ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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林間合宿に行こう!

「音楽かけようぜ、音楽!夏っぽいの!」

「ポッキー一つちょーだい!」

「一本10万ね」

「お、おお…!この椅子もふかふかだぜ〜!気もちぃ〜!」

「こら、デンジさん。飛び跳ねてはいけませんわ」

 

じわじわと暑い気温から疎外された、冷房の効いた合宿バスの中。学生特有の、気色に塗れた喧騒が所々から飛び交ってくる。デンジと雄英高校A組一同は、学校イベントである──林間合宿の地へと向かっていた。

 

一週間前。相澤から呼び出されたデンジは、掃除用具を持ったまま話を聞いた。

 

「どーしたんすか」

「来週からヒーロー科は林間合宿に行く。お前はどうしたい」

「合宿ぅ〜?」

 

その疑問の声に一つ頷き、相澤は続けて説明をした。

 

「今年に入って敵の行動が活発化している。それを見越して我々は本来、ヒーロー科二年前期で取るカリキュラムを前倒しで取らせるつもりだ」

「ほ〜ん」

「合宿の目的は、『個性』訓練。個性そもそもの能力の底上げだ。お前のは…強化になるかは分からんが、現地にはプロがいる。サポートは充実してる」

「へ〜」

「──で、どうする。参加か、待機か」

 

十数分悩んでいたデンジを見た相澤は、放課後までで良い。と言い、授業に向かった。その背中を見送り、改めてデンジは腕を組む。

 

(合宿ね〜、訓練って事は…キツそ〜…)

 

鬼の合理的主義者が鞭を振るう様が頭に映し出される。

 

(それに合宿の日と、マキマさんの所行く日被ってんだよな〜)

 

自分の好きな人との時間と、辛くてキツい訓練。心の天秤にそれを掛け、どちらを優先するかと言われれば──当然、前者であった。

ヨシ、と一息吐き、デンジは箒を持って掃除場所へ行く。

 

(断ろ。ヤオヨロとかと居るのは楽しそーだけど、今の俺はマキマさんしか愛さねえ事にしてんだ)

 

 

 

 

そう思い切り、放課後。職員室の前に立つデンジは欠伸をしながらノックをしようと拳を握る。そのまま扉を叩こうとした時──。

 

「──しかしお前らしくないな、イレイザー。あの少年の為にそこまで動くとは」

「喧しいぞブラド」

 

そんな会話が耳に入り、思わず動きを止めてしまった。

 

「あの…デンジくんか。お前があそこまで気にかけるなんて珍しいと思ってな。いつも合理的判断をするお前が今回はヤケに校長に食い下がった時は驚いたぞ」

「…食い下がってはない」

「でも頭は下げたんだろ?…正直言って分からんな。戦闘を学ばせる事に否定的だったお前がなぜあの子を林間合宿に連れていく事にしたのかが」

「……アイツは今までどこか浮ついた様子でヒーロー学を受けていた。だが、ビッグ3との訓練の後──それが消え、本気でヒーローを目指し始めている。それなら大人としてやれることはやるだけの事だ」

「…なるほどな」

「あとアイツに学生っぽいことさせてやりたいんだよな!イレイザー!!」

「黙れマイク」

 

 

「………」

 

 

 

 

 

(まあ、たまにはアイツの思い通りになってやるぜ)

 

ふん、とデンジは鼻を鳴らす。その右手には、先日マキマから貰ったスマートフォンがあった。連絡先はマキマ一人のみ。ただそれだけでもデンジは幸福であった。

おぼつかない手つきで、デンジはメッセージアプリを開く。

 

 

 

すいません 15にちいけなくなりました

 

マキマ

どうしたの?何かあった?

