仮面ライダーデュオル   作:マフ30

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今回は夏のコメディ回ということで本編とは一切関係のない他愛のないお話となっております。時系列や細かい設定などもお構いなしです。それから何の脈絡もなく作者の別作品である仮面ライダービャクアのキャラクターも登場しておりますのでご了承ください。
(注)デュオル組とビャクア組の面々はお互いに顔見知りという間柄になっております。

作者の別作品『仮面ライダービャクア』の詳細はこちらから。
https://syosetu.org/novel/257215/


外伝
夏回 真夏の夜の悪夢!?


 灼熱の太陽の熱気と虫たちの大合唱が煩わしくも胸を高ぶらせる季節。

 いまは8月。夏真っ盛りである。

 これはそんな夏のある夜に、とある二つの学校が共同で催した林間学校で起きたささやかなお話である。

 

 

 某県に存在する古い木造校舎を改築した林間学校用の施設には今日出会ったばかりだが林業体験や渓流下り、昼食のカレーライス作りなどを経て打ち解け合った両校の生徒たちが校庭に集まって賑やかに会話に花を咲かせていた。すると二人の生徒が朝礼台に登壇してハイテンションに声を張った。

 

「えー……親愛なるクラスメートのみんな! ひと夏の夜、楽しんでますかー!」

「お待たせしました今夜のメインイベント! 二校混合メンバーで行く恐怖の肝試し大会を始めたいと思いまーす!! 事前にくじ引きで決めた三人一組のチームで正門前に集まってくださーい!!」

 

 二人の言葉に生徒たちの早くもテンションが振り切れた歓声が返ってくる。

 レクリエーション係を担当するカナタとハルカの司会進行で開会宣言が切られた一度しかない青春の思い出作りに生徒たちのボルテージも一気に最高潮へと達していた。

 

「それでは本日の肝試しのルール確認を行いまーす!」

「各チームに渡してある地図を頼りに奥にあるお堂を目指してください。そこに自撮り棒付きのカメラが置いてあるので記念写真を取ってきて下さいね。帰り道は地図に詳しく記されていますが行きのルートとは違いますのでご注意です」

「なお! 安全を考慮してコースには何台かのカメラを設置してモニタリングしていますのでハメを外しすぎないように楽しんでくださいねー!!」

「レクリエーション担当として二学期になったら親愛なるクラスメートが減っている様なことが起きないことを切に願っているのでご協力をお願いします」

 

 爽やかに、華やかにルールを説明しながら生徒たちへ悪びれることのないブラックジョークを挟むカナタとハルカ。見目麗しい双子の姉弟に目を奪われていた生徒たちもこれには苦笑いだ。

 全体の雰囲気を盛り上げながら締めるところは締めていく二人の司会進行を経ていよいよ肝試し大会は始まった。

 二人のアナウンスに従って、時間差で生徒たちが順番に肝試しのコースへと繰り出していく。そんな生徒たちの中に長身でスタイル抜群ながら存在感が薄い黒髪メカクレの女子生徒がいた。

 

「肝試しかぁ……クフフ、永春くんと一緒のチーム♪ 安心してください、何が来ようと沙夜が守護りますので♪」

「あはは、ありがとう沙夜さん。でも、怖がらせ役も人間だからほどほどにね」

 

 少女の名は望月沙夜。

 その隣でやる気に満ち溢れる彼女を苦笑しながらも優しく見守っている少年の名は常若永春。ちょっとだけ不思議な秘密を持った二人は付き合い始めたばかりの恋人同士でもあった。

 

(幽霊妖怪の類なんて恐れるつもりは毛頭ありませんけど、虫とかに驚いて永春くんに抱きつく位はいいですよね……ふふ、ふへへへ)

 

 目元が漆のような美しい黒髪で隠れた彼女が暗がりでほくそ笑むともれなく上質なホラー映画なのだが本人の名誉のために黙っておこう。

 彼女をご存知の方ならお分かりのように望月沙夜は今日一日最高に浮かれていた。

 秘密のお仕事で普段は多忙でなかなか一緒にいることが難しい永春に今日は朝からずっと密着できたところに暗がりである程度羽目を外しても許される肝試し大会。

まさに僥倖である。

 だが、何もかもが上手くいくかと言うとそうは問屋が卸さないのが人生だ。

 

「問題は……彼ですね」

 

 そういって沙夜は視線の先で永春のそばにふらふらと寄って来た身長181cmの灰髪メガネの筋肉を一瞥した。

 

「若ぁ……今夜はよろしくな」

「おっとと、ムゲンもね。沙夜さんも一緒だし、何が来ても安心だよ」

「そうか。そうだな……あいつも強いからな」

 

 体操服の袖を捲り、逞しい二の腕を露わにしながら現れたのは今回沙夜たちと同じチームになったムゲンだった。永春は気が付かなかったが本日の彼は心なしか元気が無く、筋肉もしぼんでいるようだ。

 

(だ・か・ら! 距離が近いんですってば! おのれ双連寺ムゲン)

 

 目の前で永春の背中にもたれかかり、大型犬のようにだらけているムゲンに沙夜は静かに嫉妬めいた感情を燃やす。実はこの三人は奇妙な三角関係を構築している間柄でもあった。

 簡潔に説明すると最初の出会いの事情によりムゲンが永春に深い恩義と信頼を感じているのでよく懐いた番犬のようなことになっていて、それに永春の彼女だった沙夜が少し強めのヤキモチを焼いていると言う様相である。青く甘酸っぱいものだ。

