この度、お気に入り登録させてもらっている様々なオリジナルライダー作品に感化されて思い切って自分の妄想を曝け出す、もとい自分もオリジナルライダーのSSを投稿して見ることにしました。
何分、初めてのことで文章構成など至らぬ点も多々ある拙作になると思いますが生暖かい視線で見守っていただけると嬉しいです。
また本作はところどころでメタフィクションを含む設定や、作中においてもそれに関連した台詞や地の文がありますので、そういった要素が苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。
第0話 デュオル、無彩色の戦士
そこはまさにこの世の地獄だった。
木々は圧し折れ、野花は踏みにじられ、何かが爆ぜた残火が未だ揺らめく一面の廃墟
当然である。
何故ならば、つい数分前までこの一帯は夥しい数の異形の怪人たちがひしめき合う地獄絵図と化していたのだ。
改造人間。グロンギ族。ミラーモンスター。アンデッド。ワーム。
ドーパント。ファントム。インベス。ロイミュード。スマッシュ。
厳密にはそれらはその姿形と力の一端を再現した模造品。
粗悪乱造の量産品、知識あるものであれば再生怪人とも称される者たちであった。
けれど、その数の暴力とも言える異形の大軍は力なき人々を自由と平和を容易く打ち壊していった。
一つの世界とは言わず、数多くの世界でその暴虐は猛威を振るっていたのだ。
女が一人、そこにいた。
金の刺繍が施された紅いローブのような旅装を纏った年若い女だ。
褐色の肌をした麗しい女性。
名はクー。クー・ミドラーシュ。
世界に平穏を取り戻すために、とある者たちを探す旅路を流離う、余人からは魔術師とも呼ばれる一族の者であり、つい今しがた異形の者たちに襲われかけた当人だ。
「すごい……あれだけいた怪人たちをたった一人で」
「こんなところか」
彼女の視線の先にはトイカメラを首に提げた黒いスーツを着た青年が立っていた。
どこか悠然と否、不遜と言う言葉の方が適しているだろうか?
只者ではない佇まいの青年は事実、もう一つの姿と力を以ってクーを襲う怪人たちをたった一人で蹴散らしたばかりなのだ。
彼の名は――。
「ああっ、仮面ライダー! やっと見つけた! 私はずっと貴方を探していたのです! 貴方の力をどうか貸して下さい!」
クーはまるで父親に駆け寄る幼子のように歓喜と安堵の想いを溢れさせて青年の元へと近づいていく。
彼女とその仲間たちがある日突然始まった侵略に遭遇して以降ずっと探し求めていた存在がいま目の前にいるのだ。
自由と平和の守護者。例え、架空の存在という形でしか成立していない世界であっても人々の心に勇気を与えてくれる仮面の英雄たち。
「おい、お前がギギの民のクーでいいのか? お前も世界を渡れるそうだな」
「は……はい! 私を……私たちレジスタンスを御存知なのですね? 良かった。それなら話が早いです。どうか一緒について来て下さい!」
「こいつを受け取れ」
「きゃうっ!? あの、これは?」
クーの素性を確認した青年は何かが入った古びた革鞄を投げ渡した。
「ある男から頼まれた。確かに届けたぞ。生憎だがこれで今回の俺の役目は終わりだ」
「そんな!? どうしてです! お願いです。私たちと一緒に戦って……いえ、私たちを助けて……お救い下さい! だって、貴方は仮面ライダーなんでしょう?」
突然の言葉にクーの困惑と嘆きは大きいものだった。
今にも泣き出しそうな震えた声で青年に詰め寄ると彼は少し眉をひそめながら口を開いた。
「……確かに俺は――の仮面ライダーだ。けどな、俺はお前の探している仮面ライダーじゃない」
一際強い風が吹き、青年の言葉の一部は聞き取れない。
だが、確かに自分を仮面ライダーだと認めた青年は困惑するクーにさらに話を続けた。
「どういうことですか?」
「今回の事件(ものがたり)の幕を引くのは俺じゃない、別の誰かがいるってことだ。前提として、そいつじゃなきゃダメらしい。まあ、俺たちも奴ら魔人教団に横槍くらいは入れてやるさ」
「そんな……じゃあ、私はこれからどこへ向かえば良いのやら」
「安心しろ、詳しい行き先はいまお前に渡したそのベルトが導いてくれるそうだ。あと、一緒についているオマケも失くすなってことだな。どうだ、やるべきことは大体分かったか?」
青年に言われてクーが鞄の中身を確認すると不思議なバックルのベルトと一緒に複数枚のカードのようなものが入っていた。
「……あのぅ、本当に一緒に来てはくれないのですか?」
「そう落ち込むな、少なくとも旅の目的はハッキリしただろう? これは特別に俺からの餞別だ。遠足の片道代金くらいは払ってやろう」
青ざめたような顔のままのクーを見兼ねて、青年が何気なく片腕を軽く振ると彼女の目の前に突然、ゆらめく銀色の幕のようなものが出現した。
「え……え、え、えっ!? なんですかこの銀色のゆらゆら! あの、ちょっと仮面ライダー!?」
「じゃあな、せいぜい頑張ってこい」
あろうことか銀色の幕は状況を呑み込めていないままのクーの前にゆっくりと迫って来た。
