ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「改めてようこそ。公安対敵特異課4課を任されている、マキマです」
モダン調の黒いソファーに座ったデンジは、目の前に座ったマキマの自己紹介を聞いて会釈をした。
「デンジっす。年は…たぶん、十六?くらい。好きなものは、美味いもん。特技は、飲んだモノを吐き出せます!」
「そんなに気を張らなくて良いよ。コーヒー飲む?」
「あ、うす…」
その答えを聞いたマキマは立ち上がり、コーヒーセットを準備し始める。その後ろ姿を見ながら、デンジは冷や汗をかき始めた。
(ど〜しよぉ〜!?何すりゃあ良いんだ…!?)
突然来訪の誘いを受けたものの、何をするかなど全く聞かされていなかったデンジは焦っていた。普段なら何事も動じる事は無く自分らしく振る舞えるのだが、目の前にいるのは憧れの人。嫌われたくないのは当然、少しでも好感度は下げたくなかったので、当たり障りのない返答を考えるしか無かった。
「はい、お待たせ」
「あ、あざっス!」
そんな事を考えているうちに、マキマがコーヒーを二杯持って戻って来た。香ばしい香りが室内に広がり、一先ずはこれを飲んで場を濁せると踏んだデンジは、コーヒーを一気に煽った。そして──。
「──デェェェ〜〜〜」
それを全て逆流させた。
「にっげぇ〜〜…!!」
コーヒーは雄英に居る時から飲めない。色々なものが口に出来るようになってから、それはもう喜んで全てを飲み食いしていたが、コーヒーはダメだった。苦味がデンジの舌を刺激し、喉に通す事を脳が拒否するのだ。
白いシャツが吐き出したコーヒーで色ついていく。それに焦って、涙目になったままどうしようかとまごついていると──。
「ごめんね。コーヒーダメだったか」
いつのまにか自分の隣にいたマキマが、懐から出したハンカチで汚れた箇所を拭いていた。
「え、あ!あ!」
「うーん、これは染み付いちゃったな。ウチで洗濯しよっか」
「え!?いや、そんな、悪いっすよ!」
「遠慮しないで。ほら、ばんざーい」
「バンザーイ!」
「うん、似合ってるね」
「あざっす!!」
雄英の仕事着を脱ぎ、代わりに着たのは特異課の制服だった。ついでにネクタイを締めてもらい、デンジの気分は最高潮に上がっていた。
「──今日デンジくんに来てもらったのはね。私がデンジくんとおしゃべりしたかっただけなの」
「おしゃべりしましょう!」
おしゃべり。その言葉にデンジは浮き足立ち、やる気満々といった風に目を輝かせていた。マキマはそれに口だけで笑い、コーヒーを一口含んだ。
「雄英、務めてるんだよね?オールマイトとかやっぱり凄いの?」
「ああ〜、ムキムキっすよ!生徒の奴らぶん投げ回してます!」
「ふむ…」
大袈裟な身振りで伝えるデンジの言葉に、腕を組んだマキマは思案するように上を向く。その時デンジは組まれた腕の中で苦しそうに主張する胸を凝視していた。
「すげえ…」
「んー…オールマイトは何か様子が変とかなかった?例えば、具合悪そうにしてたりとか」
「…や、そんなこたぁないっすねえ」
デンジの頭に、ガリガリの男が血を吹きながらサムズアップをする光景がよぎったが、すぐにそれを消し飛ばした。
「おっ…ールマイトに何かあるんですか?なんなら、俺が何とか言っときますぜ!」
「違う違う、ただ気になっただけ。憧れのヒーローだからね」
「え…」
その言葉にデンジは焦りを感じる。
(ま、まさか、マキマさんはあのおっさんの事が…?)
「──俺の方がいっぱい活躍できますけどね!」
「そうなの?」
「ええ!そりゃあもう!マキマさんの為だったら!」
腕まくりをして力瘤を作り出したデンジは、これでもかとアピールをする。ただでさえオールマイトには辛酸を舐めさせられているのだ(筋肉ガチムチホールド)。こんなところでも負けて良いはずはない。
そんなデンジをしばし見つめ、マキマは口を開いた。
「…じゃあ、デンジくんに一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「何でもやります!」
「『オールフォーワン』を探して──殺してほしいの」
「……オー…?」
その聞き慣れない単語にデンジが首を傾げていると、マキマがスプーンでコーヒーをかき混ぜ始める。
「すごい悪い敵。オールフォーワンが世界に齎した被害は数えきれないもの。彼を殺さない限りは、悲劇が続く。私の『個性』でも始末する事は無理だった」
「はぁ…」
くるくると回るコーヒーを見ながら、デンジは気の抜けた返事を返す。
「私の夢は世界平和なんだ。だからオールフォーワンは邪魔なの」
「…何でそいつを殺さねえといけねえのかまだなんとなくしか分かんねえですけど、マキマさんがそれで嬉しくなるってんなら俺ぁやりますよ」
その言葉に手を止めるマキマ。そして目を向けると、そこにはまっすぐに自分を見つめるデンジの姿があった。
「マキマさんはハンカチ貸してくれた恩があっからな、そのオール何とかってやつをぶっ殺しても、まだ足りねえくらいだぜ〜」
「……」
「マキマさんが無理だったとしても…まあ、そこは俺がすっげえ〜ドカンと頑張れば、大丈夫Vでしょう!」
そう言って、Vサインを作ったデンジは、笑顔をマキマに向けた。それを受けたマキマはしばらく固まっていたが、やがてふっと肩の力を抜き、口角を上げた。
「そういえば、デンジくんの『個性』ってなんなのかな?」
「え?ああ〜」
その問いかけに即答しようとしたデンジだったが、そこでとある男の言葉が蘇る。
『──いいかデンジ。モテる男ってのはな、秘密があるんだ。オープンに全部おっ広げるのもいいが、やっぱミステリアスな部分があるとちゃんねーはイチコロよ!』
(これだ!)