 

「ムゲン、永春くんから離れてください。熱中症になったらどうするんですか」

「俺は歩くサウナかナニかなので? 男同士だぞ、若のこと寝取ったりしねえから安心しろって前から言ってんだろ」

「なっ……なにを不埒なことを言うんですかムゲンは! お昼の川にあった滝にでも打たれてやらしい煩悩を払ってきたらどうですか」

「いや、どう考えてもそういう発想に至れるお前の方がムッツリじゃん」

「喧嘩を売ってくれているのなら、買いますよ」

「二人とも仲良くしなよ。いや……ある意味で仲良いのかな、これ?」

 

 永春の言葉通り、沙夜とムゲンは喧嘩するほど仲が良いを実践しているのだ

 事実、この二人のやり取りはお互いの実力や人となりを知っているからこそ出来るものだった。

 

「ねえ、見た。あの子……望月さんだっけ、大人しそうな子だと思っていたけど双連寺くんにあんな強い言葉を」

「なんて勇敢で怖いもの知らずな女子なの!?」

 

 だがしかし、関係者からしたら微笑ましい光景なのだが何も知らない一般生徒達には衝撃映像であった。片や人間離れした怪力で一部では危険人物扱いされているムゲンと可愛いが地味で存在感が薄く幽霊のようだと言われている沙夜が対等に、どちらかというと彼女の方がやや強気に言い合っているのである。

 

「あのメカクレちゃん……さては双連寺と同類なのか?」

「嘘だろ!? いやでも、天風さんたちがそうみたいにあの子も只者じゃないのか」

「危ねえ。俺、ちょっとタイプな見た目だったしあとで声かけようと思ってたんだよ」

「命拾いしたな。お前たぶん、半生分の徳を使ったぜ」

 

 こうして、本人たちの知らないところであらぬ誤解と風評は深くなっていくのであった。

 そうこうしている間に肝試し大会の参加者はどんどん捌けていき、いよいよ最終組のムゲンたちのチームも正門をスタートしていった。

 

「夜の林道って結構雰囲気あるね。ところでその……」

「あの……ムゲン、何やってるんですか?」

 

 永春と沙夜の二人は揃って自分たちの間にいるムゲンを見た。

 そのムゲンはというとまだ出発したばかりだと言うのに冷や汗をダラダラと流しながら二人の手首をガッチリと掴んで迫真の表情を浮かべていた。

 

「えぇ? いや、何って……二人がはぐれて迷子にならないように繋ぎ止めているだけだけど?」

「ムゲン……あなたまさか幽霊とかダメなんですか?」

「ダメとは言ってない。ただ物理攻撃の効果がなさそうな正体不明のオカルト的な存在とは致命的に相性が悪いだけだ」

 

 沙夜が言い終えるよりも前にまるで彼女の言葉を遮るように恐ろしく早口で冷静な口調でムゲンは答えた。

 

「それが幽霊が苦手って言うんだよ」

「うるせえええええ! その二文字を安易に口にするな! 言霊って概念を知らないのか! あいつらが引き寄せられてきたらどうするんだァアアア!!」

 

 初めてメタローと遭遇した時ぐらい必死なムゲンの叫びが木霊する。

 明かされてしまったムゲンの意外な秘密に二人には電流が走った。

 それは安全確認と称して、肝試し全体の様子をモニタリングしていたあの二人も――。

 

 

「あっはははははははは!!」

「クッハハハハハハハハ!!」

 

 宿泊施設の一室で肝試しの様子をチェックしていたカナタとハルカの二人は揃って見目麗しい顔を盛大に崩してゲラゲラとムゲンのカミングアウトに爆笑していた。

 

「う、嘘でしょムゲン! 家賃安いからって事故物件に住んでるくせにお化けダメって信じられない」

「B級のホラーや一昔前のSF映画の方がエグいシーンあるはずなのに面白すぎるだろ!」

 

 普段はクールなハルカさえも目に涙を溜めての抱腹絶倒である。

 二人揃って思いもしなかったムゲンの弱点が笑いのツボにクリティカルヒットしていた。

 

「そっかぁ……ムゲン、幽霊苦手かぁ」

「ごめんなムゲン。先に謝っとくよ、本当にごめん」

 

 ひとしきり大笑いした二人は憐れむような優しい眼差しをモニターの向こうの親友に向けた。

 

「沙夜さんとムゲンは今更ただの肝試しで怖がるはずないと思ってスペシャルコースを用意しちゃたんだよね」

「この日のためにクーさんのアーティファクトまで借りてきたからな」

「残酷なことだけど、私たちももう後には引けないからね。というわけでムゲン、沙夜さん、永春くん」

「「この夏最高の恐怖を楽しんできてね♪」」

 

 新しい玩具を見つけた無垢な子供のような眩しい笑顔でカナタとハルカは遠隔操作出来るクー謹製のアーティファクトの作動スイッチを押した。

 最恐の夜がいま始まりを告げた。

 

 

 その頃、沙夜と永春は自分たちの手首を掴みながらも足取りが重いムゲンを引きずるように兎にも角にも暗い林道のコースを進んでいた。

 

「とりあえず、歩きにくいのでこの手を離してもらえませんかムゲン」

「……お前、人の心あるのか?」

「大袈裟! 大体あなた強いんですから何を臆することがあるんですか」

「かくとうタイプがゴーストタイプに勝てるわけねえだろおお!」

 

 ムゲンの戦士としての力量を知っているからこそ、沙夜は少し語気を強くして窘めるが当の本人は普段の勇ましさが嘘のように半泣き気味の震えた声で自分の無力を叫ぶ。

 

