パンパンに詰まったゴミ袋と食べた後洗っていない食器が積み上げられている四畳半が俺の領域。使い古した煎餅布団に寝転がりながら、手垢だらけのSwitchを使いたった今、2397個目の卵を割って低個体値であることを確認して逃がしたところだ。
「こんだけ逃がしてたら大量発生でやばそうだなあ」
俺の名前は灰島 秀也。名前に"秀でる也"なんてあるが俺が人に秀でているの所なんて1つもない。小学校中学校を適当に過ごし、その結果ゆえ県でワーストワンの高校へ入学そこから指定校推薦で大学へ。最底辺の道を何の壁も無くズルズルと生きてきた俺は人生を舐め切っていた。まず、最初にぶつかった壁は就職活動。会社のことなんて適当に調べてまとめれば何とかなったが、つまづいたのは自己PRだ。俺という人間はなんなのか。俺の価値は何処にあるのか、
答えは、どこにもなかった。
何の努力もせず、才能もない。
俺という男は、努力している人間を"どうせ無理だ"と外側から笑っているだけだった。
しかし、このゴミみたいな俺を雇った会社がある。
そんなありがたーい会社は、世間一般でいうところのブラック会社というやつで、労働時間は始業9時の終業20時。給与は手取り14万。大学卒業したての新卒が貰うには十分だと最初は思うだろう。俺もそう思った。実情は始業の2時間前には社会人として到着すべき、と7時迄に到着し、給与外で働き、帰る時も社会人として定時に帰ることは許されないと社長直々の命令により帰宅する時間は23時を超えている。週休二日と書いてあったが呼び出しには絶対来なくてはいけないというルールにより月に休みは3回あれば良い方だ。
こんな生活していれば身体がボロボロになるのは当たり前で、ちゃんと鬱病になってしまいました、と。今では生活保護等の手当で生を繋いで、日がな一日ポケモンをやるというわけよ。
「にしても、腹減ったな。そろそろ飯……あれ?」
身体を起こす瞬間、傀儡師の居なくなった操り人形のように、すとんと力が抜けて倒れた。
「あ、これ……やばいやつ、だ……」
そういえば、飯食ったの何日前だっけ。
……死ぬなら、来世はポケモンの世界へ行きたい、なあ。
めのまえが
まっくら に なった!
■
「____さい」
ここは、天国か?
「__きなさい」
ふわふわしてて……いや、ふかふかの方が正しいか……?
何にせよ、ずっとここに居たい。
……このまま闇に溶けたい。
「起っきなさーい!!!」
「うわぁ!!!!!」
目の前がチカチカする程の大きい声に驚く、なんだ!? 誰だ!?
「えっていうか、俺死んでないのか?」
「何言ってるのグレイ! 寝惚けてないで顔を洗ってきなさい! ユウリとホップくんは先に行っちゃったわよ!」
ユウリ? ホップ? ……聞いたことがあるような。
「駄目だ、頭が回らん。あの人の言う通りとりあえず、顔を……」
「んがんぐぐ」
「ハイハイ、とりあえず後でな」
「んぐ!」
なんか身体動かしづらいというより、足が縮んだのか?
視点が低いような気がする。
ていうか洗面所ってどこだ? ……ああ、ここかって。
「ええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
鏡に映し出されていたのは、寝起き顔をした灰色の髪を持つ少年だった。
急いで洗面所を出て、さっきまで自分が寝ていた部屋に戻るとゴンベが居た。
「ええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
リビングに戻るとポケットモンスター ソードの主人公の母親が居た。
「ええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「朝からうるさいっ!」
「いてっ」
チョップされた頭の痛みが今見ている光景が現実であることの証明だった。
■
主人公の部屋に戻って現状を整理する。
主人公の部屋って言っても、どうやら俺との共同であるようだ。勉強机も二つあり、ベッドも二段で見た目的に俺が多分上っぽいのでそこに胡座をかいて考える。
ちなみにゴンベは俺の後について梯子に登ろうとして登れず、「僕も乗せて〜」と言わんばかりに鳴いていたので下からおしりを押して登った。流石に持ち上げられないからな。
今はベッドの上で俺の足を枕に満足そうに寝ている、可愛い。
「どうやら、この世界での俺の立ち位置は主人公ユウリの弟ってみたいだな。写真立てにも赤ちゃんの俺と小さいユウリの写真があったし、年齢差は1〜2歳程度っぽいな」
ベッドの上からユウリ用と思われる机の上に置いてある写真立てを見る。そこには生後間もないであろう俺を抱き上げて、優しく微笑む母親とその母親のオーバーオールの端を掴む顔が強ばったユウリが写っていた。
写真を撮った人に緊張していたのか? そう思うと不思議と愉快な気持ちが湧き出てくる。なんにせよ、どうやらゲームで語られていない過去がこの世界にはあるようで、
「……多分、転生したってことだよな ?」
もしくは、死ぬ前の妄想か。と、言葉を飲み込む。
「まあどちらにせよ、今度の世界は楽しく生きるぞぉ! 前の世界じゃ後悔ばっかだったんだ。今度は後悔しないように全力で行くぜ! ……ってああああ!!!!」
そういえば最初はダンテに会って御三家貰うイベントじゃん!!
