私の片割れ。私の半身。お姉ちゃん。
貴女はいっつも、一つの物事に囚われてばかりだったね。
そのうえ、抱え込みやすくて、調子に乗りやすくて、俗っぽくて、意地っ張りで、ヘタレで、脳筋気味だ。
……本当、生きにくい性格だよね。昔から自縄自縛をして、苦しんでもがいている。
でも、そんな貴女だけどいつも不思議なくらい一生懸命だね。
めげないし、諦めない。どんなことがあっても、立ち直れる強さを持っている。
……何で貴女はそこまで頑張れるの?どうして目標に向かって真っ直ぐでいられるの?
よく考えても分からないし、質問したところで貴女も答えられないだろうね。
でも、頑張ってる姿はそれだけで私を励ましてくれていた。私を勇気付けてくれていた。
だから、思ったの。将来、貴女のように頑張っている他の人も、支えてあげたいって。
……貴女のお陰で、今の私の夢がある。
ありがとう。感謝しても仕切れないよ。照れくさいけど、いつか何かお礼がしたいな。
私は気がつけば、見知らぬ場所にいた。
木でできた、広い小屋のような施設の中だ。カビ臭く、埃臭い。
何か作業台のようなものが角にあったり、倒れたプラスチックのゴミ箱がある。
しかし陰鬱な印象に反して、窓が上にあるので、意外とそこから光が入ってきて明るかった。
「ああ、悩める人達。貴方方は本当に本当に、可愛そうな顔をしていますねぇ」
それは、突然だった。
何と、一つ瞬きした瞬間に、派手な衣装を着た女の子がいつの間にか目の前に出現したのだ。
実に奇々怪界。摩訶不思議な現象だった。
しかし私は……、何故か驚かなかった。いや、驚けなかったということの方が適切か。
何だか頭がぼんやりしているのだ。上手く思考できない。感情のスイッチがオフのままになっているみたい。
記憶もあやふれだ。私は、さっきまで何をしていたのだっけ……?
「自ら思いに蓋をし、自らの手で首を絞め、自ら鎖で自分を封印する。そのことのなんと生きにくいことか。貴方方は矛盾の権化と言えるでしょう」
舞台にでも立っているかのような、大仰な口調。手を広げて、まるで踊るようにくるくる回っている。
万華鏡みたいに、世界もぐるぐる、ぐるぐる。
気が緩み、パカって、思いを閉じ込めていた心の箱が開く。私は手で顔を覆って、その思いを面に出した。
「……私は、矛盾している。何で私、姉を支えておきたいと思っていながら、こんななんだろう……」
私は醜い。ぐちゃぐちゃで、意味が分かんない。
私達は互いに依存し過ぎてる……。こゆりは私を支えにすることで一人じゃないと言い聞かせ、私はこゆりの悩みを相談することで優越感を得ていた。だから、離れたいと感じていた。夢のためにも、互いのためにも……。
けれど、……あの依存関係は心地良すぎた。だから、お姉ちゃんが自立しようとしていることに──この思いにけじめがつけられない。
……矛盾した願いは両立できず、天秤は釣り合わないのに。
「私……、私はどうしたら良いのか分からない」
無力感が襲う。
……お姉ちゃんも、こんな気持ちだったのかな?貴女も、決められなかったのかな?
選択肢にぶつかるのって、こんなに辛くて悲しいんだね。
「俺もだ……。俺もどうしたら良いのか分かんない……。会社から逃げられない……」
隣から声が聞こえた。見知らぬおじさんだった。
何だか覇気がない顔をしている。……きっと彼は、この世のすべてに疲れてる。
「わしも……。どうしてこんな目に合うのか分からない……。何故、誰も救えない……」
今度は後ろから聞こえた。裕福そうなお爺さんだった。
……この人も覇気のない顔。お金で解決できない何かがあるんだろうか。物で心は、満たされないというし。
私も。俺も。あたしも。僕も。
気がつけば、周りには人が多くいた。年齢はバラバラ。性別もバラバラ。しかし、皆一様に虚な顔している。苦しんだものが浮かべる、虚無がそこにあった。
……そっか。私の他にも、折り合いをつけられない人はいたんだ。皆、もがいてももがいても、選択肢を選べないんだね……。
「分かります、分かります。貴方型の苦しみ、よく分かりますとも。私もそうでしたから」
派手な服の少女が、うんうんと頷く。
嘘くさい動作なのに、私は感激してしまった。分かってくれたのが、安心スル。
嬉シイ……。ウレシイ……。
皆、泣イチャってる。隣のオジサンなんか、モウスゴイ……。
皆、カンセイアゲテル。ワタシモカンセイアゲテル。コエハリアゲテ、アゲテル……。
「この苦しみが、永遠に続くのは耐えきれませんよね?この苦しみが、永遠に続いて欲しくありませんよね?」
ウン。クルシミタクナイ……。スクワレタイ。ナニカニスガリタイ。
スガリタクナイ。ワタシはワタシをステタイ。
「苦しみから逃れる方法は一つしかありません。お互いが、お互いを殺すのです。肉体を滅ぼせば、魂は救われる。何故なら魂は自由だから」
フワン、グワん、ぷワン。
ミミナリガひどい。何かがワタシの頭を揺らし、陶酔サセテイル。
メノ前が真っ赤っか。夕日みたいに真っ赤っか。
「さあ、殺し合いましょう。刃は既に準備してあります。さあ、どうぞ気の赴くままに──」
ワー!!ワー!!ワー!!