「ムゲン、それたぶん沙夜さん分かんないから。いや、ボクは分かるんだけどさ」 

「フェアリータイプだからって余裕こきやがって……羨ましい!!」

「その区分けやめてもらえませんか! 私が痛々しい不思議ちゃんみたいに思われるでしょ!?」

「二人ともちょっと落ち着こう。ムゲン、苦手なのは分かるけど進まないと終わりも来ないよ?」

 

 ムゲンと沙夜。

 この仮面ライダーという別の顔を持つ二人はお互いに戦士として信頼しているが故に同業者特有の気安さから他の知人友人たちと接する以上に砕けた――悪く言うと雑な態度になりがちになるという不思議な関係も持っていた。

 それが今回は余計に作用して二人はまだ一般の生徒たちと共通の肝試しコースをギャーギャーと口喧嘩スレスレに騒ぎながら進んでいた。

 

「若……すまねえ。幽霊なんて非現実的だって自分に言い聞かせてはいるんだけどよ、いざ戦うことを想定したら恐怖が芽生えちまうんだ……情けねえ」

「そんなこと言うものじゃないよムゲン。誰にだって嫌いな物や苦手な物はあるんだから」

(まず戦闘が発生する前提なところが間違っているのでは? それはそれとして永春くん、優しい……さては御仏でしょうか)

 

 急にシリアス全開な空気を出し始めたムゲンに冷めた眼差しを送る沙夜の横で永春が優しい声で語りかけ始めた。

 

「そんなに怖いなら、こういうのはどうだろう? 沙夜さんにも、ムゲンにも毎回事件が起こるたびに守ってもらってるからね……今夜ぐらいはボクがムゲンを守るよ」

「若……お前」

「ムゲンみたいに喧嘩は強くないけど、壁になるのは得意だから」

「ありがとう……俺、進むよ。お前の想いを無駄にはしねえ」

「ああ。信じてるよ」

 

 永春の勇気が秘められた言葉に突き動かされたムゲンは自分を鼓舞して立ち上がった。

 そして、男の友情を感じ合った二人はおもむろに力強く抱擁を交わした。

 常若永春――彼はごく普通の少年ながら変人もとい個性の強い人間に好かれやすいナニかと懐の広さを持っていた。

 

「交わさなくていいですから! 永春くんまでなにやってるんですか! 離れなさい。離れて。離れろ」

「ご、ごめん沙夜さん。なんかノリで思わず」

「仕方ないですね。ムゲン、私に策がありますからお互いに適切な距離を取って早いところ一周回って終わらせますよ。それでいいですね」

「かたじけない。どうすりゃいい?」

 

 永春とのハグを先に奪われたことに釈然としない沙夜だったが彼との楽しい夏の思い出を満喫するには大きな図体をして生まれたての小鹿のように震えているムゲンを何とかしなければと思い、助け船を出すことにした。

 余談だがムゲンと永春の抱擁を目撃した一部の薔薇を愛でるマエストロたちが熱いものを感じたと言う。

 

 ムゲン達が出発してから暫くして、最先頭で肝試しにチャレンジしていたチームの生徒たちがぞくぞくと戻ってきていた。彼らの話題はあることで持ちきり状態だった。

 

「なあ……双連寺たちのチームにすれ違ったか?」

「お前らも見たのか? あれはヤバかった。頭が真っ白になったよ」

「まさか双連寺があんなことになってるなんてな……肝試しよりも寒気がしたぜ」

「双連寺の顔……あれは人間としての尊厳を完膚なきまでに粉砕された顔だ!」

「あのメカクレちゃんは一体何者なんだ!? いや、それ以上に一緒にいた常若って奴の方がイカレてる……あんな状況であいつ涼しい顔して笑ってやがったぜ」

「きっとあいつが一番やべーんだよ」

 

 何も知らない生徒たちの間で誤解と風評の連鎖は加速していく。

 果たして、肝試し中のムゲン達に何が起きているのだろうかというと――。

 

 

 暗い林道を三つの人影が進んでいく。

 それは紛れもなくムゲンたちだ。

 

「永春くん虫寄ってきてないですが? 懐中電灯持つのいつでも交代しますからね」

「大丈夫。沙夜さんも道に石とか窪みが多いから転ばないように気を付けて」

「で、では……もう少し近くに行ってもいいですか?」

「うん。できたら、ボクもそっちの方が嬉しいかな」

 

 ライトを持って道を照らす永春とその隣に寄り添って密着する沙夜。隙あらばラブコメの波動を感じさせている。そして、少し距離を開けて歩くのが両手を縛られ腰に縄を巻かれて犬の散歩のように彼女に連れられているムゲンだ。

 

「……なんか違くね」

 

 求めていた救いと明らかに趣がことなるソレにやっとムゲンは感じていた違和感を言葉にして訴えた。

 

「これなら適切な距離が取れる上にムゲンも常に私との繋がりを感じられて安心でしょう?」

「腰に縄は百歩譲ってだ。手首はこれ俺、完全に罪人じゃん」

「驚かされたら反射的に手が出るかもって心配していたのはムゲンでしょう? 意外と似合っていますよ。ほら、ちゃんと手綱は握っていますから安心してキビキビ歩いてくださいね」

「ウソつけ! 今まで申し訳ないと思って気ぃ使ってたけどな、沙夜おめえ若と肝試しデートみたいなのしたいから俺が邪魔者で仕方ねえんだろ!」

 

