ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「仕事が入った。お前ら行くぞ」
本日の特訓も終わり、ジェンガをしていたデンジとパワーはその言葉に目を見開く。
「マジで!?」
「マジか!?」
今まで特訓しかしていなかった二人は舞い上がる。ようやくヒーローらしいことが出来る。この糞ヒーローに殺されるストレスを敵にぶつけることができる。二人の思考は後者が8割であった。
急いで制服に着替え、外に出る。先を歩く岸辺にデンジは問いかけた。
「な〜、どこ行くんだよ先生」
「保須市で正体不明の怪人が現れてるらしい。それも三体」
すっ、と差し出されたスマホを見てみると、そこには脳味噌を剥き出しにした巨大な異形が映し出されていた。
「あれ?コレあれだ!雄英襲ってた奴!のうむ!」
「…なんでお前こいつの事知ってんの?俺知らなかったんだけど」
他のヒーローに嫌われてんのか…?と思案する岸辺をよそにデンジとパワーは盛り上がる。
「おいパワー!こいつ強えからぶっ殺せるぜ!!」
「やったー!!」
訳の分からないことを言いながら、一人のヒーローと、二人の有精卵は保須市へと足を進めて行った。
あちこちから悲鳴が上がる。怪我をして泣き叫ぶ者、突如襲来した敵に怯える者。その喧騒の中、一人の女性も、涙を流しながら足を動かしていた。
「ハァっ、ハァっ…!」
何故こんな事になったのか。つい自分の運命を呪ってしまう。何も自分が出かけた時にこんな事しなくても良いじゃないか。自分は不運だ。そんな風に走っていると──ふっ、と視界の端に何かが映る。
嫌、気の所為だ。こんな状況で、まともに視界が発揮できるわけがない。だから、気の所為だ。──まるで、うずくまった子供のような大きさの影など。早く走れ。そんな不確定なものより、自分の命だ。
そう思い、さらに足に力を込めた。
「──おかあ…さぁん…!」
──ああ、つくづく不運だ。
「──大丈夫!」
「…え?」
「大丈夫。ぜったい、ヒーローが助けに来てくれる!お母さんも平気!だから、今はあきらめないで!」
「おねえ…ちゃん?」
気休めにしかならないその言葉しか出せない。しかし、そうするしかない。その目尻に浮かんだ涙を拭き、手をつなぐ。心細い命綱だが、今、この二人にとっては何よりも頼りになるものだった。
──目の前に黒い巨体が現れるまでは。
「ひ…!」
引き攣った声が出てしまう。それに反応を示したのか、脳無はその丸太ほどあろう右腕を振り上げる。
(ヒーロー──!)
周囲を見るが、ヒーローは誰も気づかない。なんて不運だ。というかもう間に合わない。迷子の少女に覆い被さる。しかし、焼け石に水。無慈悲にもその腕が振り下ろされ──、
「み〜〜〜〜つけたァァアァア!!!」
黒い怪人が、横殴りにぶっ飛ばされた。その威力は凄まじく、壁に怪人がめり込み、あたりに砂埃が舞うほどであった。
いきなりのことに唖然としてしまう。
「ひーろー…?」
腕の中の少女が目を丸くする。その言葉に応じるかのように、砂埃の中からモーター音が唸り声を上げる。
そして徐々に砂埃が晴れて行き、そこにいたのは──。
「ヒーロー参上だあアァアああ!!」
対の刃を天に掲げ、雄叫びを上げるチェンソーの自称ヒーローがいた。女性と少女は気を失った。
「…あ?気ぃ失ってんじゃね〜か!オイ大丈夫か!?」
五分前。「『個性』使え」と岸辺から許可を貰い、チェンソーの状態で街を走り回ったデンジはようやく標的を見つけた。そしてすぐさま飛びかかり──、そんな事はしない。今のデンジはヒーロー。人命が第一である。つまり──。
「殺される前に殺しゃあ〜イイってことだあぁ!!」
脳無にそのまま斬りかかる。チェンソーを二、三度走らせたところで、脳無も反撃をしてきた。その太い剛脚で回し蹴りを放つ。それを冷静に見極め、デンジはひとまず距離をおいた。
「──脳味噌が鼻下まで行ってるから頭良いやつかと思ったら、やっぱりそうだったみてーだな〜」
鼻の部分まで脳が侵食されている脳無はその言葉に何の反応もしない。
(つーかあいつも体治ってんじゃん)
見てみると、一番初めに付けた傷が癒えている。三度目の傷が今、修復されている途中であった。
「──ウワっ」
観察をしていると脳無がこちらに突進をしてきた。避けることも考えたが、後ろには女性と少女がいる。故に真正面からぶつかり合うしか無かった。
デンジは脳無の腹にチェンソーを突き刺す。そしてチェンソーの回転力を上げた。荒々しい轟音と肉の削れる音が聞こえる。しかし脳無はそれを気にも留めず、デンジの頭部を殴打する。
「アウ!痛ぇ!糞が!痛い!」
しかしデンジはまだ脳無の腹部からチェンソーを抜かない。すると徐々に脳無の力が微々だが弱くなっていくのを感じる。
「も〜ちょいかあ〜〜!?」
そして、チェンソーをずぽっと抜いた後、キックを放ち強制的に距離を取らせる。脳無は踏ん張っていたが、腹にダメージを受けていたのもあり、膝をついてしまう。それを見たデンジは即座に走る。脳無もそれに気づいているが、先ほどより弱いパンチしか打てない。その腕を切り下ろし──。
──ギャギギギガギガギギギギギガガギ!!
