撒き散らされる、低いエンジンの爆音。周りの風景は、物凄い勢いで後ろへ流れていく。
歌羽が操るバイクは現在、国道の道路を疾駆していた。
スピードは制限ぎりぎりのためか、とてもつもなく速い。前の車に追いつくのではないか、と思うほどだ。
しかし、運転は荒くなくガタガタと揺れたりはしない。どうやら予想していた以上に、歌羽はバイクに乗り慣れているようだった。
「良いなあ、良いなあ……。バイク乗れるとかうらやましいなー……。ねえねえ、どうやったら免許取れるの?なんかものすっごい勉強しないといけないとかあるの?」
「割と簡単取れるよ。普通に十六才になって教習所行けば誰だって乗れるようになる」
「へえ……。ってことは、私十三だから、あと三年もあるのか〜……」
「そこまで焦んなくてもいいんじゃない?中学校は短いからすぐ取れるようになるよ」
「短くなーい。そんなに待てないよ〜」
マイペースに柘榴が歌羽に話しかけては、歌羽が適当に返す。
さっきからこんな感じで、ずっと柘榴と歌羽の二人だけが会話をしており、キュゥべえも時々それに混じっている。
あたしだけが、一人無言でいた。
言わずもがなだが、上手く会話に入り込むタイミングが掴めなかったのだ。意見は言えるようになったが、コミュ症は相変わらず治っていない。
……まあ、それ以前に話す話題とかもないし、相槌ぐらいしかうてなうんだけどね。
あたしは密かに溜息をつくと、顔を外の方へ向けて耳をこっそり立てた。
話題は先ほどと少し変わり、バイクの免許からバイクを持つ歌羽のことへと変わっているようだった。
「歌羽さー、いつから乗ってんの?バイク」
「ん〜と、四月……、いや、今年の五月からかな。そこからずっと通学とかどこか行く時はバイクに乗ってるね。お父さん程じゃないけど、バイクって実際乗ってみると意外と良いよ。行動範囲が一気に広がって超楽しい」
「じゃあドライブとかにも行くの?海沿いとか走ったり」
「まあねー。でも、海はないかなー。紫外線強いし。それより町の中走る方が面白いよー。意外と周り見て回るの好き」
……サチが聞いたらブチ切れそうだな。
あいつ、入理乃が行方不明になる前に色々ラインで自分のこと喋ってくれたけど、確か船とか海とか好きじゃなかったっけ。
「……あ、あそこだよね」
その後、どうでも良い話が延々と続き、しばらく経った時。
ようやく集合場所である空き地が見えていた。
その真ん中には、一人の少女の人影──船花サチがいる。
どうやらあたし達よりも速く着いたらしく、最初はこちらに気づいた様子はなかった。しかし、エンジン音を不審に思ったのかきょろきょろと辺りを見渡し、そうして向かってくるバイクを視認するや否や、思わずといったように二度見した。それぐらい、ビックりしたようだ。
バイクが空き地の前に着き、静止する。
あたし達がヘルメットを取って降りる頃には、サチは興奮気味にこちらへ詰め寄ってきた。
「何これ!?すっごくカッコいいんだけど!!こんなの映画とかで見たことない!!あれでしょ?サドカーってやつでしょ!?」
うわ〜、とキラキラした目でバイクを眺めるサチ。
少し意外な反応だ。
……てっきり、またあたしと会ったら気まずそうにすると思ってたんだけどなあ。
まあギスギスするよりかマシだけど、なんかバイクに負けた気がして少し複雑な気分……。
「大事な一文字抜けてるよ……。それじゃあ、ドSの人が乗る車になっちゃう……」
歌羽が苦笑しながら訂正する。
それはなかなかに上手いツッコミであった。もしかしたら芸人のセンスが彼女にはあるのかもしれなかった。
「もう、なんだよなんだよ、こんなの乗りやがって羨ましい!!これ絶対乗ると楽しいやつ!!」
今までに見たことがないほど、サチが悔しがる。
すると柘榴は、このバイクが自分のものでもないのに何故か自慢するように言った。