 一応不甲斐ないという自覚があって謙虚にしていたムゲンだったがついにその言葉を沙夜に向かって口にした。

 

「仮にも肩を並べて戦った大切な戦友にそんな失礼なこと思う訳ないじゃないですか心外ですよ。私はただコースを回り終えるまでの間で良いから透明な空気みたいな限りなく無に近い存在になればいいのにって思っているだけです」

「本性を現しやがったな! けどよぉ、年がら年中リアルガチの妖怪みたいな連中と戦ってるお前が今更ただの肝試しでキャー!なんて可愛らしい声を上げて驚けるわけないよな?」

「くっ……紛れもない事実だから辛いッ! ごめんなさい永春くん! 私も色々と葛藤したんです。けれど、確かに作り物のお化けの急襲でか弱い乙女のような悲鳴を上げるような白々しい真似はできません。こういうシチュエーションで頼りになる女でごめんなさい!!」

「いや、その……ボクは沙夜さんと一緒に何かできるなら大概のことはすごく楽しいからね」

「若ァ! 良い奴だなお前!!」

 

 仲が良いのか、悪いのか。

 喧嘩しているのか、夏の変なテンションで盛り上がっているのか。

 道中、他の脅かし役の生徒たちが不気味な物音や釣竿に吊るしたこんにゃくなどの仕掛けを放ったのだがこの三人は主にテンションが壊れ気味のムゲンとそれに刺激される沙夜が原因で話している間にそれらを全てスルーして前半を終えてしまった。

 三人は気がつけはスタート前に言及されていた古びたお堂に辿りついてしまっていた。

 

「あれ、もう折り返しか? カナタとハルカがプロデュースした割にはぬるいな……さては後半に地獄を見せる気か」

「みたいですね。怖い云々は置いておいて、どんな仕掛けが来るかと身構えてはいたんですけど味気なかったです」

「……うん、そうだね。係の子たちのがんばり、ボクは忘れないよ」

「こいつで写真撮れって言ってたな。よし、二人とも並びな。若が中央で俺と沙夜が両サイドで文句ないよな?」

「妙案ですね」

 

 三者三様で違う思いを抱きながら三人は記念写真を取るように置いてあるカメラを見つけると永春を真ん中にしてパシャリとシャッターを切った。

 

「これでよしと。ではムゲンが冷や汗の流し過ぎで脱水症状にならない間に帰りましょう」

「沙夜さん、言い方。もっとこう、思い遣りとかね」

「……いや、割とマジであるかもしれねえから急ごうぜ。ほれ、握れ」

「ムゲン、本当に嫌なんだね」

 

 事前に各チームに配られた地図を広げて戻り道を確認していた沙夜と永春に相変わらず下手人状態のムゲンはついに自ら縄を沙夜に掴ませると指定されている道に気持ちを向けていた。

 だが、ここからが天風姉弟プレゼンツの恐怖の特別コースの始まりだとはムゲン達は気付くはずもなかった。地図は彼らの物だけ違う道順が記されていたのだ。

 そんな罠が仕掛けられているとも知らずに三人は進み出してしまった。安全確認という名目で設置されているカメラの向こう側でカナタとハルカが天使のような悪魔の笑顔で見守っているとも知らずに。

 

 

 暗い夜道にライトの灯りがポツンと一つ。

 三人の足音とささやかな虫の鳴き声、風に揺れる木々のざわめきがどこか寂しげに響いていた。

 

「夜風が強くなってきたのでしょうか? なんだか涼しくなってきましたね」

「本当だね。ところでムゲンに聞きたいんだけど、そもそもどうしてお化けダメなの? 化神みたいな怪物系は平気なのに」

 

 夜の森林が放つ何とも言えない雰囲気を肌に感じながら戻り道を進んでいた三人。

 無言で進むのも気味が悪いと思って永春が話題のネタを振った。

 

「俺だってホラー映画とかは作り物だって分かってるから平気だよ。それでも怖いってことはそういうことだよ」

「……はい?」

 

 さっきみたいにムゲンが騒がしい勢いで申し訳ないが笑ってしまうようなことを言うと思っていた永春は余りにも神妙な顔つきで言うムゲンに間の抜けた返事を返してしまった。

 

「それはムゲン……視たってことですか? ちょっと詳しく聞かせてください。本当に不味い事態ならアドバイス出来ると思いますけど」

「四年前だったと思う。まだ地元にいた頃な」

 

 嫌な予感を感じながら続きを促す沙夜にムゲンは僅かに目を泳がせながらも覚悟と決めて口を開いた。

 

「ダムの近くでソロキャンプしてたんだ。ただそのダムってのが大昔に村一つを沈めて作ったって代物でな」

「嘘でしょ!?」

「当たり前だけど、当時の村人たちはちゃんと移住済みだからな。流石に生き埋めってわけじゃない。じゃ……ないらしいんだけどよ」

 

 その日のことを思い出しているのか、顔色を更に悪くさせながらもムゲンは続きを話していく。最初は呆れていた沙夜と永春もすっかり彼の話を聞き入っていて固唾を呑んで耳を澄ませた。不覚にも周囲に謎の煙が立ち込めて、複数の気配が発生していることにも気付かずに。

 

「真夜中にバシャバシャって水の音で目が覚めてよ。最初は近くにある川に夜行性の獣でもいるんだと思ってたんだけど、どうも一匹じゃないしみたいだしおまけに笑い声みたいなものまで聞こえてくる」