「困りますぅ! こういうのは心の準備がですねえ! ああ、もうっ! なんて人なんですか、信じられない! 大体なんですか、そんな派手で悪趣味なピンクのシャツ着ちゃってこの――」
予想も出来ない展開の連続でついにフラストレーションが爆発したクーが自棄になって喚き散らし青年への文句を言い終える前に世界の壁を超える力を秘めたオーロラカーテンは彼女を別の世界へと転送させた。
「ピンクじゃない、マゼンタだ」
青年はクーがこの世界から消え去り、別の世界へと移動したことを見届けると誰もいない視線の先に不服そうに呟いた。
「あれだけ騒げるなら問題ないだろう。さて、俺も行くか」
そして、独り残った青年もまた再度出現させたオーロラカーテンを通り抜け、静かに彼だけの物語に舞い戻っていく。
彼もまた旅の途中だからこそ――。
※
これは私たちが生ける世界と限りなく近く、限りなく遠い――ありふれた世界で始まる物語。
※
ある夜のことだ。
その日、人知れずささやかな流星雨が降り注いだ。
もちろん、宇宙から流れ落ちた本当の隕石の類ではないが、この世界の運命を左右する祈りと力が秘められた大いなる星々に違いはない。
そして、ほぼ同時刻――。
「ダメだぁ……馴染みの娘たちは全員カラ振りかよ、ケチクセえな」
酒臭い吐息と共にうだつの上がらない嘆きが漏れる。
人気のない夜の歓楽街の路地裏をくだびれたスーツ姿の男がツー、ツーと通話の切れた音が物寂しく鳴りっぱなしのスマートフォンを持ったまま、とぼとぼと歩いていた。
「お客捕まえられなきゃまた便所掃除に逆戻りかぁ……あーあー、楽して稼げると思ってたのに騙されたぜ。いや、俺は顔も超良いし、コミュ力もあるんだから大成しないわけがないっしょ! やっぱアレよ、世界が悪いわコレ! 政治家とかマジでファ●ク! いっひははは!」
彼の名は藤島。冴えない三流ホストをしている若い男だ。
甘い期待と浅い考えで勢い任せに夜の世界に飛び込んだものの、予想とは正反対の自他共に厳しく過酷な業界をまともに渡り歩くことも出来ずに日々を適当に生き、そのくせ欲望だけは一級品と言う始末の悪い類の人間だった。
『――ネエ、そこのキミ』
「う、ん? おわっ! 火の玉!? なにこれCGかなにか?」
『キミ、この世界が嫌いなんだよね? もしも、キミの手で壊せるとしたらどうする?』
突如として藤島の目の前に現れた拳ほどの大きさの虹色に発光する火の玉は朗々とした口調で囁き始めた。
「やべえなアンタ、なに魔王的なすげー系? あはは! いや、でも警察沙汰みてーなのはオーナーにキレられるしなー」
酔っていることもあってか、藤島は驚きや困惑こそあるが面白半分に謎の火の玉と会話を続け始めた。これが悪魔の誘惑であるとも知らずに。
『私が手を貸せばそんなものは全て、全て、塵芥だとも。全てを壊し、キミの思うままに創り変えてしまえばいい。世界を壊す快感は病み付きになるぞ』
唄うような語りが徐々に藤島の意識を蝕んでいく。
倫理観や理性を腐らせ、彼と言う男の根底にある欲求を甘美な言葉で揺さぶり刺激していく。
「で、でもよぉ……俺、法律とか政治みたいな小難しい座り仕事とかやりたくねえし。金持ちで、美人で後腐れない女を沢山呼び込める能力とかならサイコーだけどさあ!」
『バカだなぁキミは。一度壊せば、あとはキミの望むがままさ。女も金も酒も望むモノは全て好きに手に入れれば良い』
「う、う……うん? あれぇ?」
『そうだ……望むモノ全てを蜘蛛糸で絡めとれ、蜘蛛の巣に蒐集せよ』
「ァ……――アア、ア、ハイ」
『さあ、我々を受け入れろ――愚かな世界の一欠片』
「ア…ァ…アアアアアアアア!!」
揺らめく炎が僅かに猛けり、その光景を無防備に見ていた藤島の意識はあっという間に謎の火の玉に掌握されてしまっていた。おぞましい本性を露わにした火の玉はゆっくりと藤島の肉体に入り込むと彼と融合し――いや、彼を侵略して全く別の存在として変貌を遂げていく。
『我は汝、汝は我――いま我ら完全の一として、喝采を受け顕現しよう。我らが名はメタロー』
妖しげな光が収まるとそこには一つの異形が立っていた。
本来ならばこの世界に存在してはならない異物。
この世界を滅ぼす、やって来てしまった脅威。
『やれやれ、怪人共が空想でしかない世界と言うのは実に面倒だな。既存の連中は駒として使えないからこうして我々が直接手を下さなくてはならない』
細く、鋭く、禍々しい体色をした異形はけだるげに呟く。
大きく伸びをすると背中から伸びる八本の何かがしなる。
『だが、それがいい。それでいい。下劣な生物どもに魔人教団の御業と我らという万物における最高の生命の素晴らしさを布教してあげられるのだからねえ』
どこまでも傲慢に、どこまでも優越的に異形は嗤った。
『とは言え、やはり肉の身体は不快だな、それに煩わしい。暫くはこの汚物の好きなようにさせてやるとしよう。思う存分、この世界に傷を負わせて壊しやすくしておくれよ』
その言葉を最後に異形の姿は藤島のものへと戻り、自らをメタローと名乗った存在の意識は彼の精神の奥底へと潜伏していった。