「実際楽しいよ!!ビューンって乗ってギュイーンって速いのもカッコいいし、風がバーってやってくるのが快感って感じでビーンってなるの!!」
「うぉぉ、マジか……。そこまで凄いのか……」
感覚が同レベルなのか、柘榴の擬音表現の意味がサチにはちゃんと伝わったらしい。
素直にバイクの性能に感心している。
「く……、ますます羨ましいじゃん!!おい、そこのやつ!!」
「な、何?」
サチに呼びかけられ、歌羽が困惑気味に答える。
どうもサチに圧されているようで、少し腰が引き気味だ。
「後でこのバイクに乗せろ!!お金あげるから!!」
「ええ!?そこまでするの!?」
「ったりーめだろ!!人に物を頼むんだから、対価ぐらいこっちから払わなきゃいけねえだろ!!」
実に真面目な答えが返答が返ってくる。変なとことで律儀なので、歌羽はますます圧され気味になるのだった。
「……皆、盛り上がっているところ悪いが、そろそろ話の本題に入って欲しいのだけれど」
「あ……」
その時、あたしの足元でキュゥべえがそう言った。
そこで全員がハッとし、彼を見る。なんかここまで黙っていたので、若干存在感がなかったのである。
そのせいか、微妙な空気が流れてしまう。
「……ていってもさ、まずテメエらどっちが歌羽でどっちが柘榴なんだよ。私には判別がつかないんだけど」
サチが困ったように腕を組んだ。
そういえば自己紹介もまだだったし、名前だけしか電話では言ってなかった。これでは、誰が誰だか分からないのも当然だろう。
あたしはやっと口を開けるチャンスだとばかり、率先して歌羽と柘榴を紹介した。
「こっちのバイクを運転していた方が古鐘歌羽。そしてこっちの小柄な方が──」
「江戸柘榴だよ。よろしく。サチ」
ずずいっと、柘榴が相変わらず無表情に自分から前に出た。
瞬間、サチの目の色が厳しいものへと変わる。顔はとても複雑そうに歪められた。
「テメエが、柘榴か……。この船花様を見て、魔法少女になったっていう」
「そうだよ。貴女のおかげで、魔法少女になれたんだ。ありがとう」
素直に感謝の気持ちを述べて、ぎゅっと柘榴がサチの手を握る。
サチはその行為に、一瞬面食らっていた。
「な、何でお礼なんていうんだよ……。私のせいで、魔法少女っていう命がけの仕事をしなくちゃいけなくなったのに……
「でも、それと引き換えにして良いくらい、この魔女とか魔法少女とかいう世界はワクワクする。だから、貴女には感謝しても仕切れないのよ」
それにね、と柘榴が続ける。
「私、こんなにも人を助けられる魔法少女ってかっこいいと思うんだ。そんな存在になれて、とっても誇らしいの」
「……、お前……」
真っ直ぐな言葉に、サチが思わずと言ったように悲しげに目を細めた。
魔法少女歴が長いサチには、きっと分かっているのだ。
魔法少女はとても醜いものであると。
しかし、柘榴は魔法少女をヒーローか何かのように思っている。
あたしでもその考えがあまりに真っ直ぐすぎて……、綺麗すぎて見て入れられない。
サチは何か言いたげに唇を震わせた。しかし、気を取り直すように首を振ると柘榴に小さく問いかけた。
「願い事は何……?」
「え……?」
「お前は、何を願ったの?」
再び投げ抱えられる質問。
その顔は、意外なことに怒りで染まっているのではなかった。
ただ、くしゃりと泣く寸前のような表情になっているのだ。
「……何をって、力を増幅させる能力が欲しいって願ったよ。どうせ魔法少女になるなら、強くなりたいから」
「……そう。そうなんだ」
胸を撫で下ろすサチ。
……魔法少女の願いは、そのまま本人に呪いとして返ってくるものだ。それがもし自分のせいで起こったらと考えるだけでも、サチは怖かったのだろう。
しかし柘榴は、あまりその呪いが跳ね返ってこなさそうな願いだった。
だからこそサチは、安堵したのだ。自分のための祈りは、そうそう自身を裏切らない。
……ただ、“魔法少女”になった際の思いはどうなのだろうか、とあたしはふと思ってしまう。
