ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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お久しぶりです。


終末

「流石ゴミ置き場。縛るもんもあるな」

「轟君、やはり俺が引こう」

「お前腕ぐちゃぐちゃだろ」

 

路地裏での攻防が終わり、デンジ達はヒーロー殺しを引きずりながらそこを後にしていた。轟は凍傷と火傷、飯田は腕部がズタズタになり、緑谷は足を酷使した為プロヒーローに背負われている。そして貧血のデンジはふらふら歩きながら自分のシャツに付着しているパワーの血液を蚊の様に吸っていた。

 

「四対一の上にコイツ自身のミスがあってギリギリ勝てた。デンジの作戦が予想外だったんだろうな、緑谷の復活時間も頭から抜けてたし、多分通常なら対応できてた飯田のレシプロも反応できてなかった。ファインプレーだった」

「あー……そりゃよかったーぁ」

 

血が頭に通っていない為、轟の珍しい賛称を受けるが、それに生返事で応えてしまうデンジ。その反応に各員が苦笑する。全員が満身創痍だが、凶悪敵を捕まえたという達成感が、彼等を動かしていた。

 

「む!?んな…!何でお前がここに!?」

「あ…!グラントリノ!?」

 

するとデンジ達のいる向かい側の通路から驚愕の声が上がる。その声に反応する緑谷。その主はグラントリノ。緑谷のインターンシップの担当者である彼は、その個性『ジェット』の力を使い、愛弟子の元へ涙ながらに駆け寄る──。

 

「座ってろっつったろ!」

「グラントリノ゛ッ」

 

事は無く、緑谷の顔面に足裏をめり込ませ、怒りの形相を剥き出しにした。しかし彼の心境を鑑みれば当然であろう。弟子を危険に巻き込まない様にしていたのに、その危険の中心に居たのだから。

 

「まァ…ようわからんが、とりあえず無事ならよかった」

「グラントリノ…」

 

そう言ったグラントリノに、緑谷は罪悪感を覚えながらも頭を下げた。デンジはその様子を見て自身の師と重ね合わせる。

 

(…アレ。こっから殺し合いになんねえのか。俺ん所と教育方法が違えんだな)

 

そんな事を考えていると、プロヒーロー達がデンジ達と合流する。市街地で暴れている脳無に有効でない個性の持ち主が、応援に駆けつけた様だ。

 

「三人とも…僕のせいで傷を負わせた。──本当に、済まなかった」

 

 

ヒーロー達が事情聴取をしていると、飯田が震える声で頭を下げる。彼の心の中は緑谷以上に罪悪感を感じているのだろう。元々正義感の強い彼は、友人を自分の所為で危険な目に合わせてしまった事に後悔していた。

 

「何も、見えなくなってしまっていた…!」

 

頭を下げたまま、後悔の声を絞る様に出す。その痛々しい姿には流石のデンジも何も言えなかった。

 

「…僕もごめんね。君があそこまで思い詰めていたのに、全然見えていなかった。友達なのに……」

「──っ」

「しっかりしてくれよ、委員長だろ」

 

その緑谷の言葉に息を詰まらせる飯田。それを見た轟は、気持ちを切り替えさせるべく、あえて短い言葉で激励を掛けた。

 

「あ〜……じゃあウマイもん奢ってくれ…。腹減ったぜ…」

「……うん。──ああ!何でも奢らせてくれ!何なら俺が作ろうか!!」

「マジ?じゃあ俺肉が良い!」

「野菜も食べないといけないぞデンジ君!!」

 

すっかりいつもの委員長ムーブでデンジにビシィッと指を向ける飯田。それを見た雄英の生徒は、ようやくいつもの『日常』が帰って来たと実感した。

 

 

 

 

「────伏せろッ!!」

 

 

 

 

突如、グラントリノが叫ぶ。その只事ではない様子に、デンジ達はおろか、プロヒーローも反応できないでいた。

ばさっ、と羽ばたく音と共にナニかが飛来する。それは真っ赤な液体を滴らせながら、一直線に──緑谷を掴んで黒い空へ飛び去って行く。

 

「──脳無!?」

「緑谷!──ッ、アレは──!?」

 

その脳無は血塗れになりながらも、右手で緑谷、そして──左手でツノの生えた少女を鷲掴みにしていた。

 

「パ、パワーー!?」

「うわあああああ!!」

 

目から大量の涙を溢れさせながら絶叫するパワーに目を剥くデンジ。その場の全員が固まる中、一人だけ。一人だけ即座に動いた者が居た。それは、デンジ達でも、プロヒーロー達でも無く──。

 

 

 

 

「…偽物が蔓延るこの社会も…徒に力を振り撒く犯罪者も……。全て、『粛清対象』だ」

 

 

 

 

捕らわれていた筈の、ヒーロー殺しであった。無理矢理拘束を解いた影響でその腕は赤黒くなっており、明らかに力が入っていない。しかし、その状態で彼は脳無の急所を的確に貫いていた。

 

「──すべては、正しき社会の為に──」

「うっわ!」

「ギャア!」

 

