どうにか、日曜日までに投稿できました(汗)
ちょっと長くなっていますがよろしくお願いします
「はぁ……ひぃ……痛てえよ。クソ、なんなんスかあいつ、聞いてないっスわ!」
デュオルに撃退された藤島は泣きじゃくりながら、隠れ家にしている郊外の使われていないスタジアムに逃げ帰っていた。
自分の肉体の中に潜むもう一つの人格であるメタローへ怒りの抗議をするが当のメタローは予想していなかった敵の出現に高速思考の最中でそれどころではなかった。
(あれは確かに仮面ライダーだった。どういうことだ? この世界の技術力ではあれが誕生する可能性はゼロだ。連中の中には個人であるいは専用のマシンを駆使して世界を越える能力を持つ者もいるが教団が未だに接敵したことのない個体? 何れかのフォームチェンジ? 否、であればあの出力の低さはなんだ? やはり、この世界で誕生したライダーだというのか?)
「ねえ、聞いてんのかよ! さっきからごちゃごちゃと俺の頭の中にまで響いてるんですけど、うるせ……ぎえああああああ!?」
(口を閉じろ、私が思考中なのだ。それになんなの無様な有様は?)
無視されたことに腹を立てて、喚いていた藤島だがメタローの冷たい声と共に突如、猛烈な頭痛に襲われて汚れた地面をのたうち回った。
「だ、だって……あんたがこの世に敵はいないなんて言ったのにあんな強い奴が出てくるなんて聞いてなかったじゃんよ!」
(窮鼠猫を噛むだと言いたかったのかい? 馬鹿も休み休み言うのだな。戦力差は圧倒的だった。体勢を整えて適切に攻め返せば容易に撃破できる相手だったのだよ)
涙目になって言い訳をもらす藤島をメタローは冷徹に詰る。
実際、藤島が主導権を握っていた状態だったスパイダーメタローもまたデュオルと交戦時には全力の力を見せてはいなかった。
藤島とムゲン、人間としての意思の強さが先の戦闘では明暗を分けていたのだ。
(同胞への伝達を先に済ませるべきだろうか? 否定である。完全生物に最も近い我々があのような矮小なモノを脅威と認めるわけにはいかない。我々、教団の威光になびかぬものは早急に処分する。それが優先事項)
「ちょっ、待!? またあいつに喧嘩を売りに行くんスか? 俺、嫌っすよ! そんなことよりもっと楽しいことに……ひぎいぃいいいいいいい!? い、痛い! いたい、イタイ、なにこれ! あ、頭が割れっるうう!?」
(残念だがキミに好きにさせてあげるお楽しみの時間は終わりだよ。自我を失いたくなかったら、籠の中のネズミのように大人しくしているんだね)
まるで頭蓋骨に良く研いだ電動ドリルで孔を開けられるような激痛に苛まれて藤島の意識は失神し、完全にその肉体を掌握したメタローは怪人態に変貌する。
『今度は私の番だ。お手並み拝見と行こう、仮面ライダー』
不敵に嗤うスパイダーメタローがスタジアムから仰ぐ夕闇の空には巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされて、恐怖と苦痛に悶える呻き声がいくつも聞こえていた。
高架下での戦闘の後、ムゲンたちは自分たちが体験した信じられない出来事について詳しい事情を知っている様子のクーから話を聞くためにちょうど定休日で無人であるアルバイト先の喫茶店メリッサへと足を運んでいた。
「どうぞ、適当にどこかに座ってください。一応、店の中の物は動かさないで下さいね、シスター……ここの店長が勘のいい人なのでバレるかもしれないので」
「は、はい」
ハルカに促されて、恐る恐る近くのテーブル席に座ったクーは深く被った煌びやかな紅のフードを取ってその素顔を露わにした。
青紫の長い髪と翡翠色をした大きな瞳。目尻には朱色のアイシャドーのような化粧が施されて、褐色も相まって異国情緒溢れる美貌を醸し出している。何よりも目立つのはお伽噺の妖精のように尖った形をした耳だ。
「ムゲンはこっちで手当てしてあげるから傷口洗っておいで」
「もう血も止まったからいいって。心配すんな」
「ダメです。ほら、消毒だけでもしてあげるから、早くいく」
「ホントに大したことないんだけどなぁ」
倉庫兼従業員の休憩室として使用している二階から救急箱を持ってきたカナタに最初に殴り飛ばされた時に負った傷の処置を受けるムゲンを待って三人は話しを聞く体勢を整えた。
「じゃあ、クーさんでしたっけ? 早速ですけど、色々と教えて下さい。聞きたいことは山ほどありますけど、あの怪物みたいなのはなにか? ムゲンが変身した仮面ライダーってのは一体何なのか? そして、貴方は何者なのか? その辺は特にしっかりと」
「最初に私がこれから話すことは貴方たちの価値観からすれば、夢物語の類かと思います。ですが全ては真実のことなのです。それを肝に銘じておいてください」
真剣な面持ちで切り出したクーに三人は無言で頷く。
「まず、私はギギの民と呼ばれる魔術師の一族の者です。この世界とは違う世界から来た者です」
「ハハッ……不味いな。いきなりファンタジー全開のがきた」
思っていた以上にドリーマーなクーの自己紹介に乾いた笑いが漏れるムゲンとは対照的にハルカは僅かに沈黙して憶測を纏めるとクーと自分の認識との答え合わせを始めた。
「つまり、極端な話し文化や生活様式がまるで違う異世界。オレたちが暮らしているこことすごく似てるけど、微妙に何かが違う、例えば年号が令和じゃない別の何かにすり替わっている平行世界みたいなものがあって貴女はそのどこかから来たってことでいいんですか? 」
「ええ、その解釈で間違いないかと」
「いまのでそんなに理解できたのかハルカ!?」
「ガチオタの有識者みたいにはいかないけど、まあ近頃のライトノベルや漫画にそれとなく目を通していればそういう知識も入ってくるし。ムゲンそういうのに縁ないもんなあ」
「はぁ……へぇー」
実はもう脳が彼女の話への理解が追いついておらずオーバーヒートがチラつき出しているムゲンは目を泳がせながら感心のため息をもらす。
「あの、魔術師っていうのは? 私のイメージでは魔法の杖に空飛ぶ箒な感じですけど、もっと錬金術師のような学者寄りなものです?」
「この世界は自然界に溢れる魔力が薄いので私自身は大したことは出来ないのですがこのように……」
次いでカナタの疑問にクーは懐から千夜一夜物語に出てくるようなオイルランプを取り出すと優しい動きで揺らして見せた。
「煙が人みたいな形になった?」
するとランプの口先から青白い無臭の煙がもくもくと溢れだして人型になると器用にカウンター席の椅子と持ち上げて、そのまま寸分違わず元の位置に戻して見せた。
「これはスモークゴーレム。主に護身用や旅先での障害物撤去などに用います。と、まあこんな感じで我々ギギの民は魔術道具……アーティファクトと呼びますがそれらの道具を用いて旅する者たちです。世界と世界を行き来するのにも専用のアーティファクトを用いていました」
魔術師と言う奇妙な生業も含めて自分の身分を説明したクーは本題を切り出した。
「問題はここからです。そうして、旅の最中に訪れたある世界で我々は魔人教団と名乗るあの恐ろしい者たちの侵略同然の危険な活動を知ったのです」
「教団は教団でもあの蜘蛛人間を見るに思いっきりカルト教団みたいな感じでしたけど、あの人たち目的ってなんですか?」