上鳴のモテるテクニックを聞いた事をこの土壇場で思い出したデンジは、ミステリアス作戦を決行することに決めた。
「あ〜、まあ?おしえてーケド、俺の個性知っちゃったらなぁ〜。大変な事になるからなあ〜!」
「大変な事?」
「ああ〜、まっさか俺がチェン…ゴホン!マンだなんて…!なんてことになっちまうからさぁ〜!まあ、マキマさんになら…どーしてもってなら!…見せちゃおっかな〜?」
「……そう」
そのニヤニヤとしながら放たれた言葉に、マキマは口だけを動かし、そう答えた。
(…あれ、なんか違えぞ。なんか、もうちょっと反応してくれても…)
調子に乗りすぎたかとデンジは冷や汗を流し、すぐ自身の個性について話そうとしたその時──、マキマが、静かに口を開いた。
「あ、あのマキマさん──」
「命令です。自分の『個性』について話しなさい」
その言葉を聞いたデンジは、だらんと両腕を下げて、虚な目になる。マキマは自身の『個性』が発動した事を確認し、薄く笑みを浮かべた。
──個性、『支配』。自分より、立場や程度などが低いと認識した者の全てを支配できる。
(個性はチェンソー。これは小動物を使って自分が言っていたのを確認した。…だけど、何か違う気がする)
マキマは雄英体育祭での出来事を思い出す。チェンソーと化したデンジは、確かにマキマを襲った。しかしそれは自分の意思ではない様子であったのだ。故に気になった。
『オイ早く逃げろ!なんか俺の身体あんたをめちゃくちゃ殺したがってんだけど!?』
「ふふふ」
その時の台詞を思い出し、マキマは声を出して笑う。あの日デンジに何をしたかは覚えていないが、この言葉だけは覚えていた。
「……俺の、個性は──」
そんな事をしている間に、支配されたデンジは口を開く。ひとつひとつその口が発する音は、マキマの耳に入り──困惑させた。
「──です」
「……?──じゃ、ないの?」
「──だから、──じゃなくて────」
「………じゃあ、命令です。──、あなたの個性を言いなさい」
「………私の、能力は────」
それを聞いた時、マキマは目を見開き、そして人生の中で────初めて本気で笑みを浮かべた。それはまるで、幼い少女が目当てのおもちゃをサプライズで買ってもらったかのような、無邪気な笑顔だった。
「──ん?あれ、俺今個性言いました?」
「……うん、言ってくれたよ。本当に、ありがとう」
デンジがはっ、として見ると、マキマは満足気に笑みを浮かべていた。
(あれ、マジか…。やっぱ隠し事はできね〜なぁ〜)
「…お礼に、ちょっとだけ何でも言うこと聞いてあげる」
「──え?」
その言葉に、デンジの心臓が大きく跳ねる。
「え?でも、それはオールなんちゃらを……」
「君の個性には、それほどの価値があったんだよ?これは報酬のお試し版って事で」
(マ…マジか)
ごくり、と唾を飲み込み、熱に浮かされた脳でデンジは考える。どんな要望をしようか。ストレートすぎるのは嫌われるか…?イヤしかし、ここは長年の夢を叶えるチャンスなのでは無いだろうか。
「…じ、じゃあ……」
その時、デンジの脳内に高速で上鳴の言葉がよぎる。
『良いか、がっつくなよ。肉食系男子がモテるとか巷で噂になってるけどよ、ありゃ最初から好感度が高えからモテるだけだ。見た目がいいとか、話しやすいとかで。ただの他人ががっつけばそこでもう終わりだ』
(……あぶね〜!俺今日マキマさんに迷惑しかかけてねえ!?)
コーヒーを溢し、世話をさせ、ぼーっとしていた。これの何処が好感度を上げただろうか。
(俺ぁ今日マキマさんが俺の事を好きになってくれるような事は何一つしてねえ。そんなら…!)
「……また、ここに遊びにきてもいいですか?」
「……?」
「それが、俺のお願いです」
(一旦ここは引くぜ!肉食系じゃなくて、俺ぁ俺のペースでマキマさんに好きって伝える!)
マキマはその言葉を聞き、一瞬怪訝そうにしたものの──一つ頷き、それを承諾した。
「うん、わかった。でも今日はもう帰りな。外が暗くなってきてる」
「──え?マジか!?やっべぇ〜!ババァに殺される!!」
窓を見ると、確かに黒に染まっており、それほど長くデンジが滞在していたことがわかった。急いでデンジは荷物を持って玄関に向かう。靴を履いて、見送りに来たマキマにデンジは一礼をした。
「今日はあざっす!俺、マキマさんの為に頑張りますんで!あ、明後日来てもいいっすか!?」
「うん、またおいで。明後日なら大丈夫かな」
「よーし、じゃあ!」
慌ただしく去って行ったデンジを見送り、マキマは一人思案する。
(…デンジくんはなぜここに来たいんだろうか…。私の個性を探る為?雄英に依頼されている?…どちらにせよ、次来た時に聞けばいいかな)
今日は舞い上がりすぎて、そこのところを失念していたと、自分を戒めたマキマは、にんまりと笑った。
(まあ、どんな思惑があっても…私の支配からは逃れられない)
その顔は、まるで悪魔そのものだった。
マキマさんの心の中はどう表せればマキマさんっぽい?
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(生姜焼き食べたいなぁ)←こんな感じ
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地の文で表す マキマはそう思った。的な
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マキマさんの心情書かない(これ激ムズ)
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臨機応変に変えてみればいい