船花サチは、ちょっと面をかしな、と空き地から私を連れ出した。そうして付いたのは、昼間に行ったカフェだった。
カウンターの席に着くと彼女はまずメニュー表を手に取り、慣れぬ手付きでパラパラと捲り始めると、ドリンクメニューのページを開いた。
「特別にこの船花様が、何か奢ってやるよ。さあ、選びな、クソボケ」
口が悪いのに、そこまで声と顔は悪どくない。すっごいギャップ差を感じる。
入理乃も変人なら、その二倍は変わっている印象だ。
「え、じゃ、じゃあ……、紅茶で」
「テメエ、紅茶好きなのか?私と入理乃もよく飲んでんだよ。私はアッサムで、入理乃はウバが好きなんだ」
「へえ……」
アッサムとかウバは知らないが、紅茶好きなんて、小学生の子にしてはなかなか好みが大人びている。何よりも、あの入理乃が趣味を持っていることが意外だ。
サチは店員を呼ぶと、紅茶を二つ頼む。そしてメニュー表を邪魔だとばかりに横にのけた。そして、頬杖をついて、
「……なんか、お前入理乃みてぇな奴だな」
あたしはバレないように僅かに瞳を半目にする。
あたしのどこがあの、生意気で、偉そーで、強気なクソガキに似ているというのだろう。そんなの死んでもあり得ないに決まってる。
「あれだよ、無口そうなとことかだよ。まあ、入理乃の場合、無口というより、おどおどしてっけど」
「……おどおど?」
確かに入理乃は最初会った時、分かりやすくあたしに弱気だった。
あれはあたしを油断させるためのフェイクだと思っていたが、その言い方だと、あっちが素の性格で、あたしに対する態度の方こそおかしいように聞こえる。
……何だかよく分からなくなってきたわね。二つの顔のうち、どっちが本当の入理乃なのかしら。
「ていうか、テメエ誰だよ。入理乃の何なの?」
「……!?」
サチが入理乃の相方なのに、あたしを知らないことに驚く。思わず前のめり気味になって問いかける。
「船花さん、入理乃のこと……、阿岡さんのこと何も知らないの?」
「……あいつ、結構ああ見えて、勝手に動くことが多いんだよ。私頭が悪いから、入理乃が何やってんのか分かんないこともよくあるし。だからテメエのことも全然知らないし、あいつのことも把握できてないよ」
サチは分かりやすく落ち込んだ表情になる。
あたしは、一週間前にカラオケボックスで感じた疑問を思い出していた。それは、何故その場にサチがいなかったか、ということだ。
その答えが、今はっきりと分かった。
あたしに襲い掛かって呪いをかけたのも、特訓をつけてるのも、全部全部、入理乃が独断でやっていることだったのだ。
サチと話し合って決めたわけじゃない。だからカラオケボックスにサチがいなかったのだ。
あたしは入理乃に飽きれた気持ちになった。
牛木草は入理乃とサチの縄張りなのだから、二人で相談して管理していくのが普通である。それをせずに好き勝手にやっているのは、ちょいと野方図だ。
そりゃあ、キュゥべえも入理乃に、何をやらかすか分からない、と言うだろうさ。
「阿岡さんに注意したりとかはしてるんじゃないの?」
あたしは、至極真っ当で、当然の疑問をぶつける。しかし、サチはそれが尺に触ったのか、ふんと鼻息を鳴らした。
「あいつは私のために色々頑張ってくれてるんだもん。何も言えないよ。それって、私があいつの信頼を否定することになるし」
あたしは呆れと感心をごちゃ混ぜにした顔になった。
自分勝手な奴を信じて、得なんかあるわけがない。それをよくこの子は、はっきりと言い切れたもんだ。
「貴女、凄いわね。どうして、入理乃にそこまで……」
「……あいつは私と同じ苦しみを抱えてるんだよ。だから、私が入理乃の味方になってあげないといけないんだ」
「……?」
どういうことか、と聞こうとしたその時、店員がカップを二つ運んできた。
一旦会話を中断し、それぞれカップを受け取る。
船花サチはその中にある紅茶を啜ると、改めて話し始めた。
「……入理乃ね、ちっちゃい頃から親に無視されてきたんだ。それどころか、赤ちゃんの時から親に育ててもらってない。あいつの両親は、全部あいつの世話を使用人に任せっぱなしにして、あいつをずっと放置してる。親戚総出で入理乃がいじめられた時でも、何もしなかったくらい無関心なんだ」
「……、そんな……」
じゃあ入理乃は、親の愛をずっと生まれてきてから一度も貰えてこなかったの?
