仮面ライダーデュオル   作:マフ30

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 どうも、皆様いつもありがとうございます。
 最新話更新です。

 今回はどうにか一話完結で詰め込んだ結果、なんか昭和を決めたようなテンポの速さになってしまいましたがどうかご容赦ください(汗)


第4話 幻霊疾空! エリアルファンタズマ!!

 三月のとある休日。

 本来ならカフェ・メリッサも絶賛営業中なのだが今日は入口の扉に掛けられているプレートはCLOSEDのままだ。

 実のところ、このカフェ・メリッサは客入りも悪くなく、喫茶店としての評判も良いのだが店長であるシスターの気まぐれにより、不定期でよく休みになることでも有名な店でもあった。

 そんな経営で大丈夫か?と思うところだが、シスター曰く喫茶店経営は本人にしてみれば趣味の道楽のようなもので本業は別にあるとのこと。

 なので、店のカーテンも閉まったままなのだがこの日に限っては営業中ではないのに店の中はなにやら賑やかな様子だった。

 

「男児ごはん! スタートォ!」

「やっふー!」

「テンションおかしくない?」

 

 メリッサのキッチンではエプロン姿のムゲンとクー、そして無駄にハイテンションな二人を冷めた目で見ているハルカがいた。

 きっかけはバイトにも慣れてきたクーが自分の料理のレパートリーも増やしたいとシスターたちに相談したことだった。結果、ノリと勢いだけでムゲンによる料理教室が本日開校する運びになったのだ。

 

 それだけなら、別段平和な話だったのだがこの二人、休憩中にふとした雑談から野営、すなわちキャンプという共通の趣味があるということが判明したことで流れが変わった。

 クーの場合はギギの民という一族のライフスタイルや長い旅路の都合、やむを得ない場合もあったのだがムゲンの方が共通の話題で盛り上がれる相手を見つけたことでかつてないほどに舞い上がり、陽気で騒がしいクーもそのノリに乗っかったことで、このようなお祭り騒ぎめいた空気が出来上がってしまったのだ。

 

「ムゲン先生! 本日のメニュー発表をお願いします!」

「オッケーイ! 我ながらこの顔に刃物とか確実にポリス案件な殺伐とした絵だが、どうか安心して欲しい!」

 

 伊達眼鏡の奥の瞳は野犬のように鋭いが物腰そのものは普段はダウナー気味なムゲンではあるが今日に限ってはまるでメタローとの戦闘中のように元気ハツラツとしている。

 そんな彼が良く研いだキッチンナイフを慣れた手つきでくるくると片手で踊らせていれば、傍から見れば料理は料理でも人間を解体する方を想像するだろう。

 

「今日、俺が教えるのはえーお米って洗剤で洗うんじゃないんですかぁーとか言っちゃう、脳みそタピオカミルクティー野郎&ガールでも必ず成功する簡単キャンプカレーだ!」

「あっはー! 絶対美味しいヤツきましたー!」

「あの、二人とも十秒で良いからクールダウンしてもらっていい? なんでオレも巻き込まれてるの?」

 

 本格的なお昼の料理番組のようなご機嫌なテンションで盛り上がる二人に冷や汗を浮かべながらハルカは何故このカオス空間に自分もパーティ入りしているのかを冷静に問い質した。

 

「ハルカ、カレーは嫌いか? ハヤシライス派だったか?」

「ハルカさんは美味しいカレーを食べたくないとおっしゃる?」

「カレーから一度離れろ! お前らが脳みそタピオカミルクティーじゃねえか! そうじゃなくて、なんで俺も生徒に組み込まれてるかってこと!」

 

 残念ながら、まともに質問に答えてくれそうにない心がフォレスト化している二人に語気を荒くしてハルカは突っ込んだ。

 

「カナタがなーお前が料理当番だとすぐにパスタとか蕎麦とか楽なものに逃げるから、ちゃんとしたのを仕込んでくれだってさ」

「カナねえ、やってくれたな」

 

 事の経緯を聞かされたハルカはこの場にいない姉に小さく舌打ちをした。いくら異常なほどに深い親愛を育み、仲が良いこの双子も戯れ程度には喧嘩もするし、悪態もつくのだ。

 ちなみにカナタはというと女子バスケットボール部の試合に助っ人参戦中であり、本日は不在だ。

 いつもの眩しく不敵な笑顔と弾ける汗、そして試合中に3Pシュートを連発して、男女問わずに多くのギャラリーをメロメロにしたそうだが、それはまた別のお話。

 

「まあまあ。私が言うのもなんですが炊事は覚えておいて損はないですよ。私なんてアーティファクト作りに青春を注いだばかりにこの世界へ来るまでの大半の食事が塩焼き、塩茹でという有様なので! まあ、いまの私にはケチャップくんがいるので無敵ですけどね」

「うん。クーさんはマジで頑張った方がいいよな。自分のためにも店のためにも」

「そう言えば、少し気になってたんだけど、ギギの民の人たちってみんなクーさんがムゲンに渡したDブレイカーみたいな武器作れるんですよね?」

 

 腕を組んで調理スキルの大切さを力説するちょっと可哀そうなケチャラー魔術師にハルカはふと思いついた疑問を尋ねた。

 

「クーさんがムゲンを見つけたから今更感もあるけど、あんな感じのすごい武器を量産してレジスタンスに配った方が対抗策としては効率が良かったんじゃ」

「あーそれはですねー……ギギの民は大昔から代々、武器とか兵器作るの下手くそなんですよ」

 

 Dブレイカーの性能や利便性を考慮すると実に理に適ったハルカの質問に対してクーは眉を八の字のように歪めて、ざっくばらんな態度でそう答えた。

 

「なにそれ?」

「なんて言ったらいいんでしょうね、イマジネーションの問題と言いますか、とにかく強い敵をやっつける武器みたいな発想そのものが思いつかないんですよ」

「価値観の差異ってことですか? 前に聞いたみたいに少数の遊牧民族なら余所と戦争とかになる可能性も少なかったでしょうし」

「そんなとこですね。日常生活に役に立つ便利なアーティファクト作製こそがギギの民の本領。実のところ、私が差し上げたアレも元々は樵さんのために作った斧やノコギリの代用品なのですよ。ムゲンさんは武器として上手に使ってくれているので流石としか言いようがありません」

 

「「は?」」

 

 まだあまり詳しくなかったギギの民の詳細を知り、感心しかけていた二人の耳に飛び込んできた信じられない真相にハルカとムゲンは声をハモらせて驚いた。

 

「いやいやいや! 樵の斧代わりってその発想は流石にぶっ飛びすぎじゃないか!?」

「普通、林業用の斧は変形しないし、エネルギーの弾丸も発射されない」

「ひっどーい! お二人まで一族の年寄りたちみたいなこと言わないで下さいよ。私は山には熊みたいな危険な動物もいるだろうから、獣避けになるギミックが付いていると便利だろうなって親切心でご覧の設計をしたまでなのに、失礼な話です」

 

 使用者に対してサービス精神豊富ながら、そのサービスの方向性が明らかに斜め上なクーのコメントに軽く絶句しながらもハルカは思い切って、彼女のアーティファクトについて根掘り葉掘り聞こうと決めた。

 

「ちなみに他にはどんなもの作ったことあるんですか、クーさん?」

「そうですね、子供やお年寄りが夜道や獣道で安全に歩けるように身に付けているだけで、周りから一切存在を認識されなくなる布地でしょ」

「はあ……」

「私のランプのプロトタイプになった水とか食糧とか大容量を収納できる小箱とか、不眠症用に音色を聞いた人を一発で眠らせる笛とかですかねぇ」

 

 聞いているだけで、明らかに物騒な代物の数々にハルカはおろかムゲンさえもそれらを彼女が考えている使用方法とは違う使い方についての危険性を察知して、少し顔が青ざめ始めていた。