脳無の耳元で、そのチェンソーを重なり合わせ、摩擦による大騒音を奏でた。脳無はそれに堪らずに倒れ込む。しかし、脳無はダメージをものともしない様子で立ち上がって──、
「?」
「てめ〜は目と鼻がねえからよ、どっかでそれを補ってるって思ったんだ。んで、顔に残ってんのは耳ってこたあ、てめえは音を聴いてる」
デンジは脳無に向かってゆっくりと歩き出す。しかし脳無は聞こえない。ずっと虚空を殴っている。
「でも耳壊してもすぐに再生しちまうから、どーしよーかと思ってたんだが…頭が良くなった俺は見逃さなかったぜ──お前、傷を受けた順番しか回復できねーみてぇだな〜?」
赤い目がキラリと光る。その視線の先には未だ癒えていない腹の傷がある。
「だから痛い目見ながらずーっと腹ぁ裂いてたんだよ、なかなか治らねえようにな」
そしてデンジは脳無の背後に立った。
「んで耳壊しゃてめえは何の抵抗もできねえ。コレでようやく──」
モーター音が響く。その唸った刃は、脳無の四肢を綺麗に切り取った。
「──ヒーローは殺しはダメだからな。コーソクしてタイホさせて貰うぜ!」
デンジ、WIN。
脳無を広場に置いて、次の獲物を探しに行くデンジ。すると走っている最中に、とあるものを見つけた。
「──あいつは…!」
途端に急旋回し、とある人物を探すのだった。
──ある路地裏。そこで一つの戦闘が起こっていた。所々に氷が固まっており、その上を縦横無尽に飛び回る影。『ヒーロー殺し』だ。飯田の危機を察知した緑谷と轟はその邪悪と対峙していた。
「轟くんは血を流しすぎてる…僕が奴の気を引くから後方支援を!」
「相当危ねえ橋だが…そうだな、──二人で守るぞ」
緑谷がヒーロー殺しへと超スピードで突撃する。それに炎で追撃を仕掛ける。しかし──、
「ぎゃ!」
(動きが違う!さっきよりも、早くなって──)
本腰を入れたヒーロー殺しは緑谷の足を切りつけ、その血を舐める。それによる個性が発動し、緑谷の体の動きが止まる。
「ごめん轟くん!」
残るは轟のみ。轟が個性を使おうとしたその時、後ろから飯田のか細い声が聞こえる。
「……やめてくれ……!もう……僕は……!」
その声に目を見開き──、
「やめてほしけりゃ──立て!!なりてえもんちゃんと見ろッ!!」
その言葉と共に炎を巻き起こす。しかしそれを切り裂いたヒーロー殺しは──、突如動きを止め、後ろに跳躍した。
「…何故、お前が生きている」
その言葉に、緑谷、轟、飯田、プロヒーローは困惑する。しかし、ヒーロー殺しは驚愕の表情を浮かべていた。
「たしかに、殺した筈…だ」
緑谷が後ろを振り返る。そこにいたのは──、
「リベ〜〜〜ンジ…!」
紅く光る眼をした、チェンソーの異形であった。