ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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ビッグな三人

「はい」

 

どさどさどさ。相澤がデンジの前に置いた書物の数々が、音を立てて崩れ落ちた。

 

「……え?」

「これ見て勉強しろ」

「えぇ〜〜〜!?」

 

その言葉に絶叫しながら飛び退くデンジ。それを予想していたのか相澤は両手で耳を塞いでいた。

 

「何で!?」

「お前この前メディア…テレビに取り上げられてたろ」

「ああ、あれか。カッコよかった?でも俺的にはやっぱり俺でテレビに出たいんだよなぁ〜!」

「馬鹿か。お前の正体がバレなかったから良かったんだよ」

 

意味がわからないと言うように首を傾げるデンジ。それを見て相澤は深くため息を吐いた。

 

「街中での個性使用は禁止されてるよな」

「…あぁ〜。──いや!でも!あれは岸辺のヤローが良いって言ったからよぉ!」

「……お前の今の状況、結構ヤバいんだよ」

 

そこで相澤は懐から新聞を取り出し、デンジにある記事を見せる。そこには大きく、『新たなる敵か!?毒々チェンソーの意志を受け継ぐ謎多き怪物チェンソーマン!』と見出しが乗せられていた。

 

「敵んん〜?俺がァ?イカれてんじゃねえのこいつ?」

「話題性さ。マスコミはとにかく話題を求めて活動しているんだ。お前のこれも、ヒーローとしてのチェンソーマンより敵としてのチェンソーマンの方が市民の目を引ける。人間は自分の身に危険が起こりそうな出来事に必死になるからな」

「ほーん…ひっでぇな〜」

「……すまん」

 

恐らく内容が分かっていないであろうデンジに向け、突然相澤は頭を下げた。

 

「何だよ急に気持ち悪ィな!」

「それともう一つ理由がある。お前が雄英に勤務している事は、世間にはまだ知られていない。いずれ発表しようとは考えていたが──今回の件で、その案は無しになった」

「なんで?」

「……雄英の信用が失われてしまうからだ」

 

苦虫を噛み潰したような顔をして相澤はそう言い放った。その手は力強く握りしめられており、微かに震えている。

 

「前のUSJ襲撃事件──。あの一件で雄英の信用が危ぶまれていたこの時に、世間から敵か敵じゃ無いかわからないお前を受け入れている事が知れ渡れば、雄英の信用はガタ落ち、また雄英に勤務しているヒーロー達もその被害を被る恐れがある。──だから、その…」

 

そこで言い淀む相澤。彼は言いたくないのだろう。人々の心無い声から守るべき相手に、心無い言葉を使う事が許せないのだろう。しかし言わねばならない。彼のモットーは合理的判断。相澤は内心を抑え、あくまでも声色を変えずに口を開こうとした。

 

「あ〜、いいよそれで」

「……」

 

しかし、そのデンジの一声で、相澤の動作が止まる。デンジは目の前の本を眺めながら呟くように話す。

 

「別に今の生活で満足してるからな。居ないもん扱いされるのはまあ気に食わねえけどよ〜、この生活続けられるんだったら俺ぁ居ないもん扱いされても良いぜ」

「…お前…」

「元々親もどっか行ったしな〜。世間サマの中で俺ん事知ってるの多分誰も居ねえし」

「──」

 

その言葉に思わず相澤の息が詰まる。まだ恐らくデンジは教え子と同じ年齢だろう。先程の発言は、成人してもいない少年が口に出して良い発言では無かった。ぎり、と奥歯を噛み締めながらも、相澤は黙るしか無い。この案を、進めていくしかないのだ。しかし──。

 

(だからこそ、この方法しかない)

 

「──お前には、ヒーロー免許を取ってもらうことにした」

「…えぇ?免許ぉ?」

 

デンジはその予想外の単語に首を傾げた。相澤はそんなデンジを見下ろしながら説明をする。

 

「ヒーローか敵か分からないとなれば、決定的な証拠を作れば良いのさ」

「ん〜、そんな簡単に取れるもんなの?」

「無理だな」

「はぁ!?」

 

即答する相澤にデンジは眉を吊り上げ憤慨するが、その鋭い目つきを向けられすぐに黙りこむ。

 

「ヒーローってのは人の命を背負う仕事だ。そんな生半可な気持ちのやつが取れるほど、試験は甘くない」

「おう!まかせろ!やる気しかねえぜ!!」

「気持ちだけだろお前。だから()()だよ」

 

そう言って相澤は、指で数々の本を指す。そこには、はらがぺこぺこしてそうなあおむしが描かれている本などの絵本があった。

 

「お前最近漫画ばっか読んでるだろ。しかも割と残酷なの。教育的本読め」

「だからって絵本はねぇだろ!?そんなガキみてえな事できるかぁ!」

「でもお前ふりがな無いと漢字読めないじゃん」

「………」

 

ぐうの音も出ず黙り込むデンジ。義務教育を受けていないデンジは漢字の読み書きができない。辛うじて読める漢字が金玉くらいなのだ。生きていく能力が終わってる。

 

「少しすれば林間合宿があるのは知ってるな。その合宿が終わったらすぐに仮免試験というものがある。そこでお前には生徒達と一緒に試験に合格してもらう」

「ヤオモモと!?」

 

