ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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これが…マキマさんなのか?


マキマ オリジン

「そういや、マキマさんってパトロールとかしないんすか?」

 

公安対敵特異課のソファに寝そべり、さもいつもそうしているかの様に寛いでいるデンジは、デスクに座って書類仕事をしているマキマにそう問いかけた。

 

「私達の専門は、表のヒーローが対処しきれないような凶悪な敵。要請で偉い人に呼ばれない限りは外に出る事も殆ど無いね」

「えぇ、そっか〜」

「…デンジくんは外に出たい?」

 

どこか残念そうにぼやくデンジに、マキマは書類に印鑑を押しながらそう聞いた。しかしデンジはソファの背もたれに寄りかかったまま顔だけを向けて首を振った。

 

「い〜や、マキマさんの役に立ちてえって考えて、パトロールが出ただけっす!」

「……」

 

その答えに、マキマの印鑑を押す手が止まる。規則正しく耳に送られて来たその音が途切れ、デンジが怪訝な顔を浮かべる中、マキマがすっ、と立ち上がった。

 

「…マキマさん?」

「…ちょっと休憩。まだまだ終わりそうに無いからね」

 

伸びをするマキマを見て、デンジは明るい顔をする。そして弾ける様に立ち上がった勢いのまま、マキマへサムズアップをした。

 

「マキマさん!」

「ん?」

 

「俺が作りますぜ!コーヒー!」

 

 

 

 

おかしい。

マキマはソファに座りながらキッチンに目を向ける。

 

「…あっれ〜、確かこうだったよな?動画じゃ…」

 

眉を顰めながら、コーヒーメーカーと格闘を繰り広げているデンジがそこには居た。

 

(…先週からデンジくんの様子が変だ)

 

初めて招いた次の来訪日。デンジはぐちゃぐちゃになった頭で来た。何やらワックスを付けすぎたらしく、その日は頭を洗って帰らせた。次は仕事終わりに肩揉みをしたいと言って来た。力加減が下手だった事は覚えている。

デンジは他人に何かをしてやる、という行為が圧倒的に下手だった。その事実はこれまでの出来事で十分理解した。なのに何故、彼は今もコーヒーを作っているのだろうか。

 

「で、できたぁ!」

 

嬉しそうな声を上げて、カップを持って来るデンジ。マキマは思考を一時中断し、その差し出されたコーヒーを覗き込んだ。

 

「………」

 

所々に浮いている粉。恐らく潰しすぎたコーヒー豆であろう。どこで混入したのか知らないが、割と浮いていた。また淹れ方も雑なのか、カップソーサーにコーヒーが飛び散っており、その外観を損ねていた。

 

「……」

「へへ!どぞ!」

 

鼻の下を指で擦りながら、マキマの視線に応えるデンジはとても満足気であった。マキマはゆっくりとカップを持ち、コーヒーを口に入れる。

 

 

(………不味い)

 

 

まず、苦味が襲いかかって来た。上品な苦味ではなく、只々苦い。熱すぎる湯で煎じたのだろう、ドブの味がした。あと浮いているコーヒー粉が煩わしい。そして何より──薄い。苦いのに薄い。苦いお湯を飲んでいる様な感覚にマキマは陥った。

 

(…何が目的?私にコレを飲ませて、何か企んでる…)

 

「……ど、ど〜っすかね?」

「………」

 

上目遣いにこちらの様子を伺うデンジを見て、マキマはまた固まる。そこには邪気というものが全く無い、純粋な表情の少年が居た。

マキマはコーヒーを一気に呷り、いつもの微笑を向ける事にした。

 

「おいしいよ。ありがとう」

「〜〜〜ッよっしゃあ〜〜!!」

 

その一言だけで、バッタの様に飛び跳ねるデンジを見て、マキマは更に困惑を深めるのだった。

 

 

 

 

 

「デンジくん」

 

日も暮れ。雄英に帰る事にしたデンジはスニーカーを履いていると、背後からマキマに呼び止められた。

 

「はい?」

「聞きたいことがあるんだけど」

 

ん?と首を傾げるデンジに、マキマは続けて喋り出す。

 

 

「最近、私の機嫌取りみたいなことしてるよね。あれ、なに?」

「………いやぁ〜〜っと、機嫌取りっつーか、何つーか…」

 

 

今の反応でマキマは疑心を抱く。後ろめたい事が無いのなら、即座に返答できるはず。なのにそれをしなかったのは何故か。

 

(──雄英に、探られてる…?)

 

小動物を支配し、()()()()()()()()()()()()()()()()()マキマはそれは無いと被りを振る。雄英に自分の『支配』を逃れられる者は一人しか存在しない。監視していた限りでは、そのような光景は見られなかった。つまり、ここの所のデンジの行動は全て個人で行なったものだと、マキマは確信付けた。

そしてそれを確信するや否や、マキマはデンジにずい、と近寄り目を合わせる。

 

「…あ、あのっすね……」

 

 

 

「命令です。何を考え、何をしようとしているのか私に教えなさい」

 

 

 

 

赤面していたデンジは、突然糸が切れた人形のように脱力し、虚な目になる。

──個性『支配』。自分が自分より程度が低いと思う全てのモノを支配できる。彼女の支配下には、立場や地位など関係無い。『下』と思えば、どんな体制を相手がつけようが、どんな『反射』の個性を持とうが、それすらも『支配』する。それが、マキマの個性だった。

 

「…」

 

国の長であろうと、どれだけ権力が高い者であろうと、マキマは笑みを崩す事なく個性を使える。それはマキマの性格が強く影響していた。

 

