ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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バレンタイン二十五日目ですね。未だに貰えません。


バレンタインとチェンソー

「ば、ばれんたいん?」

 

デンジは、その聞き覚えのない単語に首を傾げる。その様子を見た雄英高校一年A組は驚愕の表情を浮かべた。

 

「え…ええ!?デンジ君バレンタインデー知らんの!?」

 

麗日が目を剥いてデンジに掴みかかるが、デンジはなぜ掴みかかられているか分からないような顔をしていた。

 

「だからぁ、なんなのソレ?ばれんたいんでー?英語はまだ勉強してねぇんだよ!」

 

その言葉を聞いたA組は戦慄する。まさかバレンタインデーを知らない者がいるとは。

 

「あ、あのな?バレンタインってのは──」

 

 

 

 

 

「な〜るほどな!つまり甘いやつが女の子からもらえるメチャ良い日って事か!」

「うーむ、ざっくりしすぎてないか?もっと詳しく説明したほうが──」

「いーんだよ、これで。言っちゃあ悪いけど、詳しく教えても覚えねえだろ、デンジは」

 

生真面目な性格である飯田は大雑把な説明に難を示すが、それを切島が否定する。もともと小さな事は気にしない『漢』らしい考え方の切島は、奇跡的にもデンジと相性が良かった。

 

「つーかお前らズリ〜なぁ!」

 

すると、納得した様子のデンジが突然不機嫌な顔になる。何かと思う一同をよそに、デンジは腕を組み男子らを睨みつけた。

 

 

「おめーら『全員』チョコレート女子から貰ってんのかよ〜!俺も欲しい!」

 

『グハァッッ!!』

 

男子の一部が胸を押さえ膝から崩れ落ちる。それを不思議そうに眺めるデンジ。それを見た緑谷がデンジに近寄って口を開いた。

 

「デンジ君…バレンタインチョコは必ずしも貰えるわけじゃないんだ」

「ええ!?そーなの?」

 

説明する緑谷に驚くデンジ。どうやら、男は全員貰えるという認識をしていたようだった。その二人をよそに、男子たちはひそひそと話し合う。

 

「…峰田お前、去年何個貰った?」

「…ゼロだよチクショー!つーか上鳴はどうなんだよ!?お前見た目だけは良いんだから貰えるはずだろ!?」

「見た目だけはとか言うなよ!まあ確かに貰えたけど!全部義理チョコなんだよ全部!『上鳴くんにチョコ渡したら本命って誤解されそうだから』って理由でバレンタイン前日にチョコ渡された俺の気持ちが分かんのか!?」

「貰えるだけでも良いじゃねーかぶち殺すぞボケェイ!!」

「うっせーなモブ共!黙って死ね!!」

 

息切れを起こす二人を爆豪が睨みつける。しかしそんなことでは二人は止まらない。ズカズカと爆豪に詰め寄って行く。

 

「オメーはどうなんだ爆豪!?チョコ貰えたことあんのかよ!」

「あ?そんなん覚えてねーわ殺すぞ!!」

「あ!もしかして爆豪も貰えなかった一人?なんだよお前先に言えよ水臭えなぁ!よし、俺たちは今から兄弟だ!」

「勝手に一緒にすんなやボケが!去年54個貰ったわタコ!!」

「ハア…ハア…(過呼吸)敗北者…?」

 

峰田、上鳴が跪く中、一人の女子がデンジに近寄る。

 

「デンジくん!はいこれ!」

「え?」

 

女子──芦戸がデンジに差し出したものは、チョコレートであった。急に渡された事で脳の処理が追いつかないデンジ。その様子を見た芦戸は楽しそうな表情を浮かべる。

 

「ハッピーバレンタインだよ!これからもよろしくぅ!」

「…お、おお……」

 

そのまま芦戸は他の男子にもチョコを配り始める。するとそれを皮切りに、他の女子もチョコを鞄から出し始めた。

 

「ケロ、USJのお礼も兼ねてのチョコレートよ。これからもよろしくねデンジちゃん」

 

