ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「ボディーガードぉ?」
もう何度保健室の世話になるのか。もはや自分の寝床と化した保健室のベッドの上であぐらをかいたデンジは、オールマイトに怪訝な表情を向けた。
それを受けたオールマイトは苦笑しながら説明する。
「ああ、先日の少女──トガヒミコに君は襲われた。しかもその場にいた八百万少女によると、また君を襲う、と発言をした後に去っていった…。君を一人にしてしまうと、いつ、どこで再び襲われてしまうのか分からない。故にボディーガードを付けさせてもらう事にしたんだ」
それを聞いたデンジはその顔を歪めながら、オールマイトに抗議をする。
「あんときゃ血が足りなかっただけで、今やればぶっ倒せるぜ!?だからボディーガードなんかいらねーよ」
そう言い切るデンジだったが、オールマイトの考えは変わる事はなかった。
「それでも答えはNO!…君のその『個性』は強力だ。パワーもあるし、更に再生能力まである。まともに相対すれば勝てるかもしれない。──しかし、トガヒミコは隠密能力に優れている」
「オン…ミツ?」
「敵にバレないように行動する事さ。デンジ少年。例えば──君が買い物に行くとしよう。その道中、トガヒミコが突然背後から襲いかかる可能性も無くはないんだ」
「そんならよぉ〜、エンジン吹かせば良いだけじゃねーか!」
デンジは得意げに胸のワイヤーを見せる。しかし、オールマイトは静かにかぶりを振った。
「それで、もし最初にワイヤーを引っ張るための腕や、そもそも生命活動を維持するための首や心臓を狙われたらどうするんだい?」
「ウ…!」
その言葉に苦々しい表情になるデンジ。そのままオールマイトはデンジに優しく語りかけた。
「良いかい、これは決してデンジ少年の自由を奪う為のものじゃあ無い。私たち全員、君のためを思ってこの提案をしたんだ。…君が居なくなったら悲しむ人たちは少なくない。それを心の中に常に置いておいて欲しいんだ」
「………」
オールマイトの自分を案じる言葉に強く反論する事もできず、しばらくは腕を組んで、うんうんと唸っていたデンジだったが、やがてその目をオールマイトに向け────、
「──わかったよ」
肯定の意を示したのであった。その返事に明るい表情を見せるオールマイト。
「アンタが俺ん事を100心配してるのは感じたからよぉ〜、今回は大人しくしといてやる」
「──ッ!ありがとう、デンジ少年!」
感極まったオールマイトは、マッスルフォームのその豊満な筋肉でデンジを抱きしめた。悲鳴を上げながらその拘束から離れようとするデンジ。その時、保健室のドアが開いた。
「おいデンジ、お前のボディーガードが校長室に────何してんすか」
「ああ、相澤君!いや、今ね!デンジ少年に私の熱意が伝わったからついね!HAHAHAHAHA!」
「ああ…そっすか」
「ギャアアアア!」
くたびれた様子の相澤と、いつもより口角が上がっているオールマイトと、げんなりしたデンジが校長室へと向かう。
(あ"〜、クソ、最悪だぜ…!何で男に抱きつかれなきゃなんねぇんだ…!──これがヤオヨロだったらなあ……!)
ワイシャツの襟元を崩しながら廊下を歩く。その時、デンジの頭に一つの考えが浮かぶ。
(待てよ…!ボディーガードって…
デンジの心に一抹の光が灯る。考えれば考えるほど良い未来にしか行かない。思わずデンジは前を歩く相澤に声をかけていた。
「な…なあ相澤センセー、そのボディーガードって…どんな奴なんだ…?例えば女だったり──」
「男だぞ。しかも同年代の『強個性』だ。慣れ親しみやすいし、安心だろ?」
「えエ〜〜〜〜〜!!?」
「なんだその反応は」
肩を落とすデンジをよそに、相澤とオールマイトは会話を続ける。
「強個性って…どんな個性なんだい?」
「──本人いわく、『サメ』だそうです。陸でも活動できるサメに変化したり、頭部だけを変化させられるらしいです。あと、地面を水の中みたいに泳げるらしいので、張り込みには最適かと」
「強いな…!プロヒーローに居てもおかしく無いぞ…!」
「ええ…ま、そいつ本人はヒーローになる気はないらしいですけど──と、着きましたね」
オールマイトが首を傾げる横で、相澤がノックを三回する。静かにドアを開け、部屋へと入室していく。デンジも肩を落としたままそれに続いて行った。その時であった。
「デンジ様!!」
室内に響いた声がデンジの耳を打つ。その声の低さから、やはり男かと落胆するデンジだったが、それとは別に、何やら懐かしい気持ちが心の中に現れる。それを確かめるため、デンジはゆっくりと顔を上げた。
そこで見えたものは───、
「ワアアアアア!デンジ様!デンジ様ァ!」
こちらを見ながら屈託のない笑みを浮かべ、子供のようにはしゃぐ頭部にサメのヒレがついた青年がこちらに走っていく姿だった。
デンジは疑問より先に、目を見開き、驚きの表情を見せる。そして、その名を発した。
「お、お前…ビームか?」
「うん!オレ、ビーム!ビィーム!!」
ギザギザの歯を見せ笑うサメの青年──『ビーム』は、長年離れ離れになった飼い主とようやく再開した犬のように、驚くデンジにしがみつくのであった。