人を救える存在になれて嬉しい、と言っていたことから、柘榴は結構お人好しな部分があるだろう。
だが、それで通用するほど魔法少女社会は甘くない。……いつか、そのことに絶望する日はくるのではないか、と感じずにはいられない。
「……歌羽。この私に確認したい、気になることって何なわけ?出来る限り答えてやるから、遠慮なく質問してきてよ」
柘榴に自分の手を離させると、サチは今度は歌羽に向き直った。
この場にいる全員が、青いワンピースの少女に注目する。
「分かったよ。うたも遠慮なく質問するから。
……あ、でもその前に一つ聞かせて。貴女、阿岡入理乃とは知り合いだった?」
「知り合いも何も、阿岡入理乃は私の相方だったよ」
沈んだ口調でサチは答える。口の端を、堪えるようにぎりりと噛みながら。
それに何かを感じたのか、柘榴が一瞬、息を呑んだ。
……しかしそれだけで、何も言わなかった。流石の柘榴も、重要な話を邪魔しようとは思えなかったらしい。
「なら、ますます確かめる価値があるよ」
歌羽は確信したかのように、すっとサチの目を見た。
そうして、
「噂でもなんでも良い。……阿岡入理乃は、織部エルと何か関わりがあったという話を聞かなかった?」
「織部エル……?」
サチが不思議そうにする。それは、彼女にとって全く聞き覚えのない名前だったからだろう。
しかし、あたしはサチと違って驚いていた。だって、あたしはその名前を知っているのだから。
「それ、数週間前に牛木草で行方不明になった女の子の名前じゃない……」
そう。
入理乃が去る前に起こった、行方不明事件。そのいなくった四人の少女の内の一人の名前が、織部エルである。
……それがどうしてまた、こんな時に唐突に出してくるのか。まったく考えても分からない。
「ああ、そういえば、確か牛木草で何人かいなくなっちゃった事件があったんだっけ。
もしかして、歌羽はその事件と今回の早島の事件が繋がっていると思うの?」
柘榴が歌羽へ、小首を傾げながら聞く。
しかし、即座にあたしがおかしいでしょ、と指摘した。
「いやいや、繋がりようがなくない?その事件でいなくなったのってただの一般人じゃん」
「違う。……いなくなった奴ら全員、魔法少女だ」
「……!?」
サチの言葉に、あたし達は目を見開く。すぐさま、彼女の方へ顔を向けた。
「ど、どういうことよ。魔法少女がいなくなるだなんて……。ていうか、どうしてそんなことをサチが知ってんの?」
「入理乃が、言ってたんだ。牛木草のある魔法少女グループが、魔女によって全滅した。だから、気をつけろって……」
「……今言ったことは、本当なの?」
キュゥべえに質問をふる。すると、ああ、そうだよ、と肯定した。
「ただし、エルはその魔法少女グループには属していない。彼女はあくまで飛雄角の魔法少女であり、そのグループと仲が良かっただけなんだよ。……まあ、たまたまグループと一緒に魔女狩りをしている最中に一緒に命を落としちゃったみたいだけど」
「そんな……」
柘榴が言葉を失う。
確かに、運が悪いにも程がないと思う。なんせ、タイミングが違えば生きている可能性も大いにあったのだから。
しかし、しばらくして歌羽は信じられないことを言った。
「でも、うたはその織部エル……、生きてるんじゃないかと思ってる」
「……え?」
その途端、皆が驚愕して息を飲んだ。動揺が広がっていくのが分かる。
その中で、柘榴が真っ先に歌羽に疑問をぶつけた。
「な、何でそんなことを言えるの?今さっきキュゥべえが全員死んだって……」
「……それが詳しく聞くと、キュゥべえは魔女結界にグループが入り込んで、誰も帰ってこなかったからそう判断しただけみたいなんだよね。
つまり、……その結界の中で誰が一人でも生き残ってとしてもおかしくない」
あたしはふと、シュレーディンガーの猫箱、というものを思い出す。
それは有名な思考実験の一つである。
箱に猫を入れ、その中を放射線で満たすと仮定する。
