ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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お久しぶりです。就職やら卒論やら色々落ち着いたんで戻ってきました。ごめんね待たせて


デンジを手に入れろ!

「相澤先生!」

「っ!?」

 

林道を駆ける相澤は、自身の名を呼ぶ声に立ち止まる。草藪を乱雑に掻き分け出て来たその声の持ち主──緑谷は、洸太を背負いながら相澤に安堵の笑顔を向ける。

 

「お前…!」

 

しかし相澤は眉を顰めた。緑谷の両腕は真っ赤に染まり、形は目を背けたくなるほど崩れている。背負った洸太を支える事が出来ないほど損傷したその腕を見て、相澤は口を開こうとした。

 

「先生…良かった!──大変なんです、伝えなきゃいけない事が沢山あって…!けど、とりあえず、マンダレイに伝えないといけない事が!」

「…おい」

「洸太君をお願いします、水の個性です!絶対に守って下さい!!」

「おいって…」

「お願いします!!」

「待て緑谷!!」

 

駆けようとする緑谷に向け、声を荒げて静止させる。身体を跳ねさせ、こちらにおずおずと顔を向ける緑谷を見て、相澤は深くため息を吐いた。

 

「…その傷、お前またやったろ」

 

その言葉を受け、脳裏に過ぎるのは保須市での一幕──。

 

『資格未修得者が個性で危害を加えた事、これは立派な規則違反だワン』

 

犬顔の警部に言われた一言を思い出し、青い顔をする緑谷。しかし、状況が状況だったのだ。仕方ないとは言わないが、理解はしてほしいと思い、弁明をしようとする。

 

「いやっ、でもこれは──!」

「だから」

 

「マンダレイさんにこう伝えろ」

 

 

 

それを相澤はぶった斬り、緑谷に伝言を託した。

 

 

 

 

同時刻。三又の木の下で、アキは水筒に口をつける。冷たく冷えた麦茶が喉を通って胃の中に入る心地良い感覚を覚えながら、空を見上げた。

脳裏に過ぎるのは、出会ってまだ数日しか経っていない、金髪の青年。言動、性格共に最悪。何をするにしても己の下心を優先させる学のないクズ男の顔を思い出してげんなりとする。

 

 

 

飲み終わった水筒をバスケットに入れた後、その中に入っているもう一つの物体をアキは取り出した。

 

「……」

 

それは野球ボール。長い間使う事の無かった、少し汚れたボールを真上に投げ、受け止める。

少し前までは見るのも嫌になっていたこのボールも、今では肌身離さず待ち歩く様になった。

 

(…今頃デンジは肝試しのお化け役してんのか…)

 

自分には復讐の心がある。だから学業にもそれほど力は入れずにのらりくらりと遠ざかる様にしていた。そうしないと、心に宿す刃が鈍くなると思っていたから。そう、思っていたのに──。

 

 

「ひまだなー…」

 

 

思わずアキがそうぼやく。月の光に照らされた冷徹の復讐者である筈の少年は、この時だけは年相応の表情を浮かべていた。

 

 

 

『A組B組総員──!!プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!』

「うるっ…!?──っマンダレイさん?」

 

その時、脳内につんざく様な声が響く。その声量に顔を顰めながらも、マンダレイの声に気付いた彼は、不審な表情をする。

 

「戦闘だと…?」

(プロの名前を出したって事は、この戦闘は訓練や遊びなんかじゃない。それにあの声──結構切羽詰まってんな…)

 

そう判断し、バスケットを持って歩き始める。

 

(多分、あのやる気ないおっさんは合宿所から出てなかった筈。そのおっさんがマンダレイさんに指示出したって事は、合宿所はひとまず片付いたんだろう)

 

ここに居るよりかは、合宿所の方が安全だと確信したアキは合宿所へ帰る事にした。

 

 

『…えっ、ウソ、そんな…!?』

(テレパス垂れ流れてんじゃねえか。しっかりしろよ──)