「残念ですが教団の正確な目的や詳しいことは私たちにも分かりません。ですが彼らは様々な世界で人知を超えた力を持つ怪人たちを使役しては傍若無人の限りを尽くしています。そして、中にはそのまま破壊されてしまった世界もあるそうで」
「穏やかじゃねえな」
本来なら麗しく愛嬌のあるクーの表情に憤りと哀悼による陰りが入り、魔人教団と呼ばれる集団の凄惨さがムゲンたちにもひしひしと伝わってきていた。
それは夕暮れ時に遭遇した他人のことを何とも思わぬスパイダーメタローの傍若無人さからも分かることだった。
「クーさんのことや魔人教団っていう危ない人たちのことは分かったよ。それでそこに仮面ライダーっていうムゲンが変身したあのヒーローみたいなのはどう関わってくるんです?」
「確認ですけど、みなさん本当に仮面ライダーをご存じないので?」
「全く」
念押しとばかりに真剣な表情で質問を投げかけるクーにムゲンたち三人は口を揃えて言い切った。
「彼らは自由と平和を守る強き戦士たちです。そして、数多の世界の中には紛れもなく実在する希望です」
クー曰く。
仮面ライダーとは文字通り、仮面で素顔を隠して人知れず人の世の自由と平和のために悪と戦う者たちのことを言うと言う。
数ある世界の中には石ノ森章太郎という一人の萬画家の手によって産み出された半世紀近くに及ぶ長い間多くの人々に愛されている空想のヒーローとして存在する場合もあったという。
出会う事こそ叶わなかったが実在して魔人教団と戦っている仮面ライダーがいた世界にも訪れたこともあったという。
「彼らと魔人教団の間にどんな因縁があるのかは定かではありませんが教団が使役する怪人たちは本来仮面ライダーの敵として存在する者たちの複製品のようなのです。先程の蜘蛛の怪人は初めて見るタイプでしたが。そこで我々ギギの民は侵略に抵抗する現地の人々が結成したレジスタンスに協力して一族散り散りに分かれて味方になってくれるライダーを探す旅に出たのです」
「そんなことが……」
「夢みたいなお話だけど、あんな場に出くわしたら信じるしかないかな」
ハルカとカナタは自然と同じ動きで首を傾げながらクーの話を受け入れた。
既に親友が変身した仮面ライダーと怪人の戦いすら見届けた以上、現実を脅かす空想から目を背けることは出来なかった。
「クーさんよ。いまの話を聞くにその仮面ライダーってのはあの蜘蛛のバケモンに対抗できる強い奴らってことでいいんだよな?」
「はい。一人だけ、この世界に飛ばされる前に出会えた唯一のライダーも凄まじい強さで怪人たちを蹴散らしていました」
「なら、コイツは不良品だぜ? それか選ぶ奴を間違えてる。さっき戦ってみて分かるが俺が変身した時はまるでダメージを与えられなかった。なりふり構わず暴れたお陰で一応退散してくれたけど、次に本気で襲いに来られたらみんな仲良くお陀仏だ」
ムゲンはどこか他人行儀、よそよそしい態度でそう告げた。
戦った本人だからこそ、メタローの超常の力とデュオルの非力さを誰よりも理解しているからこその言葉だった。
「悪いこと言わないから早いとこ選ばれるべき本物のライダーになる奴を探した方が良い」
「ムゲン?」
まるで自分は、自分たち三人は力不足だから見切りをつけろと催促しているようにも取れる言い草にカナタは不審な視線を送った。
「いえ、先も言いましたがベルトが選んだのは間違いなく貴方ですよ、ムゲンさん。この世界の貴方以外の誰にもそれは使えません。嘘だと思うのならお二人も試してみてはどうですか?」
けれど、クーは動揺する様子もなくそう提案してみせた。
彼女も感覚的ではあるが解っていた。不完全な状態のデュオルでメタローを撤退させた変身者であるムゲンの勇気と意思と火事場の馬鹿力とも言える人間的な底力の大きさを。
「冗談だろ? んじゃ、ほれハルカ」
「えー…………はい、カナねえ」
無造作にムゲンから手渡されたデュオルドライバーをハルカは困った顔で受け取るとしばらくの無言無表情を経て、何事もなかったかのようにカナタへとパスした。
稀に発生する双子の弟からのキラーパスにカナタは黒い笑顔でジリジリと詰め寄った。
「待ってハルくん! いま、おかしいところがあったよね?」
「いや、多角的検証で言ったら同じ男のオレよりも別人で女のカナねえがやったほうが効率も良いかと」
「では、どうぞカナタさん。思い切りやってみてください」
「ちょっ、まだやるとは……あーもう、分かったよ!」
適当に理の適った言い訳を並べられ、間の悪いことに悪意のないクーの言葉に逃げ道を失ったカナタは珍しく声を荒げて立ち上がると凛と気合を入れて構えて見せる。
「ふー……へ、変っ身ん!」
大きく深呼吸して、それっぽく大仰に腕を振ってポーズと共にカナタは叫ぶ。
彼女を待っていたのは恐ろしいほどの静寂。ベルトも見守るムゲン達もうんともすんとも言わずに真顔で食い入るように彼女のことを見つめている。
するとカナタは小刻みに震え出したかと思うと見る見るうちに恥じらいから顔が真っ赤に染まっていく。
「こらぁ! せめてなにかリアクション取りなさいよ、あんたたち!」
「あ、はい。そうだね、意気込みは伝わってきたよ。カナねえ」
「いまの変なポーズなんだ、あれ?」
「小さい頃に見てたのはそれっぽいポーズして変身してたでしょ! 気合を入れるあれよ!」
思わぬ大火傷に普段の快活美少女のイメージをドボドボに崩壊させながらうろたえるカナタの可愛らしさにクーは少しだけ口元を緩ませると、またすぐに毅然とした顔に戻ってムゲンに話し出した。
「まあまあカナタさん落ち着いてくださいな。どうですかムゲンさん。ご覧のように他の者では何も起こりませんでしたでしょ?」
「そりゃあ、そうだったけど」
「加えてもう一つ。高架下でのデュオルは本来の力の半分も発揮していない状態だったのです」
「……そこんとこ、詳しく」
初めて明かされた情報にムゲンの顔つきが一気に引き締まった。
身を乗り出して、クーの話の続きに耳を傾ける。
「先程お話しましたように仮面ライダーは一人ではなく、複数人が存在します。デュオルはそんな彼らの力の一端を組み合わせて戦うライダーなのです。その鍵となるのが皆さんが拾って下さったライダーメモリアです」
「これか?」
「はい。私も口伝で知ったのですがそのカードに写っているのが仮面ライダー1号。始まりの仮面ライダー。そして、いま私の手元にあるのがこちら仮面ライダークウガのメモリアです」
そう言って、クーは金の二本角と赤い体の戦士が写ったメモリアを一号のメモリアと並べるようにテーブルに差し出した。
食い入るようにメモリアを眺める三人だったがすぐにカナタとハルカの二人はクーの説明と目の前にある二枚しかないメモリアの矛盾に気付く。
「ふーん……あれ、でもちょっと待って」
「大勢いるはずなのに、なんで二枚だけしか?」
「ぐぬぅん!」
すると喉を雑巾でも絞るよう捻られたような声がクーから飛び出して、ダラダラと冷や汗が流れ始めた。
「あの、クーさん? いまあからさまにギクって顔しませんでした?」
「いえ、あの……」
「怒らないから、正直に話してみて下さい」
「だって……私だって! 好きで無くしたわけじゃないんですよ! あの悪趣味ピンクシャツライダーがよりにもよってあの大きな塔に、スカイツリーでしたっけ? あそこの頂上なんかに移動させるから、それも夜に! バランス崩して私も落っこちて、たくさんあったメモリアも強風に流されてバラバラに飛んでいちゃいましたとも! そうですよ、私が悪ぅございますよ。ごめんなさーい!」