それは、どれだけ孤独だったんだろう。想像しただけで、あたしは怒りで体が震えた。
家族は心の支えであり、パーソナリティの拠り所だ。どんなに周りが酷くったって、家族が暖かければ何とかやっていけるくらい大切ものなんだ。あたしが家族に──さゆりにどれだけ救われたことか。
……入理乃の両親も、我が子なら無条件に愛して、救わなきゃ駄目でしょ。ここまで酷いことをするなんて、親失格どころか、人間失格だ。
「……私も昔は実の両親に良い扱いを受けてなかったんだ。全部、何もかもを管理されててさ……。そういうの何て言うんだっけ。か、か、か……」
「過干渉?」
「そう、それ!!カカンショー!!」
あたしが教えてあげると、サチは悩ましい顔から一転、すぐににっこりと笑った。彼女は案外、単純らしい。
「そのカカンショー、超酷かったの。やれ言葉遣いは丁寧にしなさいだの、やれ次はどこの旅行に行こうかだの……。小さい頃から散々私を振り回して、連れ回して、自由を奪って。“香干サチ”は、伯父さんがお義父さんになってくれるまで、ずっとお人形さんだったんだ」
その後も、延々と自分の過去についてサチは述べる。
聞いているだけで、気分が悪くなるような内容ばかりだ。サチの親は、完全に彼女の人格を無視し、否定し、束縛していた。
……どうやら、サチもサチで、入理乃のネグレクトと同じくらいの虐待を受けていたらしい。
つまり、入理乃と似た境遇だったのだ。
故にサチは、入理乃に共感して、自分と同じ苦しみを抱えていると称したのだろう。その悲しみも、その辛さも、よく分かっているから。
何だか居た堪れなくなって、あたしは居心地が悪くなった。……その健気さが馬鹿みたいに一途で、直視しできない。
「私はあいつのやることを全部信じてあげるの。誰にも肯定されてこなかったあいつを、私だけは裏切っちゃいけない」
「それなら、……尚更疑問に思うんだけど、船花さんどうして近くで覗き見なんてことをしてたの?」
サチが現れた時に落ちたあの紙は、姿を隠すための魔法の紙と考えて良いだろう。つまりサチは、あたし達の目に映らないように側にいて、ずっと特訓を見てきたということだ。
……相方の偵察だったのだろうが、しかしそれこそ、入理乃を疑ってる行為だ。言っていることと少しずれてる。
「な、何おかしなこと言ってんだよ。私覗き見なんてしてないし!!遠くの木の天辺に隠れてただけだもん!!」
サチはそこで失言に気がつき、赤面する。そして、あたしを思いっきり睨みつけた。
「分かった、認める!!そうだよ!!覗き見してたよ!!」
開き直ったのか、キレ気味になった。
あたしは、眉をひそめて不機嫌さを面に出した。自分でうっかり喋ったくせに、そういうのを止めて欲しかったのだ。
「……何で覗き見なんかやってたの?」
再び、肝心な部分を聞く。サチはそっぽ向いて紅茶を飲むと、
「今日、入理乃に電話したら、ミズハのことで突然怒り出したりしてたんだよ。その前も様子がおかしかったし、だからこの船花様が、わざわざ入理乃の様子を見にやってきたんだよ?何も悪いことしてないじゃない…………、あ……」
取り繕うように言い訳を述べていたサチは、その最中にまた何かに気付いたのか、突然その顔を真っ青にさせた。
「入理乃から早島の留守を頼まれてたのに、放置してきちゃった……」
………アホだ。アホがここにいる。
「バレたらまずい……!!バレたら終わりだぁ」
慌てて始めるサチ。その目は泣きそになっていて、少し同情してしまう。
「な、何も言うなよ。何も!!」
「わ、分かったから、何も言わないわよ。あと、代わりにあたしのことも黙っておいてくれると助かるんだけど……」
「うん。私のことは、お前とだけの秘密だ。言わない、絶対言わない!」
あたしは紅茶を口に含み、渇いた喉を潤す。それと共に、本当に大丈夫なんでしょうね、という言葉も胸の内に仕舞い込んだ。
……実は一瞬、サチにこちらの事情を話して助けてもらおうかと思ってたんだけど、こんなに抜けているなら期待できそうにない。