「そ、それって近くでキャンプしていた他の人たちじゃ――」

「残念だけど季節は冬の初めだ。ついでにその頃の俺は他人がいるような場所でキャンプなんてしてなかった。独りになれる場所が欲しくてキャンプしてたような物だったからな」

「音の正体はなんだったんですか?」

 

 大真面目に滔々と語るムゲンの雰囲気にいつしか事の顛末が気になり始めていた沙夜が続きを求める。

 

「その日は月の光が明るかったからバレないようにライトもつけずにそっとテントから外を覗いてみたんだ。したらよ……古臭い恰好の子供たちがその川で水遊びしてたんだよ。もうすぐ雪が降る時期に短パン、タンクトップとかでだぞ?」

「……確かに怪異の類と考えるしかないですね」

「うん。で、ムゲンはどうしたの?」

 

 冷や汗を拭いながら語るムゲンの言葉に二人は否定するようなことは無かった。

 化神のような怪物とは別に説明のつかない様な怪異や幽霊とはまた非なる怪現象に心当たりがあったからだ。

 

「いや、流石にそりゃあもうナイフ握り締めて寝袋被って朝になるのを震えて待ったさ。けどな、オチってわけじゃないんだけどよ。結局そこから一睡も出来ずに陽が昇ってきたから思い切って外に出たんだよ」

「ムゲンはさあ、本当は怖いものないんじゃないの?」

「怖かったけど、どう足掻いても外に出ないと始まらないだろ!」

 

 当時から思い切りが良すぎる行動力に沙夜と永春が唖然としている中でムゲンはそんな奇妙な一夜の結末を明かし始めた。

 

「俺が幽霊見た場所にそもそも川なんて無かったんだよ」

「は?」

「え!?」

「茂みで気付かなかったけど、この近くに昔は村があったよって記してる石碑みたいなのがポツンと建ってたんだよ。たぶん、誰かが個人的に建てた物だと思う。ま、そんな感じで尻尾巻いて逃げ帰ったよ。」

 

 引きつった笑みを浮かべながら自分が幽霊を苦手とする理由を説明したムゲンに二人はトドメを刺されたかのように絶句していた。恐怖のとは言わないがまさかここまでしっかりした心霊体験を話されるとは思ってもみなかった。

 

「沙夜さん、どう思う?」

「幽霊と言うよりも沈んでしまった村の残留思念のような物と言えばいいのでしょうか? 日本には付喪神という概念もありますし、それの拡大解釈ではないですが在りし日の村の光景が人知れず幻のように再生されていたのをたまたまムゲンが見てしまったと考えるのが妥当かなと思います」

「お前すげえ喋るな。急に多弁になったからそっちのほうがビックリしたぞ」

「ムゲンが恐怖を払拭できるようにあれこれ理由付けしたんでしょうが」

「悪いわるい。いやーでも確かに専門家?に話したおかげか少しは気が楽になったよ」

 

 霧のような煙が更に濃くなっていたことに三人はまだ気付けていなかった。無臭なのだし、只でさえ暗いのだ無理もない。だが、それはついに彼らの前に姿を現す。

 

「良かったね、ムゲン。でも、確かにホラーしているお化けよりも真冬に薄着で水辺にいる子供なんてみたら焦るよね」

「だろ! 今でも思い出すぜ、ほらちょうどこんな感じの(・・・・・・)いかにも昭和なランニング姿でさ……ぁ?」

 

 気が緩んで少しずつ笑顔を見せていたムゲンが何気なく傍に見えた存在を指差して、ショックで凍りついた。

 音もなく目の前に現れた10歳ほどの青白い肌の薄着姿の子供が確かに見えてしまっている沙夜と永春も信じられないとばかりに言葉を失った。

 誰に声を掛けられたわけでもなく、謎の子供は俯いていた顔を上げて――。

 

『ああああああああああああああ』

 

 両目がくり抜かれて、血涙を流す凄惨で恐ろしい顔を三人に見せつけておぞましい大声を上げて見せた。

 

「出たァアアアアァ!!!?」

「ヌギャアアアアアアアアア!!!!」

 

 永春とムゲンは揃って顔面蒼白となって絶叫した。

 更にムゲンは本能的に身体が動き、両手の縛る縄を引き千切るとそのまま全身全霊でお化け全開な存在を殴りに行った。

 

『ああああああああああ』

「スケスケだぜぇええああああああああ!?!?」

 

 ムゲンの強烈な右ストレートは子供の体をすり抜けて後ろにあった木を叩く。

 自慢の物理攻撃が本当にこうかがない。現実にムゲンのパニック度は容易く100%を超えていった。

 

「くっ……退避です! 急いで!!」

「ちょっぉおお!? さ、沙夜さん!?」

 

 唯一冷静だった沙夜が咄嗟に永春の手とムゲンの首根っこを引っ張って駆け出した。

 正しい判断。最善の行動。

 しかし、それは同時にクーが遊びで作ったアーティファクトによって発生した煙の幻たちが跋扈する特別肝試しコースへの突入を意味していたことになるのだ。

 

「出たよ! 本当に出た! まさにジャパニーズホラーって感じの!?」

「なんだよ! お前らだって逃げてんじゃん!!」

「あんなの急に出てきたら誰だってそうするでしょ! しかもこっちの攻撃が――」

 

 前髪から覗く紫色の瞳に焦りの色を見せながら二人を先導して走る沙夜だったが目の前に広がる光景に思わず絶句した。

 

『『『『『ああああああああああああああ』』』』』

 