 

「ちなみにそれっていまでも使えるんですか?」

「その辺が実のところ微妙なんですよねえ、前にも話したようにこの世界はアーティファクトの主な動力になる魔力が薄いので使える品もその稼働時間も全く以ってピンキリって感じですよ。ビッグストライダーはその問題をクリアしたものらしいので幸いでしたけど」

「なるほどねえ」

「このように私は良かれと思って便利な機能をちょい足しすると昔から頭の固い爺さまたちにガガの民みたいな物騒なもん作るなって、よく怒鳴られたものです。全然物騒じゃねえですよーだ!」 

「ん? ガガ? ギギじゃなくて、ガガ?」

 

 当時を思い返して、百面相のように表情を変えて声を張るクーの口から出たもう一つの気になる単語。ムゲンが聞き返すとクーはまだ話していなかったか、とばかりに少し呆けた表情をした後にそのガガの民と言う者たちについても説明を始めた。

 

「私たちギギの民みたいなのが実を言うともう一ついるのですよ。ガガの民と言いまして、そいつらは逆に武器や戦いに関する道具を作る職人集団だったと聞きます」

「会ったことはないんですか?」

「全く、一度も、影も形もなく。 大昔はギギとガガは一つの纏まった大きな部族だったとか、好戦的な連中で袂を分かち、二つの一族になった。みたいなことを子供の頃に聞いたようなこともありますし、とっくの昔に滅んだんじゃないですか? まあ、私みたいなラブ&ピースなアーティファクトを作る魔術師には無縁な連中ですしねえ」

 

(何となくだけど)

(クーさんが発明家としてぶっ飛んでるのは分かった気がする)

 

 言葉にはしなかったが、二人ともどうしてクーが一族の長老たちから叱責されたのかその意味が分かったようだった。

 平和的なギギの民の気性が少し裏目に出てしまっているのか、クーはそのアーティファクト作製技術の高さとは対象的に自らの作り出す道具の性能の良さが危険な用いられ方をした時にどれだけ恐ろしいのかに気付いていない可能性があったのだ。

 

「私の実家がらみの話はいいんですよお。そんなことより、早く本題を始めましょうよ! ほらほら、男児ごはんスタートですよぉ」

 

 横道に逸れ出した話題と小さくなった腹の虫でハッとなったクーはすっかり親密になった態度でムゲンの肩をゆらしてせがんだ。

 

「そうしますか。ちょっと話も脱線したし、昼飯に間に合うように飛ばすとしますか。今回作るカレーは美味くて簡単、洗い物も最小限に抑えた理想のキャンプ飯だぞ、なんせ鍋一つで出来るんだ。包丁とか要らん」

「ヒュー! その気遣い、全国のお母さんの味方ですよぉ!」

「たぶんだけど、その包丁泣いてるぞ」

 

 クーの歓声が飛ぶ中で無情にも即片付けられた店の包丁をハルカが哀れに思いながら、ムゲンは気合十分にキャンプカレーを作り始めた。

 

「材料は野菜ジュース一本と焼き鳥の缶詰、そしてカレー粉の三品! お好みでミックスベジタブルやチーズとかも入れて良し! 他にも自分だけのオリジナルトッピングを探してみよう!」

「これにはやんちゃなキッズたちもドキワクで大喜び間違いなし!」

「なあ、ムゲン……折角なら、普通のカレーの作り方教えてもらった方がありがたいんだけど。こういうのって基本が大事なんだろ?」

 

 もっともなハルカの要求に材料を紹介するムゲンの手が止った。

 無言でしばし、ハルカの顔を覗き込んで大きく息を吸い込んだムゲンが再び口を開いた。

 

「……今日の男児ごはんは簡単キャンプカレーをお届けしますッ!!」

「よし分かった。今回はオレが折れてやる」

 

 カナタに小言を言われるのを覚悟しながら、ハルカは親友の願いを叶えることを優先した。

 

「まあ、レシピって言ってもアレだ。いまの材料を分量間違えずに全部鍋に放り込んでよく煮込めば出来上がりだよ。焼き鳥缶は煮こごりも忘れずに入れろよ。これが旨味になるからな」

 

 慣れた様子で鍋に三人分の材料を投入していくムゲン。

 キャンプ飯レクチャーに拘っていただけあって、その進行具合はなかなか様になっていた。

 

「一応、そういう大事なポイントは存在するんだな。あって無いようなものみたいだけど」

「キャンプ飯の要点は持っていける材料や調理道具が限られる状況でどれだけ簡単かつ無駄を出さずに作れるかってところだからな」

「ムゲンさん、これってお鍋じゃなきゃダメですか?」

「いや、今回は屋内で作るから小鍋を用意たけど、実際はコッヘルみたいなキャンプ用の調理道具でやるのが正しいな」

 

 念のため持ってきた自分のキャンプ用具を例に見せながら、ムゲンは仕上げ用の調味料が入った缶詰めを楽々と素手で蓋を取り、小鍋の上に持ってきた。

 

「さあ! 最後にお待ちかねのカレー粉を投入するぞ。固形のルーと違ってちゃんと分量を量って入れないと味が大事故を起こすから注意だぞ」

「カレー粉なんて久々に見たな。あれ……なあムゲンちょっと待った」

「どした?」

「なんか、ムゲンの持ってるカレー粉ちょっと色変じゃないか? あと匂いも」

「はあ? ちゃんと賞味期限は確――」

 

 ハルカの指摘におもむろに手にしていた缶のラベルを見たムゲンが口を開けたまま凍りついた。黄色い缶には赤い文字でデカデカとからしと表記されていたのだから。

 

「間違えたああああああ! カラシだこれええええええ!?」

「えぇ……」

「なにごとですか? アクシデント発生ですかこれ!?」

「うん。ちょっと、正気ですか?って感じのアクシデントです」

 

 ムゲン、痛恨のミスと大絶叫。

 クーはびくりと驚き、ハルカは流石にドン引きせざるを得なかった。

 

「ごめんなさい、クーさん。大急ぎでカレー粉買って来るんで留守をお願いします!」

「ラジャーです!」

「不安しかないから、オレも一緒に行くよ。ほれ、ムゲンの財布」

「かたじけねえ」

 

 自身でも信じられないミスに動揺を隠せず軽くパニックになるムゲンを心配して、ハルカも彼のべスパの後ろに跨った。

 

「お二人ともいってらっしゃーい! でも、本当に早くして下さいな。私、これのために朝ごはん食べずに我慢してたんですからねー!」

「心得ましたあああ!」

 

 既にぐーぐーとお腹の虫がうるさくなってきているクーに見送られながらムゲンとハルカはカレー粉一個を買うために街へと繰り出した。

 

 

 

 

 

その頃、休日の賑わいとは縁遠い静かで薄暗い路地裏にて、新たなる敵は生まれ落ちようとしていた。

 

『さあ、我々を受け入れろ――愚かな世界の一欠片』

「オオ……キタ! キタキタキタアアアァ!!」

 

 揺らめく炎が僅かに猛けり、不気味に輝く火の玉がゆっくりと青年・車田の肉体に入り込むと彼と融合し――いや、彼を侵略して全く別の存在として変貌を遂げていく。

 

『我は汝、汝は我――いま我ら完全の一として、喝采を受け顕現しよう。我らが名はメタロー』

 

『ギャッハッハッハ! いいね! 我ながら最高のボディになってくれたじゃねえか!』

 

 光が収まるとそこには迷彩柄の分厚い装甲を持つ、頑強な異形の姿あり。

 照準器のスコープのような単眼の頭部と戦車砲と一体化している右腕、まさに戦車が人型になったような特徴を持つタンクメタローは変貌した自分の姿形に満足したのか粗野な笑いを臆面もなく高らかに上げた。

 

