ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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あにめ すごい 


真面目にやろうぜ

「デンジくんの勝利条件は、俺に傷をつける事!どんなに小さな傷でもオッケー、『個性』もどんどん使っていいからね!そんで敗北条件は、君が降参するか、気絶する事!いいかい!?」

 

体を伸ばしながら、ハキハキとミリオはデンジに声を掛ける。対するデンジは、ミリオを睨みつけながら今か今かと体を揺らしていた。

 

「デンジくん、やる気だね!やる気十分!すごいかわいい!」

「──だが、やる気だけじゃミリオには勝てない。可哀想だが…ミリオとあの一年坊の間には絶対的な壁がある」

「……」

 

その環の呟きに、相澤も心の中で賛同する。先程ねじれが言った通り、相澤から見てもミリオはトップクラスの実力を持つ。それは雄英高校の中ではなく、プロヒーローを含めたものだ。既に何度も現場を経験し、そのセンスを鍛えてきたミリオには、デンジは勝てないだろう。

 

(…だが───)

 

相澤は、何かを期待するかのような目で、デンジを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

デンジは怒った。必ず目の前の男を叩き潰すと心に誓った。脳裏によぎるのは、まるで仕方のない子供のわがままを聞いて、苦笑するねじれの表情──、デンジはひどく不機嫌になっていた。

 

(俺の方が強いのに!俺の方が絶対ねじれちゃんの事が好きなのに!このヤロ〜、ぜってぇ吠え面かかせてやるぜ〜!)

 

好意を寄せている異性に笑われる──。それはデンジにとって屈辱的なものである。その恨みをデンジはミリオに向けようとしていた。完全に八つ当たりなのだが、彼にはどうでも良い事だった。

 

「じゃ!相澤先生、合図お願いします!」

 

そしてミリオはデンジの思いなど露知らず、溌剌とした笑顔で相澤に試合の開始を促した。その途端に静寂が訪れる。張り詰めた空気の中、相澤は静かに口を開いた。

 

 

「よーいどん」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、デンジは駆け出した。ワイヤーを一気に引き、頭部と腕部からチェンソーを出現させ、凶悪な音を辺りに響き渡らすその顔はまるで悪魔の形相。しかし、見るもの全てを恐怖させるその姿を見てもなお、ミリオは不敵な笑みを崩さなかった。

デンジは飛び上がり、落下の勢いと共にチェンソーを振るう。そしてその刃が自身に接触するその直前──ミリオは『個性』を使用した。

 

「甘いんだよね!」

「えッ?──っギャッハハハハハ!!!」

 

すると突然、空中で大笑いしながら体勢を大きく崩すデンジ。鈍い音を立てて落下するが、その痛みなど気にもとめない様子で、腹を抑えたまま狂ったように笑っていた。何故なら──。

 

 

 

「あっやべ!」

「チ、チンコじゃん!!ギャハァッハハ!!」

 

 

 

そう。空中にいたデンジが目撃したのは、ミリオの体操着が一人でにはらりと落ちる瞬間──、ミリオのルミリオンがその身をシャバに解き放った時だったのだ。

 

「失敬失敬!調整が難しくてね!」

「……通形」

「わざとじゃないんですイレイザー!」

「ねえねえ天喰くん!今の見えた?私丁度デンジくんの背中で見えなかったんだけど!」

「ミリオ………!!」

「わいせつ物なんとか罪だ!ギャハハハハ!!」

「いや参ったね!ぐうの音も出ないや!はっはっは!」

 

いそいそとズボンを履くミリオと地面を叩きながら笑うチェンソー。どこか緩くなったその雰囲気を、相澤は良しとしなかった。

 

「おい真面目にやれ。デンジ、お前もいちいち笑うな。お前の為に数少ない時間を取って貰ってんだ、お前受かりたくねえのか」

「えぇ〜?今の俺が悪いのぉ〜?」

「揚げ足取るなっつってんだ。プロでもミスる時はある。その時お前は側で笑ってカバーしてやらないつもりなのか?臨機応変に対応するのもプロなんだよ」

「……へいへい、真面目ね、マジメ…」

 

そう睨まれたデンジはうんざりした様子で頭のチェンソーを回す。

 