もっと酷い目に合うのは御免だ。あとあの入理乃のことだから、事情を話したら呪いが発動する仕掛けでもあるかもしれないし。
「それで、テメエ何なんだよ。入理乃の何だ?」
やっと話が本題に戻る。しかし、色々ぐだぐだしたのもあって、緊張感は明らかに薄まっていた。サチの目元も、微妙に剣呑さが薄まっていて、こっちに気を許している。
しかし、どう答えたものかしら。入理乃の防音結界で会話は聞こえていないだろいから、何とでも言えるんだけど、下手な発言は出来ないわね。
そうやって悩んでいると、サチがとんでもないことを言い出した。
「……もしかして、友達とか?」
「……」
それを聞いて、あたしは内心で変な顔をした。
どうしたらその結論に行き着くのだろう。あたし達の様子から、友達という関係性を連想するのは無理があると思うんだけど。
「……いや、じゃなきゃ、特訓するような間柄になれないと思ったんだけど」
あー……、そういう考えをしちゃったのか。でも残念ながら外れなのよ。めちゃくちゃ悲しいことにね。
「ち、違うわよ。あたしと阿岡さんはそんなんではない。“たまたま”偶然にも魔女狩りで知り合って、一緒にいるようになっただけよ」
「そうなのか……」
こっちの嘘を、サチはすぐに鵜呑みにしたようだった。彼女は単純なだけでなく、年相応に純粋ならしい。
……ちょっと危なかっしい少女だ。相方の入理乃も大変だろう。まあ、だからこそ、黙って独断行動を行なっているのかもしれないが。
「ねえ、……お前に頼みがある」
急にサチが神妙そうな、改まった態度になった。
あたしは密かに警戒する。クラスでのからかいもそうだが、相手がこういう顔の時は用心しなければならない。大抵、ろくなことは言わないからだ。
「あいつの友達になって。そして、支えになってあげてくれない?」
「……」
僅かにカップにやっていた手の力が軽くなる。身構えていた分、ちょっと拍子抜けしてしまったのだ。
だが、サチにはこちらを面白がっている雰囲気がまるでない。どうやら本心から、誠心誠意、頼んでいるらしかった。
「……私達、ミズハっていう魔法少女と交流があったんだ。まあ、私はあまり仲良くなかったし、数回しかあったことないけど、入理乃とは相当仲良かったらしくてさ、週に一、二回は、一緒にゲームしたりして遊んでたんだ。けど、色々あってミズハと縄張り争いすることになった。入理乃はそれ以来すっかり変になった。何かが壊れたような……、そんな気がしてならないんだ。」
ミズハとの関係は、思ったよりも複雑なものらしい。
それにしても、皮肉な話だ。サチはともかく、入理乃のショックは大きかったに違いない。
……愛を諦めているのに友達になれたってのは、それくらいミズハを信用してたということだ。もしかしたら、本当の愛を得られると期待さえしていたかも。
そんな相手に裏切られたら、誰だって絶望する。
「だから、あいつの友達になって、励ましてあげてくれない?あいつには、ミズハみたいな友達が必要なんだ」
「……、貴女の方が、阿岡さんと仲が良いじゃない。貴女が励ますのは駄目なの……?」
あたしはサチに、訝しがりながら問う。
ここまで相方を思ってるのに、自分の手で何故支えない。一体何を考えてるのかさっぱり理解できない。
「私じゃ、無理よ。正直あそこまで強気な入理乃は初めて見た。私じゃあ、入理乃をおどおどさせて、引かせてしまうだけなんだ。だけどあいつはお前の前では自然体で、心を開いてる。……あいつに言葉を届けられるのは、お前しかいない」
「……貴女、それで本当に良いの?あたしと入理乃が仲良くしてたら嫌だと思うのだけど。それって一人ぼっちになるみたいだし。寂しい思いはしたくないでしょ?」
「そりゃあ寂しいけど……、でもこの船花様にとって、そんなことより入理乃の方が大事だよ。私は、私自身よりも入理乃を優先する」
目の前の少女のその覚悟を聞きながら、あたしは自然と俯いていた。
揺らめく紅茶の水面には自分の顔が映りこんでいる。そこに浮かんでいたのは──サチへの羨望だった。
……悔しいが、今素直にあたしは、サチがカッコいいと感じてしまったていたのだ。
