ヴィラン名 『チェンソーマン』   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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まずはここから

「───と、言うわけで。今日からみんなの学校での生活をサポートしてくれるデンジ少年だ。仲良くしてあげてね!」

 

そのオールマイトの明るい声が虚しくA組に響いて消える。今の彼らは間違いなく目の前にいるデンジに敵意を向けていた。しかし、敵意を向けられている当の本人は気に留めている様子はない。それどころか、呑気にあくびまでしている始末だった。

すると、静寂を保っていた教室に震えた声が響いた。

 

「オールマイト先生…これはどういった事か…!詳しく説明を求めます!」

 

そのピシッと右手を上げ、発言した飯田は目の前にいるデンジを睨みつける。しかし、その指先は微かに震えていた。その態度にオールマイトは少し哀しみの表情を見せるが、すぐに笑顔になって説明をしようとする。

 

「飯田少年!詳しく、とはどういう───」

 

 

「誤魔化さないで頂きたいッ!そいつは──、その男は『敵』なんですッ!!貴方も知っているでしょうッ!?」

 

 

 

しかし、それは彼の怯えが入った叫びにかき消された。そして彼だけでは無く、他の生徒の顔にも恐怖の表情が浮かび上がっている。一部の生徒は表情に出してはいないが、よく見ると拳を握っており、いつでも攻撃できるようにデンジを睨みつけていた。

それを見たオールマイトは冷や汗を垂らす。

 

 

(SHIT!…マズったな…これは私のミスだ…!もうちょっと違う紹介の仕方あったろ!?)

 

 

オールマイトは職業柄このような張り詰めた空気は何度も体験した事がある。それは銀行強盗の敵だった。そいつは人質を盾に自分の退路を作るようにヒーロー達に要求していた。しかし、応援要請を受けてやって来たオールマイトを見たその敵は激しく動揺し────、その人質を、殺そうとした。

もちろんその行為は止められ、敵は逮捕された。しかし、今A組を取り巻く空気はそれに似ている所があった。何か少しでも彼らを刺激するような事をデンジがすれば──。それを思うだけで、オールマイトは寒気を覚えたのだった。

 

 

「…デンジ少年、挨拶はまた今度にしようか。保健室に戻ってくれるかい?」

「…あ〜?何で…」

「頼む」

「……分かったよ」

 

 

その真剣な表情を見たデンジは素直に教室を出ていく。教室のドアを開け、そのまま一瞬止まる。何事かと生徒が身構えたその時、()()を見てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

自分たちを、とても悲しそうな眼で見つめた少年の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A組の教室を追い出されたデンジはトボトボと肩を落としながら廊下を歩く。彼の脳裏には自分を見る生徒たちが映って───、

 

 

 

(胸ぇ…触れんかったなぁ……)

 

 

 

彼のお目当ての八百万の胸部に触れられなかったことを悔やんでいた。そう、デンジはほとんど八百万の胸にしか意識が行かず、自分を非難する視線など気にも止めていなかった。行動を起こした飯田にさえ、『コイツ何言ってんだ?』という感想しか出なかった。

しかし、なぜ彼は大人しくオールマイトの指示に従ったのだろうか。その理由は───。

 

 

(でもなあ〜!ねじれちゃんと約束したもんなぁ〜!)

 

 

 

波動ねじれである。彼女はデンジと三つの約束を交わしていた。

一つは、先生やプロヒーローの言う事を聞くこと。

二つ目は、『個性』を勝手に使わないこと。

三つ目は、困っている人がいたら助けてあげること。

この三つのルールをねじれはデンジに約束させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜〜!?そんなに守んないといけねえのかよ!」

「そんなに守らないといけないの!分かった?デンジくん」

 

校長室に向かう途中の廊下でデンジはねじれに文句を言う。しかし、それをにこやかな笑みでいなすねじれ。その表情を見たデンジは自分の顔が赤くなるのが分かった。さらにデンジのその態度に不満を持ったのか、ねじれは頬を膨らませながら近づいてくる。

 

「むうーっ!分かった!?」

 

(あ…すげえイイ匂いだ…)

 

詰め寄って来たねじれの甘いバニラのような匂いにクラクラするデンジ。先ほどまで自身の行動を制限されていた事を忘れ、今や幸福感に包まれた状態だった。

 

「分かりました…」

「うん!それでよし!」

 

その言葉を聞き、満足げに微笑むねじれ。その表情にまたデンジは目を奪われた。廊下を歩きながらその光景を思い出し、にへら、と笑うデンジ。

 

(可愛かったな〜)

 

いつまたねじれに会えるのか、心を踊らせながら保健室の扉を開けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オールマイト先生…。説明をお願いします」

 

一方、A組には不穏な空気が漂っていた。飯田がオールマイトに非難の目を向ける。オールマイトは頷き、その口を開いた。

 

 

「…彼は敵だったが、君たちに危害を加えることはなかった。しかも、君たちを守る行動をした。それにより、警察も逮捕するまでには行かず、彼の処遇を我々に任せたんだ。そして、我々は彼を雄英の職員にすることにしたんだ」

「なんでそんな事するんですか、普通に逮捕でいいだろ!?それに、ココの職員とか──!アイツが何するか分かんねえんですよ!?」

 

