ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「───ジ」
深海のような暗闇の中、誰かが自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
「──ンジ」
その声を方を向くと、仄かに明かりが灯っていた。そこをじっと見ていると、そこから
「──デンジ、君の世界を私に────」
「………ァあ」
──どこだここ。椅子に縛られている金髪の少年、デンジはそう思った。…自分は確か変な化け物と戦って、それで、それで───。
「あァ!!胸ェ!!?」
自分が何故縛られているのか分からない状況でも、デンジは第一に自分の欲望をさらけ出した。そのままデンジは顔を歪めながらその煩悩まみれの頭で考え始めた。
(オイ、胸は…触った!?触ったのか!?クッソ!思い出せ思い出せ思い出せ────!)
「──お、目が覚めたみてーだな?」
必死に記憶を掘り起こすデンジ。目を瞑り、人生初の思い出であろう物を思い返す。…外部の声など気にも止めずに。
(確か…、あん化け物ぶっ殺して、そんでもって──!)
「おい、お前。聞いてんのか?お前に言ってんだよ、お!ま!え!」
(そんでそんで───!!…………!!)
「なぁオイもうコイツの耳元で叫んでいいか!?腹立つ!!」
「おいやめろ、お前が叫んだらコイツが終わるぞ。…情報も聞き出さないのは合理的じゃない」
「相澤君、相澤君?注意するポイントが違うと思うんだけど────」
「壁ェェェェェェ!!!」
「────ッ!!」
部屋内のヒーローたちが突如叫んだデンジに各自警戒の態勢を取る。そして、当のデンジはようやくその現状に気づいた。
「…あん?なんだオメーら、誰だよ」
「……貴様に聞きたいことがある」
デンジの質問には答えることなく、ヒーローたちから一歩前に出たその男は、炎を体に纏っていた。彼の名は『エンデヴァー』。オールマイトに次ぐ、No.2のヒーローだ。エンデヴァーは高圧的な態度でデンジに問いかけた。
「あの敵たちの目的、そして『個性』を教えろ。あの化け物の事もだ」
他のヒーローもデンジが何かしようとしても即座に対応できるように身構えている。その張り詰めた空気の中、デンジはゆっくりと口を開いた。
「……知らねえ!」
…その場に居たヒーローの力が全て抜けた。デンジの目の前にいたエンデヴァーも顔に青筋を浮かべている。彼の体から炎がチラチラと湧き出ており、怒っているのが一目見て分かった。
「…貴様、丸焼けにされたいか」
「だって知らねえもん」
しかしその重圧を受けたデンジは気にも止めておらず、さらには自分の足の指で遊び始めた。その光景を見た『プレゼント・マイク』は後にこう語る。
「あいつには恐怖心ってものが無え…!あんな顔のエンデヴァー見たことなかったぞ!?…それを前にして指遊びするって、頭イっちまってるぞ、あいつは」
それを見たエンデヴァーは拳を握りしめ、激情を抑えていた。それを見たオールマイトはまあまあ、と仲介に入る。
「エンデヴァー、少し落ち着きたまえ。君がそんなに圧力を掛けては聞けるものも聞けないじゃないか」
「ム…」
それに思うところが自分でもあったのか、険しい顔をしながら引き下がるエンデヴァー。それを確認したオールマイトは改めてデンジと向かい合う。
「やあ、こうやってしっかりと話すのは初めてかな?私の名はオールマイト。早速だが、君…あー、えっと、君の名前を教えてくれるかい?」
「あ〜?デンジだよ」
「じゃあ、デンジ少年。君が一緒に居た奴らの目的とか知ってるかい?」
にこやかに尋ねるオールマイト。しかし、それにしばし唸るデンジ。それを見たオールマイトは困惑の表情を浮かべる。
「どうした?やっぱり分からないのかい?」
「うーん…いや、一応俺ん上司の仕事の事を勝手に言うのはなーって」
(お前自分の上司殺そうとしたじゃん!?)
