ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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届かぬ思い

「う〜ん」

 

ビームが立ち去った後。デンジとねじれは食堂を後にして、ねじれは授業のため別れることとなった。校内の掃除をしながらデンジはこの先の事を考える。

 

(…あのヤローに俺の攻撃は一回も当たりゃしなかった。それに、アイツの『個性』…。何がなんだかわかんねーうちに殺されたんだよな〜)

 

『ヒーロー殺し』──あの凶刃がまたいつ自分に襲いかかってくるか分からない。だからそれまでに対策を取る必要があるのだが、その対策が一向に出ない事にデンジは焦っていた。

 

(──ヤオヨロも居るしなあ…)

 

自分だけが狙われるのならまだ良い。しかし、自分が懐いている八百万に危険を負わせるのはどこか居心地が悪い。どうしたものかとため息を吐くデンジに、一つの影が近寄ってくる。

 

 

 

「あら?デンジくん。お仕事お疲れ様」

 

 

 

18禁ヒーロー、ミッドナイト。本人には自覚はないが、唯一デンジを大人しくさせられる人材である。

無駄に色気を出しながら、彼女はデンジの横へ移動する。

 

「ミ…ミッドナイト先生……」

「もう、『先生』なんて堅苦しいわ。もっとフレンドリーに、お姉さんって呼んでいいのよ?」

「お…お、お姉さん…!」

「なあに?」

 

(かわいい!)

 

その年齢とは考えられない可愛さのギャップに、顔が赤くなるデンジ。それを見たミッドナイトはいたずらな笑みを浮かべる。

 

「うんうん、素直なのは良い事よ!…それで、どうしたの?何か困ってたみたいだけど」

「…え?」

「さっきため息ついてたでしょ?何か悩みでもあるのかなって」

 

自分が悩みを抱えている事を簡単に見破られてしまった事に驚きの表情をデンジは見せる。そのわかりやすい仕草にミッドナイトは苦笑を漏らした。

 

「…で、なんなの?その悩み。おねーさんに言ってみなさい!」

 

その大きな胸を叩いてふふん、と意気込むミッドナイトに、デンジは目を奪われながらも、相談を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──つまり、『ヒーロー殺し』に勝つにはどうすればいいかって事よね…」

「ハイ!やられたままじゃイヤっす!」

「う〜ん…」

 

ミッドナイトは頭を抱える。ただでさえ保護対象であるデンジに、プロヒーローも殺されているような凶悪ヴィランを再び合わせる訳にはいかない。そう根津から念を押されたにも関わらず、その保護対象がヒーロー殺しと()()()なのだ。

普段は生徒の気持ちを尊重する彼女だが、これには簡単に力を貸す事は出来なかった。

 

「…デンジくん、もうヒーロー殺しの事は忘れましょう!君の気持ちは分かるけど、そのやり返す気持ちは私たちに預けて貰えない?必ず、捕まえて見せるから──」

「ええ〜!?」

 

肯定的では無いミッドナイトに不満気な表情を見せるデンジ。しかし、ミッドナイトの意見は変わる事は無かった。

 

「それに、デンジくんはヒーロー殺しの他にも危険がいっぱいあるでしょ?今、外に出る事は許しません!コレ、おねーさんとの約束──」

 

 

「い、イヤです!!」

 

 

今まで、自分達の意見を素直に聞いていたデンジから否定の言葉が出るという事態により、ミッドナイトは思考を停止させてしまう。

 

「…デンジくん?」

「確かに俺ぁ今は弱えですけど、絶対次は負けませんっすから!」

「──ダメよ。絶対にダメ。行かせないわ、どこにも」

「おおおおお!!?」

 

突如抱擁をして来たミッドナイトに、デンジは行動が制限されてしまう。緊張で指が上手く動かせなくなり、持っていた掃除道具の箒を落としてしまう。

全身を包む柔らかさと、その甘い匂いに頭に靄がかかった様になる。

そして、興奮状態となったデンジに向かって、ミッドナイトは言い聞かせる様に囁く。

 

「君は本当に良い子なの。純粋で、優しくて、とっても良い子。でもね…?そんな良い子が、急に居なくなったら、私…悲しくてどうにかなっちゃうわ…。だからね、デンジくん…。どこにも出ちゃダメよ」

「ア…アア」

 

その大きな二つの双丘に圧迫されたデンジは思わず頷きそうになる。しかし、その時脳裏にはしっかり者の、ポニーテールの少女の姿がよぎり────、

 

 

 

 

「………嫌…です!」

 

 

 

 

その誘惑に、真っ正面から『否定』を叩きつけた。それを聞いたミッドナイトは目の色を変え、抱きしめる力を強める。

 

「──ッ!なんで分かってくれないの!?『ヒーロー殺し』の事は私たちヒーローに──!」

「…自分のせいで……!誰かが死ぬのは寝覚め悪いんすよ…!」

「──」

 

ミッドナイトは力を込めていた腕をだらりと下げる。その心の中には、さまざまな感情が入り乱れていた。

危険な目に遭って欲しくない心配、人を思いやる事ができるデンジに対しての嬉しさ。しかし、その中でも彼女の心の中の大部分を占めていたのは──、

 

 

 

 

 

 

(──やっぱり、私たち『ヒーロー』を頼ってくれないのね……)

 

 

 

 

 

何回も自分達が後を受け継ぐなどと言っても、彼は頑なに任せようとはしなかった。自分の力だけでやる──。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──。そう言っているかの様に。

すっ、と体を離すミッドナイト。顔を俯かせていた結果か、胸の感触が離れて残念がっているデンジには気づかなかった。

そしてぽつりと呟いた。

 

 

「──そういう戦闘面では、相澤先生やオールマイトが一番詳しいわ…、彼らに頼るのが、一番良いかもしれない……」

「マジっすか!?よーし、じゃあさっさと仕事終わらして行ってきます!!」

「…あ」

 

 

その言葉を聞いて、箒を拾い、意気揚々と掃除をするデンジにミッドナイトはもう、何も言えなかった。どんどんと遠くなって行く彼の背中を見て、どこか胸が苦しくなる。

 

 

 

 

「──デンジくん……!」

 

 

 

 

その小さすぎる言葉は、最早デンジの耳には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ〜!もうちょいくっついときゃ良かった〜〜!!めっちゃ良い匂いした!気持ちよかったなあ…!)

 

箒をリズム良く掃きながら、先程の感触を惜しむデンジ。しかし、それもすぐに心配そうな表情に変わる。

 

(…は、反抗したけど…大丈夫だよな〜?嫌われたりとかしてねぇよな〜!?)

 

ミッドナイトに嫌われる事を恐れているデンジ。しばらく頭を抱えていたデンジだが、すぐに気を取り直す。

 

 

(ま!俺があの糞ヴィランをブッ殺したら、結果オーライだよな!よーし、頑張ろ!!)

 

 

再び箒を構えたデンジは、『ヒーロー殺し』を捕まえた後の自分は幸せになっていると信じ、雄英高校の清掃を再開させるのであった。




ちなみに、脳裏によぎったのはヤオヨロではなくヤオヨロの胸の事です。
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