「……くそ!!」
小屋の外で私は苛ついていた。
こゆりが私の命令を聞かず、無茶な真似をしたからだ。
本当、突然すぎて“呪い”で止めるのを忘れてたくらいよ。
何としてでも連れ帰ろうと、扉を一生懸命引っ張る。
しかし、開かなかった。十中八九、こゆりが魔法で何とかしているんだろう。
恐らくこの感触からするに、物か何かで固定している感じではない。ギッチギチにドアの四辺が固まって動かない、……そんな気がする。
「……つまり、扉の真ん中部分は何もされていないってことか」
それならば、そこだけに穴を開けて中に入ることは可能ね。
まあ、回り込めば窓もなくはないが、生憎中は死体が散乱している。飛び降りた際に運悪く踏み潰してしてしまう可能性もあるし、ここは扉から入る方が良いだろう。
私は和紙をポケットから出して、白く長い杭にさせる。
そして、目の前のドアに穴を開けようとしたその時──私は“知っている魔法少女”の反応を感じ取った。
「……!!」
私は背後を振り返ると同時に、杭を投げつけた。
瞬間、炎が目の前で舞い踊る。
後ろから近づいていた“知っている魔法少女”が、持っていた火の短剣で杭を切り伏せたのだ。
はらはらと焼かれ、萎んで落ちる杭。
……認めたくはないが、私の和紙と彼女の火の短剣の相性は最悪だ。
「酷いなあ、もう。元々私とは仲が良かったじゃない、リノちゃん」
何もしてません、といった、いかにもむかつく顔をしてくる。
私は内心腹が立ったが、睨み返すだけに留まった。
「……そうだね。けど、裏切ったのだからこんな対応をしてしまうのも、仕方がないじゃない」
「相変わらず、普段はおどおどした性格なくせに、敵には口が回るのね。私が言うことではないけれど、無理をしたら自分の首を締めるわよ?」
ニタリ、と笑う動作に合わせて、二つ結びにした、色素の薄い髪が揺れた。
古風なローブ。前髪からちらりと覗くのは、額についた半月の形をしたマゼンタ色のソウルジェム。そして、燃え盛っている火の短剣。
早島を奪い合った縄張り争いの相手──東ミズハがそこにいた。
……何故こんなところにいる。
あのミズハだぞ……?あんなに執着していた早島から離れる理由はないじゃないか。
それに、追跡したのだとしても、
考えれば考えるほど、不可解に思えてならない。
……まあ、悩んでいる暇などない。今はこゆりを優先しないと。
「……何だかよく分からないけど、生憎お前に構っている暇は私にはない。グリーフシードはあげるから、さっさと何処かにいってくれない?」
私は予備のグリーフシードを差し出した。
……悔しいが、ここは向こうに引いてもらうしかない。私とミズハでは、どうしてもあちらが有利なのだから。
しかしミズハは何を考えたのか笑みを溢し、
「……色梨こゆりのことを助けようとしているのね。でも結界には向かわなくて良いわ。彼女は結構酷い怪我を負うけど、必ずこっちに戻ってくるもの」
「!?」
思わず、グリーフシードを落としそうになる。
彼女がこゆりのことを知っていることが、私には何故かとてもショックだった。
「……な、何を言って……?」
「こゆりは大丈夫だって言ってんの。……リーダーが言うには、こゆりは
リーダー……?
まさか……こいつ、何処かのグループと繋がっているのか?
そのグループの誰かの魔法で、こゆりのことなんかを知ったのだろうか……?
でも、……時間軸ということから察するに、未来予知という類でもなさそう。
恐らく因果を手繰り寄せる……いや、因果を把握する能力のものだろう。
そんな相手がいつの間にミズハのバックにいるとは、信じられない。対応を誤れば、もしかしたら命もないかもしれない。
「ここで大人しく待ってて。お願い」
「……」
ミズハの頼みに、私は少し熟考する。そして、……二分後、私は答えは出した。
「分かった。大人しく待つよ」
「あれ?意外とあっさりね」
「……このタイミングで来たということは、何かしらの狙いがあることは明白よ。
そして、お前はわざわざリーダーの存在を言った。要は魔女によって怪我をしたこゆりを助けてやるから、自分が今所属しているだろうグループの元にまで来いってことでしょ?