そうしたら、猫はもちろん時間をかけて死ぬだろう。それに耐えられるほどの強度は猫にはない。
しかしその結果は、開けてみないと分からない。一分後でも十分後でも一年後でも、実際に確かめてみないと猫の死は確定できず、理論上その間猫が生きててもおかしくないということになる。つまり、箱を開けるまで猫の生死は曖昧になり、どちらの可能性も存在するのだ。
歌羽の考えも、まさにその思考実験と酷似している。
結界内にいた魔法少女全員が“死んだ”ことを、誰も観測していない。だから死は確定せず、“生きている”可能性もまた、存在し続ける。
「事実エルのことについて知っている人……、うたに気をつけろって言ってれた魔法少女の人に後日確認してみると、エルの固有魔法は瞬間移動だったの。
だから、彼女ならどうにか生き延びることが可能だと思う」
「……なるほど。なんとなく理解できたよ」
キュゥべえが頷く。
彼はさっき歌羽が喋ったことだけで、もう何が言いたいかを察したようだ。
「つまり、キミはエルが入理乃達を連れ去った犯人なんじゃないかと疑っているわけだね?」
「うん。
瞬間移動使えるなら魔法少女の一人や二人ぐらい連れされるかなって。それにエルはうたの幼馴染で、彼女がミズハに恨みを持っているってことよく知ってる。……だから、やりかねないと思う」
「恨み……?」
サチが訝しげに復唱する。
「ミズハ、
そしてその明人君は、両親の離婚で離れ離れになった、織部エルの実の弟なんだよ……」
「嘘……、だろ?」
サチが絶句する。
……あたしでさえ、お腹の底が冷えたのだ。ミズハの知り合いであるサチなら、尚のことショッキングすぎる事実だろう。
「で、でも、そこまで憎まれるべきなのかな、あいつ……。ミズハ、無理やりクラスメイトにいじめを強制させられたうえに、その罪悪感から引きこもって外にも出られなくなっちゃったって、入理乃が話してたんだけど」
「……そんなこと、エルも知っているよ」
歌羽はため息を吐いた。
瞳にはなぜか、何処か諦観と無気力な感情が宿っている。
「それでも、エルにとっては明人君はたった一人の、血を分けた弟なんだよ。しかも、明人君はミズハに恋愛感情があったらしいからね。その分だけ憎しみは募っちゃてるみたいで……」
「つまり、どうしようもないってことかよ……」
「そうなるね……」
何というか、胸が痛い話である。
ミズハもその若林の加害者であるとはいえ、ある意味いじめの被害者に変わりはない。それが、若林が死んだり、その姉に恨まれたりととんでもなく不遇だ。
……こんな境遇、あたしだったらおかしくなってるかも。
「サチ。入理乃は、ミズハと仲が良かったの?」
歌羽は次に、入理乃とミズハの関係性について聞いてくる。それに、サチはつまらなさそうに言った。
「昔ね。私はあんまりミズハのことよく知らないけど」
入理乃とは違い、サチにはミズハとの交流がなかったらしい。
繋がりといえば、縄張りを互いに争ったぐらいなものなのだろう。
「……なら、エルが入理乃を攫う動機は十分ってわけだ。
きっとエルはミズハの復讐のためにそんなことをやったんだ。そして次は、ミズハと深い関わりがある人達や、明人君をいじめた他の人に被害がいくかもしれない。下手したら、ミズハと関わりがあった他の牛木草の魔法少女も被害にあって、混乱が生まれ──」
「違うんじゃない?そのエルって人は、入理乃とかミズハを攫ってないと思う」
その時、柘榴が歌羽の言うことを遮った。しかも、はっきりとした言葉で。
これには少し、歌羽がピリつく。
「どういうこと?……また、勘ってやつ?」
「そうだよ」
柘榴は自信満々だ。やはり、自分の言うことを何の根拠もなく信じているのだろう。
だが、今回ばかりはあたしも柘榴の言うことには賛成だ。
歌羽の説は、どうにもこじつけくさいのだ。
死んだ友人が実は生きていて、ミズハを恨んで攫い、更に入理乃まで攫ったってのは、大分飛躍しすぎと言うか、無理があると思う。