ドタンバタン!!ドタンバタン!!ザクザク!!ブシャー!!
途端におこったそうおん。ミンナ、アバレマワッタ。
ワタシもアバレマワッタ、アバレマワッタヨ。
ミンナ救うためにがんばってガンバッタ。ミンナをサシテコロシテアゲタ!!
オオクノヒトが死んだ。
オジサンはオンナノコをコロシタアト、オトコの人にナグラレテ死んだ。
オジイサンはオナイドシのオトコノヒトにハラを刺され、ワタシがアタマを指してシンでしまった。
そして……、キガツイタラ、ミンナイナクナッテタ。血ノ匂い。散乱するヒトの亡骸……。
ドウヤラワタシだけイキノコッタみたい……。ワタシだけがスクワレナカッタ……。
ん、……アレ?ワタし、そんなことカんがえてたっけ?そんなことノゾンデいたっけ……?
分かンない……。デモスクワレタイ……。ナンで?
「あら?貴女、正気を取り戻そうとしているの?」
オンナノコが聞いてくる。……正ウキ?取り戻ス?
ワタシはなにをしていたノ……?
手元にいつのまにか持っているものを見る。それは赤い血がついた包丁で……、
「私、人を──」
「ま、いっか!!バーン!!」
その瞬間。何かが飛んで私の首に刺さった。
──それで、意識は無くなった。そこで私の命は終わった。
呆気なさすぎて、つまらないくらいに。
◆◇◆◇
都心から少し離れた道を、あたしと入理乃は歩いていた。
目的地は、入理乃の『牛木草で行きたい場所』である。その距離は、後十分ぐらいといったところか。割と徒歩で近い。
あたしの足取りは、我ながら重かった。背中は若干猫背気味だ。
そんなあたしとは対照的に、横にいる入理乃は元気だった。
それはキラキラした目で見ている、彼女の手の中にあるもののせいだろう。
カリッカリのコーン。その上に盛られてあるのは、積み重なった二つの半球。下は牛乳がたっぷり使われたバニラ。そして上はビターチョコのジェラートだ。
牛木草名物、バリーさんちのアイスである。
バリーさんという店が出しているアイスで、基本の組み合わせはバニラとビターチョコしかないが、その二つが合わさったその美味しさはまさに極上。全国のアイスの頂点を決めるテレビ番組で六位をとった程である。
入理乃は涎を垂らしそうな勢いのまま、その超人気アイスにかぶりついた。
そして、堪らんといった感じで、
「うまぁ〜……」
「そうですかい、そうですかい……。良かったわねえ……」
あたしはため息をついた。
このアイスを手に入れるのに、何分並んだことか。マジで疲れた。
それもこれも、入理乃が「最後だから!!ここ行ったら目的地にすぐ行くから」と駄々を捏ねたせいである。
ったく、遊びに乗り気じゃなかったくせに、最終的には自分からこっち行きたい、あっち行きたいだもんなあ……。
服の時もそうだが、なんか納得がいかない。なんか負けた気がする。
「……でも、意外ね」
「んん?うふぁい?」
「食べながら話さないで」
もぐもぐとアイスを頬張る入理乃は、まるでハムスターのようになっていた。
ちょっと面白いぞ、おい。
「んぐ……。それで、意外って何よ、意外って」
「いや、素直にアンタが楽しむなんて思っていなかったから」
入理乃は普段と違って、ずっとはしゃぎまくりだったのだ。
どこに行っても、物珍しそうにしたり、驚いたりして、まるで普通の小学生のようだった。
偉ぶっているわりに、可愛いところあるじゃないか。すっかりイメージ変わったわよ。
「それを言うなら私だって、……こんなに楽しんでしまうなんて思わなかった。最初は楽しむつもりなんて微塵もなかったはずなのに」
アイスのバニラ部分を食べ終わり、チョコ部分を舐め始めながら、入理乃は複雑そうだった。
「……お前は不思議だね。こんな、自分を苦しめてる人間を遊びに誘うなんてさ。何のつもりなのか知らないけど……、お人好しすぎるよ」
「あたしはお人好しじゃない」
あたしは優しくもなければ、人のこともどうでもいい。
