心を重ねてカナタは頭の中で五分数えて行動を開始する。

 

「JKのネイル、舐めんじゃないっての」

 

 縛られて不自由な両手首をなんとか動かして、片方の手で天井から垂れるロープを掴んで出来るだけ張るともう片手の指の爪でナイフのように押して引いてを繰り返していく。

 可能な限り、揺れになりそうな動作を控えながら。しかし、体重を掛けたり、身をよじらせてロープに負荷がかかり、千切れやすくなるように思いつく限りの行動を実行していく。

 

「ハァ、ハァ……逃げたくても、裸足だしこんな恰好じゃ方角も分からないのに飛び出しても簡単に寒さで詰むでしょうよ。この肌寒さ、どんな山奥まで連れてきたかな?」

 

 地面から僅かに足が浮く程度の位置で宙吊りにされているせいで普通ならば何でもないような動きでひどく体力を使う。すぐに息が荒くなり、顔だけでなく体中が熱を帯びで玉のような汗が浮かび上がっていく。

 そんな状態で下着姿のカナタは身をくねらせて、仰け反ったり、よじったりするのだからまるで傍から見れば妖艶な動きで男を喜ばせるポールダンサーかストリッパーのようだ。

 ニューからしてみれば、多感な年頃の少女に恥辱を与えて愚弄することも計算の中だろうか。カナタは摩擦で指先が熱くなり、皮がすり減る痛みに耐えながら懸命に爪でロープを擦り続けた。

 

「みてなさい。一泡吹かせてやるんだから、あの変態」

 

 あの不審者の思い通りになってたまるかとニューへの怒りを燃やしながら、カナタは自身に気合を入れ続けて悪足掻きを止めなかった。

 

「でも、助かったよ……これが鎖だったり、足まで縛られていたら何も出来なかったけど、これなら逃げ出せ――」

 

 暗闇に僅かに灯る光明にすがるようにロープを切断することに集中していたカナタだったが何かにハッと気付くと急に動きを止めて固まってしまった。

 汗ばんだ身体を冷たい隙間風が容赦なく襲い、じわじわと体力を奪って行く。けれど、カナタは口元を真一文字に結びつけたまま、ある不安に駆られていた。

 ニューは何かの狙いがあってわざとこんな風に脱出できる隙を作っておいたのではないだろうか?

 

 最初の有無を言わせない通り魔的な襲撃から全ての言動や所作に至るまで全てがニューの描いたシナリオ通りになっているのではないかとこれまでの出来事を振り返っているうちにカナタは言い様のない疑心暗鬼に襲われて、体を動かすことが出来なくなってしまった。

 

「なにが、なにが正解なの? どうする……どうすればいい、私」

 

 ぶつぶつと消え入りそうな一人言を呟きながら、乱れる思考で懸命に打開策を考えるカナタだったが、そもそもニューという人知を超えた圧倒的な力を持つデタラメな存在一人のせいで名案が纏まらない。考えれば考える程に何気ない一挙手一投足に自信が持てなくなっていく。

 改めて、魔人教団そしてその仲間だと嘯くニューと言う人外の脅威を前にした人間の哀れなまでの脆弱さを痛感する。

 

「ダメだ……私一人じゃ、どうにもならないよ。ハルくん、ムゲン……たすけて」

 

 涙こそ、彼女自身の意地に懸けて決して零さなかったが絶体絶命の窮地に追い詰められて打つ手なしと悟ってしまったカナタは信じられないほどか弱く怯えた声で届かないと分かっていながら助けを求めた。

 無力と不甲斐なさに打ちひしがれるカナタ。

 けれど、彼女はまだ知らなかった。

 誰よりも、何よりも、いま世界で一番彼女の無事を願う彼が大空を弾丸のような勢いで駆け抜けている。怒りの劫火で腸を煮えくり返らせて、すぐそこまで迫っていることをまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

『ここだな』

 

 最短ルートを一直線に飛翔して、指定された県境の山奥にある廃工場に降り立ったデュオルは驚異的な速さで現場に到着した。

 感情の無い仮面からは窺えないが、デュオルの全身からは触れれば爆発するような殺気が絶えず溢れている。ハルカを傷つけられ、カナタを弄ばれたことはムゲンにとって自分のことよりも怒れる案件だ。いまのムゲンは例え相手が人間であったとしても加減と言うものをしないだろう。

 奇襲を警戒しながら敷地内を進んでいくと、大きな倉庫跡の真ん中でぽつんと佇んでいる人影を見つけて、デュオルは黙々とそちらへ向かい出す。

 クセの強い緑色の長い髪と宝玉のような真紅の目。

 白い民族衣装のような貫頭衣風の装いと息苦しさを覚えるような清々しい笑顔の美青年。

 そこにいたのは間違いなく、観察者ニューだった。

 

