仮面ライダーデュオル   作:マフ30

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こちらではお久しぶりです。
気が付けば最後の更新が五月の中旬ということで作者としても慙愧の念が絶えないばかりなのですがこうして再び最新話の投稿をするに至りました。
こんなダメダメな作者ですが今年もよろしくお願いします。

そして、ようやくの最新話なのですが今回から数話ほどは特別編と銘打ちまして
自社コラボといったら変なのですが作者が本作とは別に投稿していました大ちゃんネオさんの仮面ライダーツルギのスピンオフ作品に当たる仮面ライダーツルギ・スピンオフ/ドキュメント・レイダーとのクロスオーバー編となります。
いつにも増してメタフィクション要素や発言の連発で困惑することもあるかもしれませんがハイパーバトルビデオのような気持ちで読んでいただければ幸いです。

※特別編の時系列は本編よりも進んでおり、キャラクターの一部に少々不可解な台詞がありますので予めご留意ください。

大ちゃんネオさんの仮面ライダーツルギはこちらから

https://syosetu.org/novel/216700/

とても素敵なスペシャルゲストも――全ては読んでみてからのお楽しみです。




特別編 デュオルVSレイダー!!/8月32日 常夏少女喧嘩紀行

 合わせ鏡が無限に広がる不思議な空間。

 そこに入れる者は限られている。

 

 鏡の向こう側の世界ミラーワールドにおいて特別なその場所に一人の少女がいた。

 腰まで伸びた深い黒髪に清楚で可愛らしい黒いセーラー服を纏った不思議な少女だ。

 明るそうな性格をしていると思われる大きな瞳にその美貌はまるで天使のよう。あるいは諸人を狂わせて破滅させる妖艶な悪魔のそれかもしれない。

 

「おや? これはまた珍しいお客様ですね。ここには本来限られた人しか招かないのであなたも本当は無粋な痴れ者として処分してしまうのも吝かではないのですが――今回は特別に不問にしてあげましょう。私は今回、スペシャルゲスト。宴に招かれた来賓のような立場ですので♪」

 

 鏡の世界の少女は万華鏡のように表情を変えて、他でも無い貴方にそう告げた。

 

「初めましての御方はこんにちは。顔見知りのお得意様はいつも応援ありがとうございます♪ 私はアリス。譲れない願いを持った女の子たちに夢を叶える機会をプレゼントするキュートでセクシー、純情可憐な女の子――清く正しい、何処へ出しても恥ずかしくのないライダーバトルの管理者です♪」

 

 無垢な純白の微笑みを浮かべつつ、邪な暗黒の嘲笑を作りつつ、アリスは他ならぬ貴方に自己紹介を済ませると無数の合わせ鏡の一つを眺めながら、滔々と貴方へと語りかけ始めた。

 

「ところであなたは夢幻泡影という言葉をご存知ですか? 10秒以内にお答えて下さい」

 

 突然の謎かけ。

 貴方の耳元には10から1までカウントするアリスの甘い美声が囁くように聞こえてくるのかもしれない。

 

「ふふ、時間です。見事正解を答えたお利口さんのあなたは私が特別によしよしって頭を撫でてあげます。不正解だった哀れな愚か者さんにはお仕置きとしてその空っぽの頭を踏んでさしあげるので今すぐ跪いて下さい。あ、いっけなーい! それじゃあどちらにも垂涎のご褒美になっちゃいますよね。アリスちゃんたらサービス精神豊富な有能管理者さんなのでついつい熱烈で思わせ振りなファンサをするところでした。キャハ♪」

 

 スカートをふわりと翻して華麗なターンを決めたアリスはまるで仄暗い深淵のような眼差しを貴方に向けて、人を食ったような言動を続ける。

 

「夢幻泡影という言葉はその文字たちが示すようにどれもすぐに消えてしまうはかないものといった意味です。全てのものは実体がなく空であるということから人生の儚さの例えにも用いられる場合もありますが魅惑の女教師アリスのプライベートレッスンはまたの機会にしておきましょう」

 

 パン!っと大きな音を鳴らしながらアリスは両手を合わせると合わせ鏡だけが星の数ほどある空間にふわりと浮かんですらりと伸びた両足を優雅に組む。

 

「これから始まるほんの小さなお話もまさに真夏のある日に起こった夢幻のように曖昧で、簡単に形を失う泡や影のように儚い物語だと思ってください。信じるか信じないかはあなた次第というやつです」

 

 可憐でどこか幻想的な笑みを浮かべながらアリスが小気味良く指を鳴らすと貴方の意識は暗い、暗い闇に呑まれていく。でもどうか安心して。怖がることは何も無いのです。

 

「それでは、数奇な偶然で混じり、重なり、交わってしまったありきたりな仮面の幻想奇譚のはじまりです♪」

 

 

 

 

 

 

 日本の何処かにある地方都市・聖山市。

 この街の裏側には鏡の世界【ミラーワールド】とその異境に棲息する恐るべき怪物たち【ミラーモンスター】が存在することを多くの人間は知らない。

 そして、鏡の世界で微笑む不思議な美少女アリスが運営を執り仕切る禁断の祭典・ライダーバトル。ミラーモンスターと契約を結び、超常の力を振るう仮面の騎士たちが願いを叶えるために最後の一人になるまで熾烈な争いを日夜繰り広げていることもまた大衆の預かり知らぬところだ。

 以上の概要に加えて、付け足すのならこのライダーバトルは『仮面ライダー龍騎』とは関係のない外典のライダーバトルであることも本来は大きな差異ではあるのだが、今回のところは大きく触れないでおこうと思う。大切なことは『ミラーワールド』が存在する世界が一つではないと言うことにあるのだ。

 

 

 8月31日。

 世の学生たちからしたら概ね夏休み最終日。

 燃えるような日差しと晴天の空の下で聖山市の街を横断する一級河川・凪河の流れに沿ったとある河川敷ではちょっとしたお祭り騒ぎが起きていた。

 

「うおぉおおおお!! 往生しやがれ喜多村ァ!!」

「にはははは!! たーのしー!!」

 

 白昼堂々と柄の悪い男たちと人懐っこい笑顔が眩しい少女がけたたましい蝉の鳴き声を掻き消すような怒号と高笑いを上げて喧嘩合戦を繰り広げていた。

 恐るべきことに戦況は手入れの施されていないボサボサの銀髪を振り乱す女子高生、喜多村遊の優勢だ。顔面を容赦なく殴られることも恐れず躊躇わず、まるで極上の獲物たちを喰い散らす飢えた獣のように押し寄せる男たちを殴りに殴る。

 腕に覚えのある不良たちと殴り合う遊の顔は貸し切りの遊園地ではしゃぎ回る子供ように満面の笑みだ。

 

「まだまだ足りないぞぉ! もっと本気で襲ってきなよ! わたしはこんなんじゃ満足できないんだよおおお!」

 

 遊は心の底から喧嘩を楽しんでいた。

 誰かを殴ることではなく、殴り合うことが彼女に生きる意味に値する喜びを感じさせてくれる。彼女は所謂バトルジャンキー。それも筋金入りの戦闘狂と呼ぶに相応しい常人とは大きくズレた感性の持ち主だ。

 平凡な日常においては人懐っこく、誰とでも自然体で接する陽気な性格の少女だ。しかし、その実は中学一年生で偶然に不良少年と殴り合いをするまで自分の誕生日ですら心から笑うことが出来ずに偽りの笑顔を貼り付けて生きてきたような人間である。

 

「だらしないな、君たちィイイ! 不良だなんて恰好つけてるぐらいなら、もっとわたしを楽しませておくれよ!!」

 