懺悔と怒りと悲しみの怒涛の独白。
この世界に飛ばされて早々に見舞われたトラブルにクーは思わず涙目になって吼えた。
あの日、メタローの初出現と同時刻に起きたささやかな流星雨の正体は高所から強風で何処かへと飛び散ってしまった無数のライダーメモリアであったのだ。
「そんなベタな」
「というかスカイツリーから落ちたって」
「よく生きてたね? そのご愁傷さまです」
見かけによらないクーの逞しさに妙に感心しながらも、三人はより一層困難だらけの現状を冷静に受け入れた。
「すみません。つい取り乱してしまいました。兎に角、辛うじていま手元にあるこの二枚のライダーメモリアを組み合わせればデュオルは本来の力を発揮できるのです」
「……なるほどね」
「むしろ、私は先程の戦いで本来なら勝ち目のない能力差だったスタンダードフォームのデュオルであそこまで戦えたムゲンさんの戦士としての力量に驚くぐらいでした。なにか武術や格闘技でも修めておいでなのですか?」
「うん、あれにはオレたちも驚いた」
「確かにね。力持ちなのはわかってたけど、なんていうか慣れがあったように見えたかな」
「別に、俺はただのどこにでもいる高校生だよ」
ついに触れられた話題。
クーの疑問と双子たちの戸惑いに僅かに不機嫌になった様子でムゲンは言葉短く答えた。
「ムゲンさん。その学生さんに敢えて無理をお願いします。どうか世界のために……このままでは魔人教団に虐げられるか弱い人々のためにどうか一緒に戦ってください!」
「あのなぁ」
「ライダーを探す旅の途中で私の仲間も既に何人かは教団の手によって帰らぬ人になりました。仲間たちのためにも、罪のない人たちのためにもどうか、正義の心を燃やして人類の自由と平和のために戦ってください!私もお役に立てることがあるなら何でもやります! だから、どうか……どうか」
深々と頭を下げるクー。
強く握り締められた手には犠牲になった家族のような仲間たちへの無念と悔しさが滲み出ていた。
「どうする、ムゲン?」
「あのクモの怪物に襲われた後だと、他人事みたいには出来ないけど……決めるのは他でもないムゲンだよ」
「なにが正義だ……そういうのを担ぎ出してくるから嫌なんだ」
決して代役になってやれない申し訳なさを心苦しく感じながら声を掛けてくるカナタとハルカの言葉にも反応せず、押し黙っていたムゲンの口からポツリと零れた一言は恐ろしいほど感情が宿っていない暗い声だった。
そして、ムゲンは急に立ち上がると何も言わずに裏口の方へと歩き出してしまう。
「あ! ど、どこへ行くんですか?」
「少し、一人で考える時間があってもいいだろ? それからな、一つ言わせてもらってもいいかいクーさん」
「え……?」
「あんたらは気楽に正義だ弱い者のためだとか言うがよ。その正義感や弱い者のためにって思って一度だけ……そう、たった一度だけでも拳を振るった結果。何もかもに見捨てられて、裏切られて、どん底まで突き落とされた奴はどうすればいい?」
理不尽への怒りのような。
理不尽への諦めのような。
理不尽への恨みのような。
形容し難い情念が煮詰まって、まるで別人のように淀んだムゲンの眼差しを向けられてクーは即座に返す言葉が出てこなかった。
「は……い?」
「あんたは正義の心を燃やせだなんて当然みたいに言うがよ、俺にはそんなものとっくの昔に燃えカスになってるよ」
心の底から絞り出すような苦しい声でそう言い残して、ムゲンは裏口から店の外へと出て行ってしまった。
時間にして1分弱。
けれど、まるで何時間も経過したように感じた重い沈黙が三人の間に流れた。
「ハルくん。ここはお願い」
「……分かった。カナねえ、任せたよ」
時間が止り、世界が凍結してしまったような空気を破って、カナタは意を決してムゲンの後を追いかけると店の外へと出ていった。
「ごめんなさい。彼の事情も何も知らないでこちらの事情ばかりを押し通すように話を進めてしまいまって」
「まあ、仕方ないでしょ。例えば初めて出会って仲良くなった天涯孤独の人にご兄弟はいますかって質問をしてしまっても、いくら無礼だったとしてもそれは不可抗力だ。一度目はどうしようもないことですよ」
理屈で考えたら、迷惑千万でしかない自分の言動を省みて深く落ち込むクーに店に残ったハルカは何でもないような平然とした物腰でそう宥めた。
「あの、ハルカさんはムゲンさんのこと追い掛けなくてもいいんですか?」
「カナねえが付いているから大丈夫。それに貴方を一人にするわけにもいかないでしょ」
前髪に隠れがちな右眼でクーを覗き込むハルカの落ち着いた視線には同情よりかはむしろ警戒に近い念が入っていた。
何気ない平和な日常を壊したのはメタローと言う怪物以外にもクーと言ういまだ謎の多いこの異邦からの来訪者も同じだという認識を簡単に解くほどこの双子たちは自分たち以外の世界を信用はしてはいなかった。
「もし、差支えなかったらムゲンさんの過去に何があったのか教えていただいても?」
「さあ、オレもカナねえも知らないから」
「知らないんですか?」
ハルカが何食わぬ顔で答えるのでクーは思わず大いにビックリして聞き返してしまった。
「なにか不味いですか? 友達でいることとその友達の過去に何があったかなんて関係はないでしょ? ムゲンが自分から話さないってことはそれ相応の意味がある。だから、これからもオレは触れるつもりもないしね」
「信頼され合っているんですね、三人は」
「信頼と言うか、オレたち双子の世界にムゲンの方が適応しているというか」
「はあ……?」
独自の言い回しをするハルカにクーは首を傾げた。
不意に会話が途切れて、目に見えて不安そうにそわそわし始めたクーを見かねてハルカは力強い語気で告げ始める。
「そんなに心配しなくてもムゲンはやるよ。必ずやる」
「えっ……つまり、それは」
「クーさんが何かしらムゲンの地雷踏み抜いたのは確かだけど。それはそれ、これはこれ。ムゲンはそういう奴だから、あんな見た目だけど誰よりもお人好しで義理堅いんだよ。一度乗りかかった船なら、嵐に遭ったとしても最後まで付き合うよ」
そう言って、ハルカはニタリと澄ましたように笑って見せた。
普段はどこか冷やかに自分たち姉弟とムゲンの三人以外の世界を観察している彼には珍しい、友への揺るがぬ信頼を誇らしげにする本当の笑顔だった。
一方、その頃。
ムゲンはメリッサの近所にある公園にいた。
「なんて厄日だ……どうっすかなこれから」
これからどうすればいいのかを決めかねて、浮かない顔で空を仰いで思案に暮れていた。
自分のこれからよりも案じることは別にあり、あまり明晰ではないと自嘲する自分の頭で勘案していると大急ぎで誰かが走ってくる足音がムゲンの耳に聞こえてくる。
「ハァ……ハァ……やっと見つけた。ムゲン、歩くの早い」
「カナタ?」
「ねえ、ムゲン。一番大変なのはムゲンなんだから、私たちがあれこれと騒ぐことも筋違いかもだけど、やっぱりあんなの見せられたら放ってはおけないよ」
「わかってる。誰かに押し付けていいものじゃないってのは。それに世界だ罪のない人々だの前に、なんとかしないと自分たちの生活だって壊されるだろ」
真剣な眼差しで自分に向き合うカナタにムゲンはあっさりと自分の胸の裡を明かした。
「でも、それでもムゲンだって怖いでしょ?