本当に大切で大好きなのは自分だけ。自分の考えが一番正しく、それを曲げられるのが何よりも嫌な人間なのだ。
……あたしは我がままなんだよ。
「あたしは自分のやりたいようにやっただけ。ただ、アンタが元気がなさそうだから、励ましたいと思っただけ」
入理乃はその時、アイスを食べるのを止めてこちらの言うことに聞き入っていた。
そして、何故か恨みがましそうに睨まれる。
「お前よくそれを私も前で言えるね……。恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくはないわ」
断言すると、呆気にとられたのか。彼女は馬鹿にしたように、ふっと笑った。
「……何でそう堂々とできるかねえ……。私はお前が羨ましいし、妬ましいよ。だって、自分がやりたいことが明確になってるんだから。私はもう、そんなの分かんなくなっちゃった」
「入理乃……」
「そういう視線は向けないでよ。手駒にして欲しくない」
思わず同情的になると、入理乃は興味がないとばかりぷい、っと顔を背けて、バクバクとアイスに齧り付く。
あっという間にコーンまで、入理乃の胃袋の中へ入っていった。
そして、ああ、そうだ、と。何かを思い出したような素振りをした。
「……昨日言ったと思うけど、何故お前が魔力を上手く操れないのか、その原因を私なりに考えてきたよ」
「え、今からその話?」
「別に良いじゃん。何か文句でもあんの?」
「いいや、ないけど」
唐突すぎてびっくりしただけだ。
それに着くまで暇ってのもあるし、むしろ今言ってもらえるのは全然OKだ。
「……あれだったんだね。金属操作はああいった魔力を送るとかいう操作には向いていないんだね」
「え?あたしはただコツが分からないだけじゃないの?」
「コツとかの問題じゃないと思う。だってお前、他の同じ難易度の課題はどんどんクリアしていってたし、特別魔力操作が苦手だった訳でもないじゃない」
ええ〜……。そうかぁ?お前が無茶なこと教えた結果じゃないの?
「付け加えていうなら、私は他者と自分の能力差ぐらいきちんと把握している。だから、できるだろうという範囲でしか、お前には教えてはいない。あれくらい、お前ならできて当然なんだよ」
失礼なことを考えていたことが見抜かれたのか、入理乃からじと目を向けられた。
……どうやらこの言いぶりからするに、本当は気を使ってくれてたんですね。今まで心の中で悪口言ってごめんよ……。
「……遠距離戦の練習のアプローチを変えてみたほうが良いかもしれない。例えば、投げた武器を遠隔操作で操るとか。そうしたらお前は攻守共に隙がなくなる。お前の生存率は上がるよ。私はお前には死んで欲しくはない……。これからも……、ずっと……牛木草を任せておきたいから」
あたしから目線を外しながら入理乃は言った。しかし……、それはこちらが恥ずかしくなるぐらいはっきりとした言葉だった。自分の思いを素直に出している言葉だった。
あたしは嬉しくなる。心と心が、少し繋がったような気がしたから。
「……ありがとう、入理乃。……本当、貴女の方こそあたしより優しいんじゃないのかしら?」
あたしは元気付けるように、戯けて言ってみせる。
しかし、入理乃は視線を逸らしたままだった。そして、何かを訴えるように、
「私は──」
言いかけたところで、勢い良く隣の曲がり角へ向いた。
あたしもびくりとして、立ち止まってしまった。
禍々しい気配。産毛が逆立つような魔力の反応を──魔女の反応を感じ取ったのだ。
距離は近い。それに今までにないほど強力なものだった。
……どうして今までこんなのに気づけなかったのよ。普通だったら、とっくに……。
身体中が一瞬で、氷みたいに冷たくなっていた。不思議と何かがあったような気がして不安になり、鼓動が速くなる。
「こゆり!?」
あたしは入理乃の声も待たず、弾かれたように曲がり角の方へと走り出した。
魔力の反応を辿って、道を右折し、左折し、まっすぐ進んでいく。