高次元生命体。
それがメタローを名乗った彼らの在り方。
己たちを魔人教団と呼び、暗躍する世界を越えてやって来た恐るべき侵略者。
※
都内にある学校施設が密集するエリアの一角に建てられた城南学園高等部。
冬の期末テストも終わり、残すところ進級を控えるだけになったこの時期は殆どの生徒たちも穏やかに、そして賑やかに学園生活を謳歌していた。
そのなかでも1-Bの教室の盛り上がりは連日のことながら目覚ましいものだった。
何故ならこの教室にはクラスメートだけでなく、学園全体においてもかなりの関心を集める生徒が二名、いや正確には三名いたからだ。
「天風さーん! 放課後、よかったら私たちとカラオケいこーよ!」
「駅前においしいスイーツ売ってるお店できたんだって一緒に行ってみない?」
「お願い天風さん! また部活の助っ人に来て下さいませんかー!」
「クス♪ うれしいですけど、ごめんね。また今度、では!」
女子生徒たちの騒がしい取り巻きを藍色のセーラー服を踊らせながら軽やかに抜け出し、涼しげでたおやかな笑顔を見せる、明るいオレンジ色のセミショートの髪の一房をサイドテールに束ねた快活な雰囲気の少女、天風カナタ。
「天風くん、俺の髪だけど形変えるならこの雑誌の中だとどれが良いと思う?」
「よお天風、暇ならこれから俺たちとゲーセン行こうぜ!」
「バッカ! 俺らと焼き肉っしょ! デカ盛り完食で無料だってよ」
「わるい、今日のとこは先に帰るよ。それと、このページならこれなんて似合うんじゃない?」
同じように男子生徒たちの輪の中心にいるのはカナタと比べるとやや赤みのある前髪で右眼が隠れ気味の中性的でクールな雰囲気の少年。天風ハルカもまた爽やかな笑顔と立ち振舞いで人混みの輪をするりと突破すると教室から出ていってしまう。
美少女と美少年の双子の姉弟。
二人揃って成績優秀、スポーツ万能で教職員への信頼も篤く、他者への面倒見も悪くないという完璧超人な存在が学園の有名人として騒がれるのはある意味当然でもあった。
けれど、入学から現在に至るまでこの姉弟とお近づきになり友達と呼べる間柄まで関係を発展させた人間は一人を除いて誰もいなかった。
この二人はあくまで友達未満知り合い以上という距離感で他の人間たちと接している。勿論、そうとは誰も気付いてはいないが。
「あーあ、また逃げられたよ。天風さんたちまたアイツと一緒に帰るのかな?」
「おかしくない!? なんであんな不良もどきがあの二人のこと独占してるわけ」
「双連寺君でしょ。彼、口数少ないしなに考えてるか分からないから近寄り難いんだよね。あとメチャ顔コワい!」
「くっそぉー恨めしいぜ! どっちか片方ならまだ許せるけど総取りとかよ、独占禁止法はお飾りかよ!?」
「なあ、もしかして天風さんたちアイツに何か弱みでも握られてるんじゃないのか?」
「……あり得る。もしそうなら許さねえ、双連寺の奴……ぜってえ許さねえ! でもアイツ怖い」
天風姉弟が立ち去ってしまった教室では毎度のことのように振られてしまった生徒たちによる、ある生徒に対して羨ましさ混じりの恨み言の愚痴り合いが始まった。そこには陰湿な陰口とまでにはいかないが大なり小なり嫌悪と畏怖の感情が含まれていた。
クラスの生徒たちは知らない。
それら全ての発言がまさに仲を深めたいと思っている双子たちに筒抜けに悟られていることを。知られながら嫌悪や不快感さえ抱かれず、教室の中の誰の一人も関心すら寄せられていないことを。
((本当にみんな、くだらないのばっかり))
カナタとハルカは特に言葉に出さずとも双子揃って同じ感想を別段特別でもない自分たちの話題で飽きもせず騒ぐ教室の生徒たちに抱きつつ、どこ吹く風と言わんばかりにその場を後にした。
「待たせたね、ムゲン」
「お勤めご苦労様でーす」
昇降口には部活やアルバイト、遊びに繰り出すなどそれぞれの放課を過ごすために急ぎ足になる生徒たちで溢れていたが一カ所だけ、不自然に人の密度が少ない空間があった。
そこにいる一人の生徒の姿を確認すると姉弟は屈託のない様子で声を掛けた。
「ん。お前らもお疲れ、有名人はいつも大変だな」
すらりと伸びた細身の、けれど良く鍛えられた体躯と灰色の髪にスクエアフレームのメガネを掛けた少年が二人に気付いて返事を返す。
顔立ちこそ端整だが目つきはどこか荒み、少し剣呑で狼か野犬のような雰囲気の彼は低く穏やかな声色で二人を迎えた。少年の名前は双連寺ムゲン。地方の片田舎から進学してきたものの、近寄りがたい佇まいと時折見せる人間離れした身体能力のせいで殆どの生徒からは怖がられている天風姉弟の唯一の親友であり、学園のちょっとした有名人その三である。
「やれやれですよ。まあ、カナタさんは日々自分磨きを欠かしていないので当然の帰結かな?」
「カナねえ、意識高いね」
「そういうハルくんだってちゃんと悩める少年A君にアドバイスしてたじゃない。気配り上手のイケメンムーブかな?」