「どうだろ? 昔、もっと怖い目に遭ってたしな……別に化け物相手にやり合うのは腹括ってるし、まあなんとかなると思う。俺が気にしてるのはそっちじゃなくて、あのな……さっきの俺のことカナタは怖くなかったか?」
誰かと戦うことは慣れていた。
痛みや傷にも慣れていた。
けれど、心から大切に思うその人達に恐れられてしまうことには慣れていなかった。
「ムゲンが?」
「あの姿になっている時、身体が羽根みたいに軽く感じてシュタイナーも余裕で決めれるくらい信じられないくらい体が動けた。はっきり言ってあの時の俺、完全に人間やめてた」
自分の身体が他人と比べて常識離れしているのはよく分かっていた。
それがデュオルという仮面の異形に変わっている時は輪をかけて異常な存在になってしまう。
自分が自分で戦って傷つくことは些細なことだ。
けれど、身も心も怪物に成り果てた自分のことでカナタたちに不幸になること、カナタたちに忌み嫌われてしまうことは簡単に受け止められる話ではなかった。
「なんて言えばいいのか、そのだな……もしも怖くて不安があるとするなら」
「私たちがムゲンのことを怖がって離れていったらどうしようって思ってる?」
「や……違っ、そういうんじゃ」
「あのね、ムゲン。今更それくらいでムゲンのことを怖がるわけないでしょ? 初めて私たちがムゲンと出会った時のこと覚えてないのかな?」
カナタは胸に手を当てて、ムゲンと初めて出会った入学したての四月の出来事に思いを巡らせながら優しい声で語りかける。
「人間やめてた? ムゲンが? 知ってます、分かってます、問題ありません。まず、私は封を開けていないスチール缶を片手で握り潰すことが出来る人間を世界中でムゲン以外に知りません」
「俺、そんなことしたっけ?」
「うん。それは見事にくしゃっと潰してたかな。確かにあれは人生初体験の驚きだったよ。でも、それでも私たちはムゲンのことが好ましいって思ったの。ムゲンのこと知ってることも、まだ知らないことも沢山あると思うけど、それも全部ひっくるめて、私たちはムゲンが良いと思ったからこうして毎日一緒にいるんでしょ?」
胸を張ってカナタは断言した。
真夜中でもあたたかく輝く燦々としたお日様のような笑顔を見せて。
「とにかく、ムゲンは柄にもなくあれこれ迷ったり悩んだりせずに、いつものムゲンでいればいいんだよ」
「あのカナタさんや、なんかちょっとバカにされてる気がするんですがそれは?」
「うんうん。そういう反応できれば無問題かな。それと私たちはムゲン一人だけに背負わせるつもりないからね。出来る範囲は限りあるかもだけど、最後までちゃんと支えてあげるよ」
得意げに作った握り拳をまるでエールを送るようにそっとムゲンの胸に押し当てて、カナタは言い切った。
「お前ら双子はこういう時、言っても聞かないもんな。お陰で気が楽になったよ。だから、俺も好きにやってみる」
そう言って、ムゲンは吹っ切れた笑顔を見せた。
迷いや憂いは晴れて、上手くやれるか不安はあるが、それでも自分を信頼してくれたカナタのためにも半端なことは出来ないと静かに腹を括った。
「くふふ♪ まあ、大船に乗ったつもりで安心しなさ……」
気軽な様子でムゲンの背中を叩いて、メリッサへと戻ろうとした時だった。
「え? ちょっ……きゃああああああ!」
まるでムゲンにはストロボ写真のようにゆっくりと断片的に見えた光景だった。不意に暗闇から放たれた蜘蛛の糸にカナタの身体が絡みつき、上空へと引き上げられていく。
「な……にっ? カナタァアア!」
彼女の悲鳴が届き、咄嗟に上に視線を回すと見覚えのある異形が街灯の上に立っていた。
『こんばんは。手荒な真似をしてすまないね、仮面ライダーくん』
「お前、さっきのクモ野郎!」
『こうした方がキミの能力の最大値を観察できると判断したからね。ありきたりな台詞だが彼女を返して欲しかったら郊外にあるスタジアムに来るんだね』
「おい! 待て、いまから付き合ってやるからカナタは置いていけ!」
まるで狩りで仕留めた獲物を誇らしげに見せつけるように拘束したカナタを掲げると、スパイダーメタローはムゲンに一手打たせる暇も与えずにその場から逃走してしまった。
『断る。言っただろう、彼女は人質だ……来なければ彼女の身に何が起きるか保証はできないのであしからず』
「……絶対潰す」
殺意に近い怒りを腹の底から湧き上がらせて、ムゲンは大急ぎで駆け出していた。
※
「すまねえ! あの蜘蛛野郎にカナタが連れていかれた!」
「はあ! 嘘だろ!?」
決死の形相でメリッサへと駆け込み戻ってきたムゲンが告げた言葉にハルカも血相を変えて飛びあがった。
「なあ、クーさんよ。さっきはこっちの手前勝手ばっかり言って悪かった。だから、もう一度コイツを貸してくれ」
「ムゲンさん……いいんですか? 私はありがたい限りですが貴方はもう後戻りできませんよ?」
「構うかよ。元々、俺一人なら別になんだって構わなかったんだ。けど、あのクモ人間はやっちゃいけないことをやってくれた。もう自分のことでウダウダ言ってる暇はない」
クーの忠言を真摯に受け止め、それでも構わないとムゲンは頭を下げた。
「ムゲン、お前もしかして」
「なあ、ハルカ。こう言っといてあれなんだけどさ、一つだけ頼んでもいいか?」
「ああ! なんだよ、言ってくれ」
本当はこの一言を口に出すのはムゲンにとって少し怖かった。
けれど、足踏みをしている時間はない。
どんな答えでもいい、ただ自分へのケジメ、区切りとしての意味でムゲンはハルカに尋ねた。
「これから先、俺は連中と戦って勝つためならどんなエグイこともやるかもしれない。こういう時の喧嘩ってのはどんな無様晒しても最後には勝たなきゃいけないもんだから。それでも、まだ友達でいてくれるかな? 気を遣わなくていい! 本当の気持ちを教えてくれ」
「分かった。それなら、もうとっくに決まってる。答えは――これだ」
ハルカは迷いや動じる気配もなくムゲンの傍まで寄ると軽く小突く程度の勢いでその腹にグーを打ち込んだ。
「ぐえっ。 え? え? え!? なんで俺いま腹パンされたの?」
「ムゲンがアホだから」
「そのアホに分かるよう解説を求む!」
間の抜けた呻き声を出しながら、慌てふためくムゲンにハルカは不敵に薄っすらと笑って静かに力強く語りだした。
「まだ友達? バカ言わせるな、オレたちはどこまでだって友達だ。そうだろ?」
「ハルカ……っ」
「理屈じゃないさ。オレにも上手く言えないけど、ムゲンと友達じゃなくなる選択肢なんてオレにも、カナねえの中にも欠片もありはしないんだ。だから、大丈夫だ」
「ハルカ、お前……なんかキャラちがうぞぉ」
「ほっとけ。オレだってあれこれ思案した結果なんだよ」
ムゲンに指摘されて、確かにらしくないことをしている自分に照れながらもハルカはこれから長く険しい戦いに挑まなくてはならない親友の背中を強く強く押し出した。
「オレたちや周りのことは心配するな。もしも、お前が気色悪い虫人間みたいになってもしっかり受け止めてやる。だから、ムゲンは全力で思う存分やりたい様にやってやれ」