そうして見えてきたのは、木で出来た今にも崩れそうな大きい小屋だ。
周りは草でぼうぼう。人の手を長く離れたであろうことを感じさせた。
「!?」
驚愕しながら鼻をつまむ。外にいるのに、小屋の中からむせ返るような血の臭いがするのだ。
いよいよ嫌な予感がしてくる。
あたしは意を決し、頭の中で出来る限りネガティブなイメージを追い払いながら、無理やり小屋の扉を開けた。
「…………………………………………は?」
それを見た瞬間、がく、と膝から力抜けてへたり込んだ。
どこもかしこも、赤い色で染まっていた。
壁や部屋の角にある机に跳ねた、ペンキのような赤黒い血化粧。血のりがついた、床に落ちているいくつもの鋭利な包丁。
腹部やら足やらの傷口から鮮血を出している、十四、十五人の老若男女の死体の山。
そしてその天辺にて、首に包丁を刺されて目を剥き出しにして絶命している少女は、あたしの最愛の妹で──
「何、これ……」
そこから先、言葉が出ない。酷く実感がなかったのだ。
五感が冷却されていく。世界が遠のいていった。
しかし、気分は悪くなっていき、ぐるぐるお腹の底が掻き回されいく。
四つん這いの格好になり、頭を下げた瞬間、それは喉を逆流し、口から胃酸として飛び出した。
「おええええええええ!!」
げほっ、げほっ、とあたしはその後も咳き込む。口内が酸っぱく、目眩が起きたように頭がくらくらした。
……何で、何で……、理解が追いつかない。
目の前の光景が、嘘だと思いたかった。でも、嘘じゃない。夢じゃない。
これは現実。逃れ用のない現実なのだ。
「嘘でしょ……」
その時、後ろから物音した。
見ると、追いかけてきたであろう入理乃が顔を真っ青にさせ、口を手で覆っている。
彼女もまたこの光景に驚いて、固まっているようだった。
「ねえ、…………何でさゆりが、死んでるのかな?」
あたしは、疑問を胸の内にしまいきれずに問いかける。
その声は深閑とした室内に不気味なくらい、良く響いた。
「はあ?……さゆり?誰それ?」
入理乃は訳が分からないといったように顔を歪める。
「妹。あたしの、双子の妹。あそこで死んでいる女の子」
入理乃の視線が、さゆりに向けられる。
みるみるうちに、目が見開かれた。息を飲む音がこちらまで聞こえてくる。
「……どうして?今日はいつも通りだったのに……」
……そう、さゆりはいつも通りだったのだ。
同じ部屋で一緒に起きて、同じ朝食を食べて、同じテレビ番組見て、遊びに出かける際は、元気よく手を振って見送ってくれたのだ。
だから……、帰ったら、また同じように夕食食べて、同じ部屋で眠るはずでしょ?
いつもの日常が続いていくはずでしょ?
あたし、何が起こったか全然分からないよ……。そもそも、何で貴女はこんなところにいるの?
今日、外に出ていたっけ?そんなの聞いてないよ?
こんなの冗談じゃないよ……。突然すぎる。
「誰だ……、誰がこんなことをした?誰があたしから、妹を奪った?」
溢れ出た涙をそのままに、ゆっくりと顔を上げる。
その視界の先の壁には、先程はなかったものが浮かび上がっていた。
シンプルな家の形をした大きな紋章。結界への入り口だ。
魔女、という二文字が浮かんだ。それで、はっとする。
……そうだ。魔女は人を殺すじゃないか。つまり、さゆりは──
「………お前か?お前だな?魔女……」
呟いたと同時に、ぶるぶると体が震えた。それは、今までに感じたことのない、マグマの如き怒りによるものだった。
ああ、許せない。許せない。許せない。
誰もあの子の命を奪って良い訳がない。
……さゆりはあんなに良い子だったんだよ?
自己中なあたしなんかのために、あの子はあたしを励まし続けてくれて、“お守り”まで渡すくらいあたしの幸せを願ってくれて……。
さゆりこそ、幸せになるべきで、あたしより価値がある人間だった……。あんな無惨な姿で死ぬべきじゃなかったのに……!!
