ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
最後にアンケートありやす。あなたのアンケート次第でデンジ君が幸せになるかならないか決まるかもしれないし決まらないかも知れない
「オラァ!」
「ほいっと!」
体育館γ──、そこでは、一つの戦闘が行われていた。荒ぶるチェンソー音と共に進撃する異形の攻撃を、一人の青年がいなし続ける。
「今日こそぶっ飛ばしてやるぜ〜!」
「ふふん、できるかな!?」
くいくい、と手招きするミリオに、デンジはチェンソーを振り回しながら突撃した。だが、プロに最も近いと言われる実力のミリオにとって、それを躱すことは容易く──。
「悪いけど本気で行くよ!短縮版、ファントム・──!」
「あ、やっべ」
岩壁に沈み込んだかと思うと、次の瞬間──個性を解除したミリオが弾き飛ばされ、高速で拳をデンジの顔に叩き込んだ。
「──メナスッ!」
「グェエ!!」
その攻撃を受けたデンジは勢いよく吹き飛ばされるが、うまく受け身を取ってミリオを見据える。再び彼が突撃しようと、チェンソーを唸らせると──。
「……はい5分経った!休憩!!」
「──あぁ〜疲れたァ〜〜〜!」
離れたところに置いていたミリオの携帯が軽快な音楽を立てた。その瞬間に、二人は息を吐き、同時に地面へ座り込んだ。
「やっぱアンタやだなあ、強えしうぜえし」
「いや、俺も怖いよ…一発でも食らえば終わりなんだからね!」
どろり、と橙色の頭部が溶け、うんざりとした表情をしたデンジは仰向けに寝転がる。それを受けたミリオは苦笑をし、スポーツドリンクを飲んだ。
「デンジくん、はいこれ!」
「お、サンキュー!…美味え!!」
デンジの隣に座ったミリオはもう一つのドリンクをデンジに渡し、汗を拭う。
「デンジくん強くなってきたね!動きにキレが出てきてて俺、動き辛くなってるよ!」
「でもてめえ当たんねえじゃん…」
「そりゃあ透過だもん!」
「ズルい!」
そのドヤ顔に声を荒げるデンジだったが、頭のふらつきに顔を顰めて大人しくなる。
「うげ…やっぱ長期戦はニガテだな〜、血が足んねえ」
「うん、俺もデンジくんと戦うんだったら粘って粘りまくるね。最初の一、二分は破壊力抜群だけど…。持続力がね…」
「いっつもほうれん草とか食ってんだけどなあ」
そのぼやきを最後に、二人は頭を抱えて黙り込む。少しの間の後、突如ミリオが口を開いた。
「…あのさ、デンジくん」
「あ?」
その普段の飄々とした顔とは一変、真剣な眼差しで見つめてくるミリオに、デンジの肩が少し強張る。そして、ミリオはその口をゆっくり開いた。
「──波動となんかあった?」
「──────────────無い」
「いやあるでしょ」
じっくり考えた後、デンジは否定の意を示した。思い返すのは先日の保健室にて起こった惨劇。別に伝えてもよかったのだが、それをしてしまうとねじれの乙女の尊厳が失われてしまうことに気づいたデンジは、ゆっくりと頭を振った。
「ない」
「……最近、あいつデンジくんの事ばっか話してるんだよ。『尽くす』とか、『私が居ないと』とか…。──本当に何もしてないんだよね?」
その鋭い視線の奥には、友人を心配に想う心が見え隠れしていた。並大抵の者なら怯えるほどの気迫を出すミリオ。しかしそれを受けたデンジはどこかイヤなものを思い出すかのように体を震わせる。
「…俺ぁどっちかっつーと被害者側だぜ」
「ん?」
「思い出させんなよ…うっ」
「…どゆこと?」
「いーや、なんでもねえや…ああクソ」
心底困惑した表情のミリオに構うことなく険しい顔で舌を出すデンジ。それを見たミリオは、これ以上問い詰めても自分が得られる情報は無いと判断し、息を吐く。
「…彼女、結構思い詰めてたみたいだからさ。デンジくんからもフォローしてあげてくれると嬉しいな」
「…フォローって、何すんの?」
「わかんない!」
「えぇ〜?」
「俺じゃなくて、デンジくんが考えた事だったら、あいつはきっとなんでも喜ぶと思うよ!」
「……」
その言葉に黙り込むデンジ。そう言われても、何をどうすれば良いのか分からなかった。
なんせ今まで自分は犬のような人生を送ってきた。指示された事をして、それを遂行して、また新しい指示を受け…。そんな人生故に、デンジは自分で考える事が出来ないのだった。