彼の喜びは当然のものだった。

何故なら、この車田という青年は戦車をこよなく愛するが余り、自動車やトラクターと言った乗り物の部品をかき集めて戦車を自作してしまうほどの戦車狂だったのだ。

ただし、当然のことながら違法改造であり、臆面もなく公道でも乗り回すという問題児としても有名であった。

 

(融合はここに叶った。後はキミの好きなようにするといい。私は全ての思考を停止する)

『おいおい! 寂しいこと言うなよバディさんよ。折角こんなイカれた力を手に入れたんだぜ? 試し撃ちしないでどうするんだよ』

 

 車田と融合したメタローはそれまでのメタローたちとは違い乾いた口調で覇気のない提案を持ちかけ出した。

 

(私には必要ない。教団の大事業に異を唱えるつもりはない。けれど、私という個我はもう疲れ果てたのだ)

『なんだよ、付き合い悪いじゃんよ! 騙されたと思って俺に付き合えって、建物は10点、乗り物は50点、人間はそうだな……狙った奴に当てたら100点。関係ない奴を撃っちまったら-150点ってシューティングゲームを考えたんだよ、スカッとするぜ!』

 

 明確に積極的な侵略活動を行うつもりがないことを主張するメタローに対して、車田の精神はその危険で傍若無人な人間性を物語る狂気の遊びを思いつく有様だった。

 

(なんたる愚か、なんたる醜悪。それでいい、この世界の一欠片……その悪心こそが魔人教団に相応しい者の証明だ。私という精神は無用の物だ。頼む、もう嫌なのだ)

 

「まさか、魔人教団の者たちの中からそんな言葉を聞くとは思わなかったね。それは同胞たちへの裏切りになってしまうのではないのかい?」

 

 一つの肉体に二つの精神。

 押し問答を続けるタンクメタローの前に突然割って入って来る者が現れた。

 

『なんだよ、お兄さん。俺らのことを邪魔する気か? だったらその小奇麗な面ぁぶち抜くぞ』

「ボクは味方だよ。君の中のバディさんに確かめてご覧よ」

(観察者……ニュー。何の用だ。統括長へ私を密告でもするつもりか?)

 

 癖のある緑の長い髪の一房を弄りながら、和やかな微笑みを絶やさないニューにメタローは警戒した様子で脳内に話しかけた。

 

「ボクはあくまで気ままな観察者だ。ただ、どうにもこの世界に傷を与えるのに積極的ではない君という個体が気になってね。反旗を翻すというわけでもないようだし、何故だい?」

(反逆など不可能だ。我らは精神同期にて結ばれている一繋ぎの群体のようなもの。けれど、このように素体に全てを委ね。思考を放棄することは反逆の範疇には含まれない)

 

 高次元生命体メタロー。

 それは彼らの個体名であり、同時に種族を示す総称でもあった。

 彼らにはそれぞれの個人に相当する人格があり、個我がある。けれど同時に全ての思考や感情は統括長を中心に精神同期という固有能力によって全てのメタローが共有する仕組みとなっていた。

 

「なるほど、君たち高次元生命体の理屈ではそうなるわけか」

(重ねて答えてやろう。同胞と言ったな……バカなことを言うな。私たちの殆どがあの狂った連中共の被害者だ)

 

 他の仲間たちに知られるのを覚悟でこのメタローは怨嗟の念を隠すことなく、胸の内をニューに吐露した。

 

「いまので把握したよ。君たちはオリジナルではないんだね。始まりの天才たちに巻き込まれた側なのか。そして、人間であった頃の常識や理性を捨てきれずにここまできたか」

(何がおかしい! ある朝目覚めたその日に、私たちはありふれた日常も、人間としての人生も奪われたのだ。あの狂者たちの暴走で人間としての肉体を失くしてこの様だ! 否定も肯定も出来ずに選択の自由さえも与えられなかった!)

 

 目の前にいるメタローの有機生命体であった頃の身分を察して、ニューは哀れみにも似た笑顔を見せた。その嘲笑に当然のようにメタローは怒りを露わにした。

 その怒りの真相を知るには魔人教団を構成するメタローたちの起源をここで一部語らなければならない。

 元々、高次元生命体メタローが発生した世界は人類が文明社会を謳歌するごく普通の世界だった。けれど、その裏側で数名の天才たちが高度な科学力を行使して、とある実験を秘密裏に行っていた。

 それこそが生身の肉体を放棄して、生物の魂を物質化するという題材であった。そして、後に統括長とオリジナルと呼ばれる天才たちはその世界の優れた科学力と狂気の領域に達した叡智の限りを尽くして、神の御業に等しいその実験を成功へと導いた。

 かくして、天才たちは自分たちの生きとし生ける世界の生命体の全ての魂を肉体と言う檻から解放した。

 誰の許しも得ずに、一切合切の議論も選択の余地も与えることなく、全ての人類、全ての知的生命体を無理やりメタローへと変貌させたのだ。

 これこそが魔人教団の創成の真実だ。

 

(それから長い時間が過ぎた。統括長たちが謳う一大事業に付き合わされて、他の世界に侵略もした。長い、長い歳月の出来事だ。確かに我らには老いというものは無くなったのだろう、不死に近い長寿を得たのだろう。けれど、私はもう止めにしたいのだ。故にこその選択だ……納得したか、観察者よ)

「……ああ、良く解ったよ。ならば、ボクの実験にもピッタリだ」

『あん? テンメェ、なんだ――』

 

 終わりの見えない責め苦に近い生涯に燃え尽きたくてもそれが出来ないメタローの悲痛な訴えを聞き終えて、ニューは低い声色で語りかけながら、ゆっくりと歩み寄り始めた。

 

「パパの真似事じゃないけど、人体実験ってワクワクするよね?」

 

 タンクメタローが一瞬垣間見たニューの顔はまさにこの世に顕現した悪魔のようだった。

 

『おぉおおおおおおお!? うぅおおおおああああああ――!!』

(馬鹿な……この力は仮面ライダーのも――)

 

 けれど、不意に奇妙なカードを体内に無理やり埋め込まれたタンクメタローは抵抗することも出来ずに自らの奥底で噴き出す力の奔流に悶絶する。

 タンクメタローの全身には膨大なエネルギーとパワーが漲っていく。大きな負荷と代償を伴いながら。

 

「ライダーメモリア、拾い物さ。けれど仮面ライダーが元来、悪より生まれた正義の象徴ならばこのカードが力を与える対象がこの世界の新人君だけとは限らないよね。何故なら、メタローよ。この世界の側から見れば魔人教団こそが悪の怪人軍団に他ならないのだから」

 

『うおあああああああああああああああああああ!』

 

 ダイナマイトが大爆発するような雄叫びを上げながらタンクメタローの中からメタロー本人の人格や個我は一片の欠片も残らずに消滅していた。

 痛みも苦しみさえ近くすることは無い一瞬の出来事だったのだろう。

 

「おめでとう、名も知れぬメタロー君。お望み通り、自我なんてこれで塵芥と吹っ飛んだだろう、何せ赤子に劇薬を飲ませたようなものだったのだからね。さて」

 

『ハァ……ハァ……カァー! パワーがギュンギュンに漲って来るぜええええええ! なんだか知らねえがこの力、この姿、全部俺のもんでいいんだよな? 愉しみすぎてイッちまいそうだぜえええ!』

 

「成功のようだね。うん……いい感じだ」

 

 思っていた結果を確認したニューはその美しい顔をおぞましく緩ませて笑顔を浮かべた。

 打ち上げ花火のように右腕の戦車砲を上空に向けて連発するタンクメタロー。

 ライダーメモリアによって大幅に強化された呼吸する破壊衝動と化した怪人が平和な街に惨劇をもたらそうとしていた。

 

 

 

 

 

 休日の街は天候にも恵まれて、多くの人に溢れて賑わいを見せていた。

 数え切れない自動車が産卵期の魚の群れのようにせわしなく行き交う車道をムゲンとハルカが乗る中古のべスパも軽快に走っていた。

 