脳無の拘束から外れた緑谷とパワーは、地面に不時着する。そして、ヒーロー殺しの両の手でまたもや拘束されてしまった。しかしヒーロー達は動けない。ヒーロー殺しと緑谷達の距離が近すぎる。個性を使おうにも、今この場にいるヒーローの個性では有効打にならなかった。

 

「オイ!何故一塊で突っ立っている!?そっちに一人逃げたハズだが!?」

「エンデヴァーさん!あちらはもう!?」

「多少手荒になったがな…そして、アイツが──」

 

その時、場に高圧的な声が轟く。No.2ヒーロー、エンデヴァーだ。その身体は灼熱を纏っており、つい先ほどまで戦闘していた事が分かった。

 

「………エンデヴァー…」

「ヒーロー殺しか!!」

 

ヒーロー殺しの不気味な呟きと同時に、エンデヴァーは腕から迸る赤い炎を向かわせようとする。

 

「──!待て!轟!!」

 

しかし、何故かそれをグラントリノが静止した。この切羽詰まった状況で、自分の攻撃を止められた事に疑問と怒りを覚えたエンデヴァーは、彼の顔を見る。──確かな実力者である彼のその顔は、恐怖に染まっていた。

 

「!?」

 

 

 

 

「──贋物…!」

 

 

 

その声を聞いた途端、轟達は兎も角、プロヒーローすら動けなくなってしまう。それはまるで、彼の個性を受けたかのように。

 

「正さねば──誰かが血に染まらねば──!」

 

エンデヴァーの頬に汗が伝う。普段なら個性の影響で汗は蒸発するはずなのだが──無意識に、その個性が解かれていた。

 

「“英雄(ヒーロー)”を取り戻さねば…!!」

 

女性ヒーローはへたり込む。立っていられないのだ。ヒーロー殺しの出す重圧に。殺意に。──正義に。

 

 

 

 

 

「来い。来てみろ贋物ども…!俺を殺して良いのは…!オールマイトだけだ──!!」

 

「!!」

 

 

その言葉を最後に、ヒーロー殺しは武器を構える。しかし誰も抵抗できない。この場にいる誰もが、彼に飲み込まれていた。

 

 

 

 

「──なあこれどういう状況?」

 

 

 

その時、その場に似つかわしくない声色が響く。はっ、と全員がそちらを見ると、そこにはツギハギの顔の男がビール缶片手に立っていた。

 

「──先生!?」

「お、デンジ。何この集まり」

 

そのいつもと変わらない雰囲気の岸辺に、デンジはふらつきながらも必死に伝える。

 

「アイツが敵だ!なんか、ヤベェ!!」

「語彙力」

「ふざけてる場合じゃねえんだって!マジで!死ぬかもしんねえ──」

「ん?何言ってんだ」

 

その言葉に首を傾げる岸辺。彼はビールを煽りながら、ヒーロー殺しの元へ近づき、そして──その頭を掴んだ。

誰もがぎょっとするなか、岸辺は何ともないように口を開く。

 

 

「コイツはもう気を失ってる。死ぬわけないだろ」

 

「……え…?」

「ほれ、回収」

 

岸辺はエンデヴァーに向かってヒーロー殺しを投げ渡す。それを慌てて受け止めると、確かにヒーロー殺しは白目を剥き、意識は無い状態だった。

 

(気を失ったまま、あのプレッシャーを──!?)

 

戦慄するエンデヴァーを他所に、岸辺はビールの最後の一口を飲みきった。

 

「デンジ、パワー。帰るぞ」

「あ、ああ…」

「デンジィ……おぶってぇ…」

 

「待て、貴様──!」

 

 

岸辺がその言葉に耳を傾ける事はなく、そのまま立ち去っていく。後に残ったのは、最後まで正義を貫いたヴィランと、その正義に竦んだヒーロー達だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「パワー。何でお前アレに捕まってたんだ?」

 

帰り道、岸辺がデンジに背負われたパワーに問いかける。

 

「お前の危機感知能力とずる賢さなら逃げれただろ。あんなのが近づいて来たらすぐ逃げるのがお前なのに、一体どうした?」

 

確かに、とデンジは思う。人一倍ビビりで臆病なパワーが、あの怪物に気づかないとは思い辛い。一体何があったのだろうか。

すると、パワーはぽつり、と口を開いた。

 

「──わ、分からん。分からんが、奴と目があった瞬間に、なんか急に体が動かんくなったんじゃ…」

「体が、ねえ…。ヤツに当てられたか?」

「わ、分からん…もう怖い…ワシ怖い…」

「はあ……まあ良いや、デンジ。パワーのお守りは任せ──デンジ?」

 

岸辺がデンジに顔を向けると、そこにはダラダラと汗を流すデンジがいた。それを見た岸辺は、一瞬で悟る。

 

(ああ、コイツのせいか)

「いやぁ〜!分かんねえなあ!全く分かんねえわ!ああ!」

 

デンジのワイシャツはパワーの血に塗れていた。ヒーロー殺しとの戦いそれを囮に見事勝利した…。そう。デンジはヒーロー殺しに、パワーの血を舐めさせた。と言う事は──。

 

 

 

 

 

「大変だったなパワー!オウ!」

「デ、デンジィ…!」

「──あ、酒切れたな…コンビニ行くぞ、アイス奢ってやるから」

「「わーい!」」

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