「──ま、何とかするぜ!」
「うん、期待してるよ!」
とりあえず細かいことは考えないようにし、今は課題である戦闘訓練に集中することにしたデンジ。再び頭を抱える彼に、ミリオは指を立て口を開いた。
「デンジくんデンジくん、『必殺技』!作ってみない!?」
「『必殺技』!?漫画みてえなやつか!?」
「そう!本来ならもうちょっと後に提案しようとしたけど、可愛い後輩が伸び悩んでいるのに出し惜しみは出来ないよね!」
「ぃやったぁー!!必殺技だ必殺技!!俺さ俺さ、ビーム打ちたい!」
「それは無理!」
即座に笑顔で却下するミリオは、その顔のまま指を一つ立てた。
「確かにコミックヒーローの必殺技はカッコいい!だけど現実的じゃないといけないよね?デンジくんの個性で実現できる範囲で考えていこう!」
「任せろ!色々昔から妄想してたからなぁ!もう十個は思いついてるぜ!」
「よっしゃ!じゃあやってみよっか!」
そう言うや否や、デンジとミリオは立ち上がって、アイデアを出し始めた。
ケース1。
「ハイ!ロケットパンチとかどうよ!?」
「おぉ!良いねそれ、どうやってやるの!?」
「簡単だぜ〜、まずは飛ばしたい腕を切り落として──」
「却下ね!それダメ!」
「えぇ〜〜!?」
ケース23。
「一旦自傷から遠ざかろうか!その姿でこう…なんか、なんかしてみて!」
「なんかってなんだよ!?うわあ!?」
再びチェンソーと化したデンジがその無茶振りに抗議しようと振り向く。しかし足元にあった岩に気付かず、そのまま転けてしまう──かと思いきや。
「あぶねえ!…え?」
「え?」
しっかりと
「「チェンソー引っ込めれたの!?」」
「すごい!凄いよデンジくん!これなら非殺傷で敵を無力化できるかも知れない!」
「いやそれはそうだけどさあ!何か必殺技っぽくねえ!却下ァ!」
ケース54。
「領域ィ…!展かぁい!!」
「すっごい出てるね!血が!滝のように!(倒置法)」
通算83回目の試みを終えた後の二人は満身創痍であった。
「げ、限界か……」
「おぎゃ、おぎゃ…」
少しやつれた様子のミリオは、隣で倒れ込んでぶつぶつと何かを呟くデンジを見る。
ミリオが出した提案──チェンソーで地面を割る、火花を散らして目眩ましに使う──などは割と良い案だったのだが、デンジが『必殺技っぽくない』という理由で却下していた。ミリオも人が良いためそれに頷き、デンジの考え主体で考え始めたのだ。
その当の本人は、空を飛ぶ、バイクになる、巨大化する、頭をちぎるなど荒唐無稽なものを言い放ち、悉く却下されたので若干幼児退行していた。
そんな体力的にも精神的にも限界がきたところで、体育館γの扉が開かれる。
「……おつか」
「──デンジくん!!」
「あぁ〜〜?」
その言葉と共に、デンジに飛びついてきたのはねじれであった。ねじれは涙目になりながらデンジの体を隈なく弄っていく。
「大丈夫?平気?痛いことされてない?」
「おんぎゃ、んぎゃ、ぎ…ぎゃ!ギャアアアア!!」
「デンジくんが壊れちゃったあああ!!」
壊れたデンジの首が180度動くほど揺さぶるねじれをよそに、ミリオは扉の隅でノミのように小さくなっている環に声を掛ける。
「や、環。どうしてここに?」
「…気づいてなかったのか?ミリオ、あとちょっとで貸切時間は終わりだよ」
「え──あ、ほんとだ」
外を見るともう薄暗くなっており、そこで初めてミリオは半日以上時間が経っているのを認知した。
「…デンジくんはどうしたんだ」
「必殺技考えててオーバーヒート。あー、俺もあったま痛い!」
「必殺技…。もうそこまで踏み込んでるのか」
「基礎はできてると思うからね。そっちはどうなの?天喰先生のレッスンは」
「…ぼちぼちかな、数学とか理科とか、方程式があるやつはでき始めてるけど。…人の気持ちを読み取る国語とか、そこらが…」
「ああー…」
自分の横に座り込み、頭を抱えるミリオを見て、環は小さく笑った。
「…なんだよ?」
「いや、ミリオが悩まされるなんて珍しいな」
「な、失礼な!俺だって日々悩んで生きてるんだからね!」
そう憤慨したミリオだったが、ゆっくりとその目を優しげなものにして、遠くでもみくちゃにされているデンジを見る。