 けれど、自らの真理に触れて正しい自分を得たいまの彼女はいつだって心からの笑顔を浮かべることが出来る。その最たる行為が他者との本気の戦闘行為だ。特に素手と素手との無骨で原始的な殴り合いの喧嘩が何よりの大好物だ。

 鼻血を乱暴に拭いながら、遊は激を飛ばしながら屈強な男たちを次々に殴り倒していく。

 この夏休みに遭遇したとある出会いを経て、遊には少々ただの人間相手には物足りないと感じることも増えてきたのも事実である。

 

「ムフー! 暴れた暴れたー……だいたい満足!!」

 

 気が付けば全ての不良たちを撃破した遊は勝利の雄叫びを満足度相応に上げると高校の制服を着たまま凪河を水浴び代わりに一泳ぎ。

 暴れた後にすぐに血や汗を洗って流せるので夏場は川や海の傍で喧嘩するのに限ると鼻歌を歌いながら近場の自動販売機で飲み物を買って一休みを始める。

 

「ぐ……ぁあ……なんてこった。なんで転校した先でもこんなにも強い奴が、それも女でいやがるんだ」

 

 ジュースを飲みながら橋の下で涼んでいると不意に聞こえた殴り倒した不良の一人の気になる呟きに遊の意識は向けられた。

 

「君、転校してきたんだ? え、なになに……前に住んでたところにも喧嘩が強い人がいたんだ。それって近く?」

「な、なんなんだよ急に?」

「んー……最近ちょっとただの人間相手じゃ欲求不満でねえ。プロでも素人でもいいから兎に角強い人を探しているのさ」

 

 遊の突然の食いつきに驚く不良だが当の彼女はお構いなしに目を輝かせて、違う街にいる強敵の話をねだる。

 

「アイツは強いとかそういう次元じゃなかった。俺はダチの頼みで何度か加勢したぐらいでそんな因縁はなかったけど、いまでも思い出そうとすると身体がビビって震えちまう」

「には! そんなに強いんだ……いいね」

「どんな事情であんな数年も続く戦争になったのかは知らねえが奴はお前みたいにいつも独りでやり合ってやがった。あんなのが同じ人間だとは俺は思いたくないぜ」

「うん! うん! それでそれで他には?」

「ステゴロの腕前は言うに及ばず。さては改造人間じゃねえのかって錯覚するほどイカれた体した奴でよ……単車で突っ込んできた相手を真正面から受け止めて、単車ごと放り投げやがった。それだけじゃない、軽トラあるだろ? あのドアを片手で引っぺがして振り回すんだ。正直、いま俺が五体満足でいるのが不思議なぐらいだ」

「には……にははは」

 

 不良の話を聞いて言う間に遊の顔はこれ以上ないほど紅潮して蕩けきっていた。全細胞がまだ見ぬ強敵に焦がれてゾクゾクと疼きを上げるものだから、夏の酷暑にお構いなしに全身がガタガタと期待と歓びで震え出す。

 

「喜多村、お前もとんでもないセンスだがそれでもアイツ程じゃねえよ」

「名前、教えてよ! あと、どこに住んでるの!」

「■■県の■■って田舎だよ」

「え……と、遠いなぁ。そっか……そんなとこかぁ」

 

 爆発寸前の火山のように興奮していた遊はそこ一言で一気に鎮火してしまった。不良が前に住んでいた地方は聖山市からは遥かに遠く、流石の遊でも簡単に行ける距離ではなかった。意気消沈する遊ではあったが続けて、不良は含みのある笑いを浮かべて意外な言葉を放った。

 

「だがな、もしかしたらそいつはいま東京にいるかもしれないぞ」

「どゆこと?」

「昔のダチと偶然レインで駄弁ってたときに小耳に挟んだんだがなんでも親とも上手くいってなかったそいつは東京の高校に進学するって二年前に上京したんだとよ」

「へえ……それは嬉しいお知らせだ。で、もったいぶらずに名前も早く教えておくれよ!!」

「俺たちの間じゃ灰の獣(グレイモンスター)とか、喧嘩無双だぁ、エセジェイソンだと好き勝手呼んでたが確か――■■ムゲンって名前だったはずだ」

「■■ムゲン……か。よし、東京いこう!」

 

 不良から教えられた男の名前を復唱する遊は膨らみ続ける期待に駆られて居ても立ってもいられずに心の思うままに走り出していた。

 

「ありがとね! 君もまた喧嘩しようじゃないか!」

「ハン……精々ぶちのめされてミンチになってきやがれ!!」

 

 キラキラの笑顔が止らない遊は不良の嫌味を選別に貰いながら大慌てで自宅に戻って準備を始めた。といっても、道中の銀行で纏まった金額の現金を引き出して、鞄に数日分の着替えと財布と携帯電話を放り込んで動きやすい私服に着替えておしまいと言う簡単過ぎる旅の準備だが彼女にとっては準備万端だ。

 

「よお、遊じゃん! どっかいくの?」

「やっほー佳奈!」

 

 駅へ向かう途中で彼女は数少ない友人である日吉佳奈に出くわした。

 ピンク髪に三白眼が印象的な親友はこれからデートなのか気合の入ったコーディネイトの服装をしていた。

 

「ちょっとねえ、東京行ってくるよ!」

「は? トウキョウってあの東京か? なんで!?」

「にはは! 強い人がいるみたいだから喧嘩しに会いに行ってくるのだよ!」

「いや……バカかお前、明日はもう新学期始まるぞ!」

「それじゃ、電車に乗り遅れると大変だからまた九月に会おう!」

「ふざけんなバカ遊! 明日が九月だアホォ――!!」

 

 決意は揺らぐことなく、遊は佳奈の声を振り切って駅へと駆け出していった。

 この喜多村遊という少女、自覚は薄いが不良のレッテルを貼られており学校にも殆ど顔を出さずに繁華街の路地裏といった危険な香りのする場所で日夜荒っぽい連中たちとの喧嘩に励むちょっと困った少女でもあった。

 

「いざ東京! 見つけるぞ、■■ムゲン君! お願いだから、わたしが会ったこともないすっごく強い人でいておくれよー!」」

 

 こうして、無事に駅の改札を通って電車に飛び乗った遊は聖山市を出発すると何度かの乗り継ぎを経て、東京行きの列車に乗り込んだ。

 日が暮れて外の景色がとっぷりとした茜色に包まれたころに列車は長く真っ暗なトンネルに入った。延々と続く漆黒に昼間の喧嘩の疲れが出たのか彼女はうつら、うつらと船を漕ぎ、やがて眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 8月31日。東京。

 蝉の鳴き声は忙しなく行き交う人々の喧騒で掻き消え、夜空の星の瞬きよりも街の人工的な灯りの方が強く輝く都会の一角でのことだ。

 とある人気の少ない路地を小学生ほどの男の子が一人で歩いていた。

 夏休み最後の一日を友達と思いっきり遊んで過ごしたのか、幼さの残る細い腕はこんがりと日に焼けていた。

 

「こんばんは、ボク。こんな夜道を一人で歩いていたら危ないわよ」

 

 女の声が少年を呼び止める。

 少年が声の聞こえてきた方角を振り向くとそこには白装束の女の人が立っていた。美人だが陰があり、どこか幸薄そうな雰囲気の漂う女性だ。

 夜とはいえまだまだ蒸し暑い八月に女は白いコートに白いシャツ、白いパンツと顔以外の全身を気味が悪いくらい白を纏っていた。

 