「いやぁ、我ながらちょっとどうかと思うミスだった」

「令和始まって以来の衝撃だったよ。あれはそう簡単に塗り替えられるものじゃないぞ」

「大袈裟すぎやしねえか?」

「普通は味とか値段とかラベルをよく確認してから買うだろう。レジでも商品名表示されるし、元々ムゲンはレシートちゃんと保管するタイプじゃん」

「仕方ねえじゃん。クーさんやハルカにキャンプ飯教えるの楽しみだったんだからよ」

 

 ゲンは後ろのハルカに心底悔しそうに答えた。

 普段、どちらかと言えば双子やクーたちの話の聞き手に回ることが多いムゲンがここまで自分が主体となってはしゃぐという姿は確かに珍しいものだった。

 

 

「なあ、余計なお世話かもしれないけど。あんまり仲良くなりすぎるのも考えものだぞ。きっと別れる時に辛いだけだ」

 

 そんなムゲンに少し申し訳なさそうにしながらも、ハルカははっきりとした意思を込めてそう返した。

 

「クーさんのことか?」

「文字通り、住んでいる世界が違うんだ。あの人にだって、本当に送るべきはずだった日常がある。この一件が全部片付いた時にさようなら、また何処かで会いましょうって簡単に再会できるわけじゃないだろうし」

 

 先のVSモスキートメタローの一件以降、カナタもクーと打ち解けていく中でハルカはまだ彼女との間に一線を引いていた。表面上に明らかにこそしてはいないが彼女への不審や警戒も解いてはいなかった。

 

「だから、親交は深めなくてもいいってか?」

「結果を考えるなら、オレはそっちの方がお互いのためだと思うけどね。ま、一応選択肢は多い方が良いだろ」

「そういうのも悪かねえとは思うさ。けど、俺はあの人も交えて四人やシスターとバカやりたいけどなあ。結果よりも、過程のほうが大事なこともあるぜ」

「……一理はあるだろうけど」

 

 ムゲンの言葉にハルカは微かにバツの悪そうに呟いた。

 彼自身、何も猜疑心が強いわけでも、性根が致命的に歪んでいるというわけではない。ただし、あまりにも素性不明な人物に対してそう簡単に心を許すほど不用心だということでもない。

 天風ハルカという少年は常にもしもの事態への備えや準備を怠らない慎重で理を重んじる性分なだけなのだ。

 

「じゃあ、聞くけどよ? ハルカはカナタと一緒になって俺のこと調べた間の時間は意味も価値も無いものだったのか?」

「なっ!? カナねえが喋ったのか?」

 

 けれど、そんな彼でも想定していなかったムゲンからの例え話にハルカは思わず体を揺らし、べスパの後部が大きくぶれた。

 ムゲンは慌ててハンドルを切って体勢を直しながら、飄々とした声でどこか面白がってさらに続けた。

 

「気付かないわけないだろ、お前らあの頃ホントに二人だけの世界でいつも一緒に行動してたんだから。加えて、俺は見事にボッチマンだったから誰かの気配なんてすぐに分かるさ」

「よりにもよって、いまそれネタバレするわけ? TVで露出多めの萌えアニメのCMが流れた時に唐突に母親がアレ、あんたの好きなやつでしょ?って話を振るレベルの所業だぞ。最悪だ」

「ハハッ! で、どうよ?」

 

 しばし、声にならない呻き声を上げていたハルカだったが、確かに鮮烈だった一年前の日々を思い出して、自分の気持ちをはっきりと口に出し始めた。

 

「宝の地図を広げて、大迷宮を探検してる気分だったよ。きっとカナねえもそうだ」

「長い! 映画の主人公かよ、もっとシンプルに」

「楽しかった! そうだよ、過程を思いっきり楽しんでたさ。これで満足? 全く、今日は厄日だぜ。降参だ……これからはちゃんとあの人とも前向きに付き合っていくよ、一応」

「無理強いはしないさ。ハルカの慎重なところに助けられてるのも本当だからな」

 

 ちょっと自棄っぱちになっているハルカを宥めながら、ムゲンは穏やかに言う。

 ムゲンもハルカのその慎重で自分では中々実行できない理詰めの行動には感謝が尽きないのも本当のことだった。

 

「そいつはどうも。これだけ照れくさいこと言わせたんだ。埋め合わせにちゃんと美味いの作ってくれよ?」

「お安い御用だ。食欲大爆発な絶品をご馳走してやるぜ」

 

 お互いに腹を割って話し合い、スッキリして買い物に臨もうとした矢先のことだった。

 突如として街中に木霊した轟音と地鳴りを起こしながら崩壊する一棟のビルにその場にいた人々は騒然となった。

 

「いまのなんだ!? 爆弾かあ?」

「違う……見ろアレ、煙の中に何かいる!」

 

『ヒャッホウ! 最高だぜええええ! ファイア! ファイア ファイア! 全弾命中ゥ~合わせて160点ゲットだぜ!』

 

 瓦礫を戦車砲からの砲撃で吹き飛ばしながら堂々と姿を現したタンクメタローは目の前を走る自動車やトラックを無作為に狙って何の躊躇いもなく砲撃して見せた。

 砲弾が車体に炸裂して、轟音と炎、瓦礫や車の残骸があちこちに飛び散り、賑やかな街並みは一瞬で凄惨を極める地獄絵図と化してしまった。

 

「やっぱり、メタローじゃねえか!」

「虫だけじゃなくて、戦車って兵器の姿も真似できるのか……にしても、イカれてる」

 

 数分前までは多くの人たちの笑い声や歓声に溢れていた街は悲鳴とクラクションや言葉にならない叫び声が飛び交う修羅場になっていた。

 そんな惨たらしい光景を喜劇でも見物するように尚も砲弾をあちこちに撃ち込みながらタンクメタローは自らが考案した悪趣味なゲームを愉しんでいた。

 

『ヒィイイイッハアアアアアァ! この破壊力! この火力ゥ! 戦車最高だぜ! カスな軽自動車共なんて片っ端からスクラップにすりゃあ、戦車が自家用車の主流になるんじゃね? いいなそれ、やってみよう。パンツァー・フォォォオオオオオ!』

 

「あのバカタレ、いますぐぶっ潰してやら! ハルカ、ちょっと行ってくる」

「分かった。フォローは任せろ! いいか、分が悪いと思ったら無理せず退くのも手だ。あいつがどれだけ暴れようと最後にお前が勝てればチャラだ」

 

 額に青筋を浮かべながら指輪からビッグストライダーとベルトを召喚したムゲンは既に臨戦態勢だった。

 そんなムゲンにハルカは彼の身命に重きを置くように念を押す。

 薄情なようにも思えるが、デュオルがメタローを倒せば、その被害や犠牲は無かったこととしてリセットされる。それがクー曰く本来、超常の力とは無縁なこの世界の修正力なのだ。

 

「それなぁ……後味的な意味であんま良い気分はしないんだけどな」

「気持ちは分かるけど、そこは割り切れ。こっちばかりは結果が全てだ。気をつけてな、ムゲン」

 

 ハルカの言う事に対して、ムゲンは理解はするが受け入れ難い心情を隠さずに表に見せた。当たり前の真っ当な人間のとしての感情。それはハルカも同じだ――けれど、こればかりは譲れないと意を込めてハルカは戦いに臨む親友に言葉短くエールを送る。

 そう、ハルカには確証があった。デュオルが勝利すればハッピーエンドは継続される。変わり映えのない日常は何も変わらず更新されて明日に繋がる。

 カナタやムゲンにも内緒で密かに事件が起きるたびに犠牲者や被害者の有無を事細かに裏付け調査を行ってきたハルカだからこそ、言い切れる確定事項だった。

 

 