「雑誌のモデルさんの中から無難そうなのを選んだだけだよ。悪いけど、そこまで本気で取り合ってたわけじゃないから」
「うわっ、腹黒ーい、冷血鬼畜男子だったかー」
「ハイハイ。お好きなように言ってなよ」
三人揃って校門を抜け、他の生徒たちの姿も見かけなくなってくる頃にはカナタとハルカは教室にいた時とは打って変わって、生き生きした表情で仲睦ましい姉弟だから出来る遠慮のないやり取りを途切れることなく賑やかに交わしていく。
真ん中を歩くムゲンは傍から見れば姉弟の歩調に合わせて進むのでどこか窮屈そうに見えるが二人の会話を聞きながら満足げな様子で口元を緩めていた。
これが彼らの何気ない日常の象徴だった。カナタとハルカが楽しそうに丁々発止の取り留めのないお喋りを繰り返し、ムゲンはそれを花を眺めるように和んだ態度で見守るのが定番だった。
「ところでムゲンはさっきからなにを一人で嬉しそうに笑ってるのかな?」
「いやぁ、この光景を動画にして学校でオークションでも掛けたら一ヶ月くらいバイトしなくても暮らせそうだなって思ってなぁ。天風姉弟の貴重なプライベートムービーだ」
「ムゲンくーん……あんまり似合わない冗談言ってるとカナタさんのお仕置きプレゼントしちゃうけど、いいのかな?」
軽くからかうつもりで口が滑ったムゲンに快活美少女な笑顔はそのままに目だけ全く笑っていないカナタの視線が突き刺さる。
「あーっと……具体的には?」
「首輪つけて一緒に登校かな? 私たちのペットですってね、リードは私が引いてあげるから安心してね」
「ムゲン、一応謝った方がいいぞ。ウチの姉はこういう時本当にやる行動力の人だから」
「だな。そういうわけで冗談が過ぎた。悪かったよ。この通りです、お許しください」
「うむ。いまの私は仏並みに寛容なので特別に許してあげましょう。くふふ♪」
ふふん、と胸を張って得意げに言ってみせるカナタにムゲンはわざとらしく胸を撫で下ろし、ハルカは呆れたように苦笑する。
入学してすぐにあることが縁で知り合ったこの三人は片やハイスペックリア充双子。片や地方から遠路遥々やってきた怪しい噂が満載の顔コワ男子という学園カーストも理性蒸発しそうな異色の組み合わせで気付けば毎日こうして行動を共にする間柄になっていた。現在ではアルバイト先も三人揃って同じ喫茶店という集団行動具合である。
「で、今日はバイトもないわけだけどお前らは何か予定でもあるのか?」
「同じく、暇人だよ。でも」
「何もしないで家に直帰というのもなんだか物足りないかなぁ」
「どっか飯でも食いに行くか?」
「うーん……その手の誘いを断って教室出てきたからな」
「そりゃあ、鉢合わせは気まずいな」
「気にしすぎも良くないけど最近この界隈よろしくない噂も多いしね。見てこれ、また女の人が誘拐されたって」
そういって、カナタは隣を歩くムゲンにスマホに表示されたニュースサイトを見せた。
三日前から夕方から夜間にかけて若い女性を狙った誘拐事件が多発しており、居合わせた男性には負傷者も多数出ているという。
「うっへえ、内蔵やられてる人もいるじゃねえか、これ。惨いことする奴がいたもんだ」
「一晩に三人も攫ってるケースもあるんだ。グループ犯かもね」
三人が身近な場所で起きている、どこにでもある事件に関心を寄せている時だった。
丁度、曲がり角に差し掛かったところで反対側から走ってきていた紅い旅装の女性と出会い頭にぶつかり合ってしまった。
「きゃう!?」
「おっと! すみません!あー……怪我してねえですか? アーユーオーケー?」
「は、はい。こちらこそ」
女性――この世界に辿りつき、仮面ライダーを探して奔走していたクーはムゲンに正面からぶつかった拍子に大きな尻もちをついてしまった。
ムゲンの方はというと一目見て外国人だと分かるオリエンタルな風貌の女性に少し動揺しながら、ぎこちない口調ではあるが迷わず手を差し伸べて彼女を起こした。
「あのーつかぬことをお聞きしますが、この辺の住民さんでしょうか?」
「はあ、一応」
実のところ、この世界にきて早三日なんの進展もないばかりかちょっとしたトラブルにまで見舞われて進退窮まったクーは幸運を信じて偶然出会ったムゲン達にある問いかけをする決意を決めた。
「不躾なのですが、この近くに大きなおもちゃ屋さんってないでしょうか? もしくはそういった類の記録や蔵書が見れる場所のようなものを急ぎで探しているんですが?」
「ホビーショップが入ってる大型デパートなら向こうの方角にありますよ。図書館は逆方向に、そっちはそろそろ閉館時間かもしれませんけど」
「なるほど! ありがとうございます! 大変助かりましたとも、それではごきげんよう!」
運を呼び寄せたとばかりに目当ての情報を手に入れたクーは深々と一礼した後に三人の手を一人ずつ取ってブンブンと力強い握手をすると脱兎のように駆け出して行ってしまった。
「……なんだいまの?」
「海外からのマニアさんじゃないの。日本人より好きな人は熱入れるって言うし。っていうか、初見でムゲンの顔見て驚かなかった人ってレアじゃない」
「俺の顔のことはほっとけ、ハルカ」