「おう……応ッ! サンキュな、最高に気合が入る一発で背中押された気分だよ」
カナタとハルカ、二人の掛け替えのない友達の言葉を受けて迷いも恐怖も吹き飛んだ。
ムゲンは澄み渡る星空の心地でクーに宣言する。
「じゃ、そういうわけだクーさん! 前言撤回! もう一度だけじゃない、アンタが探し続けていたモノとは違うモノになるかもしれないが最後まで責任もってやりきってやるさ、仮面ライダー」
「ありがとう。ムゲンさん、貴方に……いえ、貴方と貴方の掛け替えのないご友人に最大限の感謝を」
「そういうわけで時間がない! あの腐れ蜘蛛が言ってたスタジアムに大急ぎで行かなきゃならないんだがクーさんワープみたいなの使えない?」
「瞬間移動は無理ですが移動手段でしたらとっておきのがございますとも!」
思い当たるフシがあるクーは二人を手招いて店の駐車場へと向かう。
「そぉーれ! シャラララーンっと!」
クーのランプから溢れ出る煙の中から現れたるは巨大な鋼鉄の駆動二輪。
それは牡牛を象った純白の大きな双角を生やした頑強なフロントカウルが印象的な黒と緑の配色の大型バイクだ。
「うおわっ!? デカいバイクでたー!」
「ここまでくるとますますアラビアン・ナイトだな」
「銘はビッグストライダー。私たちギギの民が作ったアーティファクトの一つ。これは友人から譲られて足に使っていた物ですがこの時代の似たような物よりかは断然優れ物かと」
「ありがてえ! 遠慮なく使わせてもらうぜ。じゃあハルカ、行ってくる」
「気をつけてな。姉ちゃんを頼んだ」
「当然! お前の分までしっかりぶちのめしてやらぁ!」
「俺たちもなるべく急いで追いかけるから!」
「なら、俺のべスパ使え! 昨日から店の隅に置いてある。これ、鍵!」
「よし。上手くいったら、満タンにして返すよ」
「洗車も頼むぜ。んじゃ、お先に!」
重く厚いエンジン音を轟かせて、ムゲンを乗せた純白の双角で夜闇を裂いて駆け出す。
「ははっ……調子乗んな、ったく」
あっという間に遠くへと走り去っていくムゲンを少し悪態つきながら、ハルカは安心したように見届けた。
※
スパイダーメタローが指定したスタジアムは郊外という立地に加えて老朽化も目立つため、取り壊しの目途も立たずに時間から捨て置かれたような人気のないものだった。
痛みの目立つ入場用ゲートをビッグストライダーの角で薙ぎ払いムゲンは堂々とスタジアムの中へと乗り込んだ。
「来てやったぞ、バカ蜘蛛。カナタ返せ」
『お早い到着でしたね。ようこそ、仮面ライダー』
少年は牙を剥き、蜘蛛は嗤う。
「挨拶はいらねえよ。あんたとはこれっきりの付き合いだ。それよりも早くカナタを出せ」
『おお、怖い。慌てなくても彼女には手など出し――』
「カナタの無事を証明しろって言ってんだ。口を動かすのは後にしろ」
スパイダーメタローの喋りを遮って怒り心頭のムゲンは静かな口調で言い放つ。
『我慢が出来ない子供ですねえ。私の上を御覧なさい』
「なっ、趣味悪いことしてんな。どこに……いた、カナタ! 大丈夫か!」
言われるがままに頭上を見上げて、ムゲンは一瞬青ざめた。
そこにはスタジアムいっぱいに張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣とまるで羽虫のように蜘蛛糸に雁字搦めに縛られて囚われの身になっている誘拐されたと思われる数多くの女性たちの悲惨な有様だった。
そして、その中に口元まで蜘蛛の巣で覆われて喋ることもできない状態になっているカナタもいた。
「うぅ……むぅ……んぅう」
『これで納得ですか? 彼女やこの素体である愚か者が拉致してきた他の人間たちはキミが私に勝利できたのなら解放するなり好きにしてあげるといい。私には必要のないものだ』
「随分と紳士的なんだな。こういう時って大抵人質にするもんだと思ってたよ」
『そんな下卑たことはしませんよ、少なくとも私はね。何故なら、未だ肉の身体に縛られた愚かな人間と比べたら我々メタローは生命体として圧倒的に優れているのですから!』
まるで舞台役者のような朗々とした語り口でスパイダーメタローは謳う。
夕暮れに戦った時とはまるで物腰が違うその様子にムゲンはいまこうして話している存在こそがこの世界にやってきた侵略者、その人格だと直感で察した。
『ですが、残酷なことにキミに油断や手加減と言ったものを施すことは出来ませんよ。キミが仮面ライダーを名乗る以上、我々の教団にとってそれは対処しなければならない問題ですので』
「買い被ってもらっているとこ悪いけど、これでも俺は善良などこにでもいる高校生だ。そんな歴史の偉人さんみたいに大層なお題目を掲げて世紀の偉業を成し遂げるだなんてレベルのことは無理な話だ。たぶん、あんたらが警戒している程やばい奴じゃないと思うぜ」
『先程の暴れっぷりに反して、随分と謙虚な発言ですね』
「それに個人的に名前も顔も知らない人たちの自由と平和のために戦えとかどうにも釈然としなくてね。今更、正義の味方面しろだなんてのは論外だ」
『ふぅむ、敵ながら拍子抜けですが身の程を弁えることはいいことです。捻り潰し甲斐は激減ですけれどね』
「けどな! 世界で二人だけの大切な友だちのためなら、俺はなにが相手でも戦えるぞ。もしも、俺たちのいつもの日常を土足で踏み荒らす気なら、神様だろうとそいつは俺の敵だ」
敵意を剥き出しにした爛々とした眼でムゲンはスパイダースパローを睨みつけた。
『なんともまあ我欲塗れな啖呵だね。それが仮面ライダーに選ばれた者の発言とは聞いて呆れるよ。この世界の命運に同情を禁じ得ないとも、この紛い物風情め』
「ハン! そんなもん俺が一番承知してんだよ。なんせ先輩方の力を借りまくってなんとかしろって話だぜ? これが偽物、紛い物じゃなくて一体何だって言うんだ。模造品の方がまだマシだぜ?」
スパイダーメタローの痛烈な皮肉をムゲンはあっけらかんと笑い飛ばして悔しがるどころか清々した様子で肯定する。
「ただまあ、約束したばかりなんだ。例え偽物で終わろうと、半端者にだけはならない。いまの俺にはその約束だけで十分だろ? あと、大事なことをあんたに言ってなかったな」
『なんでしょう?』
「その気色悪い手でカナタに触ったんだろ? あんたは全力でぶっ潰すの確定だから、よろしく頼むわ。じゃあ、始めようぜ」
あっさりと手短に宣戦布告を告げるとムゲンの顔は瞬く間に戦う者の面構えに変わった。
ムゲンはデュオルドライバーを装着すると両端のグリップを強く引く。するとバックルの左右がスライド展開して中央の風車と連なるように配置された二つの風車とカードスロットが姿を見せ、ムゲンは迷いのない動作で二枚のライダーメモリアを装填する。
【1号!×クウガ! ユニゾンアップ!】
最初の変身とは異なり、ドライバーから流れる勇ましい電子音声と共に二基の風車がゆっくりと回転を始め、淡い光を放ち始めていく。
ムゲンは呼吸を整えると一度、体の前面で両腕を斜めの平行線めいた形で構える。そして、武術の型のような動きでゆっくりと円を描くように大きく両の腕を広げていく。
「変身――!!」
