ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「おい、デンジ」
「あ〜?」
体育祭も終わり、いつも通りデンジが廊下の掃除をしていると、その手に二枚の書類を携えて、相澤が気怠げに声を掛けてきた。
「お前に指名が来ている」
シメイ?と首を傾げるデンジに相澤はため息をついて紙を渡す。
「プロヒーローがスカウトしてくれたんだよ、何故かお前を」
「ほ〜ん…」
そう呟き、渡された書類に目を通す。一つ目の書類には、『公安対敵特異1課』と書かれてある。漢字の羅列に顔を顰めるデンジ。それを見越してか、相澤は説明を始める。
「対敵のスペシャリストで結成されたヒーロー部署だ。敵制圧に関しては非常に優秀な成績を誇っている。──ただ1課には…問題児が居る」
「問題児ぃ?」
「ああ。そいつは道徳心があまり無いらしい。今でこそ落ち着いているが、昔は『狂犬』と言われ、敵から恐れられたという」
「ええ〜…そんな所行かせようとしてんの?」
「あくまでもスカウトだ。お前の好きにすれば良い。──もう一つの説明もするぞ」
そして二つ目の書類には『公安対敵特異4課』と言う文字があった。デンジは首を傾げながら先ほど説明があった書類と見比べる。
「ん?ん?…!──おい相澤〜、俺を舐めてもらっちゃ困るぜ!『1』と『4』って所が違ぇ!!」
「違う間違い探しじゃない」
ドヤ顔で笑うデンジにため息を吐き、口を開いた。
「公安対敵特異課は複数ある。それぞれの部署からスカウトが来てるんだ。…それで、4課は1課と比べて評判が良くなっている。前ヒーローから引き継いで、女性ヒーローが部署の管理をするようになってから市民からは絶大な信頼を得ているな」
「女!?」
「…どうしてお前はそんな…」
目元を揉み、疲れた様に呟く相澤。それとは真逆に、デンジの心は弾むようだった。
「どんな人なんだよ!なあ!」
「はあ…『マキマ』だ」
「マキマァ?」
「ああ、ヒーロー名がマキマ。それだけだ」
「ほーほー!」
目がキラキラとして、デンジは4課の書類をじっと見る。そして──、
「よーし!俺ぁここにす────」
【行くな、デンジ】
「──どうした?」
「…やっぱこっちにしよ」
その言葉に眉を顰める相澤。もともとこの書類が来た時にデンジは絶対4課を選ぶと思っていた。その性格上、男の方には行かないだろうと。しかし、1課を選んだデンジに何か変な物でも食べたんじゃないだろうかと心配してしまう。そして、相澤がデンジの顔を見ると──。
「──オイ、本当にどうした?
「え?あ〜、ああ…なんでだろ」
青い顔をしたデンジに相澤は本気で保健室に連れて行こうか逡巡していると、デンジから4課の書類を突き出された。
「まあ俺ぁ1課に行くから!よろしく!」
「あ、おい…」
そしてデンジは掃除道具を片付けに行くのだった。
「ん?つーかよ〜」
デンジは一人呟く。
「相澤って俺に戦わせたくないっつってたよな?アレ?じゃあなんで俺戦い方学べんの?んン〜?」
首を傾げるが、すぐに気を取り直して次の仕事に取り掛かるのだった。
「デンジくん忘れ物ない?着替え歯ブラシ持った?一人で行ける?わたし付いて行こうか?」
「お願いしまぁす!」
「バカ言ってんじゃないよ、さっさとお行き!」
リカバリーガールに蹴り飛ばされ、渋々ヒーロー部署まで向かったデンジ。慣れない地図を見ながらようやく着いたそこには──。
「う、うう…」
「パ、パワー!?」
不安そうに部署を見上げるパワーが居た。パワーはデンジを見つけるとその顔を明るくさせ、デンジの側へ駆けつける。
「なんじゃ!バカデンジもココを受けたのか!奇遇じゃなぁ!!」
「バカって言う方がバカなんだよバカ女!…『デンジも』って…ま、まさか──!」
「ああそうじゃ!!ワシはこのぼろっちい部署で大活躍しにきたのじゃ──」
「ぼろっちくて悪かったな」
がちゃり、とドアが開かれ、中から無気力な声が響く。パワーはビクッと体を強張らせ、デンジもその顔を見て顔を顰めた。
白髪をセンター分けにした髪型。両耳に黒いピアスを付け、気怠げな視線でデンジとパワーを見下ろす。
完全に固まった二人に、その男は口を開いた。
「近所迷惑だから入れ。苦情来るから」