ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「とゆーわけで、ここの部署担当してる岸辺だ。好きなものは酒と女と敵を捕まえる事」
物が散乱した部屋に通された二人は、目の前のツギハギの男を訝しげに見る。
「…オイ、ここホントにヒーロー事務所なのかよ…。ボロすぎだろコレ…」
「オマエがどうにかしろ!ワシは知らん!」
デンジはその部屋の汚さに戦慄し、パワーはこの状況から目を逸らしている。その男──岸辺は、ボロボロのテーブルに置かれた酒を飲んで、二人を見据えた。
「俺の質問に答えろ」
指を一つ立て、岸辺は口を開いた。
「めちゃくちゃ強い敵が前にいる。戦ったら殺される。うしろには守るべき市民が居る。どうする?」
「逃げる」
「守ってもらう」
二つ目の指を立てる。
「敵が人質取った。『こいつを解放して欲しかったらお前が死ね』って言われたらどうする?」
「死にたくねえなあ」
「ふつうに殺す」
三つ目の指を立てる。
「お前らが一番信用できるものってなんだ?」
「俺の面倒見てくれるやつ」
「強いやつ」
「お前たち100点だ」
岸辺は酒を煽り、一息つく。
「久しぶりにお前らみたいなやつに会った。お前らみたいなのは大好きだ」
その言葉をかけられた二人は青ざめる。そしてデンジの方を向き、パワーは呟いた。
「怖い」
「俺の事は先生と呼べ。先生って言われると気持ちがいい。あ、それから──」
岸辺は思い出したかのような仕草をし、ポケットに手を入れ──、
「──ひっ」
「──あ」
ポケットの中に入っていたナイフで、二人の喉を掻っ切った。デンジは咄嗟に喉を押さえるが、溢れ出る血は止まらない。パワーも目を見開き、大量の汗を掻いて、必死に息をしようとしている。
「『デンジ』。チェンソー男になれる。折れた腕も元に戻るし、チェンソーが強い。『パワー』。血を操れる。血ならなんでも操作可能。両者とも血液補充で身体的外傷を回復できる──、いいおもちゃじゃないか」
死んだ目で二人を見下ろす岸辺。その目からは何の感情も感じない。『ただ確かめるためにやった』。そんな目をしていた。
(──こ、殺される!!)
そう思った二人の行動は早かった。デンジは胸のスターターに指をかけ、チェンソーになろうとする。
「お前の強みはチェンソーだ。ただ変身するまでにその紐を引っ張るトリガーが弱みになる」
しかし、岸辺がその手を蹴り上げることによって、それは阻止された。吹っ飛ばされるデンジはパワーの方を向く。どうにかしてほしいと。その頼みの綱のパワーは──。
(逃げてるー!?)
全速力でドアへと向かっていた。あまりにも早すぎる逃走に愕然とするデンジ。それに構わず、パワーがドアに手をかけようとしたその時──。
「『個性』で血を止めたか。判断力も速いし、何より臆病だな。うん、良い」
岸辺がパワーの首を掴んだ。パワーはジタバタしているが、気にも止めていない様子だ。
「だれかあァーー!助けてぇー!ヒーロー!!」
「俺だよ」
そうツッコミを入れた岸辺は、軽く、まるで缶ジュースの蓋を開けるように、パワーの首の骨を折った。倒れるパワー。こうして、二人のヒーロー志望者が、ヒーロー事務所に倒れ伏した。
「ヒュー、ヒュー…」
「う、動けん…」
その様子を見ていた岸辺は顎に手を当て、ひとつ頷くと、自分の机の引き出しから何かを取り出す。
「血の匂いじゃ!」
それは輸血パックであった。二人の口の中に血液を入れると、デンジの体は超再生をし、パワーは『個性』で折られた首を全力で修復した。
「あ〜…チキショー何しやがるテメー」
「うう…」
「雄英にお前らを立派なヒーローにするように頼まれた。けどな、この俺をよく見てみろ。俺がヒーローがなんたるかとか教えられるわけない」
「確かにな〜」
「当たり前じゃ」
「お前らもう一回殺すぞ」
岸辺は酒を飲み、続ける。
「…で、天才的な頭脳を絞って絞って絞り出した結果。かつて『狂犬』と呼ばれたくらい危ない俺を殺せるようになったら、立派なヒーローなんじゃないかと」
どこか得意げな雰囲気を見せる岸辺。デンジとパワーはドン引いていた。
「こいつ、頭が終わっておる!」
「な〜」
その言葉を聞いて、満足したのか岸辺は踵を返し、自室へと戻って行く。
「明日からビシバシ行くぞ。寝泊まりは二人でそこの部屋使え。俺は寝る、起こすなよ」
そうして、岸辺はソファに寝転がった後、すやすやと寝息を立ててしまった。その様子を見たデンジはため息を吐き、憂鬱な気分になる。
(最悪じゃね〜か、こんなイカれ野郎の下で働くなんてよ〜…。はあ…ヤオモモとねじれちゃん今何してんのかな…。女もパワーだけだし───)
突如、デンジに電撃走る。先程あの男はなんと言った?『寝泊まりは二人で』。自分の耳が間違ってなかったらそう言った。そう言った。それはつまり──、
(パワーと……寝る…!?)
デンジは楽しくなってきた。