 デュオルとニュー。

 両者は音の無い乾いた風が吹き抜ける古びた廃墟でこうして初めて対峙した。

 

「やあ、初めましてだね。仮面ライダーデュオルくん」

『こんちわ』

 

 にこやかなニューにデュオルが挨拶を返すよりも早く、廃墟に轟く凄まじい打撃音。

 デュオルは一見すると生身の人間の姿をしたニューの顔面を一切躊躇することなく鉄のように硬く握り締めた拳で殴り抜けた。

 

「手荒いねえ、でもこいうのが欲しかったんだ。うん、うん……良い怒りだ」

『……このバケモンが』

 

 ニューは微動だにしなかった。

 普通ならば、鼻の骨が砕け血を噴き出しても可笑しくない威力の一撃を受けたと言うのに笑顔を貼り付けたままだった。

 その様子に得体の知れない気味の悪さを覚えながらも我が身を焼き尽くすような怒りの元凶であるニューを前にさらに攻撃を加えていく。

 

『くたばれッ!』

 

 ニューの顔面にぶつかったままの右腕を引きながら、すかさず左のフックを人体の急所である脇の下へとぶちかました。

 直撃の手応えを拳の感触で感じるとニューの反応を見ることなく、息つく暇も与えずに次の攻め手を繰り出す。

 相手の右膝を蹴り抜く。体勢を崩すだけなんて柔な物ではない。相手の膝を逆方向に折り畳むように踏み砕く勢いで蹴りを放つ。だが、それは届かなかった。

 

「キミ、悪くないよ。でも、まだまだかな?」

『――やるじゃないか』

 

 涼しい顔でニューは自分の膝を狙って飛んできたデュオルの蹴りに合わせて自分も蹴りを放ち真っ向から防いで見せた。

 これにはデュオルにも驚きがあった。けれど、だからといって戦意が揺らぐことは皆無だ。負けじとお次は相手を投げ倒そうと懐深くに潜って組み付こうとする。

 

「図に乗るなよな? 劣化生物め」

『うおっ!』

 

 だが、目にも止らぬニューの掌底にデュオルはダンプカーに追突されたような衝撃を感じながら大きく後退させられた。

 

「全く血の気の多い奴だなぁ。知的生命体の端くれとして初対面の相手と会話を楽しむつもりはないのかい?」

『俺がお前に言う言葉は限られてんだ。カナタを返せ』

「おっと!」

 

 大いなる実力の片鱗を見せつけて尚、余裕の様子なニューにデュオルは低空飛行で間合いを詰めると浴びせ蹴りを繰り出す。そのまま冷たく抑揚のない怒気に満ちた声で詰め寄りながら、拳打と手刀を嵐のように打ち込んで反撃の隙を与えない猛攻を仕掛ける。

 

『ハルカの借りも返さないとな。大量のおつりが出ると思うがそのままでいいぞ』

「キミは馬鹿だなぁ、算数も碌に出来ないのかい」

『なにっ!?』

 

 ニューはデュオルの乱撃を目視で選別すると拳には拳を、手刀には手刀と全てを同じ攻撃で相殺してしまった。精密機械のような常軌を逸した動きの前にデュオルも思わず焦りの声を漏らしてしまった。

 

「こんなのじゃ、全然足りないよ」

『ぬおおお! う、嘘だろォ!?』

 

 吐き捨てるような言葉と共に振り下ろされた大振りのニューの手刀を咄嗟に交差した両腕で真っ向から受け止めたデュオルはその重さの前に崩れるように膝を突かされた。

 

「まだまだいくよ?」

『ガァ――ッ!?』

 

 まるで大きな鉛の塊でも背負わされているような重い一撃に全身の力で踏ん張り耐えるデュオルの手首を掴んだニューはその肉体をぬいぐるみでも振り回すかのように軽々と持ち上げてしまった。

 綺麗な弧を描いてデュオルは背中からコンクリートの地面に叩きつけられる。

 

「ほらぁ! 早く立った、立った!」

 

 痛みにもがくデュオルを容赦なくニューは踏みつけようとする。

 間一髪で透過が間に合うも空振りした足が触れた地面は砕けて、歪なクレーターが出来上がった。

 

『なんなんだコイツ。あの細い体のどこにこんな力があるんだ』

 

 今まで戦ってきたメタローたちとは比べ物にならない強さの敵にデュオルにも動揺と焦りが、否が応でも芽生え始めていた。

 怪人の姿でもないのに、文字通り手も足も出ない。かつて戦った敵たちも飛行能力など相性の問題で苦戦したこともあったが単純な実力差――しかも、得意とする格闘戦で劣勢を強いられる現実を突きつけられて、怒りを燃料に我武者羅にぶつかっていたデュオルの内心も穏やかではなくなっていた。

 

「もうお終いかい? これじゃあ、期待外れだよ」

『お前の期待に応えるのは癪だがよ……こうなりゃ徹底的に楽しませてやるよ!』

 