「夏休みは楽しかったかしら? そういえばボクは何歳になるの? お姉さんにも君ぐらいの弟がいるのよ」

「あの、そのぅ……小学二年の7歳です。誕生日は来月だから」

「そうなんだ。うふ、ふふふ……嬉しい! うれしいわ、うれしいわ、うれしいわ!!」

 

 明らかに不審だとは思ったが少年は女性の纏う言いようのない威圧感に逆らえずに素直に質問に答えてしまった。少年の年齢を聞いた女は花が咲いたような笑顔を急に浮かべると奇声交じりの高笑いを上げ始めた。

 

「え? え、え、え――!? な、なに?」

「ユイトのお友達になってちょうだい。永遠に……ずっとずっと、鏡の国で、あの子の夢の中で、いつまでも。そうよ、ボクくんの時間をあの子にちょうだい!」

 

 口元を細い三日月のように歪めて女は嗤う。

 不意に不気味な光が女から溢れ出したと思うとその体がこの世のものとは思えない異形へと変わっていく。茶色交じりの黄金をしたまるで鳳凰の如き荘厳な姿をした異形だ。

 

『弱き命よ。この世界を壊すための贄となれ――我らの為に。我ら魔人教団の為に!』

 

 女が人の姿から異形へと変わると同時に、その声は低い男の物へと変わった。

 肉体の主導権が彼女から彼女に宿った別世界からの侵略者である彼の物へと移ったのだ。

 

「オバケ? 怪物!? や、やだ……誰か助けて!!」

『諦めろ。この女の妄念にその命を捧げるのだ』

 

 機械仕掛けの片翼を持つ鳳凰の意匠を持つ騎士のような怪人。

その名はフェニックスメタロー。

 

「う……ぅわぁあああああ!?」

 

 恐怖で錯乱する少年に無慈悲ににじり寄るとメタローは彼をこの世ではない何処かへと連れていくために、その異形の手を伸ばす。

しかし、尻餅をついて泣きじゃくる少年に尖った指先が触れる寸前にフェニックスメタローの顔面を何者かの蹴りが掠めた。

 

「夏休みの最終日に人攫いとは悪趣味な奴だな。やらせねえよ」

『何だ貴様は? いや……私をメタローと知って攻撃したお前はこの世界で唯一の敵対者だな?』

 

 寸前でバックステップを踏んで蹴りを回避したフェニックスメタローが愚かな乱入者を睨みつけると、黒のワークシャツ姿の灰色の髪の少年は狼のような金色の瞳で負けじと一般人なら恐ろしさのあまりパニックを起こしてしまうであろう怪人に挑戦的な眼差しを向けた。

 

「大正解だ。お前らの勝手がそう簡単に通ると思うなよ?」

 

 少年とフェニックスメタローの間に滑り込んだムゲンは相手の攻撃を警戒しながらデュオルドライバーを装着する。

 

【1号!×クウガ! ユニゾンアップ!】

 

「変身――!!」

 

【マイティアーツ! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 緑と赤の光の奔流を纏ってデュオル・マイティアーツへと変身したムゲンは間を置かずにフェニックスメタローに殴りかかった。

 

『フン! 乱暴な男だな』

『誘拐犯に言われたかねえよ。テメエ……10歳にもならないガキばっかり何人も攫ってなに企んでんだ?』

 

 矢のように飛んできた右ストレートを裏拳で弾いたフェニックスメタローだったが間髪入れずに繰り出されたデュオルの足刀蹴りをギリギリで片翼で受け止めるとそのまま数メートルの後退を余儀なくされた。

 

「ムゲン! 大丈夫!? 」

『問題ねえ! その子を頼んだぞ、カナタ!』

「まかせて。この周辺、誰もいないみたいだから遠慮はいらないよ!」 

『心得たぜ! サンキュな!』 

「いっちゃえデュオル! ゴング鳴らせェ!!」

 

 両者が睨み合っているとムゲンの後を追って走ってきたカナタが素早く状況を把握しながらガクガク震えたまま放心状態でへたり込んでいる少年を抱き上げるとその場から避難させる。

 アクティブに的確にデュオルが戦いやすいように可能な限りのサポートを行うカナタは走り去りながら、いつもの決め台詞を代行して自分たちの世界のために戦う親友に最高のエールを送った。

 

『そういうことだ! 今度こそ爆散させてやるから覚悟しろ!!』

『何度やっても無駄だ!』

『うおおッ!?』

 

 尊大に鳳凰の翼を思わせる双剣を構えるフェニックスメタローを相手に腰を落とした構えでジリジリと対峙して並走するデュオル。

 機会を見計らって鋭い手刀を繰り出すが相手も上手くそれを手にした得物で防いだ。反撃とばかりに何かに触れると爆発する黄金の羽根吹雪を受けてデュオルは火花を上げて地面を転がってしまう。

 

『クソ……また逃げやがったか?』

 

 すぐに立ち上がって敵の姿を探すデュオルだがフェニックスメタローの姿はおろかその気配さえ忽然と不自然なほどに消失していた。あてもなく近場を索敵しながら駆け回っていたデュオルがカーブミラーの背後に立った時だった。

 

『隙だらけだな!』

『なっ!? ぐおおっ……鏡ィ!?』

 

 カーブミラーの鏡の中から飛び出してきたフェニックスメタローの翼剣がデュオルを切り裂いた。首を狙った二撃目をギリギリで受け止めたデュオルは相手の見せた摩訶不思議な能力に素っ頓狂な声を上げる。

 

『トリックがバレてしまったな。まあいい……ここで殺すことにしよう、仮面ライダー』

『奇遇だな。俺も今夜で終わらせたいと思ったところだ!』

 

 白羽取りの状態から、敵の振るう刃をレール代わりに両手を滑らせて諸手を打ち込んだデュオルだが寸前でフェニックスメタローは再び鏡の中に逃げ込んでしまった。そして、一方的に羽根吹雪の攻撃を放ってデュオルを襲う。

 

『悪足掻きは止せ。お前にこちら側へ干渉する手段はないのだろう?』

『ぐうぅッ! 何かないか……何かねえかッ!! 何か……待てよ!』

 

 勝ち誇るフェニックスメタローの金色の羽根吹雪を苦戦しつつ凌ぎながら、何とかこの危機を打ち破ろうと頭を働かせるデュオル。すると土壇場の状況でデュオルは自分が持っている未使用の二つの力の存在を思い出した。

 

『だったら、この二枚で大勝負といこうじゃねえか!』

『ンンン!? ――それは!?』

 

 ベルトのメモリアホルダーから新たな二枚のライダーメモリアを引き抜くとデュオルは展開したスロットにそれぞれを装填する。それはいつ手に入れたのかムゲン自身も覚えのない、まるでこんな時のために最初から存在していたかのように手札に加えられていたライダーメモリアたちだ。

 

【龍騎!×セイバー! ユニゾンアップ!】

 

『ネクスト・ライド――!!』

 

【ワンダフルリッター! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 メモリアを読み込んだデュオルドライバーの二基の風車が力強い光を放ち回転を始めるとデュオルの周囲には長方形の大きな13枚の鏡が出現してぐるぐると回転を始める。

 鏡には見知らぬ鎧を纏ったデュオルの姿が映っており、それらが眩い光を放つ度に現実のデュオルに鏡の向こう側にある鎧が次々に装着されていく。

 鏡の出現と同時に地表に浮かび上がった魔法陣から火柱が噴き上がるとその炎は竜の形に変化して騎士にも似た姿のデュオルに降り注ぐと黒一色だった体色がまるで命が吹き込まれたように色づいて、新たなるユニゾンアップフォームが爆誕する。

 

『騎士なんてお堅いナリは我ながら似合わねえとは思うがな!』

 

 13の鏡が一斉に砕け散り、夜闇の中で煌めきを放ちながらデュオルは力強く構えた。

 その姿は西洋の騎士を、東洋の武者を、そして異世界の剣士を――剣を操りし者たちの姿形を組み合わせた威風堂々たるものだった。

 黒いアンダースーツの上から右肩は赤龍を模った装甲に覆われ、左肩には古き魔術書を模った肩当て型の召喚機ブックバイザーを装備して、胸部は龍騎に似た意匠の飾り気のない白銀のチェストアーマーで固めている。

 頭部は額の剣のような角・ソードクラウンが無いセイバーのような仮面の意匠となり、代わりに後頭部から楔形の刃が尻尾のように連なって伸びた自在剣ソードテイルが垂れ下がっている。

 

 これこそがデュオル・ワンダフルリッター!