「…だってよセンパイ。ガチでやらねえと…アイツがプッツンしちまうから……なァ!!」

「え?」

 

起き上がったデンジは勢いのままに、未だズボンの位置を直しているミリオに向け、チェンソーを振り回す。顔を上げたミリオは呆然と迫り来る刃を見つめ──。

 

「──なんつって!」

「あァ!?」

 

──その刃が自分の体をすり抜けたのを横目で見て、不敵に笑った。

ありえない事態にデンジは思わず自分の両腕のチェンソーを確認する。

 

「な、なんでぇ!?」

「隙ありなんだよね!」

 

その大きな隙を狙って、ミリオはデンジの胴体に強烈なキックを叩き込む。吹き飛ばされたデンジは岩壁に激突し、低い声で呻いた。

 

「……ぃイッテぇ〜…」

「おやおや!さっきまでの威勢はどうしたんだい!?」

「チョーシぃ、乗んな!!」

 

煽りを受けた怒りを原動力に、エンジンを唸らせながらまた突撃していくデンジ。先程とは違い、一直線ではなく左右に走りながら揺さぶりをかけていく。ミリオは依然腕を組み、不敵な笑みを浮かべたままだ。

そしてまた正面にたどり着いたデンジは、両腕のチェンソーを振り上げ──、頭のチェンソーでミリオの頭部に刃を差し込んだ。

腕に注目させたフェイント。間違いなく攻撃が当たったと確信するデンジだったが、なぜか自身のチェンソーに手応えがない。不審に思い、目の前の標的の様子を見てみると──。

 

「おいおい、殺意高すぎじゃない!?もっと平和的解決しようよ!」

「えぇ〜〜〜!?」

 

ピンピンしていた。眉間にチェンソーが刺さっているにもかかわらず、ニコニコとデンジの肩に手を乗せている。その反応に驚愕の声を上げたデンジは、素早く後ろへ飛び退いた。

 

「あ、そっか。俺の個性も教えといた方が良かったね!」

 

ぽん、と手を叩き、ミリオは妙なポーズを取りながら自身の個性を説明した。

 

「俺の個性は『透過』!何でもかんでもすり抜ける!だからさっきの君の攻撃は効かなかったんだよね!」

「そうかよ!ず〜っととーか出来んのかぁ〜〜!?」

 

そう言って、デンジはそばにある壁を乱雑に切り取り、ミリオに向けてぶん投げる。それを見つめ、依然ミリオは動かなかった。彼の上半身を岩壁がすり抜ける。

 

「この通り!」

「ズルだ!ズルズル!」

 

両の刃を上下に振りながらデンジは憤慨する。そんな彼の様子を見て、環は静かに目を伏せた。

 

(ズル…か。ミリオの個性は決して羨まれるものじゃない。本当にズルいというのなら、その技術──ミリオが培ってきた努力を感じ取れないのなら、君は一生追いつく事は出来ないよ)

 

「そんで透過中に物体と重なり合った時、個性を解除すると──()()()()。どうやら質量のあるものが重なり合う事は出来ないらしくてね…こんな風に!」

 

そう言ったミリオは走り出し、地面へと沈んでいく。後には取り残された服だけが残った。

一瞬の静寂も束の間、どこから襲撃してくるのか警戒していたデンジの目の前に突然現れるミリオ。そしてそのまま、デンジの変化した頭部を殴りつけた。

 

「急に現れる事ができる!どう?強くない!?」

「いってえな…」

「どんどんいくよ!」

 

そう言い放つと同時に、デンジの身体に無数のラッシュを叩き込んでいく。デンジもチェンソーを振って対抗するが、悉く躱され、透過されて手も足も出せない状況だった。

 

「……イレイザー、もう良いでしょう。これ以上は無意味だ、彼が潰れてしまう」

「……っ」

 

苦い顔をしながら環は相澤にそう伝える。その彼の背後には、同じく懇願するような顔をしたねじれが小さく頷いているのが見えた。

それを受け、相澤は再びデンジの様子を見つめる。異形と化した彼の体は度重なる殴打を受け、あざが出来上がっている。足元もおぼつかなくなっており、チェンソーの刃の回転も心なしが遅くなっているように見えた。

 

「──無意味か」

 