だから、……お前が言っているのは、嘘でもなんでもない。ならば、私が魔女の元にまでいって無茶をする必要はないわ」
白状に思われるかもしれないが、仕方がない。ミズハの求めに応じなければ、私は多分彼女に殺される。
……ミズハはクラスメイトの自殺のせいか、そういう奴になってしまった。悲しいくらい、性格が変わってしまったんだ。
まあ、……本音の部分で言えば、色々事情を知りたいからっていうのもあるけど。
「さっすが、それだけで分かっちゃうんだね」
ミズハは感心したように頷いた。それは、以前と何も変わらぬ仕草だった。
「ごめんね。少し試せってリーダーにテレパシーで言われててさ」
「それって、今言われたことなの?それとも事前に言われたことなの?」
「今言われたことよ」
「ふーん……」
要するに、こちらを監視中ということ?
厄介ね。隙がないじゃない。
「テレパシーが届くなら、そのリーダーとやらは近い場所にいるんだね」
「ええ。牛木草美術館の屋上で待ってる」
そこって、魔法少女の身体能力で移動すれば十分ぐらいの場所じゃなかったっけ。
思ったよりも近くにいるんだな──そう思った次の瞬間だった。
……魔女の魔力が消えたのだ。そして同時に、こゆりの魔力の波が現れる。
「……こゆり!!」
私はすぐさま反応し、小屋の扉のドアノブに躊躇なく手をかけた。
こゆりが消耗しているのなら、扉を接着していたであろうものはなくなっているはずだ。
案の定扉はすんなり開かれる。
私は中にいるこゆりを見た瞬間、絶句してしまった。
その体は、うつ伏せになって倒れていた。完全に気絶しているのか、ぴくりとも動かない。まあ……意識があったとしても、体は動かせないだろう。
何しろ、両腕が二つともない。
断面部からかなりの血を出血しており、魔法少女でなければ間違いなく即死しているレベルの怪我を彼女は負っていた。
この状態になるまで戦い、最終的に魔女に勝利したことが信じられない。
お前は一体、どこまで妹のために頑張ったっていうんだ。ここまでになることないでしょうに……。
「……こりゃあまた酷いわね」
小屋に入り込んだミズハはこゆりに近づくと、汚れで濁りきりそうになっている彼女のソウルジェムを、自身のグリーフシードで浄化する。
次にローブのポケットから包帯を取り出し、肩の断面部に巻いて止血をした。
それは手早く、慣れているような手つきで、動揺もなかった。
……それが、やけに変に感じた。何だかミズハが無機質に見えたのだ。
私はミズハが応急処置している間に、魔法で作った和紙をばっと空中にばら撒き、空気へと溶かす。
一般人避けの結界だ。もし私達がいなかった時にここが見つかったらとんでもない騒ぎになるので、事前に隠しておこうと思ったのだ。
「さて、行こっか」
「……待って」
ミズハがこゆりを抱え、行こうとするのを止める。
不思議がるミズハを置いて、私はこゆりの妹のところまで歩み寄り、その胸元に魔力を込めた和紙を置いた。
……死体の腐敗を防ぐ、防腐剤みたいなもんだ。これでこれ以上無残な姿にならずに済む。
「優しいのね」
その紙の意味を悟ったのか、ミズハは薄く笑った。私はそんなミズハを見ながら言った。
「……うるさい」
◆◇◆◇
牛木草美術館──寝巣扉都市圏の美術品を蒐集し、展示している美術館である。
元々、寝巣扉市一帯は芸術などが盛んな地域で、そのベットタウンである牛木草も影響を受けたことで、芸術家が多い。
その芸術家達によって創設されたのが、この牛木草美術館というわけだ。
しかし、今は時間が時間なので、閉館しているようだった。
もう空はすっかり暗く、町には街灯や建物の電気の明かりが浮かび上がっている。
「……あの子が、阿岡入理乃?どう見ても普通の子にしか見えないですが……、こんな弱っちそうな子、本当に大丈夫なんすか?」