「応ッ! やってやらあな!」

「北の方に廃車置き場がある! そこなら人気も少ないはずだ!」

「サンキューな、ハルカ!」

 

 個人的には結果をこそ重んじながらもムゲンの意を汲んで戦い易い場所を算出してくれたハルカの気遣いに感謝しながらムゲンは二枚のメモリアを展開したデュオルドライバーのスロットに装填する。

 

【1号!×クウガ! ユニゾンアップ!】

 

「変身――!!」

 

【マイティアーツ! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 力強く構えてデュオルへと変身したムゲンはビッグストライダーで駆け出すと、戦車砲を次の目標へと狙いを定めているタンクメタローへ真正面から突撃した。

 

『そこの戦車男! 場外乱闘にしちゃやり過ぎだぜ!』

『あ? なんだよ、テメエは? 良いところなんだから邪魔すんじゃねえぞコラァ!』

 

フロントカウルと双角でタンクメタローを捕らえたまま、少し離れた廃車置き場へと猛然と突き進み始めた。

 

『悪いな、お前らの邪魔するのが仕事なんだよ! ちょっと面貸しな!』

『上等だよ、二輪野郎! 戦車が最強ってことをご教授してやるぜ!』

 

 大型バイクのビッグストライダーの突進にもさほど怯まないタンクメタローにそれなりに上達した腕を以って、Dブレイカーの弾丸を浴びせながらデュオルは一気に街中から離れていった。

 

 

 

 

 

 その場に残ったハルカは炎の匂いが漂う惨劇の後で善意から被害に遭った人たちの救助作業を行う人々に混じって出来る限りの事後処理に努めた。

 けれど、モスキートメタローの時と違い、尋常ではない力を誇るタンクメタローの戦車砲で滅茶苦茶にされたこの場では一人の少年の力はあまりにも無力だった。

 

「大丈夫ですか! もうすぐ救急車が来ますから、しっかりして下さい!」

 

 熱く焼けたような温度を保つ瓦礫を撤去することなど到底できない。

 泉のように傷口から流血する怪我人の治療などは論外だ。

 それでもデュオルとして戦うムゲンを支えると誓った友としての矜持だけでハルカは怪我人を誘導したり、救急隊員を先導したりと無力さを痛感しならも出来ることをやり続けた。

 

「だ……誰か」

「もう大丈――っぅ、ひどい」

 

 微かな助けを求める声を聞きつけて、廃車の影に隠れた瓦礫の山に埋もれた女性を見つけたハルカは女性の意識が途切れない様に大声を張り続けながら駆け寄った。

 けれど、彼女と彼女が身を呈して守った娘と思わしき小さな子供を浸す水溜りのような出血に思わず息を詰まらせてそう漏らした。

 

 

「お願い、します……この娘を安全なところに」

「は、はい! ハイ! 必ず、必ず! だから、貴女も頑張って、諦めないで!」

 

 直接の目視は出来なかったがハルカの見立てでは恐らく女性の下半身の殆どが瓦礫で潰されているのが見て取れた。夥しい量の出血と足の骨など粉々に砕けている気が狂いそうな痛みに襲われているにも関わらず、女性は泣き言一つこぼさずに娘の無事をハルカに託した。

 濃い血の臭いと女性の惨たらしい状態に胃の奥からこみ上げてきそうなものを必死に我慢しながら奇跡的にわずかな擦り傷を負っただけで気絶している女の子を預かったハルカは張り裂けそうなくらいの声を上げて救助の手を求めた。

 

「誰か! 手を貸して下さい! お願いします、ここにも人がいます! お願いします!」

 

「うぅ……おかあさん?」

「見るな! じゃ、ない……大丈夫、君のお母さんちょっと足を怪我しちゃったんだ。お兄ちゃん達が手当てするから、少しの間待っててもらえるかな?」

「おにいちゃん、お医者さんなの? おかあさん、痛くしちゃいやだよ」

「……うん。頑張ってみるよ」

 

 激しい動悸が止まらない。

 首筋や手首などで血管が脈打つ感覚が分かってしまうほどの心臓の鼓動に耐えながら無理やりに平静を装う。目を覚ました女の子を駆けつけた救急車の元まで送り届けるとハルカは短く荒い呼吸を繰り返しながら今一度、タンクメタローが滅茶苦茶にした平和だったはずの街を見渡した。

 

「何が敵を倒せば全部チャラだよ……ふざけんな! 馬鹿じゃねえのオレ!」

 

 痛いほど両手を握りしめて、ハルカは数分前の自分へと怒りをぶつけた。

 何も出来ない無力さと情の欠片もない機械のような考え方をしていた自分に心の底から腹が立って仕方がなかった。確かに彼は、天風ハルカは姉共々に他人には興味は無い。だからといって、罪のない人が傷つく姿に、苦しむ姿に、何も感じないような冷血漢では決してない。

 

「結果が全てなわけねえだろ、こんなん見せられて! あの子に安っぽい言葉しか送なかったクセに何様なんだよ、大馬鹿野郎! クソ! クソォ……!」

 

  むしろ、逆だ。本人は自覚がないのかもしれないし、認めないのかもしれないがハルカは目の前で起きる理不尽に対して他人だからと傍観者に徹するような立ち振舞いはできないようなタイプの人間だった。

 怪我や病気のような直接的な物にしても、別れや不条理と言った感情的な物に至るまで痛みや苦しみに注意深く敏感で、だからこそ他者に対しても様々な理由付けを行ってはさり気なく手を貸せる少年だった。

 

「すみません! オレにも手伝わせて下さい!」

 

 女の子の母親の救助はまだ難航しているようだった。

 それを確認するや否や、ハルカの両脚は動き出していた。

 

「よし。そっちを押してくれ! 瓦礫に巻き込まれない様に気をつけて! せーのでいくぞ!」

「せーのおおお!」

 

 同じように集まってきた人たちと協力し合ってハルカは懸命に瓦礫を押し続ける。

 全て、リセットされる無為で無意味な徒労でも、自分と言う人間に良心があり、血が通っている限り、見過ごすことなんて出来るはずがなかった。

 

「やったぞ! まだ息がある! 担架持って来て! 止血とバイタルチェックの準備急げ!」

 

 やっとの思いで瓦礫を取り払えたとき、女性はまだ生きていてくれた。

 デュオルが勝ってくれれば、全てが救われる結果が待っている。

 けれども、ハルカには彼女を見殺しにしないでいられたことが本当に嬉しかった。

 

 慌ただしく搬送されていく女性を見届けながら、ふと視線を足元へ移すとハルカは細かい瓦礫の間に挟まった見覚えのあるカードを見つけた。

 

「ハァ……ハァ……これ、まさか?」

 

 無我夢中で瓦礫を取り払いカードを拾い上げたそこには確かに既にデュオルが所持しているライダーメモリアと似た新たな仮面の戦士の勇姿が写されていた。

 

「やっぱり、そうだ。ムゲン、そうだな……結果は大事だぞ。でも、全てじゃなさそうだ」

 

 結果よりも尊い過程がある。

 無数にある正しさの中の一つを噛みしめながら、ハルカは友が戦う廃車置き場の方角を睨んだ。

 

「いかなきゃ!」

 

 そして、疲労が残る体に鞭を打ってハルカは走り出した。

 友の勝利を確かな物へとするために、名前も知らない他人たちの平和な日々を取り返すために。

 

 手に入れた新たなるライダーメモリア。

 そこに写されし戦士は八番目の男。

 拳に正義を、心に大空を――彼こそは、はるかなる愛のために戦った男。

 

 

 

 

 

 

 一方、ハルカが教えた廃車置き場までタンクメタローを連れてきたデュオルだったが戦況は雲行きが怪しかった。

 

『オラオラ! 蜂の巣なんてケチなことは言わねえよ、挽肉にしてやるから覚悟せいや!』

『誕生日のクラッカーみてえに景気良く撃ちやがって、その装填速度は可笑しいだろ!』

 