蛙吹のカエルを模したチョコに反応する間もなく、次に葉隠がぴょんぴょん跳ねながらデンジに近づいて来た。

 

「デンジくんこれめっちゃ美味しいよ!食べて食べて!」

 

チョコバーを片手に抱えた葉隠は、どんどんA組の男子にそれを配っていく。デンジは何か言おうと口を開くが、次に麗日がデンジにチョコを手渡した。

 

「はい、これ!手作りチョコは流石に出来んかったわ…でもでも!市販のやつも美味しいんよ!?」

 

少し頬を赤らめた麗日は、言い訳のような台詞を残して去っていく。そして次に現れたのは、耳たぶのコードをツンツンさせた少女、耳郎だった。

 

「…はいこれ。ウチはあげるつもり無かったんだけどね、みんながあげるっていうから。──USJのこと、忘れてないからね」

 

ふん、と鼻を鳴らして去っていく耳郎。しかしその耳のコードは忙しなく動いていた。…惚けた状態のデンジは気づかなかったが。

そして──。

 

「──デンジさん」

「ヤオモモ…」

 

気品ある少女、八百万はその手に紙袋を下げていた。どうやら高級なチョコレートを持って来たらしい。その紙袋からひとつ、チョコをデンジに渡す。

 

「USJではありがとうございました。…えと、その…戦ってくださった理由は、認められるものではありませんでしたけれど…あの時のあなたは立派なヒーローでしたわ。本当に、ありがとうございました。デンジさん」

「あ、ああ…」

 

その言葉に、なぜか体の中心部分が暖かくなっていくのを感じるデンジ。しどろもどろになりながらも、とりあえず何か返事をしようと八百万の方を向く。すると、なぜか八百万がどこか落ち着かない様子でデンジを見ていた。

 

「…?」

「……え、ええ、大丈夫。これは対価ですもの…。八百万家の女として、約束を違えるわけにはいきません…けど…!けどぉ…!」

 

急に一体どうしたというのか。気になったデンジは八百万に問いかけようとした。

 

「おいヤオモモ?どーしたんだ…?」

「ッ!ハイ!デンジさん!…わ、私の──」

 

 

 

 

「ちょっとデンジ、あんたそろそろ休憩終わりなんじゃないの?早く行ったほうがいいんじゃない?」

 

その耳郎の言葉にハッとするデンジ。そして恐る恐る時計を見つめ──。

 

「や、やべぇ!婆さんに叱られる!」

 

チョコレートを大事そうに抱え、慌ただしく廊下へと飛び出していった。その光景を見た八百万は目を丸くする。そこに耳郎が近寄った。

 

「ヤオヨロ、今なんて言おうとしたの?」

「え!?えっと…『私の体を好きにしてください』と──」

「はいアウト。ダメだってそれ!アイツが何するか分かったもんじゃないよ!?」

「し、しかし…約束は約束なので…」

「アイツももうその約束忘れてるって!…とにかく、もうこんな事言っちゃダメだよ?」

「はい…分かりました」

 

叱られた八百万の心に、羞恥心が湧き上がっていく。何故自分はこんなはしたない事を言おうとしたのか。もし耳郎が止めてくれなかったら──、

  

 

(…今、なんで私、残念だと思ったのでしょうか…?)

 

 

そして今注意した耳郎も憤る心を抑えつつ目の前の友人を見つめる。

全く、自分がいなければ八百万は危ない…。真面目な性格の彼女は約束事に弱い。デンジも絶対忘れてるのに…。またこんな事が無いように、警戒しとかないと…!