ここまで意思を貫き通せるこの子の強さが羨ましい。
あたしも、こうなりたい。あたしもこの子みたいに胸を張って、堂々としたい……。
その時、すぅっと何かが天啓のように頭の中で降りてきた。
瞬間、雷にでも打たれたような衝撃が広がる。あたしは、震える手を額にやった。
……求めてやまなかったものが、今手に入るかもしれない。あたしは、ようやく──
「……キュゥべえの願いってのは、本当に叶うもんなのね」
「そりゃあ、そうだろ……」
何言ってんだこいつ、という目つきが向けられる。あたしはそれに苦笑した。
実は今この瞬間まで、それを疑っていたんだとは言えない。
……にしても、よくよく考えると、入理乃の手駒になるのもサチに会うための布石だったのね。
くそ、急に腹が立ってきたわ。こんな理不尽な叶い方せずとも、サチに会える方法はいくらでもあったじゃない。
やっぱ、あの白い毛むくじゃらは詐欺師だ。あとで文句の一つでも二つでも行ってやろうかしら。
「船花サチ。……アンタは“正解”を持っているかもしれない」
あたしは顔を上げ、尋ねる。
……あたしの直感が言っている。この子は間違いなく、あたしにとって重要な何かがある。
それを意地でも良いから掴み取ってやる。あたしは、この悩みを早く終わらせたいんだ。
「だから、あたしがアンタの頼みの返事をする前に、あたしからも質問させて欲しい。あたしは、あたしを押し殺すべき?それとも、あたしは何があっても、あたしを貫き通すべきなの?」
「えーと、どういうこと……?」
サチはその質問の意図が分からないようだった。あたしは言いたくはなかったが、もうこの際だからぶっちゃけることにした。
「あたしは、皆に見捨てられて一人になりたくなかった。それで、何でも人の言うことを聞いてきたの。でも最近それが本当に正しいか分からなくなってきたのよ。……サチはどっちが正しいと思う?あたしは、あたしを押し殺すべき?あたしは何があっても、あたしを貫き通すべきなの?」
少女は呆けたような表情をする。しばらくしてから、カップを口につけて紅茶を飲み、そして一言。
「……、お前馬鹿だろ」
「は?」
「この船花様がそんなの分かるわけねえよ。なんせ、私もそれに悩んでんだから!!むしろ教えろ!!私はどうしたら良いんだよ!!」
「は、はあ!?」
ずっこけそうになる。この展開、予想外すぎる。
「私だって、私だってねえ……、入理乃に何してんの?何やってんの?私のことどう思ってんの?本当に信じてくれてるって聞きたいよ!でも、さっき言った通り、信頼を裏切ることになるし!!なんか怖いし!!」
結構……、不満たまりまくってんのか。
でも、それもそうよね……。あんな相方じゃあ、不安の一つや二つ感じるわ。だから今回、覗き見に踏み切ったんだろうし。
「入理乃から見捨てられるのは嫌なんだよ!私を見てくれるの、入理乃ぐらいだもん。もぉ、どうしたら良いのか分かんねえよぉ〜」
サチはいつの間にか泣いていて、テーブルに突っ伏していた。周囲の注目があたし達に集まり始める。サチには同情的な目、そしてあたしには冷ややかな目は向けられた。
……傍目から見れば、中学生が小学生を泣かしているように見えるんだろう。つまり、あたしの方が悪く見えてるのだ。
畜生、世の中って理不尽で最低。外見だけで人を判断するんじゃあない。特にあたし、今回に限っては何もしてないわよ。
「な、泣き止んでよ、ほら」
「……ぐす。ありがとう」
持っていたハンカチを、半ば強引に手渡すと、サチは涙でぐしゃぐしゃな顔をゴシゴシと拭いた。
「……そういうわけだから、私には答えられないから。ごめん」
あたしは差し出されたハンカチを受け取る。ああ、……お気に入りのやつなのに、汚れてしまった。仕方がないとはいえ、もうちょっと丁寧に扱えよ。人のものなんだから。
「いや、こっちこそ、ごめんなさいね」
……何かあたし、早とちりしてたのかも。キュゥべえも、長い時間をかけて叶う願いかもって言ってたし。
あーあ、勇気を出して損をしたかもしれない。何の収穫にもなりはしなかったし、あと罪悪感あるし。
