ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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短い。


手の中!

「……涙」

 

その声を耳にして、デンジの意識はようやく再起動する。目の前の女性は、そう言ってデンジの目元を指差した。

 

「え……?」

「すごかったね」

「あ…ハイ……」

(サイアク!恥ずかしい!)

 

その言葉にデンジは赤面し、慌てて目を乱雑に拭こうとするが──それはスッと伸びてきた手に止められた。

 

「目、傷ついちゃうよ。これ使いな」

 

そう言った女性は、ポケットからハンカチを取り出し、デンジに差し出す。ハンカチと女性を交互に見たデンジは、恐る恐ると言った様にそれを受け取った。

 

「…拭かないの?」

「拭きます…」

 

柔らかい材質のハンカチで、目元を拭うデンジ。ふわりと、甘い匂いが鼻腔をついた。

 

「……あの」

「ん?」

「お名前は…?」

 

デンジは呆けた表情のまま、そんな事を言った。上鳴とよく休み時間に話していた、異性を口説くコツが活きるとはデンジ自身も思いもしなかった。

女性はきょとんとしていたが、やがてゆっくりとその艶やかな唇を開いた。

 

「マキマ」

「マキマ、さん。…好きな、タイプは?」

「え?うーん…そうだな」

 

そして一拍置いて、マキマは呟いた。

 

 

「デンジくんみたいな人」

 

 

デンジくんみたいな人。デンジくんみたいなひと。デンジクンミタイナヒト。デンジ/くん/みたいな/人。

 

 

 

 

 

「……俺じゃん」

 

 

 

よくよく脳内でその言葉を変換して、出た結論がそれだった。

その普通なら思っても言わないであろう発言をマキマはにこやかに流し、デンジを見つめる。

 

「君、面白いね。今日は誰かと来てるの?」

「え?…あ、はい。す──」

 

好きな人と。と言おうとして、デンジは固まる。

 

(待て。今俺すっげえこの人の事好きだけど、ジローとヤオヨロはどーすんだ?あいつら二人の事が好きで今日を過ごしてたのに、急にマキマさんの事気にすんのって、すげえクズなんじゃねえか…?)

 

かすかに残ったデンジのマトモな思考は自身にイエローカードを出した。こんなのは論理的に間違ってるだろう。それならばさっさと白状して二人にまた集中すれば良い。そう考え、デンジは──。

 

「す?」

「す──ごい良い友達と、三人で来てます…」

 

 

小首を傾げたマキマにやられ、思考とは真逆の発言をしてしまった。

 

 

(あああああ!馬鹿!俺の馬鹿!)

 

それを聞いたマキマは微笑んだまま、ぽつりと呟いた。

 

「そっか、いいね。友達」

「…?」

 

一段低いトーンで放たれた声に首を捻ったデンジだったが、すぐにその行為を止めてしまう。なぜなら──。

 

 

「デンジくん。明日、空いてる?」

 

 

ずいっ、と顔を寄せたマキマが耳打ちをしてきたからだった。その鈴を転がしたような声が、耳の中を走り、鼓膜を貫き、脳髄へとたどり着き──。

 

 

「空いてまァす……」

 

 

デンジは即答した。

 

 

 

 

 

 

 

「面白かったねー」

「ええ。流石話題になるだけのことはありましたわね。…デンジさん?」

「へぇ?」

 

三人は夕暮れの帰路を歩きながら映画の感想を言い合う。しかし、先ほどから様子がおかしくなっていたデンジをみて、堪らず二人は声を掛けた。

 

「大丈夫ですか?どこか、具合が悪くなったりなどは…」

「画面で酔ったん?水買う?」

 

デンジは二人を見つめる。眉を下げ、純粋に自分の事を心配してくれている八百万。ぶっきらぼうだが、確かに身を案じてくれている耳郎。そんな二人に、デンジに深い罪悪感が募った。

 

(二人は俺の心配してくれてんのに、俺ぁ映画から二人の事を見てなかった。…それってよぉ〜、男として最低な事だよな…!)

 

デンジの心に火が灯る。それは情けない自分に喝を入れる灯火だった。

 

(──決めたぜ。俺ぁもう、この人たち以外の女の子を、好きになったりなんかしねえ!マキマさんも忘れる!)

 

「──大丈夫だぜ!俺ぁ大丈夫だからな!ジロー!ヤオヨロ!」

「──は、はぁ?」

「ええ、まあ…大丈夫なら、良いのですが…」

 

鼻息荒く、決意を新たにしたデンジを耳郎と八百万は、困惑の目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけばドアノブを握っていた。

 

 

「──あぁ?」

 

そこで初めてデンジは、自分が何をしていたか思い出す。

二人と別れて帰った後、風呂に入り寝て──朝になって、朝飯を食べて、歯を磨いて、仕事着に着替えて、電車に乗り、ここに来た。人が多い市内にある一つの建物に着いた所で、その動作を止めていた所だったのだ。

 

(な〜んだ、じゃあさっさと開けねえと。待たせても悪ぃしな!)

 

遅刻など、今から出会う人物に失礼だ。マキマさんは許してくれるだろうが、印象は最悪。どうせなら、美人には好かれたいと言う気持ちがデンジには──。

 

(……マキマさん?──いやいや、もう会わねえって決めたじゃん。じゃあどこ行ってんの、俺)

 

ゆっくりと顔をあげ、黒いドアの上に書かれた文字を確認する。

 

『公安対敵特異課4課』

 

不自然に、ドアノブを握る手に力が籠った。デンジは、重大な事を忘れてそのまま寝て、朝起きて思い出したような嫌な気分を覚える。

しかしここまで来たからにはと、力を込め、捻り────。

 

 

 

 

 

【開けたらダメだ】

 

 

 

「……………ポチタ?」

 

 

その時、親友であり、家族でもある存在の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【逃げ

 

「おいで、デンジくん」

 

突然勢いよくドアが開き、手首を掴まれる。そのぞっとするほど綺麗な手の主──スーツに身を包んだ女性、マキマは、昨日と同じ表情をして、デンジを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マキマさんはマジで難産なんです。どんな事言うだろうなぁって考えてたら三回くらい支配されるんです。マキマさん最高と言いなさい。
ほら。
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