 

 

 

『──て、敵の狙いの二つ、判明…!狙いは生徒の“かっちゃん”!…とっ──!』

 

(変な名前)

 

 

 

『──“デンジ”くんっ!!』

 

 

「────」

 

『かっちゃんと、デンジくんは単独で行動しないで!なるべく戦闘は避けてっ!お願いっ!!』

 

 

 

 

「──バカデンジが!待ってろ!!」

 

 

アキは踵を返し、走り出す。その瞳に、漆黒の決意を映し出しながら。

 

 

 

 

 

 

──敵、マグネはボロボロの少年を見て戦慄する。

ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツと相対している途中乱入してきた、傷だらけの少年。少年が来る前に耳にした大きな破壊音。そしてその少年が言い放った今回の襲撃での目的。

それらが導き出す答えはつまり──。

 

(…血狂いマスキュラーを、この小さな子が…!?あれがパワー負けしたって事…!?)

 

その結論に至るや否や、纏わりつく虎を振り払い、緑谷に向かい突進するマグネ。その頬には微かに汗が流れていた。

 

「ヤダ…!この子ホント殺しといた方が良い!」

「ッ!」

 

その大柄な手が緑谷に触れる──その瞬間、マグネと緑谷の間を一本のナイフが横切った。

 

「──ちょっとスピナー!あんた何してんの!?あの子優先殺害リストに載ってた子よ?」

 

思わずマグネは、トカゲのような外見をした男──スピナーに憤慨する。それを受け、彼は不敵な笑みを返した。

 

「手を出すな、マグ姉。それは死柄木個人の意思」

「はあ!?じゃああんた何しに来たのよ!」

 

その質問を待っていたかのような表情をし、スピナーは静かに口を開く。

 

「あのガキはステインがお救いした人物!つまり英雄を背負うに足る人物なのだ!」

「あんったねぇ…!」

 

 

 

 

目の前で口論を繰り広げる敵達に対し、マンダレイのすべき行動は奇襲からの無力化である。しかし、彼女は緑谷から受けた報告に動揺を隠しきれていなかった。

 

(…デンジくん…!こんなことなら、合宿所に待機させておけば…!)

 

自身の抱えていた問題を解決した恩人。そんな彼が目的のこの襲撃の中、肝試しを手伝わせて森の奥に行かせなければよかった。

その後悔が、彼女の思考と行動を鈍らせていく。それ故に、無防備な状態の敵に奇襲をかける事すら考えられなかったのだ。

 

(デンジくんにも今のテレパスは伝わってるはず…!お願い、敵に見つからないで、戦おうともしないで…!)

 

悲痛な表情をして、マンダレイは静かに祈りを捧げた。

 

 

 

「今は任務デショ!ステイン好きだからって勝手な行動しないで!」

 

マグネがそう肩をいきり立たせると、スピナーはそれに怯む事なく、ナイフを空に投げ、高々と言い放った。

 

 

 

 

「誰がなんと言おうと──俺はスピナーの意思にしたガッッッ!!?」

 

 

 

 

その言葉は続かなかった。なぜなら彼のその得意げな顔を、森の中から飛んできた青白い腕が吹き飛ばしたからだった。

プッシーキャッツ、マグネ、そして突き飛ばされたスピナーは、その腕が飛んできた方向に意識を向ける。

 

「…悲鳴…?」

「誰の?」

 

微かに聞こえるその声は、明らかに苦悶の意を含んだ叫び声だった。

 

「…ム…!この、音は…!」

 

そして次に、虎がその音を耳にする。継続的に鳴り響く駆動音。ヴヴヴン、と森林に反響するその音は、まるで──。

 

 

「チェンソー…?」

 

 

「──グ…いってえ!!」

「スピナー立って!ちょっとなんかヤバイわ!!」

「ああ…?──落ち着けマグ姉。この工具が付いた腕を見ろ。こりゃ連れてきた脳無の腕だ。この音も脳無が鳴らしてる。だから心配する事は──」

 