まあ、……少しは気が楽になった。何もあたしだけが、悩んでるわけじゃないって知れたから。
「……でも、はっきりと言えることはあると思うよ?」
「……え?」
「皆に見捨てらたくないってのは、間違いだろ。だって、そんなの無理だもん」
サチは泣いたことで乱れた髪を、手で触りながら言った。
それは、あたしも理屈ではわかっていることだった。見捨てられる時は、大した理由もなく、容赦なく見捨てられる。あたしも小学校の頃に一度は体験している。
「皆とじゃなく、一部の人とだけ仲良くしてれば?大人数にニコニコするとか面倒くさいだけだし」
あたしは目を見開いた。そんな発想、今までなかったからだ。
胸元で揺れる“お守り”を握りしめる。
……あたしは何で、こんなことも分かりはしなかったんだろう。
一人じゃないってのは、皆から認められることだと思ってた。けど違ったんだ。
心の底から、自分よりも相手を選ぶ人がいる。ただ一心に、大事に思ってくれる人がいる。
……それだけで、一人じゃなくなるんだ。それで、充分だったんだ。
家族みたいな友達がいれば、きっとあたしも──
「なんなら、この船花サチ様が友達になってあげようか。お前友達いなさそうにないし」
あたしは信じられない思いで固まった。
こんなこと言われたの、いつぶりなんだろう。……こんな物好きな奴いたんだ。
「け、けど、あたしは誰からも受け入れられない性格で……」
「ええ、そりゃあないでしょ。私、お前のこと好きだし」
「な、何でそんなこと言えるのよ……」
一日中、あたしを見てきたんだ。あたしの性格くらい、分かる筈だ。
それなのに、どうして……。
「だって、抜けてて面白いもん」
「……抜けてる?」
んな、阿保な……。このあたしの何処が、そんな感じなんだよ。あたし他人よりもしっかりしてるんですけど。
「自覚ないの?お前、特訓中の時に間違って、液体金属で作った槍のイシヅキで足の小指をぶつけて悶絶してたでしょ」
「ちょ……」
こいつ……、ドジ踏んだところちゃっかり見てやがる。ずる賢い奴め……、そういうとこよくないのよ、本当。
「本当愉快な奴だよね。もう思い出しただけで後五年は笑い転げられるわ。ぷ、ふふふふふふ」
「……このクソガキ」
必死に笑うのを我慢しているサチを見て、あたしは顔に青筋を立てた。
超やめて欲しい。周りの視線は冷たくなくなったけど、代わりに生暖かい目になってるから。しかもニヤニヤと面白がるように……!!
「……はあ。もう良い。アンタと友達なんて。笑うような子とはなりたくない」
なんか、気が抜けた。まったく、馬鹿馬鹿しい。これってあたしを受け入れてるんじゃなくて、あたしをただたんに馬鹿にしてるだけじゃない。
「ええ〜……。そういうこと言っちゃうの?よく空気読めないって言われないの?」
「失礼ね。そんなことないわよ」
昔ならともかく、今は場の雰囲気ぐらい読めるよ。むしろ得意と言っても良い。何せ、伊達に小学校の頃から人の顔色は伺っていないからね。場数は踏んでいる……!!
「ねえ、そろそろ、返事をきかせてくんない?」
サチは窓の方を見た。外はすっかり暗くなっている。店内もそれに合わせて、人が多くなってきていた。
あたしはすっかり冷めた紅茶を全部飲む。……うん、好きでも嫌いでもない味だ。
「……何とか入理乃を元気にするのは、協力してあげる……。でも申し訳ないけど、入理乃の友達にはならない。あたしはあたしなんだ。ミズハの代わりにはなりたくない」
あたしは、サチの顔を見据えてはっきりと断った。
以前ならそれも怖くて出来なかっただろう。でも、その恐怖はもうあたしの中にはなかった。
……あたしはサチのお陰で、大事なことに気づいたんだ。
「……ありがとう。それだけでも、十分助かる」
サチは笑顔を浮かべる。あたしは目を細め、テーブルに載せていた手で握り拳を作った。
今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?
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