「……デンジくんは今までどうでも良いように扱われてるから、悩まれる事はなかったんだ。だから、そのぶん俺たちが悩みに悩みまくってあげられたら──ちょっとでも、彼の苦しみを理解してあげられるんじゃないのかなって」
「ミリオ…」
「ま、気休めかも知れないけどね!」
そう言ったミリオは屈託のない笑みを浮かべ、立ち上がった。その様子を見た環もまた笑みを浮かべ、それに続いていった。
「デンジくん!今日の訓練終わり!」
「えぇ!?もう!?」
いつのまにか復活していたデンジは、その言葉に不服そうな表情を浮かべる。
「全然進めてねえじゃねえか!必殺技!」
「また今度やろ!もう貸切時間きちゃった!」
「マジでぇ〜?」
言われてデンジは渋々立ち上がり、大きく伸びをした。
「…あ〜、疲れた…。血ぃ足りねえなぁ…」
「私の飲む?全然良いよ、デンジくんなら。というか飲みなよ!」
「い、いやぁ…別のもん飲まされそうで怖えから良いよ」
自分の腕を差し出しながら詰め寄るねじれの口元を見て、青い顔をしながら遠ざかっていくデンジは、ふとあることを思い出す。
「……ん?」
「?どうしたのデンジくん」
「…あぁ〜?ん?」
「そ、そんな急に…」
突然自分の顔を真っ直ぐ見つめるデンジにねじれは赤面しながらも見つめ返す。ミリオと環もどうしたのかとデンジに問いかけようとしたその時──。
「あぁ!?」
デンジが突然声を上げた。その声に体を跳ね上げたねじれを傍へ退かせ、ミリオに視線を向ける。
「おい!オイ、もっかいだけやらせてくれ!」
「え?いや、でも………」
「ぜってえ成功させるからさぁ!ラスイチラスイチ!」
「……自信は何%?」
今までの数打てば当たる様なものでは無く、確信を持った目をしたデンジに、ミリオはそう問いかける。デンジはゆっくりと人差し指を立て、それに応えた。
「10000!!」
最後のチャンスを貰ったデンジは、チェンソーと化していた。
「いくぜ〜!」
やる気を取り戻した彼の姿を見て、雄英ビッグ3は困惑の表情を浮かべていた。
「デンジくんは何をするつもりなんだ…」
「う〜ん、分かんない!」
「危ない事だったらやだよ…。すぐ止めよ?」
「そういう事は全部却下してるから大丈夫な筈なんだけどなぁ」
そんな会話をしていると、デンジが動き始めた。右腕を引き、勢いよく突き出す。すると、腕のチェンソーに明確な変化が現れた。
「…!なんだ、アレ!チェンソーのチェーンが…!?」
金属が擦れ合う音と共に、チェーンがまるで糸の様に射出される。それは岩壁に突き刺さり、しっかりと固定される。
「…ねじれちゃんが持ってきてくれたマンガ…!『スパイダー男』がやってたぜ…。アメリカのビルに糸引っ掛けて飛び回ってよ〜、高速で動き回りながら敵をやっつけてた」
「飛び回りながらよぉ!チェンソー振り回しゃあ、めちゃ強えんじゃねえのかぁ!?」
「……いい、いいねデンジくん!めちゃくちゃ必殺技っぽいよ!」
「ああ〜、これで最強だぜ俺は!ありがとなねじれちゃ〜ん!!」
「え…、わ、私何もしてないよ」
「してるよォ〜〜!」
「え、えぇ?そ、そうかな…えへへ」
「…その移動方法だったら、俺も力になれるかも知れない。タコ食べたらそういう動きもできるし」
「おぉ!さすが環!頼りになるな!」
「ふ…そんな事はないさ」
「マジかタマキン!なんでもできるな!」
「タマキンはやめてくれ」
「よーし!じゃあみんなでデンジくんの新しい戦闘スタイル、磨いて行こうか!!」
「「「おーーー!!!」」」
…こうして、練習を切り上げさせる為に訪れた二人も加え、デンジの特訓は幕を開けた。
「ぁお前らいつまでバウバウガァルルルルルルゥアってんだ!!出ガウバウルルァ!!」
──それを開始して五分後、見回りのハウンドドッグに本気で怒られたのだが。
デンジは…
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『ヒーロー』になる
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『ヴィラン』になる
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『チェンソーマン』になる