それにミズハは知らないが、入理乃は自らの意思で行方くらませている。これは、誘拐事件でもなんでもない。
「歌羽。残念ながらキミの仮説は、柘榴の言う通り違うと思うよ」
「……」
今度はキュゥべえからも否定され、歌羽は恐ろしいぐらい無言になる。
その胸中に何を思うのか、その表情からは読み取れない。
「……入理乃は行方不明になる前に、手紙を残しているんだよ。そこにはっきりと、自分の意思でサチの元から離れることが書かれている。
また、エルの瞬間移動も結界を脱出できるものではない。彼女が生存している確率は限りなく低い」
淡々とキュゥベえは、歌羽の仮説を否定していく。
まあ当然と言えば当然だろう。その仮説はこじつけのような、根拠も薄い論理で構築されたもの。柱がしっかりしていない家だって、すぐに壊れてしまう。
そのことを自覚しているのだろう。歌羽は特にキュゥべえに言い返したりしない。
「……そこまで、はっきり言っちゃうかな」
やがて、歌羽は苦笑した。それは苦々しく、というよりも、何処か自嘲するようなもので。あたしも、柘榴も、サチも、声をかけられなかった。
「……キミらしくないね。どうしてこんなこじつけに近い説をボクに聞いてきたんだい?」
「……」
歌羽は目を合わせたくないとばかりに、視線をキュゥベえから外した。
それが、何かを認めたくないという現実逃避のようにも見えて、あたしは思わず、首にかけていたペンダントを握りしめた。
自分を誤魔化してきた、あたしには分かったのだ。
歌羽もまた、自分を誤魔化したかったんだと。
友人が一ミリでも生きている可能性を信じたかった。
だから、こんなこじつけみたいな説を考えて、それを本当のことと思おうとしたに違いない。
「……。……何を信じちゃってるのよ。馬鹿馬鹿しい」
「……こゆり?」
皆が変な目であたしを見る。それに一瞬全身が火照るぐらい恥ずかしくなったが、ここは我慢して気を強く保つ。
そして、びしっとキュゥべえを指さした。
「こいつは詐欺師よ?基本こいつが言うのは、都合の良い言葉だけ。それなのに簡単に信じちゃ駄目でしょ」
「だ、だけど、エルはミズハと入理乃の事件とは何の関係もないって……」
「手紙を残したのは入理乃よ。ミズハは残していない。エルがミズハを攫らったという可能性はまだ残っているわ。それにアンタが言ったじゃない。エルが死んだところを誰も見てないって。つまり、エルが生存していることだってあり得るのよ」
一気に喋ったところで、深呼吸をする。どうも我ながら興奮しているらしく、息が続かないのである。
「こゆり、それは屁理屈──」
「屁理屈じゃない」
あたしはキュゥべえの言葉をわざと遮り、そう否定した。
その赤いビー玉の目をまっすぐ見て、睨みつける。
「……屁理屈じゃないんだよ。信じ込みさえすれば……!!だから──」
「お、おい、もう止めなよ」
「サチ……」
呼びかけられ、船花サチの方を見る。彼女はほおを人差し指でかきながら、
「気持ちは分かるけど、ちょいと落ち着けよ……」
周りを見渡す。
あるものは複雑そうに。そしてあるものは興味深そうに。
皆、それぞれ反応をしてあたしを注視している。
……それをこっちも見ていると、すぐに自分の行動が馬鹿馬鹿しくなってくる。
「……分かったわよ」
はあ、とため息をつきながら、そっぽを向いた。
一方のキュゥべえはマイペースに耳の後ろをかく。あたしは一瞬イラッときて、目つきを不機嫌なものにさせた。
「こゆり、あの……、なんといえばいいのか分からないけど、励まそうとしてくれたんだよね?」
歌羽が胸の辺りで手を持ってきて、そう感謝の言葉を言ってくる。
しかし、あたしは首を振った。
自分は、そこまで優しくもないからだ。
「そんなことしてない。ただ、こいつの言うことってムカつくから否定したくなったのよ」
「……えー、でもでも、今のは明らかに……」