「待っててくれよ〜! 俺のメッソン!」
「んがっ!」
急いで足の上で寝ていたゴンベをどかして、ベッドから飛び降りる。そして急いで家から飛び出した。
「っと! ごめんよ!」
スボミーにぶつかりそうになるも勢いを殺さず横に回転して通り、ウールーの上を跳び箱の要領でジャンプする。
「うっひょおおお! 身体が軽い軽い! 昔と大違いだ!」
空を翔けるココガラを尻目にブラッシータウン手前のホップの家まで着くと、主人公ユウリはヒバニー、ホップはサルノリ、ダンデはメッソンがそれぞれポケモンを抱き上げていた。
「ああああ!!!! 俺のポケモンは!?」
「ちょっとグレイ! その前に言うことあるでしょっ」
「あはは! グレイは今日も元気だな!」
こっちの世界の主要人物との初交流だが、それどころではない!
「メッソン! メッソン! メッソンは?」
「グレイくん久しぶりだな! あーグレイくんにあげるポケモンはだな……」
ダンデに抱き上げられて、俺を涙目で見ながらダンデの服を握るメッソンを見て全て確信する。
「俺のポケモン無しかよぉぉぉぉ!」
「テイッ!」
「いてっ」
「まずは、挨拶でしょ?」
地面に手を着いて絶望していたら、チョップされた。
辛い。
貰えなかったことは死ぬほど悔しいが、今度こそちゃんとファーストコンタクトだな……!
「俺の名前グレイ! ユウリ、ホップ、ダンデさんよろしく!」
「あはは! グレイは変なやつだな!」
「くはっ此方こそよろしく、グレイくん!」
「……いや、そうじゃないでしょ」
よし、テンションと呼び方はこれでいいっぽいな。
そこそこウケてるし、若干一名呆れてるけど、気にしない。
「それにしてもグレイくんにだけ、ポケモンが無いのもまずいな」
「そうっすよ!」
「あー、それなら大丈夫ですよ」
ユウリはそう言うと俺が来た道を指差す。
後ろを見ると、とてつもない勢いで転がってくる青っぽい物体が……って。
「へ?」
「んぐぐぅあー!」
「うおおああああああ!?!?!?!?」
とんでもない衝撃の後、回転に巻き込まれて俺も転がる。
「ぐえっ」
回転がホップの家の壁にぶつかり、止まったかと思うと俺の上にゴンベが乗っていた。
「うちのゴンベ、グレイのこと大好きなんで」
その言葉が遠く聞こえた。
めのまえが
まっくらになった!
■
「____ぞ!」
「あと、ごふん……」
「おき__ぞ!」
「おきる……おき……お……zzz」
「起きるんだぞ! グレイ!」
「ハッ! ここは何処!? 私は誰? ……って重っ!」
俺のお腹を枕に寝ているゴンベを見つける。
こいつめ! こいつめ! ……顔をもふもふしてるのに起きないだと……!!
「起きたかグレイ」
「ホップ? どうしたんだ?」
「夜ご飯の時間だぞ! 今日はバーベキューだ!」
「肉!」
「肉だぞ! 先に行ってるから早くな!」
「えっちょ」
ホップェ……! 俺一人で100キロの肉の塊をどうせえっちゅんじゃ!
「ゴンベ……ゴンベ……起きて起きて」
「んがんぐぐ」
「いや、んぐぐじゃなくて早く起きてー」
「んぐ? ……んぐーzzz」
「お前一瞬起きたろ! 二度寝すな! 起きろ! 飯だ! 飯だぞ!!! ……お、起きない」
その後、ゴンベが自分のお腹の音で起きたのは2時間後のことだった。
なんとか残りの固くなった肉にありつけ、満足した俺はホップの家にあるポケモンバトルのコートの真ん中に座り、丸いお月様を見上げていた。
「お月さまがあんなにまるいなんてあんなにまるいなんて
あんなに世界のどんなまるよりまるい二ャーってな」
ギィと背後のドアの空く音に振り返る。
「んぐ!」
「ゴンベお前も飯食ったのか?」
「んが」
「ポケモンフーズ美味かったか?」
「んがんぐぐ!」
ぽんっとお腹を叩くゴンベに笑みがこぼれる。
本当にポケモンの世界に来たんだなあ
隣に来るゴンベを抱き寄せて膝に座らせる。
「うっ重……!」
「んがっ!」
「いてて、ごめんごめん」
頭を振って胸を攻撃してくるゴンベを謝りながら抱きしめて止めさせる。そうして落ち着いたゴンベと月を眺めていたら、気が付くと言葉が出ていた。
「ゴンベ、俺この世界をもっと見たいんだ」
「んぐ?」
「俺と一緒に旅しないか?」
返事が無い。遠く聞こえる透き通るような虫の音色はサッチムシが奏でたものか。視線を感じ、月から下に向けるとゴンベ少しずり下がって俺を見ていた。
「んがっ!」
そんな笑顔を見ると不思議と胸に火が灯ったような気がした。
後悔ばかりの人生。腐り続けて、何の目的も目標も無く、ただ生きて、生きて、生きて、生きて、生きて。
死ぬのが怖いから生きて。
口癖は死にたいで。
でも死にたい訳じゃなくて。
ただ、努力しなかった結果から逃げたいだけで。
そんな自分が大嫌いだった。
「何の因果か得たチャンス。何も無駄にすることは無いよな」
朝の誓いを新たに胸に刻み込む。
俺はコイツと旅に出る。