その言葉に顔を明るくするデンジだったが、相澤はそれをまた視線で咎めた。

 

「だからって気抜くなよ。毎年受験者の五割以上がこの試験に落ちている。さらに試験を受ける奴等は各学校の未知なる個性の持ち主──。いくらお前の個性が強力でも、『わからん殺し』されるぞ」

「ええ…今の俺で受かる?」

「まず無理だな。道徳心がない」

「ウッソォ……?」

 

これは本格的に勉強しないといけないのかと落ち込むデンジに、相澤はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「安心しろ。お前の試験合格に向けて、力を貸してくれる先輩がいる」

「え?誰?」

「ついて来い」

 

そう言うと、相澤は背を向けて保健室のドアを開ける。慌ててデンジは、それに続いて行った。

 

 

 

 

 

場所が変わり、二人がやってきたのは体育館γ──。相澤はデンジと並びながら話す。

 

「まず、お前には弱点がありすぎる」

「は?」

「個性もゴリ押し火力で搦手に弱く、頭も悪い。あと通常じゃあり得ない行動ばっか取る」

「喧嘩売ってんなら買うぜ〜?」

 

額に青筋を浮かべながら骨を鳴らすデンジ。しかし相澤はそれを無視して、体育館のドアを開ける。

 

「お前に必要なのは『基礎』だ。だからお前の個性、頭脳、道徳を伸ばしていく──この人達にな」

 

扉が開かれ、最初にデンジの視界に入ってきた物は、三つの人影であった。

 

「──雄英ビッグスリー。プロヒーロー並みの実力を持つ者たちだ」

 

その相澤の煽りを受け、真ん中の人影──。金髪の青年が、腰に手を当てて口を開いた。

 

「そう!俺たちが!!通称雄英ビッグス──」

 

「ねじれちゃんだーーー!!!」

 

「………」

 

(出鼻…!ミリオ…!!)

 

金髪の青年の口がすぐに閉じた。それを見た黒髪の猫背の青年が心の中で親友を憐れむ。

 

「デンジくん!久しぶり!仮免受けるの?がんばろーね!」

「うん!受ける!頑張る!!」

「……おいデンジ落ち着け。まずは紹介させろ、合理的じゃねえ」

 

ねじれのにこやかな笑顔で手を振る行為に、満面の笑みで手を振り返すデンジを叩いて止めた相澤は、ため息を吐きながら三人に自己紹介を促した。

 

「はい!私波動ねじれ!デンジくんよろしくね!でも私たちもう知り合いだから自己紹介とか要らないよね!なんでさせたんだろーね!不思議!」

「ねー!」

 

ねじれの言うことにデンジはこくこくと頷き、デレデレとした表情を浮かべた。デンジは自身を鍛えてくれるのが、知り合いの、しかも美人の女子であることに最高の希望を抱き始める。

 

「相澤!最高!相澤!最高!」

「ハイ次」

 

「………………………………………………………………天喰環です」

 

相澤が次を促すと、鋭い目つきの、ツンツンと尖った黒髪の青年が、ボソリとそう呟いた。なおその声はデンジには届いておらず、天喰はショックを受けた。

 

(……ああダメだ自己紹介したのに無視された、いややっぱり俺いなくても絶対に良かった気がするんだけどそれにしても無視は酷い…もしかしてわざと?自分より上の先輩を無視して俺は強いってアピールしてるのかそれなら全然強さとか譲るからもうやめてくれほんとに泣く)

「あそこでぶつぶつ言ってるのが天喰環くんね!ノミの心臓だからあんなんなんだって!技量はプロ顔負けなのにね!」

「ふ〜ん…ジメジメしてんな!」

「──ミ゜」

 

デンジのその心無い声で完全に心が折れた天喰はその場に体育座りをしてアリの行進を見始めた。

 

「──そして!最後の大トリを司るのが──!?」

「で、彼が通形ミリオ!今最もNo.1ヒーローに近い実力なんだって!すごいね!」

「──言われたよね!全部ね!」

 

タッハッハーと快活に笑うミリオを、デンジは少し胡散臭げに見つめる。

 

「ほんとに強えの〜?なんか俺でも勝てそうなんだけど──」

 

 

 

 

「「「「いや、それは無いよ」」」」

 

 

 

 

その言葉を発したその時、その場にいた全員が同じ言葉を放つ。その全員からの断言に、デンジも少し腰が引けてしまう。

 

「お、おォ……!?」

「ごめんね、デンジくん。でも絶対、今のデンジくんじゃミリオには勝てないの」

「ミリオは強いよ…この雄英に、ミリオを追い抜かせる人なんていない」

「お前舐めすぎだ、デンジ。通形はな──」

 

「まあまあまあまあ!そりゃ初対面でこの人強いって言われても無理あるよね!俺もデンジ君の立場に立ったらそうなるよ!…だから、そうだなぁ──」

 

そう、ミリオは顎に手を当て──。

 

 

「デンジ君!俺と──戦ってみよっか!」

「はァ〜〜〜!?」

 

 

さわやかなウインクを、デンジに向けて繰り出すのだった。

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