 激動の時代に、欲望と願いが錯綜するミラーワールドで自らも迷い苦しみながら、争いを止めるために戦いの坩堝に挑んだ仮面ライダー龍騎!

 混迷の時代に、悪意と策謀で綴られた最悪のシナリオの結末を覆すために未知なるワンダーワールドを烈なる剣技と燃える勇気で進む仮面ライダーセイバー!

 異界であろうと、形なき脅威が相手であろうと臆すことのない強き意志を秘めた男たちの力を受け継いだ驚くべき騎兵が夜天に暗躍する金色の怪鳥人を切り裂く!!

 

『悪いなメタロー! 不躾かもだがお邪魔するぜ!』

 

 想定外のデュオルの新フォームの出現に鏡の向こうでたじろぐフェニックスメタロー。一方のデュオルは新しい力に興奮しながら万年筆のペン先を模した手甲に組み込まれたデッキホルダーから栞型のアドベントマーカーを引き抜くと左肩にあるブックバイザーにセットする。

 

【SWORDVENT】

 

 仮面ライダー龍騎のそれとよく似た電子音声が響くとブックバイザーの表面がまるで本物の本の表紙のように開かれて両刃の大剣が召喚された。炎のような刀身を持つソードドラグーンを片手に担いだデュオル・ワンダフルリッターは何時ものように脳裏に流れ込んできた龍騎とセイバーの情報を信じて、迷うことなくフェニックスメタローがいるカーブミラーに飛び込んだ。

 

『驚いたな。まさか本当に鏡の向こう側の世界なんかがあるなんて』

 

 視界に広がる全てが鏡に映ったように反転した世界を見渡してデュオルは感嘆の息を漏らす。

 合わせ鏡のような不思議な景色が何処までも続く空間を経てデュオルは無事に本来この世界に存在するはずのないミラーワールドへの移動を成功させた。

 それはミラーワールド、そしてワンダーランドといった現実世界とは異なる空間で活躍する二大ライダーの力を継承しているワンダフルリッターだからこそ成せる次元移動能力だ。

 

『おのれ! よりにもよってここまで追いかけてくるとは!』

『残念だったな。逃げずにあの場で戦ってればこんなことにはならなかったのによお!』

 

 夜風も真夏の暑さも――およそ自然現象の一切が感じられずに耳鳴りのようなあの不思議な音色だけが響く、薄ら寂しいミラーワールドの路上で再び対峙するデュオルとフェニックスメタロー。

 

『そう言う問題ではないのだがな! 順番が狂ってしまったが先に始末してやろう!』

『出来るもんならなぁあああ!!』

 

 意味深に狼狽しながらも、より一層デュオルへの殺意を強めて襲い掛かるフェニックスメタローにデュオルもソードドラグーンを両手で振り上げると敢然と立ち向かう。

 剣の扱いは素人だが持ち前の怪力でまるで棒切れのように軽々と大剣であるソードドラグーンを振り回してデュオルは二振りの翼刀を巧みに操るフェニックスメタローと激しく切り結ぶ。

 

『オオオオオリャア!!』

『キエヤアアアア!!』

 

 デュオルの荒々しい横薙ぎの剣閃を軽やかに飛んで回避したフェニックスメタローは空中から猛禽類のような激しい猛攻撃を仕掛ける。

 

『やるじゃないか! すぐに逃げる腰抜けだと思ってたぜ!』

『ほざけ! 我が宿主の妄念を成就することが我らが教団の目的のために最効率だと判断したまでの結果だ。貴様の方こそ達者なのは口ばかりなのではないかな!!』

 

 飛行、あるいは浮遊能力で上空から絶え間ない斬撃を浴びせながら嘲笑するフェニックスメタローの動きをデュオルはソードドラグーンの幅広い刀身を盾として使いながら、目を凝らして見定める。

 

『これはどうかな!』

『それだ!』

 

【GUARDVENT】

 

 背後の上空から必殺の一刀を振り降ろしてきたフェニックスメタローに好機を見出したデュオルは別のアドベントマーカーを素早くブックバイザーに挿入すると何を思ったのかそのブックバイザーで相手の攻撃を受けたのだ。

 

『なんのつも……っぷおわああ!?』

 

 フェニックスメタローも困惑するデュオルの行動。

 だが、その意味はすぐに判明した。

 敵の刃を受けながら、再び表紙が開かれたブックバイザーからは光の原稿用紙が無数に溢れ出して障壁となってフェニックスメタローを押し返したのだ。

 これこそがワンダフルリッターのガードベント・ペーパーウォールだと気付いた時には手遅れだった。

 

『ダッシャアアアァ!!』

『ぐがっ――!?』

『終わらせるぞ!!』

 

 巨人の一刀と錯覚するようなデュオルの重い斬撃がフェニックスメタローを叩き落とした。地面に叩きつけられてバウンドした相手にデュオルは更に容赦のない刺突を繰り出した。

 

『ンンンオオオオオ!! フハッ! ハッハハハ!! 残念だったな! これしきでこの私は倒せんよ!!』

 

 しかし、フェニックスメタローも手強かった。

 ミサイルのような迫力で突き放たれたソードドラグーンの切っ先を掴み取ると舗装された地面を砕きながらも力づくで踏み止まったのだ。未だに底が見えない高い実力と数々の能力を誇りながら金色の鳳凰は不遜に嗤う。

 

『そりゃあ良かった――なああッ!!』

『ンンンッ!?』

 

 だが、デュオルは間髪入れずに剣から手を放すと全身全霊の力を込めてその柄頭を思い切り殴り抜いた。

 

『これでも笑えるもんなら、笑ってみな?』

『ゴッハア――!?!?』

 

 

 元々ムゲンが秘めている桁違いの馬鹿力で押し出されたソードドラグーンはその刀身を掴み止めているフェニックスメタローの両手を無理やりに抉じ開けて、深々と胴体を串刺しに貫いた。

 だが、フェニックスメタローは過去倒してきたメタローのように爆散することはなく、一瞬その全身が鏡のようにヒビ割れると無数の黄金の羽根を散らして霧散してしまった。

 

『なんだよ……結局また逃げやがったか』

 

 完全に周辺から気配が消え去り、幻術か影武者か――不思議な能力を用いてまんまと逃亡した敵にデュオルは悪態をついた。

 実のところ、あのメタローと交戦するのはこれが最初ではなかった。

 数日前に偶然にもフェニックスメタローが小さな男の子たちを攫っていることを知ったムゲンたちではあったが今夜のように相手はデュオルと積極的に戦うことはなく、すぐに逃げ去ってしまっていたのだ。

 