相澤のその呟きに、二人はどこか安心したような表情を浮かべる。相澤は視線をずらす事なく、静かに口を開いた。

 

「……俺のやり方は知ってるよな、天喰」

「──え?」

「『合理的判断』、それが俺のモットーだ。…たしかに今、デンジは通形にボコされてる。まあ、良い経験になるだろう。デンジにとってはな」

「…イレイザー!俺たちは真面目に言ってるんです!彼のことを思うなら──」

「この俺が、デンジだけに得をさせるなんて言う、非合理的な演習をさせると思うか?」

「え…?」

 

誰もがこの戦闘を見て、デンジに勝ち目は無いと口を揃えて言うだろう。だがしかし、相澤だけ──プロヒーロー、イレイザーヘッドとしての観察眼は、ソレを見逃さなかった。

 

 

「アイツの強みはこれからだ。よく見とけよヒヨッコ共」

 

 

拳の雨に打たれながらも、虎視眈々と反撃の機を逃すまいとギラついている橙色の眼光を見ながら、相澤はそう言った。

 

 

 

 

 

「オラァ!!」

「ほいっと」

 

デンジの気合いを込めた一閃を軽々と避けたミリオは、お返しとばかりにデンジの腹にボディブローを叩き込んだ。ズドン!とまるで大砲のような音を立てて、デンジの体は僅かに宙に浮いた。

 

「ゲホッゲホ…オエぇ」

(予想以上にタフだな…)

 

えずくデンジに、ミリオは心の中で戦慄する。心優しいミリオには、未来ある後輩を必要以上に痛ぶる趣味など無い。故に最初の一撃で終わらせるつもりだった。

だが、ミリオの全力を持ってしても、デンジをダウンさせる事は出来なかった。だが──。

 

「あ゛〜〜〜!腹ぁばっか狙いやがってよ〜!ゲホッ、ゲホッ」

 

腹を押さえながら苛つくデンジを見て、ミリオは確信する。

 

「そりゃあね!回復能力って言っても、流石に身体の芯に響く攻撃までは完治できないでしょ?」

「気分悪りぃ〜〜」

 

その反応で、自身の立てた予測が間違っていない事を確認したミリオ。デンジの再生能力はあくまでも受けた傷を治すもの。内臓に響いたダメージは治し辛く、更にそれによる吐き気や眩暈は治るものでは無かった。

チェンソーの回転率が目に見えて落ち始めるのを見たミリオは地面へと沈む。もうこれ以上可愛い後輩を苦しませないように、最後の攻撃を仕掛けるつもりだった。

 

 

 

 

「あぁ!?まただ!!」

 

ミリオが地面へと沈み、デンジが焦ったように辺りを見回す。それを見て、ねじれは思わず相澤に駆け寄った。

 

「ねえねえ、先生。もうやめさせよう?これ以上見たくないよ」

 

デンジがねじれを慕っている事を、ねじれ自身もひどく嬉しがっていた。世話が焼ける弟ができたようだと思っていた。そんな彼が自身の友達に潰される光景など見たくない──その一心で相澤に静止を促したのだが──。

 

「…まだだ」

 

相澤の口から了承の言葉は無かった。その言葉にまた口を開こうとして──それをやめた。相澤の性格上、発した言葉を曲げる事は無いと分かっているから。

 

「……デンジくん」

 

せめて、せめてとねじれは祈りを込める。願わくば、もうデンジが立ち上がらないように──。

 

 

 

 

 

──デンジの背後にミリオが現れる。だがその挙動に、デンジは体を向け、反応した。

 

「今までさんざん後ろからやられてっからなぁ〜〜!」

(俺の動きを予測──()()()()()()!)

 

だが、それもミリオの罠。背後からの攻撃ばかりしていたのは、デンジの体力を奪う事──そして、デンジに『ミリオは背後からしか攻撃しない』という情報を植えつけるためでもあったのだ。

ミリオは指を一つ突き出し、それをデンジの変化した橙の眼に向け、勢いよく突き刺した。

 

「必殺──ブラインドタッチ目潰し!!」

 

目潰し。だが本当に眼球を潰すわけではない。透過によるただの虚仮威し。だが、これまでの相手には全て有効だった。迫り来る指。本能的に回避しようとして目を瞑ってしまうのが当然である。そして本命は、力が込められた逆の拳──!