 小首を傾げて、嘲笑うニューに仮面の内側で眉間に皺を寄せながら不屈の精神で果敢に立ち向かう。

 

 飛行して矢のように突撃するとニューの顔面を殴り抜けて翔け抜ける。そのまま速度を落とさないように旋回すると再びニューの背後に一撃を浴びせて離脱。ヒット&アウェイの連続攻撃を繰り返しながら、次第にデュオルはぐるぐるとニューの周りと円を描いて飛び交って行く。

 

「まるで小バエだねえ。万策尽きてヤケになったのかい? もっと、もっとこの世界の仮面ライダーの実力を見せてみなよ」

『言われなくても! こちとら偉大な大先輩の力と技を背負ってんだ! 舐めるんじゃねえェエエ!!』

 

 気合の雄叫びと共に旋回の速度を一気に加速させたデュオルは竜巻のような旋風を巻き起こしながら旋回の果てに発生させた小規模な嵐の中心にニューを捕らえた。

 これは紛れもなくスカイライダーが編み出した99の技に一つ、スカイ大旋回キック。その模倣だった。

 

『これでも……食らえぇええええええええええ!!』

 

 吹き荒ぶ強風による撹乱と旋回による遠心力を最大に活かしたタイミングでデュオルは仕掛けた。投げ槍のような勢いで繰り出された渾身の一撃がニューの後頭部に炸裂した。

 

『所詮はこんなものか。むしろ、他のライダーの力を借りなきゃ満足に戦えない模造品に相応しい実力なのだろうね』

 

 だが、完全に決まったと思われたデュオルの一撃を受けてもニューは――ニューだったソレは平然と立っていた。

 大旋回が起こした濃い砂ぼこりの中でニューは姿を変えていた。メタローとは趣が違うが明らかに人外の異形が際立つ怪人形態だ。

 

『それがお前の、ぐぅぅぅおおおおおわッ!?』

 

 起死回生の一撃が不発に終わった事実と本気の現れと見受けられるニューの怪人形態に離脱が僅かに遅れたデュオルの足首が真鍮色をした恐ろしい怪腕に掴まれた。

 棒切れでも握っているかのようにデュオルのことを好き放題に振り回して、ニューは何度も何度も地面に叩きつけて、ボロボロになるまで痛めつける。

 

『攻撃とは、こういうものだよ』

 

 そして、玩具に飽きた赤ん坊のようにデュオルを宙に投げ捨てた怪人体のニューは狙いを定めて肩に装備したマリキュレイザーから一条の閃光を発射した。

 

『オオッ――!?』

 

 凄絶な威力を秘めた青白いレーザーをまともに食らったデュオルは胸の装甲を大きく抉られながら無重力空間に投げ出されたかのような異様な軌跡を作って倉庫の屋根を突き破ると信じられない距離を吹き飛ばされて墜落した。

 

「その格好は……ライダー?」

 

 甚大なダメージを受けて、強制的に変身解除されたムゲンはそこで初めてニューの変貌した異形を目の当たりにして頭が真っ白になった。

 何故ならばその姿が余りにも他でもない自分も変身する仮面の戦士に酷似していたからだ。

 

 真鍮色、むしろ仄暗い黄金と言えばいいのだろうか。

 そんな唯一無二を強調するような体色をした甲虫を思わせる外殻で覆われた体躯。

 両肩から角のように天を衝く鋭い突起の装甲と鋭い爪を持つ手足。

 何よりも衝撃的だったのは血のように真っ赤な複眼のような双眸と異様に長く額から伸びた二本の触角を持つ顔だ。

 

『違うね。これは単に戦闘に適したボクの一つの姿にすぎない。オリジナルに倣って、ドラス・ビヨンドとでも名付けよう』

 

 だが、怪訝そうなムゲンの言葉に対してニューは自らの存在が仮面ライダーという欠陥だらけな存在とは違うモノだと強い意志を込めて宣告すると勝ち誇ったかのようにそう名乗りを上げた。

 

「メタローとは明らかに違う。お前は一体何なんだ?」

『そうだねえ。不出来な紛い物と言え、キミが仮面ライダーを名乗るのならば……ボクにはこの誇り高き名をこの世界に刻む義務がある』

 

 ボロボロに傷ついたムゲンの前に悠然と闊歩して見下ろすと、ドラス・ビヨンドは甘く優しい声を出しながら絶対者の貫録を見せつける。

 

『ボクの名はニュー。完全なる生物――ネオ生命体だ』

 

 完全生物を謳う暗き黄金の悪魔はそう自らの名を示した。

 かつて、たった一個体の侵略者として仮面ライダーと死闘を繰り広げた宿敵の再演者。

 原典からやって来た異端なる襲撃者。

 その力は筆舌に尽くし難いほどに強大だった。

 

 

 

 






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