嵐のような勢いの謎のオリエンタル美女とのコンタクトに呆気にとられる三人だったがカナタがふと足元に何かが落ちていることに気が付いた。
「あれ? なんだろ、これ」
「どしたのカナねえ」
「これ、落ちてたんだけど」
「変身ヒーローっぽいのが写ったカードだな? 見慣れないけど、ご当地ヒーローかそいつ」
「海外の番組のとか? さっきの人のでしょ、きっと」
「マニアじゃなくて、玩具メーカーとかの業者さんだったのかな? 商談に使うものとかなら大変なんじゃないかな?」
心配そうにクーが走っていった方向にカナタが視線をやるとそこにはもう彼女は見えなかった。
「走れば追いつけるか……ぶつかったの俺だし、ちょっと届けてくる」
「あ、ムゲン待てって! オレも行くよ」
「二人とも、こっちの道の方が早いとおもうけど!」
意を決したムゲンはカナタからカードを受け取ると軽快な足取りでクーの後を追って走り出した。
カナタが拾った不思議な素材で作られたカードには緑の仮面に赤いマフラーをなびかせた銀のグローブをした戦士の姿が写っていた。そう、人類の自由と平和の守護者。仮面ライダー1号の姿が。
無事にハルカに教えられたおもちゃ屋に辿りつき、仮面ライダー探しのための手がかりがないかと店内を見て回ったクーだったがすぐに愕然とした様子で店の外へと出て来てしまった。
「これは……思っていたより、マズいですよー」
店内には確かに様々な変身ヒーローや関連するアイテムやありがたいことに過去に放映されたシリーズの年表などの資料ポスターまで掲載されていた。
バトルフィーバーJを第一作とするスーパー戦隊シリーズや宇宙刑事ギャバンを皮切りに現在も最新作が放送されているメタルヒーローシリーズ。
ウルトラマンに牙狼、意欲作を近年に至るまで定期的に多数発表しているピー・プロダクションヒーローシリーズなど様々な特撮番組の商品が店頭に並んでいたが肝心の存在が影も形もなかった。
「仮面ライダーを探すどころか、この世界……石ノ森章太郎さんが存在してなかったかもですぅー!?」
クーは頭を抱えて狼狽した。
彼女が同胞たちと共に散り散りになりながら彼らを探す旅に出て様々な世界を渡り歩く中で仮面ライダーが虚構の存在だった世界は確かにあった。
けれど、そんな世界でも彼らの勇姿は確かに見る者への憧憬として心に刻まれ、信仰と言う形で魔人教団の侵略を阻む障壁として機能していたケースも確認されている。
だが、この世界のように原作者、石ノ森章太郎と彼が発表した星の数にも迫る数多の作品群の存在が一切見当たらない世界というのは前代未聞の事態だったのだ。
さらに途方に暮れる彼女に更なる不運が舞い込む。
偶然にも同じ世界に来訪した彼らとの遭遇は余りにも早すぎた。
(おやぁ? この女は確かギギの民の……嗚呼、これは幸運だ。素敵な土産を持ち帰れるぞ)
異形の魔手がクーを次の標的として狙いを定めた。
クーの後を追いかけていたムゲンたちだが結局おもちゃ屋付近では彼女を見つけることが出来ずに仕方なく、周辺をしらみつぶしに探して回っていた。
「先回り出来ると思ってたけど、見当たらないね」
「閉館時間のこと伝えたから先に図書館の方に行ってたとか?」
ハルカが首を傾げて、反対方向にある図書館の方まで探しに足を伸ばしてみようかと人通りのない高架下の駐輪場を通りかかった時だった。
「いた! あれそうじゃない!」
「おーい、そこのお姉さーん落としモンですよお!」
運良く三人は慌てた様子で走るクーを見つけて、大声で呼びかけながら駆け寄っていった。
「ダメっ! こっちに来ちゃいけない、急いで離れてください!」
血相を変えて逃げるように走っていたクーはムゲンたちの存在に気付くと張り裂けそうな声で叫んだが時遅しであった。
薄暗い高架下の天上から気味の悪いノイズ混じりの声と共にその異形は四人の前に姿を現した。
『オ、女……ォンナダァ! それも二人も、俺好みの良い女だァ!』
「きゃあっ!? なにあれ、蜘蛛人間!? ハルくんあれ、コスプレとかじゃないよね?」
「これ、冗談じゃ済まないタイプだぞ……ッ」
突然、目の前に飛び込んできた現実離れしたショッキングな光景にカナタは思わず冷や汗を浮かべて身構えた。
『そこの彼女たち、ちょっとあ・そ・ぼ――SYAGAAAAAAAAAA!』
(紅いローブの女は私の取り分だ。不服はないね)
高所から飛び降りたのにも拘らず、足音一つ立てずに着地した異形はカナタが叫んだようにまさに蜘蛛と人間が融合したような黄色と黒の毒々しい体色をしたグロテスクな怪人だった。
熊手のような細長く鋭い手足とは別に背中から伸びる細長く硬質な八本の脚を揺らしながら、スパイダーメタローは狂気を孕んだ哄笑を上げる。
『ウッス! ァヒャヒャヒャヒャ! ボクちゃんたちはサンドバックにしちゃおうかな?』
人知を超える存在との予想もしなかった遭遇に恐怖と混乱で動けなくなっている双子とここに至るまでの必死の逃亡で疲労困憊と言った様子のクーの前にスパイダーメタローがジリジリと迫る。