 

「デンジくん!キミは真面目に訓練すればとんでもない力を身につけることができる!一緒に──がんばろう!!」

 

その激励と共に、左拳がデンジの脇腹に当たる────。

 

 

「ぃ今ァァァ!!!」

 

 

その雄叫びと共に、ミリオの首元に二対のチェンソーが迫り来る。

 

「──ッ!?」

 

すかさず透過を使い、その攻撃を躱していく。しかし、突然の出来事に個性が上手くコントロールできなかったのか、拳までも透過させてしまい、その隙を見計らったデンジに距離を取られてしまった。

 

 

 

 

 

「嘘…」

 

ねじれの驚愕の声が静かに聞こえる。誰もが終わりだと感じたその時、デンジが反撃したという事実を、まだ受け入れられずにいた。

 

「…自分の眼球を潰そうと迫り来る指に向かって、なんでお構いなしにチェンソーを振れるんだ…!?」

 

本能的に抗えないはずの回避行動。それをデンジは無視して突っ込んだ。普通の人ならあり得ない行動に、当人ではないにも関わらず冷や汗を出す環。

その視線の先には、だらりと両腕を下ろした異形──その姿は、プロと遜色ないとまで言われている彼の背筋を凍り付かせるほど不気味だった。

ミリオも後輩を見る優しい目つきから、鋭い目に変わる。辺りが沈黙に包まれる中、一つの声が響いた。

 

 

「……さっきからよ〜〜〜……」

「……?」

 

「真面目にやれだの、真面目にすれば、だの!あーだのこーだの…!──俺ぁ最初っからマジメだっつーーの!!」

 

(……え?)

 

 

急に両腕を振り回しながらそう叫ぶデンジに、困惑する一同。それにお構いなしと言わんばかりにデンジは溢れ出る愚痴を止めなかった。

 

「俺ん戦い方がヒーローっぽくねぇって言われっからさぁ!ヒーローみてぇなキレ〜な戦い方してたけどさあ!!」

「──あ」

 

ねじれは思わず声を上げる。保須市での一件後、デンジはミッドナイトとねじれに説教を受けた。自分を大切にしろと。そんな姿じゃ、助けてもらった人も笑顔にならないと。

彼は律儀にも守ろうとしたのだ。自分らの求めるヒーロー像に成ろうと努力していた。

 

「み〜〜んなマジメにやれってさあ!!どうすりゃ良いんだよ!」

 

抑圧していた心は、一つタガが外れれば全て噴き出る。そのデンジの我慢は、一気にキャパシティを切り裂いた。

 

「…波動さん?」

「ち、ちが、ちがうの、デンジくん」

「デンジくん?あ、あの…ごめんね。俺がズケズケと──」

 

 

 

「いいぜぇ!そこまで言うならマジメにやってやんよ!!俺ぁ俺んやり方でよぉ〜〜、マジメにテメェをぶっ殺してやるぜええええ!!!」

 

 

そういったデンジは、再びワイヤーを引く。凶悪な音がまた鳴り響き、それに比例して噴き出る血液も多くなっていく。血潮降り注ぐ悪天候の中、チェンソーの怪物がミリオに向けて走り始めた。

 

「──まっずい」

 

ミリオはまたもや地面に潜り込み、その思考をフル回転させる。

 

(明らかにハイになってる──俺がデリカシーなかったからか。めちゃくちゃ反省!…ともかく彼をなんとかしなくちゃいけない)

 

ではどうするか。全力の攻撃じゃデンジを無力化する事は出来なかった。ならば──。

 

(──()()()()の力を出せば良いだけだよね!)

 

脳筋。あまりにも脳筋な作戦だったが、ミリオの頭は冷静だった。小細工は通用しないことが先ほどの目潰しで判明した。そして興奮状態になっているとは言え、腹のダメージは残っているはず。それならば、全力以上の一撃を、今まで狙わなかった頭部に向け放つ。ミリオの脳内コンピュータが叩き出した結論はそれだった。

 

(Plus Ultra…限界を越えろってね。それに、怒らせちゃったのは俺の責任だから)

 

おそらく今デンジは頭上を通ったはず。ミリオはそう予測し、ポーズをとった。ここで個性を解除すれば、デンジの真後ろに弾き飛ばされる。そしてまた振り向いた所に、渾身の一発をお見舞いする…!

