オーディンからデッキをもらった翌日。当然俺は学生だから学校に行かなくてはいけない。あいつらにまたいじめられるんだろうけどもう少しの辛抱なんだ。ギガゼールが食料を必要とし始めたら行動を開始すればいい、そうすれば樋口たちを殺すことができる。喰ったギガゼールも強くなることができるからなんの問題もない、数日は今まで通りに耐えていればいい。
俺はポケットにデッキを入れ、家を出て学校に向かう。今俺は父親との二人暮らしなんだが滅多に帰ってこないから実質一人
暮らし。家から学校までの距離は徒歩十分、その通学路では会いたい奴と決して会いたい奴がいる。
会いたくない奴は樋口と俺をいじめていたその仲間、クラスメイトだ。できればあいつらとの接触は避けたいしクラスメイトなんかと会っても話す事もないし向こうも関わりたくないだろ。それで会いたい奴はというと……。
「おはよう荒峰くん!今日もいい天気だね!」
「ああ、おはよう。工藤さん」
今俺に話しかけてきた女子、工藤千尋がそうだ。茶毛の混じった黒髪を後ろで髪留めでしばってる。なんかいつもこういった風に元気で俺を見かけると決まって話しかけてくる。この人は俺とは違うクラスで家の方向も違う筈なんだけど毎日朝の通学路で鉢合わせする。工藤さんは俺がいじめられていることを知らない。だって俺がいじめられているのを知っているのは同じクラスの奴らだけなんだから。
「今日は機嫌良さそうだね?荒峰くん」
「まあね、ちょっとイイ事があったのさ」
「ふ~ん。カノジョができたとか?」
「違う違う。大体俺なんかを好きになるやつなんかいないって」
クラスメイトからは関わりを持たないように無視され、いじめられ、他の学年の奴らも気づかない。教師の前だといい子ぶってるから教師たちも俺たちがじゃれあってる程度にしか思ってない。部活の時間にも拉致されるから参加なんてできず評判も落ちるばかり、でもそんな俺にも構ってくれるのが工藤さん。彼女と話すこの時間が俺の唯一の至福だ、だけどそれは通学路でしか過ごせない夢の空間。学校につけば終わってしまう。
「じゃあ工藤さん。俺クラスこっちだから」
「あ、うん。今日の昼休み一緒に「荒峰クーンおはよー!」」
工藤さんが何か言い終わる前にそれを遮って俺の肩に腕を回してくる。樋口と一緒に俺をいじめる奴の一人、そいつはメンバーの中で一番早く学校に来ていつも俺らの話を邪魔してくる。
「あっ、工藤さんもおはよー」
「おはよう。ねえ荒峰く「さあ荒峰クン!俺昨日出た物理の宿題やってないから答えみせてくんない?そうと決まれば早く教室に行こう!」」
「工藤さんゴメン。またね」
首を肘で締めながら俺を無理矢理引っ張っていくこいつは本当に何がしたいんだ。大体昨日は宿題なんてでていない。はぁ……あと数日の辛抱か。
「……チッ」
後ろから聞こえた舌打ちを耳にしながら、俺は教室に入っていった。
◇
「ほら荒峰、パン奢ってやるよ」
「うぐっ、……ぺっ」
俺の口に無理矢理パンを突っ込んできたいつもの面々。ただそのパンが昼休みに購買で買った後に踏みつけまくった物じゃなかったらよかったのに、汚いパンをゴミ箱の中へと吐き出す。その体制になった途端に俺の背中に靴で蹴られた痛みが入った。俺はゴミ箱ごと倒れ、遠くには決して聞こえないような笑いを見せつけてくる樋口たちを見て内心笑っていた。
____笑ってられるのも後ちょっとだ。
◇
それから五日後の六時頃。そろそろギガゼールが腹を空かしている頃の筈だと思い俺は復讐を決行することにした。樋口たちの家の場所はわかっている、近くにカーブミラーがあることもわかっているからもしものことがあってもそこから出られるから失敗することはない夜中にアドベントカードを使った全部試したからミスるわけがないんだ後はミラーワールドからそこへ向かってギガゼールに喰わせればいい。それだけの筈なのに、気が付くと俺の脚は震えている。
「クソッ、こんな時に……」
それから十分程してなんとか脚の震えを止めて樋口の家に向かうことにした。俺はドアの大鏡の前に立って右手でデッキをかざしVバックルを装着する。
「変身!」
デッキを左手に投げそのままVバックルに装着してインペラーに変身。そしてミラーワールドへと飛び込んだ。
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ミラーワールドに入り込んだ俺は家の上をジャンプするのを繰り返してすぐに樋口の家についた。あいつの部屋には窓ガラスが反射して入り込めるようになっていた。中を覗いてみると樋口の他に仲間が二人確認できた、どうやら64でマリオカートをしているようだった。
「一緒にいるなら好都合だ。まとめて殺してやる」
右膝を曲げてガゼルバイザーのカードスロットを展開させ、デッキから抜き取ったカードを装填する。
ADO VENT
ガゼルバイザーからエコーのかかった声が流れギガゼールを召喚して窓から写らない位置で指示を出す。ギガゼールはそれに頷き俺の後ろで待機した。
「あ、俺コーラ取ってくるわ」
「よろしくー。ついでに俺もトイレに行くか」
「じゃあ俺一人で走るからな」