「相手を過度に舐めちゃあいけないっていつも言っているでしょ?あの子の天才性も見抜けないなんて、我が弟子ながら情けがない。もっと私の後継者の自覚を持ちなさいな」
「うう……、そこまで言わなくていいじゃないですか、師範。厳しすぎますよ」
美術館の屋上。そこに、二つのシルエットがあった。
一つは小柄な少女のものだった。義眼なのか左目だけに輝きがなく、口からはギザ歯が覗いている。着ている魔法少女の衣装は、黒と白色を基調としたもので、大きい帽子が目立ち、クセの強い柴染の髪を下ろしている。
もう一方は、大学生ぐらいの女性。こちらは左腕のみの隻腕で、その手には望遠鏡があった。容姿は美しい。クラシカルなドレスに身を包んでおり、長く絹のように美しい黒髪と相待って、ギリシャ神話のセレーネを思わせた。
会話から考えるに二人は師弟関係らしく、小柄な少女の方が弟子、女性の方が師匠らしい。
仲は良いようで、口喧嘩をしながらも信頼関係が読み取れた。
……にしても、こゆりを見てもまったく驚いた様子がない。それもこれも、魔法で前もって知っていたからだろうか。
……こいつらが、ミズハと繋がっているだろうグループなのか……?
魔力の強さから、それぞれがかなりの強者だと分かる。間違いなく、私一人では勝てない。
しかし、こんなに強いなら、情報の一つや二つ入ってきても良さそうなのだが、今まで隠れていたのだろうか。
……一体、何者なんだ?
「さて、……初めまして、阿岡入理乃。私は夜見鳴子。こっちは弟子の
女性が一歩前に踏み出て、自己紹介をする。それに、私は何を言っているんだ、と思った。
だって、夜見鳴子は十年前に自殺している。
というか、彼女の死亡時の年齢は五十二才だぞ。仮に生きていたとしても年齢が一致しないではないか。
……これは、明らかに偽名だろう。だが、何のために名乗っている。
ふざけているわけじゃなそうだし、本名を隠すためか……?
「……色々質問したいけど、まずはこゆりを治してほしい……。彼女は今危険な状態だから……」
「分かった。富夢。こゆりの治療をしてやって」
「りょっかいなり、あ……」
途中で噛んだのか、了承の言葉が不自然な発音になって、小柄な少女──富夢が少し赤面する。
「ぷふ……。噛んだ……」
面白がったのか、ミズハは笑うのを必死に我慢していた。……こういうところは、ある意味船花ちゃんと良く似ている。
富夢はちょっとムッとしたらしく、師範の方を向いて口を尖らせた。
「師範、この子意地悪ですぜ?何か言ってやってくださいよ」
「リーダー、少し笑っただけで怒ってきました。彼女、寛容さがたりてないですよね?」
「はいはい、喧嘩は後にしな。それより早くこゆりを」
「むぅ、……分かりました。師範」
渋々と頷くと、ミズハが地面に寝かせたこゆりの側に、富夢はしゃがみ込んだ。
そして、師範から渡された望遠鏡に魔力を込め始める。
「……お願いします。力を貸してください」
白黒の少女は祈るように呟く。
寒々しく、まるで永遠に燃え盛る憎しみのような魔力が、望遠鏡から一気に発せられた。
ミズハと女性はそれを受けても、どうでもないように平然としている。
しかし、……私は恐怖で動くことができない。
だって、この魔力反応は……、まるで──
「安心して。ただの治療だから。
富夢は、情報から能力を分析し、それを自分の能力として一時的に使用できるという固有魔法を持っている。その魔法を利用して、この望遠鏡から最も治癒能力が高い魔法少女の情報を探し出し、こゆりを治そうとしているの」
鳴子が私に、落ち着いた声音で説明する。
私はこゆりの方を見た。……確かに富夢の魔法によって、腕が半分にまで再生し始めている。
どうやら言っていることは本当のようだ。
「……だからって、……こんな不気味なもの使ってるとか……」