「ちーがーいーまーす」
あたしは不満を露わにする様に、口を尖らせた。
柘榴がめんどくさいなーと無表情に言う。
「……ねえ、歌羽。何でこの人はこんな天邪鬼なの?」
「う、うたに聞かれても困るんだけど」
困り気味に歌羽が苦笑を浮かべる。
「……で、他に何か聞きたいことはないの?」
あたしの方に話題がいたっためか、少し拗ねたような声でサチが歌羽に聞く。しかし、彼女は静かに首を振った。
もう確認するべきことは確認した、ということだろう。
「こんなことに付き合ってくれて、ありがとう。……ところでうた、ちょっと用事を思い出したからさ、帰らせてもらいたいんだけど……」
「うん。分かった。あ、でも今度、バイクには乗せてよね?約束だよ?」
無邪気に子供っぽくサチは笑う。粗野な態度は微塵もない。
歌羽は毒気が抜かれたように、こくりと頷いた。
そうして、彼女はバイクの後ろにあるホルダーからヘルメットを取って被り直し、座席に跨る。柘榴も続いてサイドカーに乗り込んだ。
しかし、あたしは搭乗できなかった。サチがあたしの手を掴み、バイクの方へ行こうとするのを止めたからだ。
「……ま、待って。テメエにはまだ話したいことあるんだ」
「話したいこと……?」
「うん。だから残って」
「……分かった」
了承すれば、サチはほっとしたようになる。多分あたしが断るとでも思ったのだろう。
「ボクもまだここにいよう。こゆりの方から話があるみたいだからね」
何故かキュゥベえもこの場に残ることを言ってくる。
あたしはギョッとした。まさかこのサチがいるタイミングで話をしようとするとは思っていなかったからだ。
警戒して、密かに小動物を睨みつける。キュゥべえは、やはりあたしを意にも返さず、無表情を返すだけだった。
「じゃあ、また。色々ありがとね、こゆり、サチ」
「バイバイ、三人とも」
バイクがエンジン音を出しながら去っていく。
その姿はみるみるうちに小さくなっていき、消えていった。しかし、あたし達はしばらくの間そこで立ち尽くし、じーと前を前を見続ける。
二人っきり(正確にはキュゥべえもいるが)になると、やっぱり気まずくなってしまったのだ。
もちろん何か喋ろうと思ったが、口は開かない。言葉だけが頭の中を飛び交っている。
そしてそれはサチも同じようで、目をきょろきょろとさせながらそわそわしている。
だから、その場で最初に声を発したのはキュゥべえだった。
「……サチ、もしかしてボクがいるからこゆりに話をしづらいのかい?だったらしばらく席を外すけど……」
「…………。いや、そこまで気をつかはなくて良い」
サチがゆっくりと首を振る。まるで、決意したかのような顔で。
あたしは酷く緊張しながら尋ねた。
「……えーと、その……。話ってのは、何なの……?」
「……こゆりはさ、仲間が欲しい……、とは思わない?」
「え……?」
心臓がどくんと跳ね、激しく戸惑う。
……まさかそんな言葉がサチの口から出るとは思いもよらなかったのだ。
「仲間って……、まさか……」
「うん。仲間。私……、こゆり以外にも、仲間が欲しい」
「……!!」
サチは小さな声量で、しかしはっきりとその言葉を口にする。
瞬間、あたしは少なからずショックを受けた。
……それは、ミキオさんの時のように、僅かながらにも期待をしていたからかもしれない。サチも、あたしと同じ考えを持っているんじゃないのかって。
でも、やはりあたしの想像通りなわけがなく。こうして、あたしが望んでもないことを言う。
「ど、どうしてそんなこと言いだすのよ……。あたし達は、入理乃に裏切られたばっかりなのに……」
身勝手な怒りを飲み込みながら、あたしは出来るだけ平静を装った。
しかし、意識しないうちに声の響きが自然と低くなる。
そのせいか、サチは申し訳なさそうにしていた。
「……ごめん。でもさ……、このまま私達二人だけじゃあ、潰れるような気がして……」
「潰れる……?」