樋口ともう一人が部屋から出ていった。これで部屋に残ったのは一人だけ、やるなら今しかない。
「行け」
ギガゼールがミラーワールドから飛び出しマリオカートをやっていた一人を拘束してミラーワールドに連れてこさせた。最初は抵抗したがギガゼールには敵わなかった様ですぐに大人しくなった。
「な、なんだよこの化け物!?」
ギガゼールに拘束されたまま取り乱しているが知ったこっちゃない。俺はそいつにゆっくりと歩み寄った。
「なあ、俺の事わかるか?」
「お、お前その声…荒峰か!?」
「ご名答だ。今日はお前を殺しに来た、早い話が復讐だ」
「俺が受けた一年間分の痛み、受け取れ」
「ひぃっ!」
そっから俺は、ギガゼールに拘束されている奴を殴った。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。何回も何回も殴った、そいつの体は血だらけでボロボロになってもう死んでいることがわかった。
「お前が俺を殴った回数にはまだまだ足りねえけど、お前が俺を殴った痛みは返したぜ。って聞いてないか、ギガゼール喰っていいぞ」
俺の言葉を待ってましたと言わんばかりにむしゃぶりつくギガゼール。ニチャクチャグチョギャシゴクッンと目を逸らしたくなるような音をBGMに、部屋に戻ってきた樋口たちを見る。
「あれ?あいつどこいったんだ?」
「マリカーやりっぱだし。まあそのうち戻ってくるだろ」
そういって特に気にもせずマリオカートを始める二人。バカな奴らだ、そいつがもう死んでるのにいなくなってもその反応か。所詮お前たちの友情なんてそんなもんだろ。
「……よし、ギガゼール次行くぞ。今度は同時にやる」
俺はギガゼールを手で呼び出し、ミラーワールドからでた。
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テレビに集中して後ろから迫る影にまったく気づかない樋口たち、後ろから伸びてきた手が二人をミラーワールドに引きずり込んだ。その時二人が見たのはレイヨウのような怪物の姿だ。
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ミラーワールドに樋口たちを引きずり込んだ俺はギガゼールと共に拘束したまま近くの廃工場へとジャンプし、二人を地面に放り投げた。
「がはっ!な、なんだてめえら!?」
「俺たちをど、どうするつもりだ化け物!」
樋口たちは腰をつきながら俺とギガゼールに向けて叫んだ。だけどそれだけ、脚は震えて腰はぬけてる。口だけの強がりなんだ。
「なあ、樋口。俺さあお前らに今まで散々やられてきたけどよ」
「もう終わりにするわ」
「ぐぎゃぎひがrgwアアアアアアー!!?」
「?!!」
俺の言葉を合図に、ギガゼールが一人を喰った。喰われる前にギガゼールの両腕についているガゼルカッターに切断され、目の前で下半身を喰われた口径を見て絶叫を上げた。そして痛みに苦しみながら上半身も喰われ、工場には大量の血と俺の歪んだ笑いがコダマしていた。
「……う、うわああああああああ!!?」
それを真横で見ていた樋口が悲鳴を上げながら工場を飛び出した。絶望した顔で抜けた腰で精一杯走っていった。それを俺は脚を曲げながら見ていた。
「おいおい逃げんなよ……。どうせすぐに捕まるんだからさ」
FINNAL VENT
俺の周りに大量のマガゼールギガゼールネガゼール等のレイヨウ型ミラーモンスターが集まってきた。
「さあ、鬼ごっこの始まりだぜ?」
◆
「はっ…はっ…はあっ、はあっ!」
青年は走る力のでない体を奮い立たせ、現実から目を背けるように振り向かずただただ走り続ける。靴も履いてない状態で夜の街を走った足はボロボロで道に落ちている石を踏みつけて血が出ていた。それでも青年は走った。死にたくないが故に生きることもできない全てが鏡に写したよに反対になっている街を。青年は何かにぶつかり倒れこんだ、目の前に大量に現れたギガゼールたちに恐怖して涙を流した。前後左右上どこを見ても見えるのはギガゼールたちばかりだった。
「鬼ごっこは終わりか?樋口」
後ろから同じような姿をした自分がいじめていた青年・荒峰光哉を見かけるとすがる思いで詰め寄った。
「た、助けてくれ荒峰!!俺が悪かったから!もうしませんから!助けてください!!」
顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていてもはや謝罪しかすることができない青年に対し、光哉は顔を青年と同じ高さまで下げた。
「樋口……」
「あ、荒峰!」
青年は助かったと思い安堵した。だが
「お前は俺がやめろって言ったとき、やめてくれたか?」
「え______」
ザシュッ!
青年の首が飛んだ。首からは大量の血が吹き出しそれに群がるようにギガゼールたちが跳んだ。
「……助かったとでも思ったか?樋口」
インペラーの黒のメイルが月の光に反射し光った、光哉が影に入ると光は消え、その場には何も残らなかった。
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