昔からその個性を持った彼女は、親からも恐れられ、周囲の人間も個性を聞くと遠ざかっていった。いつしかマキマは、人を人と思えなくなっていた。そんな時──。

 

【もう大丈夫。何故かって!?──私が、来た!!】

 

テレビで見た、一人のヒーローを見つけた。彼は化物の様なフィジカルを持っており、マキマと遜色ないほど恐れられる力を確かに振るっている。しかし──彼の周りには、人が集まった。

 

「……なんで」

 

幼い彼女は嫉妬し、何度もオールマイトを支配しようと試みた。が、帰って来るのは画風の濃い笑みのみ。そこでマキマは初めて、敗北の二文字を心に刻まれ──自分がオールマイトに憧れていたという事実にも気付いた。

彼の様になりたいと思った彼女は、ヒーローになった。元々要領は良かったので、楽に試験も合格。しかし、ろくに愛されてきていなかった彼女は、どうしても人の心が分からず──一つの結論に辿り着いた。

 

『世界を平和にすれば、みんな私を愛してくれる』

 

助けられたから、心酔する。助けられたから好意を感じ、その人に恩を返したくなる。その事に気づいた彼女は、とりあえず日本中に存在する敵を全て支配する事に決めた。

しかし──、敵の素性を調べている時、一つの敵が目に入る。それが──。

 

「オール、フォーワン…」

 

オールマイトとその師を再起不能にまで追い込んだその敵の情報を知ったその時、オールフォーワンはマキマの支配から逃れられた。

その理由は、『憧れのヒーローが負ける程の実力だ』と、そう思ってしまったからだった。下に見ないと、支配できない。さらにオールフォーワンの個性は、個性を奪う個性。支配を奪われては何もできなくなるとマキマは歯噛みし、全国敵抹殺計画を停止した。

 

マキマは方向性を変え、国へ援助を求める事にした。ヒーロー活動も重ねてきて功績を残していたので、国のトップらが集まる小規模な国会にてそれを伝えた。自分がやってきた、正義を信じてくれると信じて。

 

 

【それはできん。まずそのオール…?が居たとして、私に何の影響がある?そいつが本格的に活動するのか?まだだろう。私に不利益が無い限り、それらは無視で良い。…国民?代わりはいくらでも居るだろう。今は良いのだ。……それより、今から時間はあるかな?最高級のホテルを予約しているのだが──】

 

 

 

 

マキマは、個性を、使った。

 

 

個性で、条約──日本全国民の命はマキマが死んだ時の身代わりとなるものを結ばせたマキマは、ついに他人を信じる事は無くなった。唯一信じれるのは、この個性だけ。支配があれば、人は表も裏も全て自分に曝け出す。一人で戦うことを、マキマは決意した──。

 

 

 

 

 

 

 

「マキマさんの事が好きだから、マキマさんの役に立つようなことをしました」

 

 

 

「?」

 

 

 

 

何を言っているのだ。

マキマはポーカーフェイスのまま、しばし固まった後──ゆっくりと口を開いた。

 

「…どういう、事かな?」

(煙に巻こうとしている?)

 

かすかに眉を顰め、改めてデンジに問いかけるマキマ。本人も知らず知らずのうちに、その手は握られていた。

 

「マキマさんが疲れてそうだったから肩揉んで、コーヒー飲んでたから動画見て勉強してコーヒー差し入れしてました」

 

勉強してあれだったのか。いや、今はそういうことを言っているのではなく──。マキマは若干、生まれて初めてのパニックに陥った。

 

「俺は運良く他の奴らに大切にしてもらってます。けどマキマさんは事務所で一人っきりで仕事して、だーれも褒めてくれねえ。そんなの、糞じゃあないっすか」

「?」

「だから、雄英のやつらにも内緒でここに来てるんです。…出来ることならマキマさんとイチャイチャしたいし」

「??」

 

 

「俺はマキマさんをとことん愛してるから、こんなことしました」

 

 

「────」

 

 

 

 

 

こち、こち、と時計の音が廊下に響く。はっ、としたデンジは時計を見て大声を上げた。

 

「──ん、俺何を…うええ!?もうこんな時間かよ〜!?マジで次門限過ぎたらババァに殺される!ねじれちゃんにもゲロ吐かれる!」

「──ぁ」

 

焦りながらスニーカーの紐を結び、二回ほど地面を爪先で叩いた後、勢いよく扉を開くデンジ。それを見たマキマは吐息を漏らし、追いかけて外へ出た。するともう走り始めたデンジの背中を見て──マキマは叫んだ。

 

 

「──命令です!止まって!デンジくん!」

「あぁ〜!?ごめんなさあい!マジで今日は無理ィ!また来まァす!!」

「──ぇ」

 

 

その申し訳ない声と共に、振り向く事なくデンジは走り去っていった。それを見届けることしかできなかったマキマは、力無くその場に座り込む。

 

(……『支配』が…できなかった…?)

 

個性ミス?トリガーを間違えた?いや、そもそもデンジが言った事全ては嘘なのでは無いか?それが否かは──マキマ自身が、よく知っていた。

『支配』は嘘を吐かない。建前も全て取り払った姿を無防備に晒させるから支配なのだ。だから、故に──今のは──。

 

 

 

 

(ぜんぶ……本音……)

 

 

 

夜の冷たい風が、いつの間にか火照った顔を冷めさせようと試みる。しかしそれは恐らく失敗で終わるだろう。

 

マキマの『支配』に囚われない──三人目の男が現れた。




誰だよ(ピネ)
マキマさんはチョロイン。異論しかない。
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