強気でいこうとしたのに、口調がいつものように弱々しくなってしまう。
私はこの人達が、怖くて仕方がなくなっていた。得体が知れないものは、いつだって私の恐怖の対象なのだ。
「……言いたことは分かる。私達は危険よね」
自嘲気味に鳴子は笑う。諦めきったような、そんな笑み。
「でも、私達は真実を知ってしまった。……あの真実を知って……、魔法少女の存在に疑問を抱いて、狂ってしまったのよ」
「真実……?」
問い返すと鳴子は自分の左腕を見た。自分の、ただ一つの手を。
「そう。この“私達の時間軸の真実”。私はその真実を伝えて、ミズハのように私達の仲間にしたいと思って貴女を呼んだの。正確に言えば、こゆりやサチを見捨てて、私が率いるグループで活動してほしいってことね」
「……は?」
夜風が、やけに冷たく感じられた。それは、私の体からも血の気が引いたせいからかもしれない。
……裏切られる苦しみは、誰よりも私はわかっているつもりだ。私は仲間を裏切るという行為を軽蔑している。
それをやれ、とこの女は言うのだ。
……冗談じゃなかった。
怒りのスイッチがオンになり、私は控えめながらも吠えた。
「……そ、そんなこと出来るわけがない……!!私は船花サチの相方で、親友なの……。あの子に寂しい思いをさせるなんて真似、私には出来ない。だいたい……何で船花ちゃんやこゆりも誘わないの?……何で私だけなの?」
「サチはどうあっても私達の“思想”は受け入れられないから。こゆりは“実験”のために野放しにしておく必要があるから。そして入理乃を誘うのは、その能力が欲しいからよ」
実験だの何だの、碌でもないような言葉をぽんぽんと鳴子は言った。
……不気味だった。理性を閉じ込める箱が壊れて、自我が剥き出しになって飛び出ているように思われた。
「私には貴女が必要なの。真実を見て、この“夜見鳴子”の我がままに付き合って欲しい」
すっと、手が差し出された。私は勿論、その手を取らなかった。
「……お断りします。大切なものを自ら捨てるなんて……、船花ちゃんを捨てるとか……、私には無理……」
「……本当にそうなの?」
その時、突然ミズハが反論してきて、憂いを帯びた瞳で私を見てきた。
富夢の、おい、という制止させようとする声を無視してでも、ミズハは話す。
「大切だとか何だって言ってるけど、そんなものは半分くらい嘘っぱちよね?
貴女は愛は諦めてるくせに、せめて何でもいいから自分を見て欲しいと思ってる。そのために、サチちゃんを利用してるだけ。現に相方を理解しようともせず、損得勘亭だけで動いているという勝手な考えを無理やり押し付け、傲慢にも見下し、自分の思いのままにしようとしている。……あなたにとって、サチちゃんはただの愛玩人形なわけ。
ついでに言うと、こゆりも同じよね?……こゆりは、私の代わり。
呪いで縛ったのは、自分の元から逃げさせないため。そしてもし自分の手に余るようなら捨てるため。
私の存在だって、願いで捨てた友達の代わりでしょ。一人ぼっちで、誰かに甘えたくてしょうがなかったから、私と仲良くなった。
……船花ちゃんがたとえ死んでも、貴女は必ず代わりを用意する。貴方にとって私達など、替がきく消耗品なのよ」
「……それは──」
私は何も答えられなかった。私は私の考えがもう分からなくなっていたのだ。
だから……、ミズハの言ったことが正しいかすら、私には分からなかった。しかし動揺していることだけは確かで、足元がガクガクと震えていた。
「そんなこと認めたくなかったから……何より愛を諦めるために、貴女は無意識にずっと自分を騙してきてたのよね?……けど、今は少し気持ちに変化が生まれているんでしょ?サチちゃんの思いを知ったことで、長いこと信じていた“人間は損得鑑定だけで動くという考え”がぐらついてるんでしょ?