 

そのオールマイトの説明に食いかかる切島。その言葉に、クラスメイトも頷く。その反論を受けたオールマイトは一瞬険しい顔をして────。

 

 

 

 

 

 

「彼は、両親に捨てられた──孤児だ」

 

 

 

 

 

それを聞いた生徒たちにざわめきが走る。それを見たオールマイトは続ける。

 

 

「小さい頃──、多額の借金を作ってそのままデンジ少年に擦りつけて逃げたらしい。そこからお金を返すために敵まがいのことをしていた。しかし、彼の心にはまだ『正義』があった。理由はどうであれ、彼は君たちを救ったんだ」

 

 

そこで横目にオールマイトは八百万を見る。八百万は心当たりがあるのか顔を少し赤らめていた。

 

 

「デンジ少年は素直なんだ、良くも悪くも。導く人次第で、『善』にも『悪』にも変わる。だからヒーローたちが居るこの雄英で保護する事がベストだと私は判断したんだ。もし、彼が暴れる事があっても、No. 1ヒーローがすぐに鎮圧できるからね」

 

 

力無く笑うオールマイト。その表情は、自分の力不足による悔しさが滲み出ていた。そして、その表情は何か決意をした顔つきに変化する。

 

 

 

 

 

「君たちに頼みがある──。彼を、デンジ少年を、理解してあげてくれないか」

 

 

 

 

 

生徒たちは驚愕した。今、目の前にいる世界的に認められているNo.1ヒーローが、自分たちに頭を下げたのだから。顔を上げたオールマイトはまた話し始める。

 

 

 

 

「急に友達──などとは言わない。彼はこういう人間なんだ、と理解してあげてほしい。そして、できれば彼が困っていたら助けてあげてくれ。彼に『優しさ』を教えてあげてくれ。彼を────拒絶しないでくれ」

 

「彼はまだ何も知らない、何が正しく、何が悪いかが分かっていない。だから──君たちが彼に教えてあげてはくれないか。…頼む」

 

 

 

そう言って、再び頭を下げた。何十秒、経っただろうか。オールマイトの心に、『やはりダメか』と諦めの感情が入りこんだその時だった。

 

 

 

 

 

「──ケッ、んな事でその頭下げてんじゃねー」

 

 

 

 

荒々しい声を上げた、爆豪がオールマイトを睨む。

 

 

「舐めんじゃねーぞ、オールマイト。俺があのデンノコ野郎を怖がるわけねぇだろうが!つーかアイツが暴れたら俺が殺すわ!!」

 

 

その攻撃的な表情を見たオールマイトは呆けた表情を見せる。すると、徐々に他の声も上がっていく。

 

「まあ、アイツもそこまで悪そーな奴じゃねーし?いんじゃね?」

「上鳴少年…」

「それに、あのNo. 1ヒーローに頭下げられたら断れるもんも断れないですって!」

「うぉおぉおっ!すまねぇデンジ!俺は…ッ!くそっ!全然漢らしくねーぞ俺!」

「何か…オイラと話が合う気がするぜ…アイツとは」

 

 

 

「ケロ。この教室を出る時のあの子の表情、とても悲しげな表情だったわ。私がヒーローになろうとしたのはああいう表情を笑顔にさせることだもの、断るわけないわ」

「うん…なんか、ちょっと今の話聞いたらかわいそうになってきた。私ら、ヒーローだもんね!頑張って、デンジくんと話してみよー!」

「私も、話してみますわ。…彼とは話を付けなくてはいけませんし」

 

 

 

「俺は…なんて事を……!」

「飯田くん…。…謝ろう、デンジくんに。一生懸命」

「緑谷君…!…ああ、そうだな!誠心誠意込めて謝ろう!」

 

 

 

 

 

 

「ッ皆…!ありがとうッ!!」

 

 

 

 

そのデンジに対して、少しでも前向きに考えて行く生徒を見て、オールマイトは涙ぐみながら感謝をする。それを見た生徒たちは苦笑した。

 

 

「おいおい、『平和の象徴』の涙見れるとかレアじゃね!?ほら緑谷、いいのかよ写真とか撮らなくて!」

「ああ!本当だ!オールマイトの泣くシーンなんて初めて見たぞ…!ううっ、なんか僕まで泣きそうに…。あっ!し、写真…!スマホは…ダメだけど!あ〜!どうすればいいんだ僕は…!?」

 

 

 

「HAHAHAHA!全く…!敵わないなぁ君たちには!!」

 

 

 

 

オールマイトの心に、『希望』が見え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜!てめぇ!俺のアメ取んなよ!つーかお前授業に行ったんじゃねえのか!?」

「ふん!ワシはこの学校で一番偉いからのう!授業を出るも出ないもワシの自由なのじゃ!」

「そんなこと言って、アンタ。実技で血を出しすぎてここに来たんだろう?ほら寝た寝た!」

 

 

 

…保健室ではそんな事が起きてるとは知らず、デンジはパワーとアメ争奪戦を繰り広げていたのだった。




個人的にねじれちゃんは甘い系の匂いがしそう。すれ違いたい。
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