 

林かんがっしゅくに行くことになったので ごめんなさい

 

マキマ

送信を取り消しました

 

マキマ

送信を取り消しました

 

マキマ

了解です、気をつけていってらっしゃい

 

 

「うへへ…」

 

好きな人が自分の事を気にかけてくれる。それだけでデンジは幸せな気持ちになった。

 

「あら、デンジさん。スマホを買われたのですね!」

「あ!?ああ!そうだぜ!」

「私とおそろいの機種ですわね、もしよければ連絡先を交換しませんか?」

「エ!」

 

その時、デンジはマキマに言われた言葉を思い出す。

 

『はいこれ、デンジくん専用のスマホだよ』

『わぁ〜!すげえ!あざっす!!』

『うん。私の連絡先入ってるからいつでも連絡しな。…あ、それと他の人の連絡先は入れちゃダメね』

『?なんでっすか?』

『…容量が少ないから、すぐスマホが重くなっちゃうんだ。だから、ね』

『ほーん…分かりました!』

 

最新機種なのにそんな容量が無くなったりするのかなど疑問はあったが、(まあマキマさんの言うことだし)とそこでは納得した。

 

「あ〜っと……」

 

約束は守らなければならないが、しかし善意で誘ってくれた八百万にキッパリ断るのもどうなのか。

 

「──あ、あの。嫌でしたら、その、無理なさらずに…」

 

そんな渋った様子で悩んでいるデンジを見て、八百屋はそう答える。デンジの目にはそれが、明らかに無理しているものに見えた。

 

「交換しよーぜ。イヤじゃねえからさ」

「…本当、ですか?」

「ああ、でもさ。俺やり方わかんねえからヤオヨロがしてくれよ」

「──っお任せくださいっ!」

 

 

 

 

 

一時間後。トイレ休憩のため、一同を乗せたバスは一時停車した──のだが。

 

「ここパーキングじゃなくね?」

「つか、アレ?B組は?」

「ト、トトトイレ…!」

「近寄んなよミノル!離れろ!」

 

そこはトイレなどは無く、切り立つ崖の丘に転落防止のための柵があるだけの、ただの開けた場所だった。そこに既に止まっていた車から、女性二人と子供一人が降りてくる。

 

「よーーう!イレイザー!!」

「ご無沙汰してます」

「誰…?」

 

デンジのその呟きに、女性二人はポーズを取った。

 

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

 

そう決めたプッシーキャッツ達は、すっと体勢を戻し──そのうちの1人、マンダレイが、絶景のある一部分を指差す。

 

「ここら一帯は私らの私有地なんだけどね、あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

「あぁ〜?遠くね?」

「じゃあ何でこんな中途半端なところ…に……」

「……いやいや、まさかね」

「ほら、早くバス戻りましょうよ…」

 

ざわめきがA組一同に浸透するのを確認したプッシーキャッツの片割れ──ピクシーボブは、意地の悪い笑みを浮かべながら、地面に手をついた。

 

「今はA.M.9:30──早ければぁ、12時前後かしらん?」

「みんな!バスに戻れ!!」

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

「えぇ〜!?」

 

顔を青ざめさせ、バスに戻ろうとする者。何が起こるかまだ理解できない者。昼飯抜きという言葉に絶望する者。その一切合切を──土流が流し落とした。

凄まじい音と共に起きた土流は、A組を巻き込んで崖に広がり落ちる。デンジもそれに巻き込まれ、土を払いながら辺りを見回した。

 

「ってぇ〜…」

「私有地につき『個性』の使用は自由だよ!今から三時間、自分の足で施設までおいでませ!この──『魔獣の森』を抜けて!」

「魔獣の森…?」

 

そう上からマンダレイの声が降りかかり、緑谷は思考を始める。その横を全速力で走る者が一人。それは──。

 

「耐えた…オイラ耐えたぞ…!」

「峰田くん!?」

 

股間を抑え、草むらの裏で催そうとした峰田を照らしていた日光が、突如何かに遮られる。峰田が上を向く。

そこには、四足歩行でこちらを見る化け物の姿があった。つるつるとした材質の頭部、そして体中には蔦が生えており、その口から覗く牙は乱雑に生えていた。

 

「魔獣だーー!!?」

 

峰田は驚愕→恐怖→無→安心の順に表情を変えた。彼は間に合わなかった。それを他所に、魔獣は四足のうちの一つを峰田に向かって振りかぶる。

 

「静まりなさい、獣よ下がるのです!!」

「口田くん!」

 

口田の『個性』、生き物ボイスは、あらゆる生物と会話が出来る。それを使い、魔獣を引かせようとしたのだが──。

 

(止まらない…!?イヤ、土くれ…そうか!)