「こ、こゆり……」
入理乃は、悲しげにあたしの名前を呼んだ。
どうしたらいいのか、分かんないんだろう。でも、あたしだって彼女に気を使う余裕はない。
目の前は、怒りの色で染まっていた。
結界の入り口から漏れている魔力が膨れ上がるのを感じる。
……誘っているとでもいうのだろうか。上等だ。あたしが直々にぶっ殺してやる。
立ち上がり、素朴な魔法少女の姿に変身する。銀色の液体金属を召喚すると、五メートルくらいのブーメランに変形させて握る。
不思議なことに、それは何をしたわけでもなく、まるであたしの怒りが伝播したように、自ら熱くなって湯気を立てていた。
しかし、あたしは平気だ。何故なら、この武器ははあたしの体の一部みたいなもんなんだから。
「……ば、馬鹿なことはやめなさい!!」
結界の入り口へ向かおうとしたその時、入理乃が横から肩を掴んだ。
あたしは何で、と目だけで聞く。それに入理乃は、真っ直ぐマークを指さした。
「わ、分かるでしょ!?この魔力が!!私達の手に負えない!!妹の仇かもしんないけど、このまま向かえば死んでしまう!!」
「──それが何か?」
「……!?」
「あたしは、命よりもあたしの意思を優先する」
止めないで。あたしは魔女を、さゆりを奪った奴を、放置できない。
じゃないと、この怒りは収まりそうにもない。
「だから、……邪魔をするなぁ!!!引っ込んでろよぉ!!!!あっち行けえ!!!」
あたしは入理乃の手を掴むと、小屋の扉へ──外へと思いっきりぶん投げた。
無意識に身体強化をしたおかげか、入理乃は遠くへと吹っ飛ばされる。
その間、あたしは扉を締めて二つの液体金属を呼び出すと、それぞれ扉の上部、下部に張り付かせ、接着剤のようにガッチガッチに固定した。
「……ちょ、何するのよ!!」
戻ってきたであろう入理乃が、ガンガン外から扉を叩く。
あたしは、それを冷めて目で見ていた。
……入理乃はあたしに付き合う必要なんかないのに、どうしてそこまで必死なんだろ。
大人しくそこにいろ。そして一人で逃げろ。目障りなんだよ……。
あたしは今度こそ、結界の入り口へ入っていく。
世界が、変わった。
◆◇◆◇
ダルトーンの黒い空。ラクダ色の雲。ハリボテでできたヨーロッパ式のレンガの家。点在する古風な外灯。
そして広大に広がる石畳の上に、あたしはいる。
誰もいなかった。生物の気配がない。風が吹いてる、寂しい世界だ。
その世界を壊すように、あたしは叫んだ。
「出てこい!!魔女ぉ!!あたしの命に変えても、ぶっ殺してやる!!!」
ガリン!!
まるで氷をアイスピックで穿ったような音。
空間に黒い裂け目が開かれ、そこからぬぅっと、蠢く暗闇でできたコートの背の高い女性が現れた。
当然、人間などではない。
まず、背中には巨大なナイフの突起物が生え、首にはコードが巻き付けられている。単眼の目は顔半分を覆うほど巨大だ。
そして全身が、どう見ても助からないだろうと思うくらい、火傷後で醜く爛れているのだ。
それはどこからどう見ても、魔女に相違なかった。
……ああ、これで心おきなく、叩きのめせる。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
慟哭を上げ、ブーメランを力の限りコートの魔女へと投げる。
がき、と空気が震えた。
魔女の首に巻きついている細長いコードが動き、ブーメランを後方へと弾き返したのだ。
しかも、あの金属は熱せられていた筈なのに、損傷はない。どうやらコード部分は熱に対して耐性があるのだろう。
「さっさと死ねぇ!!」
あたしは激情のまま、勢いよく右手を横に凪いだ。呼応するように、飛ばされたブーメランがまるで生き物ように旋回し、後ろから魔女へと向かっていく。
それは前に目が付いている普通の生物からすれば、死角からの攻撃の筈だ。
しかし魔女は、易々と振り返りもせずにそのコードでブーメランを迎撃してみせる。
なら、と。あたしは真正面から肉薄しながら、新たに呼び出した液体金属で武器を作り出す。
巨大な、虎のように物物しい矛だ。そのリーチを生かし、魔女目掛けて叩きつける。
瞬間、首のコードが先程より非じゃない程の数に増え、払い退けられた。
軽い感じの動作だったのに、物凄い力だ。それだけで風圧が舞う。
あたしは魔女へとまた矛を何度も打ちつける。
そこには当然、技術などあるわけもなく。ただ力任せの、感情任せの、単調な動きでしかない。
簡単にいなされる。
魔女はコードを伸ばすと、あたしの腹に鞭のように打ち込んだ。
ぶっ飛ばされ、ハリボテの家に背中から激突する。内臓が揺れて、血反吐を吐いた。
「くそ……!!このヤロォオオオオオオオオ!!!!」