 目の前には恐ろしく醜い幽霊、怪物、クリーチャー、お化けのオールスター軍団が立ち塞がっていた。カナタ、ハルカ、クーが事前にあらゆるホラー映画や妖怪などの資料をリサーチして設定した恐怖の具現がリアリティのある人工音声による奇声を上げてムゲン達を威嚇する。

 

「お化けいっぱい出てきたぁあああああ!!」

「学校の怪談だ!学校の怪談!学校の怪談どぅわぁあああああ!?」

「三回言わなくてもいいですから! 二人とも一か八かで突っ切って逃げますよ!」

「それもれなく全滅エンドに入ったりしねえか!?」

「こっちが触れないなら、向こうからも触れない……はず!」

「沙夜さんそこは断言して欲しかったぁあああああ!!」

「ごめんなさぁああああい! でも沙夜もこれで結構限界なんですって! だって、攻撃効かないってズルじゃないですかぁあああ!!」

 

 ついに最後の砦だった沙夜すらもちょっと涙目になって理不尽な恐怖体験に文句を叫んだ。三人は大いにビビり、叫び、パニクって暴れ馬のように逃げ回っていた。

 

 

 一方その頃、モニタリング中のカナタとハルカはと言うと――。

 

「イエス!イエス!イエス! ハッホォ―――イ♪」

「やったぜ! クーさんにも大成功メール送信っと」

 

 双子仲良く小躍りして意気揚々とハイタッチして盛り上がっていた。

 この二人、この手のイベントの黒幕枠に置くと恐ろしく厄介である。

 だが、逃げ惑う三人に起こったある異変をモニターで発見したハルカが眉をひそめた。

 

「……カナねえ、ちょっと確認。一体だけ、ムゲンたちに触れているのがいるけどあんなの設定した?」

「え? いや、あんなのは記憶にないかな?」

「ということはつまり……?」

「「怪人かも!?」」

 

 ここで予想外のハプニングが発生した。

 携帯での連絡が出来ないこともあって、二人は部屋を飛び出してムゲンたちの元へと向かった。

 

 

 時間は少し巻き戻る。

 三人が煙で出来たホラーたちから逃げ回っていた最中にこちらでもトラブルが起きていた。

 

「ゼエ……ハァ……二人とも、ちょっと待った。は、速い……ッ」

 

 息を切らして走るスピードがガクッと下がっていく永春。

 日頃から鍛えている沙夜と色々と規格外のムゲンと比べてごく普通の一般人でしかない永春の体力に限界が来ていたのだ。

 

『キッヒヒヒ! こんな山奥に馬鹿な子供たちがいたものだ。まずはお前だな!!』

「うえっ!? な、なんだぁ……うおおお!?」

 

 謎の声と共に伸びてきた触手のような髪の毛が永春の足首に巻きついて彼を物凄い勢いで引っ張り出したのだ。

 

「永春くん!?」

「若ァ!!」

「「どこのどいつだぁああああ!!」」

 

 永春を襲った謎の異変に沙夜とムゲンは恐怖を感じながらもスイッチが切り替わった。

 急ブレーキを掛けたかと思うとそのまま激しい勢いでUターン。

 そのまま幻覚のホラーたちを振り払いながら何かに手繰り寄せられる永春を追いかけていく。

 

「見つけた。永春くんを返せ!」

『な、なんだお前たち!? 俺が怖くないのか! 俺はメタ――』

「やかましぃいいいい!」

『ぶへええええ!? こ、このふざけるな!』

 

 永春を追いかけた先にいた巨大な毛むくじゃらの顔のような塊が何かを言いかける前に静かに怒る沙夜が飛燕のような軽業で蹴りと決め、狂騒状態のムゲンはヤケクソ気味に拳骨を叩き込んだ。

 

「永春くん大丈夫で……きゃあ!?」

「沙夜さん!? ムゲンも!!」

 

思いもしない先制攻撃に怯んだ謎の存在であったが負けじと無数の髪の触手を伸ばして沙夜とムゲンまでも拘束してしまった。

 

『飛んで火にいるなんとやらだ! このまま俺の自慢の髪で絞め殺してやるとするか?』

 

 謎の存在。

 否、まるで妖怪・釣瓶落としにも似た不気味な異形のホラーメタローは宙吊りにした沙夜たちを縛る髪の毛に力を込める。

 

「ぐぁあ……このッ!」

「苦し……ム、ムゲン!?」

 

 身動きも取れずに訳も分からないまま窮地に陥る二人だったがただ一人、気を失ったように静かで動じないムゲンに不穏な気配を覚えた。

 

「……おまえ」

『なんだぁああ? 今更怖くなって命乞いか!? いーやーだーよぉおおお!?』

 

 全身に巻きついた異形の汚れて癖のある髪の触手をムゲンは渾身の力でなんの脈絡もなく引き裂いた。ムゲンを嘲笑うホラーメタローであったが突如として、自慢の髪を千切られた痛みと驚きで絶叫を上げる。

 

「なんだこの枝毛だらけの脂ぎった汚い髪は?」

『は……はい?』

「俺の見立てじゃあ、ちゃんと手入れすれば光るものがあるって言うのによ……それを、それを地べたに引きずって汚れ塗れにしやがって」

「あの、ムゲン……なに言ってるの?」

「……永春くん。私、分かっちゃったかもしれません。いまのムゲンの状態」

 