『こんな鏡の中に現実と殆ど変らない空間があるなら、そりゃあ逃げるのも楽だろうよ』

 

 ソードドラグーンを片手で担ぎ、いま一度ミラーワールドをまじまじと見渡しながらデュオルは納得したように呟いた。ここまで追い詰めたのは初めてだったこともあり、本当なら徹夜で探しまわっても良かったのだが――。

 

『やっぱり、大先輩と一緒でこの姿でも時間制限はあるわけか……ッ!?』

 

 ジリジリと不愉快な音を立てて、徐々に粒子化を始める指先を見ながらデュオルは少し肝を冷やしたように呟く。例え仮面ライダーに変身していてもミラーワールドに滞在できる時間は限られている。その法則がこの【デュオルの世界】には存在するはずのないミラーワールドにおいても適応されていたのだ。

 

『SYAGRAAAAAA!!』

『なんだコイツ!? でかい蛇か!!』

 

 デュオルが足早に現実世界へ戻ろうとすると暗がりから突然何かが襲い掛かってきた。口から毒液を吐きながら、デュオルを捕食しようと牙を向ける巨大なミラーモンスター。メカニカルな外観の紫色のコブラのようなそれは紛れもなくあのベノスネーカーだった。

 

『このッ……あっちいけ!』

 

 執拗に噛みつき攻撃を仕掛けてくるベノスネーカーをソードドラグーンでがむしゃらに斬り払うと一気に両断しようとするが周囲から感じる複数の気配に踏み止まる。

 鏡写しの夜の街を見渡せばそこには原典と変わらずかつての住人たちもまた再現されていた。

 

『オイオイ……これじゃあまるで怪獣映画じゃねえかよ』

 

 圧巻の光景にデュオルは思わず振り上げた大剣を静かに下ろして絶句した。

 無機質な満月が浮かぶ空を舞い踊る赤い龍と漆黒の蝙蝠。

 無人の街を跋扈する緑の猛牛、鋼色のサイ、白き猛虎。

 命の鼓動を感じられない水辺には朱色のエイに橙色をした蟹。

 他にも無数のミラーモンスターたちが突如として東京の街に出現した謎のミラーワールドには棲息していた。

 

『なんて魔境だよ……こりゃあ、大人しく帰った方が良さそうだな』

 

 魔人教団と戦うようになって大抵の非現実的な存在には慣れっこになっていたデュオルでもこの光景には驚くしかなかった。

 既にこの場に留まれる時間も残りわずかなこともあり、デュオルは迷うことなくミラーワールドから逃げるように退去した。

 

 

 

 

 現実世界に戻ったムゲンは少年を無事に家まで送り届けていたカナタと合流して、ミラーワールドの存在を話すとこれからどうするかを近くの公園で相談していた。

 

「鏡の中に別の世界とは……まるでメルヘンな童話だね。他にムゲンが気付いたことはあるかな?」

「人間はいなかったな。けど、メタローとは別の怪物たちがウヨウヨいた」

「ムゲンが変身しても限られた時間しか入っていられないとなると簡単に探索ってわけにもいかないし、ちょっと困っちゃうかなこれは」

 

 ムゲンから聞かされた身近にある異世界の話をすんなりと受け入れたカナタはミラーワールドについてはそこまで深く関心や驚きを持つことはなく、逃げ足の速いフェニックスメタローをどうやって捕まえるかに心を砕いていた。

 平行世界からの侵略者に、数々の異世界を旅して渡り歩いてきた仲間まで持つムゲンやカナタたちにとって鏡の世界と言う存在は驚きこそあれど、すんなりと受け入れられる非日常の範疇であった。

 

「ムーさん! カナタ! お疲れー!」

「今回のメタローに憑かれた人の身元が分かったよ」

 

 チーム・メリッサの司令塔であるカナタがオレンジ色の髪を指でくるくると弄って今後の活動方針を考えていると別行動中だったハルカとユノが賑やかな人通りの中からやってきた。

 こちらの二人はフェニックスメタローの行方を掴むための大きな手掛かりとなる宿主の情報収集を行っていた。奇しくも数日前に白装束の女がメタローに変化して子供を攫う姿をユノが目撃していたことで今回は早いうちに身元を割り出すことが出来ていたのだ。

 

「よくやったなハルカ! で、あの女の人どこの誰だ?」

「名前は神崎シキ。絵本作家をやっているみたいで、業界では期待の新人って感じで注目されていたみたいだな」

「ユノさんが本人見てたからって、よくこんなすぐに見つけ出せたな」

「そのあたりはSNSのお陰だな。似顔絵付きで恩人にお礼がしたいから目撃情報を求めるって触れ回ったらすぐに突き止められたよ。想定よりも簡単だった」

 

 感心するムゲンにハルカは涼しい顔で答えると小さく得意げに笑ってみせた。その隣ではハルカの多芸っぷりを改めて見せつけられたユノが呆気にとられた顔をしている。

 

「いやいや、楽に言うけどさ……ウチの雑な説明からよくあんなクオリティ高いイラスト描くよなハルっち。カナタもだけど、ホントに何でもござれだねえ」

「そこはまぁね。色々とほどほどに上手に出来る自信はあるけど、オッシーみたいにその道を極めたガチ勢には敵わないよ」

「またまた~! あ、それでさムーさん。この作家先生のことだけどちょっと気になることが分かってさ」

 

 澄まし顔のハルカの背中をバシバシ叩いて褒めながら、急に真面目な顔になったユノは今回のメタローの行動に繋がるかもしれない神崎シキの家庭事情についてムゲンとカナタに話し出した。

 

「歳の離れた弟さんがいるらしくてね。名前は……あーっと、ハルっち!」

「神崎ユイトくん。どういう理由かまでは分からなかったけど、長期入院しているみたいだな」

 

 無駄にキリっとしたユノの声に振られたハルカは相手方が姉弟ということもあってか少し同情的な顔をしながら神崎シキの弟の名を告げた。

 

「……ねえ、ハルくん。その弟くんって歳いくつか分かる?」

「たしか7歳って話らしいけど」

 

 神崎シキおよびフェニックスメタローと少年の会話を聞き取れていたカナタたちは彼女の弟であるユイトの年齢を聞いてハッと顔を見合わせた。

 

「襲われてた子供と同い年だな」

「うん。もしかしたら、今日までに誘拐された子供たちも同い年かもね。共通点があるのなら、あのメタローが狙っている人間や誘拐のルールみたいな規則性が見えてくるかも」

「にしても鏡の国がどうとかも言っていたし今回のメタローは随分と回りくどいことする奴だな」

「鏡か……二人ともちょっとこれ見てくれないか?」

 

 メリッサへ向かう道すがら、ムゲンが見つけたミラーワールドやそこに棲息するミラーモンスターたちの存在を聞かされたハルカは先程から小脇に抱えていた一冊の本を二人に見せた。

 それは神崎シキのデビュー作である絵本だった。鏡の世界に迷い込んだ主人公がどんな願いも叶える魔法のアイテムを手に入れるためにモンスターたちと戦いながら大冒険を繰り広げるという内容のものでDRAGON KNIGHTというタイトルが表紙に綴られている。

 

「ふーん……いまの絵本ってこんなに絵とか凝った感じになってるんだ」

「子供騙ししてないって言うか、フツーにカッコいいじゃんな! ウチ、この白いドラゴンみたいなのとか好きだぞ。いろんなトコから刀みたいなの飛び出してるし」

「ユノは少年の心を持ってるねえ。私はそこまでピンとこないかなぁ」

「そっか? 人形とかで売ってたら、ウチうっかり買っちゃうかもだけどな」 

「なんていうか、メカとかロボっぽいテイストなのに妙に生々しい感じがするのがすごい絵だとは思うんだけど、ちょっと苦手と言うか」

 

