ヴィラン名 『チェンソーマン』 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「ふあ〜…」
大きな欠伸をして、デンジは目を擦る。目の前にいるのはプロヒーロー軍団の『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』のメンバーの一人、『虎』だった。
「さあかかってこい、バッドボーイ」
「なんでテメーとなんだよ…マンダレイさんが良かったなぁ〜」
げんなりした様子でデンジは踵を二、三回慣らし、渋々構えを取った。
「『個性』伸ばし?」
林間合宿二日目。その言葉に首を捻るA組に、相澤は頷いた。
「君らは約三ヶ月間、様々な経験を経て確かに成長している。だが、それはあくまでも技術面、精神面。個性そのものは成長していない。そこで、今日から君たちの個性を伸ばす」
──死ぬほどキツいが、くれぐれも死なないように──…。そう言った相澤の顔は素晴らしいほどの笑顔だった。
『個性』サーチを持つプッシーキャッツのメンバー、ラグドールは目で見た相手の居場所や弱点を探ることが出来る。デンジが伝えられた弱点は、『持続力の無さ』だった。
チェンソーを出せば血が大量に消費され、長時間の戦闘を行う事が困難になると言われる。デンジはそれを聞いて反論をした。
「でもよ〜、俺のはもうしょうがなくね?」
「…確かにそうだな」
「な!じゃあ俺訓練なし?」
チェンソーを出すという副産物で血が出てしまうのは、最早どうしようもないのでは無いか。それがデンジの主張であった。
キラキラした目でそう聞くデンジを横目で見て、相澤は考える。
「…よし、決めた」
「お!」
「お前、虎の所で個性使わず訓練しろ」
「はぁ〜〜!?」
そんな死刑宣告にも等しい事を言われ、目を剥くデンジ。相澤はニヤリと続けて口を開く。
「お前のその個性は強力だが、それをハナから使ってダウンする事が一番アウトだ。だからここぞと言う時に個性を使え。生身で確保出来る時は生身、それでも無理そうであればチェンソー…。使い分けて戦う事にしろ」
「ええ…」
「お前は生身が弱い。ブートキャンプで鍛えてもらえ」
「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!どうしたァ!?もう終わりかァ!?」
ゾンビの様な顔つきになりながら、デンジはこの地獄に落とされた時の事を思い返す。
「ワンモワセッ!ワンモワセッ!」
「ゼェ…ヒィ…!」
「──よし今だ!打ち込んでこい!」
「──死ねぇぇ!!」
「ハイ甘い!」
苦し紛れに放つデンジの右ストレートが虎のボディを目掛け繰り出された。しかしそれは、虎の個性である『軟体』によって、常軌を逸した動きで回避される。
「とっさの動きが出来てないなぁ、そんなんじゃ欠伸でちまうぜ欠伸!!」
「クソ…!」
「返事はイェッサァ!」
「イェッサ……!」
「聞こえないぞ〜?」
「ああーもう!イェッサア!!」
「よーし次行くぞ」
そしてまたエクササイズを始めさせられるデンジ。その横では、緑谷も白目を剥きながら体を動かしていた。
「ハァ…!ハァ…!なんで、デンジくん、ここにいるの…?」
「し、知らねえ…!相澤のせいだ…!アイツマジでぶっ殺してやる…!」
「ほうほう、お喋りできるほど余裕って?そんならもう2セット追加しとこうか!」
「──っええ!?」
「はあ!?」
増強系の個性を伸ばすため、我ーズブートキャンプは続く──。
「よぉし10分休憩!!休んだ後は死ぬほど殴るから覚悟しておけ!!」
(ヒーローの言葉か?これ……)
A組B組一同が初めて心が通じた瞬間であった。彼らは水飲所にて溢れ出てくる水を摂取する。ブートキャンプで温まった体の中に、冷たい水が染み渡っていく感覚が心地よく、緑谷はつい恍惚の声を上げてしまう。
「〜〜っぷはぁっ、うまあっ!──生き返るね、デンジくん!」
この心地よさを共に分かち合いたい。その心で緑谷は隣に居るはずのデンジに向かって笑いかけた。
「……あれ?」
森林の中をデンジはよたよたと歩く。水を飲んですぐに、彼はブートキャンプから(勝手に)離脱した。
(あんなん続けてたら死ぬ…岸辺より辛えなんて聞いてねえぞ)
自分の個性は伸ばせる所がもう無いと判明したはず。それなのに死ぬほどキツい訓練に参加させられることがデンジは不満だった。
(俺ぁ俺なりのやり方で特訓すんぜ!…血出しても怒られない場所あるかなぁ〜?)
キョロキョロと辺りを見回し、自身が個性を使ってもバレなさそうな場所を探していると──、デンジの耳にある音が届く。
(あん?銃声?)