「待て、待て、待て! ちょっと待った! まあ、落ち着こうぜ蜘蛛のお兄さん。とりあえず、平和的に話し合おうぜ。なにも終電間に合わないとかそういう事情じゃなさそうだ!」
ムゲンが大げさなリアクションで三人を庇うように飛び出したのはそんな時だった。
ムゲン自身もこの状況が呑み込めず、捲し立てる言葉にも明らかな動揺が見られる。
『……あ?』
「俺が何を言いたいかって言うとだな、そんな気合入れた格好してるとこ申し訳ないけどまずは冷静に話し合わないかってことだよ。暴力沙汰だけはやめようぜ? あんなもんお互いに良い気分し――!?」
駄目で元々ながら、必死に平和的手段を提案するムゲンをスパイダーメタローは鬱陶しい小バエでも追い払うように大きく振った腕で殴り飛ばした。
『うっぜえ』
火薬が爆ぜたような音を立てながらムゲンの身体は人形のようにスパイダーメタローの後方へ向かって吹き飛ぶと駐輪場に止めてあった無数の自転車や原付バイクを薙ぎ倒しながら10数メートルほど先に転がり落ちて、糸が切れた様に動かなくなった。
「ムゲェーーン!?」
「酷い……なんてこと」
カナタは絶句して声もあげられず、ハルカは絶望に満ちた声を上げた。
無関係の人間を巻き込んでしまったクーが無力と自責に顔を歪める様を愉しみながらスパイダーメタローは再び歩みを開始した。
『さぁて、頭のおめでたいおバカちゃんはたぶん死んだっしょ? じゃ、ここからは俺とお姉ちゃんたちとのサービスタイムとイッちゃいますウゥウウウ!』
「この、ギギの民……舐めるんじゃ――!?」
命をまるでガラクタか何かのように扱う卑劣なメタロー。
何度となくその凄惨な暴虐を目の当たりにし、少なくない仲間をも奪われてきたクーは敵わないと分かっていながら、怒りに震えて抗うために懐から何かを取り出そうとして、思わず固まってしまった。
「「……うそ」」
さっきまで他愛のない会話を交わして、当たり前に続くと思っていた日常と大切な友人を一度に奪われたと思っていたカナタとハルカは声を揃えて目の前で起きているもう一つの異常事態に唖然とした。
『あ、そーだ。残ったメカクレのガキ、お前は有り金全部俺に寄こして、ここ全裸で土下座するなら無傷で見逃してやってもいいぜ?』
スパイダーメタローはまだ気付かない。
この三人の意識が自分に向いていないことを、先程まで遠くで香った血の匂いが徐々に近づいていることをまだ知らない。
『あのさ……さっきからナニ黙って人の顔見てんだよ?』
「――後ろ」
『はあぁ?』
三人の指摘に怪訝な風にスパイダーメタローが後ろを振り返った時にはもう遅すぎた。
そこには簡単に殴り殺したと思っていた筈の少年があろうことか重量90キロはある壊れたスクーターを両腕で高々と持ち上げて、鬼気迫る表情で立っていたのだ。
「だぁりゃあああああ!」
裂帛の気合と共に渾身の力でムゲンが振り下ろしたスクーターを背面から不意打ちで食らったスパイダーメタローは堪らずアスファルトの地面に倒れ込んだ。
『ギィ……なんッ!?』
「人間舐めんなよぉぉ! ハルカァ! カナタとその人連れで急いで逃げろ! で、さっさと警察呼んでくれえええ!」
うつ伏せに倒れ込んだ異形にムゲンはすかさず組み付くと相手の片足を両足で挟み、同時に両腕で頭部を抱え込んで絞め上げる。ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロックと呼ばれるプロレス技を仕掛け、全身全霊の力でスパイダーメタローを押さえつけて、声の限りに叫んだ。
「だけど、お前残してなんて! それに頭から血ぃ出てるぞ!」
「慣れっこだ! 俺は大丈夫だから行けって! お前らはこういうとき知恵回るだろ?」
「バカ言わないでムゲンも一緒に来て! 私たちがムゲンのこと見捨てて逃げるなんて出来ないよ!」
どういうわけか普通に生きているムゲンの姿に我に返ったカナタ達だが矢継ぎ早に飛び出したムゲンの信じられない提案に感情的な声を返す。こんな荒っぽいムゲンを見るのは初めのことだったのだ。二人の胸中は謎の怪物以上に自分たちの知らないムゲンの姿に不安でざわついていた。
確かに人よりも力持ちだとは思っていたがこんなにも暴力的な彼を見て、ここでムゲンを置いて行ってしまったら、彼が何か恐ろしいモノになってしまうのではないかと案じずにはいられなかった。
「知ってるけど、カナタがやってくれなきゃ共倒れ! 心配するな、マウント取って、STF決めてやってんだ! 命懸けで粘ればこの化け物相手でも10分くらいは押さえ込んでられる……たぶん!」
血塗れ、汗まみれのボロボロの姿でスパイダーメタローに食い下がるムゲン。
その雰囲気はカナタたちがよく知る平時のどこか抜けたところがあり純朴な様子とはまるで別人でまさに親しき者のためにどんな相手にも獰猛に立ち向かう荒ぶる番犬といった激しい気性である。
『ざけやがってテメエ! お前は内臓グチャグチャに掻き出してぶっ殺してやる! ア゛ア、もういい! 女なんて腐るほどいるし、そこのJKもスッキリするまでボコって殺してやるよ! どいつもこいつもぶっ殺してやるよ、キィヒャッハハハハ!』
