ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「戦闘訓練を受けさせてほしい?…どういう事かな?」
職員室にて、オールマイトは困惑していた。この目の前の少年の突然の頼みに脳の処理が追いついていないのを感じる。
「あー、アンタは戦い方教えてくれるってお姉さんが言ってたからよ〜。俺に戦い方教えてくれよ!」
その言葉にオールマイトは目を丸くする。なぜこの少年は急に戦い方を学ぼうとしているのか。屈託のない笑みを浮かべて自分を見つめるデンジを見ていると、横から声がかかる。
「却下だな、そもそも訓練をする意味がない。お前はここの用務員、それだけだ。戦い方を学んだところでそれをどこで使うんだ?俺達も忙しいんだ、非合理的な考えは捨ててさっさと仕事に戻れ」
「ち、ちょっと相澤くん…?流石に言い過ぎなんじゃ…」
「これくらい言わないとこいつは聞かないでしょう…それに、ここで甘やかしては彼自身のためにもならない」
オールマイトは相澤の対応に辟易としていたが、彼の発言にも一理あると納得してしまう。それに、一見冷たく突き放したように思える言葉だったが、そこには確かにデンジを心配するような思いがあった。
(──デンジ少年を戦いから遠ざけるように…)
しかし、デンジも挫けない。相澤のドライアイをしっかりと見据えながら反論を試みる。
「…けどさ〜、やっぱ自衛手段は必要だと思うんだよ!またあの変態ヤローが来た時に──」
「ヒーロー殺しのことか…。安心しろ、奴が捕まるまで当分はお前は外出禁止だ」
「え…えェ〜〜〜〜!?」
「当たり前だ、今回は運が良かったが、また出会った時にお前は奴に太刀打ちできるのか?」
「太刀打ちするために!特訓すりゃ──」
「…仮に特訓するとしてもな、お前の『個性』は一度発動する毎に大量の血液を失う。いちいちぶっ倒れられてはこっちも気が休まらん」
「グ…!ヌヌ……!」
完全に言い負かされたデンジは歯を食いしばる。それを見た相澤はため息を吐き、鋭く言い放った。
「分かったら仕事に戻れ。…今日の昼飯はハンバーグらしいぞ」
「マジで!?」
その言葉を聞いた瞬間に目を輝かせ、一目散に部屋から退出していくデンジ。そして、騒がしかった部屋が静寂に包まれる。
「……これで良かったのかい?」
「…ええ、嫌われる役は──俺だけで良い」
「はい!お待ちどうさま!ハンバーグ定食だよ!」
目の前に出されたハンバーグ定食を乗せたトレーを持ち、席を探すデンジ。いつもならねじれと一緒に食べようと、ねじれを探すのだが、今は生徒は授業中のため、隅の席に着き、一人で手を合わせる。
「いたーきやー…」
やる気のない合掌と共にハンバーグを食べるデンジ。しかしその速度は普段よりあまりにも遅かった。その表情はどこか思い詰めた様子である。
「ど〜すっかなあ〜」
ぽつりと呟いたその一言は誰にも届かず虚空へと消えていく。先程相澤に言われた言葉が、デンジの頭の中をぐるぐると駆け回っていた。
(俺はあの変態ヤローをぶっ殺してヤオヨロに褒めて貰いたい、だから頑張って特訓しようとした…けど、あいつがダメって言いやがった──、何すりゃいいんだよ)
ついにはハンバーグを食べる手も止まってしまい、思考の渦へと巻き込まれていく。
(楽しくなるために頑張ろうとしてんのに楽しくなくて頑張らせても貰えないなんて糞だ)
だんだんとデンジに苛立ちが募っていく。それは、自分をこの狭い場所へ押さえつけている雄英へのものだった。
(──いっそのこと、また逃げっか?)
その時、デンジの側に人影が現れる。その人物は──。
「やあ!白米食べてる!?」
クックヒーロー、ランチラッシュだった。ランチラッシュは「失礼するよ」とデンジの向かい側の席へ座った。
そして、不審な顔をしているデンジへ大盛りの白米を差し出した。
「──僕は白米が好きだ!」
「ああ?」
「いやね?いっつも元気なデンジくんが今日はなんかやけに静かだったから声かけたんだよ、ちょうど今人いないし!」
「ああ…そすか」
その言葉に淡白な返事を返すデンジ。それを見たランチラッシュは一呼吸し、デンジに語りかけた。
「──僕はね、知っての通り人に食べ物を作る仕事をしてるんだけどさ、さっきも言った通り白米が大好きなんだ。三度の飯より白米!って感じで」
ランチラッシュは続ける。
「どうしても白米の素晴らしさをみんなに知ってもらいたくてね、ここで働くことにしたんだよ。例えば、チキンライス下さい!って言ってる子に、さりげなく白米を推してみたり。そうしたら、七割くらいは食べてくれるんだよ!」
「ええ〜」
「…つまり、僕が言いたいことは──『自分のやりたい事を我慢しちゃいけない』って事なんだよね!」
「我慢しちゃいけない…?」
うん、と頷いてランチラッシュはデンジに問う。
「君が一番好きなものは何?それは簡単に諦められるもの?」
「…んな訳ねえ、──けど、アイツがダメだって言うから…」
「そんなもの無視しちゃいなよ!僕だって校長先生に『チキンライスはチキンライスのまま出してくれ』って言われてるけど気にせず白米出し続けてるよ!?」
「君がやりたい事をやれば良いんだ、それで頑張って頑張って頑張れば、きっとその人にも熱意は伝わるはずだよ」
ま、僕はまだ伝わってないけどねー!と笑うランチラッシュを見つめるデンジ。その心には、先程のような苛立ちの感情は無く、彼に言われた言葉がデンジの心を軽くしていた。
(俺のやりたい事…!我慢…しない…!)
だんだんと笑顔になっていくデンジを見たランチラッシュは、ふ、と息を吐き、音もなく厨房へと戻っていった。すると、職場の仲間に声をかけられる。
「ランチラッシュさん、珍しいねアンタが肩入れするなんて!」
「肩入れなんかじゃないよ!ただまあ…強いて言えば、昔の僕に似てたから、かな」
親に反対され、それでも選んできたこの道。それを突き進んだから、今の自分がいる。それを知ってもらいたかった。ここで腐って欲しくなかった、一度きりの人生なのだから。
ふと、デンジが座っている席へと目を向けるとそこには金髪の青年の姿は無く、空の皿と茶碗があった。いてもたっても居られなくなったのだろう、厨房に返す事なく置かれたトレーを見つけたランチラッシュはため息を吐きながらそこへと向かう。
「…!」
茶碗の中には一つの紙があった。それを広げたランチラッシュは仮面の中で笑顔になる。そこには──。
『ありがとお。はくまいうまかった』
しばらく佇んでいたが、その手紙を大事に懐に収めた後、ランチラッシュはゆっくりと親指を立てた。
「白米に落ち着くよね、最終的に!!」
ランチラッシュと結婚する未来まで見えたんだけど(未来最高と叫びなさい)