 絵本のページをめくるカナタの横からにゅっと顔を出すユノは目をキラキラと輝かせて描かれているモンスターたちにテンション高めに盛り上がっていた。神崎シキの画力は確かに年齢の枠を超えて感性のマッチする読み手の心を掴んで離さない魅力を秘めているようだった。

 

「著者近影の顔写真が載っていたから図書館で借りてみたんだ。何か手掛かりになりそうなものがあるといいんだけど」

「なぁームーさんはどいつが好きよ? この青い隼みたいなのも背中にキャノン砲みたいなの背負っててカッコいいぞ! あれ……ムーさん?」

 

 お気に入りの漫画の最新話を読んでいるように興奮気味なユノが無邪気な笑顔でムゲンにも推しを尋ねてみるが当のムゲンは神妙な顔つきで絵本の中のモンスターたちを見入っていた。

 

「どうなってんだい……ますますワケが分かんなくなってきたぞ」

「ムゲンもしかして、なにか何か見つけたの?」

「この絵本に載ってるモンスターだけどな、あの鏡の向こうの世界に実際にいた連中ばっかりだ」

 

 眼鏡を掛け直して、お手上げとばかりに乾いた笑いを漏らすムゲンに三人は揃って首を傾げた。そして、カナタの問いかけに自分がミラーワールドで目の当たりにした光景を思い出しながらそう答えた。

 神崎シキが創作した絵本に描かれたモンスターたちは全てミラーモンスターとして鏡の中に存在しているものだったのだ。

 

「いや、俺の見た限りユノさんが言ってる全身刃物の白いドラゴンやキャノン砲背負った青い隼みたいなのはいなかったけど、この紫の大蛇みたいなのは俺を見るなり襲ってきたやつだ」

「ウチはもう何が起きてるのかサッパリなんだけど、カナタはどうなのさ?」

「メタローになったことで自分の絵本の世界を再現したとか色々と想像の翼は広げられるけど……判断するには証拠や情報が足りな過ぎるかな?」

 

 ユノの言葉にカナタはしばらく考え込んでからポツリと答えた。この時、実のところカナタの関心はミラーワールドの発生の原因よりかはそこに住まうミラーモンスターたちが野性動物に近いものなのか、メタローの手下なのかにあった。

 

「ムゲン、このモンスターたちにも敵として襲われたら勝てる自信ある?」

「余裕だ!って言いたいところだけど、時間制限ってのがネックだな」

「だよね」

 

 思い切って尋ねた質問に対するムゲンの返事にカナタはたははと苦笑い。今回の事件はいつもに増して、みんなで手分けして解決すべきことは多いようだ。

 

「課題は山積みだけど今日のところはクーさんたちにも事の詳細を報告して解散だな。流石に夜も更けてきた」

「まさか夏休み最後の日までメタローに振り回されるとはなあ。アイツらも休んでりゃいいのに、さては休日出勤もザラにあるブラック企業だな」

「誰かがストライキでも起こしてくれればいいのにねえ。あ……それっぽいのをやられたばっかりか、敵さんたち」

 

 特殊な案件の敵の前に困惑しながらも、こちらはこちらで一筋縄ではいかない面子ばかりのムゲンたちは軽口を言い合いながら静かに闘志を燃やしていた。

 

「やることメモ書きしてくれれば、ウチ学校サボって調べとくけど――」

「ユノもちゃんと学校行きなさい。夏休みの宿題、手伝ってあげたでしょう? ちゃんと行ってるかアサギさんにも確認するからね」

「ひゃー……参ったねぇ。ちゃんと行くから、アサギに言うのは堪忍してくれ」

「クス。素直でよろしい」

 

 ガックリと肩を落としてうなだれるユノを微笑ましく眺めながら、ムゲンたちはカフェ・メリッサに戻ってクーやシスターたちに事件の状況を伝えるとそれぞれの家路についた。

 

 彼らにとっても色々なことが起こった激動の夏休みはこうして、新たな騒動を抱えたまま終わりを迎えたのだ。

 

 

 

 

 8月32日。

 スマホのアラームよりも少し早くにムゲンは目を覚ました。

 

「ふわぁぁ……あちぃ。八月も今日で終わりだって言うのに敵わねえな」

 

 スマホの画面に表示されたカレンダーを確認する。

 今日は8月32日。夏休み最後の日だ。

 幸いなことに夏の宿題は7月の内に全て終わらせてあるし、今月の家賃も払ってあるから何の気兼ねもない一日を過ごせるだろう。

 

「一日だけでもいいから、クーラー全開にした部屋で布団被って寝てみたいよ」

 

 密やかな夢を一人語りながら、ムゲンは洗面所に行くと蛇口から流れる水に頭から突っ込んで寝汗と一緒に眠気を吹っ飛ばすと朝食の準備をしながら身支度を整えていく。

 連日こうも暑いと食欲も失せてしまう。だが、朝の食事は大事だと言うことを長きに渡る一人暮らしの生活で実感しているムゲンは朝食だけは欠かさず食べることにしている。   

本日は海釣りで釣ってきた魚の切り身が入ったお手製の海鮮味噌汁に昨夜の冷飯と氷を放り込んで雑炊っぽく仕上げたものを一気にかき込んで胃袋に詰め込んだ。

 

「さて。貴重な夏休みを台無しにしやがったバカメタローをぶっ飛ばしにいくとするか。真夏の男子高校生の怒りを舐めるなよ」

 

 そんなことを言いながら、いますぐにでもキャンプに行けそうな私服に袖を通したムゲンは自宅を出た。

 

 8月32日。

 双連寺ムゲンのいつもと変わらぬ朝の風景である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「にはは! 改めて、やってきたよ東京!」

 

 ボサボサの銀髪を都会の夏風に揺らして、遊は向日葵のような弾ける笑顔で喜びの声を上げる。

 実際は昨日の深夜には東京に到着して、格安のビジネスホテルで一泊していたわけなのだが彼女としては本日この瞬間が真の東京初上陸であった。

 

「やっぱり聖山市とはなんかいろいろとすごそうだよね。美味しい物もたくさんありそうだ。おっといけない、脱線するとこだった」

 

 聖山市も地方都市としては栄えている方だがやはり大都会である東京はスケールが違う。行き交う人々の喧騒の大きさといい、空高くそびえるビルの一棟といい、あちこちから香る美味しそうな料理の匂いといい――全てが遊にとっては初めての素敵な刺激だった。

 つい、様々な誘惑に目移りしそうになる気持ちを落ち着かせると遊は本題である人探しを始めた。

 

「夏休み中だから学校にいる可能性は低いけど、とりあえず学生さんっぽい人に聞いていくしかないよね」

 

 ホテルにチェックインしてから眠りに就くまでに具体的に■■ムゲンなる人物を探す方法を考えていた遊ではあるが手が掛りが名前と地方からの転校生ぐらいしかないので悩んだ挙句に都内にある高校を巡って、その場にいた生徒たちに片っ端から聞き込みをするという手段を選んだ。

 

「さてさて、最初は城南学園ってとこに行ってみようかな……んー?」

 

 地図アプリを開いたスマホを片手にウキウキと胸を躍らせながら東京の街を歩いていた遊だったがふと、入り組んだ路地裏に続く横道の方から誰かの声のようなものを聞いて立ち止まった。