 威力もそうだが、乗り物としての戦車のそれを遥かに上回る連射性能を誇るタンクメタローの砲撃の猛威にデュオルは圧倒されて、爆発による熱と衝撃に翻弄されながら直撃を避けるの手一杯だった。

 

『コソコソと隠れやがって……ハン! なら、俺の方から会いに行ってやるよ』

『なッ!? 足がキャタピラみてえになりやがった!? どわああああっ!?』

 

 廃車の物陰に隠れながらDブレイカーでなんとか反撃を試みるデュオルに痺れを切らせたタンクメタローは脚部を二足歩行から無限軌道に変形させると山のように積まれた廃車をまるで雑草でも踏み潰すかのように進軍を開始する。

 

『キャタピラじゃねえ! 履帯じゃあこのド素人がああ!』

『知るかよ、戦車オタク! テメエみたいに素人に塩対応だから、戦車なんてドマイナーで不人気な乗り物なんだよ!』

 

 デュオルの知識不足の驚きのコメントを細かく嫌らしく指摘しながら、タンクメタローは難攻不落の移動砲台と化して、戦車砲の乱れ撃ちで追い詰めていく。

 そんなタンクメタローの態度にも腹が立ちデュオルは大慌てで跳び回りながら更に煽るように悪態を飛ばす。

 

 

『オイオイオイ……決めたぞ、お前仕留めたら1000点だ。ぶっ殺るぉおおおおす!!』

『ぐぅおぁあああああ!? この、舐めんなよ!』

『ウサギかこの野郎!』

 

 誘いに乗ったタンクメタローは怒りに任せて狙いもつけずに砲弾を撃ちまくる。その嵐のような砲火に押されながらも、狙い通りに付け入る隙が出来たデュオルは一か八かの攻勢に打って出た。

 マイティアーツの自在跳躍を活かして、爆風で周囲に飛散した小石程度の瓦礫を足場に八艘飛びよろしく、俊敏な高速移動で敵の攻撃を掻い潜ってその懐へと飛び込んだ。

 

『どっちかって言うと、バッタだよ! オリャアアア!』

『ガァ!? こ、この……ぶへあ!?』

 

 飛び降りながらの踵落としてタンクメタローの砲撃姿勢を崩すと、間を置かずに硬い身体に機関銃のような勢いの連続パンチを叩き込む。

 

『この間合いは俺のもんだ!』

『ぐっ……ヘヘ! そうでも、ねえぞ?』

 

 さらに大きなスコープのようなタンクメタローの頭部にエルボーを打ち込み続ける。デュオルの猛攻に苦痛のうめきを漏らすタンクメタローだが不敵にそんな意味ありげな言葉を囁いた。

 デュオルがそれに気付いて警戒するが時はすでに遅く、二人の足元にカランコロンと冷たい金属の何かが落ちる音が聞こえ、次の瞬間には手榴弾の爆発がデュオルを飲み込んだ。

 

 

『ガァアアアア!? 熱ッ……ぐぉおお、あああ――爆弾まで持ってやがった』

『ギャッハッハッハ! 文字通り、虫の息かよバッタ野郎! 俺の方はァピンピンしてるぜえ? 戦車は最強だからな!』

 

 全身を黒焦げにしながらデュオルは爆風に吹き飛ばされて、力なく地面を転がった。

 一撃で大ダメージを負い、傷んだマリオネットのようなぎこちない動きでどうにか立ち上がったデュオルを炎の中から現れたタンクメタローが嘲笑う。

 

『馬鹿みたいに硬い装甲してやがる……くっ、手応えあった筈なのに全然ダメージ通ってないぞアレ』

 

 自らの強固な装甲に絶対の自信を持つからこそ、敢行できる自爆攻撃で優位に立ったタンクメタロー。さらにデュオルは気付く余地も無かったがニューが埋め込んだライダーメモリアで能力を底上げされていたタンクメタローはメモリアから得たさらなる力でデュオルを苦しめる。

 

『出血大サービスでよ、もう一つすげえの見せてやるよ! 火ャッハアアアァ!

『紫の……炎? おわあっ!?』

 

 右腕の戦車砲から噴き出した激しい紫炎が廃車の包み込むと瞬く間に焼き尽くした。

 それは紛れもなく鬼幻術・鬼火と呼ばれる仮面ライダー響鬼の技であった。

 

 

『何か知らんが変なあんちゃんに変なカードぶっ込まれたら最高なのが超最高って感じだぜ!!』

『まさか、メモリア……おいおい、メタローまで強化するなんて聞いてないぞ』

 

 デュオルの力の源であるはずのライダーメモリアがまさか魔人教団の手に渡り、あまつさえメタローを強化していた事実に驚きを隠せないムゲンは仮面の奥で顔を歪めた。

 

『さ・て・と! もっと楽しめるかと思ったが大したこと無かったなバッタ野郎? あ、そうだ。ぶっ殺す前に聞いといてやるわ、爆死と焼死どっちが良いよ?』

『そういうのはぶっ殺した後に言うもんだぜ? ぐお――!?』

『俺も知ってるぜ、映画とかのお約束だもんだ。だから、これで予防だ』

 

 空元気の軽口を叩いてみたデュオルの胸元に熱を帯びたタンクメタローの砲身が強く突きつけられる。

 絶体絶命、砲弾を撃ち込まれるにしろ、火炎で焼かれるにしろ一撃を食らえばタタでは済まない。

 

『あん?』

 

 文句のない勝利にタンクメタローが勝ち誇りかけたその時、遠くから近づくエンジン音が二人の耳にも届いた。

 

「うおおおおおおおおお! ムゲンからどけぇええええええ!」

『ぐおわ――こ、この俺が単車に撥ね飛ばされるだとォ!?』

 

 廃車置き場の外壁を突き破り、ハルカが駆るビッグストライダーが突如として戦場に乱入してきたのだ。

 雄叫びを上げるハルカが操るビッグストライダーの双角が不意を突いてタンクメタローを後方へと吹っ飛ばす。

 

『ハルカ!? 助かったけど、今回はマジでここから離れろ! 流れ弾でミンチになるぞ!』

「ミンチになんかになっていられない。これをお前に届けて、あの戦車野郎が鉄クズになるのを見届けるまではな」

 

 かなり無謀な自らの行動に冷や汗を浮かべながらハルカはデュオルに手に入れたライダーメモリアを手渡した。 廃車置き場に偶然ビッグストライダーが乗り捨ててあったから良かったものの、今日のハルカなら恐らく、生身でも突入していただろう。それぐらい、ハルカの打倒タンクメタローの願いは固かったのだ。 

 

『日に二枚も見つかるとはな……ところでハルカ、なんかあった? 面構えがなんか違う気するぞ?』

「今日は厄日だからな、理屈とか捨てて馬鹿やってみたくなっただけだよ」

『そうかい。ま、そういう日もあるわな』

「だろ? それよりムゲン、これで別の組み合わせが揃った。早速使ってみろよ? そして、勝ってくれ」

 

 死と隣り合わせの戦いの場に突っ込んだことへの恐怖を抱えながらも、どこか吹っ切れたような澄んだ笑顔を見せるハルカの姿に奮い立ったデュオルは託されたライダーメモリアを持つ手に力を入れ直して、立ち上がる。

 

 

『ああ、任された!』

 

 両サイドのグリップを引いて、ドライバーのギミックを展開すると既に装填されたライダーメモリアを抜き取り、新たな組み合わせの二枚へと交換する。

 

【スカイ!×ゴースト! ユニゾンアップ!】

 

 電子音声が勇壮に二大戦士の名を叫び、二基の風車がゆっくりと回転を始め、淡い光を放ち始めていく。

  

「ネクスト・ライド――!!」

 

【エリアルファンタズマ! GO! GO! LET’S GO!!】

 