曇りなき心で覚悟を決めると邪悪を破る気合の入った声と共に左腕を勢い良く斜め上に振り上げた。
【マイティアーツ! GO! GO! LET’S GO!!】
電子音声が高らかに鳴り響き、ベルトから溢れる緑と赤の二色の眩い光の奔流がムゲンに纏わり、彼の肉体を戦うための存在へと変えていく。
『これが……本当のデュオルか』
そこに現れたのは先刻とは全く姿の異なる、本来の力を発現させたデュオルの威容。
仮面ライダー1号と仮面ライダークウガのそれぞれの意匠が組み合わさった姿へと文字通りの変身を遂げていた。
黒いアンダースーツに隆起した筋肉を模った真紅のプロテクター。
手甲と脛当ては闇を裂くように力強い輝きを放つ白銀。
背中には飛蝗のものを想起させる一対の緑の翅模様。
全身の側面を奔る金色の二本のラインにはリントの古代文字が刻まれている。
そして仮面の形状こそ変わりはないが黒く染め抜かれ、その双眸は赤く染まり、二本のアンテナは黄金に変わっていた。
これが1号とクウガの力を重ね結んだデュオルのユニゾンアップフォーム。
その名もマイティアーツ。
嵐の男の背中を見つめ、完全独走に挑む新たなる疾風だ。
『成程、それが借り物を継ぎ接ぎした我々にとっての新しい敵ですか? よろしい、キミという個体をこれ以上見過ごすのも後顧の憂いと言うもの。なので……ここで死ね』
『応よ、掛って来い! けど、まずはぁ!』
スパイダーメタローが身構えた瞬間にデュオルは大きく跳躍すると相手を跳び越えて一目散にスタジアムの屋根を覆う巨大な蜘蛛の巣を目指す。
『なにっ!?』
『よっと! 悪いだけど、俺にとってはこっちが最優先だ』
「ぷはっ……ムゲン!」
力任せにカナタを縛る蜘蛛糸を引き千切るとそのまま観客席へ着地して、彼女を安全圏に奪い返した。
『ごめんな、カナタ。大丈夫だったか?』
「怖くなかった……は嘘になるけど、必ず何とかしてくれるってのは知ってたからね」
たははと苦笑いを浮かべて、カナタは安堵の声を漏らす。そして、デュオルの姿をまじまじと見ながら少し意地悪そうに聞き返した。
「ところで、さっきの変な動きなにあれ?」
『いや、あれは……気合を入れるあれだよ』
「そっか。じゃあ、大事だね」
カナタは小さな声でカッコいいじゃんと呟いて、感謝を込めてサムズアップをムゲンに送った。
『さぁて……んじゃ、お前とハルカの二人分も含めて、きっちりぶちかましてくる』
「気をつけて。明日も学校あるんだからね」
「だな」
戦いに臨むデュオルにカナタは頑張れとも負けるなとも言わなかった。
そんな言葉は必要が無いからだ。
いま誰よりも頑張って、誰よりも心を奮い立たせて、誰よりも命を懸けて前へと進んでいるのは双連寺ムゲンなのだと知っているからこそ、彼女は当たり前の激励は送らない。
自分にできる第一の、そして何よりも大切な役割……ムゲンがただの少年でいられる、いつもの日常の寄る辺として在ろうと彼女もまた恐るべき空想に負けないように心を強く持ってその背中を見守る。
(不思議なもんだな。変身した途端に長編映画を二本同時に観せられた気分だ)
ユニゾンアップ完了時の刹那にメモリアを介してムゲンの脳裏には二人のライダーの記録が刷り込まれていた。
人生を狂わせられながらも、世界のために戦い抜いた男たちがいた。
始まりの男は己の絶望を呑み込み、誰かの希望のために有象無象の巨悪と戦い続けた。
青空の男は誰よりも優しい心を摩耗させ、その手を血と涙でいっぱいに染めながら誰かの笑顔のために戦った。
自分は世界のために戦えない。
自分は正義のために戦えない。
自分は名前も顔も知らない誰かのために戦えない。
一歩、また一歩と足を進めるごとに己の小ささと不甲斐なさを痛感する。
自分で言っておきながら、紛い物という言葉が心にどうしようもなく深く突き刺さる。
彼らと比べれば自分は呆れるほど愚かで未熟で身勝手で、こんな自分に命運を委ねなければいけないこの世界にとってみればさぞかし落胆するだろう。
(だけど、悪いな……それでも俺は約束したんだ)
そうだとも。
永久に本物とは並び立てない模造品であろうとも自分は誰でもない二人と約束したんだ。
自分らしく、最後までやり遂げると他でもないあの二人に誓ったんだ。
(先輩方……こんな不出来な後輩ですけど、どうか長い目で最後まで見届けて下さい)
人類の自由と平和のために戦う覚悟なんて到底背負っていけないけれど、この世界で何よりも大切な二人の友のためならば、例え魔人が相手でも恐れることなく戦える。それが双連寺ムゲンという男だ。
胸に深く刻み込んだ想いで熱く燃え滾るこの魂だけは紛れもなく本物だといまここに改めて、世界に示そう。
『いくぞ、デュオル! ゴング鳴らせェ!』
裂帛の気合を込めて、両の拳をカチ合わせる。
仮面纏う己であり、受け入れた大いなる力の称号を名乗る。
「いけぇ! ライダー!」
一緒に明日を切り拓いていく大切な友の声を背中に受けて、勇気は凛々限界突破。
いま此処にこの世界を守る仮面ライダーが真の意味での爆誕を果たした。
『だりゃあああああ!』
猛然とスタンダードフォームとは比べ物にならない速度で走り出すデュオル。
『目障りな……寄るな!」
対するスパイダーメタローは背中から伸びた八つの蜘蛛脚の先端から糸をマシンガンのように斉射する。
一撃一撃が岩壁に穴を穿つような糸弾が無数にデュオルにぶち当たり、おびただしい火花と煙が飛び散るがデュオルは痛みに怯むことなく肉薄する。
『オリャアアア!』
紫煙を突き破り、弾丸のように迫りくるデュオルの双眸が強く赤く輝き、雄たけびと共に繰り出されたエルボー・バットはスパイダーメタローの脇腹にめり込むとその異形が僅かに浮き上がった。
悲鳴もろくに上げられず、悶えるスパイダーメタローに間髪入れずにデュオルの怒涛の連撃が炸裂する。
『フウン! オオオウリャア! カッ飛べ!』
片手で頭を掴んでの顔面への頭突き。
胴への目にも止まらぬ拳の三連打を経て、投げっぱなしの一本背負いで壁にぶつかるように投げ飛ばした。
『調子に乗るなよ、小僧!』
『ぐおおっ!? やるな、前と動きがまるで違う』
だが、スパイダーメタローも黙ってはやられない。大回転して飛んでいくが姿勢を制御すると両手から蜘蛛糸を伸ばし、まるでスリングショットのように反動をつけて自身を射出するとデュオルに両足蹴りを叩き込む。
よろめく、デュオルに反撃させまいと加えて八本の脚を総動員して乱れ突きの応酬を仕掛けた。
『こいつはキツイな! あんたらを相手にするには普通の対人の喧嘩と考えちゃ命取りになりそうだ』
『理解するのが遅すぎるな。それに貴様の命をいただくのはこの槍の如き脚ではないのだよ』
およそ、人間の身では繰り出せない人外の技を二本の腕で必死に捌くデュオルだがそれでも受けきれない攻撃が肩や太腿を掠り、全身に痛みが駆け巡る。
四方八方に意識が散り、どうしても生まれた僅かな隙をスパイダーメタローが見逃すという愚を犯すこともなく、がら空きになってしまった脇腹に必殺の力を込めた蹴りが放たれる。
刹那、岩盤が崩れるような轟音が響き、二人の動きが止まった。