 喧騒に負けないように耳を済ますと薄暗い路の向こうからは何やら困惑したような女性の声がする。そこで彼女は直感で気付いた――自分がよく出くわす事がやはりというか東京でもあるのだなと。

 

「んー、気付いて知らないふりは気分悪いしね。それに噂の彼とヤる前に準備運動は大事だよね」

 

 数秒考えてから、正義感よりも単純に喧嘩がしたいという欲求に突き動かされた遊は鼻歌を口ずさみながら声のする方へと駆け足で向かって行った。

 

「ねえ、いいでしょ外国人のお姉さーん。俺たちが東京案内してあげるってば」

「そうそう。異文化コミュニケーションってやつ? キヒヒ!」

「で、ですからねー! わたしってば観光客でもなんでもないですし、ぶっちゃけもう何か月もここで暮らしてるんでガイドとかノーセンキューなんですけど」

 

 遊がしばらく薄暗い横道を進むと予想通りに若い女性がガラの悪そうな男たちに言い寄られていた。それも女性の方は青紫の豊かな髪を持った褐色肌の外国人である。

 

「いいから! 俺らと一緒に来いって! 楽しいこと教えてやるからよ!!」

「ちょっ!? だーもう! この手、放してもらえませんか痛いんですが!」

 

 丁度絶好のタイミングで男たちが褐色の女性に手荒な手段に走ったのを確認して、遊は口角を喜びで吊り上げた。流石に口だけの男たちは殴れないがこうなってしまえば遠慮はいらない。

 

「すみませーん! どりゃああ!!」

「ぶっほおお!?」

「――はい? ってか、どなた!?」

 

 人懐っこい声に視線を向けたチンピラの一人の顔面を問答無用で遊は殴り飛ばすと待ってましたと嬉しそうに笑って間に割り込んだ。

 信じられない乱入者のエントリーに、手首を掴まれていた褐色の女性――買い出し途中だったクーも目を丸くして驚くばかりだ。

 

「な、なんだよ小娘オメーはあ!?」

「この女と一緒にハイエースに引きずり込んでブチ犯すぞオイ!!」

 

 一撃で沈められた仲間を見ながら怒りを爆発させるチンピラ達に遊は二カっと笑って拳を構えた。

 

「おねーさんはわたしの後ろに下がっててもらっていいですか? 喧嘩するついでにお助けします!!」

「逆では!? とはいえありがとうございますです。知らないお人!」

「にははは! たぶんねー!!」

 

 お互いに初めて出会ったとは思えない阿吽の呼吸でボケとツッコミのようなやり取りを交わすクーと遊。そして、遊の方はと一気に殺気立って向かってきたチンピラ達を相手にガンガンと殴り合いを仕掛けていった。

 

「ムフー! お兄さんたち東京のチンピラなんでしょ? そんな弱くて恥ずかしくないのかい?」

「東京のチンピラが強くなきゃいけない理由があんのかよ!? ワケ分かんねえこと言いやがって、この女やべーぞ!?」

 

 相手たちから二、三発ほど殴られたりもしたがまるで歯ごたえのない相手に遊は身勝手極まる思いの丈をぶつけた。彼女の中ではRPGのノリで都会のチンピラや不良たちは強いと言う図式が勝手に出来上がっていたので、ちょっと全力で殴っただけでKOされてしまう彼らに深い憤りを感じていた。

 

「ヤロォ……ぶっ殺してやる!!」

 

 あっという間に全員を殴り倒して、ちょっと不完全燃焼気味の遊が後ろに下がらせたクーに声を掛けようとした時だった。

 最初に殴り飛ばされて気絶していた男が目を覚ますと自棄になってポケットからナイフを取り出して突っ込んできたのだ。

 

「あぶない! 後ろで――」

「おっ?」

 

 それに気付いたクーが大声を張り上げるよりも速く。

 強張った表情のクーを見て、異変に気付いた遊が後ろを振り向くよりも速く。

 狼のような鋭い金色の双眸が薄暗がりを駆け抜けた。

 

「よぉ、俺の大事なツレにこんな玩具で何しようとしてたんだ?」

「ぐ、が……あばば!?」

 

 パキンと変な金属音が響くと男の持っていたナイフが根元から圧し折れた。

 同時に我を忘れて怒っていた男は急に現れた少年に片手でアイアンクローよろしく顔面を掴まれるとそのまま両足が地面から離れて高々と持ち上げられてしまう。

 

「ムゲンさん! ナイスなタイミングでしたよぉ! たすかりましたぁ」

「シスターのお使い帰りに災難でしたね、クーさん。そこのあんた、この人を助けてくれたんだろう? ありがとな」

 

 クーたちを襲った男を片手で持ち上げながら威嚇しつつ、ムゲンは穏やかな表情で事情が呑み込めずに間の抜けた顔をしていた遊にお礼を言った。

 そして、刃が折れたナイフを男から取り上げるとソレを相手が見えるように眼前にチラつかせる。

 

「弁償しろっていうんなら弁償するがよ。こっちもクーさんの迷惑料を払ってもらう義務があるよな? 俺は平和的にいきたいと思ってるんだがどうだい?」

「ひぐうう!? わ、悪かったよ。金もいらないし、もうそこの二人にもちょっかい出さないよ! だ、だからこの手を放してくれ!!」

「よし。物分かりがよくて助かるよ」

 

 素手、それも片手でナイフを圧し折った常識外れの握力を目の当たりにして顔面蒼白になって許しを乞うチンピラを解放するとムゲンはクーと遊を連れてさっさと表通りへと出ていった。

 

「俺は双連寺ムゲンって言います。こっちはクーさん。クー・ミドラーシュって俺のバイト仲間でして、危ないところをありがとうございました」

「はい! 本当に危機一髪のところを助けてもらって感謝です。お名前聞いてもよろしいですぅ?」

「いやいやぁー。わたしもいい運動させてもらったわけだし! そんな全然気にしないでおくれよ」

 

 強面の見た目の割に礼儀正しくちゃんとしている感じのムゲンに内心面食らいながらも遊は持ち前の人懐っこさで朗らかに笑って自然体でいた。

 

「わたしは喜多村遊って言うんだ。ちょっと、東京に人を探しに来たのだよ」

「ご苦労なこったな。遊さんには恩があるし、俺たちで良かったら出来るところで力になるぜ?」

「ハイですとも! クーの恩返しってやつです!!」

 

 個性的が過ぎる人間に免疫がありすぎるせいか、戦闘狂の片鱗をチラホラと見せている遊の感性のズレなどに未だ気付かない二人は彼女のことを純粋に親切な人と見受けてそんな風に申し出た。

 すると自己紹介からずっとムゲンという名前が頭の中で反響していた遊はにへらっと危うげな笑みを浮かべて、爛々とした視線を他でも無い双連寺ムゲンに向けた。

 

「それがねー、わたしが探している相手ってばムゲン君かもしれないんだよね? にはは!」

 

 こうして、双連寺ムゲンと喜多村遊――出会うはずのない二人は邂逅を果たした。

 この出会いにどんな運命の歯車が動き始めるのか、まだ誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本の何処かの深い森にある古びた洋館。

 一見すると廃墟のようにも思えるが内装は隅々まで手入れが行き届いており、誰かが暮らしている気配があった。

 そんな摩訶不思議な雰囲気が漂う洋館の一室に、まるで花の妖精のような可憐な少女の姿があった。

 

「にしし♪ そっかそっかぁ……この世界にミラーワールドなんてものができちゃったんだ」

『はい。私がこの女を仮初の肉体として取り憑き、怪人体を得てからすぐに何の前触れもなく出現したのです。幸いなことに現在の段階ではこちらの活動に重宝しているのですが……不可解なことが多く、貴方様に個別に報告致した次第です。レーヴァテイン様』