 

生き物ではない。動いているのはピクシーボブの『個性』──。そう判断した緑谷は、即座に『個性』を使用した。

 

 

 

 

 

「しかし無茶苦茶なスケジュールだねイレイザー」

「まぁ、通常二年前期から習得予定のものを前倒しで取らせるつもりできたのでどうしても無茶は出ます。だが、彼らにも緊急時における『個性』の限定許可証──ヒーロー活動認可資格仮免。敵が活性化し始めた今、彼らにも自衛の手段が必要です」

 

A組が落とされた広場では、マンダレイと相澤の会話が繰り広げられている。それを聞きながら、ピクシーボブはゴーグル型のサポートアイテムを使って、生徒達の行動を観察していた。

 

「ふーん、ま、そんなもんか。…あ!あとさぁ。土壇場でA組B組に加えてもう一人指導してほしいって子…。デンジくんだっけ?気に入ってるの?」

「合理的判断の鬼のイレイザーも、贔屓なんてするんだ〜?」

「違います」

 

ピクシーボブがにんまりと笑いながら相澤を小突こうとするが、それは軽く避けられた。

 

「でも本当急よね、個性も知らされてないんだもん。書類間に合わなかったのかしら」

「…?校長から何も聞かされていないんですか?」

「…?」

 

「え、ええっ!?」

 

マンダレイが相澤のその言葉に首を傾げるそぶりを見せたその時、ピクシーボブが驚きの声を上げる。

 

「どしたのー、ピクシー」

「ちょ、ちょっとマンダレイ!これ!」

「はぁ……あの人は何考えてんだ…」

 

焦った様子で手元の機械を操作し、ピクシーボブがマンダレイに差し向ける。するとマンダレイのその顔が驚愕に染まった。その目に映し出された光景は──。

 

 

[ギャアーッハッハッハァ!!]

 

 

凶悪に笑いながら、土魔獣の腹を掻っ捌くチェンソーの異形。ピクシーボブたちは、その異形の名を知っていた。

 

「チ…チェンソーマン!?」

「なんでここに…!生徒たちが危ない!」

 

先日メディアで取り上げられたヴィジランテ、『チェンソーマン』。それが今、魔獣の森へと顕現していた。

即座にマンダレイは個性を使用しようと、耳に手を当てる。さらにピクシーボブもそれに続き、地面に手を当てる。そして個性を発動しようとしたその時、相澤が彼女らに目を向けた。

 

「はいストップ」

「あっ!」

「ちょっと!何すんのさ!?」

 

『個性』を抹消された二人は、急いで相澤に詰め寄り抗議する。

 

「状況わかってる?私らの私有地に、ヴィジランテが侵入した。それだけならまだいいよ、私たちだけで対応できる。だけど今回は生徒たちがいるの!危険な状況下に置かれて──」

「チェンソーマンはデンジです」

「さっきの映像を見てたら私の土魔獣も通用しない…虎に連絡取って、速攻で叩き潰せば──!」

「チェンソーマンはデンジです」

「そう、そのデンジくんもチェンソーマンに──は?」

「チェンソーマンがデンジくんってことなら──は?」

 

顔をチープなアニメの作画にしながら、二人は相澤を見る。その視線に晒された相澤は、目頭を揉みながらため息を吐いた。

 

 

「はぁ…こうなる事を予測してなかったのか…?──デンジは、ヴィジランテ『チェンソーマン』本人です」

 

 

 

 

 

「「……………は?」」

 

 

 

その言葉を皮切りに、周囲で言葉を発するものは誰もいなくなる。そこから聞こえてくるのは、端末から聞こえてくる悪魔のような笑い声だけだった。

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