 電子音声が高らかに鳴り響き、新たなる力の名を告げるとデュオルの周囲に無数の橙色に輝く目玉を象った不可思議な紋様が浮かび上がる。そして、後を追うように黄緑色の旋風が巻き起こる。

 旋風が竜巻のようにデュオルを包むと、ゆらゆらと浮かぶ紋様が風に流れてデュオルの体に重なってその姿形を変化させていく。

 

『ハアッ!』

 

 両腕を大きく振り、デュオルが陰陽師の印結びのような動きで構えると黄緑色の旋風が弾けて、第二のユニゾンアップフォームの姿が露わになった。

 胸部装甲に刻まれた目を象った紋様、ブレストクレストやアンテナの代わりに額から伸びる湾曲したブレードアンテナなどゴースト・オレ魂の姿を踏襲しながらも、全身の体色は鮮やかなライトグリーン。

 そして黒いパーカーの裾は真紅のファイヤーパターンで染め上げられている。

 これがスカイライダーと仮面ライダーゴーストの姿と力を受け継いだエリアルファンタズマの全貌である。 

 

「デュオル……頼んだぜ、ムゲン!」

『ッしゃあ! いくぞ、デュオル! ゴング鳴らせェ!!』

 

 命を燃やしていくような闘志を放ち、デュオル・エリアルファンタズマは俊敏な動作で難攻不落のタンクメタローに挑む。ハルカにとっては初めて目の当たりにするデュオルとして戦うムゲンの姿。そんな凄絶な光景を友として固唾を飲みつつも、決して目を逸らさずに見届けようとする。 

 

『姿が変わったぐらいで調子乗んなや! 食らえや、ファイア!』

『ああ、解るぞ。こいつの力、やってやるさ! セイリィィィング・ジャンプ!!』

 

 姿に変わったデュオルに臆することなく、自慢の戦車砲を発射するタンクメタロー。相対するデュオルはすかさず、眼前で交差した両手を勢い良く振り下ろして大地を蹴った。

 瞬間、エリアルファンタズマのパーカーの裾がロングコートのように延伸。デュオルの体は重力を無視して、浮遊した。

 

『飛んだぁ!? だが、外さなきゃいい話だろうがよ!』 

『お前と一緒でよ! こいつは一味違うみたいだぜええ!』

 

 初弾を回避したデュオルに驚愕しながら、取り乱すことなくタンクメタローは照準を合わせて次弾を放った。だが、胸の紋様が淡い光を放つとデュオルの肉体は薄っすらと透明になると、幽霊のように砲弾がすり抜けていった。

 

『透けたぁ! ごふううあ!?』

『景気よく大砲をぶっ放してくれたお礼だ。反撃開始とさせてもらうぜ!』

 

 物理攻撃を無力化する出鱈目なデュオルの能力には流石に驚きを隠せず、狼狽えるタンクメタローに風を切るようなハイキックが炸裂する。

 更にタンクメタローが反撃しようと手足を動かそうとする度に先手を取ったデュオルの足刀蹴りが次々に拳銃の早撃ちのような速度と精度で繰り出されて、鋭い衝撃で迷彩柄の異形を打ち抜いていく。

 

 自由に空を飛び、幽霊のようにあらゆる物体を透過して変幻自在の戦法で敵を翻弄する。

 これこそが天翔ける幻霊、エリアルファンタズマの真骨頂だった。

 

 

『クソッ! だがな、そんな弱っちい攻撃じゃ何発食らっても意味ねえんだよ!』

 

 しかし、タンクメタローは首を摩りながら殺気立った猛獣のように叫んで無理やりに右腕を構えた。

 確かに相手の主張するようにエリアルファンタズマはマイティアーツと比較して速さに勝る代わりに力で劣っていた。

 依然として決定打に欠けるデュオルに自分が負ける要素はないと優位を信じて疑わないタンクメタローは至近距離で砲弾を撃ち出した。しかし、砲口から火を噴いて発射された砲弾はあろうことか、タンクメタロー自身の顔面に直撃した。

 

 

『ぶがああああっ!? お、俺は……何をされたんだ?』

 

 タンクメタローはまだ気付いていなかった。

 自分が狙いを定めて砲弾を撃つその僅かな一瞬にデュオルが詠春拳にも似た目にも映らない技巧でタンクメタローの右腕の狙いを大きく逸らしていたことを。

 

『来いよ……種明かしをしてやるぜ?』

『このッ! ふざけんな!』

 

 

 

 顔面を黒く煤けさせながら状況が呑み込めないタンクメタローをデュエルは不敵な調子で挑発した。

 感情的になって滅茶苦茶に戦車砲を棍棒のように振り回すタンクメタローの動きを素早く合理的な身のこなしで全て防ぎ切ると同時に確実に反撃へと繋いでいく。

 

 一撃一撃は軽いものかもしれないが途切れることなく、尚且つ的確に装甲の薄い関節部や四肢の繋ぎ目に叩き込まれるデュオルの拳が着実にタンクメタローを疲弊させていく。

 

『確かに今度のデュオルは力は弱いらしい。けど、それがどうした?』

 

 足元がよろめき始めたタンクメタローに戦意の火を尚も激しく猛らせながら、デュオルはDブレイカーをスピアモードに変形させて両手持ちで構えた。

 その曇りのない刀身にタンクメタローの姿を映しながら、デュオルは飛翔と共に自らの体を独楽のように回転させた。

 

『足りない力を補う方法は、幾らでもある!』

『ぐがあああああああ!?』

『ハアアアアア! ダリャアア!!』

 

 デュオルが回転浮遊しながらタンクメタローの周囲を旋回すれば、Dブレイカーの刃がその強固な装甲を物ともせずにズタズタに切り裂いていく。

 畳み掛けるように間合いを測って着地したデュオルはDブレイカーの石突きを片手で握り直すと、そのまま力任せに大振りで円を描いて振り回す。刃渡りの長いブレードが遠心力で力を増しながら一太刀、二太刀と重く強い斬撃を浴びせていく。 

 

『やめろ……俺のボディに傷を付けるんじゃねええええ!』 

『舐めてんのかテメエ! 何を手前勝手なことを言ってやがる!』 

 

 自らの暴虐を棚に上げて、身勝手極まりのない戯言を吐くタンクメタローに怒りを爆発させたデュオルは渾身の前蹴りをその腹部に叩き込むとDブレイカーを高く掲げて飛び上がる。

 そして、迷いのない白刃でタンクメタロー自慢の右腕の戦車砲を根元から斬り落とした。

 

『ひいいぎいいいいい! お、俺の……大砲がああああああ!?』

 

 戦車の華である砲身を失ったことが余程の絶望だったタンクメタローは人目も憚らずにジタバタと地面をのたうち回って嘆きの絶叫を上げる。

 

「いまだ……やっちまえ、ムゲン!」

『応ともッ!』

 

【FULL SPURT! READY!!】

 

 必勝の機を垣間見たハルカの叫びに呼応してデュオルはライトトリガーの撃鉄を起こして引き金を引いた。

 中央の風車が逆巻いて、デュオルの体に最大出力の力が迸る。

 

『オオメダマ! トオオッ!!』

 

 そう叫ぶデュオルの前方には光り輝く巨大な目玉のようなエネルギーの球体が形成されていく。

 デュオルはオオメダマと名付けたエネルギー球をタンクメタローに向けて思いっきり蹴り飛ばした。

 

『うおっ!? あひ? ど、どこ狙ってやがぁあああああ!?』

 

 異様なプレッシャーを放ちながらタンクメタローに迫るオオメダマだったがデュオルのコンロトールが悪かったのか大きく狙いが逸れて遥か大空の果てへと飛んで行ってしまった。