なら、自覚してよ。この私は、所詮誰かの代わりだったんだって」
……自覚?
……確かに私は、サチちゃんの覗き見に気が付き、逆に彼女らの動向を確認したけど……、それで何を自覚しなきゃいけないんだ?訳が分からない。
「わ、私はそう思ったことはないし。だいたい、私が自分を騙してるなんて嘘だぁ……。私の考えが間違ってるはずないもの。私の考えはいつだって、誰よりも正しい──」
「流石にそれは思い上がりだよ、入理乃」
そこで、富夢が割り込んできた。
こゆりを完治させたのだろう。立ち上がると望遠鏡を手に、片方しか光が宿らない目を冷たいものにさせた。
「……この世に正解はない。貴女がいつだって正しいとは限らないんだよ。天才故にそんな思考回路なんでしょうけど、あまり他人を見下して、自分の方が優れているなんて思うわない方がいいぜ?」
私は口籠る。それは正しく正論で、私は完全に言い負かされていたのだ。
自分が恨めしくて仕方なかった。こういう時、弱気な性格を捨て去りたくなる。
「二人とも、あまりいじめてやるな。涙目になってるじゃない」
「しかしっすねえ、師範。私も止めるつもりでしたが、流石に何か一言言ってやらんと気が済まねえと思ってしまって……。この子、性根が腐ってますぜ?分からせてあげるべきでっすよ、自分の傲慢さを」
「……そうだとしても、今そこを突くべきじゃない。ミズハもミズハだ。本来するべきじゃなかった
「……はいはい、すみませんでした。リーダー」
注意されると、ミズハと富夢は納得できていないように、それぞれ頭を掻いたり、顔を伏せたりした。
夜見鳴子は富夢から望遠鏡を戻してもらうと、
「ごめんなさいね。二人とも真実を知ってそんなに日がたってなくてまだ混乱状態なの。特にミズハはここ数日で知って仲間になったから、色々思うところもあるんだ」
「……」
もう……、頭が痛くなってくる。
……そこまでのことなの?その真実ってのは……。
「入理乃。私はこの望遠鏡で貴女の過去を覗き見たの。貴女の願いも知っている。……貴女のソウルジェムに込められた祈りは、“友人との繋がりをなかったこと”にする、だよね?」
「……ええ」
勝手にみるなと思うながらも、私は勤めて平静を装う。
願いのことを聞かれたからなのか、ついそのきっかけが頭に思い浮かんだ。
……あれは一年前の出来事だった。
あの頃私は、毎日にようにある公園に出かけてはブランコに座り、周囲から受けた心の傷を癒していた。
そこは穴場で誰も使っておらず、私にとって居心地の良い場所だった。
……孤独が好きなわけじゃないけれど、一人になるとほっとできた。だって、誰にも傷つけられずに済むのだから。
しかし、その日は違った。私と同じ年の他校の少女──
私は逃げることもできず、呆然として立っているしかなかった。
でも、夏音ちゃんはそんな私にも優しくしてくれて、一緒に話してくれた。
……それ以来、私は夏音ちゃんと仲良くなった。
夏音ちゃんは私とは正反対の子だった。明るく真面目で面白く、それでいて皆に愛されるような女の子だった。
彼女は私の憧れそのもので──だから、私は彼女のようになりたかった。
……けれど、私がどんなに努力をしても、周囲から愛は得られない。私がどんなに頑張っても、この陰気な性格は変えられない。
私はどんどん夏音ちゃんといるのが辛くなっていった。その立場の差を認識する度、私は彼女に嫉妬をせずにはいられなかった。
それに……、私は夏音ちゃんが怖かった。
私と付き合ってるんだから、何かしらのメリットを求めているはずなのに、それが全然見えてこなかった。それどころか異常なくらい私に献身的で、あらゆることをそっちのけで私を優先し続けたのだ。
私は最早、菊名夏音という少女を信じれず、身勝手にも憎むようにさえなっていた。
そんな中で私はキュゥべえと出会い、……思った。夏音ちゃんをこっちから捨ててしまおうって。
そして私は、“夏音ちゃんと過ごした時間をなかったことにしてください”と願ったのだ。
その結果……、
「貴女は友達を──菊名夏音を存在ごと消してしまうことで、願いを叶えた。貴女は親友を殺してしまった。