 

(──解除!)

 

その計算を信じ、ミリオは個性を解除した。光までもが透過する暗闇から瞬時に明るい世界へ到達した彼は、迷いなく拳を前方に振りかぶり──。

 

 

「──え?」

 

 

どこにも居ない。標的の背中が、どこにも見当たらなかった。何故。その感情が、ミリオを襲う。予測は完璧だったはず。ではどこに──?ミリオは目まぐるしく視界を動かす。少し右にずらした先には、自分の同期二人が、青ざめた表情で自分を──いや、こちらを見ている光景。その横に居る相澤は、視界を確保するために、髪をかき上げようとしていた。

そして、ミリオは見てしまった。自身のすぐ左横。

 

そこに──チェンソーが貫通した腕が浮いていたのを。

 

 

 

「てめ〜の個性…!解除する時よぉ〜、物があったら弾かれんだよな…?」

「──うそだろ」

「じゃあ簡単じゃねえか!出てくる所予測してよ〜、そこに物置きゃあてめえを誘導できるってこった!」

 

 

右横から声が聞こえる。そこに目を向けると左腕を失ったデンジが、こちらにもう一つの刃を振り翳しているのを、見つけた。

 

「やっば」

「肉切ってェ!骨切ってェ!テメェ切って終わりだァァ!!」

 

そう言いきり、デンジはチェンソーを振り下ろす。ミリオは眼前に迫りくるチェンソーを見て、反射的に目を瞑り、個性を発動した。

 

巻き起こる土煙。ハァァ、と息を吐いたデンジが横を向くと、そこには受け身をとってこちらを見つめるミリオが居た。

 

「──キミの身体なんだ。もうこんな作戦は使わないでくれないか」

「あァ〜?大丈夫だよこうすりゃあ!!」

 

またワイヤーを勢いよく引く。するとエンジン音と共に、再び失った腕が再生された。

 

 

「完〜〜〜〜〜治!!ギャハハハハハハ!!!」

 

 

「──ッ」

 

ミリオはどこかで甘く見ていたのかもしれない。目の前にいる男は、ただの可愛い後輩ではなかった。正真正銘、この雄英を襲った──敵であった事を、嫌が応にも、再確認させられた。

 

「ハハハハははは……は…は………」

 

すると突然、その勢いが無くなっていく。弱々しく笑った後、デンジは──白目を剥き、その場に倒れ込んだ。

 

「──え、ちょっとデンジくん!?大丈夫!?」

「ははははーー……」

 

顔は青白くなっており、肌も冷たくなり始めている。間違いなく貧血の症状が出ていた。慌ててデンジを背負うミリオ。

 

「通形!デンジは──」

「貧血です。でもすぐ輸血すれば何も無いはず!」

「急いで婆さんのところへ連れてくぞ」

「はい!」

「通形…!」

 

そのまま走って行こうとしたその時──ミリオはねじれに呼び止められた。

 

「ん?」

「──大丈夫、だよね」

「……もちろん!!なんたって、俺がいるからね!」

 

じゃ行ってきまーすと風のように去っていくミリオを相澤は見届け、未だ顔色の悪い二人に向き直る。

 

「…なんなんですか、アレは。怖すぎる…異常そのものじゃないですか」

「──通形は、実践経験も豊富なヒーロー…。あいつの強みは経験と予測にある。デンジと今日戦わせたのは、ああいう敵にどう対処するか、って言う訓練でもあったんだが──…やらせすぎたな」

「そんな意味が…」

「そして天喰。お前はデンジに基礎学力を身につけさせろ。お前は人見知りが激しすぎる。デンジと喋れれば誰とでも喋れるようになる」

「…俺にできるとは思えない」

「やるんだ。そして波動…お前にはデンジのメンタルケアを任せたい。あと道徳心も学ばせてやれ」

「……はい」

 

 

ぽつりと呟くねじれを見て、相澤はひとつため息をついた。ねじれが何を思って暗い表情を浮かべているのか分からない。環もより一層怖がってしまった気がする。

 

(──会わせるの、早すぎたか………)

 

 

その二人の様子を見て、相澤は頭が痛くなるのを感じた。

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