 情緒不安定気味に意味不明なうわ言を言いながらゾンビのようにホラーメタローに近付いていくムゲンの威圧感にどよめく二人と怪人。

 そんな中で沙夜だけが艶やかな黒髪を揺らしてその異変の正体に気がついた。

 双連寺ムゲンを時折暴走させる極度の拘りの存在を思い出したのだ。

 

『く、くるな小僧! クソ! なんだ……何なんだよ一体!?』

「テメエ!コノヤロー!! せっかくの黒髪をこんなぞんざいに扱って良いわきゃねえだろうがあああああ!!」

 

 一人の残念な髪フェチの魂の咆哮が夏の夜に轟いた。

 髪フェチの信念が幽霊への恐怖を上回り、阿修羅とか凌駕しちゃった精神状態のムゲンは怒り狂ってホラーメタローへと襲い掛かった。

 その激しさは空腹で殺気立った野生の熊のような獰猛さに近かった。

 

「おお! お前殴れるじゃん! 殴れるならこっちのもんだ! 髪のお化けが何だってんだよ! お前にシャンプー&リンスはもったいねえんじゃああ!!」

『や、やめろ変態!! 俺はホラーメタロー! 貴様らを恐怖で震撼させてこの世界を壊す侵略者なんだぞ!!』

「「「え?」」」

 

 矮小な人間の愚かな抵抗と思って自ら名乗ったホラーメタロー。

 不幸にも彼は自分から自らが入る棺桶の蓋を開けてしまった。

 

「ムゲン! 変身しますよ!」

「応さ!」

『なん……だと!!?

 

 拘束から抜け出した沙夜は左手首のブレスレットから取り外した白い鴉を模った魔道具・怨面を構えてムゲンに叫ぶ。

 対するムゲンも散々殴ったホラーメタローを喧嘩キックで後退させるとデュオルドライバーを腰に装着した。

 

「オン・カルラ・カン・カンラ」

 

 白鴉の怨面を沙夜が素顔に纏うと昨日と同じように妖しき光の後に彼女の全身に赤い蛇紋の痣が浮かび上がり、膨大な神通力と共に苦痛や怨の念が流れ込んでいく。

 

「クゥ……ア、ァ、ゥアア――……――変身!!」

 

 その二文字が強く響いて、白光の風が吹く。

 彼女の強い戦意を巻き込んで。

 

『我が名はビャクア! いざ、お覚悟を!』

 

 白風は止むとそこには白亜の山伏風の鎧を纏った戦士の姿がった。

 彼女こそ古来より怪異・化神から人々の平和な暗いを影から守る御伽装士の一人。

 仮面ライダービャクアである。

 

 その隣でムゲンも二枚のライダーメモリアをベルトのスロットに挿入して演武のような動きと共に勇ましく叫びを上げる。

 

【2号!×響鬼! ユニゾンアップ!】

「変身――!!」

【ストロングオウガ! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 メモリアを読み込んだデュオルドライバーの二基の風車が力強い光を放ち回転を始めるとデュオルの周囲に雷神が背負う円輪に連なった太鼓のようなオーラが出現して激しい鼓音が響き始めた。

 そして打ち鳴らされては波紋を描く、視覚化された勇ましく清らかな音色を無数に身に纏って剛腕の戦士の姿をしたデュオルが現れる。

 

『なんだって!? 仮面ライダーだとぉお!?』

 

 並び立つ天狗と鬼の姿を模った二人の仮面ライダーの姿にホラーメタローは恐れ慄いた。

 

『喜べよ! お前への夏ボーナスに二人もいるぜ!』

『馬鹿なこと言ってないでサクッと倒しますよ。私たちの林間学校の夜はまだこれからです!!』

 

 言うや否やビャクアは先陣を切って突撃する。

 ベルトの霊水晶から退魔七つ道具の一つ、天狗の羽団扇を召喚すると一駆け。自分たちを襲って伸びてくる髪の触手を羽団扇で短剣を振るうが如く次々と切り払う。

 

『道は作りましたよ』

『ありがてえ! いっくぞおおおお!!』

 

 安全な突入コースを与えられたデュオルが猛牛のような走りからの体当たりをぶち当てるとホラーメタローの顔だけの巨体がけたたましい勢いで転がった。

 

『いい気になるなよ!! 轢き潰してやる!!』

 

 しかし、ホラーメタローも負けじと反撃に出る。

 伸ばした髪で全身を包み込むとそのまま転がって突っ込んできたのだ。

 更にその巨体が転がる度に髪に土や岩、木の枝なのが絡みついて巨大化していく。

 

『ぐう……おおお!! やるじゃねえか!!』 

 

 巨大な塊となったホラーメタローのぶつかりを真正面から受け止めたデュオルに強烈な衝撃が襲い掛かる。だが、怪力自慢のストロングオウガは一歩も譲らずにその場に踏み止まった。

 

『無駄だ! 無駄だ! このまま虫けらのように潰してくれる!!』

『負けるかよ! 沙夜、手伝ってくれ!!』

『手伝いますけど、もう少しスマートにやりませんか? こんな風に……カンラ!』

 

 デュオルの背後で細い木の枝の上に立ったビャクアが羽団扇を振るうとホラーメタローを囲むように白い竜巻は発生する。激しい突風はホラーメタローの全身を覆う髪を巻き込んだ土木ごと解いて無力化してしまった。

 

『やぁあああああ! ムゲン!!』

『うぎゃあああ!? この俺を蹴り上げたぁ!?』

 