あたしは何とか立ち上がると突進する。
その勢いをのせ、魔女の体へ大きな風穴を開けんと、あたしは矛を真っ直ぐに突いた。
魔女の首のコードが動き、矛が自身に到達する前に絡めとる。
そのまま鍔迫り合いのように互いに押し合いとなった。
だが、力の差は歴然。
数分と待たずに矛を取り上げられ、そして同時にぶちぶちっと、嫌な音が響いた。
「ああああああああああああああああ!!!!!????」
絶叫。
視界に鮮血が舞った。
何故かバランスを崩したあたしは、その場に倒れ伏した。
何だ、これ……。何が起こったか分かんない。ただ、とんでもなく痛い。地獄の炎に焼かれたみたいに熱い。
そして、あるはずの感覚が──肩から先の感覚がない。
ぼやける視界の中で、何かが目の前に落ちていることに気がつく。
細長く、袖を纏っているあれは……、あたしの両腕?
自分の肩を見る。そこには、たしかに根本から腕がなく、体量の血を流していた。
それで、理解する。取り上げられた際に、一緒に腕をもがれてしまったのだと。
「………………」
だが、……愕然とはしなかった。
……あたしは本当にこの時、さゆりを奪われたことに怒り狂っていた。自分の体のことなんて、その怒りを前にしたらどうでも良いことだったのだ。
だから、代わりにあたしが思ったのは、どうやってこの魔女を倒せばいいんだということだけだった。
なんせ、腕を持っていかれた。これでは武器が振るえない。
視界が暗くなっていく中で、右足に何かが巻きついたような感覚した。
恐らく、魔女がコードを伸ばして今度は右足をもごうとしているのだろう。
それが面白いのか、けたけたと笑っている。
あたしは鬱血するくらい、口びるを噛み締めた。
悔しい。悔しい。悔しい。
あっさり良いようにやられて、馬鹿にされて、あたしはなんて情けないんだ。
せめて一泡吹かせてやる……。このままでは死んでも死に切れない!!
「……このあたしを舐めるな!!ボケぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
あたしは右足に身体強化をかけながら、力の限り動かした。
巻きついていたコードが連動して引っ張られ、魔女が地面に激突する。
その隙を、あたしは見逃さなかった。
あたしは鉄の杭を魔女の真下から二十本生やし、その頭を、首を、胴体を、腕を、足を、指し貫いた。
畳み掛けるように、さらにすべての鉄の温度を最高値にまで上げる。
……怒りによるせいか、自然と金属に関する熱の操作ができるようになっていた。
やはりというべきか、魔女の胴体部分には熱への耐性はないようだった。
熱せられた鉄の杭に内側から焼かれ、苦しんでいる。しかし逃れることなどできない。それを、あたしは許さない。
やがて、何分過ぎたのだろう。魔女は動かなくなっていた。
……死んだのだ。あたしは、勝ったんだ。
「やった……」
お姉ちゃん、やったよ。さゆりの仇を、とったよ……。
ああ、殺してやった……。あたし、頑張ったよ……。
「…………、」
……なんか、おかしいなあ。目蓋って、こんなに重たいものだっけ……。
何も考えられなくなってく……。もしかして、あたし死んじゃうのかな……?
ふふ、そりゃあそっか……。だって腕持ってかれて、これだけだくだく血が流れてるんだもん。生きられるわけないものね……。
……短い、人生だったな。
苦しみしかなかった……。いつも一人で、他人にどう接して良いのか分かんなくて……。皆に迷惑ばっかかけて、どうでも良いことで悩んでばっかで……。やっと友達できたと思ったら、何故か唐突に妹も失って……。
意味分かんない。……こんなあたし、価値あったのかな……?
胸が締め付けられる……。
「どうして……、あたしは幸せにはなれないの……?」
それを最後に、意識が落ちる。あたしはそのまま──
今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?
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キャラ
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設定
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展開
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話のテンポの良さ
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文章