 肩透かしな攻撃をタンクメタローは馬鹿にするが、その瞬間にその体は後ろからの強い衝撃に押し出されて地上から引き剥がされてしまう。

 それはオオメダマにタンクメタローが気を取られた一瞬の隙に地面を透過して背後に回り込んだデュオルの仕業だった。デュオルはタンクメタローをアルゼンチンバックブリーカーの態勢で捕らえたまま、セイリングジャンプを発動して一気に青き大空へと飛び立った。

 

 

『良かったな戦車野郎! 戦車のくせに空飛ぶなんてお前ぐらいのもんだぜ!』

『ぐおおおおおおお!?』

 

 パーカーの真紅のファイヤーパターンを風に躍らせながら、超スピードで急上昇するデュオル。その凄まじい速度により発生する風圧と衝撃でタンクメタローはまともに抵抗すること出来ずに雲の上まで連れていかれる。 

 

 

『ここらで良いか! フィニッシュ・ホールドといこうじゃねえか!』

『な、なにをする気だ……ぁぐう!?』

 

 水平線が見えてしまいそうな大空でデュオルは滑らかな身のこなしで体位を組み替える。

 タンクメタローの左手首と右足首をそれぞれ片手でガッチリと掴んでホールドすると全身全霊の力で腰の部分を蹴りつける。

 

『参式! オメガドロオオオォォォ――プ!!』

 

 まるで矢を番えて、強く弦を引き絞った弓のような体勢でタンクメタローの体をロックしたデュオルは地上を目掛けてミサイルのような勢いで一気に急降下を決めた。余りも凄まじい電光石火のスピードにデュオルがタンクメタローの体をホールドする接地面の三点は空気摩擦により晴天に瞬く三ツ星の流星のように赤い輝きを放つ程である。

 

『ガッ……アアァ―――――!?』

 

 全身に襲い掛かる強烈なGの前にタンクメタローはバラバラになりそうな激痛に苛まれているにも関わらず悲鳴すらも上げる余裕が無かった。だが、ギリギリで目に映る視界に飛び込んできた光景に絶句する。デュオルには前もって用意していたとっておきの仕掛けがあったのだ。

 

『あれはさっきの……まさか、嫌だ! う、嘘だあああ!』

 

先程、デュオルが大きく狙いを外したと思われたオオメダマはデュオルの後を追うように大空をどこまでも上昇を続けていたのだ。そして、いままさにデュオルとタンクメタローの落下線上に重なっていた。

デュオルの本当の狙いと自分に待ち受ける運命を悟り、タンクメタローはみっともなく泣き喚いた。

 

『終わりだ!』

『ギャァ……ゥアアアアアアアアアアア!?』

 

デュオルにホールドされたまま、一切の減速もなく隕石の如く巨大なエネルギーの塊であるオオメダマに真正面から激突したタンクメタローは空き缶のようにペシャンコに圧し潰されると上空で大爆発を起こして、ここに破れ去った。

 

 

『ただいま! こいつで一件落着だ』

「お疲れ。ありがとな、ムゲン。よく勝ってくれたよ」

 

 世界を修正する風の中で気を失った車田を雑に掴んだまま大空から帰還したデュオルにハルカは感慨深く、改まって礼を言った。そんなハルカの様子に何かあったことは察しながら、デュオルは仮面の奥で口元を緩めると誇らしげに言う。

 

『余裕だぜ。なんせ頼もしい味方に恵まれてるからな、俺』

「そいつは良かった」

 

 そんなデュオルの言葉にハルカは思わずはにかみながら、少しだけ誇らしげに胸を張る。

 そして、お互いの健闘を称え合うように静かに拳と拳を突き合わせて掴み取った勝利に喜んだ。

 

 

 

 

 

「せっかくの休日だっていうのに大変だったね二人とも」

「まあ、バタバタしたけど二枚も新しいメモリア手に入ったし、結果オーライだろ?」

 

 戦い終わった帰り道。

 騒ぎをネットニュースで知って駆け付けたカナタも合流して、三人はカフェ・メリッサへと続く道を歩いていた。街並みはすっかり元通りに修正されていて、変わらない平和な光景がハルカにはいつも以上に価値あるものように映って見えた。

 

「それにしても、ここまできれいさっぱり戻るのってありがたいけど、ちょっとだけ空しいね」

「なんで?」

「だって、誰もムゲンが体張って頑張てるんだってこと知らないんだよ? 友達としてはそりゃあ複雑だよ。私たちのムゲンはこんなにすごいんだぞってさ」

「あー……まあ、変に騒がれたり、身バレする心配ないから十分なんだぞ」

 

 そんな風に自分たちだけ記憶している語られぬ戦いとムゲンの功労について、カナタは少しだけ釈然としない様子だった。かつてのハルカならムゲンの意思は置いておくとしても、きっとカナタ以上にその意見に同意したのかもしれない。

 

「いいじゃん。オレたちが覚えてるだけで充分さ。それに何も変わらないを守るんだ……見返りとかを求めるのはナンセンスだよ」

 

 そう言って、彼らしく合理的に、ちょっとだけ青臭い感情を詰め込んだ言葉を二人に聞かせるとハルカは爽やかに笑った。視線の先には偶然にも見つけたあの母娘の姿があった。

 もうただの他人--自分が忌避する誰でもない赤の他人の母娘の幸せそうな姿を優しい眼差しで一瞥すると二人に聞かれないように一人小さく呟いた。

 

「全く……ホント、ひどい厄日だったよ」

 

 

 

 

 

 

「クーさん、たっだいまあ! 見てくれよ、メモリア二枚も手に入ったぜ!」

 

 意気揚々とカフェ・メリッサへと帰ってきたムゲンたちはスカイライダーと仮面ライダー響鬼のメモリアをひらひらとチラつかせて店の中へと入っていった。

 

「おかえりなさい、お二人ともー……あ、カナタさんもどうも。で、カレー粉は買えましたか?」

 

「「あ……」」 

「カレー粉? なにそれ?」

 

 だが、三人を出迎えたのは夕暮れまでずっとムゲンの言いつけ通りに作りかけのキャンプカレーを守護して何も食べていないクーだった。心なしか、いつも陽気で爛漫とした顔はやつれて血の気が引いている。そして、ムゲンとハルカは何のために街に出たのかを完全に忘れていたことに気付いて、青ざめた顔で固まった。

 

「ムゲン……どうする?」

「……いくぞ」

 

 忘れていたなんて決して言えない空気に冷や汗を流してハルカが尋ねるとムゲンは腹を括ったような低い声で呟くとデュオルドライバーを装着した。

 

【スカイ!×ゴースト! ユニゾンアップ!】

 

「変し――」

「「それはダメッ!!」」

 

 あろうことか、デュオル・エリアルファンタズマに変身してカレー粉を買いに行くという暴挙に出たムゲンをカナタとハルカの二人が全力で阻止する。

 変身完了を待たずにジャンプしていたムゲンの両足を二人が掴んだことで、ムゲンはノーガードで顔面から地面に激突する。

 

「ぶうぅへえええ!?」

「いくら何でもやっていいこと悪いことがあるでしょ!」

「すまん、ムゲン。今回はオレも同罪だ」

「あの……カレーは?」

 

 二人の取り乱しっぷりに全てを察したクーは燃え尽きたようにその場に立ち尽くして、うわ言のようにカレーと呟き続ける有様だ。

 

「頼む、行かせてくれ! アイス買ってきてやるから!」

「ダメです!」

「あの……何でもいいから私に美味しいもの下さいなあああああ!」

 

 四人揃っただけでこんなにも騒がしくなるこの少しだけ変化を見せた日常を受け入れて、ハルカはやれやれと笑うと三人を尻目に店にカレールーのストックがないのか一人探しに倉庫へと向かった。

 

 

 この続きはまたいずれ。

 此度はここまでと致しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 




一応言いますと作者は戦車のことドマイナーな乗り物とは思ってませんからね
むしろ、ガルパンとか大好きですし

ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!
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