見守るカナタも息を呑む中で先に声を上げたのはスパイダーメタローの方だった。
『貴様……わざと受けたな!?』
左脇腹を狙ったスパイダーメタローのミドルキックは確かに命中していた。けれど、その威力は完璧に直撃する寸前で先にぶつかったデュオルの右拳に勢いを殺され、大きく力を削がれた形であった。
『まあ、あんたの攻めがド定番すぎたからよ。 絶対に本命があるとは読めてたさ…』
『小癪なマネをオオオォォォ!』
軽く煽れたことが癇に障ったスパイダーメタローが激情に駆られ、串刺しにしようと背中の脚の一本を振るうがそれよりも早く、デュオルは脇と片腕で固めたままの敵の脚を軸に錐もみで回転しながら倒れ込む。ドラゴンスクリューを決めてスパイダーメタローを豪快に地べたに転がした。
元々ムゲンの持つ優れた喧嘩の技量にマイティアーツの能力によって引き出される1号とクウガの戦闘スタイルを踏襲した動きが加わりいまのデュオルは圧倒的な白兵戦能力を発揮してスパイダーメタローを寄せ付けなかった。
『残念だったな。なんならあんたもプロレス観戦でもしてみればどうよ? 戦いにおける一手先ってのが学べるぜ』
『いぎいいい!? 認めない……私が、私たちメタローがこんな人間などという旧世代の生物に後れを取るなどあってはならない!』
『うおっぷ!? これも糸か……ぐうう!?』
片足を庇いながら、のたうち回るスパイダーメタローも劣勢を強いられながらまだ諦める様子は微塵も見られず次なる手として口と八つの脚から蜘蛛糸を霧吹きのように大量に撒き散らした。
降り注ぐ雨水の全てを避けられないように噴霧のような蜘蛛糸は確実にデュオルの手足にも纏わりついて動きを鈍らせていく。
『最後に笑うのはこの私! メタローだと思い知れ!』
そして、視界さえ遮られて機敏に動き回っていたデュオルの動きが止まった瞬間にその片足に蜘蛛糸ががっしりと巻き付いた。
『ぐおお!? 痛っ……のわああああ!?』
『このまま一晩かけてじっくりと叩き殺してやろう!』
蜘蛛糸で拘束されたデュオルは糸を千切る間も与えられずスパイダーメタローに力任せに振り回されて、硬い壁や鉄柱に容赦なく全身を叩きつけられる。
たちまち、傷だらけになるデュオルを嘲笑いながらスパイダーメタローは攻めの手を一向に休めようとはしなかった。
『だが! 一手先、だったな? 貴様に確定的な死をくれてやろう!』
『ガッハッ! あ? やっべ……!?』
このまま、この攻撃を永続させることに成功すれば容易く相手を仕留められると判断したスパイダーメタローだったが、いやらしく口角を吊り上げ全てにおいてデュオルに勝るためにより確実な、より完璧な殺害手段を選択する。具体的に言うならば近場の鉄柱を引き抜くと先端を杭のように切り落として、槍投げの要領で投げつけたのだ。
「ムゲエエエエン!」
辛抱堪らずカナタは叫んだ。
宙をまるでバドミントンのシャトルのように行ったり来たりに振り回されるデュオルでは逃げ場はない。足場も何もない以上軌道を変えることも拳や足で鉄柱を弾き落そうにも背後を向いた状態では姿勢も変えられない。
串刺しにされるデュオルを想像して、カナタは胸が締め付けられるような不快な感覚に襲われる。
けれど、カナタは忘れていた。
いまのムゲンが変身しているのは仮面ライダー。
人の心を以て、人に非ざる力を振るい、人を救う者。
人間の常識で不可能なことだと思われようとも彼らには可能にすることなど造作もないと!
『トオオッ! 舐めてくれるなよォオオ!』
杭と化した鉄柱がデュオルの身体を貫通する寸前にデュオルはなんと何もない宙空を、大気を蹴って跳んで見せた。大外れとなった鉄柱は何もない空を穿ち誰もない観客席に大きな音を立てて突き刺さる。
カナタもスパイダーメタローも何が起こっているのか理解できずに宙を踊るように跳ぶデュオルを見入ってしまっていた。
『あぶねー。ハハッ! こいつは良いな、コツも掴んだぞ!』
それは飛行に非ず。浮遊に非ず。まるで飛蝗のような鋭敏な跳躍だ。
小石のような僅かな足場から、大気という本来ならば触れずのものすらも足場にしてデュオルは縦横無尽に跳びはねてスパイダーメタローを翻弄する。
『ふざけているのか、貴様ぁあああああ!?』
『常識なんて通用しないんだろ、あんたも! いまの俺もなあ!』
草が生い茂る野原を難なく跳び跳ねる飛蝗のように軽快に大気を蹴りに蹴って跳び回ったデュオルはスパイダーメタローの背後を捉えると前方一回転して浴びせるボディプレス、巷ではファイヤーバード・スプラッシュと呼ばれる技で勝ち誇っていた異形を大地沈める。
『ガホッ、ゲホッ……これがこの仮面ライダーの力というのか? こんな紛い物の分際が』
『あんたよ? 確かに俺は紛い物の自覚アリだがよ、敵のてめえが気安く連呼してんじゃねえぞ!』
個人的に癪に障る怒りを乗せて追撃の右ストレートが放たれる。
だが、その際にデュオルの拳には微かに炎が揺らぐようなオーラが発現した。
『ぐおおおあ!? あ、熱い……それに身体の自由が!?』
拳を受けたスパイダーメタローの腹部には焼けた鉄色に輝くリントの古代文字が刻まれていた。そう、クウガがグロンギ族に止めの一撃を繰り出した際に浮かび上がる物と同じものだ。
原典であるクウガは封印エネルギーを注ぎ込むことで相手を確実に葬り去っていたものだがデュオルのそれはあくまでも能力の断片的な模倣。
焼けるような熱の痛みで対象の動きを一時的に封じるスタン効果に留まるものだがそれはいまのデュオルに絶好の好機を生み出した。
「カナねえ、怪我してないかい!?」
「ハルくん! それにクーさんも! 私は平気」
「すごいな。あれが本当のデュオルか!」
丁度その時、ムゲンの後を追いかけていたハルカとクーもスタジアムに到着してカナタの元へと駆け寄り、決死に戦うデュオルに意識を向ける。
「ムゲンさん! 右のグリップのギミックを使ってください! 大技、決めちゃえます!」
『わかったぁ! コイツだな』
クーの声に従ってデュオルはドライバーの右グリップの撃鉄を起こして、トリガーを引いた。
【FULL SPURT! READY!!】
勇壮な電子音声が響くと中央の風車が激しく回り始めて星のような眩い光を放ち、デュオルの全身に全力全開の力を漲らせる。
『いくぞおおおおお! ウオリャアア!!』
『ぶっ……があああああ!?』
電光石火の勢いで駆け抜けたデュオルは瞬きする間もなくスパイダーメタローの眼前に迫ると渾身のアッパーカットで上空へと打ち上げた。
『嗚呼……私は終わった。精神同期を実行。我が同胞よ、私の知識を、恐怖を、警告を鑑みよ。対象への脅威認定の検討を推奨する。対象の名はデュオル』
自ら張り巡らせた蜘蛛の巣を突き破り、ぐるぐると回転しながら上昇する相手を追ってデュオルは力強く跳躍する。スパイダーメタローを余裕で抜き去り遥か上空へ跳び出して目標を見据えた。
そして――。
『受け取りな! こいつが俺のフィニッシュ・ホールド!』
宙空にて大気を蹴ること、その数実に三段。
稲妻のような軌道を描きながらの急降下。
加速!