この場に居るヒーローの心が一つになった瞬間であった。
しかし、情報を聞き出さないとここに数多のヒーローを呼んだ意味がない。オールマイトは腕を組み、唸った。すると、ある一人のヒーローがデンジに近づく。18禁ヒーロー、『ミッドナイト』だ。
彼女は未だ悩んでいるデンジの顎に手を添え、妖艶な笑みを浮かべる。
「ねえ、ボウヤ。お姉さんたち、情報が無いと困っちゃうの。…だからぁ、おねがぁい♡あなたのそのお口から、……言って?」
「言いまァす!」
「早すぎんだろお前!?さっきの迷い何だったんだよ!?」
高速で掌を返したデンジにプレゼントマイクは爆音で指摘する。しかしデンジはそれを無視し、ミッドナイトに嬉々として情報を伝えるのであった。
「…まあ分かっていたが、奴らの目的は…『平和の象徴』の排除…か」
デンジから得た情報をまとめた相澤がぽつりと呟いた。その言葉を聞いたヒーローたちに重苦しい空気が流れる。
「ハイハイハイハイ!とりあえずその話は後!!今はこの少年の処遇について考えようじゃないか!!」
ペチペチ、と小さい音を鳴らしながら白いネズミ、『根津』がその場のヒーローに新たな議題を持ちかけた。すると全ての視線がデンジに向かう。
「コイツなぁ…普通に考えたら刑務所行きなんだが……」
「いかんせん、人を救ってるからな。全部が全部悪いとは言えない」
ヒーローが談義していると、突如デンジが口を開いた。
「なあ、人助けたらヒーローじゃねえの?」
「…そりゃあ、確かに褒められた行為だが、そのために人を殺すのは敵と同じだろう?」
「ああ?人ぉ助けんのに他の人殺すのは駄目なのかよ!」
「当たり前だ!…貴様、やはり頭は弱いらしいな。義務教育を受けていないのか?」
エンデヴァーが嘲笑う。それを見た他のヒーローはまたいつものことかとため息をついたり、その嘲笑を止めようとする者もいた。しかし、そのどれもがデンジの一言で静まり返ることになった。
「あ〜俺受けてねえよ」
「……………は?」
一切の物音がしなくなった室内で、恐る恐るオールマイトがデンジに問いかける。
「デンジ少年、君…親御さんたちは?」
この時、オールマイトの心にはある予測があった。この子の親は敵に殺されたのだろうと。だから幼い頃から義務教育を受けて来られなかったのだと。そう敵たちに怒りを滲ませていた。
「借金作って逃げた」
だからだろう。その予想も付かなかった一言にガツン、と殴られた気がしたのは。それに構うことなくデンジは話すのを続ける。
「なんか八重歯八宝菜?みてーな名前のどっかのヤクザか何かにカネ借りて、そんでどんどん借金が増えていって…俺に全〜部なすりつけてどっか消えた」
オールマイトはそれを聞き、激怒した。手から血が出るほどに拳を握りしめた。まだ物心つく前の子供に自分の罪をなすりつけた親にもだが、それよりも許せなかったのは、
「そっから結構大変だったんだよな〜、借金返すために臓器売ったり、変な薬の実験台みてーなのにもなったしよ〜。…まあ、それでも食えるだけ良かったんだけど────」
「──もう、良い」
その悲惨な過去を語るデンジをその力強い筋肉で優しく包み込むオールマイト。その表情は、何かに耐える様な表情をしていた。そして、ゆっくりとその腕の中にいるデンジに語りかけた。
「いいんだ、もう。ここには苦しいことなんてない。…泣いてもいいんだよ」
(何が『泣いてもいい』だ…!こうなったのも私が気づかなかったからだろうが!!何が…『平和の象徴』……!たった一人の少年の未来を守れないで、何がNo.1ヒーロー…!)
自己嫌悪に追われるオールマイト。他のヒーローも唇を噛みしめる者や体を怒りに震わせる者も居た。しかし、当の本人は──。
(な〜んで泣くんだよ、こっから大爆笑ものの話だぜ?泣くどころか笑い転げるところなのによ〜)
全く、微塵も気にしてはいなかった。むしろ嬉々として話そうとしたのだ。しかし、その話を強引に止められたデンジは不機嫌になり、目の前の筋肉に文句を言おうと睨みつけ──異変に気付いた。
「お…おい、アンタなんでそんな体震えてんだよ。大丈夫か?」
「……ッ!!」
目の前の豊満な筋肉が凄まじい勢いで震えるのをみて、流石のデンジも突っ込まざるを得ない状況であった。しかし、それはヒーロー側には『自身に辛い過去があったにもかかわらず他人を心配する少年』として捉えられた。そして、オールマイトは何かを決心した顔で立ち上がり、その場のヒーロー全員に聞こえる声で発言した。
「…私はこの少年を、ここで保護したい」
「……」
「わがままだとは分かっている。だが…だが!こんな事、許される訳が無い…!『世間が知らない事だったから』しょうがないじゃあ無い……!『しょうがない』で済むほど、この少年はヤワな人生を送っていないッ!」
そして、オールマイトは沈黙している根津に頭を下げる。
「お願いしますッ!彼に…もう一度だけチャンスを──」
「頭を下げる必要はないよ」
「……ッ」
その言葉に悔しそうに歯がみをするオールマイト。しかし、根津は優しい声色で────
「そんな事しなくても、もうみんなの思う事はひとつさ!」
その言葉に、ハッとして周りを見るオールマイト。見渡す景色には、こちらを笑顔で頷くヒーローたち。あのエンデヴァーでさえも「…フン」と顔を背けた。
「…ありがとう……!本当に、ありがとう…!」
深々と頭を下げるオールマイト。次第にその場には拍手が広がっていく。絶望しか経験したことのない少年の新たなスタート───。気づけば涙を流しているものもいた。
「何してんだコイツら?オイ!俺ん話聞けよ!?──ムグッ」
それに困惑したデンジは自身の話はまだあると主張する。──が、それを遮ったのは、甘い香りの豊かな双丘だった。
「もういいのよ坊や…。そんな辛い過去なんて忘れなさい。私たちがいるから…ね?」
頭を撫でながら赤子に話しかけるかのごとく、デンジを諭していくミッドナイト。その胸のボリュームは先日見た胸とは大きさに違いがあり──。
「忘れまァす!」
あ、もうどうでもいいや。やわらけえ……
そう思いながら、徐々に襲ってくる睡魔にデンジは身を委ねたのだった。
キチガイデンジが居ないチェンソーマンなんてチェンソーマンじゃないわ!(謎のオカマ)