「やってみろよ! あの二人にだけは意地でも手ェ出させねえ。死んでもこの腕放しやしねえぞ! 死ねるかよ、死なせるもんかよおおおお!」
スパイダーメタローの力に溺れ、心まで怪物になり果てた下衆の極みと言える言葉にムゲンの怒りは臨界点を超えた。
自分だけならどんな侮蔑も恥辱も挑発も許せはしないが耐えることは出来る。
けれど、この醜い怪物はよりにもよってカナタとハルカのことをいま目の前で口汚く嘲笑った。
それだけは許せない。
双連寺ムゲンにとっての大切な世界の要とも言える人たちへの愚弄だけは誰であろうと許しはしない。強く硬い不屈の意志でムゲンは脆弱な人の身体一つで異形の怪物に食い下がり続けた。
「あっ……急になに!? ベルトがひとりでに!?」
その時だった。
ムゲンの想いに呼応するかのように突如、クーが持っていたあの革鞄の中身がまるで意思を持つかのように浮き上がり飛び出すとスパイダーメタローを弾き飛ばし、ムゲンの腰に勝手に巻きついた。
『ギャン!?』
「おわっと!? なんだこいつ、いきなり巻きつきやがったぞ!」
それは変わった形状のベルトだった。
両端に拳銃の撃鉄とトリガーのような機構が備わったグリップがついたバックル。その中央に設けられた風車のようなギミックが透けて見える青い丸型の不可思議なパーツが目を引く不思議なベルト。
「そんな……この子が、そうなの? いえ、分かる気がする――彼がそうなんだ」
「あの! あの変なベルト貴女のですよね? 何なんですかアレ!」
問い質すカナタの言葉はクーにはどこか上の空。
ついに探していた者との接触に震えるクーは同時にこれから起こる全ての事柄の責を背負う覚悟を静かに胸の中で決めると先程からおっかなびっくりな様子でベルトを触っているムゲンに向けて叫んだ。
「ムゲンさんでいいんですよね! そのベルトを使ってください。きっと、使い方は直感で解るはずです。そのベルト……デュオルドライバーが他ならぬ君を選んだのならば! それは戦うための力です!」
「ハァ!? この状況で何言って――いや、待てよ……なんか解るぞ?」
無茶苦茶なことを言って来るクーに文句を言い掛けて、ムゲンの口から言葉が途切れた。彼女の言う通り、まるでいつか夢で見た光景のように彼の脳裏にこのベルトの使い方が浮かび上がったのだ。
『散々邪魔しやがって、お友達の目の前でグロテスクにしてやるからな!』
「全くよぉ……俺、喧嘩とか暴力とか大っ嫌いなんだけどな。アンタがどうしても平和的にいけないって言うんなら仕方ねえよな。思う存分やってやる」
体勢を立て直したスパイダーメタローを前にムゲンは無造作に額から流れる赤い血を拭いながら悪態をつくと、腹を括るかのように少しだけ震えていた手を強く握りしめた。
「変身――!!」
両の拳に力を込めて、気を吐きながら短く叫ぶとムゲンの身体をベルトから溢れだした光と風が包み込み一瞬のうちにその姿形を戦うため力の化身へと変えさせた。
「うそ……ムゲンがすごいことになっちゃってる」
「変な夢なら醒めてくれよ、いや、ホントに」
「やっと、見つけた。今度こそ本当に巡り会えたんですね」
その光景を目の当たりにしていたカナタたちが唖然としながら三者三様の思いを漏らす中でムゲンを包む眩い光が晴れていく。
そこに佇むのは黒いアンダースーツに双肩や大胸筋など各部にアッシュグレイの武骨な装甲を纏った戦士の威容。
そして、その戦士の顔はムゲン達が拾ったカードに写っていたヒーローのように特徴的なフルフェイスの仮面で覆われていた。
ムゲンが変わった戦士のそれは額から伸びる短い二本のアンテナ、青い複眼のような双眸とカマキリの頭部を模したように鼻先に位置する部位が鋭角に突き出たシャープなフォルムが特徴的な灰色の仮面だ。
その名はデュオル。
いまはまだ無彩色の仮面の戦士。
『いくぞ、俺! ゴング鳴らせェ!!』
自分を奮い立たせるように硬い硬質の胸板を数度叩き、心の中に戦いの鐘の音を鳴り響かせてデュオルは仕切り直しとスパイダーメタローに猛然と挑んでいく。
『シャアアアアア!』
『痛ッ……らああああ!』
ほぼ同時に駆け出したデュオルとスパイダーメタロー。
腕のリーチを活かして先手を取ったスパイダーメタローの振り下ろしの一撃をデュオルは咄嗟に両腕で受け止めた。変身した状態でも異形から繰り出される力は常人を遥かに上回り、思わずデュオルからは苦悶の声が漏れた。だが、今度は吹き飛ばされることなくしっかりと踏み止まる。
瞬間、デュオルは変身している我が身が確かに目の前の怪物に立ち向かえる力を秘めていることを瞬時に理解すると完全に攻めの姿勢に気持ちを切り替えた。
『このォ……! ダリャア!』
追撃が来るよりも先に相手の膝小僧を踏み抜くように蹴りつける。
大きく前に姿勢を崩したスパイダーメタローのこめかみに素早く諸手打ちを叩き込んで怯ませる。
そのまま一気に首に腕を回して密着するとその腹部を何度も拳を撃ち込んでいく。その動きは明らかに手馴れており、誰かと戦うという行為に迷いがないどころか洗練されている領域だった。