加速!!
加速!!!
空を駆け、風を切り、雲を破るデュオルの体躯はまさに迅雷の矢の如く。
スパイダーメタローを射程圏内に捉えた瞬間にデュオルは一回転して飛び蹴りの態勢に入ると雷鳴のような雄たけびを上げた。
『スペリオルライダアアアァァキイィ―――ック!!』
落雷のような衝撃と音が周囲一帯を揺らし、一条の閃光が夜空を裂いて、スパイダーメタローを撃ち抜いた。
『グヌオアアアアアアアアア!?』
壮絶な断末魔と共にスパイダーメタローは爆発四散して夜空に消えた。
寄生されていた藤島の方はというと一足先に着地していたデュオルに受け止められて、意識消失したままではあるが命に別状はない様子だった。
「ふー……やっと終わった」
「ムゲン! ナイスファイトー!」
「お疲れ、約束通りに洗車して満タンだな。ツイてないよ」
急に静まり返った静寂に戦いを勝利で納められたことを悟ったデュオルが変身を解いて一息入れているとカナタたちが走って駆け寄ってきた。
「じょーだんで言ったのにマジでやってくれんの? あざますだな、ハルカ」
二人の顔をみてようやくムゲンも顔をほころばせて気の抜けた構えで軽口を叩いて見せた。
どうにかこうにか、最初の試練を彼らは乗り越えたのだ。
「ムゲンさん。それにカナタさん、ハルカさんも不祥な私ですがこれからもどうかよろしくお願いします」
「こちらこそ、頼みますクーさん」
「けど、随分と暴れたねムゲン。攫われた人たちも蜘蛛の巣から降ろさないといけないし、これはみんなで徹夜かな?」
勝利の喜びも束の間、カナタが戦いの後片付けを危惧したそんな時だった。
突然、真夜中だというの四人が目も開けられないくらいの強い勢いで光り輝く風が吹き荒び始めたのだ。
「なんだこれ!? 二人とも大丈夫か!」
「どうにかね!」
「でも、これって……うそ?」
程なくして風は止んだが、目の前の光景に三人は言葉を失った。
何故なら、あれだけデュオルとスパイダーメタローが暴れてボロボロに荒れ果ててしまったスタジアムは傷一つ残らず綺麗に修復されていたのだ。
それだけではなく、あの巨大な蜘蛛の巣も忽然と消え去り、攫われていた人たちは気を失ったまま地べたに転がっていた。
「クーさん! これってどういうこと?」
「恐らくは世界の修復力です」
ハルカの問いにクーは静かに聞きなれない単語を用いて回答した。
「本来、この世界にとってメタローの力は存在してはいけない力です。その力が今回世界に大きな実害をもたらしました。けれど、ムゲンさんがその病原菌とも言えるメタローを倒したことで世界がこの世界を自らの力で癒した結果だと考えられます」
「つまり、全部無かったになったってことかな?」
「……そうかもしれない。ここ来る途中でまさかと思って確認した時にネットに投稿されていた怪人の目撃動画が軒並み削除扱いされてる」
「けどまあ、その方が助かるよ。俺としては一々建物やらの弁償代とか考えずに戦えそうだ」
「クス……確かにそうだね。借金まみれのヒーローじゃちょっと格好つかないかな?」
「ただし、これだけは覚えておいてください。今回は世界にとって擦り傷程度の被害だったからここまできれいに修復されました。けれどこれがもしも人間にとっての致命傷に当たるような大きな損害になったときは」
「この世界が死を迎える、か……肝に銘じて、油断せずに行こう」
噛みしめるように決意するムゲンに双子も真剣な顔で頷いた。
そんな時だった。スタジアムの大型照明に引っかかっていたのだろうか。
カードのような何かが一枚、風に吹かれてムゲンたちの元に降ってきた。
「おい、これもしかして」
「はぁい! ああ、これは幸先が良いですよ! まさしくライダーメモリアの一枚ですとも」
ムゲンが拾い上げたメモリアに写る戦士は橙の仮面に黒い眼、パーカーのような衣装を纏っていた。その名は仮面ライダーゴースト。人類史に刻まれた英雄偉人の魂と共に命を燃やして戦った戦士。
後日談ではあるが、攫われた人たちはハルカが行った匿名の通報で駆け付けた警察に無事に保護され、藤島の方は重要参考人として事情聴取を受けたが証拠不十分という事で釈放。その後の消息はムゲンたちにも分からずじまいとなった。
「それはそうと流石に腹減って限界だ。どっか食べに行きたい」
「いいね。この時間だとファミレスぐらいしかやってないけど、どこ行く?」
「今日はムゲンが決めていいよ。頑張った特権でさ」
「なら、ラーメン食いたい。駅裏の隅っこで屋台がやってるの見つけたんだよな」
「良いんじゃない?」
「俺一人だとこの目つきで酔っ払いに喧嘩売られるからな。今日は四人寄れば文殊の知恵だで安心して食える」
「えっと……四人って私も? それにラーメン?」
「気の利いたアレンジだけど、それこうときに使う諺じゃないからねムゲン」
「そういうことだから、クーさんも行きますよ? ご馳走しちゃいます」
戦い終えて、いつものどこにでもいる高校生三人に戻ったムゲンたちは困惑するクーを引き連れて賑やかに歩き出した。これは彼らにとって長い長い戦いの物語の最初の1ページ。
この続きはまたいずれ。
此度はここまでと致しましょう。
お読みいただきありがとうございました
次回はリアルの都合もあって少し遅れてしまうかもしれませんので申し訳ございません
ご意見ご感想などいただけますと作者のライフエナジーになるかもしれません(汗)