……でも、貴女は後悔していると同時に、不思議に思っているのよね?この願いの叶い方はおかしいって。だって、“共に過ごした時間を消したい”のであって、そのためにわざわざ“存在自体を消す”必要性がないもの」
「……、何が……、言いたいの?」
「……その答えが、この世界の真実に直結しているってこと」
酷く驚き、私は目を見開いた。
……いくら考えても、どうして夏音ちゃんが消滅しているのかは不明で、思い返しても願いに不備などなかった。
やがてこれは、誰かによって歪められたものだ、という結論に至り、
私はその答えを追い求め、必死になって“魔法”の研究に明け暮れていたのだ。
でも、夏音ちゃんが消えた原因なんて、見つからないと諦めてた。だって確証も何もないのだから。
それが知れるなんて……、そんなの有り得ない。
「何も無理やりって訳じゃないのよ?真実を知らなくてもいいし、私のグループに入らなくて良い。その時はさっさと記憶を消すだけ。でも、そうすると真実への扉は永遠に閉ざされる。
どう?真実だけでも見ていかない?」
今度は手ではなく、望遠鏡が差し出された。
これを使えば、真実とやらが見えるということだろう。
私は、どうすれば良いか分からなくなった。私は、何を信じて良いかも分からなくなった。
夏音ちゃんのことは、私を常に蝕む呪いでしかなかった。それが解決できるなら、死んでも良いと思えるほどだ。
しかし、真実を見れば何が起こるか分からない。これを見れば、多分引き返せない。
「私は──」
◆◇◆◇
「色梨こゆり、起きるんだ」
誰かが、あたしの名前を読んだ。頭に響く、不思議な少年のような声だ。
「ん……」
ぼんやりとした意識を手繰り寄せながら、寝そべっていた体制から身を起こす。
何回か瞬きを繰り返すと、ぼやけていた視界がクリアになっていき、今いる部屋を映した。
ここは何処かにある廃墟のロビーのようだった。
カウンターも、側にあるプラスチック製の椅子も、壁も、床も、すべての塗装のハゲかけていて、放置されたこと感じさせる。
そしてあたしはそんな部屋の一角にあるベンチの上にいた。
少し動くだけでギシッと音が響く。随分と老朽化してるみたいだ。
あたしの隣には、一匹の動物が座っていた。
白いビロードのような毛並み。三角の耳。四足歩行の可愛らしい、まるで女児向けアニメに出てくるマスコットのような姿。
彼は──
「キュゥべえ……?」
「やあ、久しぶりだね。こゆり」
白い動物は、無機質な昆虫を思わせる声で返事をする。
……何であたしの前にいるんだろう。しばらく、あたしから姿を消していたくせに。
それに、あたしは何でこんな場所にいるの?入理乃は何処……?さゆりは……?あの多くの死体は……?
そもそも、あたし……、死んでなきゃおかしいよね?
なのにどうして、体に痛みもないし、それどころか失ったはずの腕があるの?
これじゃあまるで……、化物みたいじゃない……。
「混乱しているようだね。そんなキミに、入理乃が手紙を残しておいたようだよ」
キュゥべえは尻尾に何かを載せて器用に渡してくる。
それは、あたし当ての便箋だった。
開けてみると、二枚の和紙が入っていて、ぎっしりと綺麗な字で文章が書かれてあった。
「一応ボクも中を確認してみたけど、残念ながらキミ以外には見えない仕組みになってるようだ」
「貴女ねえ……」
デリカシーないなあ……、こいつ。
……とにかく、入理乃のことだ。この手紙にすべての疑問の答えが書かれてあるはずだ。
あたしは、早速それをを読み始めた。
今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?
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キャラ
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設定
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展開
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話のテンポの良さ
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文章