最初は雄英の誰かかと思ったが、デンジの知り合いに銃の個性など居ない。その音の元へ、デンジは向かう。
そこは開けた場所だった。その広場の中心部──そこに、件の銃声の主が蹲っているのを確認し、デンジはゆっくりと歩み始めた。
「ハァ…ハァ…。誰だ、お前」
「あ?デンジ」
汗を流しながらその少年──早川アキは近寄るデンジを睨みつけた。
「…どうやってここに」
「迷ってたら着いた!」
「…最悪だ」
そんなぼやきをするアキを見て、デンジは眉を顰める。
「最悪ってなんだよ。…まあいいや、しばらくここで俺も特訓させてもらうぜ〜」
「はあ?駄目に決まってんだろ、ここは俺の場所だ。とっとと帰れ」
「ケチな事言うなよ、端っこだけで良いからさぁ」
「次は言わない。──消えろ」
「俺あっちの方でいい?色々撒き散らすかもしんねぇから──」
指を指し、マイペースに移動を開始し始めたその時──三発銃声が鳴り響く。デンジが振り向くと、そこには体で息をしながら拳銃をこちらに向けたアキの姿があった。その銃口からは煙が上がっており──。
ふと、デンジは足元に落ちている
「〜っいってぇええ!!?」
咄嗟に痛みの出どころである右耳を抑えようとして、初めて気付く。
無い。耳が無い。心当たりなど──あった。それは足元にある奇妙な物体。痛みでパニックになりながらもそれを注視する。
──それは耳だった。まだ血液が通っているのか、良い肌色をして今にも動きそうな程の。逆算的に、それは自分の耳であると証明され──。
「ひぃ〜〜〜!耳取れちゃったァ!」
「──言ったよな、次は無いって」
自分の耳が落ちる、というショッキングな経験に青ざめて悲鳴を上げるデンジ。そんな彼を、アキはひどく冷たい視線で見下した。
「雄英だったら治癒の個性持ちいんだろ。そいつに治してもらえ。俺がやったってプッシーキャッツには言うなよ」
「いぃ〜っ……」
「早く行け、次は頭ぶち抜く」
そう言い切り、蹲るデンジを他所にアキはすたすたと歩いて行った。まるで近所に回覧板を届けに行った帰りの様に、気軽に。
(──次は精密射撃の練習…。ハンドガンの精度は今ので大体分かった。次はスナイパーで確かめるか)
人を撃つ。非道と言われても可笑しくないその行為をして尚、彼の心は一寸も揺らがない。次なる銃を生成するため、持ってきたバスケットから水筒を取り出し、それを一気に煽る。
彼の心は、常人には理解できないほど、壊れて──。
「オラァァァ!!」
ごきゃん。
「ご……ぉっ!!?!?」
アキは身体に響く衝撃にそんな声が出る。何があったのかと下を見てみると、自分の股間から直角九十度に足が生えていた。いや、尻側からその足が勢いよくぶつかったのだ。
「……て、てめ…!」
「知ってたか?耳よりキンタマの方がケンカの時は強えんだぜ〜」
「ぐっ、ふ、が…!」
「つーかてめーいきなり何すんだチキショー…。教育どうなってんだ最近のガキはよ〜!」
悶え苦しむアキを見て、この先の日本の若者の未来を憂うデンジ。アキは距離を取り、デンジを睨む。その目は、殺意を秘めており──、もしヒーローや、雄英の生徒がここに居るのであれば、実力を行使してでも強制的に止めていただろう。その本気の感情を向けられて、尚デンジは足元に落ちた耳を拾って弄っていた。
「教育…?そりゃてめえの方だろうが…!ヒーロー志望の高校生が、中学生の金玉蹴りやがって…!」
「まあ義務教育習ってねえし」
「──分かった、そこまで死にてえんだったら。…俺が殺してやるよ……!!」
「しょうがねえ。俺がてめえをクソガキから更生させてやるよ。最近見た漫画で師匠キャラに憧れてたんだ〜」
双方個性を発動する構えを取り、お互いを見つめる。青い顔をするアキと、今から漫画のかっこいいキャラの真似ができる事にワクワクするデンジ。
「──マンダレイさんには悪いな。死体の処理も頼まねえといけねえ……!!」
「俺ーズブートキャンプ、はっじまりィィ〜〜!!」
デンジくんが撃たれて一周回って冷静になってるマキマ「何してんのあのガキ?殺すぞ」
やる気デンジくんを見て惚れ直したまきま「がんばえー!」
マキマさんはこの林間合宿中ずーーーーーっとデンジくんを見てます。どうやってかは知らないけど。
話変わるけど口田くんはなぜか周囲の動物達の声が聞こえなくて落ち着かないらしいっすね。なんでだろうね。