 

 

「おバカ!じゃあ何でその腕が飛んできてるのよ!!あのバケモノの腕が切り飛ばされるほど!()()()()()()()って事よ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ギャァアーッハハハハハハハ!!!」

 

「ネホヒャンッ!ネ…ホヒャァアッ!?」

 

 

 

森林を掻き分け、破砕音と共に出てきたのは、二つの異形。

一体は成人男性をゆうに超えるほどの体躯を持った、青白い肌の怪人。その腕は一本しかなく、摘出された筈の眼球からは血の涙を流していた。そしてもう一体は、白のワイシャツをはだけさせ、その両腕と頭に生えるチェンソーを使い、青白い怪人を追い詰める、狂ったように笑う怪人。

 

 

「デ…!デンジくん!?」

「チェンソーマン!?」

 

 

ヒーローと敵。お互いが追い求めるチェンソーマンはすでに、怪人脳無と戦闘を繰り広げていた。

 

「テメーの腕ェ…!もう一本しかね〜な〜〜!?」

「ヒ…ヒ…ヒ…!」

「色んなモン付けたら勝てると思ってんのかよ〜、こちとら生まれてチェンソー一筋デンジくんだぜぇ〜〜〜!!」

「ヒギャアアアアア!!」

 

絶叫と共に、脳無の最後の腕が切り飛ばされる。地面に多量の血が染み込み、ドス黒い色がじんわりと広がった。

 

 

「……っ」

「あれが…チェンソーマン」

 

 

ヒーロー、そして敵。守る者と壊す者。相反する筈その彼らが、その光景を見て一つの感情を共有した。

 

 

(狂ってる)

 

 

それは、純粋な『恐怖』。山道で熊に遭遇した時のように。密室に、刃物を持った人物と二人きりになった時のように。

人間として生まれ、感情を持つ者は、その恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 

 

「ッと」

 

殺虫剤を振り掛けられた害虫の様にのたうち回る脳無を眼下で見ながら、デンジはたたらを踏む。それと同時に、頭部と腕部のチェンソーがどろりと溶け落ちた。

 

「っぶね〜、ギリギリだった」

「デンジくん!」

「ん?あ!マンダレイさーん!なんすかコレ?」

「逃げてっ!!」

「え?」

 

惚けた表情をするデンジの元に、一つの影が迫り来る。

 

(脳無がやられた今、長期戦になれば不利になるのはアタシ達…それなら、本来の目的を果たす事に徹するしかない!)

「デンジくぅ〜〜〜ん!!あっそびっまショ〜〜〜!!」

「──んっだコイツ!?ぎゃああああ!!」

 

その巨体からは信じられないほど軽やかに迫り来るマグネに恐怖し、叫びながら逃げようとするデンジ。

しかし、先程の戦闘で消耗した身体はその思考とは裏腹に言うことを聞かず、足が絡まり転んでしまう。

 

「ヒィ〜〜〜!!」

「つっかまーえ…た!!」

 

デンジが振り返り、悲鳴を上げる。哀れな仔羊が、今狩人によって捕らえられる瞬間──。

 

 

突如、その場に集う全ての者の鼓膜を激しい銃声が震わせる。

目を瞑っていたデンジは、その音を聞いて瞼を開いた。そこに映っていたのは、つい先程まで自分を捕まえようとしていた巨漢が、青い顔をして手を押さえながら後退りしている光景。そして、その巨漢に割り込むようにして佇む小さな背中。その腕はライフル銃と化しており、銃口からは煙が静かに上がっていた。

 

 

 

「デンジ!!逃げるぞ!!!」

「アキィィ〜〜〜〜!!」

 

 

銃から人の手に戻しながら、アキはデンジに手を差し伸べる。安堵で泣きながら、デンジはその手をしっかりと掴んだ。




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