 

 

(──でも、なんでウチ、今ほっとしてるんだろ…)

 

 

 

 

 

二人の少女は、首を傾げながらも他の男子の下へチョコを渡しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩時間を大幅に取ってしまったデンジは急いで仕事に取り掛かっていた。窓を拭き、室内のゴミを箒で掃いていく。その間、デンジはつい先ほどのことを考えていた。

 

(そーいや誰かに何かを貰うっつーのは久しぶりだなぁ〜)

 

デンジはA組の面々を頭に浮かべる。笑顔でチョコレートをくれた女子に、いつもの自分なら鼻の下を伸ばしていた筈だ。しかし何故、今回はそういう感情が湧かなかったのか。何故胸の辺りがざわついたのか。

自分に襲いかかる不思議な現象の答えが見つからない中、黙々と作業を続けるデンジ。

 

 

 

「やっほーデンジくん!」

 

悩んでいる彼のもとに、一人の少女がドアを派手に開けて笑顔で近寄ってくる。

 

「ねえねえ知ってた?今日って──」

「バレンタイン、すよね。ねじれちゃん」

「なーんだ、知ってたんだ、つまんなーい!」

「ああゴメン!うそ!知らない俺!」

 

残念そうな顔をした波動ねじれに慌ててフォローとは言い難いフォローをする。しかしねじれは頬を膨らませたままだった。

 

「むー…デンジくんにいっぱい初めてのこと教えたかったのに…」

「──じゃあ一つ良いっすか?」

 

うんうん!と頷くねじれにデンジは自分の胸の内を明かす。

 

「なんか──あいつらにチョコ貰った時、こう、胸があったけー感じになったんすよ。それがずっと続いてて…お、俺、病気なのかなぁ〜?」

 

不安そうな表情を見せるデンジ。その顔を見たねじれはきょとん、としたように言った。

 

 

「デンジくん、それって──嬉しいんじゃないの?」

「──そりゃあ〜ねえよ」

 

その言葉をデンジは即座に否定する。何故なら今までに何回も嬉しいという感情を経験してきたから。

雇い主に気まぐれに殴られ、百円のチップを貰った時。人体実験の結果を出したので、その日の食事のメニューが一つ増えた時。

その時は今日のように胸が暖かくなることはなかった。故に、デンジは、この感情は嬉しさでは無いと判断したのだ。

それを聞いたねじれは余りにも悲惨な過去に一瞬悲哀の表情を浮かべる。そして徐にデンジに手を伸ばし──、その頭を優しく撫でた。

 

 

「じゃあデンジくん、教えて?その時と今日──どっちが胸が暖かくなった?」

「今日」

 

 

デンジは撫でられながら即答する。彼の中では比べるまでもなかった。その答えに満足したのか、ねじれは笑顔になりながら続ける。

 

「ねえ知ってた?本当に嬉しい時ってね、胸が暖かくなるんだよ?」

「え…じゃあ」

「うん、デンジくんは今日すっごく嬉しい日だねー!」

 

天真爛漫な笑みを向けられたデンジは少しの間惚けた後、目線を泳がせて笑った。

 

 

 

「そっか…!──そりゃあ、すげ〜よかった…!」

 

 

 

「………」

 

その表情を見たねじれは衝動的にデンジに抱きつく。

 

「ア!アあ!?」

「かわいい!デンジくんかわいい!」

 

 

「…何してるんだい、デン坊」

 

それは、デンジの仕事の見回りをしに来たリカバリーガールが雷を落とすまで続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。デンジは保健室のベッドで寝転びながら今日の事を思い返していた。

 

(嬉しいってこう言う事言うんだな!また一つ偉くなったぜ!)

 

ムフー、と得意げに鼻を鳴らす。しばらくして、デンジは考え始めた。

 

(…でもやっぱこーいうのはあんまり分かんねえ。なーんもしてねえのになんか貰うのは嬉しいけど、じゃあなんで俺ぁ今までなんかしてんのに貰えなかったんだ…?──ま、難しい事ぁ考えなくていっか!寝よ!)

 

デンジは眉を顰める。が、それも束の間、すぐに気を取り直して目を瞑る。静かになった保健室。布団の衣擦れの音が微かに聞こえる。その静寂の中でデンジはぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

「…俺ぁ〜ちゃんと普通に幸せになってんのかなぁ、ポチタ」

 

 

 

 

その問いかけに、答える者は誰も居なかった。

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