 

 幼く透き通ったような美しい肢体を純白のワンピースで包み、鮮やかなピンクの髪をふわりと揺らすレーヴァテインと呼ばれた少女の形をした大いなる存在。

 彼女は魔人教団が誇る最強戦力・死奏剣の一員にして、統括長ネメシスの最愛の朋友の一人。高次元生命体メタローの中でも、更なる高みへと昇華した上位種ハイ・メタローだ。

 

 フェニックスメタローから精神同期を用いた交信で謎多きミラーワールドの存在を知った彼女は大きなソファーに座って、可愛らしく足をパタパタと振りながら無垢な笑顔を見せる。

 

「フェニックス。あなたが見つけたミラーワールドはきっと、とっても珍しくておもしろいものよ。だから、絶対に閉じさせたらイケないんだからね?」

『ハ……ハッ! 承知いたしました』

「いまレヴァンも調べ始めているけど、すっごく興味深いわ。まるでヒミツのお花畑を見つけた気分よ。だ・か・ら――あなたは細胞の一欠片になろうとも生きて、その花園を閉じないように努めてね。約束よ?」

「……必ずや、お言いつけを守るよう全力で努めます」

 

 畏まりながら交信を終わらせたフェニックスメタローとの精神同期を止めたレーヴァテインは知的好奇心を狂おしいまでに刺激するイレギュラーな存在の発覚に天使のような甘い声で笑いながら、心の感じるままに無邪気に踊り始めた。

 

「なんだなんだぁ? 随分とご機嫌じゃないかレーヴァテイン?」

 

 彼女の上機嫌な声を聞きつけて、広間にはもう一つの大きな人影がドカドカと入ってきた。テンガロンハットを被った山のように巨大な筋骨隆々の刺青の男。レーヴァテインと同じく死奏剣の一人にしてハイ・メタローへと昇華した大戦士アロンダイトである。

 

「ええ、アロンダイト。聞いて聞いて、なんとこの世界に絶対にあるはずのないミラーワールドができてしまったのよ! とってもおもしろいことよ?」

「ミラーワールドだあ? そりゃあ、お前がここに来る前に侵略していた世界の仮面ライダー共が戦場にしていた場所の名前じゃなかったか?」

「よく覚えていたわね。やっぱり戦いに関することはアロンダイトのミミズよりも小さな脳ミソにもちゃんと記憶されるのかしら?」

「だっははは! お前じゃなかったら、すり潰した後に肉団子にして食ってやったぜ! 可愛いナリで良かったなぁ。おら、抱いてやるから俺ちゃんのとこにきな」

 

 慇懃さと物騒さが歪に同居した彼女たち流のユーモアあふれる会話が交わされていく中でタブレットのような端末を操作して調査を同時進行していたレーヴァテインは感心したような顔を浮かべると、定位置になっているアロンダイトの肩に飛び乗った。

 

「あの世界はね、最初からそこにあるものじゃなくて一定の条件が揃わないと開かれない蜃気楼みたいにあやふやな異世界なの。そして、いまレヴァンたちがいるこの世界だと絶対に出現しないはずのものだったわけ……ここまではいいかしら?」

「オーケーオーケー! まだついて来れてるぜ。つまり、絶対あり得ないことが起きちまったからビックリ仰天ってこったよな? 例えるならあのツムカリがお淑やかなお嬢様みたいな虫も殺せない性格になっちまった的な」

「ぷっ……あっははははは!! とっても素敵な例えだわアロンダイト。そう、その通り♪」

 

 四六時中いつも辛気臭い顔で煙草をふかし、殺気を飛ばしているような悪友が小虫に怯えて泣きじゃくる姿を想像してお腹を抱えて笑い転げるレーヴァテイン。ひとしきり大笑いしてから、彼女はアロンダイトの耳元で囁くように話題の本題に入っていく。

 

「なんでか生まれちゃったミラーワールドも不思議なんだけど、もっと摩訶不思議なことはいまこの世界にはもう一つ、ミラーワールドが存在しているのよ」

「はあ?」

「恐らく、フェニックスが見つけたのは色んな要因が作用しあった影響で偶然にできてしまった不出来なイミテーション。亜種ミラーワールド……うーん、ちょっとカッコ悪いからアナザーミラーワールドとでも呼んでおこうかしら」

 

 小首を傾げながら、レーヴァテインはそんな風に謎めいた鏡の世界に仮の名前を付けた。

 

「待て待て! 最初の頃からしつこいぐらいにあり得ないとか絶対に不可能だとか言ってたのが一つの世界に二つもあるだなんて可笑しいじゃねえか? 東京にあるのが紛いものなら、本物はどこにあんだよ?」

 

「一応場所はいま判明したところ。でもぅここはキーポイントに違いないけど、出向いて調べるまでもないかしら? あくまでもアナザーミラーワールドの謎はアナザーミラーワールドの内側で完結されたものだと思うかなぁ」

「一体何なんだよ? 俺ちゃんもう頭痛くなってきたんだけど?」

「トリガーとなったのは聖山市というこの世界には存在しないはずの街で行われている外典のライダーバトルよ。今回の一件においてはこっちのものが正しい存在であるミラーワールドと表現するべきかしら?」

「だぁああああ! 分かる言葉で説明しやがれ、俺ちゃんにはもうお手上げだ」

 

 自分にだけ解る言葉であれこれと説明なのか、確認なのかも分からなくなってきた難解な言葉を並べてばかりのレーヴァテインについて来れなくなったアロンダイトはソファーに寝っ転がると昼寝を始めた。

 

「そうだね、もっとシンプルな言葉を使うと――スペシャルサンクスっていうことよ。にしし♪」

 

 何処かに、あるいは誰かに真摯な声色で呟いて、レーヴァテインは尋常ならざる集中力でアナザーミラーワールドに秘められた謎の数々をじっくりと解明するゲームへと耽り始めた。端末の画面に視線を落とす前に鏡のように世界を映す洋館の窓ガラスへと一瞥の微笑みをプレゼントして。

 

 

 

 

 

 

「全くその通りですよ。アリスちゃんたちは手厚く歓待されるべきゲスト。そちらがホストだというのに、まるで私たちが騒動の原因のような言い草をして気に入らない似非ロリっ娘がいたものですねえ」

 

 合わせ鏡が無限に広がる不思議な空間で語り部を担う少女が黒い微笑みを浮かべる。

 

「とはいえ、こちらもイレギュラーを出してしまったのは事実でしょうか? 全くあの朗らかバトルジャンキーはどうして物語の枠組みを飛び越えて東京(あんな)ところにいるんでしょうね」

 

 漆黒を纏う鏡の世界の少女は耽美な仕草でたゆたいながら、彼女もよく知る銀髪の少女の姿をとある鏡から眺めながら、深いため息をひとつ落とした。

 

 交わるはずのない二つの物語が入り混じり

 綴られ始めてしまった白昼夢のような小奇譚

 蜃気楼のような奇妙なお話はまだ始まったばかりである

 

 

 




ということで始まりましたコラボ回
世界観がいまのところよく分からないかもしれませんが次回の序盤には
分かりやすい説明を入れるつもりですのでそれまではご容赦ください(汗)

大ちゃんネオさんにおかれましては喜多村遊をこんな形でデュオルに絡ませること、そして仮面ライダーツルギにおいて重要なキャラクターであるアリスのゲスト出演のオファーを快く許可して頂き本当にありがとうございました。

この場を借りてお礼を申し上げます。
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