「うん……。私……、正直いうとね、寂しくてどうにかなりそうなの。それに、こゆりだってどうせ一人で辛いんでしょ?このまま二人でいたら私達……、駄目になるんじゃないかな?」
「それは……」
否定しようにも、あたしにはできなかった。
何故なら、今のあたし達の関係がとても良くないものだ、ということを自覚していたからだ。
……互いの精神状態は不安定で、微妙な距離感。
そんなの……、いつか崩れ去る。上手くいくはずもない。
それをサチは、限界だと断じたのだ。
「……でも、アンタ入理乃のことは……」
あたしは本当にいいのか、とサチに問う。
今この時期に仲間を作るということは、入理乃による喪失感を他人で埋め合わせする行為だ。
それに、耐え切れるのだろうか?なによりも入理乃を大切にしていた、サチに。
「もちろん、……それは考えたよ」
「なら──」
「だけど……。さっきも言った通りもう耐えられねえんだよ」
サチは頭を振りながら、そう悲しげに言った。
「……私、入理乃に裏切られて心に穴が出来てる。それを埋めるのは、こゆりだけじゃ足りない。足りないんだよ……」
「……、あたしは……」
落胆。そして、これは仕方がないことだ、という思いが混じり合う。
あたしはサチから目を逸らしていた。逃げていた。
だからこの色梨こゆりは、彼女の仲間として役不足になってしまったのだ。
……情けがないことに。
「……こゆり。サチの意見にボクも賛成するよ。キミには仲間が必要だ」
キュゥべえがきっぱりと断言する。
嫌いな奴にまでそんなことを言われて、あたしは奥歯を強く噛み締めた。
「……今ここで、キミがボクに聞きたがっている質問に答えよう。ボクが柘榴と契約した理由、それは魔女の管理のためだ」
「魔女の管理……?」
問い返すと、キュゥベえは尻尾を一振りした。
「そうだ。最近、牛木草問わず、魔女が増え始めている。だから、ボクは魔法少女を増やしたんだ」
「……あたしだけでは、魔女に対処できないとでもいうの?ていうか、本当にそれだけのことで柘榴と……」
あたしはサチにちらりと視線を移す。
彼女は案の定、微妙な顔つきになっていた。どうやらあたし達の話を聞いて、複雑な気持ちになったらしい。
「これはとても重要なことだよ。魔女が増えれば一般人が死んでしまうんだから。
……そう、キミ一人だけじゃ、悪戯に事件が発生するだけなんだよ」
「……!!」
キュゥべえが、一人、という部分を強調する。
それで、あたしは彼の意図を完全に理解した。……こいつは、あたしと歌羽達を何がなんでもチームにしたいんだ。
歌羽達についていかずこの場に残ったのも、あたしがサチの前だと、どうしても強く出れないっていうのを分かっていたからだ。
……一体全体、どうしてそこまで、と疑心暗鬼になる。こういうのは、必ず裏があるものなのだ。
「こゆり……、キュゥべえもこう言っているし、どう?仲間を一緒に探してくれない……?」
サチの縋るように目。
それに不満を出すことも憚られ、しばらく黙る。……そうして、あたしは横に首を振ることも出来ず、考えさせて、と言うしかなかった。
今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?
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キャラ
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設定
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展開
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話のテンポの良さ
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文章