『ゴエッ!? は、離せよおおお!』
連続で撃ち込まれる重い衝撃にスパイダーメタローは悶絶する。だが、予想外の抵抗に苛立ったこともあり、力任せに四肢を振り回していとも簡単にデュオルを引き剥がしてしまう。
拳を叩き込んだ回数に比べて、相手にダメージを与えていないことにデュオルは微かに焦りを感じだ。本来の力の三割も発揮できていない、いまのデュオルではまだ異形の怪人スパイダーメタローとの戦力差は歴然だった。
『ハァ……ハァ……まだまだぁ!』
けれど、例えどれだけ力の差があろうともデュオルの戦意は衰えない。
呼吸は荒いが冷静に相手の間合いや出方を伺いながら再び一直線に全速力で駆け出した。
『ワンパターンなんだよぉおおお! 今度はさせねえしいい!』
先の同じように真正面から突っ込んできたデュオルを迎撃すべくスパイダーメタローの背中から生えた二本の脚が勢いよく伸びる。
攻撃の射程は完全に自分の有利、上手くいけばデュオルを串刺しにできると勝利を確信してメタローは嬉々とした笑い声を上げる。
『ハアッ! ダッシャアアアア!』
スパイダーメタローの目論見は大きく裏切られた。
なんとデュオルは鋭い脚が自分に突き刺さる寸前で大きく跳んで空中で一回転すると開いた自らの両足でスパイダーメタローの頭部を挟み込んだ。
『そん……なばああああああ!?』
信じられない身のこなしを見せられたスパイダーメタローは驚愕の声を上げながら更にバク宙のような回転を決めるデュオルの動きに巻き込まれて脳天から地面に叩きつけられた。
自分一人の力で足りないのならば足し算をすればいい。時には相手の体重を利用する。
そして――。
『もう一丁ォオオ! こいつも食らっとけええええ!』
見事な変形のフランケンシュタイナーを炸裂させたデュオルは間髪入れずにスパイダーメタローを壁際まで追い込むとそのまま助走をつけてダメ押しとばかりに顔面目掛けて飛び膝蹴りを叩き込んだ。
『ガッハ――!?』
デュオルの一撃は至近距離にそびえる硬いコンクリート壁とに挟み込まれプレスされる形で決まったことでスパイダーメタローに入るダメージは単純計算でおよそ二倍。衝突の威力で砕け散ったコンクリートの破片を浴びながらスパイダーメタローは力なく大の字で倒れ込んだ。このように時に地形も利用する。
未だ戦闘力でスパイダーメタローに大きく劣るデュオルだが、使えるものは何でも使う戦法でこの予断を許さない危機を覆して見せた。
『ぐお……あああっ!? ゼエ……ゼエ、聞いてないよぉ、どうなってんだよお、オイイイ!?』
(これは良くないな。ここは退くことをお勧めしよう。いや、しろ)
『う、ウッス……!』
予想もしなかった反抗。
思いもしなかった劣勢。
信じられないことばかりの状況にすっかり戦意を消失した藤島の意識を見かねて、メタローは逃亡を選択した。ふらつきながら、どうにかこうにか立ち上がると口から登山用のロープのような太さの糸を吐き出して、一目散に逃げ出すと夕闇の摩天楼へと消えていった。
『とりあえず、逃げてったか? にしても、なんだこの恰好? 一生脱げないとか無いよな?』
「ムゲン、大丈夫? 頭痛いとか、気持ち悪いとかない? ちゃんと私やハルくんのこと分かるよね?」
『心配すんな。久々に本気で体力使ったけど……俺は平気だよ」
「はぁぁぁ、死ぬかと思った。ありがとなムゲン。お前がいたからオレたちみんな助かったよ」
『よせって、照れるじゃん。俺だって、二人が居ないとお先真っ暗なんだ、必死になるさ」
構えを解いて、心底くたびれた様子の声を出したデュオルに自分たちの知るムゲンの空気を感じて、カナタは駆け足で彼の元へと近づくと無我夢中でその無事を気遣う。
カナタとハルカの声を聞いてようやくギリギリの状況だったが危機が去ったと感じたデュオルは変身したままの状態でその場に座り込むとホッと胸を撫で下ろした。
「仮面ライダー……こんな形で出会えるなんて」
『なに? 仮面……俺のことか?』
感激した様子で奇妙な呼び名で自分に話しかけてくるクーにデュオルは呼吸を整えながら首を傾げて問い返した。
「はい。その称号こそがいまの貴方の名前です」
仮面ライダーデュオル。それは二つの力を重ね、結びし者。
こうして、彼――双連寺ムゲン/仮面ライダーデュオルの物語は幕を開けたのだ。
一応補足と言いますか冒頭に出てきた彼なんですが一応名前の明言こそ伏せましたけど、完全にジオウでもやりたい放題にやってた彼です(汗)
本人も言っていたように今回の登場は本作の景気づけみたいなものなので本編には出てこないと思います(多分)
あと、あらすじとかで気付いている方もいるかと思いますが本作のコンセプトはぶちゃけるとウルトラマンオーブを仮面ライダーでやってみた!な感じです(汗)
今回はクウガで言うグローイングフォームにあたるスタンダードフォームのみの登場で終わりましたが次回からは二人の仮面ライダーの力を使った強化形態もガンガン出してくつもりですのでご期待ください。