 自慢の質量攻撃を容易く無効化されてしまったホラーメタローが唖然としている隙をついてビャクアが夜を翔ぶ。一足飛びで相手の脳天に蹴りを入れた彼女はそのまま刺すような連続蹴りを浴びせながら大玉転がしのように遠くへと運んでそのまま上空へと思い切り蹴っ飛ばす。

 

『お見事! 負けじと俺も……こうだ!!』

『アギャ―――!?!?』

 

 パスされたボールのように無防備に飛んできたホラーメタローにタイミングを合わせて飛んだデュオルはありったけの力を込めた右拳での下段突きを繰り出した。

 爆弾が爆ぜたような音を立てるその威力はホラーメタローの頭部にクレターが出来るほどの破壊力だ。

 

『締めにいくぞ! 折角のゲストだ。今夜は沙夜がゴングを鳴らしてくれ!』

『何の話かわかりませんけど。お終いにするのは賛成です』

 

 二人の仮面ライダーはいまが勝機だと全身全霊の力を漲らせて仕掛けた。

 

『そんじゃあ……飛んでけぇえええええ!!!』

 

 まずはデュオルがホラーメタローの生い茂る髭を乱暴に掴んでジャイアントスイングで豪快に振り回して星空に届かんばかりに相手を放り投げる。

 

『退魔七つ道具が其の漆! 韋駄天の鎧下駄!!』

 

 ビャクアの両足に朱色の天狗下駄のような足鎧が装着されて彼女は風に舞う羽毛のような軽やかさで夜空へと駆け出す。

 

『オン・カルラ・カン・カンラ! いざ、勝負です――!!』

『ぬぅうううう!! こんなはずではなかったのにぃいい!!』

 

 目にも止らぬ指捌きでビャクアは退魔の印を結び、烈風のようにホラーメタローへと肉薄する。その白影の数は七人――!!

 

『退魔覆滅技法! 乱鴉一陣!!』

『こんな馬鹿な話がある、かぁ……ぬぉおおああああああ!?』

 

 影分身によりその身を七つに分けたビャクアの繰り出す、寸分違わぬ七撃同時の蹴撃がホラーメタローに炸裂した。

 その強烈無比な奥義の前にホラーメタローは打ち上げ花火のように爆裂四散して潰えたのだった。

 

『お疲れ』

『いえ、戦いでは頼れる同業者のお陰で随分と楽できましたよ』

『嬉しいこと言ってくれるじゃねえか……ま、同感だ!』

 

 メタローの宿主を無事に回収して地上に着地したビャクアにデュオルは軽く拳を突き合わせてお互いの健闘を称え合った。ほどなくして、ムゲンたちは駆けつけてきたカナタ達とも合流してネタばらしを受けて、世にも恐ろしく騒々しかった夜は静かに更けていったのである。

 

 

 翌日、朝食を済ませたムゲン達は他の生徒たちよりも一足先に昨夜撮影したお堂での記念写真を眺めていた。

 

「いやーみんな良い顔で写ってるね。気が早いけどこれは卒業アルバムにも随分と貢献できたんじゃないかな?」

「勘弁してくれ、こっちは本当に魂か何か大事なものが抜け落ちるかと思ったぞ」

「ええ、本当にメタローまで出てきて参りました。それにお二人の写真が無いのも少し寂しいです

「そういう反応が出てくると思ってオレとカナねえの分はカメラ設置の時に撮影済みだ」

「ハルカたちって本当にこういうの抜け目ないよね。なんて言うか敵にだけは回したくないよ」

 

 他の生徒たちも様々なリアクションの姿を写真に残しており、肝試しの後に消灯時間ギリギリまで盛り上がっていた大富豪大会などムゲンたちにとって今回の林間学校は最高の夏の思い出の一つになっていた。

 

「あ、ムゲンたちのもよく撮れてるよ!」

「本当だな。なんだよ、ムゲンもピースなんてして案外ノリノリじゃないか」

「「「はぁ?」」」

 

 何気なくムゲンたちが撮った写真を眺めて言ったハルカの一言に三人が首を傾げた。

 

「どうしたの三人とも? ハルくんが変なこと言った?」

「ピースなんて出来るわけねえだろ。だって、俺はそのとき両手縛られてるんだぞ」

「ちょっ、ちょっと見せてください!」

 

 不穏な空気が漂う中で緊張した面持ちで三人が写真を見てみるとそこには確かに永春の首の隣。ちょうどムゲンが背後から手を伸ばしたかのように見える位置で何者かの指によるピースサインが写っていた。

 

「ぬっへあああああ!? やっぱりなんかいたぞアソコぉおおお!?」

「マジかよ……え、なにこれ。ボクなんか憑かれてるの? 呪われるパターン!?」

「大丈夫です! 永春くんは何が相手でも私が守ります! 安心してください、私の実家はお寺です! 寺生まれのSですから!!」

「マジか沙夜!? よっしゃ若ァ林間学校終わったら直でいくぞ。ご両親に挨拶も出来るだろ、良かったなぁ!!」

「ムゲンは来なくていいですから! 自分で何とかしてくださいよ!!」

 

 再びパニック状態へと陥る三人。

 真実は深い森の夜の中。

 この世の中には人の常識の通用しない不可思議な何かでまだまだたくさん溢れている。

 君たちも夜を舐めてはいけないよ。

 By天風カナタ&ハルカ。

 

「「「世にも奇妙な物語風にまとめるなぁああああ!!」」」

 

 





今回の登場人物の言動は本編とは一切無関係のものでございます(笑)
というわけで夏のギャグ回如何だってでしょうか?
酷暑の日々、少しでも皆様の清涼剤になれば幸いです。

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